◎ Steinheil München (シュタインハイル・ミュンヘン) Culminar 135mm/f4.5 VL silver(exakta)
ギリシャのディーラより調達しましたが、アテネ空港での通関処理で書類の不備により1カ月近くも足止めされてしまい2カ月掛かってようやく届きました。ギリシャ事情もありますが元々のんびりしたお国柄です・・。
旧西ドイツの中堅光学メーカー「Steinheil München (シュタインハイル・ミュンヘン)」の中望遠レンズです。発売は1952年 (〜1955年まで製造) ですが当レンズは製造番号から1954年の生産個体と推測しています。
海外オークションでの取引価格はピンキリ状態で程度の良い個体だと「3万〜5万円」で取引されており、光学系のクモリが酷い場合や筐体にキズやハガレ、腐食などが多い個体だと「5千円〜2万円」と言った処でしょうか・・。さすがに生産されてから半世紀以上の時間を経ており、光学系の状態は既に限界値に到達しているようです。
光学系は3群4枚のテッサー型で後群 (第3群) が2枚のレンズによる「貼り合わせレンズ」になっています。本家のCarl Zeiss Jena製「Tessar 50mm/f2.8」同様バルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) が進行した個体が市場には相応に流れており、この当時のオールドレンズでは「光学系にクモリあり」と謳っていた場合は注意と覚悟が必要です。単にグリスの揮発油成分で光学系内が曇っているだけなら清掃でキレイに除去できますが、バルサム切れだと一旦接着剤 (バルサム) を剥がして再接着しない限りはどうにも改善できません。バルサムの厚みと接着レンズ双方の浮き具合、或いはそもそもの位置ズレなど、最終的な「光軸ズレ」の調整が困難なので専用設備が必要だと言うのが当方の結論であり、ネット上で解説されている手法での改善処置は当方では実施しません。
筐体は「前部」と「後部」の2つに分割され「前部」は単に「後部」にネジ込まれているだけで、バックフォーカスの関係から「後部」が必要なだけの構造です。この「前部」のネジ山径は「39mm径」なのですが、当方の「LM39マウントアダプタ」にはネジ込めませんでした。ネジ切りのスタート位置の仕様が少し異なっているような・・?! ライカベローズで使うのでしょうか、よく分かりません。
今回の個体は筐体の外観は非常にキレイな状態を維持した個体です。また光学系の状態も大変良く、唯一第3群のコーティング劣化が僅かに進んで非常に薄いクモリが生じている程度なので、このページの最後にも実写を掲載していますが影響はほぼ現れていません。と言うのも、このモデルは元々ハロが発生し易いオールドレンズなので (光学系は初期のモノコーティングです) どんなに光学系の状態が良くてもそれを「味」として、或いは「魅力」として捉えるほうが、このモデルの良さを惹き出せ楽しいと思います。
オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載しています。
すべて解体したパーツの全景写真です。
部品点数はやはり少な目です。ほとんどがヘリコイドと外筒だけの構成ですから・・実際にバラしたパーツを使って組み上げていきます。
構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリスの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。
まずは絞りユニットや光学系前群を収納する鏡筒です。このモデルのヘリコイド (オス側) は独立しており、鏡胴「後部」になりますから別に存在しています。
写真では大柄な鏡筒に見えますが実際はそうでもなく、絞り羽根の枚数が16枚と多いのでそんな印象を受けます。
16枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。とてもキレイな「円形絞り」でほぼ真円に近い状態まで閉じます。上の写真は最小絞り値「f32」の状態です。
絞り環をセットします。絞り環はネジ込みで組み付けますが止まる位置が無いのでビミョーな位置合わせが必要です。
前玉の状態です。前群の状態は非常によい状態を維持しているので一見するとキレイなのですが、一部にカビ除去痕としてのコーティングハガレとコーティングスポットがあります。
上の写真 (2枚) は1枚目が大きな (7mm大) コーティングスポットとその左下の小さなコーティングスポットを撮影しています。2枚目はコーティングムラ状に見えているカビ除去痕です。
この個体には当時のオールドレンズに多い「気泡」がレンズの硝子材に含まれています。当時のメーカーではレンズの硝子材が規定の高温を一定時間維持した証と考え、そのまま「正常品」として出荷していたようです。上の写真では微細すぎて「気泡:4点」が微かにしか写っていません。
【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内18点、目立つ点キズ6点
後群内:5点、目立つ点キズ2点
コーティング経年劣化:前後群あり
カビ除去痕:あり、カビ:なし
ヘアラインキズ:第2群に5mm長の極微細な薄いヘアラインキズ1本あります。
・その他:前玉に7mm大のコーティングスポットと1mm程度の微細なコーティングスポットが各1点ずつと中玉に極微細な「気泡」が4点あります。後玉はLED光の照射で浮き上がるレベルのコーティングの劣化による非常に薄いクモリが生じています。
・光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れ、クモリもありますが後玉の状態の影響を受けシーンによってはハロが多少多目に出現するかも知れません。普通の写真撮影では懸念材料は全くありません。
後群です。コーティング劣化に拠る非常に薄いクモリが出ており光に反射させると浮き上がります。
上の写真 (2枚) は極微細な点キズを拡大撮影しています。1枚目の写真では「真っ白なクモリ状」に見えていますが、これは光の反射で誇張的に撮れているだけで、実際の現物では透明度は高いレベル (LED光照射でようやくクモリが確認できるレベル) です。
光学系の状態を撮影した写真は、そのキズなどの状態を分かり易くご覧頂くために、すべて光に反射させてワザと誇張的に撮影しています。実際の現物を順光目視すると、これらすべてのキズはなかなか容易には発見できないレベルです。
絞り環の指標値環をセットして、これで鏡胴「前部」の組み上げが完成しました。上の写真で下部のネジ山が少し写っていますが、ネット上の解説ではそのまま「前部」をLM39マウントアダプタに装着して「近接撮影にも使える」と紹介していますが誤りです。当方所有のLM39マウントアダプタにネジ込めませんでした。同じ39mm径でも、そもそもネジ山のピッチが異なり仕様も違います (山型ではなく平型ネジ山です)。
ここからは鏡胴「後部」の組み上げに移ります。「後部」は至って簡易な構造化です。単にヘリコイド (オスメス) を組み付けて距離環とマウント部をセットすれば完成です。
指標値環 (ヘリコイド:メス側) にヘリコイド (オス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で12箇所のネジ込み位置があるのでここをミスると無限遠が正しく出ません (合焦しません)。
マウント部もネジ込み式なのですがビミョーな位置調整 (カメラマウントやマウントアダプタにネジ込んだ際の指標値位置のズレ) ができるようイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本で調整ができるようになっています。当方所有マウントアダプタ (exaktaレンズ用) にて既に位置調整は完了していますが、もしもお手持ちのマウントアダプタと合致しなければここで調整して下さい。
距離環を組み付けて、この後鏡胴「前部」をセットすれば完成間近です。
ここからは組み上げが完成した出品商品の写真になります。
16枚もの絞り羽根が装備されており、ほぼ「真円」に近いレベルの「円形絞り」になり、とても美しい「リングボケ (玉ボケ)」が楽しめ嬉しいですね・・。
ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感をほとんど感じさせないほどの大変キレイな状態を維持した個体です。
海外オークションで現在も出品されている個体では、光学系も含めてこのようなレベルだと4万〜5万の価格帯が付いています。
【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。距離環のトルク感は滑らかに感じほぼ均一ですが、極僅かな負荷を感じる箇所があります。「グリス溜まり」なので操作しているうちに改善されます(グリス溜まりの位置は多少移動します)。ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応中古品)
距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
この中望遠レンズは国土の狭い日本では需要が薄いのかも知れませんが、海外では135mmはどのモデルでも相応に高値取引が常です。
とても状態の良い「Steinheil München Culminar 135mm/f4.5 VL (exakta)」を、キッチリと整備も完了しオーバーホール済で出品致します。
特にこのモデルでは未整備の個体ですとヘリコイドが非常に重い (硬い) 個体が多いのですが、それはグリス切れやグリスの経年劣化に拠る固着化により、上の写真のような「長い距離のネジ山」のヘリコイドを回さなければならず、整備済であることは非常に操作性が高くなりありがたいハズ・・と思っているのですが(笑)
当レンズによる最短撮影距離1.5m附近での開放実写です。ハロが僅かに出ていますが後玉のコーティング劣化 (LED光照射で浮かび上がる薄いクモリ) の影響は皆無です。テッサー型光学系らしい鋭いピント面を構成しつつもギラギラした感じにはならずに落ち着いた画造りです。色乗りも程良く、コッテリ系ではないのですが、かと言って低コントラストに振れてしまうワケでもありません。ネット上で褒められている通りの優しいボケ味が堪りませんね・・Steinheilの写り、如何でしょうか?
なお、このモデル「Culminarシリーズ」は海外での値幅レンジが広すぎ、且つ長めの焦点距離ではいくら整備しても日本ではあまり需要がないのかも知れないので、今後の取り扱いは致しません。当方での扱いはこれが「最初で最後」になりますので、関心のある方は是非ともご検討下さいませ。
と言うか、過日の「Bonotar 105mm/f4.5 V」や「Picon 135mm/f3.5」で懲りてしまいました(笑) トロトロのボケ味ながらも、いわゆるクセ玉や幾通りものボケ味を魅力と感じる方は少ないのだと判断し、今後この類のオールドレンズには手を出さないよう決めました・・(笑) オールドレンズの「味」として捉えればとてもオモシロイと考えたのですが・・浅はかでしたねぇ。