◎ Revue (レビュー) AUTO REVUENON 55mm/f1.4《中期型:富岡光学製》(M42)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧西ドイツのRevue製標準レンズ『AUTO REVUENON 55mm/f1.4《富岡光学製:中期型》(M42)』です。

「Revue (レビュー)」と言うブランド銘は旧西ドイツのバイエルン州フュルトで1927年に創業した通信販売専門商社「Quelle (クェレ)」の写真機材部門が発行していた100ページ以上に及ぶ写真専門誌「Foto-Quelle」にて、オリジナル・ブランド銘として使われていたようです。フィルムカメラや交換用レンズ、或いはアクセサリなど多数を販売していました。Quelleはすべての商品を自社開発せずにOEM生産に頼った商品戦略を執っており、オールドレンズに関しては当時の日本製レンズや韓国製、或いはドイツ製などで製品群を揃えていたようです。

今回オーバーホール済で出品するモデルの原型は、レンズ銘板に「TOMIOKA」銘を附随する「AUTO REVUENON 55mm/f1.4 TOMIOKA (M42)」になりますから、まさしく正真正銘の富岡光学製と言えますが、バリエーションで捉えると「中期型」に属します。

【モデルバリエーション】
※各期のバリエーション分けは外観による判定ではなく内部構造の相違を基にしています。

rv5514%e5%af%8c%e5%b2%a1前期型:AUTO REVUENON 55mm/f1.4 TOMIOKA

レンズ銘板に富岡光学銘が刻まれているので間違いなく富岡光学製です。距離環にはエンボス加工を施したラバー製ローレットが貼られています。後に生産されたモデルのレンズ銘板からは「TOMIOKA」銘が省かれています。

rv5514%e9%87%91%e5%b1%9eしかし、不思議なことに距離環のローレットが金属製のモデルが存在しています。レンズ銘板には「TOMIOKA」銘はありません。製造番号から捉えてもレンズ銘板に「TOMIOKA」銘を刻印していた個体より後の生産品にあたるワケですが金属製のローレットにしているのが不思議です。


rv5514%e3%83%a9%e3%83%8f%e3%82%99%e3%83%bc中期型:他にも距離環にラバー製ローレット (滑り止め) を配したモデルが存在しています。この筐体デザインは同じく旧東ドイツの「PORST」に供給されていたモデルと全く同一の意匠でPORSTでは「COLOR REFLEX」銘をレンズ銘板に刻んでいました。



rv5514ds%e4%bc%bc今回出品するモデルです。これはまさしくYASHICA製「AUTO YASHINON-DS」と瓜二つです。やはりラバー製ローレットを距離環に配しています。

rv5514%e5%be%8c%e6%9c%9f後期型:左の写真は過去に整備した個体の写真から転用していますが光学系がモノコーティングであることがお分かり頂けると思います。


rv551409261同一のモデルですが、光学系にマルチコーティングが施されているのがお分かりでしょうか?

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今回は立て続けに4本の富岡光学製OEMモデルをオーバーホール済でヤフオク! に出品する、『今一度輝け! 富岡55mm/f1.4』企画です(笑) 企画の目的は、富岡光学製OEMモデルの特に焦点距離「55mm/f1.4」に関して、富岡光学製オールドレンズとしての妥協のない最高の描写性能がギュッと凝縮されているにも拘わらず、ヤフオク! での評価 (落札価格) が低迷していることにガツンと活を入れる目的です (なので強気の即決価格)。
確かに開放F値「f1.2」のモデルのほうが過去から現在に至るまで「銘玉」と揶揄されているのは事実だと考えますが、当方の評価は逆で・・「f1.2」モデルは被写界深度が狭すぎて撮影時には相当難儀します。むしろ開放F値「f1.4」のほうが、富岡光学製オールドレンズとしての使い易さと最高の描写性能の堪能を両立させる要素が備わっていると受け取っているからです。

↑上の写真の4本はすべて同じ焦点距離「55mm/f1.4」であり、左から順に新世代のモデルバリエーション (構造/設計が異なる) へと変遷しています。

  1. SEARS製:AUTO SEARS 55mm/f1.4 (M42)【前期型】
  2. Revue製:AUTO REVUENON 55mm/f1.4 (M42)【中期型】
  3. CHINON製:AUTO CHINON MULTI-COATED 55mm/f1.4 (M42)【後期型】
  4. PORST製:COLOR REFLEX MC AUTO 55mm/f1.4 G (M42)【後期型】

4本全てを完全解体でオーバーホールしましたから、内部の構造など富岡光学製であることの「証」をご確認頂きつつ、実写の相違なども見据えて是非ともご検討願えれば・・と意気揚々と作業に臨んだのですが、アッと言う間に後悔です(笑) 肝心なことをスッカリ忘れたまま企画してしまいました。富岡光学製オールドレンズの内部構成パーツを調整するのが、如何に神経質で大変なのかと言うことをオーバーホール工程の中でイヤと言うほどに思い知らされた次第です (もぅ当分の間触りたくない見たくない状態です)・・従って、また1年くらいしてほとぼりが冷めた頃なら触ってもいいかな?(笑)

なお、これらのモデルが富岡光学製であると言う「証」の源は、過去にオーバーホールしたCHINON製『AUTO CHINON 55mm/f1.4 TOMIOKA (M42)』を証拠として当方では把握しています。レンズ銘板に『TOMIOKA』銘が刻印されていた頃の個体ですから、これは疑いようがない事実だと思うのですが、どう言うワケか当方が拘ると反論する方が多いのが現実だったりします(笑)

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光学系は5群7枚のダブルガウス型から発展し、後群成分を拡張してきた描写性能をギリギリまで追求した設計 (ビオター/クセノン型) を採っています。その描写性も、まさに「富岡光学製」であることを見てとれます。
エッジの繊細なピント面と共に背景のボケ味が大変滑らかな階調で破綻していく様が素晴らしいのですが、円形ボケは口径食の影響から真円には到達せず歪です。しかし、動物毛の写真なら富岡光学製オールドレンズ以外考えられないと感じるほどに超リアルな存在感を漂わせているのは、被写体の材質感や素材感を余すことなく写し込む質感表現能力に優れ、背景のボケ味と相まり空気感や距離感までも感じさせる立体的な画造り、そして何よりも現場の雰囲気や緊迫感など閉じ込めたままの1枚を残せると言う豊富な臨場感が何物にも代え難い富岡光学製オールドレンズとしての特徴ではないでしょうか・・少なくとも当方は好きです。

このモデルの実写をFlickriverで検索してみましたので、興味がある方はご覧下さいませ。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。今回の企画で出品する富岡光学製OEMモデルの中で、この出品個体は「中期型」に位置しているため、後期型のCHINON製とPORST製に関しては後に設計生産されたモデルであることから内部構造は異なります。しかし、前期型に入っているSEARS製とはほぼ同じ内部構造と設計です。もちろん、筐体外装のデザインが異なりますが、この中期型では前期型に於ける生産/組み立て時の調整を僅かに改善させてきた痕跡が伺えます (さすがの富岡光学も改善の必要ありと考えたのでしょう)。

具体的には、各部位の調整はそのまま残っているのですが、再調整に際して完全にバラさずとも部位ごとに再調整ができるよう「組み立て手順の見直し」が成されたようです (つまり一部構成パーツの再設計が施されている)。従って、前期型に入っていた今回企画で出品しているSEARS製モデルとは、根本的に組み立て手順が異なっています。このことは外環からは分かりにくいことですが、唯一違いを外観から調べるとすれば、距離環を回して最短撮影距離の位置まで鏡筒を繰り出した時に、フィルター枠の外側にイモネジ (3本) で締め付けられているのが露出していたら、それは「中期型の設計」と言う判定になり得ます (前期型の設計では露出しないから)。この事実は、他のブランド銘で生産出荷されていた当時の富岡光学製OEMモデルでも「前期型と中期型の見分け方」として、そのまま活用できます。なお、後期型のモデルに関しては、そもそも光学系がマルチコーティング化されているので分かり易いですね (同様フィルター枠外回りにイモネジは露出している)。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在します。

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。上の写真で一番手前側に写っている環 (リング/輪っか) は、絞りユニットの「メクラ環」になり、刺さっている6枚の絞り羽根が脱落しないように覆う役目ですが、実はこの「メクラ環」は鏡筒の外側からイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本を使って締め付け固定されています。このイモネジの締め付けを最後まで締めすぎてしまうと、絞り羽根の開閉異常を来します (メクラ環が絞り羽根を押さえ込んでしまい摩擦で絞り羽根の開閉に支障を来すから)。

このことは「メクラ環」をよ〜く観察すれば自ずと明白になるのですが、過去メンテナンス時には気がつかずに締め付け過ぎてしまい、結果絞り羽根の開閉異常に陥りますから別の箇所をイジることで改善させていたりします。ひとことに「絞り羽根の開閉が緩慢」などと言っても、オールドレンズ内部の状況がどのようになっているのかはバラさなければ判明しませんね。

この当時の富岡光学製オールドレンズで、一番最初に「調整が神経質必要な箇所」が、先ずはこの「メクラ環」の調整になりますが、バラしてみると意外にも正しく調整されている個体は少なかったりします (適正な確率70%程度)。

↑距離環やマウント部を組み付けるための基台です。上の写真で解説していますが、前期型で採用されていた「制限キーの位置調整機能」が省かれています (ネジ穴が1箇所しか用意されていないから)。詳細は、SEARS製のオーバーホール工程をご覧頂ければ同じ部位の写真を載せて解説しています (調整用のネジ穴が複数用意されていた)。

このことは何を意味しているのか? 制限キーの固定位置調整機能を省くことだけが目的だったのではなく、そもそも組み立て手順を見直したかったから結果的に制限キーの固定位置調整機能も省いてきたことが判ります。その「証」になっているのが、実は距離環の固定方法を設計変更してきたことから判明します。

前期型のモデルでは、距離環の固定はフィルター枠をセットしてから (つまり鏡筒を固定してから) でなければできませんでした。ところが、そのような組み立て手順として設計してしまうと、鏡筒の位置調整で絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) を行っている関係上、絞り羽根の開閉調整を実施するたびに都度バラさなければイケマセン。SEARS製モデルのオーバーホール工程に於いても、その調整が最後の最後で面倒だったワケです (何故ならば、光学系まで組み込んで実写しなければ絞り羽根の開閉幅/ボケ量のチェックはできないから)。富岡光学でも、生産時の組み立てで製品検査をする上で、その工程にムダがあることを痛感したのでしょう(笑) 逆に言えば、設計段階では生産工程に於ける合理化やコスト削減 (これは材料費ではなくて最も即効性が高いのは人件費の削減/つまり工程の見直しです) まで考え尽くされていなかったことの証でもあります。当方がこの当時の富岡光学に対して「意味不明の設計をしている会社」とレッテルを貼っているのは、取りも直さずこの点を指摘してのことです。そのような会社体質が長く続いたが故に経営難に追い込まれ、ついには1968年にヤシカの傘下に入り、すぐ後にはそのヤシカさえも倒産の危機に瀕し京セラに買収されてしまいました (富岡光学は京セラグループ会社として社名を変え現存しています/ヤシカは商標権を除いて消滅しました)。

オールドレンズ・・内部の構造化や構成パーツの相違などに注目しながら「観察と考察」を続けることで、様々なバリエーションの中での立ち位置や、何を於いても当時の知られざる背景まで垣間見えてくるから奥が深いです・・ロマンを汲み取れる存在というのは、今ドキのデジタルなレンズでは味わえない醍醐味があると考えます。

↑上の写真は真鍮製のヘリコイド (メス側) になりますが、用意されているネジ山は基台用とヘリコイド用の2種類が切削されています。

このことから判る事実があります。一つは当時の富岡光学では、まだ同じ金属材 (つまりアルミ合金材) でのヘリコイド (オスメス) でネジ山を高精度に切削してくる工業技術に到達していなかったことが判ります。アルミ合金材の基台と、同じくアルミ合金材のヘリコイド (オス側) の間に、ワザワザ真鍮製のヘリコイド (メス側) を挟み込んでいたのは、同一の金属材によるネジ山の「カジリ付 (同質金属材同士が摩擦などで咬んで固着してしまう現象)」に対応できていなかったからです。もちろん、他社光学メーカーでも同じように真鍮材をアルミ合金材の間に挟んでヘリコイド (オスメス) を設計していましたから、当時の日本工業技術として同質金属材によるネジ山切削では、まだまだ研究改善の余地が残されていた時代と言えるのではないでしょうか。

二つ目の要素は、光学系の光路長の関係からワザとヘリコイド (メス側) を二段でネジ山切削 (設計) していたことが判ります。一段のネジ山にして環 (リング/輪っか) の内外でネジ山切削してしまえばヘリコイド (メス側) 自体の厚み (結果的に光路長) を減じられます。これは逆に考えると、光学硝子材の成分も含めてコストを掛けたくなかったと言う裏の考え方が伺えることに気がつきます。光学硝子材の成分に拘り曲率を改善させるなどの設計を施せば、結果的に光路長も短くなってくるので製品としての筐体サイズ自体もコンパクト化へと進みます。しかし、そこまでお金を掛けてコンパクト化に拘る必要性を感じていなかった・・つまりはそう言う時代の製品であることが、このようなヘリコイドの材質の相違などからも見えてくるのです。後の時代になると、何処の光学メーカーも利益率の改善に迫られてくるので、製品筐体サイズのコンパクト化と同時に、工程削減を含めた合理化によるコスト管理に目を光らせるようになり、富岡光学と言えども買収後でさえも経営難から必要に迫られ内部構造の合理化が相当進みます・・それが「後期型」と言えますね。

↑真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑ヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑こちらはマウント部内部の写真ですが、既に当方による「磨き研磨」が終わった状態で撮っています (錆びている部分が僅かに残っています)。当初バラした時点では内部に経年劣化で濃いグレー状になってしまった白色系グリースがビッチリ塗られていました。最も問題なのが、その不必要なグリースのおかげで大切な「捻りバネ」にサビが生じていた事実です。この捻りバネが弱ってしまうと途端に絞り羽根の開閉が適正ではなくなり、大抵の場合「絞り羽根の動きが緩慢」と言う現象に至ります。「絞り羽根の油染み」が原因だと言われることが多いのですが、実際の原因箇所はこのマウント部内部だったりします (しかも過去メンテナンス時に塗られていたグリースが原因)。

↑取り外していた各連動系・連係系パーツも個別に「磨き研磨」を施し組み付けます。上の写真の解説のとおり、マウント面の「絞り連動ピン」が押し込まれると、それに連動して「絞り連動ピン連係アーム」が動き、結果的にグリーンの矢印のように「爪」が動いて絞り羽根の開閉をコントロールしていますから、ここで使われている「捻りバネ」が弱ると「爪」の移動範囲が減ってしまい「設定絞り値まで絞り羽根が閉じない」現象に至るワケです。

従って、ここまでの解説で「絞り羽根の油染み/絞り羽根の動きが緩慢」などの現象が生じる原因箇所が複数あることがご理解頂けたでしょうか? 絞り羽根自体の問題だけではなく、その他にも鏡筒裏側のスプリングや、マウント部内部の状況次第では絞り羽根清掃だけでは改善できない場合がある・・と言う話です。

↑完成したマウント部を基台にセットしてしまいます。この時点で「前期型モデル」とは既に組み立て手順が異なっています。

↑前期型の頃のモデルでは、先に鏡筒を組み込んでフィルター枠で固定しなければ距離環の組付けまで進みませんでしたが、今回の個体である「中期型」では工程管理が見直されていることが、ここで判明します。

↑再びひっくり返して、基準「Ι」マーカーが刻印されている指標値環を組み付けます。

↑絞り環をセットしますが、上の写真解説のとおり、やはり前期型同様「絞り値キー (溝)」が同じように用意されています。各絞り値に見合う箇所に溝が用意されており、ここに鋼球ボールがカチカチと填り込むことで絞り環のクリック感を実現している仕組みです。

↑マウント面の「梨地仕上の飾り環」を3本のイモネジで締め付け固定しますが、問題なのはこの「飾り環」の内部に「鋼球ボール+スプリング」がセットされている点です。どうして問題なのか (調整が神経質なのか) と言うと、この「飾り環」を固定する位置をミスると、途端に絞り環を回した時のクリック感が絞り環に刻印されている絞り値と一致しなくなります・・それはそうですョ。鋼球ボールの位置がズレてしまうのですから、本来クリックするべき箇所がズレていることになります。

単に絞り環を回した時のクリック感がズレているだけなら、まだ何とか我慢できますが、実は絞り環と前出の「絞り連動ピン連係アーム」は互いに連係しています。つまり、鋼球ボールの位置がズレることで結果的に絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) 自体が適正ではなくなってしまう問題を引き起こします。事は単なるクリック感の違和感に留まらない大問題に繋がっていくワケです・・過去メンテナンス時の「飾り環」固定位置が適正ではなかった場合、絞り羽根に対して数十年もの間必要外の「チカラ」が及んでいたことになり、それは逆に言えば鏡筒裏側のスプリングやマウント部内部の「捻りバネ」にも少なからず影響が出てきます (つまり弱まってしまう)。

たかがマウント面の「飾り環」如きに、このような重要な役目を担わせてしまった富岡光学の設計の拙さが罪深いと言わざるを得ません。何故ならば、他社光学メーカーでは絞り環の「絞り値キー (溝)」はマウント部の外壁側に向かって (つまり絞り環の内側に) 用意されているのが一般的であり、鋼球ボール+スプリングはマウント部側に埋め込まれています。従って、鋼球ボールの位置が整備の都度ズレてしまう懸念が一切ありません。

この「飾り環の固定位置調整」が富岡光学製オールドレンズで最も重要な調整箇所であり、同時に「意味不明なマズイ設計」と言わざるを得ません。ちなみに、後の1970年代〜1980年代辺りになると、さすがの富岡光学も設計の拙さに気がついたのか(笑)、この意味不明な鋼球ボールの位置は改善されて他社光学メーカーと同じ設計に変わっています。なお、この当時のオールドレンズで「富岡光学製である証」として外観上最も容易に判定できるのが、この「飾り環をイモネジ3本で締め付け固定している」方式です。飾り環をネジ込む方式の固定方法を採っている光学メーカーは他社にもありますが、ワザワザイモネジ3本を使って締め付け固定させている (鋼球ボール+スプリングが組み込まれているから) 方式を採っていた会社は富岡光学以外存在しません。

例えば、絞り環を回した際のクリック感が「感じないほど軽すぎる」場合は、この「飾り環」の締め付け固定位置自体が上下方向でズレていますし、逆に「クリック感が硬い」場合などは飾り環を締め付けているイモネジを強く締めすぎていたりします。つまり「飾り環の固定位置」は上下左右方向で調整が必要なのであり、全く以て厄介な意味不明な設計です (いつもながら頭に来ますね) 。

↑最後に自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) 用の「ツマミ」をセットできます。前期型の頃のモデルでは最後にこのツマミを組み付けることができない設計になっていました (つまり工程管理が改善されている証拠の一つです)。と言うのも、前期型の頃のモデルでは途中の工程でツマミを組み付ける必要があったので、絞り環や指標値環などをセットする際にこのツマミが当たってしまい邪魔になるからです (絞り環や指標値環の組み付け時にコツが必要になる意味不明な設計)。当時の富岡光学でも、この点を改善する必要性を感じていた証でもありますね(笑)

↑最後に光学系前後群を鏡筒に組み付けてから、鏡筒をヘリコイド (オス側) に落とし込んで無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (それぞれ解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

 

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑他社ブランド銘で生産され輸出されていたモデルと同一の筐体デザインですから、市場には様々なソックリさん (異なるブランド銘) が数多く出回っていますが、距離環のラバー製ローレット (滑り止め) だけは意匠を替えていることが多いようです。

↑光学系内の透明度が高い個体なのですが、残念ながら固着が酷くて外せなかったので光学系後群の第4群だけは経年の微細な塵/埃の清掃ができていませんから残ったままです (第4群の固定環は非常に薄いのでムリにカニ目レンチにチカラを加えると硝子面にキズを付けかねず諦めました)。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全て写りませんでした。

↑光学系後群も透明度は非常に高い状態を維持しています。後玉中心付近に当てキズらしきモノが1点ありますが、第4群の清掃できていない塵/埃も含めて実写には光源の有無や逆光撮影など一切影響しません。後玉に縞模様状に写っている数本のスジは、撮影時のミニスタジオの写り込みですから現物にはありません。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。ほとんどの極微細な点キズのように見えている部分が第4群に集中していますが固定環が外せないので改善できません (クレーム頂いても処置のしようがありません)。

↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:11点、目立つ点キズ:6点
後群内:20点以上、目立つ点キズ:20点以上
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:あり
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):皆無
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが実際はカビ除去痕としての極微細な点キズです (清掃しても除去できません)。特に後群内は極微細な点キズが少々多めです。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
・いずれもすべて写真への影響はありませんでした。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感を僅かに感じられる個体です。当方による「磨きいれ」を筐体外装に施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。

なお、当方では筐体外装の「磨きいれ」と言っても、何でもかんでも光沢のある状態には仕上げません・・あくまでも「オリジナルの状態に戻す」ための磨きいれですから、マットなブラック (つまり艶消し) の筐体外装は、そのままを維持させた状態で仕上げています (マットプラックが光沢感のあるブラックになるのは経年でマット感が消失してしまった黒光りか、磨きすぎて表層面のメッキ塗色を剥がしてしまった場合、或いは筐体外装に光沢剤を塗布して故意にピカピカにしている場合だけです)。もちろんシルバー鏡胴モデルは、地のアルミ合金材が剥き出しになるまで (つまり金属質が出てしまうまで) 研磨しませんし、光沢感には違和感を感じないレベルで留めています。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:軽め」を塗布しています。距離環や絞り環の操作はとても滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「普通」で滑らかに感じトルクは全域に渡り「ほぼ均一」です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・距離環を回していると擦れる感触を感じる箇所がありますが内部パーツが擦れる感触ですので改善はできません (クレーム対象としません)。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑距離環のラバー製ローレット (滑り止め) の状態が良いので、まだシットリ感が残っており上の写真のとおり埃が付着してしまいます(笑) 距離環を回す際のトルク感をもう少し均一に調整できれば良かったのですが、如何せん神経質な設計なので (直進キーとヘリコイドとの関係を指します) これ以上改善できませんでした。こちらの個体では距離環のトルク調整で8回も組み直しをしたので、クレーム頂いてもトルク改善の再整備は致しません (つまりクレーム対象としません)。ご勘弁下さいませ。

↑当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。

↑絞り環を回して設定絞り値を「f2」にセットして撮影した写真です。

↑さらに絞り環を回してF値「f2.8」で撮りました。

↑F値は「f4」に変わっています。

↑F値「f5.6」で撮りました。

↑F値「f8」です。

↑F値「f11」で撮りました。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。