◎ TAMRON (タムロン) BBAR MULTI C. tamron 28mm/f2.8(M42/adaptall2)
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※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません
今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、tamron製
広角レンズ・・・・、
『BBAR MULTI C. tamron 28mm/f2.8 (M42/adaptall2)』です。
今回初めて扱うモデルですが (過去にオーバーホール/修理でも扱い無し)、完全解体し始めて後悔先に立たず(笑) 特に内部構造が複雑なワケではありませんが、あまりにも独特な設計なので各構成パーツとの関連性や微調整に相当手間取り、ハッキリ言ってもぅ二度と扱いたくない気持ちでいっぱいです(笑)
従って、おそらく今回が最初で最後の扱いになるモデルです・・。
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1976年からアメリカ向け輸出用に用意された 専用システムで「tamron F-SYSTEM」と言います。
システムなので装着対象となるフィルムカメラが当然ながら存在するワケですが、それは当時の各光学メーカー各社から発売されていたフィルム カメラの主だったモデルに対しての「オプション交換レンズ群のシステム」と言う位置付けでタムロンの極一部のモデルをシステムに設定して輸出していたようです。
従って必然的にタムロンの独自マウント方式である「ADAPTALL2 (アダプトール2)」はアメリカでの特許登録が事前に行われており、商品には「USA. PAT. No.3500736」の刻印が あります。
今回扱う広角レンズは「28mm/f2.8」ですが、当時のタムロンのモデルでは「28mm/f2.5」の「モデル番号:02B」が有名です。確かに広角系の構成は同じ7群7枚の レトロフォーカス型構成で貼り合わせレンズが存在しない近似した設計ですが、各群の曲率やサイズは全く別モノです。
そこでよくネット上では原型モデルと銘打って「02B」が紹介されていますが、この純正モデルが登場したのは1979年であり後の時代になります。今回扱うアメリカ向け輸出専用機「モデル番号:CW28」は1976年に登場しているので、むしろこちらが原型モデルに近しい印象です (つまり02Bがこのモデルを参考にして再設計されたのではないでしょうか)。
どう言うワケかアメリカ向けの輸出専用機にのみ「BBAR MULTI C.」が施されており (国内 モデルには無い) これは「Broad Band Anti-Reflection MULTI Coating」の略ですから日本語にすれば「広帯域反射防止多層膜コーティング」とでも言いますか(笑)
ワザワザレンズ銘板の刻印をグリーン色にしているワケですが(笑)、ちゃんと光学系内の光学硝子にもグリーン色の蒸着が施されているのを、今回のオーバーホールでバラして清掃した際に確認できています。
7群7枚のレトロフォーカス型構成ですが少々誇張的に (分かり易いよう) 各光学硝子レンズに施されているコーティング層の蒸着 (光彩) を色付けして表したのが右図です。
すると第1群 (前玉) は強烈なレッドアンバー色のコーティング層蒸着で第2群が一般的なパープルアンバー色でした。また第3群と最後の第7群 (後玉) にのみグリーン色のコーティング層蒸着で、その他は基本的に一般的なアンバー色です。
上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
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※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。
◉ 一段目
左端から背景ボケをピックアップしたつもりでしたが枚数が少なすぎて比較になっていません(笑) アウトフォーカス部の滲み方が極端に溶けるのである意味疑似的なマクロレンズのような撮影方法にも対応できてしまいます。
またご覧のとおり非常に元気の良い鮮やかな発色性が得意で、ちょうど日本のフジカ製オールドレンズのような印象を受ける発色性ですが、ところが驚いたことにコントラストに関しては淡くも濃厚にも変化自在という、まさに光学系のポテンシャルが無ければ対応できないような写り方をします!(驚)
正直な話、このコントラストの対応能力の懐の深さを以て今回扱ってみる気持ちがフツフツと湧いたワケですが、さすがに後悔しましたね(笑)
このモデルは光線の使い方次第でコントラストを淡くも濃厚にも自在に対応できる優れモノ です!
◉ 二段目
ダイナミックレンジのピックアップとして左側2枚を用意しましたが、ご覧のとおり明部から暗部まで余すことなくシッカリ階調表現できておりオドロキました!(驚) 元来タムロン製オールドレンズダイナミックレンジが広いモデルが多いのですが、その中にあってさらに一歩抜きん出ているかのような印象を受けてしまう素晴らしい光学系です。
右から2枚目のパノラマ撮影した写真を見れば分かりますが、こんだけのピ〜カンでちゃんと階調表現できているグラデーションの質の良さにちょっと息を飲んでしまいましたね(笑)
このように鮮やかに元気に然し相当広めのグラデーションでダイナミックレンジを対応できる性格こそが「BBAR MULTI C.」の狙いだったのかも知れませんね。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。 内部構造はそれほど複雑でも難しくもなく至って一般的な理に適った設計ですが、然し組み立てを始めて後悔先に立たずでした。
なんでこんなに面倒で厄介で複雑で時間の掛かる各構成パーツとの連係動作、そして微調整を要求されるのか?!(怒)
と言うことで、当初予定では半日で終わるつもりがまるッきしの1日がかりで仕上げるハメに陥り、今回が最初で最後の気持ちいっぱい状態です!(笑)
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) が 独立しており別に存在します。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
↑ご覧のように絞りユニットと光学系前群との「間のスペース」を使って絞り羽根開閉制御機構を組み込んでしまった、ちょうどOLYMPUSと同じような設計概念の造りです。これは実は タムロンのマウント規格「ADAPTALL2」による影響からこのように制御部を鏡筒側に配置 させる必要が生じてしまったのが根本的な理由です。
すると「開閉アーム/制御アーム」が相応に長い板状パーツとして用意されていますが、これはマウント部からの連係動作で駆動する必要があるから「長い板状にしてマウント部と連係 できるようにしている」ワケです。
つまりここの制御系機構部の滑らかさ如何で最終的な距離環を回すトルク感まで大幅に影響を受けて変化してしまいます。
なお、今回のモデルは広角レンズなので光学系がレトロフォーカス型構成ですから、このような鏡筒の深さでは全く以て足りずにこの先に延長筒で光学系前群がセットされます。
↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。実は最短撮影距離が「25cm」なので必然的に繰り出し量が多くなる為に少々深めの基台サイズを採っています (つまりネジ山数がとても多いのでトルクが重くなり易い)。
↑アルミ合金材削り出しのヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ 込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
すると距離環を回す際のネジ山数も前述のとおり深く/長いワケですが、さらにヘリコイド (メス側) のネジ山数もとても多く、繰り出し量が相当な設定なのがこれだけでも十分に分かりますね。
従ってこのモデルの距離環を回すトルク感を決めるのはヘリコイドグリースではなく別の要素になってしまいます(泣)
↑上の写真は前述の光学系延長筒とヘリコイド (オス側) 、それに完成している鏡筒とのセット順序 (配置) を示しました。
↑実際にヘリコイド (オス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
↑ひっくり返して後玉側方向から内部を撮影していますが、このA/Mスイッチとその切替動作を行うアーム、それにマウント面から飛び出る「絞り連動ピン」との関係、もちろん最終的には鏡筒最深部にセットされている「絞りユニットとの連係動作」に至るワケで、これらの各部位連係とチカラの伝達経路の微調整が一日がかりだったワケです(笑)
従って上の写真はその途中で撮影していますが、この写真を撮ってからもさらに6時間は優にかかったのでマジッでもう触りたくないですね(笑)
↑こんな感じで各構成パーツが鏡筒とヘリコイド (オスメス) の間のスペースにビッシリ組み 込まれます。パッと見で (当初バラしている最中も) こんだけ隙間が空いていれば簡単なように見えたのですが、飛んでもない!
まさに当方の技術スキルが如何に低いのかを物語るお話ではないでしょうか・・!(笑)
↑鋼球ボール+スプリングを組み込んでから絞り環をセットします。この絞り環と各部位との連係動作の微調整だけで、さらにプラス3時間掛かりましたから「もぅ何でも来い!」みたいな徹夜覚悟状態でしたね(笑)
↑距離環を仮止めしてから光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
↑完璧なオーバーホールが終わりました、と言うかやっと、やっとの事で終わりました・・(泣)
残念ながら今回の扱いが最初で最後ですので、この当時のタムロンのオールドレンズの発色性や描写性が好きな方は是非ともご検討下さいませ。
↑光学系内には一部の群のコーティング層経年劣化進行に伴い極微細な点の集まり (つまり汚れ状) がありますが写真には影響しません。透明度が非常に高い状態を維持しているのでLED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。
↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
↑ADAPTALL2の「M42マウント変換アダプタ」が既にセットされていますが、ハッキリ言ってこのアダプタだけでも相当な稀少品です!!!
もちろん光学系後群側もLED光照射で極薄いクモリが皆無です。
↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。光学系内の各群には少々微細なヘアラインキズが多めです。
【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:16点、目立つ点キズ:10点
後群内:17点、目立つ点キズ:13点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内多め)
(極微細で薄い12ミリ長が数本あります)
・バルサム切れ:なし (貼り合わせレンズなし)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):あり
(第5群裏面側中心辺りに極微細な点の集まりがありますがコーティング層経年劣化に伴う汚れ状なので清掃しても除去できません)
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内の透明度が非常に高いレベルです。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。
↑5枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正五角形を維持」したまま閉じていきます。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度+軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人により「重め」に感じ「全域に渡り完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。
・附属の前キャップは輸送用の保護材なので実用になりません。
↑まずこのアメリカ向け輸出仕様のタムロン製オールドレンズがオーバーホール済で市場に流れることはありませんから、お探しの方や興味がある方は是非ともご検討下さいませ。
ブライドブラックフィニッシュの筐体に凹凸エンボス加工のラバー製ローレット (滑り止め) が何とも品を高めて高級感を醸し出しています。A/Mスイッチの切り替え操作自体は少々硬めです (確実に切り替わります)。
距離環を回すトルク感は神経質な人が操作すれば「重めで時々トルクムラもある?」かのように感じるかも知れませんが、それは言われれば気になるレベルの話で、知らなければスムーズに「軽い操作性」と感じるでしょう。要はグリース溜まりのせいで最初はトルクムラっぽく 回ると言う意味です (本当の材としてのムラではない)。
但しそうは言っても当方評価のとおり (SNSで評判のとおり) 当方の技術スキルは非常に低いので(笑) 期待するとガッカリと言う話になったりしかねません(笑) 僅かでも疑念を感じられる方はどうかスルーして頂くよう切に切にお願い申し上げます。
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑当レンズによる最短撮影距離25cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。
↑f値「f11」になりました。もう相当絞り羽根が閉じてきているのですが「回折現象」の影響を全く感じません。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。
↑最小絞り値「f16」での撮影です。これでもイッパシに使えてしまうレベルの写真を残せていますから、やはりこのモデルの光学性能は相当なポテンシャルなのではないでしょうか。当方の狙いが正しかったのかどうかはご落札者様お一人様だけがチェックできます(笑)