◎ PORST (ポルスト) COLOR REFLEX MC AUTO 55mm/f1.4 G《後期型:富岡光学製》(M42)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧西ドイツのPORST製標準レンズ『COLOR REFLEX MC AUTO 55mm/f1.4 G《富岡光学製:後期型》(M42)』です。

この後すぐに掲載していますが、今回は企画で連続して4本の富岡光学製オールドレンズをオーバーホールしました。しかし、正直言って懲りました(笑) そもそも富岡光学製オールドレンズは内部の構成パーツ調整が大変神経質なのにも拘わらず、それを続けて4本もオーバーホールすること自体にムリがありました。最後にオーバーホールした今回の出品個体は、もう既に意気揚々を通り越して「まだあるのぉ〜?」と言う義務感に駆られて作業していたような感じです(笑)
それに反して光学系の描写性能は、今回の4本中最も鋭いピント面を構成する・・まさしく「富岡光学製55mm/f1.4の集大成」とも言える画造りを感じました。一つ前の同じ「後期型」であるCHINON製では、マルチコーティングでありながらもその画にはどことなくマイルド感が漂う印象でしたが、こちらのPORST製に関してはそのマイルド感を含みつつも極限まで解像感を突き詰めたようなピント面を撮影時に確認しました・・それはおそらく光学系の設計は同一でも、マルチコーティングの内容如何で最終的な描写性の特色は変わるのだと言うことを体現できたようなイメージです。

逆に言うと、CHINON製のほうではピント面の先鋭化には偏らずに画全体のマイルド感を強調したが故にグリー色のコーティング層光彩がより強く輝いているように感じます。こちらのPORSTに関してはグリーン色のコーティング層を同じ前玉裏面と後群内に含みつつも、むしろ他の群ではパープルアンバーなコーティング層をより強化しているような印象を各群の清掃をしていて感じました (清掃時にコーティング層を反射させつつ拭きムラを確実に目視しながらチェックしているので実際のコーティング層光彩を明確に視認できているのです)。CHINON製のグリーン色に輝く光彩の度合いに比べてPORST側のほうは一段大人しめです。

マルチコーティングの先鋭なピント面の中で、画全体の雰囲気としてマイルド感 (CHINON) を取るか、いや、あくまでも解像感 (PORST) を優先したいと考えるのかでチョイスはこの2本の中で決まるのではないでしょうか。

PORST (ポルスト) はブランド銘で、戦前の1919年にドイツ人のHanns Porst (ハンス・ポルスト) 氏によって、旧ドイツのニュルンベルク市で創業した主に写真機材を専門に扱う通信販売専門会社「PHOTO PORST」で使われていたブランドです。会社所在地のニュルンベルク市はバイエルン州に属する街ですが、敗戦後の東西ドイツ分断の時期に於いては、バイエルン州自体が複雑に東西ドイツに跨がっていたためにネット上の解説では旧東ドイツの会社だと案内されていることがあります・・正しくは「旧西ドイツ」になります。同じPORSTでも創業者の名前を採ったブランド銘ですから当時実在していた「Porst市」とは一切関係がありません。
ちなみに、1930年〜1950年代に駆けては自身の名前の頭文字から「HAPO」ブランドを展開していたようですが、PORSTブランドの製品も含めて自社での開発をせず、他社光学メーカーからのOEM製品供給に頼っていたようです。終盤期にはPORSTブランドに追加して「carenar (カリーナー)」ブランドが新たに加わりますが、愛娘の名前をあしらってブランド銘にしています (日本語的な読み方のカリーナーではありません)。

なお、レンズ銘板に含まれているフィルター枠サイズの直後にある「G」は、他のモデルでも「N」や「F」刻印などがあったりしますが、マウントの種別とは直接一致していないので何を意味するのかは不明です。

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今回は立て続けに4本の富岡光学製OEMモデルをオーバーホール済でヤフオク! に出品する、『今一度輝け! 富岡55mm/f1.4』企画です(笑) 企画の目的は、富岡光学製OEMモデルの特に焦点距離「55mm/f1.4」に関して、富岡光学製オールドレンズとしての妥協のない最高の描写性能がギュッと凝縮されているにも拘わらず、ヤフオク! での評価 (落札価格) が低迷していることにガツンと活を入れる目的です (なので強気の即決価格)。
確かに開放F値「f1.2」のモデルのほうが過去から現在に至るまで「銘玉」と揶揄されているのは事実だと考えますが、当方の評価は逆で・・「f1.2」モデルは被写界深度が狭すぎて撮影時には相当難儀します。むしろ開放F値「f1.4」のほうが、富岡光学製オールドレンズとしての使い易さと最高の描写性能の堪能を両立させる要素が備わっていると受け取っているからです。

↑上の写真の4本はすべて同じ焦点距離「55mm/f1.4」であり、左から順に新世代のモデルバリエーション (構造/設計が異なる) へと変遷しています。

  1. SEARS製:AUTO SEARS 55mm/f1.4 (M42)【前期型】
  2. Revue製:AUTO REVUENON 55mm/f1.4 (M42)【中期型】
  3. CHINON製:AUTO CHINON MULTI-COATED 55mm/f1.4 (M42)【後期型】
  4. PORST製:COLOR REFLEX MC AUTO 55mm/f1.4 G (M42)【後期型】

4本全てを完全解体でオーバーホールしましたから、内部の構造など富岡光学製であることの「証」をご確認頂きつつ、実写の相違なども見据えて是非ともご検討願えれば・・と意気揚々と作業に臨んだのですが、アッと言う間に後悔です(笑) 肝心なことをスッカリ忘れたまま企画してしまいました。富岡光学製オールドレンズの内部構成パーツを調整するのが、如何に神経質で大変なのかと言うことをオーバーホール工程の中でイヤと言うほどに思い知らされた次第です (もぅ当分の間触りたくない見たくない状態です)・・従って、また1年くらいしてほとぼりが冷めた頃なら触ってもいいかな?(笑)

なお、これらのモデルが富岡光学製であると言う「証」の源は、過去にオーバーホールしたCHINON製『AUTO CHINON 55mm/f1.4 TOMIOKA (M42)』を証拠として当方では把握しています。レンズ銘板に『TOMIOKA』銘が刻印されていた頃の個体ですから、これは疑いようがない事実だと思うのですが、どう言うワケか当方が拘ると反論する方が多いのが現実だったりします(笑)

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光学系は5群7枚のダブルガウス型から発展し、後群成分を拡張してきた描写性能をギリギリまで追求した設計 (ビオター/クセノン型) を採っています。その描写性も、まさに「富岡光学製」であることを見てとれます。
エッジの繊細なピント面と共に背景のボケ味が大変滑らかな階調で破綻していく様が素晴らしいのですが、円形ボケは口径食の影響から真円には到達せず歪です。しかし、動物毛の写真なら富岡光学製オールドレンズ以外考えられないと感じるほどに超リアルな存在感を漂わせているのは、被写体の材質感や素材感を余すことなく写し込む質感表現能力に優れ、背景のボケ味と相まり空気感や距離感までも感じさせる立体的な画造り、そして何よりも現場の雰囲気や緊迫感など閉じ込めたままの1枚を残せると言う豊富な臨場感が何物にも代え難い富岡光学製オールドレンズとしての特徴ではないでしょうか・・少なくとも当方は好きです。

このモデルの実写をFlickriverで検索してみましたので、興味がある方はご覧下さいませ。

なお、実際のオーバーホール工程の際には光学系の各群の設計が前期型〜中期型モデルと比較してビミョ〜に変わっているのではないかと感じたのですが、ネット上でよくやっているデジタルノギスの金属製ゲージ部分を硝子面に当ててまでサイズを測ったりする勇気がありません(笑) 従って、マルチコーティング化に伴い光学系も再設計が施されていたであろうことは容易に推察できるのですが、上の構成図はそのままにしてあります。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。前期型〜中期型までのモデルと比較すると内部の構成パーツ全てに渡って再設計してきたことが判ります (つまり同一の構成パーツがほぼ皆無)。オモシロイと感じたのは「絞り羽根のカタチ」でした・・何と前期型を遡る初期型の頃のカタチに戻してきており「三日月型」を復活させていました。これは、逆に考えると光学系内に入ってきた入射光量の制御をする上で必要性が生じた再設計と考えられ、詰まるところマルチコーティング化に伴うより厳密な入射光量制御が必須になったのだと推察しています。

今回オーバーホールしていて、組み上げ最後の実写確認で感じたのですが、前期型〜中期型のモデルに対して後期型では実写時のピント面先鋭化が明確に感じ取れました。感覚的な部分の話なので、今回のようなモデルバリエーションを跨いで立て続けにオーバーホールする機会がない限り、なかなかチェックできません。このことは、以前ロシアンレンズのオーバーホールをしていた際に調べた、GOI光学研究所によるオールドレンズ各モデルの光学諸元値をまとめていて気がつきました。初期のモノコーティング時代のモデルよりも後期のマルチコーティング化されたモデルのほうが、諸収差の改善は基より解像度の大幅な向上がその実測数値からして諸元値に明示されていたのです。

・・と言うことは、自ずとオールドレンズを選択する際に、初期型や前期型の頃のモデルが良いのか、或いは後の後期型のモデルをチョイスするほうが良いのかの「判断基準」として大きな意味合いを含むのが「コーティングの相違」であると考えました。もちろん、それを言うならば戦前の頃のノンコーティングのモデルも選択肢に入りますが、如何せん市場での出現率からするとなかなか手に入らないのは致し方ありません。

従って、よりオールドレンズライクな諸収差を多く含む (解像度の甘さも含む) 要素を「自分の好みとしての味」として捉えるならば「モノコーティング」をチョイスするほうがベストと言うことになりますし、逆にピント面の解像度とボケ味まで含めた周辺域との画全体的なバランス性の良さを優先するならば「マルチコーティング」と言う選択に至るのではないかと考えました。もちろん、この当時の時代背景を勘案すれば、旧東西ドイツ製のオールドレンズに追いつけ追い抜かせの時代でしたから、マルチコーティング化に伴って発色性やコントラストを当初の日本製オールドレンズとしての大きな流れから進路変更していたことにも想いを馳せなければイケマセン。それでもなお、MINOLTAのように拘りを以て最後まで独自の描写性に頑なに思想を維持し続けていた光学メーカーもありますが、大きな潮流としてはマルチコーティング化以降解像度が向上すると共に発色性やコントラストまでもメリハリが効いた印象です。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。この筐体からして前期型〜中期型までのモデルとは設計が異なっています。つまり鏡筒の格納位置調整に拠る絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) 制御をやめてしまったのです。結果、一番最初のハードルであった絞りユニットの「メクラ環」の締め付け固定による調整の神経質さは解消され、単にネジ止めするだけでOKに変わったので大変ありがたいことです。

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。ご覧のとおり前期型〜中期型で存在していた「メクラ環」は廃止され、イキナシ「位置決め環」と言う絞り羽根の格納位置を確定させる役目の環 (リング/輪っか) が最前面に現れています。

良いこと尽くめなら大歓迎なのですが、ここでも「意味不明な設計をする会社」たる富岡光学の性が顔を出しています(笑) 何を言っているのか分かりませんね(笑) 何とこの後期型からは、絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) 調整に於ける「開放側の調整まで廃止」してしまったのです。つまり後期型モデルでは、絞り羽根を最小絞り値まで閉じる際の開閉幅 (開口部/入射光量) 調整しか備わっていません。開放側は完全開放ですから、それはそれで理解できるのですが、問題なのは「絞り羽根が顔出しする個体がある」時の開放側の調整が一切考慮されていないことが問題です。つまり何を言いたいのか? 絞り羽根に打ち込まれている「キー」と言う金属製の突起棒の角度が、経年の使用に於いて変わってしまった (垂直状態を維持していない) 個体の場合には、開放時に絞り羽根が顔出ししたまま改善できないことになります。これはイタダケません・・やはり「意味不明な設計をする会社」のままでした(笑)

ちなみに、この絞り羽根に備わっている「キー (金属製の突起棒)」が垂直状態を維持しなくなる最も一般的な原因は「絞り羽根の油染み放置」です。絞り羽根に生じていた油染みが時間の経過と共に粘着化が始まり、絞り羽根が互いに密着する「癒着現象」を引き起こします。すると一部の絞り羽根だけが浮き上がるので、必然的にキーが垂直を維持できなくなります。結果、開放時に絞り羽根のお尻部分が顔出しして完全開放していない (惨めな) 個体に至ります (さらに症状が進行するとキーが脱落してしまい製品寿命に至る)。

確かに光学系内を覗き込んで絞り羽根に具体的な油染みが生じていなければ安心してしまうのでしょうが、重要なのは「油染みの視認」ではなく、各絞り値で絞り羽根の開閉をさせた時の「絞り羽根が均一に開閉しているか否か」を確認することこそが重要なのです。例えば開放側から絞り環を回して絞り羽根を閉じていく際に、仮にF値「f4〜f8」辺りで1〜2枚の絞り羽根の極僅かな浮き上がりが視認できるのだとすると、その1〜2枚の絞り羽根は既にキーが垂直を維持していませんから、いずれは開放時の顔出しを始めるでしょうし下手すればキーが脱落します。絞り羽根の油染みばかりに気を取られてしまいがちですが、絞り羽根を駆動させている「キー」の存在も忘れないようにしなければと思います。

↑距離環やマウント部を組み付けるための基台です。そもそも前期型〜中期型のモデルとは基台の長さ (高さ) が異なるので設計が違うことが分かります。

↑真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。距離環の固定方法が設計変更されたのでヘリコイド (メス側) のカタチも大きく変わりましたし、一つ前の同じ後期型に属しているCHINON製とも距離環の固定方法が全く異なり設計が違います。

↑ヘリコイド (オス側) も、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。当初用意されていた鏡筒の位置調整機能が消滅したので、ヘリコイド (オス側) の切り欠き部分も無くなりました。

↑鏡筒を実際にどのようにしてヘリコイド (オス側) に格納するのかを示した解説ですが、ヘリコイド (オス側) の中に鏡筒を落とし込んでから最後に「固定環」を使って前玉側方向から鏡筒を締め付け固定します。

ここでも「意味不明な設計をする会社」の要素が残っています(笑) 鏡筒の位置調整の必要性が排除されたにも拘わらず、鏡筒を入れ込む際の格納位置を決めるキーを用意してしまい、且つ「固定環」などを使ってワザワザ締め付け固定する工程を用意しています・・何とムダなことか(笑) こんな面倒な設計にせず、サッサと鏡筒をヘリコイド (オス側) にネジ止め固定する方式を採れば良かったのです (何故ならば鏡筒の位置調整機能はもう存在しないから)。こう言う部分の設計が富岡光学は他社光学メーカーに比べて大きく後れを取っておりムダな工程を踏む結果、利益の消滅を最大限まで防げていません。この頃の他社光学メーカーでは相応に簡易な鏡筒固定方式 (ひとことで言えばネジ止め固定) を多くの会社で採り入れています。おそらく富岡光学と言う会社には、何処か旧態依然とした体質が残っていたのではないでしょうか?

↑前玉側方向から「固定環」を使って鏡筒を締め付け固定した状態の写真です。例えば、距離環側とヘリコイド側の肉厚をそれぞれ0.5mmでも薄く設計して、その分鏡筒を微細なネジでダイレクトにネジ止め固定してしまう設計に浮かした1mmを使えば良かったのです (既存の鏡筒肉厚からして1mm分の追加で微細ネジの固定が実現するから)。何の工夫もいらない至極簡単な設計の話です (実際MINOLTAのオールドレンズではその方式が採用されています)。
おそらく相応に高いポジショニングの役職者号令一過、全部署に渡って後期型の最設計が成されたのだと妄想しますが、如何せん各部署の横の繋がりが存在しない旧態依然の組織形態のままだったと思わざるを得ません。結果、できあがった新設計でもなおムダが省かれていません(笑) 時期的に瀕死寸前のヤシカ傘下の頃なのか、或いは後の京セラ参入初期なのか?、分かりませんが、いずれにしても使える予算などはたかが知れた時代でしょうから、全く以て意味不明な会社です。
と言うのも、様々なブランド銘で売り切り (単発生産) 状態で乱発していた時期に当たりますから、現場たる設計陣はともかく (むしろ踊らされていたワケで可哀想です)、すべての責任所在は役職者、ひいては経営者だと言わざるを得ません。全体を見据えることなく目先の利益率ばかりに目を囚われていたことが伺えますね(笑)

↑マウント部内部の写真ですが、既に各連動系・連係系パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮影しています。バラした直後は、やはり過去メンテナンス時に塗布されてしまった白色系グリースが濃いグレー状に劣化してビッチリと附着していたため、一部のサビは除去できていません。結局、今回の企画でバラした4本すべてがマウント部内部までグリースがビッチリ塗られており、しかもすべて白色系グリースを使っていたと言う現実です。結果、ヘリコイド (オスメス:特にオス側) のネジ山摩耗の程度が個体別に異なるので、同じ粘性の黄褐色系グリースを塗っていても距離環を回す際のトルク感が違う結果です。

↑外していた各連動系・連係系パーツも個別に「磨き研磨」を施して組み付けました。この後期型からはご覧のように「捻りバネ (絞り連動ピン連係アームに備わっている)」以外にもう1本新たに「スプリング」が追加されています。

↑完成したマウント部を基台に組み付けます。この時マウント部内部の「絞り連動ピン連係アームの金属棒」を鏡筒の「絞り羽根制御環」に用意されている溝に噛み合わせます。当然ながら絞り羽根の開閉動作をここでチェックします (工程のひとつひとつで必ずチェックしないと後の工程で不具合が発生した際に何処の工程が影響しているのかの判定が付きません)。一つ前のCHINON製とは異なる設計なので、指標値環を後から組み付けることができません。先にここで入れ込んでおきます。

↑指標値環をイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本で締め付け固定し、同時に絞り環をセットします。後期型では、前期型〜中期型で必ず調整が必要だったクリック感と絞り値との整合性などは一切考慮せず、そのまま絞り環を組み付けるだけでOKです。ようやく富岡光学製オールドレンズも他社光学メーカー並みに組み立てが楽になってきたことを感じつつ工程を進めています (涙出そう)(笑) 問題のスイッチ機構部も大幅に合理化されて単にセットするだけでOKと言うありがたい設計です。

↑にも拘わらず、最後の最後で何の拘りがあったのか?、マウント面の「飾り環をイモネジ3本で締め付け固定する」方式は踏襲しています(笑) 既に後期型では鋼球ボールの組み込み位置のズレが発生しない設計なので、単に「飾り環」は固定すれば良いだけですから、ワザワザイモネジを使って締め付け固定せずに、飾り環自体をネジ込んで固定するよう設計すればもっと工程が省略でき、結果的に人件費 (も時間も) 低減できたと考えますね(笑) おかげで、この当時の富岡光学製オールドレンズは、すべてがこの「飾り環+イモネジ3本の締め付け固定」方式の確認だけで富岡光学製であることを判定できる恩恵に授かっています (が、たったそれだけの意味しかありません)(笑)

この後は、光学系前後群を組み付けてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (それぞれ解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑日本国内のオークションでも、ひいては海外オークションebayでも、年間に数本レベルでしか出回らない大変希少価値の高いPORST製標準レンズ『COLOR REFLEX MC AUTO 55mm/f1.4 G《富岡光学製:後期型》(M42)』です。ハッキリ言って、富岡光学製オールドレンズの醍醐味を堪能したければ、この後期型のマルチコーティング化されたモデルは1本所有する必要性が高いと感じます。それほど解像感がアップしているのをSONY製α7IIのボディで実写していて感じた次第ですから、解像度の向上はソックリそのまま質感表現能力や立体感、或いは臨場感などの表現性に繋がっているワケで非常に使い易く感じました。開放F値「f1.4」と言えども、特に富岡光学製オールドレンズの場合は被写界深度が大変狭いので撮影時のピント合わせには苦労するのですが、このピシッと決まるピント面のエッジの鋭さで容易にピント合わせが完遂します。今ドキのデジタルなカメラボデイなら「ピーキング機能」だけでスッパスパ写真を撮りまくれると思いますね(笑) 従って、このマルチコーティング化された後期型モデルに於いて光学系の再設計まで成されたのではないかと踏んでいる次第です (それほど明確な相違がピント面に現れています)。

↑こちらの個体も光学系内の透明度は驚異的レベルを誇っています。後群内の1枚に8mm長ほどの微細な拭きキズがLED光照射では視認できますが、それ以外は極薄いコーティング層の経年劣化に伴うクモリすら「皆無」です。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全て写りませんでした。

↑光学系後群も驚異的な透明度を維持しています。後玉に写っている黒っぽい数本のスジはミニスタジオの写り込みなので現物にはありません。何しろ東京光学製「RE,Auto-Topcor 58mm/f1.4 (RE/exakta)」同様、この後玉の状態 (特にコーティング層の経年劣化レベル) に関しては富岡光学製オールドレンズに於ける致命的な箇所なので調達時には気になって仕方ないのですが、如何せんちゃんと明確に撮影して掲示してくれている出品者は、ほとんど皆無ですね(笑) どの出品者も自ら光学系の清掃などしたことがないからコーティング層の状態など気にしないのでしょう。

↑上の写真 (4枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。全て極微細な点キズを撮っていますが3〜4枚目に見る角度によっては浮き上がる非常に微細な点キズがあります (上の写真はそれを分かり易くするためにワザと誇張的に撮影しています)。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:9点、目立つ点キズ:6点
後群内:16点、目立つ点キズ:10点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:無し
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):皆無
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが実際はカビ除去痕としての極微細な点キズです (清掃しても除去できません)。特に後玉は極微細な点キズが一部多めです。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
・いずれもすべて写真への影響はありませんでした。

↑6枚のしぼ゛りばねもキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感をほとんど感じさせないとても良い状態を維持した個体です。当方による「磨きいれ」を筐体外装に施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。また、距離環の特異なデザインのローレット (滑り止め) もシッカリとした膨らみをまだキープしているのでホールディング性も良いと思います・・このデザインは好き嫌いが分かれるでしょうか?(笑)

なお、当方では筐体外装の「磨きいれ」と言っても、何でもかんでも光沢のある状態には仕上げません・・あくまでも「オリジナルの状態に戻す」ための磨きいれですから、マットなブラック (つまり艶消し) の筐体外装は、そのままを維持させた状態で仕上げています (マットプラックが光沢感のあるブラックになるのは経年でマット感が消失してしまった黒光りか、磨きすぎて表層面のメッキ塗色を剥がしてしまった場合、或いは筐体外装に光沢剤を塗布して故意にピカピカにしている場合だけです)。もちろんシルバー鏡胴モデルは、地のアルミ合金材が剥き出しになるまで (つまり金属質が出てしまうまで) 研磨しませんし、光沢感には違和感を感じないレベルで留めています。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:軽め」を塗布しています。距離環や絞り環の操作はとても滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「普通〜重め」で滑らかに感じトルクは全域に渡り「ほぼ均一」です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・距離環を回していると擦れる感触を感じる箇所がありますが内部パーツが擦れる感触ですので改善はできません (クレーム対象としません)。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑富岡光学製OEMモデルとしての焦点距離「55mm/f1.4」としては、おそらく最も最後に生産され輸出されたモデルではないかと推測しています (その根拠は光学系のコーティングと内部構造から)。今回の企画で出品する4本の中では、残念ながら一番距離環を回す際のトルクムラが多く感じる (極僅かな抵抗を感じる箇所と急に軽くなる箇所が明確に分かれている) 仕上がりになってしまいましたが、内部パーツ (直進キー) の経年に拠る摩耗から改善できませんでした。擦り減ってしまった金属を元に戻すことはできないので致し方ありませんが、そうは言っても操作していて違和感を抱く程までのムラには至っていません (慣れれば気にならないかと)。しかし、光学系内の透明度では4本中最もクリアなので、何を優先するかでチョイスするのもアリかも知れません。

さすがに5日間連チャンで (休み無く)、ひたすらに4本のオーバーホールを続け、このブログに掲載まで進める作業は超ハードな内容でした。もぅ当分富岡光学製オールドレンズの「55mm/f1.4」は触りたくないですねぇ〜(笑) お腹いっぱいです! しかし、その甲斐あって、4本それぞれに納得できる完璧なオーバーホールができたと思います (少なくともこれ以上改善できないレベルまで突き詰めました)。その意味では渾身のオーバーホールだったのではないかと、この5日間を総括しています。

富岡光学製オールドレンズの画造りとして、息づかいを感じるまでにリアルな描写世界を、許容範囲としての収差を含むモノコーティングから選ぶのも良し、マルチコーティングの鮮烈な鋭いピント面に翻弄される歓びを味わうのも良し、富岡ファンの方にはきっと頷ける逸本に仕上がっていると存じます。是非ご検討下さいませ

↑当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。

↑絞り環を回して設定絞り値を「f2」にセットして撮影した写真です。

↑さらに絞り環を回してF値「f2.8」で撮りました。

↑F値は「f4」に変わっています。

↑F値「f5.6」で撮りました。

↑F値「f8」です。

↑F値「f11」で撮りました。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。