◎ Revue (レビュ) AUTO REVUENON 55mm/f1.7《前期型》(M42)
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「Revue (レビュ)」と言うブランド銘は旧西ドイツのバイエルン州フュルトで1927年に創業した通信販売専門商社「Quelle (クェレ)」の写真機材部門が発行していた100ページ以上に及ぶ写真専門誌「Foto-Quelle」にて、オリジナル・ブランド銘として使われていたようです。フィルムカメラや交換用レンズ、或いはアクセサリなど多数を販売していました。Quelleはすべての商品を自社開発せずにOEM生産に頼った商品戦略を執っており、オールドレンズに関しては日本製レンズや韓国製、或いはドイツ製などで製品群を揃えていたようです。
今回のモデル「AUTO REVUENON 50mm/f1.7」は富岡光学製のOEM輸出用モデルで、他にもアメリカの写真機材通販会社「argus (アーガス)」の「Auto-Cintar 55mm/f1.7」ややはり旧東ドイツ「PORST (ポルスト)」の「COLOR REFLEX MCM 55mm/f1.7 MACRO MULTI COATED LENS」などが兄弟モデルとして顕在しています (モデル銘部分をクリックすると別ページで解説が表示されます)。
光学系:5群6枚拡張ダブルガウス型
最短撮影距離:0.5m
絞り羽根枚数:6枚
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :有
PORST:COLOR REFLEX MCM 55mm/f1.7 MACRO MULTI COATED LENS
光学系:5群6枚拡張ダブルガウス型
最短撮影距離:0.29m
絞り羽根枚数:6枚
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :有
今回出品するモデル「AUTO REVUENON 55mm/f1.7」には2つのバリエーションが存在しています。開放f値「f1.4」のモデルには金属製ローレットのタイプがありますが、こちらのモデルにはありません。
光学系:5群6枚拡張ダブルガウス型
最短撮影距離:0.5m
絞り羽根枚数:6枚
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :有
ローレット:グッタペルカ巻
「後期型」AUTO REVUENON 55mm/f1.7
光学系:5群6枚拡張ダブルガウス型
最短撮影距離:0.5m
絞り羽根枚数:6枚
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :有
ローレット:ラバー巻
光学系は5群6枚の拡張ダブルガウス型で第2群の貼り合わせレンズを分割して1枚増やした構成になっておりUltron型に属すると思います。似たような光学系の日本製モデルとしては旭光学工業の「SMC TAKUMAR 55mm/f1.8」やKONICA「HEXANON AR 57mm/f1.7」或いは「HEXANON AR 40mm/f1.8」などが挙げられます。特にこのモデルは富岡光学らしいクセのあるボケ方と非常に細いエッジを伴う繊細な画造り、特徴的な「赤色表現」などがあります。もうこれだけで富岡光学の写りを堪能できるワケでその意味で当方でも好んで調達しているオールドレンズのひとつです。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。
絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルのヘリコイド (オス側) は独立しており別に存在しています。
6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。絞り羽根には「キー」と言う金属製の円筒が片側に2本打ち込まれており、1本が絞り羽根の位置決め用 (固定箇所) もう1本が絞り羽根の角度制御用 (移動して絞り羽根の角度を可変する) になっています。上の写真ではそのうちの「位置決め用」のキーが表出して写っています。この当時の富岡光学製オールドレンズに好んで採用されていたのが「中心が空洞の円筒」のキーです (他社で多いのは円柱)。
真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
ヘリコイド (オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
この当時の富岡光学製オールドレンズではヘリコイドの材質面での問題なのかネジ山の金属同士が噛んでしまわないようにアルミ材削り出しのヘリコイドの間に「真鍮製のヘリコイド」をサンドイッチして使っていたようです。後の時代には真鍮製をやめて同じアルミ材削り出しのヘリコイドに変更しています。
組み上がったヘリコイド部に鏡筒を組み込むワケですが、これもこの当時の富岡光学製オールドレンズに多く採用されている鏡筒の固定方法です。他社光学メーカーでは鏡筒を固定ネジで直接締め付け固定していたのに対し、富岡光学製オールドレンズでは鏡筒を固定する「固定環」を前玉側方向からネジ込んで鏡筒を固定していました。上の写真ではブルーの矢印の順番で鏡筒がセットされます (先に鏡筒を入れてから固定環で締め付け固定)。
こちらはマウント部内部を撮影していますが既に各連動系・連係系パーツを取り外して当方による「磨き研磨」が終わった状態で撮っています。この内部にもグリースが塗られており腐食や一部にはサビも生じていました。
取り外した連動系・連係系パーツも個別に「磨き研磨」を施し組み付けます。
完成したマウント部を基台にセットします。この時先に指標値環を入れてからマウント部を組み付けなければイケマセン。後から指標値環を入れることができないからです。
自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) 用の機構部を組み付けてから固定環をセットします。これも富岡光学製オールドレンズで多く採用されている方法で固定環を3本のイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) で締め付け固定しています。このように固定環をイモネジ (3本) で固定する方法の場合には富岡光学製だと疑ってまず間違いありません (外観から判断できる唯一の確認箇所です)。
旧東西ドイツのオールドレンズでも例えばCarl ZeissやRollei、Voigtländerネ或いはMeyer-Optik Görlitzなどの一部モデルには同じように固定環を用意しているモデルがありますがイモネジでは固定しておらず単に固定環をネジ込む方式です。
距離環を仮止めしてから光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットしてグッタペルカ (硬質ラバー材) のエンボス加工を施したローレットを貼り付ければ完成です。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
「argus」の「Auto-Cintar 55mm/f1.7」とは内部の構造化から構成パーツに至るまで全く同一なのですが、こちらの「AUTO REVUENON 55mm/f1.7」のほうは当方での扱いがまだ3本目です。別に「Auto-Cintar」のほうでも良いのですが、あの独特な丸形エンボス加工を施したラバー製ローレットのデザインが好きではない方がいらっしゃるのでこちらの「前期型」のほうがオールドレンズっぽい意匠でしょうか。
光学系内の透明度が非常に高い個体です。LED光照射でもコーティング層の経年劣化に拠る極薄いクモリすら浮かび上がりません (但し極微細な点キズやヘアラインキズなどは僅かにあります)。
上の写真 (2枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。2枚共に極微細な点キズを撮っていますが微細すぎてすべて写っていません。
光学系後群も非常に透明度の高い状態ですが、残念ながら後玉中央付近に極微細な当てキズ (擦りキズ) がヘアラインキズ状に数本あります。
このモデルは後玉が僅かに突出しているので距離環を無限遠位置に回して鏡筒を収納した状態で後玉を下向きに置くと後玉の中心部が当たってしまい当てキズが付き易くなります・・ご注意下さいませ。
上の写真 (2枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。1枚目は極微細な点キズを撮っていますが微細すぎてすべては写っていません。2枚目は後玉中心付近の当てキズの部分をワザと目立つようにして撮影しています。順光による裸眼での目視でもほぼこのように見えると思います。極微細なキズなので写真への影響には一切至りません。
【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:13点、目立つ点キズ:8点
後群内:14点、目立つ点キズ:9点
コーティング層の経年劣化:前後群あり
カビ除去痕:あり、カビ:なし
ヘアラインキズ:あり
LED光照射時の汚れ/クモリ:皆無
LED光照射時の極微細なキズ:あり
・その他:バルサム切れなし。前後玉には極微細な引っ掻きキズや当てキズ、ヘアラインキズがあります。
・光学系内の透明度が非常に高い個体です。
・光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細なキズなどもあります。
・いずれもすべて写真への影響はありませんでした。
6枚の絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。オールドレンズ単体の状態で自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) を「A (自動)」に設定している場合は絞り連動ピンが押し込まれていない状態でも絞り羽根は「f2〜f16」の間で開放まで戻りません (僅かに絞り羽根が顔を出しています)。フィルムカメラに装着使用される場合には「M (手動)」でご使用下さいませ。
逆にデジカメ一眼などにマウントアダプタ経由装着される場合は「ピン押しタイプ」のマウントアダプタをご使用頂ければ「A/M」の設定に拘わらず絞り羽根は正常に駆動します。
ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感がほとんど無いとてもキレイな状態をキープした個体です。筐体外装面は当方による「磨き」をいれたので落ち着いた美しい仕上がりになっています。
【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度」を塗布しています。距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「普通〜軽め」で滑らかに感じトルクは全域に渡り「完璧に均一」です。
・オールドレンズ単体の状態で自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) を「A (自動)」にセットして絞り環を操作した場合には開放の次「f2〜f16」まで絞り連動ピンが押し込まれない状態でも絞り羽根が僅かに顔を出してしまいます (開放に戻りません)。フィルムカメラに装着し使用する際は必ずスイッチを「M (手動)」でお使い下さいませ。またマウントアダプタ経由デジカメ一眼などでご使用の場合には「ピン押しタイプ」のマウントアダプタをご使用下さいませ。その場合スイッチの設定は「A/M」いずれの場合でも問題なく正常に絞り羽根が駆動します。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
富岡光学製オールドレンズとしての描写性をギュッと凝縮したようなモデルです。開放f値「f1.4」のモデルに比べるとボケ量は僅かに劣りますが扱い易さでは勝っています。特にピント合わせ時のピントの山の掴み易さはアッと言う間にピタッと来るので非常に楽です・・開放f値「f1.4」のモデルの場合は被写界深度が浅いので (すぐにアウトフォーカス部が滲むので) ピントの山は少々掴み辛いですね。富岡光学製の写りの良さを手軽に堪能したい方にはお勧めの逸品です。
当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトに合わせていますがピタッとアッと言う間に合焦するのでピントの山の前後が大変わかり易く撮影時の操作が楽です (もちろん距離環のトルクが滑らかですから)。
上の写真 (2枚) は、オールドレンズ単体の状態で自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) を「A (自動)」にセットした場合に絞り環を回した時の「絞り羽根の顔出し」の程度をご覧頂くために撮っています。1枚目が絞り環を「開放:f1.7」にセットしている状態で完璧な開放状態になっていますが、2枚目では絞り環を回して「f2〜f16」のいずれの位置でも絞り連動ピンが押し込まれていないにも拘わらず写真のように絞り羽根が僅かに顔を出してしまいます (つまり開放まで戻りません)・・これは上の写真の赤矢印部分の絞り羽根に限ってではなく6枚すべてが僅かに顔を出してきます。
原因はマウント部内部のマイクロ・スプリングが経年劣化で弱まっているからです。可能な限り改善処置を施しましたが完全な開放位置までは戻せませんでした。実際の絞り環の指標値で言えば「f2」の状態まで絞り羽根が顔を出しているとお考え下さいませ。但し「ピン押しタイプ」のマウントアダプタ経由デジカメ一眼に装着される場合には一切関係ない現象です。