◎ CHINON (チノン) AUTO CHINON 35mm/f2.8《KOREA》(M42)

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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。

今回完璧なオーバーホール/修理が終わってご案内するモデルは、
CHINON製広角レンズ・・・・、
AUTO CHINON 35mm/f2.8《KOREA》(M42)』です。


  ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ!    Слава Україні!  Героям слава!  

上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。

Slava UkrainieieGeroyam Slava

今回オーバーホール/修理を賜った個体は、当方がオーバーホール作業を始めた11年前からの累計で当時発売されていた幾つかのCHINON製同型モデル「35mm/f2.8」の括りで捉えると累計で4本目にあたりますが、実は今までに扱った3本全てが2015年〜2016年辺りに集中しており、それ以降全く扱わなかったと言う状況です。

さらにオーバーホール作業中の写真も一つも残っておらず、おそらくは完全解体できていなかった頃の扱い個数が3本と言う状況です。そして付け加えるなら今までどうして扱わなかったのかと言えば「やたら微調整が難しくて大変だったから」との・・要は当方の技術スキル面からとても敵う相手ではなかった記憶だけが残っていたりします(笑)

そんな状況なので今回のオーバーホール/修理ご依頼は「当方の学習能力が少しくらいは向上したのか否か」の如く、まるでちょっとした検定試験のような趣で臨んだ次第です(笑)

そして冒頭からイキナシ衝撃的なお話をしてしまいます(笑) ハッキリ言ってこんな『戯言』を真面目に説明するアホも皆無でしょうから、おそらくはまた誹謗中傷メールの的になる原因を用意しているだけみたいな話になりそうです・・(怖)

今回このモデルを完全解体してオーバーホールしましたが、バラして「磨き研磨」して組み立てていくと「やはり微調整が大変で難しい」部類なのが再認識できました・・とは言っても昔に扱った際は完全解体などできていなかったハズなので、今回は全く別の事柄を考えつつ作業を進めていった次第です。

このモデルの内部構造は以前バラした何処ぞのオールドレンズと至極
似ている・・いったいどこのモデルだったか???

パラパラとこのブログの『掲載中のオールドレンズ』を見ていくと・・
・・・・あったあった!!!

何と製造メーカーはTAMRON (タムロン)』だったのです!!!(驚)

・・とこんな話しを面と向かっていとも真面目に語ってしまう時点で「アホか?!」と思われてしまうのを覚悟です(笑)

当時タムロンが米国向け輸出専用機として製産し出荷していたtamron 24mm/f2.5 BBAR MULTI C.《初期型:アメリカ向け輸出仕様》(ADT)』を含む「いわゆるBBARシリーズ」がその内部構造としてとても似ていたのです。当方が今までに扱ったこのシリーズモデルはこの「24m/f2.5」の他に「28mm/f2.5」もあったりしますが、特にこれらモデルの「鏡筒と絞りユニットとの関係性」或いは「絞りユニット内部の制御系の設計概念」さらに「マウント部内部の造りとA/M切替スイッチの設計概念」という「これら3つの要素」からして今回の完全解体/組み立て作業に於いてこの個体の製造元を「タムロン」と判定した次第です。

しかし当時はまるで商売敵だったハズのタムロンがどうしてチノンにOEM製品を供給しなければならなかったのか??? そう簡単には納得できるような話しではありません (正直自分でもそのような判定を下すのが理に適わないとしか思えなかったのが本当のところです)(笑)

そのような釈然としない思いの中、以前取材させて頂いた金属加工会社の社長さんのお話を思い出し「他社製品に似せて作る必要は全くありません。自社工場設備に見合う設計 (外注含め) を執るしかないので構造や設計が近似していたらそれはその会社の製品です」が背中を押してくれました (ありがとう御座います!)(涙)

・・詰まるところ内部構造と設計概念/手法がまるで同一なので逃げようがありません!(泣)

オールドレンズの筐体外装の意匠や部位別の「似てる/似てない」或いは距離環や絞り環の駆動方向など、凡そ根拠として挙げるべきか否かネット上の多くのサイトで語られていますが・・当方にとり判定を下す唯一の基準は「内部構造とそのチカラの伝達方式に対する設計概念の近似性」しかあり得ません。

・・従って誹謗中傷メールが着信しようともこの判定を覆せないのです!(涙)

このモデルに関する話についてネット上を調べていくと「富岡光学製」と案内しているサイトもあったりしますが、残念ながらそれは当てはまりません。当方では数多くの富岡光学製オールドレンズ (いわゆるOEM製品) を今までに数多くバラしてきましたが、その内部構造と設計概念にはOEM指向先のメーカーが全く別だったとしても内部構造とチカラ伝達方法に係る設計だけは富岡光学製オールドレンズに共通項として汲み取れます。

確かに当方も以前は見誤っており富岡光学製との判定を下していたオールドレンズ達が幾つかありますが、時が経つにつれてそのような一貫した設計思想/設計概念は間違いなく内部構造や構成パーツに必ず現れるとの・・まさに金属会社社長さんの御言葉の如く・・納得できるように精進が進みました。

ちなみに同じタムロンのオールドレンズで一世風靡した『伝説の90mmマクロレンズ』・・SP 90mm/f2.5 52BB《第2世代》(ADAPTALL2)』・・を以前扱った際に、やはり「鏡筒と絞りユニットとの関係性」及び「絞りユニット内各構成パーツの設計概念」が同じだったことも併記しておきます。但しマウント部内部については、そもそも「ADAPTALLシリーズ」ではオールドレンズの鏡胴側にマウント部自体が存在しないので該当しません。

また別の捉え方として「当時のCHINONがタムロンにOEM供給していた?」と言う仮説もあり得そうですが、だとすると光学系内のコーティング層蒸着について「BBAR MULTI C. (Broad Band Anti-Reflection MULTICoating)」の名称で米国登記していた「広帯域反射防止多層膜コーティング」も辻褄が合いません。或いは当時タムロンが発売していた数多くのモデルに採用していた同じ設計概念たる「鏡筒と絞りユニットとの関係性」及び「絞りユニット内各構成パーツの設計概念」についての説明さえ成り立ちません。

従って供給していたのはタムロンのほうではないかとの判定に到達した次第です・・。

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CHINON (チノン) の創設は長野県茅野市に於いて終戦直後の1948年 (昭和23年) まで遡るので戦後の混乱期の中よくぞ起業したものだと感銘を受けます。カメラ製品のみならず当時大ヒットした8mmシネカメラ/サウンド8mmカメラなど1970年代に国内トップメーカーの座を手に入れますが、その後1980年代に入ると8mmカメラの衰退 (ビデオの登場) と共に多角化経営が仇となり1997年にはコダック傘下に入り2004年には吸収合併により消滅しました。

当時からグループ内の関連会社だった「株式会社三信商会」を前身とする「株式会社チノン」がブランドを手に入れ「CHINON」は今現在もその血を引き継いでいます。

すると確かに8mmシネカメラの大ヒットの時にはムービーカメラ用のズームレンズなどを開発
/設計し自社工場で製産していたので、その他の光学製品についても他社OEM製品に頼る必要性が薄いと捉えられがちですが、実は以前調べてみると肝心な「光学硝子精製の溶融解設備」の規模と内容が当時の富岡光学のレベルには全く達していなかった事が伺えました (あくまでもムービー関連製品の製産設備留まり)。

それ故に富岡光学のOEM製品やコシナ製品、或いは他社製品など特にオールドレンズについては数多くのOEM製品に頼っていたのではないかとみています。

一方当時のタムロンを調べていくと厳しい時代があったものの、現在も鋭意活動しており全く以て頼もしい限りです。後ほど解説しますが今回扱った個体の鏡胴には「KOREA」刻印があるので、もしも今回のモデルを「タムロンからのOEM供給品」と結論づけるなら韓国内の工場の存在も調べる必要があります。

調べていくと「Sun-Photo Corporation」及びその関連会社がタムロングループ内に顕在し (アジア事業部)、収益の1/4をOEM製品に頼る要素 (2018年現在) からも中国工場やベトナム工場など現在の主体的な製産工場以外にも数多く抱えていることが伺えます。

↑上の写真は今回扱ったモデルと全く同一ですがレンズ銘板をチェックすると「CHINON IND., INC. JAPAN」と日本製である事を現す刻印が入っています。一方今回扱った個体のレンズ銘板にはこの「JAPAN」刻印が無く、代わりに鏡胴に「KOREA」刻印が記されています。

今回の個体も上の日本製も鏡胴をくまなく見ていくと「100%同一」なのが分かります。

↑こちらは今度は距離環のローレット (滑り止め) 部分が合皮革になっている意匠モデルで、他にも「A/M切替スイッチのツマミ形状が異なる」ものの、大部分は同一なのが分かります (銀枠飾り環の仕様も異なる)。

但し上の写真の個体は今回扱った個体と同じ「KOREA」刻印が既に鏡胴に顕在していたタイプなので、韓国工場での生産分との説明を補強することにもなります。

一方左写真の製品は旧西ドイツの写真機材商社「FOTO-QUELLE」にOEM輸出されていたタイプで、一つ前の合皮革ローレット (滑り止め) のモデルと同一品とみています (レンズ銘板をすげ替えただけ)。

このように外観による判断ではなく「内部構造とチカラ伝達の手法」から捉えた考察を行うと同一の構成パーツが組み込まれている説明も適い相当説得力が増してきます。

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↑上の写真はFlickriverで、このオールドレンズの特徴的な実写をピックアップしてみました。
ピックアップした理由は撮影者/投稿者の撮影スキルの高さをリスペクトしているからです
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています/上記掲載写真はその引用で
転載ではありません。

一段目
一番左端の実写だけ「円形ボケ (玉ボケ)」が写っているのですが、おそらく円形ボケ自体がこのモデルの光学設計では得意ではないのかも知れません。2枚目は既に円形ボケも破綻してしまい溶けていますが、そもそも収差の影響が激しいので円形ボケの名残すら見てとれません。右側の2枚になるとそれら激しい収差の影響も少なくなるものの、やはり煩い印象が憑き纏うような背景ボケです。

二段目
そんなワケでこの段では逆に「収差ボケ」しかも本格的に一種独特な (強烈な) 乱れ方の収差ボケを集めてピックアップしました。一番左端はグルグルボケと思いきや非常に煩い/エッジが強調されすぎた印象の収差ボケです。2枚目も「収差ボケ」狙いでピックアップしていますが今度は収差ボケのエッジ部分がシュシュッと飛んでいるようなイメージで残ってしまうので、やはり煩いです。右側2枚は同様収差の影響が残ってしまうので「二線ボケになりきれない」感じの写真になってしまいました。

然し決して貶している話ではなく「使い方次第」でこれら「収差ボケ」も活用できるシ〜ンがあると思います。

三段目
この段でピント面の鋭さと発色性をチェックしています。このモデルの最短撮影距離が「50cm」とこの当時の広角レンズにしては全く寄れないオールドレンズなので、左端の写真を撮るには何かスペーサー/エクステンションを介在させて最短撮影距離を詰めるしかないと思いますが、相応にトッロトロボケに近づいています。発色性で見ると2枚目の写真などコッテリ系まで色乗りして居らず、むしろナチュラル的な印象をも許容する写り方で好印象です。それでいて「赤色の発色性」は下手すると色飽和ギリギリまで詰めてくるので難しいかも知れません。

四段目
この段では主に空や雲などの表現性としてピックアップしました。これはやはりタムロン製オールドレンズの特に広角レンズ域「21mm35mm」でも同一の印象が残り、なかなかステキで違和感のない素晴らしい表現性です。特に右側2枚の写真のような湿気をタップリ含んでいる雲の夕焼け/朝焼けなどどんなオールドレンズでも撮れるとは限らないと思います。グラデーションの階調表現に特徴があるように思います。

五段目
同じようにそのグラデーションの階調表現力を探る為に今度は人工物の写真で階調の対応力をチェックしています。まぁ〜街中スナップ写真で確認できると思いますが、ノッペリした平坦な写りに留まらずちゃんと立体感や色の変化を写し込んでいるので、ある意味これもタムロン製オールドレンズの写り方に共通項的に見ることができそうです。

六段目
ここでは左側2枚の写真で被写体の素材感や材質感を写し込む質感表現能力の高さをチェックしています。金属質の鈍い光沢と光源とのバランスや白黒写真のグレースケールの世界でも於くの皮革などの表現/艶の現れ方が皮革を知っている人からみれば納得だと思います。そして意外なのが冒頭で解説したタムロンの米国向けBBARシリーズ」などにも共通的に見られる人物写真の生々しさ/表現性です。下手なポートレートレンズ域まで引っぱって/持ち出して撮るよりも「らしく写る」のが素晴らしいです。

パースペクティブ (歪み) は僅かに「」ですが許容範囲に収まり、確かに35mmの画角がすれば決して褒められるものではないものの違和感にも繋がりません。

七段目
意外と左端の実写のように被写界深度が狭く、それはそれで上手く活かして撮影に使うのがヨロシイかと思います。光源や逆光耐性も十分なのでなかなか使いでのあるモデルではないでしょうか・・唯一指摘するなら前述の「収差の激しさ」がその制御に於いて難しいのかも知れませんね。

光学系は5群6枚のレトロフォーカス型構成です。右図は今回の個体を完全解体してバラした際に光学系の清掃時、各群の光学硝子レンズを当方の手でデジタルノギスを使って逐一計測してトレースした構成図です。

今回扱ったモデルも右構成図で着色した 部分を目にしてパッと見で「基本成分は3群4枚のテッサー型構成」と受け取られがちですが、やはり当方の考えは違います。

↑上の構成図は左側が「3群4枚テッサー型構成図 (1953年版モデル)」で右側がライカのほうの「3群4枚エルマー型構成図」です。実は同じ3群4枚でも「絞りユニットの配置が異なるので (上構成図の縦線部分が絞り羽根の位置) 開放撮影時以外での入射光量が減じられるか否かの点に於いて両者は互いに異なる」点と共にさらに「光学系前群と後群とのパワーバランスも同一には成り得ない」との考え方から、当方は必ず「絞りユニットの配置で同一か相違かをある程度判定する必要がある」との考察です。そうしないと撮影写真はあくまでも絞りユニットを経た時の料理結果なので開放撮影時以外は同格で比較できないとの考え方です。

すると今回扱ったモデルは「3群4枚のエルマー型構成を基本成分としバックフォーカスを稼ぐ意味から3枚前方配置させたレトロフォーカス型構成」と言う話になります。

巷では「古めかしい写りでオールドレンズ的な甘い描写になるレトロフォーカス」のように語られてしまいますが、実はこの「レトロフォーカス」の原型は、フランス屈指の光学メーカーP. ANGÈNIEUX PARIS社により1950年に世界で初めて開発/発売された「RETROFOCUS TYPE R1 35mm/f2.5」であり、フランス語の「rétro focus (レトゥロ・フォーキュス)」のラテン語/英語発音です。

開発当時/1950年までは戦前〜戦中含め主流だったのは「レンジファインダーカメラ」であり、オールドレンズの後玉端〜フィルム印画紙面までのバックフォーカスが短いまま・・詰まるところ「標準レンズの光学設計のままで広角域まで対処できていた」・・のが大きな因果関係になります。

この「レトロフォーカス」の意味は「RETRO (後退)」と「FOCUS (焦点)」の造語であり、戦後にクィックリターンミラーボックスを実装した一眼レフ (フィルム) カメラが登場し主役の座に着くと、それまで主流だったレンジファインダーカメラが採用していた標準レンズ域の光学設計だけでは広角レンズ域に対応できなくなり、次代の潮流から急きょ開発されたのが「後玉端からフィルム印画紙面までのバックフォーカスを延伸した専用光学設計=広角域専用設計」だった次第です。必然的にフィルム印画紙の位置が後ろ方向に後退したので「焦点を後に後退させなければピンボケ写真しか記録されない」ので、入射光の結像点/焦点を後退させるために「逆望遠型の光学設計RETROFOCUS」と言う発想です。

従って基本成分に今回のモデルで言えば「3群4枚エルマー型光学系」を採り入れており、或いは当時数多く登場した3群4枚テッサー型構成のレトロフォーカス型構成もあり、それら基本成分から捉えても「決してピント面が甘くなるような描写性の光学設計ではない」のが歴然です。

・・レトロフォーカス型で甘いと貶すのは理に適っていないと知るべし。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。完全解体するにも内部構造を既に知り尽くしているワケではないので、注意深く用心しながらバラしていきます。

しかしこのモデルは独特な仕様を持っているのでそれに気づいて「バラす手順」を守ることと、附加されている微調整機能の範囲や駆動状況をチェックしておく必要があり、難度で言うとそれほど簡単なモデルではありません。

・・当方にすれば難度よりも微調整が神経質で面倒くさい印象が強いです(笑)

↑こちらの写真は当初バラしていく途中に撮ったモノで赤色矢印で指し示している箇所に「多量の固着剤」で塗り固められていました。当方がオーバーホール作業を始めたのは凡そ11年前ですが、その当時に市場流通していた固着剤は「朱色のタイプ」であり、今ドキの「青緑色の固着剤」はまだ出回っていませんでした。

さらに内部のあらゆる箇所に「固着剤」が塗られて固められているものの、肝心な箇所の固着剤は「固着剤ではなく黄褐色系ニス」が固まっていたので剥がす際はパリパリとめくり上げていくような作業になります。

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

するとこの「直進キー」を締め付け固定していた4本の締付ネジはそのネジ部と共に周囲含め固着させていたので「製産時点」の工程で塗り固められていたのが分かります。

つまり「製産時点は固着剤ではなく硬質ニス」次の時代に入ると「朱色の固着剤が登場し流行る」さらに近代になると「青緑色の固着剤が流行っている」状況です(笑) ちょっと記録を忘れてしまい以前取材で金属加工会社の社長さんにお話を伺った時の専門用語を失念しています。

いずれにせよ何処のメーカーのオールドレンズでも「製産時点」を維持している場合多くの個体で「固着剤ではなく黄褐色系ニス」が使われていると指摘できます。

従って今回扱った個体は一度も整備されていないとのお話でしたが、現実は近年に整備が施され、しかも相当念入りに塗り固める整備会社だったようです。少なくとも上の写真のように「絞りユニットまるごと固着剤塗布」はほとんど見た記憶がありません・・(笑)

特に赤やで指し示している箇所の下側は「絞りユニット周囲の制御パーツにまで塗布した固着剤が流れたのか邪魔している状況が一箇所起きていた」ので相当なレベルです。

と言うのもこのモデルの絞りユニットを「塞ぐ蓋」が何と「光学系後群側の格納筒」をそのまま代用している設計なので、当然ながら「一般的なオールドレンズ同様光学系はネジ込み式」なので、それを固定する意味から「絞りユニットまるごと固着剤塗布」と言う経緯だったようです (当方の推測ですが)。

↑さらに解体しているところを撮影しましたが、前述の「絞りユニットまるごと固着剤塗布」部分の固着剤を溶剤で何度も拭って除去してようやく「絞りユニットを開いたところ」を撮っています。

するとグリーンの矢印で指し示している箇所には「経年の揮発油成分がヒタヒタと附着している状況」なのが分かるように、ワザと故意に露出オーバー気味に撮影しています(笑)

当初バラす前の時点で特に不都合や不具合が起きていない個体でしたし、もちろん絞り羽根に油じみも起きていませんでしたが「もうまもなく油染みする状況だった」なのがこれで分かります・・。

逆に指摘するならこのモデルの設計では「絞りユニットは丸ごとイモネジ3本で締め付け固定するだけなので隙間だらけの仕様」とも指摘できます。

イモネジ
ネジ頭が存在せずネジ部にいきなりマイスの切り込みが入っているネジ種

左写真のようにネジ末端が尖っているタイプの他に「平坦なタイプ」も顕在し「面で圧力を加えて固定する手法」のイモネジも存在します。

またこれらイモネジの使い方として設計者の意図を汲み取る必要があり「締め付け固定したかったのか単に止めるだけだったのか」の2つの違いが「先が尖っている場合」にはあります。他に面で加圧するタイプもあるので逐一設計者の意図を把握して組み立て工程でシッカリし上げていく必要があるワケです(笑)

↑いつもなら絞りユニットを組み込む先の「鏡筒」を一番最初に撮っていますが、上の写真のパーツは鏡筒ではありません・・「光学系前群格納筒」であると同時に合わせて「外側はヘリコイド (オス側)」になっています。

さらによ〜く観察するとこれが光学系前群格納筒である点と辻褄が合うのですが「内部に経年の揮発油成分が流入しないよう微細でマットな凹凸の梨地仕上げメッキ加工」が施されています。

このように梨地仕上げのメッキを施した光学系の格納筒はとても多くのオールドレンズで採用している手法ですね。特に上の写真でチェックして頂きたいのは「皆様が好む反射防止黒色塗料ではない点」です。

皆様は「迷光〜迷光・・!!」と騒がれますが、現実には「製産時点」では「漆黒の黒色」ではなくご覧のような「焦茶色の微細でマットな凹凸梨地仕上げ」と言うメッキ加工なのがご理解頂けるでしょう(笑)

だいたいそもそも「絞り羽根からして漆黒の黒色ではない」事を鑑みるなら光学系内の「迷光」を大騒ぎしてもさほど意味がない話になりますね (やはり以前取材した工業用光学硝子レンズ製作会社様での取材で伺った話です)(笑)

↑光学系前群格納筒を立てて撮影しました。赤色矢印解説のとおり格納筒の周囲は「ヘリコイド (オス側) ネジ山」であり、その両サイドに「直進キーガイド」と言う溝が切削されています。

↑このモデルには非常に多くのオールドレンズで一般的に採用されている「鏡筒という概念が存在しない」点に於いて異質です。上の写真は唯一「鏡筒的な役目を担っている絞りユニットの格納環/リング/輪っか」です(笑)

その中心部は当然ながら光学系内に射し込んだ入射光が透過する円形状の大きな開口部が空いていますが、そのギリギリ周囲に「位置決めキーが刺さる先の穴」が用意されています (赤色矢印)。

このモデルは「6枚の絞り羽根」実装ですから「位置決めキー用の穴は全部で6個しかない」ワケで、他の3個は別の目的です。

↑再び光学系前群格納筒を撮影していますが、今度はひっくり返して「後玉側方向から撮っている写真」です。円形状に見えている開口部の先には「光学系後群側格納筒が後で組み込まれる」ワケですが、その前に赤色矢印で指し示した位置に「前出の絞りユニットがイモネジで締め付け固定される」のを説明しているのです。

つまり赤色矢印で指し示している「窪み部分」に絞りユニットをハメ込んでからイモネジ3本を使って均等に締め付け固定する設計です。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑するとこのモデルでは「位置決め環が独立して存在せずに位置決めキー用の穴が空いている」と言う話になります (赤色矢印)。さらにその外側に「開閉環」をセットしてその開閉環に備わる「開閉キー」をやはり赤色矢印で指し示して解説しています。

そして「開閉環の途中に用意されている開閉アーム」はグリーンの矢印のように左右に動く仕組みです。

↑実際に6枚の絞り羽根を組み込むとこんな感じになります。右側面に下向きに飛び出ている「開閉アーム」が左右に動くと (グリーンの矢印) その動きに合わせて6枚の絞り羽根が一斉に赤色矢印のように「内側に閉じ始める」ので「設定絞り値まで絞り羽根を閉じる原理 (絞り羽根開閉原理)」ですね(笑)

すると詰まるところこの絞り羽根が開いたり閉じたりする時の角度/移動量が絞り環の操作で決まり、結果的に「設定絞り値まで絞り羽根が閉じる/入射光を遮る」からちゃんと設定絞り値で写真撮影が叶う話であり・・まさにそれこそが「原理原則」なので・・絞り環刻印絞り値とこの絞り羽根が閉じる移動量は「必ず一致しなければイケナイ」のがご理解頂けるでしょうか???(笑)

例えば絞り環を回して設定絞り値「f8」にセットしているのに、実際に撮られる写真が「f5.6」位の絞り羽根閉じ具合では拙いワケです(笑) 厳密に指摘するならそう言う話しですが、その実際の絞り値を検査するには「専用の電子検査機械設備」が必要なので、個人格付の当方にはそんな機械設備など購入できないので「簡易検査具 (一応プロが使う仕様のモノ)」を使って絞り値を検査している次第です。

↑こちらの写真は「光学系後群側の光学硝子レンズ格納筒」ですが、ひっくり返して前出の絞りユニットにネジ込んで「蓋になる面を撮影している」次第です・・同様ご覧のようにやはり微細な凹凸のマットな梨地仕上げメッキ加工ですね(笑)

↑実際に一つ前の「光学系後群用格納筒」を絞りユニットにネジ込んでセットしたところです (赤色矢印)。「光学系後群用格納筒」が飛び出ていると共に「開閉アーム」と「制御アーム」も絞りユニットから飛び出ています。

ここでポイントになるのが「微細でマットな凹凸梨地仕上げメッキ加工」の場所と「普通の金属面のメッキ加工」の場所と明確に分かれている点です。上の写真で言えば「絞りユニットの側面には梨地仕上げが施されていない」のです(笑)

・・何故全部丸ごと微細でマットな凹凸梨地仕上げメッキ加工としないのでしょうか?

↑鏡筒としての役目を併せ持つ「絞りユニット」がセットできたので今度はヘリコイド群の組み立て工程に映ります。ヘリコイド (オスメス) の環/リング/輪っかの他に「ヘリコイドメス用のネジ山環/リング/輪っか」が写真中央に並べてあります (赤色矢印)。

↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑さらに光学系前群用の格納筒でもある「ヘリコイドオス側」をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で6箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑この状態でひっくり返して今度は裏側を撮影しました。「光学系前群格納筒」を兼ねるヘリコイド (オス側) の両サイドにある「直進キーガイド (溝)」に赤色矢印の説明のとおり既に「直進キー」が締め付け固定されています。

逆に言うなら「既にこの時点で無限遠位置のアタリ付けが終わっている」次第です(笑) さらにグリーンの矢印で指し示している箇所に前述の「絞りユニットがイモネジ3本を使って均等に締め付け固定される」ワケですね。

↑ところがちょっと前の工程でネジ込んで仕上げてある「ヘリコイド群」の側面にも似たような「V字溝」が用意されていて、同様にグリーンの矢印で指し示したように水平方向からイモネジ4本を使い均等配置で締め付け固定されます。

↑一方こちらは距離環やマウント部が組み付けられる為の「基台」です。同様グリーンの矢印で指し示した位置に「イモネジ用のネジ穴が用意されている」のが分かりますね(笑)

このイモネジ用の穴は実は「距離環がセットされると上から被さるので見えなくなる」仕様であり、それを見越した設計なのが分かります。

↑実際に前述の「基台」に適切な位置で「ヘリコイド群」を組み込んでイモネジ4本を使い締め付け固定したところです。上の写真ではグリーンの矢印の1本だけですが他に3箇所同じようにイモネジで締め付けてあります。

↑この状態で再び火作り替えして裏側を撮影しました。ちゃんと「絞りユニットがイモネジ3本で締め付け固定される先のV字溝が見えている」のをグリーンの矢印で指し示してありますが、その他に赤色矢印も3本指し示しています。

実は絞りユニットをイモネジ3本で締め付け固定するにも精密ドライバーが入る余地が無いので「ちゃんと精密ドライバーを差し入れられるように基台にちょっと大きめの丸穴が空けられている設計」なのです(笑)

・・するとこのような設計が意味するところは何なのか???

こういう考察が「観察と考察」なのであって「原理原則」に基づけば自ずと組み立て工程の手順が見えてくるワケですね・・(笑)

↑先に距離環をセットしてしまいます。ちゃんとカツンと音が聞こえて距離環が「∞刻印位置」で突き当て停止しますし、逆に反対側の最短撮影距離「50cm刻印」を過ぎた辺りで同様カツン音が聞こえて突き当て停止し・・バッチリの動きです!(笑)

↑またまたひっくり返して撮っていますが、今度は「絞り羽根の設定絞り値を決定づける制御機構部」をセットしています。前述の「絞りユニットがイモネジ3本で締め付け固定される」箇所の直下に制御環が組み込まれます。

その制御環からは「絞り環連係アーム (赤色矢印)」なる板状アームが飛び出ていてグリーンの矢印のように左右に動きます。しかもその制御環の途中には「なだらかなカーブの切り欠きが入っている場所」があって、そのなだらかなカーブの先が「開放位置」にあたり、一方麓部分が「最小絞り値側」なのをブルーの矢印で指し示しています。

すると何となくこの「なだらかなカーブ」に絞りユニットから飛び出ている「何か」が刺さる事で絞り羽根の開閉を伝達している事が理解できそうですね(笑)

↑一方こちらは再び絞りユニットです。まだ組み込めない状況が続いています・・要はそう言う組み立て工程の手順なのがこのモデルの設計だと既に分かっているので「いまだに絞りユニットをセットしていない」ワケです(笑)

まさに上の写真解説のとおりですが「制御キーが前出のなだらかなカーブに刺さり」合わせて「制御アームが操作される」事で「開閉アームが左右に移動して」設定絞り値まで絞り羽根が閉じる動きをするのが「原理原則」なのです。

制御キー:絞り羽根の角度を決めて伝達するキー
制御アーム:絞り羽根を閉じる動作を伝達するアーム
 開閉アーム:マウント面絞り連動ピンの動きに従い絞り羽根を開閉するアーム

・・とこんな感じで小っちゃな絞りユニットにはそれぞれの役目を帯びた構成パーツ達がビッシリ組み込まれているワケです(笑)

↑何度も言ったり来たりしているように見えますが、実は「ようやく絞りユニットを組み込んだ」ところを撮っています。

↑鋼球ボールとスプリングを組み込んでから絞り環をセットしたところです。カチカチと小気味良いクリック感を伴い絞り環操作が適います。

↑だんだんとクライマックスに近づきつつあります・・!(涙) 上の写真は前に解説した「絞り環連係アーム」が絞りユニットの直下にセットされていて絞り環に実際に「刺さっている状況を撮影した」写真です。

ところが過去メンテナンス時の整備者は単にこの「絞り環連係アームを絞り環に刺しただけ」で肝心な微調整機能を活用していません(笑)

それ故に「とても滑らかな距離環を回すトルク感」を実現する為に・・その微調整機能を駆使して・・ここの工程で仕上げているのです。

よ〜く見て下さい(笑) 絞り環に用意されている「絞り環連係アームが刺さる場所」には「縦方向にグリーンのラインで示した長さの溝が用意されている」のが分かります。

さらにその刺さっている「絞り環連係アーム」がカツンと突き当たる場所の一方は「開放側」とブルーの矢印で説明し他方が「最小絞り値側」で同様にカツンと突き当て停止する壁になっています。

つまりこれが「絞り環の駆動域を決めている設計で開放側〜最小絞り値側」なのですね(笑)

だからこそオレンジ色矢印でちゃんと示しましたが「絞り環連係アームが動く範囲は絞り環の移動量と一致している」のは当然の話です(笑)

・・何を言いたいのか???

つまり「この絞り環連係アームの移動域と絞り環の移動域が一致しているのか否か」こそが微調整機能の活用であり、それによって「絞り環の設定絞り値が絞りユニットまで伝達されて」初めて「なだらかなカーブで絞り羽根が閉じる移動量が決まって」合わせて絞りユニットから飛び出ている「開閉アームと制御アーム」の操作で瞬時に設定絞り値まで絞り羽根が閉じる・・ワケです!(笑)

これこそがオールドレンズの絞り羽根開閉に係る「原理原則」なのですね・・(笑)

・・こう言う事柄をちゃんと理解していなければオールドレンズは適切に組み上げられないワケです。

ちなみにもう一つ絞り環に備わる「縦方向の溝 (グリーンのライン部分)」は・・その溝の長さこそが「そのまんまヘリコイドの繰り出し量/収納量に一致」していなければ、必然的に無限遠位置側、或いは最短撮影距離50cmの位置側で「詰まった感じで距離環が停止して操作性の違和感に至る」設計概念なのがご理解頂けるでしょうか???(笑)

要はこのモデルで距離環を回した時のトルク感を確実に決めているのは「直進キー」や「ヘリコイド (オスメス)」或いは「ヘリコイドグリース」ではなくても最も重要なのは「こんな絞り環連係アーム」だったなんて言うストーリーです(笑)

詰まるところこのモデルの絞り環が意外と厚みがあって長いのは「ヘリコイドの繰り出し/収納量に一致しているから」だった次第です。

↑こちらはマウント部内部の写真ですが、既に当方にて「各構成パーツ」を取り外して「磨き研磨」が終わった状態を撮っています。

↑取り外していた各構成パーツも「磨き研磨」が終わり組み込んだところです。さて、まさにここのマウント部内部の各構成パーツとその駆動方式/仕組みこそが「タムロン製の証拠」であって唯一無二でもあり、他の光学メーカーで一切採用していない制御方式で設計しているのです。逆に指摘するならここの「マウント部内部の写真」だけを幾つかのオールドレンズで並べてチェックするだけで「あッ! これはタムロンだ!」と指差しできるくらいのレベルで「タムロンだけの特異な設計」とも言い替えられます。

マウント面から飛び出る「絞り連動ピン」があります・・当然ながら「M42マウントの自動絞り方式のオールドレンズは全て同じ概念」ですね(笑)

合わせて「A/M切替スイッチ」が手前側側面に写っていますが、そのスイッチと「絞り連動ピン機構部の制御を行う役目の弧を描いた半円形状の板状パーツ」で連結している手法/設計こそが唯一無二の「タムロンによる設計の証」であって、そのポイントになる箇所をグリーンの矢印で指し示しているのです。

グルッとこんな弧を描いた半円分の長さを持つ板状パーツで「スイッチと絞り連動ピンとを繋ぐ思想」は他の光学メーカーには何処にも存在しないからです。当然ながら「A/M切替スイッチ」はクリック感を伴うので、この弧を描いた板状パーツの中に鋼球ボールも組み込んであります(笑)

A/M切替スイッチ」を「 (手動)」側にセットすると円形状パーツの反対側が絞り連動ピンから続く「操作アーム」を押しやって、絞り連動ピンが押し込まれたのか否かを無効にしてしまい「手動操作で絞り羽根の開閉を行う」動き方に替わる原理ですね(笑)

もちろんこの「操作アーム」が操作している先は「絞りユニットから飛び出ている開閉アーム」なので、その位置にこの「操作アーム」が来ていないとダメなのです。

だからこその「絞りユニットのイモネジ固定」だったのです・・(笑)

↑如何でしたか・・?(笑) 全てあらゆる事柄に「意味と役目」が備わり、何一つムダがなく、且つそれらの中で適切な微調整機能を駆使して正しい位置/動き方/操作が適い「適切なチカラの伝達」が担保されて・・初めてオールドレンズの各部位が心地良く動いているのです(笑) この後は光学系前後群をセットして無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑完璧なオーバーホールが終わりました。当初バラす前の実写チェックでは無限遠位置のオーバーインフ量が1目盛分ズレていて「距離環刻印指標値の10mの手前位置」でしたが、組み上がりご飯パックピタリと合わせてあります。

また特に「絞りユニットの蓋の役目も兼務していた光学系後群側格納筒」の固着剤爆塗り位置も手前過ぎたので「僅かに甘いピント面」でしたが、現状鋭く変わっています。ピント面のピークはこのモデルは瞬時ではなく「徐々に鋭くなっていく」合焦なので少し分かり辛いですが、それでも当初バラす前の印象よりはだいぶ鋭さが増していると考えます。

過去メンテナンス時のマーキング位置から少しだけネジ込みを増したところで現状「光学系後群側格納筒」を固定しています。もしも不都合があれば元の位置に戻すのでその際はご指示下さいませ・・申し訳御座いません。

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリも皆無です。光学桂台5群の後玉は「貼り合わせレンズ」になっていますが、次の将来的なメンテナンスではきっとバルサム切れが生じると思います (現状ギリギリの状況)。その意味でも今回整備しておいて本当に良かったですね・・さすがご依頼者様です!

貼り合わせレンズ
2枚〜複数枚の光学硝子レンズを接着剤 (バルサム剤) を使って貼り合わせて一つにしたレンズ群を指す

バルサム切れ
貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態

ニュートンリング/ニュートン環
貼り合わせレンズの接着剤/バルサム剤が完全剥離して浮いてしまい虹色に同心円が視認できる状態

フリンジ
光学系の格納が適切でない場合に光軸ズレを招き同じ位置で放射状ではない色ズレ (ブルーパープルなど) が現れてエッジに纏わり付く

コーティングハガレ
蒸着コーティング層が剥がれた場合光に翳して見る角度によりキズ状に見えるが光学系内を透過して確かめると物理的な光学硝子面のキズではない為に視認できない

フレア
光源からの強い入射光が光学系内に直接透過し画の一部分がボヤけて透けているような結像に至る事を指す

フレア
光源からの強い入射光が光学系内で反射し乱反射に至り画の一部や画全体のコントラストが 全体的に低下し「霧の中での撮影」のように一枚ベールがかったような写り方を指す

↑確かに絞りユニットの蓋代役ですが(笑)、それでもちゃんと光学系後群内の透明度が高いです。LED光照射で極薄いクモリが皆無です。

↑6枚の絞り羽根もキレイになりA/M切替スイッチと共に絞り環も含め確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「ほぼ正六角形を維持」しながら閉じていきます。当初バラす前の時点と全く同一ですが6枚の絞り羽根のうち1枚の「位置決めキー」が垂直を維持していないのか極僅かに移動量が他の5枚と違うので、上の写真のようなカタチの開口部になっています。

当方ではキーの垂直度を検査できないので改善不可能です (下手にチカラを加えると脱落の危険もあるので処置できない)・・申し訳御座いません。この点、もしもご納得頂けないようであればご請求金額よりご納得頂ける分の金額を減額下さいませ。減額頂ける最大値は「ご請求金額まで (つまり無償扱い)」として、大変申し訳御座いませんが当方による弁償などはお受けできません。

・・申し訳御座いません!

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

当方ではヤフオク! で流行っている「抗菌剤/除菌剤による清掃」などは絶対に実施しません。これをやると薬剤に含まれている成分の一部が金属の表層面に対して酸化/腐食/錆びを促す結果に至るので、早ければ1年、遅くとも数年でポツポツと錆が表れ始めます。

詳細は厚労省の「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」が詳しく解説しています。

↑距離環を回す際のトルクは当初バラす前のトルクよりも僅かに「軽め」に変更しています。特に前述した「絞り環連係アームが絞り環に刺さったまま移動する箇所」の過去メンテナンス時の微調整が一切イジられていなかったので、今回微調整機能を活用しています。

当方の特徴たるシットリ感漂うトルク感に仕上げており、且つピント合わせの際は極軽いチカラだけでピント合わせできます。

なお、鏡胴の1箇所に上の写真で赤色矢印を附したように「KOREA」刻印があり、逆にレンズ銘板にあった「JAPAN」刻印が省かれています。

韓国工場で生産された個体なのでしょうが (互いに他にも数多く市場流通している)、実は今回扱った個体に使われている「全てのパーツの仕上げ方は100%日本製個体のそれと同一」であることをここに明言しておきます。

・・従って韓国製だからと卑下する必要は一切無くJAPANもKOREAも同一でした。

おそらくは元々タムロンが韓国工場を開設したのだと考えますが (だから機械設備が国内の整備と全く同じ) 資料が見つかりません。或いは一部外注パーツは日本から輸出して使っていたのかも知れません。そしてそのまま後には現地グループ会社に売却し「KOREA刻印」にチェンジしたのではないかとみていますが、正しいところは不明のままです。

↑このモデルの絞り環刻印はご覧のように「開放f値はf2.8の右上ドット●」に合致するようクリック感を感じる仕様です (赤色矢印)。この因果関係も前の工程で「開放側と最小絞り値側は互いに壁になっているからクリック位置を変更できない設計」なのが明白です。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮影しました。イキナシピント面の解像度がググッと先鋭化します!(驚) 当初バラす前の印象ではこれが感じられませんでした。

↑f値は「f8」に変わっています。

↑f値「f11」です。まだまだ行けますね・・!(驚) 素晴らしい・・!

↑f値は「f16」に上がっています。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。もうほぼ絞り羽根が閉じきっている状況なので、さすがに「回折現象」の影響が顕著に表れて解像度低下が起きています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。

焦点移動
光学硝子レンズの設計や硝子材に於ける収差、特に球面収差の影響によりピント面の合焦位置から絞り値の変動 (絞り値の増大) に従い位置がズレていく事を指す。

大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。お詫び申し上げます。前述しました「絞り羽根が正六角形で閉じていかない問題」について改善できませんでした。もしもご納得頂けないようであればご請求金額よりご納得頂ける分の金額を減額下さいませ。減額頂ける最大値は「ご請求金額まで (つまり無償扱い)」として、大変申し訳御座いませんが当方による弁償などはお受けできません。

・・申し訳御座いません!

今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。