◎ WEIST FOTO AB (ヴァイスト・フォトAB) AUTO WEISTAR 55mm/f1.7《前期型:富岡光学製》(M42)

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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。

今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、スウェーデンは
WEIST FOTO AB社製標準レンズ・・・・、
AUTO WEISTAR 55mm/f1.7《前期型:富岡光学製》(M42)』
です。


  ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ!    Слава Україні!  Героям слава!  

上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。

Slava UkrainieieGeroyam Slava

年明け早々昨年末からの転居でもぉ〜家の中は荷物でごった返しているにもかかわらず、何と家族全員5人が揃いに揃ってインフルエンザでブッ倒れ、完璧に5人で寝正月でした・・(笑) 特に当方は掛かり付けの医師にも幾度となく担当医が変わったにもかかわらず、確か4人交替したと思いますが皆「風邪ひいたら肺炎になるから絶対ダメだョ!」と代わる代わる念押しされていたのに、よりによって39度まで高熱のインフルエンザとはあまりにもお粗末な話・・(笑) 情けないのを通り越して迎えるどんな結果も身から出たサビ/運命ととっくに観念していましたが、何とか回復しました。今まで住んでいたアパートがどんだけ汚かったのかとさんざん娘達に苦言を謂れ、しまいには汚いから変な菌まで持ってくると何だかお門違いな濡れ衣を着せられひたすらに小さくなって養生していました(笑)

今回オーバーホール済でヤフオク! 出品する個体は当方がオーバーホール作業を始めた11年前からの累計で当時CHINONが供給した標準レンズAUTO CHINON 55mm/f1.7 (M42)」を筆頭とする括りで捉えると累計で39本目にあたりますが、今回扱った個体「前期型」の中で
、且つレンズ銘板に刻印されている「WEISTAR銘」だけでカウントすると初めての扱いです。

・・と言うか、そもそもスウェーデン向けにこのモデルが供給されていた事実を全く知りませんでした。その意味でこのような個体を市場に流して頂いた出品者様に対してとても感謝しています (ありがとう御座います!)。

このモデルのレンズ銘板を見た時に刻印されている「AUTO WEISTAR銘」から「WEISTAR (ヴァイスター)」が一つのヒントになりますが、ネット上を検索してもなかなか具体的な背景がヒットしません。

また当時様々なオールドレンズのモデル銘で「◉◉◉ター」とか「◉◉◉ゴン」或いは「◉◉◉トール」などのモデル名称が附随している事がとても多いので、今回の個体のモデル銘を調査する際参考にしたのは「WEIST (ヴァイスト)」です。

ちなみにネット上で唯一詳細がヒットするサイトでは「WEISTをウェイストと表現」していますが、Google翻訳でチェックするとちゃんと「ドイツ語」と示され、且つまさしく正しいドイツ語発音でモデル銘を聞く事も適います。

調査が進むとこのオールドレンズを当時供給していた会社はスウェーデンの輸入商社だった事が判明しますが、然しスウェーデンとなればwikiを紐解いた時2009年以降正式な公用語はスウェーデン語です。スウェーデンはスカンディナビア半島に位置する立憲君主制国家で、西にノルウェー、東にフィンランド、そして南にデンマークと隣接国と国境を分かち合い、且つバルト海も含め今問題になっているロシアと国境を接するバルト三国やポーランドも合わせて接している国です。従って隣接国の国民とは基本的な会話程度なら互いの公用語でも意思疎通が叶うと言う歴史的背景も既に整っており、なかなか便利な土地柄です。

するとその公用語がドイツ語ではないのにどうして敢えてドイツ語をモデル銘としてきたのでしょうか? 先ず最初の疑問はそのような内容でした。当方は基本的に性格が天の邪鬼なので他のサイトならアッと言う間にフィルムカメラや当時の写真機業界の状況などに話が進むものの、当方はその一歩〜二歩手前で納得しないと先に進めません(笑)

・・ある意味当方が執るオーバーホール工程の弊害とでも言いましょうか(涙)

もっと指摘するなら第二次世界大戦の時期に於いてスウェーデンは隣接国フィンランド/ノルウェー/デンマークなど当時のナチスドイツが侵攻していった中でスカンディナビア半島に於ける唯一の中立を守り抜いた国でもありますから (侵略されていない)、いくら戦後だとしても隣接国の国民感情や自国内含め「ドイツ語表記のモデル銘採用」には少なからず抵抗感が憑き纏うように勝手に考えてしまいます。ましてや当時は隣接国同様にスウェーデン人のパルチザン組織も活躍を極め、その犠牲者の数たるや想いを馳せればス〜ッとドイツ語表記を受け入れるのかとの疑念が頭を過ります。

そんな複雑な想いを他所に現実面ではこのスウェーデンの輸入商社の創始者名がなかなかヒットしません。もちろん唯一の詳細を究めていたサイトにちゃんと記載があるのですが、ここでも当方の天の邪鬼が顔を出し「どうして今回の商品を供給した輸入商社が当時スウェーデン国内で唯一の大手輸入商社だったのか?」と、再び高い高い壁にブチ当たりました(笑)

ようやく調べまくって手に入れた情報によると創始者自身がドイツ人だった事が判明しました。ドイツ人の戦争写真家だった「Friedrich Weist (フリードリッヒ・ヴァイスト:1885年〜1956年11月22日享年71歳)」は1921年にスウェーデンのストックホルムでLeonar-Werk (レオナー・ヴァーク) を創設しますが、1943年には有限会社として登記し「A.B. Fritz Weist & Co. (フリッツ・ヴァイスト有限会社)」と名を改め、さらに翌年1944年には写真機材関係を専門に扱う子会社「ABFotomekano (ABフォトメカノ)」を立ち上げ、蛇腹式のウェストレベル写真機や引き伸ばし機に印画紙乾燥機などを手掛け、修理サービス部門まで用意したらしいです。

これでようやく今回扱ったモデル銘に「ドイツ語を当てた」理由が何となく理解できやっと次の段階へ調査を進められます(笑)

ちなみに探索に難儀した最大のポイントは「ドイツ人男性名の愛称」なのか、或いはまさに本名なのかの点について今まで誰一人着目していなかった事が相当情報の少なさを招きました。当時も今も「ドイツ人男性名Friedrich愛称Fritz」からそもそも自身の会社で扱った様々な商品群に「本名ではなく愛称を当てたからこそFrizt Weistシリーズに落ち着いた」のがその真相だった事が当時のスウェーデン人記者の記事を読んで分かりました (1953年発刊写真業界年刊誌より)。何度も指摘しますが「Fritz Weist (フリッツヴァイスト)」です (ウェイストではなくモデル銘もウェイスターでもありません)。

また当初創設した一番最初の会社は登記しておらず「Leonar-Werk」は和訳するとどちらかと言えば「町中の個人工房」的なニュアンスが強いようです。従って1943年にようやく有限会社登記した「A.B. Fritz Weist & Co.」が対外的には自身の最初の会社組織だった事が分かります。

なおスウェーデンでは日本で言う処の「株式会社 (有限会社も含む)」を「Aktiebolag (クチエラグ)」とスウェーデン語で表記するので、さすがに登記上本体名をドイツ語表記するにせよ登記時にも対外的にも「略したABが必ず附随する」事も掴みました(笑)

長々と解説してきたのにここまでの内容はあくまでも「創始者の特定」にすぎません (スミマセン!)(汗)

ここからは「どうしてこの会社がスウェーデンで最大手の写真機材輸入商社に育ったのか?」との当方の疑問をさらに追求していきます。

そもそも創始者Friedrich Weist氏が他界されたのが1956年ですから、今回扱ったオールドレンズは設計すらスタートしていません(笑) 従って創始者を失ったあとにどのような経緯で会社が引き継がれてきたのか迄、踏み込んで調査を進めなければ日本のCHINONとの繋がりに至らないのですが、そこには相当複雑な当時の紆余曲折が隠れていました。

《当時のスウェーデン国内に於ける写真業界大手企業の変遷》
・1921年Friedrich Weist氏によりLeonar-Werk創設。
・1943年A.B. Frits Weist & Co.登記。
・1943年国内の別組織体/合弁会社「FNS Foto AB」が創設。
※ Friedrich Weist氏死去 (1956年) 新CEOとしてArne Stendahl氏就任。
・1965年A.B. Fritz Weist & Co. が合弁会社「FNS Foto AB」に吸収し消滅・・※1
・1965年A.B. Fritz Weist & Co.の輸入関係部門が独立「FNS WIESTAB」創設。
・1967年 (4月)A.B. Fritz Weist & Co. が「Weist Foto AB」に改名・・※1
・1968年FNS Foto ABが「Weist Foto AB」に吸収され輸入商社として本格活動開始。
・1976年経営難から再び会社分離 → FNS Foto AB1979年10月破産。
・「Weist Foto AB」マネージャーだった
Magnus Derbäck氏創設のシネ業界機材の会社も
2009年倒産。
・同じくWeist Foto AB」スタッフだったStig Swärd氏がスウェーデン大手映画供給会社
創設するも2008年6月に破産。

・・とこんな感じで何だかに似たような会社名が乱立していて相当複雑でした(泣)

さらに厄介だったのが現在のネット上で紹介されているサイトに「FNS Foto AB」だけが案内されている点です。確かに後に創始者Friedrich Weist氏が登記したA.B. Fritz Weist & Co. がこの「FNS Foto AB」に吸収合併されるので正しいのですが、そもそもこの会社の冒頭に配されている「FNS・・って何???」とまた天の邪鬼な性格が出てしまったのが仇となりました(笑)

・・バカは死ななきゃ直りませんが、死ぬ前にいろいろ調べたい!

詰まるところ当初の「FNS Foto AB」には創始者Friedrich Wiest氏は一切関係せず、自身が他会後に吸収されたにすぎません。するとこの「FNSが相当な重き」を持つ話に至り、且つその調査から「2000年代に至るまでスウェーデン最大の写真機材関係輸入商社だった」背景にブチ当たりました。

1943年当時に既にスウェーデン国内の写真機卸売り協会が国の関与の基創設されていて (特にそれ以降の軍事的重要性から国が関与) その初代会長にAnders Forsner氏が就いており、長年その役職を勤め上げると同時に自身の写真機材商社「Forsner AB (1884年創設)」が活躍していました。さらに同じくスウェーデン国内で協会に所属していた貴族を始祖とするNerlien家の写真機材小売店(網)「Nerlien AB (1900年創設)」と共に写真機材商社だった「Stölten & Simmonsen AB (1884年創設)」のこの3社が合弁して開設した会社が「FNS Foto AB」であり当時はスウェーデン最大規模を誇っていたようです。「FNSはそれら3つの会社の頭文字をとったにすぎない」次第です(笑)

つまり今回扱ったオールドレンズのレンズ銘板に刻印されていた「AUTO WEISTAR銘」のWeistは、そもそも創始者他界後に後の時代にWeist Foto AB」に吸収されていったからこそ、その当時にCHINONが発売していたフィルムカメラ「CHINON CX (1974年発売)」のOEMモデルとして供給されたという繋がりに到達しました。

逆に指摘するなら当時流行っていたカタログ通販の専門誌が月刊でA.B. Fritz Weist & Co. から発刊されていたので、モデル銘には打ってつけだったのが「WEIST」なのかも知れないとの憶測まで生じますが、そのような背景もあながち無視できません (このページの冒頭のロゴはその当時のカタログ通販誌から引用)。

↑上の写真はまさにその当時1970年代辺りから流通していたフィルムカメラを並べていますが、左側1枚目が「左から2枚目のCHINON CXを原型とするOEM輸出機」であり「WEIST SL-35」です。一方その後に登場した3枚目のフィルムカメラは同じくOEMモデルとしても日本のペトリカメラ製「PETRI FTX (一番右端)」を原型とするもシャッターボタンの位置が変更されています。

結局「AUTO WEISTAR 55mm/f1.7 (M42)」の「WEISTAR銘」を継承した理由は明確になりませんでしたが、そもそも紆余曲折を経て全く関係ない会社だったにせよ「Weist Foto AB」が最後まで残ってしまったからこそモデル銘に受け継がれていたとも受け取れそうです(笑)

当時1960年代〜1980年代と日本の光学メーカーがアッと言う間にヨーロッパ圏を蹂躙していった際、先に他界してしまった創始者Friedrich Wiest氏はその経緯を知った時、いったいどのように感じるのか自身の名前が附随している点だけでも是非ともお話を伺いたい気持ちに駆られました・・(笑)

・・オールドレンズはロマンです!!!(笑)

なお上記時系列でのスウェーデン国内写真関係企業の羅列の中で「※1」で囲っている時系列年でいつの間にか登場していた「Weist Foto AB」がいったい何時どのような経緯で創設されたのかを現す具体的な内容/記事をついに掴むことができませんでした。特に1965年にA.B. Fritz Weist & Co. が合弁会社「FNS Foto AB」に吸収され消滅しているハズなのに、すぐ後の1967年にA.B. Fritz Weist & Co. が「Weist Foto AB」に社名変更したとの記事も発見しましたが、だとすると一度吸収消滅したはずの会社が社名変更では情報が錯綜している印象を拭えませんし、もっと言うなら会社規模としても格付としても不釣り合いなので1967年のA.B. Fritz Weist & Co. が「Weist Foto AB」に社名変更はその信憑性が低いと受け取れます。

やはり時系列年での流れの中で辻褄が合わず正確なところは相変わらず不明瞭なままですし、そのように注釈を附したとしても「どうして本人が既に居ないのに相も変わらずWEIST銘にそれほどまで固執し続けたのか?」との疑問に対する答えもとうとう見出せず仕舞いです。戦中
〜戦後からいきなり登場したドイツ人名にどうして当時のスウェーデン人は頑なにこだわり続けたのでしょうか。

今回このようにレンズ銘板の刻印「AUTO WEISTAR銘」から遡るように調べていったことで一つだけ確かなモノを掴んだように受け取れたのは (当方自身の中でちゃんと消化できたのは)日本国内で1974年にCHINONから発売された一眼レフ (フィルム) カメラCHINON CX」とそのセット用標準レンズが丸ごとOEM供給されたタイミングからみて、合わせてレンズ銘板に刻印されたモデル銘たる「WIESTAR銘」との繋がりを意識しても某所で解説されているスウェーデンの合弁会社「FNS Foto AB」を経由していたとは考えられず、その当時に経由したスウェーデンの会社は「Weist Foto AB」だったハズ・・「FNS Foto AB」は1968年に吸収されている・・という関係性からどうにかスッキリできたような感じです(笑)

ちなみにもう一つのOEMモデルとしてご紹介したペトリカメラ製「Petri FTX」のOEMタイプも時期的に1973年〜1976年辺りなので、やはり1968年に吸収消滅したFNS Foto AB」経由で流されたとの説には頷けそうにもありません。

さらにひいて補強材料を挙げるなら、最後まで存続していた会社はWeist Foto AB」だったハズで、だからこそそこから人材が派生して他業界へと進出しますがいずれも2000年代に倒産している事実も掴んでいます。

いずれにせよ日本国内では1968年に富岡光学が最大の顧客先だったヤシカに吸収され、そのヤシカさえも経営難に喘ぐ中1974年にはドイツCONTAXの新たな潮流を手に入れて光明を得たかと思いきや、1983年には倒産してしまい富岡光学だけが京セラグループ会社一員として存続をみて (京セラオプテック)、然しついに2018年にはそのいにしえの長き歴史にも終止符を打つ運命を辿り、母体の京セラ本体に完全統合され単なる光学部品事業部としての位置付けとなり消えていきました (沿革はこちらを参照)。

・・オールドレンズはやはりロマンですね・・ウゥッ!(涙)

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↑上の写真はFlickriverで、このオールドレンズのモデル銘でヒットしないのでCHINON製モデル銘での特徴的な実写をピックアップしてみました。
ピックアップした理由は撮影者/投稿者の撮影スキルの高さをリスペクトしているからです
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています/上記掲載写真はその引用で
転載ではありません。

一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して円形ボケを経て玉ボケへと変化していく様をピックアップしています。そもそも光学系構成が5群6枚のウルトロン型構成なので真円のシャボン玉ボケを維持させる事が難しいようです。口径食や収差の影響からすぐに歪なカタチへと変化してしまいますが、リングボケを経た先の玉ボケの表現性は意外と素直だったりします。

二段目
何しろ富岡光学製オールドレンズの場合、ピント面のエッジは限りなく繊細で細いのでアウトフォーカスから外れるとすぐに滲み始めてしまいます。滲み始めても収差の影響を受けるのでご覧のようにザワザワとした背景ボケへと変化しますが、意外とやはり素直な印象で違和感や誇張感を感じずにそのままトッロトロボケへと落ち着いてしまいます。

その意味で富岡光学製オールドレンズはピント面のエッジ表現のインパクトに対して背景ボケの変化が相応に愉しめるのも魅力だったりします。

三段目
この段では鋭いピント面を維持しつつも被写体の発色性についてピックアップしています。何しろエッジが繊細なピント面をキッチリ維持してくれるのでご覧のように被写体の素材感や材質感まで写し込む質感表現能力の高さが富岡光学製オールドレンズの一つの武器です。さらに当時は「富岡光学の紅色」とまで評されたようなので、特に朱色の表現性など生々しい印象を保ちます (神社の鳥居など絶妙な朱色を表現します)。

四段目
この段ではダイナミックレンジを確認しており、明暗部の粘りや明部のグラデーション能力、或いは暗部の黒潰れ耐性などまで見られるととても参考になります。ダイナミックレンジが相応に広めなので暗部の黒潰れもギリギリまで手壊死の意で居るように感じますし、一方明部はグラデーションの階調がとても豊かで平坦に堕ちずリアル感や立体感をちゃんと維持してくれます。いつも思うのですが特に動物毛などの表現性で富岡光学製オールドレンズをチェックするとその生々しさがダイレクトに伝わるので、こんな1974年に設計されたオールドレンズの写りとはまるで想い至りません (ほぼ半世紀前の光学設計です)。

五段目
さらにピント面の被写体の質感表現能力の一環として、今度は羽毛 (1枚目) や麻のカーテン (2枚目) 或いは錆びきった鉄 (3枚目) に白黒写真などなかなかな対処能力を見出せます。特に秀でている話ではありませんが富岡光学製オールドレンズ達に共通項的に備わる安心感はこの廉価版モデルすらちゃんと示してくれているように印象を受けます。

六段目
標準レンズで人物画像でこれだけ違和感なくリアルに写せるのもたいしたものだと思います。下手なポートレートレンズよりも使い出があるかも知れません。開放f値が「f1.7」なので特に指摘する方が明るいオールドレンズではありませんが、然し被写界深度はご覧のとおり「薄く狭く」ですし、背景のボケ具合ともバランスが良いのがさすがです。光源撮影では逆光耐性が特に良いワケではありませんが、かと言って使えないレベルでもなくなかなか頑張っていると思います。

光学系は5群6枚のウルトロン型構成ですが右図は今回のオーバーホール時に完全解体した際、取り出した光学系光学硝子レンズを1枚ずつ逐一デジタルノギスを使って計測しトレースした構成図です。

計測した結果「100%CHINON製モデルと同一の設計」である事を確認できました。また今回はーバーホール工程で完全解体した後の組み立て工程をこのページでご紹介しませんが、内部構造からその設計に使われているパーツ類や様々なネジ類に至るまで「何から何まで100%完璧に同一」であり、コーティング層蒸着レベルも同一なのを確認しました。

・・その意味で単にレンズ銘板をすげ替えただけ!

との結論に到達しました。

なおOEM原型モデルたる「AUTO CHINON 55mm/f1.7《前期型:富岡光学製》(M42)」ですが「前期型」以降に距離環のGutta Percha (グッタペルカ/ガタパーチャ) の凹凸がある革模様を模した合皮革 (決して本革ではありません/元家具屋なので違いを知ってます) からラバー製ローレット (滑り止め) へと変遷したタイプが大きく2種類顕在し「中期型/後期型」が存在します (つまりここまでは光学系の蒸着コーティング層はモノコーティングの複層膜タイプ)。

さらにその後マルチコーティング化が進みレンズ銘板に「CHINON MULTI COATED」或いは最終モデル「CHINON MULTI COATED」と変遷します。詳しくはAUTO CHINON 55mm/f1.7《前期型:富岡光学製》(M42)」のページをご参照下さいませ。

↑完全解体した時の内部構成パーツ全景写真です。オーバーホール工程やこのモデルの当時の背景など詳しい解説はAUTO CHINON 55mm/f1.7《前期型:富岡光学製》(M42)」のページをご参照下さいませ。

ここまで掲載したオーバーホール工程の写真は「全て過去扱い品/個体からの転載」です。オーバーホール済でヤフオク! 出品する際の個体写真とは一部に一致しない場合があります。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑完璧なオーバーホールが終わりました。冒頭からの解説のとおり結果的には「単に1974年発売のCHINON製モデルのレンズ銘板をすげ替えただけのOEM輸出商品」でしかありませんが、そうは言ってもまたずいぶんと寒い地域にまで輸出していたものだと、特に当方にとっては当時スウェーデンまでこのモデルの戦力圏だった事に少なからずオドロキを感じた次第で、このような個体をご出品頂いた前オーナー様のおかげで知る機会を得た事に今さらながらに感謝しています。

またひいて言うならこの当時会社存続の機会を得た富岡光学としては新たに京セラグループ構成の一員となったがこそ、もはや後先考えずにひたすらに稼ぐ事が至上命題だった事が容易に推察でき、当方自身もかつて勤めていた家電小売店業界の中で勤務先の電気店が子会社化に遭い、その憂き目の中で働く社員がいったいどんな心持ちだったのかを身を以て知るにつけ、なかなか単なる歴史の一ページとパラパラとめくるだけには済ませられない、何とも複雑な想いが心の中に漂います。

なお別にこのスウェーデン向け輸出個体にこだわらず、数多く市場流通しているCHINON製の個体でもレンズ銘板以外は全く同じですからどれを手に入れても良いのでしょうが、実は近年「富岡光学製オールドレンズの光学系の劣化進行が問題になってきている」ので、特にカビの発生やコーティング層の経年劣化に伴う極薄いクモリの状況などはなかなか神経質に成らざるを得ません。

特にこのモデルに限った話ではなく、或いはカビの発生状況に至っては特に富岡光学製オールドレンズには多いので、レンズ銘板のモデル銘云々は別にしても「光学系の状態が良い個体を見つけたら即ポチっとな」がお探しの方には幸せに近づく第一歩です・・ご参考まで(笑)

《当初バラす前のチェック時に気になっていた内容》
鏡胴に極僅かなガタつきを明確に感じ取れる (前オーナーの指摘無し)。
距離環を回していくと特定の箇所で抵抗/負荷/摩擦が僅かに増大 (同様指摘無し)。
 光学系内の拭きキズなどは経年並の印象 (前オーナーも指摘)。
距離環ローレット (滑り止め) グッタペルカに経年劣化 (前オーナーの指摘無し)。
最小絞り値側で「f11〜f16」で絞り羽根が閉じない (前オーナーの指摘無し)。

《バラした後に新たに確認できた内容》
 締付ネジの箇所に青緑色固着剤が使われている。
白色系グリースが塗布されている (と合わせ近年整備実施との判定に至る)。
距離環を本締めで確実に締付固定していない (すぐに締付ネジが緩むレベル)。
 その一方で一部締付ネジの締め付け作業を機械締めで仕上げている。

・・とこんな感じです。当初バラす前の状況として鏡胴に微かなガタつきが感じられ、このオールドレンズを手に取ると「何となくガチャガチャした印象」が拭えないような状態でした。これは「言われなければ気づかないレベル」とは言い難く、むしろ明確にガタつきを感じるので下手すればクレームにもなり兼ねない話です。

バラしてみるとその因果関係が一発で明白になってしまいましたが(笑)、何の事は無くトルクが重くなるのをごまかす為に「距離環の締め付け固定を軽めに仕上げていた」ので微かなガタつきが起きていました。

これは一般的な整備会社などの整備者がよく執る「ごまかしの整備」の一つで、距離環をヘリコイド (メス側) に強く締めつけると/本締めするとその応力が働きトルクが重く堕ちるのを軽く締め付ける事で防ぐ手法です。

そのクセ、別の場所の締付ネジは機械締めしており手でドライバーを回して外すにも気合いを入れる必要があるほどに硬締め状態でした。やはりこのような機械締めについても、使っている金属材や締付ネジ種などとの兼ね合いで適切な締め付け強度を考察しなければダメなのですが、そんなのお構いなし状態です(笑)

結果、ヘリコイド (オスメス) に余計なチカラが及んでしまいトルクが重くなる要因を与えていましたが、過去メンテナンス時の整備者がその因果関係に全く気づいていないので距離環の締付固定のところでごまかして辻褄合わせしていた感じです(笑)

意外にも多いのですが「皿頭ネジ」の箇所を機械締めする過去メンテナンス時の整備者がとても多く、そもそもどうして「皿頭ネジ」を使って締め付け固定する設計なのかを全く以て無視状態です(笑)

従ってそんな箇所を機械締めするので必要以上に硬締めされてしまう事で金属材が撓んでしまい、その影響をウケまくッて距離環を回すトルクに悪影響を及ぼします。

さらに今度はそのヘリコイド (オスメス) に「白色系グリース」塗りまくりなので多少の抵抗/負荷/摩擦が相殺されるのを良い事に仕上げるので、結局早い時期に揮発油成分が廻り始めて結果的に光学系コーティング層の寿命をさらに縮めてくれます。

何の為に整備するのか・・ではなくて、単に高く売りたいが為に整備しているだけ・・なので、個体の製品寿命など全く気にしていません(涙)

過去メンテナンス時の整備者の不所為であって、あくまでも前オーナーの知る由もない領域の話ですが、然しそうは言ってもバラしてしまえば何もかもこのようにバレバレです(笑)

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。前後玉には経年相応に微細な拭きキズが残っていますが写真には全く影響を及ぼしません。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑光学系後群側も透明度が高くLED光照射で極薄いクモリが皆無です。後玉の拭きキズなどは経年相応レベルですが、同様写真には影響しません。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:18点、目立つ点キズ:11点
後群内:20点以上、目立つ点キズ:18点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
(前後玉に微かな点状カビ除去痕が複数あり)
・ヘアラインキズ:あり(前後群内僅か)
(前後群内に極微細な薄い最大4mm長数本あり)
・バルサム切れ:なし (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
(前後玉に点状カビ除去痕複数残っています)
(前後玉に極微細な経年の拭きキズ数箇所あり)
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・光学系内は透明度が非常に高いレベルです。
(LED光照射で確認しても極薄いクモリが皆無)
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。
※神経質な人を考慮して瑕疵内容は少々誇張的にワザと表現しています(以下同様)。
※光学系内の点キズなどのカウント数はオーバーホール工程の中で個別に各群の光学硝子レンズ清掃時にカウントしている為、鏡筒に組み込み後の見え方はまた変わります/光学系構成により多少が変化します。

↑6枚の絞り羽根もキレイになりA/M切替スイッチや絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正六角形を維持」したまま閉じていきます。

問題点として指摘した「f11〜f16で絞り羽根が閉じない」問題も適切な微調整を施したのでちゃんと絞り羽根が最小絞り値「f16」まで閉じきってくれます。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

当方ではヤフオク! で流行っている「抗菌剤/除菌剤による清掃」などは絶対に実施しません。これをやると薬剤に含まれている成分の一部が金属の表層面に対して酸化/腐食/錆びを促す結果に至るので、早ければ1年、遅くとも数年でポツポツと錆が表れ始めます。

詳細は厚労省の「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」が詳しく解説しています。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度+軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感で距離環を回す時のトルクの印象は「普通」人により「重め」に感じ「全域に渡りほぼ均一」です。
距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が指に伝わります(神経質な人には擦れ感強め)。
・距離環を回していくと「1m〜∞」間で僅かに重めのトルク感に変化しますが経年劣化に伴う金属材の問題なので改善できません(クレーム対象としません)。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。

今回のオーバーホール済でのヤフオク! 出品に際しセットした附属品の一覧です。

《今回のヤフオク! 出品に際し附属するもの》
marumi製MC-UVフィルター (新品)
本体『AUTO WEISTAR 55mm/f1.7《前期型:富岡光学製》(M42)』
汎用樹脂製ネジ込み式M42後キャップ (新品)
汎用樹脂製スナップ式前キャップ (新品)

距離環のローレット (滑り止め) は「凹凸エンボス加工の合皮革仕上げ」ですが既に経年劣化進行に伴い僅かに伸びきっていたので、一旦剥がしてから古い接着剤を完全除去した上で適切な長さに詰めて再貼り付けしています。

距離環を回した時のトルク感は特に「1m〜∞の間で極僅かに重めのトルク感に変化する」印象が残りますが、これは前述のガタつきの影響から金属材が既に摩耗してしまった分の因果関係なので改善不可能です (従って事前告知済なのでクレーム対象としません)。

絞り羽根の開閉動作は前述のとおり適切な微調整を再び行ったので確実に最小絞り値「f16」まで閉じるようになりました。この挙動は「A/Mスイッチの状態に左右されず」いずれの設定でもちゃんと正しく駆動します。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑上の写真は過去に扱った別個体からの転載写真ですが、ご覧のように「後玉が0.6mm突出」するので、特に距離環を無限遠位置「∞」のまま下向きに不用意に置いたりすると後玉に当てキズを付けかねませんからご留意下さいませ。

↑当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f2.8」で撮りました。

↑f値は「f4」に上がっています。

↑f値「f5.6」での撮影です。

↑f値「f8」です。

↑f値「f11」での撮影です。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。絞り羽根は既に閉じきっている状況ですが、ご覧のようにこの期に及んでも「回折現象」の影響を感じ取れません。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。

焦点移動
光学硝子レンズの設計や硝子材に於ける収差、特に球面収差の影響によりピント面の合焦位置から絞り値の変動 (絞り値の増大) に従い位置がズレていく事を指す。