◎ TOKYO KOGAKU (東京光学) RE AUTO TOPCOR 58mm/f1.4 (black)《後期型》(RE/exakta)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、東京光学製
標準レンズ・・
RE AUTO TOPCOR 58mm/f1.4《後期型》black (RE/exakta)』です。


当モデルの扱いは今回がオーバーホール/修理ご依頼分も含めて累計で28本目にあたります。前回オーバーホール済でヤフオク! 出品してから1年が経ちました。光学系内の状況、特に後玉の経年劣化に伴うコーティング層白濁 (極薄いクモリ) やコーティング剥がれなどが多く、また前群内にカビが繁殖している場合もありなかなか手を出せません。そのような事情から1年に1〜2本のオーバーホール済でのヤフオク! 出品が続いている状況です。

その中で、今回出品する個体は「まるで新品同様品の如くスカッとクリアな光学系」であり、特に後玉は素晴らしい状態を維持しています。

  ●                

1963年に東京光学から発売されたフィルムカメラ「RE SUPER」用のセットレンズとして、開放f値「f1.4」及び「f1.8」2つの標準レンズがセット販売用に用意されていたようです。市場での評価も当時から高く、東京光学の交換レンズ群の中にあって銘玉中の銘玉と評されているようです。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

「前期型」

指標値環基準マーカー:
距離環ローレットの縁:有
マウント面凹み:有

「後期型」

指標値環基準マーカー:
距離環ローレットの縁:
マウント面凹み:

・・ところが、製造番号との関連付けで捉えると、さらに細かいモデル・バリエーションの展開が見えてきます。

【製造番号とモデル・バリエーションの関係】
※サンプル数50本 /オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。
※焦点距離:レンズ銘板に刻印されている表記方法の相違
※基準マーカー:指標値環に刻印されている「●」の色
※距離環ローレット:ラバー製ローレットの縁の有無
※マウント面凹み:フィルムカメラ「TOPCON R」用の窪み有無
※D以降の製造番号は変化無くサンプル取得をやめた

  1. 製造番号94xxxx」:
    焦点距離:5.8cm、基準マーカー:、距離環ローレット:縁有、マウント面凹:有
  2. 製造番号11200xx」〜「11298xx」:先頭「112」でも総桁数が1桁短い
    焦点距離:5.8cm、基準マーカー:、距離環ローレット:縁有、マウント面凹:有
    焦点距離:5.8cm、基準マーカー:、距離環ローレット:縁、マウント面凹:有
  3. 製造番号11210xxx」〜「11216xxx」:※前期型/後期型の要素が混在
    焦点距離:5.8cm、基準マーカー:、距離環ローレット:縁有、マウント面凹:有
    焦点距離:5.8cm、基準マーカー:、距離環ローレット:縁、マウント面凹:有
  4. 製造番号11217xxx」〜「11233xxx」:ここから完全な「後期型」になる
    焦点距離:58mm、基準マーカー:、距離環ローレット:縁無、マウント面凹:
  5. 製造番号9410xxxx」:
    焦点距離:58mm、基準マーカー:、距離環ローレット:縁無、マウント:NikonF

このように見ていくと「前期型」からある一時期に一斉に「後期型」に切り替わったのではなく、一部の構成パーツを変更しつつ徐々に「後期型」へと変遷していったことが判明します。同時に内部を調べていくと、例えばマウント部内部に配置されている「絞り連動レバー」機構部の仕様変更やヘリコイド内部に配置されている「直進キー」の仕様変更なども「後期型」に向けて徐々に切り替わっていきます (上記モデルバリエーションのA.〜D.全て6種類を今までにバラしてオーバーホールしているので検証済です)。
今回出品する個体は、製造番号から上記「D」の後期型に属しています。

余談ですが、2003年12月にコシナから復刻版として「RE,Auto-Topcor 58mm/f1.4 (Limited)」が限定台数で発売されました。モデル銘こそ同型としてレンズ銘板を実装していますが、実はフィルター枠径が従来の62mm径から58mm径に変わっていますし、そもそも光学系の構成が全く異なっています。

その描写性も全く異なり、いわゆるコシナの写りのモデルであり、復刻版とは謳っても「あくまでも筐体意匠を似せただけ」と言うのが本性です・・実際に、過去にオーバーホールしているので、内部の構造化から設計に至るまで全くの別モノであることを確認しています (つまり純然たるコシナ製品)。

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光学系は後群側を1枚拡張した5群7枚の拡張ダブルガウス型構成です。
右図は今回バラして光学系の清掃時にデジタルノギスで計測しほぼ正確にトレースした構成図です (各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔などを計測)。

特に第2群の裏面側の形状がネット上で案内されている構成図とは
ビミョ〜に違っていましたし (現物はご覧のように尖っている)、同様第1群 (前玉) と第2群の厚み (曲率) も現物を計測すると僅かに異なっていました (貼り合わせレンズの貼り合わせ面曲率は計測できていません)。

右は当時の輸出向け交換レンズ群カタログに印刷されていた当モデルの仕様欄です。


上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
光学系構成がダブルガウス型を基本としているので、エッジが真円で明確なシャボン玉ボケの表出が苦手です (決して出せないワケではない)。背景の円形ボケが破綻して滲んでいくのでシ〜ンによってはモフモフとした (ザワついた) 印象の背景ボケにもなりますが、ピント面のエッジは基本的に鋭く出てきて違和感を抱くような誇張感無くアウトフォーカスへと繋がっていきます。

二段目
意外にもダイナミックレンジはそれほど広くなく、特に暗部がストンと堕ちてしまうので黒潰れや白飛びが極端に現れます。解像感を欲張らずに程良く調味した印象の画に収まるのが却って魅力でしょうか。その中でも硝子の質感表現などギリギリのところで出しています (左から2枚目)。特に人物撮影がキレイで人肌の表現性に惹かれます。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。大口径の標準レンズなのでバラした構成パーツが撮影に使っている楢材のお盆に並びきりません(笑) モデルバリエーションの変遷の中で捉えると内部構造に大きな変化はありませんが、細かい構成パーツの仕様は「後期型」の特徴を現しています。

● マウント部絞り連動レバー機構部の仕様変更
● 直進キーを分離させて真鍮材に変更
● 光学系前群の締付環を真鍮材に戻している
● 絞り環の連係アームの仕様変更
● 距離環ラバー製ローレット (滑り止め) の仕様変更
● 絞りユニット内絞り羽根開閉幅の微調整を仕様変更

「前期型」からの仕様変更部分をザッと挙げると構成パーツ毎これだけ出てきます。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在します。

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。

↑鏡筒内に「絞りユニット」をセットする方式は「前期型」から変わっていません。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

すると、このモデルの「前期型」からず〜ッと踏襲し続けた「絞りユニットの固定方法」との関係で、この当時の他社光学メーカーとは異なる「絞り羽根開閉幅の微調整機構」を採り続けています。

C型固定環」は絞りユニット (正しくは位置決め環) を押さえ込んで外れないように固定する役目ですが、このモデルは鏡筒側面からイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) を使って「同時に絞り羽根の開閉幅微調整も行う」設計です。

絞り羽根の開閉幅」とは絞り羽根が絞り環操作で開閉する際の開口部 (開口部の大きさ/入射光量) を指しますが、各絞り値に見合う入射光量を確保できるよう絞り羽根の開閉角度を微調整する仕組みです。

つまり「C型固定環とイモネジの締付具合」の2つで絞り羽根の開閉角度のみならず「絞り羽根開閉時の滑らかさ」まで決まってしまいます。イモネジの締付を強くし過ぎると絞り羽根の開閉時に抵抗/負荷/摩擦が生じますし、かと言って緩すぎると絞り羽根開閉幅がズレてしまい「歪なカタチで絞り羽根が閉じていく」ことに繋がります。

他社光学メーカー (例えば当時のNikonやCanon/MINOLTAなどいろいろ) では「C型固定環」或いは「イモネジ」の一方を使うことが多く「絞り羽根の開閉幅微調整」は別の方法を採っています。

当モデルでは「絞りユニットの固定」と「絞り羽根開閉幅の微調整」を同時に行う為に、締め付けたいのに締め付けられない、或いは絞り羽根開閉を滑らかに仕上げたいのにできないというジレンマの中で微調整を進めることになり、非常に神経質な工程でありこの設計は「前期型」から延々と続いています。

実際、今回の個体も過去メンテナンス時にこの絞りユニットの微調整が適切ではなかった為、絞り羽根の開閉が一部引っ掛かる状態のまま組み上げられていました (絞り羽根は無抵抗でスルスルと駆動しなければイケナイ)。

なお、本来「前期型」ではイモネジは3箇所均等配置で用意されていましたが (つまり合計3本のイモネジ使用)、この「後期型」ではさらに1本ずつ追加して全部で「6本」に増やしていますから、如何に微調整が生産当時から厄介だったのかが判ります (合理化から踏まえれば工程数は逆に減らしたいハズなのに増やしているから/つまり必要性が高かったと言えるのではないか)。

実際に今まで数多くの個体をオーバーホールしてきて感じたのは、ハッキリ言ってメンテナンス性の良し悪しで考えると、この仕様はあまり褒められる設計ではないと言わざるを得ません (相当数の個体が過去メンテナンス時に適切に処置されていないから)。

どうして「C型固定環とイモネジの2つがあるのか?」と言う要素に関して、正しくその目的を認識して過去メンテナンスされていることが少ないとも言えます。

このモデルの設計の拙さを考えた時、この「絞りユニットの仕上げ方」が一つ目のポイントになります。

↑完成した鏡筒をひっくり返して裏側 (後玉側) 方向から撮影しました。絞り羽根開閉に関わる制御系の構成パーツがビッシリ附随します。

連係アーム
絞り環と連係して設定絞り値に見合う位置まで制御環を移動させる際のアーム

制御環 (真鍮製)
途中に「なだらかなカーブ」を持ち絞り羽根の開閉角度を決定する環 (リング/輪っか)

開閉アーム
突出棒が「なだらかなカーブ」に突き当たることで絞り羽根開閉角度が決まる

すると「なだらかなカーブ」の麓部分が最小絞り値側になり、登りつめた頂上が開放側です (グリーンの矢印)。上の写真では開閉アームの突出棒が麓位置に突き当たっているので、絞り羽根は最小絞り値まで閉じています。

一方ブルーの矢印で指し示した位置にスプリング (引張式コイルばね) が2本附随しており、互いに「絞り羽根を常時閉じようとするチカラ」と「常時開こうとするチカラ」の相反するチカラを及ぼしています。

このスプリング (引張式コイルばね) が問題で、過去メンテナンス時に故意に切削されて短くなっている場合があります。切削して短くすることで経年劣化で弱ってしまったスプリングのチカラを強くする「常套手段ですが、意外とメンテナンスする上で様々な局面で使われる方法の一つです。

経年使用でスプリングのチカラが弱っていくのは致し方ない事実なのですが、その弱った原因を一切考慮せずに安直に切削してしまう過去メンテナンスが多いのが現実です。特に当モデルの場合、前述の「絞りユニットの仕上げ方」次第で絞り羽根の開閉時に抵抗/負荷/摩擦を伴うので、そもそも前の工程の処置が適切ではなかったことに気がつかずに「スプリングを短く切削」すれば良いと考えている整備者が多いと言わざるを得ません。

もちろん今回のオーバーホールでは適切に絞りユニットをセットできているので、スプリングは現状の長さのまま使っています。

↑上の写真はヘリコイド (オスメス) と基台を並べて撮影しました。基台に対してヘリコイド (メス側) がネジ込まれて、次にヘリコイド (オス側) がネジ込まれることでヘリコイド部が完成します。

↑ところが距離環を回した時にヘリコイド (オス側) が直進動して鏡筒を繰り出したり収納したりする必要があるので、ここで先に「直進キー」と言うパーツを基台にセットします (基台は距離環やマウント部を組み付ける為のベース環)。

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

前期型」ではこの「直進キー」が環 (リング/輪っか) だったのでアルミ合金材でした。左写真は以前オーバーホールした「前期型」からの転載写真です。

すると同じ材質のアルミ合金材の環 (リング/輪っか) に垂直状にカッティングされて用意した「直進キー」が両サイドに伸びるので、この「直進キーが垂直状態を維持しなくなる」チカラが及んだ時、それがそのままトルクムラに繋がることになります (何故なら回転するチカラを直進するチカラに変換する役目だから)。

それだけのチカラ (抵抗/負荷) がこの直進キーに架かりやすいのが原理なのに、同じアルミ合金材で用意してしまったことが問題だと考えましたが「後期型」では真鍮材で用意してきました(笑)

これが当モデルに於ける拙い設計のポイント2つ目です (何故ならこの当時他社光学メーカーでは真鍮材からアルミ合金材へと構成パーツを変更している時期だから逆行した話だと考える)。

↑仮組みして撮影していますが、こんな感じで基台に対して「直進キー」がセットされてヘリコイド (オスメス) がネジ込まれます。

つまり距離環はヘリコイド (メス側) に被さって固定されるので、距離環を回す動作=ヘリコイド (メス側) を回転させていることになります。すると「直進キー」が介在することで直進するチカラに変換されてヘリコイド (オス側) が直進動するので、鏡筒が繰り出されたり収納される原理ですね。

↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑同様ヘリコイド (オス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で9箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

塗布するヘリコイドグリースの種別や粘性のみならず「直進キー」の微調整如何で距離環を回す時のトルクが変化していくので、この工程が重要になります (ここでトルクムラが出ていれば組み上げ後もトルクムラが必ず残る)。

ここがこのモデルでの拙い設計3つ目のポイントです。アルミ合金材の切削レベルが、この当時の他社光学メーカーと比較してもそれほど褒められるレベルに至っていません。それはヘリコイド (オスメス) のネジ込み位置 (噛み合わせ) をしてみればすぐに判ります。

アルミ合金材の切削レベルが厳格な光学メーカーのモデルなら、ヘリコイド (オスメス) が互いに同じ材だとしても容易にネジ込めますが当モデルの場合は噛み合わせ時に非常に神経質に配慮しながら注意深くネジ込む必要があります (ネジ山端が簡単に摩耗してしまうから)。

そんな神経質にネジ込む必要があるなど、それこそ悪く言えば一世代前の切削レベルのような話です。

↑完成したヘリコイド部に鏡筒をストンと落とし込んでから最後に「締付環」で鏡筒を締め付け固定します (グリーンの矢印)。

ここにも「前期型」からの改善が見られます。「締付環」は従来同じアルミ合金材の環 (リング/輪っか) で用意されていましたが「後期型」では真鍮製に変更しています。実は、このように薄く細い環 (リング/輪っか) をアルミ合金材で用意して締め付けに使ってしまうと、ネジ込みの際に正しくネジ山が咬んでいるのかが問題になります (噛み合わせをミスるとアルミ合金材は軟らかいので簡単に咬んでしまうから)。

それを避ける為にワザワザ真鍮材に締付環を変更してきたことが判ります。

↑ここで先に光学系前後群を組み付けてしまいます。特に前玉の突出が大きいので仮組みでフィルター枠をセットして当てキズを防いでいます。

↑基準「」マーカーが刻印されている指標値環をセットします。この時「絞り値キー」と言う「」が刻まれているパーツも同時に組み付けますが、絞り環のクリック感と絞り値の刻印が一致しなければ違和感を感じます (つまり微調整が必要な箇所)。

↑僅か⌀1mmの微細な鋼球ボールを組み込んでから絞り環をセットします。ここも当モデルで拙い設計4つ目のポイントです。

絞り環と鏡筒から飛び出ている薄く小さい「連係アーム」とを連結させる目的で2本アームが互いに噛み合う仕組みの設計ですが (左写真のグリーンの矢印で指し示したのが絞り環側の連係アーム)、互いに細く薄いので経年使用でムリなチカラで絞り環操作していたりすると、ここも簡単に曲がってしまいます (垂直を維持しなくなり変形する)。

するとアルミ合金材で用意してしまったアームなので変形を戻すにも弱ってしまう懸念があるので神経を遣います。

↑マウント部をセットします。このマウント部も純粋に被せて4本の締め付けネジで締め付け固定しているだけの簡単な設計なので、どうしてガチッと確実に位置が決まってハマる設計にしなかったのかよく分かりません。マウント部なので大きなチカラが架かる箇所だと考えるのですが、たった4本の締め付けネジだけに頼った固定方法です。

似たような固定方法でマウント部をセットする設計なのが旧東ドイツ製PENTACON、或いはもっと言えばロシアンレンズにも数多く存在します。当時のに日本の切削技術レベルからすれば、もっと確実で適切な組み込み方法の設計が執れたと考えるのですが、ここも意外だった点です (実際に4本の締め付けネジ下穴との位置ズレを8mm程の距離で位置調整できるのでこの設計に驚く次第です)。

↑距離環を仮止めしてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

この距離環の固定箇所もイモネジ (4本) による締め付け固定なので、下穴が決まっており (下穴が用意されている) テキト〜な場所で固定するとトルクムラに至ります (何故なら距離環もアルミ合金材で肉厚が薄いから容易にイモネジの締め付け強度次第で撓んでしまう)。つまりキッチリとヘリコイド (オスメス) のネジ込み位置が適正で、且つ光学系前後群の組み込みも製産時点と合致していない限り「距離環の刻印距離指標値で無限遠位置∞がズレる」と言う結末に至ります。

すると当モデルはヘリコイド (オス側) の駆動域が固定の設計なので、距離環を組み付けた位置だけをズラせば「見かけ上は距離環が無限遠位置∞でピタリと停止」しますが、実際はオーバーインフ量が多かったり、下手すれば極僅かにアンダーインフだったりする個体を、今までに何本も調整してきました。

今回の個体もバラす前の実写チェックでは、このモデルにしては「極僅かに甘いピント面 (ピントの山が甘い)」の印象だったので、今回のオーバーホールでキッチリ鋭さを戻した調整を施しています。

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ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑当方では1年間で1〜2本しかオーバーホール済でヤフオク! 出品しない、東京光学製標準レンズ『RE AUTO TOPCOR 58mm/f1.4《後期型》black (RE/exakta)』です。市場で流れている個体の中でもシルバー筐体のほうが圧倒的に多いですが、当方もblackモデルは今回が2本目なので珍しいです。

これでもかと言うくらいに完璧なオーバーホールが完了しました。なお参考の為に製造番号先頭3桁「112xxxxx」だけ消さずに残して掲載しました。

↑光学系内が驚異的で下手な謳い文句で恥ずかしいですが、本当に「まるで新品同様品」と感じるほどにスカッとクリアで限りなく透明な (もちろんLED光照射でもコーティング層の経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無) 状態を維持しているので、オドロキの個体です。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑もちろん光学系後群側も驚異的な透明度を維持しているのは同じです (LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無)。敢えて言うなら、第3群貼り合わせレンズ外周附近に極僅かなカビ除去痕が少し集中的に残っている程度なので、クモリはどう探しても全くありません。

当然ながら後玉表面に当てキズや擦りキズはありませんし、このモデルで一番多い後玉のコーティング層経年劣化に伴うコーティング層のハガレも皆無です (必ず調達時はそれに注意して入手しているから)。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:10点、目立つ点キズ:6点
後群内:16点、目立つ点キズ:10点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環操作共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じていく際の開口部は「正六角形を維持」していますし、もちろん絞り環刻印絞り値との整合性を執らせています (微調整済)。さらに絞り環操作時のクリック感も小気味良く、独特なクリック感の感触を手の指に感じながら操作できるのが嬉しいくらいです。

そういう操作感って (所有欲を満たす上で) 結構重要な話だと当方は思っているので、単なる絞り環の組み込み工程でも気を抜きません。もちろんそんな操作性に拘ったところで描写性能は変わりないので、何の価値にも価しません(笑)

ここからは鏡胴の写真ですが、経年の使用感をほとんど感じさせない大変キレイな状態を維持した個体です。当方による筐体外装に「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。もちろんフィルター枠などのクロームメッキ部分も「光沢研磨」していますし、筐体外装の大部分を占める「梨地塗装仕上げ」もそれを維持したまま「エイジング処理済」なので、すぐにサビが出たりくすんできたりしません。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度」を塗布し距離環や絞り環の操作性はとてもシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「重め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・絞り環操作も確実で小気味良く軽い操作性です。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・距離環ラバー製ローレット(滑り止め)は経年劣化から極僅かに緩みが出ていますがキッチリ貼り付けています(一部撓みあり)。

↑今回の個体は当初バラす前にチェックした時、距離環を回そうとしても動かないほど硬く、バラしたところ過去メンテナンス時にヘリコイドのネジ込み位置と「直進キー」の微調整が執られておらずトルクムラが生じており、且つ塗布されていた白色系グリースの経年劣化から粘性を帯びていました (下手すると後から潤滑油が注入されたのか?)。

さらに光学系の組み込みが不適切で、過去メンテナンス時に光学硝子レンズのコバ端着色に拘って実施したようですが、それが仇となり光路長ズレが生じていた為に「ピント面の甘さ」を感じる印象でした。面倒で仕方ありませんが再度コバ端着色を溶剤で落として塗布し直し適切な光路長確保に努めたので、組み上げ後の (オーバーホール後の) ピント面が鋭く戻りました。

しかも、驚いたことに後玉のコバ端着色時に塗料の飛沫が飛んだままにしてしまったので、後玉表面に20点以上の点状が残っていました。清掃時にその点状で引っ掛かりを感じたので (つまり突出した点) 疑問に思い (普通コーティング剥がれやCO2溶解の点キズなら出っ張らないから) よ経く観察するとコバ端着色塗料の飛沫でした(笑)

仕方なく溶剤で後玉表面を清掃するハメに陥り、ロクなことをしてくれません(笑) 当初後玉の内周まで飛び出た状態でコバ端着色塗料が塗られていたので、キッチリと表面積を確保しました。

純正の被せ式樹脂製前後キャップが附属しています。

距離環を回すトルク感は決して軽くはありませんが、そうは言っても一般的な整備済で出回る固体の場合このモデルはもっと重いトルクに至りますから (ヘリコイドネジ山のアルミ合金材切削の問題からグリースを選ぶ為)、それに比べれば断然軽い印象の仕上がりです。もちろんピント合わせ時は極軽いチカラだけで微動するので操作性は良くなっています。

このようなことからこのモデルは、生産当時の「純正グリース塗布」しか一切想定していなかった設計なのではないかと踏んでいます。もちろんそのようなオールドレンズはたくさんありますから、決して悪い話ではありませんが整備する立場からするとトルク改善が神経質で、あまり関わりたくないモデルの一つです。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

↑当レンズによる最短撮影距離45cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f2.8」で撮りました。

↑設定絞り値は「f4」に変わっています。

↑f値「f5.6」です。

↑f値「f8」になりました。

↑f値「f11」です。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。