◎ ALFO Marketing GmbH & Co. KG (アルフォ有限合資会社) ALFO Super-Weitwinkel 28mm/f3.5(M42)
(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。
今回完璧なオーバーホール/修理が終わってご案内するモデルは、
旧西ドイツ製広角レンズ・・・・、
『ALFO Super-Weitwinkel 28mm/f3.5 (M42)』です。
ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ! Слава Україні! Героям слава!
上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。
Slava Ukrainieie! Geroyam Slava!
今回オーバーホール/修理ご依頼を賜った個体は、当方がオーバーホール作業を始めた11年前からの累計で初めての扱いになります。
このモデル『ALFO Super-Weitwinkel 28mm/f3.5 (M42)』のレンズ銘板に刻印されているブランド銘「ALFO」を今までの11年間で目にした記憶が全くありません。オールドレンズの個体そのモノは鏡胴にちゃんと「LENS MADE IN JAPAN」の刻印があるのでバラしてみればもしかしたら何処の光学メーカーが作った製品だったのかが分かるかも知れません。
そこでネット上をいろいろ探すとヒントになる雑誌がありました。
1977年に発刊された写真機材関係の季刊カタログ誌の中にまさにこのブランド銘の製品「ALFO compact 35 BM」を見つけ、この当時確かに「ALFO」ブランド銘が顕在していた事が判明しました。
しかしいったいどのような会社のブランドなのかが全く不明です。そこで関連しそうで、且つ当時既にその存在が分かっていたブランド銘から逆に関連付けしつつ探ってみました。
会社名は「ALFO Marketing GmbH & Co. KG」が正式名称になり、1965年に旧西ドイツは南西部に位置しライン川右岸に接する温泉地として古くから有名な「Wiesbaden (ヴィースバーデン)」市で当時旧西ドイツで既に活動していた57社にも及ぶ写真機材取り扱い専門店が結束して設立した「有限合資会社」でした。
この「有限合資会社」を現すコトバが社名にも当然ながら含まれていて「GmbH & Co. KG」にあたります。これは日本の合資会社とは全く異質で異なる性格を持ちます。
これをさらに紐解くと「GmbH (Gesellschaft mit beschränkter Haftung)」は有限会社を意味し (mit beschränkter部分が小文字なのが正式表記なので必ず社名表記でも小文字になる) ドイツの「有限会社法 (GmbHG)」により規定されていますが、直訳すると「有限責任会社」になるものの現実には単に「有限会社」と翻訳するのが通例のようです。
ところが現在のドイツも含め当時からして様々な同族会社や世界的に有名な大企業としてもその会社形態は「GmbH & Co. KG」が最も多く「Gesellschaft mit beschränkter Haftung & Compagnie Kommanditgesellschaft」であり翻訳すると「有限合資会社」になります。
この「有限合資会社」と言う呼称は日本では目にしませんが、ドイツの会社は「商法典 (HGB)」以外の法律に則り規定される「資本会社 (株式会社/株式合資会社/有限会社)」と「商法典」に則り規定される「人的会社 (合名会社/合資会社)」に二分されるそうです。
この後者の「人的会社」は日本と異なり法人格を有しませんが、商号を商業登記簿に登記する事で裁判訴訟などへの対応が可能になります。ではどうしてこの後者で設立するメリットがあるのかと言えば日本では馴染みがありませんが「法人税課税対象から外される」と言うメリットと共にもう一つ「無限責任社員であるにも関わらず出資額に対してのみ責任を負う有限責任となる有限会社」なので、その債務に対し安全な環境の下で参画できるメリットがあります。
・・馴染みが無いドイツの会社法について少しだけかじってみました(笑)
さて肝心な「ALFO Marketing GmbH & Co. KG」の話しですが、この「ALFO」部分は「Arbeitskreis leistungsfähiger Fotohändler」の頭文字を現し「合理的なワーキンググループ」を意味しプレミアム格付で登録されている57社の会社が結束して仕入や販売網を駆使できるよう試みた組織だったようです。
しかし1969年には当時のドイツ国内で最大規模を誇る「RINGFOTO GmbH & Co.」に吸収合併し「RINGFOTO GmbH & Co. ALFO Marketing KG」に社名変更し、1971年以降ZEISS IKONを手に入れ1980年代には国境を越えて世界的な活動へと広げていきます。
1997年にPLUSFOTOを吸収しVOIGTLÄNDERを手に入れ、2002年には長い歴史を持つ「PHOTO PORST」の倒産により吸収合併しその勢いは止まるところを知りません。「RINGFOTO」のホームページや「PHOTO PORST」をご覧頂ければどんだけの規模を誇るのかご理解頂けるでしょう。
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↑上の写真はFlickriverで、このオールドレンズの特徴的な実写をピックアップしてみました。
ピックアップした理由は撮影者/投稿者の撮影スキルの高さをリスペクトしているからです。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています/上記掲載写真はその引用で
転載ではありません。
◉ 一段目
たったお1人が撮影で使った時の実写しか発見できませんでした。ポルトガルの海岸線を撮った写真のようです。色乗りが良くコントラストがパキッと出る写り方なのかと思いきや、実は砂浜のグラデーションも滑らかでとても自然に写っています。また海の色合いも決して誇張感がなく「これだけ自然な発色性のままでコントラストを上げているのが意外だった」という印象です。
◉ 二段目
パースペクティブもそれほど歪みを誇張的に感じられないものの、残念ながら画の四隅は相当流れていて収差の影響が大きく感じられます。しかしやはりグラデーションは滑らかに感じ全く違和感がなく、合わせて路面やレンガ、岩肌、ペンキなどどちらかと言うと決して色乗りが良いだけのコントラスト強調派的な印象がむしろ少なく、個人的にもとても好みな発色性です。
できればもっと数多くの方々が撮影された実写が載っていれば良かったですね・・。
光学系は6群7枚のレトロフォーカス型構成ですが、一般的に多い6群7枚クラスのレトロフォーカス型であれば「光学系前群側に貼り合わせレンズを配置してくる設計が多い」にもかかわらず、このモデルは逆で「後群側に貼り合わせレンズを配置」しています。
右図は今回の個体を完全解体してバラした際に光学系の清掃時、各群の光学硝子レンズを当方の手でデジタルノギスを使って逐一計測してトレースした構成図です。
右構成図を見てすぐに思い出したオールドレンズがありました。同じ旧西ドイツはSchneider-Kreuznach (シュナイダー・クロイツナッハ) の広角レンズ「Edixa-Curtagon 28mm/f4 zebra (M42)」です。
右構成図はそのオールドレンズをバラした際に同じく当方の手でトレースした構成図ですが・・よく似ています。
今回のオールドレンズも共に 部分で着色した箇所が基本成分で「3群4枚テッサー型構成」であると解説されているサイトが多いのですが、実は当方の考えは違います。
↑上の構成図は左側が「3群4枚テッサー型構成図 (1953年版モデル)」で右側がライカのほうの「3群4枚エルマー型構成図」です。実は同じ3群4枚でも「絞りユニットの配置が異なるので (上構成図の縦線部分が絞り羽根の位置) 開放撮影時以外での入射光量が減じられるか否かの点に於いて両者は互いに異なる」点と共にさらに「光学系前群と後群とのパワーバランスも同一には成り得ない」との考え方から、当方は必ず「絞りユニットの配置で同一か相違かをある程度判定する必要がある」との考察です。そうしないと撮影写真はあくまでも絞りユニットを経た時の料理結果なので開放撮影時以外は同格で比較できないとの考え方です。
すると今回扱ったモデルは「3群4枚のエルマー型構成を基本成分としバックフォーカスを稼ぐ意味から3枚前方配置させたレトロフォーカス型構成」と言う話になります。
巷では「古めかしい写りでオールドレンズ的な甘い描写になるレトロフォーカス」のように語られてしまいますが、実はこの「レトロフォーカス」の原型は、フランス屈指の光学メーカーP. ANGÈNIEUX PARIS社により1950年に世界で初めて開発/発売された「RETROFOCUS TYPE R1 35mm/f2.5」であり、フランス語の「rétro focus (レトゥロ・フォーキュス)」のラテン語/英語発音です。
開発当時/1950年までは戦前〜戦中含め主流だったのは「レンジファインダーカメラ」であり、オールドレンズの後玉端〜フィルム印画紙面までのバックフォーカスが短いまま・・詰まるところ「標準レンズの光学設計のままで広角域まで対処できていた」・・のが大きな因果関係になります。
この「レトロフォーカス」の意味は「RETRO (後退)」と「FOCUS (焦点)」の造語であり、戦後にクィックリターンミラーボックスを実装した一眼レフ (フィルム) カメラが登場し主役の座に着くと、それまで主流だったレンジファインダーカメラが採用していた標準レンズ域の光学設計だけでは広角レンズ域に対応できなくなり、次代の潮流から急きょ開発されたのが「後玉端からフィルム印画紙面までのバックフォーカスを延伸した専用光学設計=広角域専用設計」だった次第です。必然的にフィルム印画紙の位置が後ろ方向に後退したので「焦点を後に後退させなければピンボケ写真しか記録されない」ので、入射光の結像点/焦点を後退させるために「逆望遠型の光学設計=RETROFOCUS」と言う発想です。
従って基本成分に今回のモデルで言えば「3群4枚エルマー型光学系」を採り入れており、或いは当時数多く登場した3群4枚テッサー型構成のレトロフォーカス型構成もあり、それら基本成分から捉えても「決してピント面が甘くなるような描写性の光学設計ではない」のが歴然です。
・・レトロフォーカス型で甘いと貶すのは理に適っていないと知るべし。
詰まるところそのような甘い写りや低コントラストの因果関係が光学系内に顕在し「よ〜く覗き込めば中央の小径光学硝子レンズにクモリが生じていたりする」のがホントの原因だったりします(笑) 単なる光学系設計の名称からの印象としてそのようなレッテル貼りをするから誤った捉え方が拡散していきます(笑)
なおこのモデルの名称の中で/レンズ銘板刻印の内容で「Super-Weitwinkel」はドイツ語なので「スーパー・ヴァイトヴィンケル」と発音し和訳は「広角レンズ」です。多くのサイトで「Weitwinkel」を「ウェイトウインケル」と記していますがドイツ語の「W」はラテン語/英語の「V」にあたるので、例えば「狼:Wulf」はラテン語/英語で「Wulf (ウルフ)」としてもドイツ語は「Wulf (ヴルフ)」になるので、綴りが同じでもその発音は異なります。
従ってこのモデルのレンズ銘板表記は「アルフォ・スーパー・ヴァイトヴィンケル 28mm/f3.5 アウトー」との発音がドイツ語発音になります・・モデル銘最後の「auto」も意味は「自動絞り方式」を意味しますがラテン語/英語発音の「オート」ではありませんね(笑)
これらのルールに従えばドイツ語→ラテン語/英語なら「Weitwinkel=Wide angle」になり和訳で広角 (レンズ) を意味します。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。バラしてみれば特段この当時の数多くの広角レンズで設計されていた内部構造と比較した時、その構造面で大きく異なる要素はないのですが、実はたった一つだけ整備者が気づかないと致命的になる要素がありました。
・・このモデルは組み立て手順をシッカリ構成しないと正しく組み上がらない。
今回扱った個体は過去に一度だけ整備されている痕跡がありましたが、残念ながらその際に間違えた解体を行ってしまいムリなチカラでバラしたが為に一部パーツを変形させてしまいました。
今回のオーバーホール/修理にあたり気になった事柄を以下に明示します・・。
《当初バラす前のチェック時に気になっていた内容》
❶ 絞り環を回すと開放側「f3.5」が詰まった感触で硬くなる。
❷ A/Mスイッチの切替がとても硬い (オーバーホール/修理ご依頼内容)。
❸ 距離環を回すと0.8m〜∞が硬い/トルクムラ (オーバーホール/修理ご依頼内容)。
❹ グリース抜けの印象が在る (オーバーホール/修理ご依頼内容)。
《バラした後に新たに確認できた内容》
❺ 白色系グリースが塗布されている。
❻ 過去メンテナンス時に不適切な位置で締め付け固定箇所の痕跡あり。
❼ 一部パーツの変形及び濃いの曲げたのが不都合の因果関係。
↑上の写真は左側の黒色の角棒の右側に「絞り環に刺さる連係アーム」と言う金属棒を並べて撮影しています。赤色矢印で指し示した箇所がクネクネッと曲がってしまい本来製産時点の「真っ直ぐな棒状を維持していない」のが分かります (分かり易いように黒色角棒との間の隙間をグリーンのラインで示してある)。
⌀ 1.9mm径の真っ直ぐな金属棒ですが、それをネジ山を過ぎた場所からグニャッと曲げてしまうくらいのチカラですから、相当に強かったのだと思います(泣)
そしてこの金属棒たる「連係アーム」が絞り環に刺さって鏡筒内の「絞りユニットにセットされている制御アームに刺さる」ので、結果的に絞り環操作に影響を及ぼし、開放時に詰まった感じの操作性に堕ちてしまいました(涙)
↑上のパーツは基台の内側に張り付いて固定され、マウント面から飛び出す「絞り連動ピンを受けるパーツ部分」ですが、過去メンテナンス時に赤色矢印で指し示した爪部分の片側をペンチで掴んで (ラジオペンチで掴んでチカラを加えて故意に変形させたキズ/痕が残っているから明言できる) 広げたようです。
おそらくマウント面の「絞り連動ピン」が押し込まれた際にこの爪部分がもう一つの別パーツと噛んでしまい「咬みあって動かなくなる不具合が発生していた」のを改善させる目的で爪を広げて「マチ/隙間を用意した」ものと推測できます。
今回のオーバーホール/修理ではこの爪部分の広がりはハス状に広がるべき設計になっていないので (爪の幅が先端部分まで同一なので製産時点は広がっていなかったハズ) 当方にてオーバーホール工程の中で適切な爪のカタチに戻しました。
↑上の写真は左側が「絞り連動ピン」で右側が「A/Mスイッチ連係アーム」です。それぞれワザワザ製産時点に「メッキ加工」が施され、且つグリーンのライン部分の表層面は平滑処理されています。
ここに経年で酸化/腐食/錆びなどが生じると「マウント面から飛び出る絞り連動ピンの押し込み動作によるチカラの伝達が狂う」因果関係に至り、或いは右側の「A/Mスイッチ連係アーム」は直接基台内側に張り付いている「絞り連動ピン受け機構部」をダイレクト操作する設計なので、互いに棒状部分の平滑性をキープさせる必要があります。
ところが数多くのオールドレンズをバラすとたいていの場合で過去メンテナンス時にこれら棒状パーツは放置プレイで酸化/腐食/錆びで経年劣化し放題です(笑)
いったい何の為にマウント面に「絞り連動ピン」を用意してワザワザシャッターボタン押し込みの際に連係させて押し込んでいるのか? 或いはどうしてA/M切替スイッチでこのような棒状の金属製パーツを用意したのか???
・・そういう事柄に対してあまりに多くの整備者が気にしません(笑)
当方のオーバーホールでは必ずこれらの棒状パーツをチェックし経年劣化を全て除去しています (それによってチカラの伝達が適切に行われるから)。
そもそも絞り連動ピンがちゃんと正しく押し込まれなければ「絞り羽根の開閉異常」だって起きかねません(怖)
↑こちらは鏡筒内部の絞りユニット内部に組み込まれる絞り羽根の駆動を司るパーツ類で、左から「位置決め環/開閉環/制御環」です。
左側の黒ッぽい色のパーツ「位置決め環/開閉環」は表裏面を「マットで微細な凹凸の梨地仕上げ」でワザワザメッキ加工を施し「経年の揮発油成分の流入を防いでいる」のが分かります。この2つの環に絞り羽根が表裏で挟まれて組み込まれます。
一方右端の「制御環」はメッキ加工が施してあるものの「平滑処理」されていてグリースなど塗らずとも滑らかに駆動するよう設計されています。
↑こちらは一つ前の「位置決め環/開閉環/制御環」それぞれを格納する「絞りユニットの格納環」で鏡筒内部にセットされるべきパーツです。こちらは写真では分かりにくいですがツルツルの表層面でメッキ加工されていて前出の左側2つのパーツとは全く違うメッキなのが一目瞭然です。
・・どうして同じようにマットな梨地仕上げにしないのか?(笑)
経年の揮発油成分流入を防ぎたいならどうして同じマットな梨地仕上げでメッキ加工する設計にしなかったのでしょうか?(笑)
何も難しい事柄や神経質になっている話ではなく(笑)、一つ一つの構成パーツをちゃんとチェックしていけばそのパーツを見ただけで「表層面或いは表裏でのメッキ加工の相違」などすぐに誰でも理解できると思います。マットで艶消し処理されているのかピカピカと艶々に光沢処理されているのか、いやもっと滑らかで平滑処理なのか?
それぞれちゃんと意味があって設計しているのでその意図を汲んだ組み立て工程が必要ですね。
↑上の写真は「鏡筒」ですが、ご覧のとおり前出の「位置決め環/開閉環」同様にマットな梨地仕上げでメッキ加工しているのが分かります。
・・要は経年の揮発油成分を嫌っている証拠です。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
↑前出の「位置決め環/開閉環/制御環」の3つを絞りユニットに組み込んだところです。上の写真で光っているのが「制御環」ですね。最小絞り値「f16」まで閉じているのが分かります。
しかし実際は冒頭の解説のとおり絞り羽根の閉じ具合が左写真のようにほんの僅かですが途中で停止していたのが「当初バラす前の状況」です。
写真を撮る為にワザと絞り羽根が閉じきらない状態に設定して撮影しましたが、本来最小絞り値まで問題なく絞り羽根が閉じるように「スプリングのチカラが加わる仕組み」です。
・・するとどうして絞り羽根が途中で閉じるのをやめていたのでしょうか?
↑こんな感じで「絞りユニット」が組み上がります。このモデルでは「大凡絞り羽根の駆動に係る全てをこの絞りユニットに組み込んでしまった設計を執っている」のがこれだけ見ても十分に理解できますね。
ここで解説のために左横の上に並べて高い位置から冒頭で解説した「絞り環連係アーム」を絞りユニットにセットされている「制御環のアーム」に差し込んでいます。
絞り環の途中にこの「絞り環連係アーム」がネジ込まれて刺さるワケですが、その先はこんな感じで内部で「制御環のアーム (ガイド)」に刺さっていたワケです。
そして距離環を回すと「鏡筒ごとヘリコイド (オス側) が繰り出し/収納動作をするのでその繰り出し量/収納量の分だけ制御アームの長さがちゃんと用意されている」のが・・これを見ただけで分かると思います。敢えてちゃんとグリーンの矢印で駆動域まで上の写真に明示しました(笑)
つまりこの曲がってしまった「絞り環連係アーム」が距離環を回して鏡筒を繰り出したり/収納したりしている時、こんな感じで曲がっている分だけ「制御アームの端部分に引っかかって抵抗/負荷/摩擦に至っている」の事が十分に想定できます。
これが冒頭で明示した不都合の「距離環のトルクムラ」の原因であり、別にヘリコイドグリースの経年劣化でもグリース抜けでもなくて「絞り環連係アームを曲げたまま使ってそのまま組み上げてしまったのが拙い」と言っているのです・・自分で曲げてしまったのならどうして可能な限り元に戻そうと努めないのでしょうか???
開閉環から伸びている「開閉アーム」が (赤色矢印) 操作される事で絞り羽根が勢い良く開閉動作する仕組みです。また制御環は「絞り環連係アーム」が制御アームに刺さるので「設定絞り値が伝達される仕組み」なのが見ただけで理解できます。
何故なら絞り環を回した時「制御環が回るので途中にあるなだらかなカーブの位置が移動する」ので、そのなだらかなカーブに突き当たっている「カムが突き当たる時の坂の勾配」に従って絞り羽根の角度が変わる量が決定するので「設定絞り値まで絞り羽根が開閉動作する設計」なのです。
なだらかなカーブの坂の勾配を登りつめた場所が頂上で「カムが全く動かないから開放f値側でしょう?」逆にそのなだらかなカーブの坂の勾配の麓部分は「カムの移動量が一番多いから最小絞り値側ではありませんか?」と言っているのです (ブルーの矢印)。
カムが動く量が大きいと言う事は絞り羽根が閉じる量が大きいのだから「最小絞り値側」を意味します。
もう少し複雑に考えるなら、絞り環からの連係アームが制御アームに刺さっているのだから、絞り環を回した時の位置は「なだらかなカーブの勾配にカムが突き当たる位置」に適合している話になり、その時のカムの移動量に従い絞り羽根が閉じるのだとしたら「絞り羽根の閉じる時の角度を調整してあげれば設定絞り値が正しく制御できる」と言う設計に作っているのがご理解頂けるでしょうか。
↑絞りユニットをひっくり返して裏面側を撮影しました。ここに締め付け固定されているのは「位置決め環」です。絞り羽根を強制的に閉じてしまうスプリングがちゃんと備わっています。オールドレンズの絞り羽根は必ずどんなモデルでも「絞り羽根を閉じようとするチカラと開こうとするチカラのバランスで成り立っている」ワケで、そこに介在するのは必ずしもスプリングだけと限りませんしもう一方は「捻りバネ」がセットされている事も多々あります (今回のモデルも基台の内壁で捻りバネが介在する設計)。
閉じるチカラと開くチカラをバランスさせるなら「同じバネ類を使うハズ」と考えがちですが実はそこにはバネ類だけのチカラだけを及ぼすのではなく「他から伝達されるチカラも同時に含まれる」からこそ、同一のバネ類を使えないのです。
もっと言うなら同じバネ類を使ったらバランスした途端に「絞り羽根は一切動かなくなる」のは当然な話ではありませんか?(笑)
・・こういうのが「原理原則」なので整備者なら知っていて当たり前の話し!(笑)
ちゃんと裏側にある「なだらかなカーブの勾配とカムの関係性が適切だから絞り羽根が最小絞り値まで閉じきっている」のが上の写真を見ただけでも分かります(笑) 当初バラす前はここまで絞り羽根が閉じていなかったので (最小絞り値であるにもかかわらず) 全ての因果関係は「絞り環連係アームの変形」により正しく制御アームが操作されず、さらにその移動量の不始末を「位置決め環で改善させなかったから」とも言い替えられ、要は単にバラしてヘリコイドグリースを塗ったくって組み戻しただけの「ごまかしの整備」そのものだったのです(笑)
↑実際に完成した絞りユニットを鏡筒に組み込むとこんな感じになります。ちゃんと「開閉アーム」と「制御アーム」が伸びていて、そこに他の部位のパーツが刺さるように、或いは操作できるように考えられているのが分かります (赤色矢印)。
↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。マットな梨地メッキ仕上げなのが分かるでしょうか。もちろん組み込んでいる絞りユニットには「一切グリースの類を塗っていない」のは当然です (何の為にワザワザマットな梨地仕上げメッキ加工を施しているのかです)(笑)
↑左側のフィルター枠に右側の「格納筒」がネジ込まれる設計ですが、残念ながらこの個体は「格納筒のネジ山が既に摩耗して一部が削れている」状態です (グリーンの矢印)。
おそらく元々このオールドレンズの特にアルミ材削り出しパーツの切削加工がそれほど良くなくて粗い印象です。このネジ山の摩耗により当初格納筒を外す時、及び組み上げる時の2回大変な目に遭いました(涙)
↑やっとのことで (2時間経過) 格納筒をネジ込んだところです。既に光学系第3群が格納筒の内部にセットされています。またフィルター枠にも光学系第2群が既にセット済です。
上の写真グリーンの矢印で指し示したネジ山は実はヘリコイド (オス側) にネジ込む為に用意されているネジ山です。
↑グリーンの矢印でそれぞれのネジ山の位置を指し示しています。要は「フィルター枠に光学系第1群〜第2群が格納」されて、さらに「フィルター枠に続いて第3群〜第4群が格納筒の追加でセットされる」ワケで、何と光学系後群側の「第5群〜第6群だけが鏡筒にセット」と言う変わった設計を採っています。
悪く言うなら「光学系前群の全てがフィルター枠にブラ下がり状態」で右側ヘリコイド (オス側) の内側で単にブラ下がっているだけです(笑) あまりこういう設計は見ませんね・・。
↑こんな感じでヘリコイド (オス側) の内側にフィルター枠〜格納筒までの全てが入っていますが、保持しているのはフィルター枠だけです(笑)
ちなみにこのヘリコイドのネジ山で赤色矢印で指し示している箇所には「黒っぽい色合いでメッキ加工が施されている」ワケで、当時の例えばOLYMPUSやNikon/Canonなども同じ処置を施していました。これは「ネジ山の山と谷で平滑性を維持」させる目的です。
↑そしてオドロキの設計ですが(笑)、今度は鏡筒までヘリコイド (オス側) にネジ止めなのでちょっと異質な設計です。グリーンの矢印で指し示しているのは鏡筒のネジ穴とヘリコイド (オス側) のネジ穴位置です。
↑こんな感じで鏡筒がネジ止めされて赤色矢印の箇所に光学系後群「第5群〜第6群」がネジ込まれます。鏡筒の内部に見えていますが「光学系前群第3群〜第4群の格納筒」がブラ下がっています(笑)
一方ヘリコイド (オス側) の両サイドにはグリーンの矢印で指し示したように「直進キーガイド」と言う溝が切削で備わります。ここを「直進キー」言うパーツが上下動して行ったり来たりするので、結果的に鏡筒の繰り出し/収納動作が適う次第です。
するとここでのポイントは (或いはこのモデルを組み立てる上でのポイントと置き替えても良いです)「設計者が後から鏡筒を組み込めるように敢えて設計していた事がこれらの内容から見えてくる/分かる」と言いたいのです。
・・最後に鏡筒をマウント面方向からセットできる設計だからです。
するとここまででハッキリしたのは「組み立て工程の手順として鏡筒の組み込みを最後の順番に回せるよう配慮した設計だったのが掴める」次第です。このような「観察と考察」により組み立て工程の手順を考えていけば例え扱うのが初めてのモデルだとしても (このように) ちゃんと適切で正しい組み立て工程と手順で仕上げていけるワケですね(笑)
↑距離環や絞り環〜マウント部までを組み付ける為の基台です。ご覧のように相当な高さを持つ設計です。同様やはりマットな梨地仕上げが施されています。
↑どうしてこんなキズが付いているのか不明ですが、基台の端にあるネジ山が欠けたりしています (赤色矢印)。おそらく切削レベルが良くないのだと思います (アルミ材削り出し)。
↑こちらはマウント部内部の写真です。この中にセットされるべきパーツを既に取り外して撮影しています。
↑しかし取り外していたパーツとは「絞り連動ピンだけ」と言う何とも殺風景なマウント部です (赤色矢印)。マウント部にこれだけの肉厚を用意するならもう少し薄く設計して駆動部や制御部を仕込んでしまい、むしろ鏡筒内部を簡素化したほうが特に経年の揮発油成分の流入を防ぐには最も効果絶大だと考えます・・たかがアルミ合金材の話しなのでたいしてコストが掛かりませんが、何だかもったいないです(笑)
↑まずは冒頭でもご案内した「マウント面から飛び出ている絞り連動ピンの受け部 (機構部)」をネジ止めします (赤色矢印)。
↑さらに「A/Mスイッチとの連係機構部 (黄銅製)」も組み込んで/咬みあわせてちゃんとグリーンの矢印で指し示したように「操作アーム」が左右に動くようセットします (赤色矢印)。
↑ここからが冒頭のほうでご案内した「組み立て手順を過去メンテナンス時の整備者が理解していなかった」ことを示しています。グリーンの矢印で指し示した「指標値環」は後から入れる事ができません。先に入れ込んでおいて距離環をセットする直前で「指標値環の固定位置を確定させる」と言うとても重要なパーツです。
既に距離環を固定する際に締め付け固定する先の「ベース環」がネジ込まれており、且つヘリコイド (オス側) も既にネジ込んであるので「当然ながらこの時点で無限遠位置がピタッと適合している必要がある」設計です。ちなみにヘリコイド (オス側) の両サイドに備わる「直進キーガイド (溝)」も見えています (グリーンの矢印)。
↑そのヘリコイド (オス側) の両サイドに備わる「直進キーガイド (溝)」に黄銅製の「直進キー」が刺さってネジ止め固定します (グリーンの矢印)。反対側にも同じようにネジ穴が用意されていて両サイドから締め付け固定です。
するとこの「直進キーの先っぽの円筒がヘリコイドの直進キーガイドの溝に刺さる」ワケで、そのままの状態で距離環を回すとヘリコイド (オス側) が回転するので結果的に鏡筒の繰り出し/収納をしている動き方に至るワケです。
距離環は上の写真ブルーの矢印で指し示している「ベース環」にネジ止め固定されます。
↑ヘリコイド (オス側) を無限遠位置まで収納した時の状態を撮影しました。この状態で完璧に「無限遠位置」です。すると距離環がセットされる先の「ベース環」を赤色矢印で指し示していますが「イモネジ用の下穴」が既に切削されて用意してあります (グリーンの矢印)。同じように下の基台側にも「イモネジ用の下穴」があります (グリーンの矢印)。
この事実が意味するところをちゃんと理解していればこの後の工程でいったい何を基準にして組み立てていけば良いのかがすぐに理解できます・・それがまさに「原理原則」であるのをここから解説していきます。
↑この状態のままヘリコイド (オス側) が既にネジ込まれていてちゃんと無限遠位置にセットされている基台をひっくり返して、前に説明したとおりグリーンの矢印で示したネジ穴で「鏡筒を固定」します。
この時「開閉アーム」や「制御アーム」との連係がちゃんとできていないと後で組み上がってから「絞り羽根の開閉異常」が起きます(笑)
↑距離環をセットしました。このモデルの距離環はローレット (滑り止め) 部分に3箇所ネジ穴が空いておりそこに「イモネジ」を締め付け固定でネジ込み距離環をセットする設計です。
◉ イモネジ
ネジ頭が存在せずネジ部にいきなりマイスの切り込みが入っているネジ種
すると前に説明しましたが「距離環を締め付け固定する先のベース環にはイモネジ用の下穴が備わる」ので、その位置でしかこのイモネジをネジ込めません。
特に前の工程で「ベース環」と赤色矢印で指し示している案内でその「イモネジ用の下穴」以外に一切過去に締め付けられた痕跡すら残っていないのが歴然なので「イモネジの締め付けは下穴にしかできない」と言う仕様の設計なのが歴然です。
・・何を言いたいのか???
つまりこのモデルは無限遠位置がズレてしまったので距離環の固定位置を変更して/ズラして「∞刻印の位置をちゃんと合わせたい」と考えても「一切それができない設計」なのがこれで決まってしまうのです。
と言うことは「ヘリコイド (オス側) のネジ込み位置をピタリと適合させなければちゃんと組み上がらない」オールドレンズなのだと言っているのです。何故なら下穴が無い位置でイモネジをネジ込むと「距離環がその分膨れあがる」ので直下の指標値環の内壁に接触して擦れてしまいキズが付くだけに留まらず抵抗/負荷/摩擦が増大して距離環を回すトルクが重くなってしまいます(泣)
・・こう言うのが「原理原則」だと述べているのです。
逆に言うなら「原理原則」にこだわらず/追求せずバラした時の逆手順で組み上げていく事しか考えていないから「ペンチを使ってパーツを曲げたり」グリースを塗るべき場所ではないのに塗布したりと、凡そ「製産時点」には一切執られていなかった所為が施されて組み上がるから「完成したオールドレンズの外見上全く分からない」のにいろいろな不都合やトラブル、或いは使い辛さがすぐに数年で起きてくるのです(笑)
・・いったい何のために整備しているのでしょうか???(笑)
↑指標値環の位置直下に今度は「A/M切替スイッチ環」を組み込みました。反対側に光沢がある立派な円形ツマミが用意されていて、そこを操作する事でA/M切替が適うのですが、当初バラす前はその円形ツマミが指に当たって痛みを感じるほどに相当硬かったのです (つまり操作できる状況になかった)。
その因果関係が冒頭解説の「爪の広がりをペンチで広げた処置」の結果、絞り連動ピンの押し込みで確かに黄銅製パーツが咬みあうのを改善できたのでしょうが、その反面「A/M切替スイッチの操作性が異常に硬くなってしまった」と言う弊害が現れてしまったのに過去メンテナンス時の整備者は放置プレイです (自分の処置がイケナイのに)(笑)
しかしもう一度考えてみて下さい。製産時点ならそんな噛み合う位置のズレで上手く駆動しなくなるトラブルなど起きていなかったハズです・・経年のうちに勝手に黄銅製パーツが変形してしまったのでしょうか?
違いますね(笑) 組み立て工程の何処かで適切な締め付け固定やセットができていないからズレが生じてしまい適切な動きをしなくなっていたワケで「それを逐一チェックして不都合を起こしている箇所を特定しようと試みない」のが拙いのです。
そのような事柄が面倒くさいのか時間が無駄だと考えていたのかは分かりませんが、過去メンテナンス時の整備者は「安直にパーツを変形させて対処する方法を選択した」のがこれで分かるので「ごまかしの整備 (製産時点に執られていなかった所為)」なのだと申し上げている次第です(笑)
数多くのオールドレンズをバラしていると今ドキの市場流通している「白色系グリース」や「青緑色の固着剤」などなど、凡そ近年数年以内に一度整備されている個体にいつも出くわします (10年以上経過していない)。
どうして「10年以上経っていないと明言できるのか?」と問うのなら、それは当方がこのようなオーバーホール作業を始めた「11年前の頃には青緑色の固着剤や白色系グリースがホームセンターなどのお店にまだ並んでいなかった」からです!(笑)
当然ながら今ドキのとても便利な通販 (楽天市場やアマゾンなど) がまだまだ本格的に流行っていなかったので、いちいちホームセンターに買いに出掛けていたと思います (まだ街中の金物屋さんが最後のチカラを振り絞って流行っていた時代)(笑)
もっと言えば当時使っていた電話は「ガラケー」ですらなく(笑)、まだまだ至る所の街中に「緑電話ボックス」が散見していた時代です。懐かしいと言えば懐かしいですが、確か「ポケベル (受信機)」をこれ見よがしにベルトに通して活用していた時代です(笑)
あぁ〜、そう言えばあの頃の時代はみんなが皆「ちゃんと顔を上げて歩いていた時代だったなぁ〜」と今ドキのスマホ片手に歩いている世間が・・改めて特異な世界なのだと再認識する始末です(笑)
↑さらに今度は直下に基準「●」マーカー環/リング/輪っかをセットします (赤色矢印)。光沢のある鮮やかに梨地シルバー仕上げでなかなか美しいですが、これも同様「イモネジ固定」で且つ「下穴が存在する」ので別の場所で締め付け固定できません!
↑鋼球ボールとスプリングを組み込んでから絞り環をセットしました。同様反対側に「問題の絞り環連係アーム」を既にネジ込んであり、その先端部が鏡筒内部の絞りユニット「制御アーム」のガイドに刺さっています。
↑最後にマウント部を「絞り連動ピン付」でセットしたところです。
結局ここまでの解説で分かりますが「このモデルは全てのイモネジ固定箇所に下穴が備わるので固定位置を一切ズラせない仕様の設計」なのが判明します。さらに組み立て手順もちゃんと考えていないと微調整が狂ってしまうので、バラした後にそれぞれのパーツの役目や存在する意味、或いは何処の部位からのチカラが伝達されるのかなど凡そオールドレンズに必要な事柄について「組み立てる前の時点で全て把握する必要がある」モデルです。
もっと言うなら上の写真で赤色矢印で指し示したように「指標値環の固定位置 (イモネジ締め付け固定で下穴がある)」で直下に次から次へとセットされていく全ての環/リング/輪っかの位置まで決まってしまうので「距離環〜マウント部まで全ての位置は変更できない設計」なのが判明してしまったワケです。
・・ならばいったい何処で微調整するのか?
結局ヘリコイド (オスメス) のネジ込み位置をミスったら無限遠位置が狂う話になり、合わせてヘリコイドの駆動量まで決まっている設計なので (制御アーム) 何から何までたった一つの位置でしか組み立てられない設計なのです。
逆に言えば一つしか固定位置が無いのである意味「原理原則」に則れば全てが上手く仕上がって簡単に組み上げられるオールドレンズの設計を採っているとも言い替えられますね(笑)
従って残念ながら下穴が存在する以上 (製産時点に用意されていない下穴をドリルで空けるのはごまかしの整備だから) その位置で固定していくと上下位置での極僅かなズレが出てきて、例えば距離環の「∞刻印」はド真ん中に指標値が来なかったり (極僅かに中心から右寄り) 或いは基準「●」マーカーに対して絞り値の位置が僅かに開放側で詰まっていたりします。
しかしこれらはイモネジの下穴がある位置で決まるので「変更/微調整不可能」であることをご案内しておきます。
↑解説用に今までの写真は仮組みして撮影していたのでご覧のように「鏡筒が中に入っていないまま!」だったりします(笑) ここから光学系前後群を組み込んで鏡筒をセットし無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にレンズ銘板をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
↑完璧なオーバーホールが終わりました。レンズ銘板の製造番号刻印は「No.xxxxxxE」と最後に「E」が附随します。
実はこちらのページでご案内した同じ旧西ドイツのSchneider-Kreuznach製広角レンズ「Super-Weitwinkel MC 28mm/f2.8 auto H (M42)」と内部構造がほぼ近似しているので、おそらく今回の個体/モデルも「トキナー製」とみていますがその正確性は「???」です。いえ、もしかするとそもそもSchneider-Kreuznach製広角レンズも含め今回のモデルも日東光学製なのかも知れません。
要はトキナー製も日東光学製もオリジナルモデルをバラした事がないので確証がないのです。
↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持している個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。
ちなみに光学系第3群〜第4群格納筒の内側の「遮光環部分」は過去メンテナンス時に反射防止黒色塗料が塗られていたので全て溶剤で除去しました。
↑後群側もLED光照射で極薄いクモリが皆無です。同様に赤色矢印で指し示した箇所にやはり反射防止黒色塗料が塗られていましたが、除去しました。この部分は鏡筒なので製産時点からご覧の色合いでマットな梨地仕上げでメッキ加工が施されていますから、敢えて反射防止黒色塗料を塗る必要がありません。もしも必要があれば溶剤などで簡単に溶けて着色が落ちるような塗料ではありませんね(笑)
↑6枚の絞り羽根もキレイになりA/M切替スイッチの駆動と共に絞り環操作でも確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正六角形を維持」したまま閉じていきます。
↑当初バラす前の閉じ具合はこんな感じで現在の組み上がり後のf値で言うと「f8」程度だったように思います (撮影しておくのを忘れました)。拡大撮影しているので少々大きめに写っていますが、現実はだいぶ奥まった位置の小口径の光学硝子レンズの先にある「絞りユニット」の話しです。
確認したのは最小絞り値までちゃんと絞り羽根が閉じきっていなかった事ですが、その因果関係は冒頭解説のとおり「曲がっていた絞り環連係アームのせい」で鏡筒内部絞り連動ピンの「制御アームが端まで移動してしまいそこで絞り羽根が閉じるのをやめていたから」と説明でき、要は「絞り環連係アームの曲がりの分だけ絞り羽根が閉じきらなかった」ことになります。
今回のオーバーホールで可能な限り真っ直ぐに戻しましたが、ネジ込みのネジ山直前なのでポキッと折れるのが怖くてキッチリ真っ直ぐに戻っていません。その為に「絞り環操作で開放f値f3.5側だけが詰まっている感触」に仕上がっています。
この件、ご納得頂けないようであればご請求金額よりご納得頂ける分の金額を減額下さいませ。減額頂ける最大値は「ご請求金額まで (つまり無償扱い)」として、大変申し訳御座いませんが当方による弁償などはお受けできません。
・・申し訳御座いません!
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
当方ではヤフオク! で流行っている「抗菌剤/除菌剤による清掃」などは絶対に実施しません。これをやると薬剤に含まれている成分の一部が金属の表層面に対して酸化/腐食/錆びを促す結果に至るので、早ければ1年、遅くとも数年でポツポツと錆が表れ始めます。
詳細は厚労省の「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」が詳しく解説しています。
↑距離環を回すトルク感は当初の状態よりだいぶ「軽め」に仕上がっていますが、同様「絞り環からの連係アームが真っ直ぐできていない」分の影響で鏡筒内部絞り連動ピンの「制御アーム」との連係でやはり抵抗/負荷/摩擦を受けて「最短撮影距離位置より先の突き当て停止位置」直前辺りで僅かに重くなります。その分を加味して以下の判定チャートでは「トルクムラ」表記としていますが、言われなければ気づかないレベルなのかも知れません。
いずれにしても当初のトルクと比較すれば相当軽い操作性に仕上がっていますが、前述の問題があるので同様ご納得頂けないようであればご請求金額よりご納得頂ける分の金額を減額下さいませ。減額頂ける最大値は「ご請求金額まで (つまり無償扱い)」として、大変申し訳御座いませんが当方による弁償などはお受けできません。
・・申し訳御座いません!
↑以上2点の不都合をご判定頂きご納得頂ける分の金額を減額下さいませ。減額頂ける最大値は2点込みで「ご請求金額まで (つまり無償扱い)」として、大変申し訳御座いませんが当方による弁償などはお受けできません。
・・申し訳御座いません!
それ以外の不都合な問題は (当初バラす前に気になっていた点やバラした直後の問題点などは) 前述の2点を除いて改善できています。
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑当レンズによる最短撮影距離25cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。
冒頭解説のとおり画の四隅で相応に収差の影響が現れ流れています。しかしピント面はご覧のように相当な鋭さを持ちますし、コントの違和感なく背景含め自然な色付き具合です。
↑絞り環を回して設定絞り値「f5.6」で撮影しています。赤色の発色性が本当に美しいモデルです。
↑最小絞り値「f16」での撮影です。大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。お詫び申し上げます。このたびのオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。
引き続き次の2本目の作業に取り掛かります・・。