◎ CHINON (チノン) AUTO CHINON MULTI-COATED 55mm/f1.4《後期型:富岡光学製》(M42)
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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、チノン製標準レンズ『AUTO CHINON MULTI-COATED 55mm/f1.4《富岡光学製:後期型》(M42)』です。
開放F値「f1.4」のチノン製標準レンズは、市場ではそれほど多く見かけませんし、特に今回のマルチコーティングのタイプはさらに少なめでしょうか。
ヤフオク! などを見ていると「チノン製=富岡光学製」の如く謳って出品しているのを時々見かけますが、すべてのチノン製オールドレンズが必ずしも富岡光学製OEMモデルとは限りません。しかし、今回のモデルに関しては純然たる「富岡光学製OEMモデル」ですので、その根拠なども交えて以下のオールドレンズ工程の中で解説していきたいと思います。
さらに、先日オーバーホール済で出品したargus製標準レンズ「Auto-Cintar 55mm/f1.7 (M42)」と今回のモデルは、メーカーや焦点距離は異なるものの、実は内部の構造からして「兄弟レンズ」になります。今回のオーバーホールでは如何に同一なのかが明確になるよう、ワザと同じ工程の進め方で写真を撮影しましたので比較できるようにしてあります。
【モデルバリエーション】
※オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。
前期型:1972年発売
レンズ銘板:TOMIOKA銘刻印あり/無も有り
距離環ローレット:エンボス加工/幅広
銀枠飾り環:有
コーティング:モノコーティング
コーティング層光彩:アンバーパープル
中期型:1976年発売
レンズ銘板:TOMIOKA銘刻印なし
距離環ローレット:幾何学模様ラバー製/幅広
銀枠飾り環:有
コーティング:マルチコーティング
コーティング層光彩:グリーン含む3色
後期型:1977年発売
レンズ銘板:TOMIOKA銘刻印なし
距離環ローレット:幾何学模様/薄型ラバー製
銀枠飾り環:有
コーティング:マルチコーティング
コーティング層光彩:グリーン含む3色
光学系のコーティング層が放つ光彩に関しては、上の写真では「中期型」が少々分かりにくいですがライトブルーです。一方今回出品するモデル「後期型」ではグリーンになっています。
そもそも「前期型」モデルがレンズ銘板に「TOMIOKA」銘を配しているので間違いなく富岡光学製OEMモデルと言えるのですが、それ以降の「中期型〜後期型」に関してはネット上でも富岡光学製なのか否か意見が分かれています。
ところが、富岡光学は1968年には経営難からヤシカ傘下に吸収合併され、その後ヤシカ共々やはり経営難から1983年には京セラに吸収されています。その時代背景を踏まえると「前期型」が発売された1972年時点では、既にヤシカ傘下での生産と言うことになります。従って「中期型〜後期型」に於いても、そのままヤシカ傘下で生産/開発を続けていたと見て良いのではないでしょうか?
しかし、当方が「富岡光学製」だと断言しているのは、時代背景や筐体の類似性ではなく、バラした上での内部の構造から結論しています。それは、他社光学メーカーが、自社生産設備に都合の良い設計とせず、ワザワザ富岡光学製モデルと同じ設計に似せてコストを掛けてまで設計する目的と意味がみえないからです。その辺を覆せる新たな要素をご案内頂かない限り、内部の構造化から構成パーツに至る設計思想の類似性 (一部パーツは同一) は、偏に「富岡光学製」と判断するに足ると考えています (とは言っても、やはり信じてもらえないようですが)(笑)
なお、「前期型〜後期型」すべてに於いて、マウント側に位置する「飾り環」の固定方法は、当初より「イモネジ (3本)」による締め付け固定で同一のままです。ちなみに「飾り環」は自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) 機構部のカバーのような役目であり、「イモネジ」はネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種を指します。薄い厚みの「飾り環」をイモネジ (3本) で固定している日本製オールドレンズは、富岡光学製のモデルを除いては存在していません・・当方が最も注目している富岡光学製の根拠「証」は、まさしくこの点になります。
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今回は立て続けに4本の富岡光学製OEMモデルをオーバーホール済でヤフオク! に出品する、『今一度輝け! 富岡55mm/f1.4』企画です(笑) 企画の目的は、富岡光学製OEMモデルの特に焦点距離「55mm/f1.4」に関して、富岡光学製オールドレンズとしての妥協のない最高の描写性能がギュッと凝縮されているにも拘わらず、ヤフオク! での評価 (落札価格) が低迷していることにガツンと活を入れる目的です (なので強気の即決価格)。
確かに開放F値「f1.2」のモデルのほうが過去から現在に至るまで「銘玉」と揶揄されているのは事実だと考えますが、当方の評価は逆で・・「f1.2」モデルは被写界深度が狭すぎて撮影時には相当難儀します。むしろ開放F値「f1.4」のほうが、富岡光学製オールドレンズとしての使い易さと最高の描写性能の堪能を両立させる要素が備わっていると受け取っているからです。
↑上の写真の4本はすべて同じ焦点距離「55mm/f1.4」であり、左から順に新世代のモデルバリエーション (構造/設計が異なる) へと変遷しています。
- SEARS製:AUTO SEARS 55mm/f1.4 (M42)【前期型】
- Revue製:AUTO REVUENON 55mm/f1.4 (M42)【中期型】
- CHINON製:AUTO CHINON MULTI-COATED 55mm/f1.4 (M42)【後期型】
- PORST製:COLOR REFLEX MC AUTO 55mm/f1.4 G (M42)【後期型】
4本全てを完全解体でオーバーホールしましたから、内部の構造など富岡光学製であることの「証」をご確認頂きつつ、実写の相違なども見据えて是非ともご検討願えれば・・と意気揚々と作業に臨んだのですが、アッと言う間に後悔です(笑) 肝心なことをスッカリ忘れたまま企画してしまいました。富岡光学製オールドレンズの内部構成パーツを調整するのが、如何に神経質で大変なのかと言うことをオーバーホール工程の中でイヤと言うほどに思い知らされた次第です (もぅ当分の間触りたくない見たくない状態です)・・従って、また1年くらいしてほとぼりが冷めた頃なら触ってもいいかな?(笑)
なお、これらのモデルが富岡光学製であると言う「証」の源は、過去にオーバーホールしたCHINON製『AUTO CHINON 55mm/f1.4 TOMIOKA (M42)』を証拠として当方では把握しています。レンズ銘板に『TOMIOKA』銘が刻印されていた頃の個体ですから、これは疑いようがない事実だと思うのですが、どう言うワケか当方が拘ると反論する方が多いのが現実だったりします(笑)
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光学系は5群7枚のダブルガウス型から発展し、後群成分を拡張してきた描写性能をギリギリまで追求した設計 (ビオター/クセノン型) を採っています。その描写性も、まさに「富岡光学製」であることを見てとれます。
エッジの繊細なピント面と共に背景のボケ味が大変滑らかな階調で破綻していく様が素晴らしいのですが、円形ボケは口径食の影響から真円には到達せず歪です。しかし、動物毛の写真なら富岡光学製オールドレンズ以外考えられないと感じるほどに超リアルな存在感を漂わせているのは、被写体の材質感や素材感を余すことなく写し込む質感表現能力に優れ、背景のボケ味と相まり空気感や距離感までも感じさせる立体的な画造り、そして何よりも現場の雰囲気や緊迫感など閉じ込めたままの1枚を残せると言う豊富な臨場感が何物にも代え難い富岡光学製オールドレンズとしての特徴ではないでしょうか・・少なくとも当方は好きです。
このモデルの実写をFlickriverで検索してみましたので、興味がある方はご覧下さいませ。
なお、実際のオーバーホール工程の際には光学系の各群の設計が前期型〜中期型モデルと比較してビミョ〜に変わっているのではないかと感じたのですが、ネット上でよくやっているデジタルノギスの金属製ゲージ部分を硝子面に当ててまでサイズを測ったりする勇気がありません(笑) 従って、マルチコーティング化に伴い光学系も再設計が施されていたであろうことは容易に推察できるのですが、上の構成図はそのままにしてあります。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。前期型〜中期型までのモデルと比較すると内部の構成パーツ全てに渡って再設計してきたことが判ります (つまり同一の構成パーツがほぼ皆無)。オモシロイと感じたのは「絞り羽根のカタチ」でした・・何と前期型を遡る初期型の頃のカタチに戻してきており「三日月型」を復活させていました。これは、逆に考えると光学系内に入ってきた入射光量の制御をする上で必要性が生じた再設計と考えられ、詰まるところマルチコーティング化に伴うより厳密な入射光量制御が必須になったのだと推察しています。
今回オーバーホールしていて、組み上げ最後の実写確認で感じたのですが、前期型〜中期型のモデルに対して後期型では実写時のピント面先鋭化が明確に感じ取れました。感覚的な部分の話なので、今回のようなモデルバリエーションを跨いで立て続けにオーバーホールする機会がない限り、なかなかチェックできません。このことは、以前ロシアンレンズのオーバーホールをしていた際に調べた、GOI光学研究所によるオールドレンズ各モデルの光学諸元値をまとめていて気がつきました。初期のモノコーティング時代のモデルよりも後期のマルチコーティング化されたモデルのほうが、諸収差の改善は基より解像度の大幅な向上がその実測数値からして諸元値に明示されていたのです。
・・と言うことは、自ずとオールドレンズを選択する際に、初期型や前期型の頃のモデルが良いのか、或いは後の後期型のモデルをチョイスするほうが良いのかの「判断基準」として大きな意味合いを含むのが「コーティングの相違」であると考えました。もちろん、それを言うならば戦前の頃のノンコーティングのモデルも選択肢に入りますが、如何せん市場での出現率からするとなかなか手に入らないのは致し方ありません。
従って、よりオールドレンズライクな諸収差を多く含む (解像度の甘さも含む) 要素を「自分の好みとしての味」として捉えるならば「モノコーティング」をチョイスするほうがベストと言うことになりますし、逆にピント面の解像度とボケ味まで含めた周辺域との画全体的なバランス性の良さを優先するならば「マルチコーティング」と言う選択に至るのではないかと考えました。もちろん、この当時の時代背景を勘案すれば、旧東西ドイツ製のオールドレンズに追いつけ追い抜かせの時代でしたから、マルチコーティング化に伴って発色性やコントラストを当初の日本製オールドレンズとしての大きな流れから進路変更していたことにも想いを馳せなければイケマセン。それでもなお、MINOLTAのように拘りを以て最後まで独自の描写性に頑なに思想を維持し続けていた光学メーカーもありますが、大きな潮流としてはマルチコーティング化以降解像度が向上すると共に発色性やコントラストまでもメリハリが効いた印象を感じます。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。この筐体からして前期型〜中期型までのモデルとは設計が異なっています。つまり鏡筒の格納位置調整に拠る絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) 制御をやめてしまったのです。結果、一番最初のハードルであった絞りユニットの「メクラ環」の締め付け固定による調整の神経質さは解消され、単にネジ止めするだけでOKに変わったので大変ありがたいことです。
↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。ご覧のとおり前期型〜中期型で存在していた「メクラ環」は廃止され、イキナシ「位置決め環」と言う絞り羽根の格納位置を確定させる役目の環 (リング/輪っか) が最前面に現れています。
良いこと尽くめなら大歓迎なのですが、ここでも「意味不明な設計をする会社」たる富岡光学の性が顔を出しています(笑) 何を言っているのか分かりませんね(笑) 何とこの後期型からは、絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) 調整に於ける「開放側の調整まで廃止」してしまったのです。つまり後期型モデルでは、絞り羽根を最小絞り値まで閉じる際の開閉幅 (開口部/入射光量) 調整しか備わっていません。開放側は完全開放ですから、それはそれで理解できるのですが、問題なのは「絞り羽根が顔出しする個体がある」時の開放側の調整が一切考慮されていないことが問題です。つまり何を言いたいのか? 絞り羽根に打ち込まれている「キー」と言う金属製の突起棒の角度が、経年の使用に於いて変わってしまった (垂直状態を維持していない) 個体の場合には、開放時に絞り羽根が顔出ししたまま改善できないことになります。これはイタダケません・・やはり「意味不明な設計をする会社」のままでした(笑)
ちなみに、この絞り羽根に備わっている「キー (金属製の突起棒)」が垂直状態を維持しなくなる最も一般的な原因は「絞り羽根の油染み放置」です。絞り羽根に生じていた油染みが時間の経過と共に粘着化が始まり、絞り羽根が互いに密着する「癒着現象」を引き起こします。すると一部の絞り羽根だけが浮き上がるので、必然的にキーが垂直を維持できなくなります。結果、開放時に絞り羽根のお尻部分が顔出しして完全開放していない (惨めな) 個体に至ります (さらに症状が進行するとキーが脱落してしまい製品寿命に至る)。
確かに光学系内を覗き込んで絞り羽根に具体的な油染みが生じていなければ安心してしまうのでしょうが、重要なのは「油染みの視認」ではなく、各絞り値で絞り羽根の開閉をさせた時の「絞り羽根が均一に開閉しているか否か」を確認することこそが重要なのです。例えば開放側から絞り環を回して絞り羽根を閉じていく際に、仮にF値「f4〜f8」辺りで1〜2枚の絞り羽根の極僅かな浮き上がりが視認できるのだとすると、その1〜2枚の絞り羽根は既にキーが垂直を維持していませんから、いずれは開放時の顔出しを始めるでしょうし下手すればキーが脱落します。絞り羽根の油染みばかりに気を取られてしまいがちですが、絞り羽根を駆動させている「キー」の存在も忘れないようにしなければと思います。
↑距離環やマウント部を組み付けるための基台です。そもそも前期型〜中期型のモデルとは基台の長さ (高さ) が異なるので設計が違うことが分かります。
↑真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。距離環の固定方法が設計変更されたのでヘリコイド (メス側) のカタチも大きく変わりました。
↑ヘリコイド (オス側) も、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。当初用意されていた鏡筒の位置調整機能が消滅したので、ヘリコイド (オス側) の切り欠き部分も無くなりました。
↑鏡筒を実際にどのようにしてヘリコイド (オス側) に格納するのかを示した解説ですが、ヘリコイド (オス側) の中に鏡筒を落とし込んでから最後に「固定環」を使って前玉側方向から鏡筒を締め付け固定します。
ここでも「意味不明な設計をする会社」の要素が残っています(笑) 鏡筒の位置調整の必要性が排除されたにも拘わらず、鏡筒を入れ込む際の格納位置を決めるキーを用意してしまい、且つ「固定環」などを使ってワザワザ締め付け固定する工程を用意しています・・何とムダなことか(笑) こんな面倒な設計にせず、サッサと鏡筒をヘリコイド (オス側) にネジ止め固定する方式を採れば良かったのです (何故ならば鏡筒の位置調整機能はもう存在しないから)。こう言う部分の設計が富岡光学は他社光学メーカーに比べて大きく後れを取っておりムダな工程を踏む結果、利益の消滅を最大限まで防げていません。この頃の他社光学メーカーでは相応に簡易な鏡筒固定方式 (ひとことで言えばネジ止め固定) を多くの会社で採り入れています。おそらく富岡光学と言う会社には、何処か旧態依然とした体質が残っていたのではないでしょうか?
↑前玉側方向から「固定環」を使って鏡筒を締め付け固定した状態の写真です。例えば、距離環側とヘリコイド側の肉厚をそれぞれ0.5mmでも薄く設計して、その分鏡筒を微細なネジでダイレクトにネジ止め固定してしまう設計に浮かした1mmを使えば良かったのです (既存の鏡筒肉厚からして1mm分の追加で微細ネジの固定が実現するから)。何の工夫もいらない至極簡単な設計の話です (実際MINOLTAのオールドレンズではその方式が採用されています)。
おそらく相応に高いポジショニングの役職者号令一過、全部署に渡って後期型の最設計が成されたのだと妄想しますが、如何せん各部署の横の繋がりが存在しない旧態依然の組織形態のままだったと思わざるを得ません。結果、できあがった新設計でもなおムダが省かれていません(笑) 時期的に瀕死寸前のヤシカ傘下の頃なのか、或いは後の京セラ参入初期なのか?、分かりませんが、いずれにしても使える予算などはたかが知れた時代でしょうから、全く以て意味不明な会社です。
と言うのも、様々なブランド銘で売り切り (単発生産) 状態で乱発していた時期に当たりますから、現場たる設計陣はともかく (むしろ踊らされていたワケで可哀想です)、すべての責任所在は役職者、ひいては経営者だと言わざるを得ません。全体を見据えることなく目先の利益率ばかりに目を囚われていたことが伺えますね(笑)
↑こちらはマウント部内部の写真ですが、既に各連動系・連係系パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮影しています。バラした直後は、やはり過去メンテナンス時に塗布されてしまった白色系グリースが濃いグレー状に劣化してビッチリと附着していたため、一部のサビは除去できていません。このマウント部にグリースを塗るのは本当にやめてほしいです・・。
↑外していた各連動系・連係系パーツも個別に「磨き研磨」を施して組み付けました。この後期型からはご覧のように「捻りバネ (絞り連動ピン連係アームに備わっている)」以外にもう1本新たに「スプリング」が追加されています。問題なのは、過去メンテナンス時にグリースを塗られてしまったが為に、このスプリングが錆びてしまい弱まっていることです。このスプリングと捻りバネとのチカラのバランスが崩れると、途端に絞り羽根の開閉異常を来しますから、絞り羽根の戻りが緩慢などの現象に至ります。今回のオーバーホールでは、捻りバネ側の強さを調整しつつもスプリングの収縮度合いもイジって両方のバランスを取りながら調整するハメに陥ります。なんとも過去メンテナンスの恨めしいことか・・面倒だったらありゃしない(怒)
これは、例えばマウントアダプタ経由でデジカメ一眼やミラーレス一眼に装着して使うならば別の問題になりますが、フィルムカメラに装着するのだとすると絞り羽根の緩慢な動きは致命的だったりします。しかし、実際にはマウントアダプタの製品規格自体が統一されているワケではありませんから (マウントアダプタはM42の規格品だとしても現実はバラバラです)、マウント面の絞り連動ピン押し込み度合い (つまりチカラの加わり方) を勘案すると、それはそれでまた調整が厄介であり、すべては過去メンテナンス時のグリース塗布が根本原因ですから、どうして当方がそれで難儀しなければイケナイのか腹が立ちますね! 今回の個体は仕方ないので (捻りバネとスプリングのバランスが限界なので) マウント部の一部を削って絞り連動ピン連係アームが突き当たらないよう改善させました (2時間かかったです)。
↑完成したマウント部を基台に組み付けます。この時マウント部内部の「絞り連動ピン連係アームの金属棒」を鏡筒の「絞り羽根制御環」に用意されている溝に噛み合わせます。当然ながら絞り羽根の開閉動作をここでチェックします (工程のひとつひとつで必ずチェックしないと後の工程で不具合が発生した際に何処の工程が影響しているのかの判定が付きません)。
↑ひっくり返して基準「◆」マーカーが刻印されている指標値環をセットします。
↑再びひっくり返して今度は「鋼球ボール」を組み込んでから絞り環をセットします。後期型では、前期型〜中期型で必ず調整が必要だったクリック感と絞り値との整合性などは一切考慮せず、そのまま絞り環を組み付けるだけでOKです。ようやく富岡光学製オールドレンズも他社光学メーカー並みに組み立てが楽になってきたことを感じつつ工程を進めています (涙出そう)(笑) 問題のスイッチ機構部も大幅に合理化されて単にセットするだけでOKと言うありがたい設計です。
↑にも拘わらず、最後の最後で何の拘りがあったのか?、マウント面の「飾り環をイモネジ3本で締め付け固定する」方式は踏襲しています(笑) 既に後期型では鋼球ボールの組み込み位置のズレが発生しない設計なので、単に「飾り環」は固定すれば良いだけですから、ワザワザイモネジを使って締め付け固定せずに、飾り環自体をネジ込んで固定するよう設計すればもっと工程が省略でき、結果的に人件費 (も時間も) 低減できたと考えますね(笑) おかげで、この当時の富岡光学製オールドレンズは、すべてがこの「飾り環+イモネジ3本の締め付け固定」方式の確認だけで富岡光学製であることを判定できる恩恵に授かっています (が、たったそれだけの意味しかありません)(笑)
この後は、光学系前後群を組み付けてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (それぞれ解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
↑オーバーホール工程の途中でブツクサと文句垂れながら数時間を調整に要しましたが、無事に完璧なオーバーホールが終わりました。ハッキリ言って、富岡光学製オールドレンズの醍醐味を堪能したければ、この後期型のマルチコーティング化されたモデルは1本所有する必要性が高いと感じます。それほど解像感がアップしているのをSONY製α7IIのボディで実写していて感じた次第ですから、解像度の向上はソックリそのまま質感表現能力や立体感、或いは臨場感などの表現性に繋がっているワケで非常に使い易く感じました。開放F値「f1.4」と言えども、特に富岡光学製オールドレンズの場合は被写界深度が大変狭いので撮影時のピント合わせには苦労するのですが、このピシッと決まるピント面のエッジの鋭さで容易にピント合わせが完遂します。今ドキのデジタルなカメラボデイなら「ピーキング機能」だけでスッパスパ写真を撮りまくれると思いますね(笑) 従って、このマルチコーティング化された後期型モデルに於いて光学系の再設計まで成されたのではないかと踏んでいる次第です (それほど明確な相違がピント面に現れています)。
↑今回の個体も光学系内の透明度がヒジョ〜に高い個体です。LED光照射でも極薄いクモリすら「皆無」です。強いて言えば、後玉表面にある経年の非常に薄い擦りキズ (?) が残念ですが、写真には一切影響しません。
↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全て写りませんでした。特に前玉表裏のコーティング層の状態は相当キレイです・・ここだけの話、前玉裏面のグリーン色の光彩面が本当に美しいので、オーバーホールしていて舐めたくなったくらいです(笑) 同じグリーン色の光彩を放っていてもMINOLTA製オールドレンズに於けるコーティング層は「アクロマチックコーティング (AC) 層」なので、舐めただけで剥がれてしまいますが(笑)
↑光学系後群の透明度も驚異的です。後玉に写っている黒っぽい数本のスジはミニスタジオの写り込みなので現物にはありません。何しろ東京光学製「RE,Auto-Topcor 58mm/f1.4 (RE/exakta)」同様、この後玉の状態 (特にコーティング層の経年劣化レベル) に関しては富岡光学製オールドレンズに於ける致命的な箇所なので調達時には気になって仕方ないのですが、如何せんちゃんと明確に撮影して掲示してくれている出品者は、ほとんど皆無ですね(笑) どの出品者も自ら光学系の清掃などしたことがないからコーティング層の状態など気にしないのでしょう。
↑上の写真 (4枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。全て極微細な点キズを撮っていますが3〜4枚目に見る角度によっては浮き上がる非常に微細な薄い擦りキズ (?) があります (上の写真はそれを分かり易くするためにワザと誇張的に撮影しています)。
【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:10点、目立つ点キズ:5点
後群内:20点以上、目立つ点キズ:20点以上
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:無し
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):皆無
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが実際はカビ除去痕としての極微細な点キズです (清掃しても除去できません)。特に後玉は極微細な点キズが一部多めです。
・光学系内の透明度が非常に高い個体です。
・いずれもすべて写真への影響はありませんでした。
↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられる個体ながらも当方による「磨きいれ」を筐体外装に施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。
なお、当方では筐体外装の「磨きいれ」と言っても、何でもかんでも光沢のある状態には仕上げません・・あくまでも「オリジナルの状態に戻す」ための磨きいれですから、マットなブラック (つまり艶消し) の筐体外装は、そのままを維持させた状態で仕上げています (マットプラックが光沢感のあるブラックになるのは経年でマット感が消失してしまった黒光りか、磨きすぎて表層面のメッキ塗色を剥がしてしまった場合、或いは筐体外装に光沢剤を塗布して故意にピカピカにしている場合だけです)。もちろんシルバー鏡胴モデルは、地のアルミ合金材が剥き出しになるまで (つまり金属質が出てしまうまで) 研磨しませんし、光沢感には違和感を感じないレベルで留めています。
↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:軽め」を塗布しています。距離環や絞り環の操作はとても滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「普通」で滑らかに感じトルクは全域に渡り「完璧に均一」です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・距離環を回していると擦れる感触を感じる箇所がありますが内部パーツが擦れる感触ですので改善はできません (クレーム対象としません)。
【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
↑今回の企画出品4本の中では一番距離環を回す際のトルク感がスムーズな状態に仕上げられました。4本すべて同じ黄褐色系グリース (粘性:重めと軽めを使い分け) を塗布していますが、4本すべてが過去メンテナンス時に白色系グリースが塗布されていた関係で、おそらくヘリコイドのネジ山摩耗状態が異なるのか、一概に同じトルク感で仕上げられていません。逆に言うと、当方の技術スキルはその程度と言う話ですから、是非ともご勘案頂きつつご検討願えればと思います。プロのカメラ店様や修理専門会社様で販売しているオールドレンズの整備レベルとはかけ離れていますので、あまり期待されぬようお願い申し上げます。
↑当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。
↑絞り環を回して設定絞り値を「f2」にセットして撮影した写真です。