◎ MINOLTA (ミノルタ) MC ROKKOR-PF 85mm/f1.7(MD)
この当時のオールドレンズでは、ポートレート用焦点域ではどこの光学メーカーのモデルでも軟らかなボケ味と共に端正な写真を期待できますが、ミノルタのオールドレンズには共通しているのではないかと感じられるほど「マイルド感」たっぷりの画造りをその印象として受けます。当モデルではピント面のエッジは少々太めに見えるのですが、やはり画全体的な「ふんわり」とした優しい雰囲気は共通です。素晴らしいレンズですね・・。
オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程を解説を交えて掲載しています。
すべて解体したパーツの全景写真です。
上の写真中央の光学系レンズ群が置いてある場所で、第2群の中心部が「円状に茶褐色」に写っていますが、これはスタジオの背景紙が写り込んでいるからで、実際のレンズにはそのような色付きはありません。
構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリスの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。
ここからは解体したパーツを実際に使って組み上げていく組立工程の写真になります。
まずは絞りユニットや光学系前群のレンズ収納筒を組み付けるための鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) は独立しており、別に存在しています。
さて、このモデルも同じなのですが・・何処かで見たコトがあるような絞り羽根の「仕様」です。
絞り羽根には「キー」と言って絞り羽根の格納位置、或いは制御の起点になる金属製の突起が打ち込まれているのですが、通常は表裏、或いは片面に必ず「2本」のキーが打ち込まれます。しかし、ある光学メーカーだけは片方に上の写真のような「穴」を空ける方式を採っており、且つもう一方の「キー」自体は「中心部が空洞になっている円柱状」のキーを使っています。敢えて何処の光学メーカーなのかはもう言いませんが、様々な光学メーカーにOEM生産していた会社です・・(笑)
この絞りユニットの構造は少々複雑で、ちゃんと各構成パーツを観察せずに流れに任せて組み上げていくと絞り羽根が全く動かない状況に陥ります(笑)
さて、こちらも何処かで見たような仕組みを採用しています(笑) 他社光学メーカーでも全く同じ仕組み (構成パーツの形状まで近似しています) のモデルがあったりしますね・・。一体どれだけの会社にOEM生産で供給していたのかと考えてしまいます。
ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた位置までネジ込みます。このモデルには「無限遠位置調整機能」が装備されているので、この時点では大凡のアタリで構いません。
独立しているヘリコイド (オス側) を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で22箇所のネジ込み位置があるので、ここをミスると最後の再びバラして組み直すハメに陥ります。
鏡筒がヘリコイド (オス側) の中にストンと入りました。鏡筒を差し込む位置は固定ネジ用の穴が用意されているので、このモデルは楽です。
次の写真はマウント部のベースです。
全ての連係パーツを一旦外し、上の写真のマウントベース部も含めて全てを「磨き研磨」します。そうすることでグリス塗布に頼らないとても滑らかな連係動作が実現します。結果、各部への「負荷」は最低限に控えられ、今後の使用に於ける経年劣化 (摩耗) も防げると言うことになります。そもそも生産時には各構成パーツはこのように「キレイな状態」だったワケですから、当たり前と言われれば当たり前のコトしか、確かにしていませんね・・(笑)
このモデルもミノルタの他のモデル同様、やはりマウントを一番最初に組み付けなければ、後からのセッティングができない仕様になっています。つまりマウント部の固定ネジが「隠しネジ」になっているのでここで組み付けてしまいます。
「磨き研磨」を施した各構成パーツをようやく組み付けできます。特に上の写真手前に写っている「棒状のバネ (ねじりバネ)」などは、既に数十年の経年で弱まっていますから、構成パーツの平滑化による各部連係の負荷低減は重要です。
梨地仕上げの美しい絞り環です。この梨地仕上げの外装表層面も「光沢研磨」を施したので、当初の輝きが戻っています。
組み上がったマウント部を組み付けて各部の連係動作を確認しておきます。
距離環を仮止めして光学系の前後群を組み付けてから「無限遠位置確認」や「光軸確認」「絞り羽根開閉幅の確認」などを一通り執り行います。
さて、この個体では前玉裏面のコーティングが経年劣化で白濁化してしまっており、このままでは1枚ベール越しに撮影したかのような「もわっとしたような写真」しか撮れなかったので、仕方なく今回は前玉裏面のコーティングを剥がしました。その際の極微細なヘアラインキズが真数に残っています。このヘアラインキズの影響が撮影した写真にどのように表出するのかのテスト撮影は、このページの一番最後で行っています。
上の写真3枚は、共にヘアラインキズの部分を分かり易くするために光に反射させてワザと誇張的に撮影しています。実際には順光目視でもレンズを少し回せば、光り具合でこのヘアラインキズを目視できる程度のレベルです。
光学系は順光目視にて前玉には極微細な点キズが5点に第2群に極微細な点キズ6点、後玉は極微細な点キズ5点と後群にも極微細な点キズが4点あります。また光学系前玉裏面のコーティングが経年劣化で浮き上がり白濁化していたため剥がしています。その際に極微細な無数のヘアラインキズがついてしまいほぼ全面に渡っています。光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れもありますが、いずれもすべて写真への影響はありませんでした。
ここからは組み上げが完成した出品商品の写真になります。
光学系内は第4群の貼り合わせレンズにはバルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) も進んでおらず、とてもクリアな状態を維持した個体です。前玉裏面のコーティング劣化が悔やまれますね・・。
ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感が僅かに感じられますが、当方にて着色しています。当方の判定では「美品」賭しています。
距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。距離環のトルク感は滑らかに感じほぼ均一です。ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。距離環を回転させている際に負荷を感じる箇所がありますが「グリス溜まり」なので操作しているうちに改善されます (グリス溜まりの位置は多少移動します)。
当モデル「MC ROKKOR-PF 85mm/f1.7 (MD)」のモデルバリエーションとしては「初期型」にあたります。なかなかシッカリしたよくよく考え尽くされた構造化が成されている、非常にメンテナンス性レベルの高いレンズです。
光学系後群はコーティングの劣化も進んでおらずとてもキレイな状態を維持しています。
前玉裏面のコーティングを剥がした経緯があるので、ここからは各絞り値での実写を掲載します。
まずは開放F値「f1.7」です。最短撮影距離1m附近での開放実写になります。ピントはミニカーの手前のヘッドライト辺りです。
次は絞り環の半段クリックでいきなりF値は「f2.8」になります。
F値「f5.6」になります。実際は絞り環の絞り値ステップは「半段ずつ」になります。
実際にはフードを装着してご使用頂いた方が良いと思いますので (光学系の状態に拘わらず) もう少しシッカリした描写性に落ち着くハズです・・。
このような感じで、特に前玉裏面のコーティングを剥がした影響は出ていないようですが、光源撮影時や逆光撮影時などのシーンではハロやゴーストの出現率は上がる可能性がありますのでご留意下さいませ。