オールドレンズが蘇るDOHのすすめ・・

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当方が実施している「オーバーホール/修理」の作業に於いて、紛らわしい要素があるのでここで解説することにしました。

DOH』とは、当方が作った造語で「Detox OverHaul」の略語です。「Detox (デトックス)」とは、人間のカラダのダイエットなどで使われている言葉のひとつですが「detoxification (解毒)」の短縮形です。ダイエットの概念では体内から毒物や毒素、老廃物を取り除くことを指しているようですが、当方のオーバーホール作業に於いては広義的な意味合いとして「毒素=経年劣化」と捉えています。ちなみに「Overhaul」は、部品の単位まで分解して清掃を施し再度実用状態まで組み上げることを指します。

実は当方は2年前の年末 (このブログを立ち上げてすぐ) に「エコノミー症候群」にかかり「肺動脈塞栓症」で緊急入院した経験があります。先日の熊本地震で被災した方々の中には、余震が収まらずに避難所などでの生活に不安を感じて車中泊を続けていらっしゃる方々も居ます。その中で「エコノミー症候群」が再びピックアップされており、血栓による肺動脈塞栓症では血管が血栓により詰まってしまうために呼吸困難に陥ります。当方の場合は肺が10%以下しか機能しておらず、辛うじて息ができていた状態だったのですぐに緊急入院となり生き存えた次第です。血管が既に弱くなっているために、現在もなおカラダの中をキレイに保つ努力を続けています・・この血栓というのが非常に厄介で、次に血栓ができて (現在もなお左脚に居ますが) カラダの中に廻ってしまった時は、脳へ行けば「脳梗塞」心臓に行けば「心筋梗塞」もちろん肺に行けば「肺動脈塞栓症」と言う具合に致死率がやはり上がってしまいます。そのような経緯からオールドレンズのオーバーホール/修理に於いても「内部からキレイにする」ことに拘る決意に至りました。

さて、当方のオーバーホール/修理に於いては「経年劣化」を取り除く処置を施しているが故に「DOH」と定義付けしています。

【経年劣化に対する処置】

  1. 磨き研磨:
    オールドレンズの内部構成パーツのほぼ全てに対して、その金属製パーツの表層面に施されたメッキ加工の「磨き研磨」を行い、表層面の「平滑性」を担保する。
  2. グリースの排除:
    必要以上のグリース塗布を避け、これから先のレンズ内に廻ってしまう「揮発油成分」を極力抑える。
  3. 筐体外装の磨き:
    外装の「磨き入れ」を施し落ち着いた美しさに仕上げることで再び大切にお使い頂けるよう配慮する。

これら3つの処置は、一般的なオールドレンズのオーバーホール作業ではほとんど実施されていない内容ばかりです。マニアの方によるオーバーホール作業はもとよりプロのカメラ店様や修理専門会社様などでも実施されていません。

(1)磨き研磨

当方で処置している「磨き研磨」は、オールドレンズ内部のヘリコイド (オスメス) だけに限って実施している処置ではありません。むしろヘリコイド以外の様々な内部構成パーツのひとつひとつに至るまでが非常に重要な役目を担っています。

 

上の写真 (2枚) は、当方が過去にオーバーホールした個体の写真から流用し掲載しています。

1枚目の写真はオールドレンズをバラした後に清掃を施し附着していたグリースなどの油分を除去した直後の写真です。既に生産されてから相応の年数が経ち金属製パーツの表層面に施されているメッキ加工は「腐食」が生じて変色していますし、中には「錆 (緑青)」が既に生じているパーツもあります。

一般的なオーバーホールなどの整備では、この状態のままで組み上げに入るワケでヘリコイド・グリースなどもこの上から塗布していくことになります。

2枚目の写真は、当方にて「磨き研磨」を処置した後に再び清掃 (2回目の清掃) を施した直後に撮影しています・・つまり1枚目の清掃の後に「磨き研磨」の工程に入ります。金属製パーツの表層面に施されたメッキ加工が平滑になり可能な限り本来の輝きに近い状態まで復元させています。当方では必ずこの状態 (磨き研磨を処置した状態) まで工程を進めてから組み上げに入っています。

「磨き研磨」は金属製パーツをキラキラとキレイに輝かせるのが目的ではありません。当初の「腐食」が進行している状態では、それぞれの金属製パーツは「黒々とした濃い茶色」に変色しています。これは金属製パーツの表層面に施されているメッキ加工が経年に於いて腐食してしまった証拠であり、結果として表層面には「必要以上の摩擦」が生じています。

この「必要以上の摩擦」が当方で最も問題視している要素です。一般的なオーバーホールではこの摩擦を解消させるために、必要外の箇所にまでグリースを塗っています・・いわゆる「グリースに頼った整備」と当方では捉えています。

逆に申し上げれば、オールドレンズが生産された当初は内部の構成パーツにはこのような「腐食」が生じていない2枚目の写真のような状態だったハズなのです。それ故に、メーカーではグリースをやたらと塗布してしまうことなどは行っていませんでしたし、実際に当方のオーバーホール/修理に於いても必要外の箇所には一切グリースを塗布していません。それで問題なく (いえむしろ最良に) 各部の連動・連係が確実にキッチリと行われ、余計な不可や抵抗も無い状態で組み上げられています。

磨き研磨」は、内部構成パーツのほぼ全てに対してその表層面のメッキ加工を平滑にする工程を指し、それは「研磨」と言えどもあくまでもメッキ部分の表層面に対してのみ処置している作業です。いわゆる (一般的に言う)「ヤスリ」に近い専用工具を使うので敢えて「研磨」と正直に表現しています。しかしこれがかえって誤解を招き誇張的な「削っている」と言う捉え方をされていらっしゃる方が多いのも事実です。

過去に当方がヤフオク! に出品したオールドレンズで、実際にはマウントアダプタとの相性の問題である不具合であったにも拘わらず、ご落札頂いたご落札者様がマウントアダプタの販売店に赴き店員に相談して「そのオールドレンズを研磨したのが良くない」と言うアドバイスを受け、最終的に当方に返品キャンセルされたことも今までに数件ありました(笑)

確かに、普通一般的なオーバーホールでは「研磨」などはしません。 それ故に「研磨」を嫌うお気持ち、或いは「研磨」に疑念を抱かれるのも至極納得できます・・(笑)

しかし「磨き研磨」を処置する目的をご理解頂ければ納得されると思います。逆にそれでもなおご納得頂けない方は、どのオーバーホール/整備会社様にご依頼されても同じレベルでの整備を期待できると思いますので、当方にはご依頼されぬよう切にお願い申し上げます。

ヘリコイド (オスメス) に関してのみ「磨き研磨無し」はお承り可能ですが、その他の全ての内部構成パーツに至るまで「磨き研磨無し」はお受けできません。ある意味「磨き研磨」は「必須条件」とお考え頂いたほうがより正しい認識となります。

「磨き研磨」の工程を終わると次の組み上げの工程では最低限のグリースしか塗布せずに済みます。結果、その後の将来的にご依頼者様がオールドレンズを使っていく中で「揮発油成分」がレンズ内に廻ってしまうことも最低限に防いでいることに繋がります。いわゆる「磨き研磨」の効能は「グリースの排除」に繋がっていくワケですね・・。

(2)グリースの排除

オールドレンズの内部でグリースを塗布したほうがよい場所は限られています。ヘリコイドのオスメス (つまりネジ山) と絞り環が接触する箇所 (特にクリック感を伴う絞り環のキー/溝部分)・・せいぜいこの2箇所です。しかし実際にオールドレンズをバラしてみるとマウント部内部や絞りユニットの周り、或いは連動系・連係系各パーツや直進キーにまでビッチリとまだ新しいグリースが塗られている状態に遭遇します。確かに「グリースに頼った整備」だとすれば致し方ない事実です。

国内海外に限らず、ほとんどの場合過去に整備されたオールドレンズには「白色系グリース」が使われていることが多いです。この白色系グリースには添加物として相応のモノが含まれているので、ヘリコイドのネジ山は削れて当初真っ白だったグリースはやがて「濃いグレー色」になっていきます。これはヘリコイドのネジ山が摩耗して削れた「摩耗粉」が混じっているからであり、ヘリコイドのトルクムラを招く原因の一つです (ネジ山が削れてしまったワケですから)。

ヘリコイド状態見本01上の写真は当方が過去に整備したオールドレンズの写真から流用し掲載しました。オールドレンズをバラした直後に清掃せずそのまま撮影しています。ヘリコイド (オス側) にビッチリと附着しているヘリコイド・グリースを撮っていますが、塗られているのは「黄褐色系グリース」であり旭光学工業の純正グリースです・・つまり生産時のままと言うことになります。今現在はRICOHに買収されPENTAXブランドだけが残っていますが、昔の旭光学工業製「Takumar」シリーズ群オールドレンズの中のひとつです。日本の光学メーカーでは当時は「黄褐色系グリース」を使っていた会社が多かったようです・・まずは上の写真の「色合い (黄褐色)」を覚えておいて下さい。

ヘリコイド状態見本02

ヘリコイド状態見本03上の写真 (2枚) も、当方が過去に整備したオールドレンズの写真から持ってきています。1枚目がバラした直後清掃する前の状態を撮ったもので、2枚目が清掃後に「磨き研磨」を処置して2回目の清掃を実施した後の撮影です。

先の「黄褐色系グリース」が塗られていたネジ山は、グリースの色合いが「黄褐色」のままでしたが、こちらのグリースは「白色系グリース」が塗布されており、既に経年でヘリコイドのネジ山が摩耗しており「摩耗粉」がビッチリと濃いグレー色になって附着しています。「白色系グリース」ですから本来のグリースの色合いはもちろん「白色」で真っ白です。上の写真のパーツでは真ん中の「黄金色 (1枚目では濃い茶色)」が真鍮製なので摩耗せずにネジ山で接触していたアルミ材削り出し側のネジ山のほうが摩耗してしまいその「摩耗粉」が真鍮製のネジ山にビッチリ附着しています。

これが「白色系グリース」で当方が問題視している要素のひとつです。グリースの中に添加物が入っておりどのようなネジ山でも必ず「均一のトルク感」で仕上がるようになっていますが、結果このようにネジ山が摩耗します。

この「摩耗粉」が含まれている状態では相応にまだ良いトルク感を維持できていますが (つまり整備する前のほうがスルスルと回るトルク感を維持している)、この古いグリースを清掃して除去してしまい代わりに「黄褐色系グリース」を塗布するとトルクムラが生じます。

  • 黄褐色系グリース:
    メリット :ヘリコイドのネジ山の摩耗がほとんど無い
    デメリット:トルク感がグリースの粘性とネジ山の状態に神経質
  • 白色系グリース:
    メリット :ネジ山の状態に拘わらず均一なトルク感
    デメリット:ヘリコイドのネジ山が摩耗する

短時間でしかも均一なトルク感に仕上げられるメリットが重宝がられ最近ではほとんどの整備会社で「白色系グリース」が使用されています。しかし当方では生産された当初の時期に使われていた「黄褐色系グリース」のほうを敢えてメインに据えています (時には白色系グリースも使っています)。

ヘリコイド・グリースに関してはこのような相違がありますが、ではどうして必要外のグリースを排除するべきなのか・・?

白色系グリースは黄褐色系グリースに比較して揮発油成分がレンズ内に廻る率が高い性質を持っています。そのレンズ内に廻ってしまった揮発油成分は、もちろん「絞り羽根の油染み」の原因にもなりますがレンズとして捉えるとたいした問題でもありません。一番問題なのは「光学系コーティング層の劣化を促す」ことです。オールドレンズ内の「光学硝子レンズ」はそう簡単に研磨してキレイにできるモノではありません。専用のガラス研磨設備が必要であり、且つ研磨した後のコーティング蒸着設備も当然ながら必要になります。

光学硝子レンズは当初生産時の諸元値からして1%未満しか削ることができません。従ってそれら設備が備わっていたとしてもおいそれと何度も研磨するワケにはいかないのです。それを考えれば「光学系コーティング層の劣化」を促してしまうような要素は排除したほうが良いことになります。

それが当方が揮発油成分を嫌う理由であり、ひいては「白色系グリース」を嫌っている理由にもなります。そして同時に必要外の箇所にまでグリースを塗ったくることは自ら「揮発油成分予備軍」を用意してあげているようなものであり、好ましくないと考えています。ましてやマウント部内部などにビッチリと塗ってしまうのは、その位置に来る絞りユニットから光学系内部に揮発油成分が入ってしまう環境を整えているようなモノです。特に絞りユニットの前後に向き出しになっている光学系前群の「裏面」と光学系後群の「表面」は無防備なままに揮発油成分にさらされ続けるコトになります・・どうして好んでそのような整備をするでしょうか?

必要外のグリースを排除したい理由・・ご理解頂いたでしょうか。

(3)筐体外装の磨き

この工程は単純にオールドレンズの外装表層面を「非常に軽く」磨いているだけです。もちろん専用工具を使っていますが表層面の塗膜を剥がしてしまわない程度で磨くことを、当方では「磨きいれ」と呼んでいます。これによってオールドレンズはとても美しく仕上がるのでご依頼頂く前の状態よりもだいぶ落ち着いた美しい仕上がりになっています。

結果、戻ってきたオールドレンズを大切に今後もお使い頂けるワケであり、それは製品寿命を長らえる一つの手段にも成り得ます。そのための「磨き入れ」であり、単にピカピカにしているワケではなくちゃんと理由があります。「磨き入れ」はシルバー鏡胴や黒色鏡胴の別なくほぼ全てのオールドレンズに対して処置しています。特にアルミ材削り出しのシルバー鏡胴などはピッカピカになって戻ってくるので、ほぼ9割以上のご依頼者様に好評を得ています。

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以上、長々と解説しましたが当方の「DOH」ご理解頂けたでしょうか・・「オールドレンズの中からキレイにする」オーバーホールです。ご賛同頂ける方のみ当方へのオーバーホール/修理ご依頼を承りますので、ご賛同頂けない方は一般的なプロのカメラ店様や修理専門会社様に是非ともご依頼下さいませ。当方にはご依頼頂かぬようくれぐれも切にお願い申し上げます