◎ Carl Zeiss Jena (カールツァイス・イエナ) Tessar 50mm/f3.5 T silver(exakta)
(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます
製造番号から1952年〜1953年頃に生産された旧東ドイツCarl Zeiss Jena製標準レンズです。とても小さくてコンパクトなパンケーキレンズです。ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着しても全長は5cm強にしかならないので、ちょっとした今ドキのデジタル標準レンズを装着している感覚の出っ張り具合です。
最近、光学性能ばかりを突き詰めた端正な描写よりも何処かノスタルジック感漂う描写に惹かれます。テッサーと言えば俗に「鷲の目テッサー」と呼ばれているのですが、ネット上の解説などでは「鷹の目テッサー」とも書かれています。「鷲?それとも鷹?」なのですが、学説上は「大柄が鷲」で「小振りが鷹」と言う分け方をしているだけで確固たる分類の相違がないようです・・全長約80cm/翌開長約170cm:鷲、全長約60cm/翌開長約130cm:鷹。
英語圏では「目つきが鋭い」ことを「eagle-eye」とも言うので「hawk-eye」ではないですし、実際に当時の古いカメラ雑誌の広告などを見ても、テッサーには「eagle-eye」が使われていることから、どちらかと言えば「鷲」が正解なのかなとも思います・・当方は「光りモノに弱い」タチで烏みたいなヤツですから、どうしてもシルバー鏡胴のオールドレンズに目が行ってしまいます(笑) 今回の個体は当初、フツ〜にシルバーではなく経年劣化で「真っ白」になっていましたし、絞り環などはビッシリと腐食していてクリーム色の斑状態でした。せっかくゲットしたオールドレンズをカラスみたいなヤツは、一生懸命磨いてしまうワケですよ・・。
開放f値を「f3.5」に抑えているので余裕がありテッサーのギラギラした描写と言うよりも、ちょと大人チックな落ち着いた画造りです。でも骨太のエッジは鋭くピント面を構成してテッサーらしい粗いボケ方をします。画としてのノスタルジック感漂う描写性とは裏腹にカリカリのピントとのアンバランスが好きですね・・この当時の開放f値「f3.5」のモデルとしてはエルマータイプの沈胴式もあれば、本格的な鏡胴の大柄タイプ、いわゆる銀テッサーもあります。しかし、当方が目を付けるのはこの「exakta版」パンケーキレンズのほうです。ちっちゃくて可愛いですし、ちゃんとイッチョ前に「zeissのT」コーティングです。絞り環の操作はし易いですし何しろ全長僅か3cmの筐体ですからミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着しても取り回しが楽です。お散歩レンズには打って付けなのではないでしょうか・・これからの春のワンシーンをこの可愛らしいテッサーで残しては如何でしょうか?
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。
今回は鏡筒カバーのイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) が完全固着しており外せなかったので 、一部の解体にてオーバーホールしていきます。
ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。
構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。
このモデルは鏡胴が「前部」と「後部」の二分割になるタイプですので、もう既にこれで「前部」が完成しているようなものです。14枚もある絞り羽根でほぼ真円に近い「円形絞り」が実現しています。
こちらはマウント部です。当初無限遠が出ていなかったので今回バラして適正に戻します。
ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で5箇所のネジ込み位置があるので、ミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
今回の個体は無限遠が出ていなかったので、バラしましたが過去に数回メンテナンスされている痕跡がありました。しかし、どのメンテナンスでも距離環の据え付け位置が異なっているので (下穴が必要なので判ります)、無限遠位置の確認をしながら今回もドリルを使って下穴を開けつつ作業を進めました。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
とても小さな大きさです。愛らしいですねぇ。絞り環操作は無段階の実絞りですが、枠が相応に大きめなので操作がし易いのです。片や距離環の方はこの当時の他のモデル同様マウント側にありますから、距離環の径が大きい分、操作も扱い易く助かります。何しろ全長3cmにも持たないのでチマチマといじる感覚です(笑) マウントが「exakta」なので、ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着すると、丁度マウントの固定用レバーが指を添える際の位置確認の役目になり、距離環を操作するのに役立っています。これが「M42」マウントだったりすると間違えて絞り環を回していたりします・・。
光学系は前玉には経年相応の極微細な拭きキズやヘアラインキズが見受けられますが、光学系内の透明度は非常に高いです。LED光を照射して確認しても経年のコーティング劣化にによる「薄いクモリ」がほんの微かに見えるか見えないか程度の状態でしか進んでいません (つまりクモリが無いに等しい)・・1952年〜1953年頃の生産個体ですからこれはオドロキです。
上の写真 (2枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。写真ではガラス面が曇った状態のように写っていますが、これはキズの状態をご確認頂くためにワザと光に反射させた位置で撮影しているので、そのように写っています。現物を見れば分かりますがこんな感じで曇ったガラス面にはなっていません。
経年のカビ除去痕や拭きキズ、当てキズなど極微細な点キズやヘアラインキズがあり、コーティング層の劣化に拠る汚れ状の痕も見受けられます。
光学系後群のほうがキレイです。exaktaマウントはそんなに大きくはないのですが、このモデルは筐体が小さいのでマウントの爪がバカでかく見えます・・。
後玉はこんな感じです。極微細な点キズなどはもう少しあるのですが、微細すぎて写りませんでした。テッサーは光学系が3群4枚の構成ですが、最後の第3群は貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) になっています。そのためバルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) が生じている個体が最近は非常に多いので、全面に渡ってクモリが出ていたりするのですが、今回の個体は大変クリアです。また前述のようにコーティング層の劣化に拠るクモリもほぼ生じていません・・透明度高いです。
今回は鏡筒をバラせなかったので絞り羽根の清掃は絞りユニットのままで行いました。14枚の絞り羽根によるほぼ真円に近いキレイな「円形絞り」が実現しています。絞り羽根の一部のキーが経年で変形しているのか (?) 開口部が僅かに丸くなっていません。
【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:17点、目立つ点キズ:8点
後群内:13点、目立つ点キズ:7点
コーティング経年劣化:前後群あり
カビ除去痕:あり、カビ:なし
ヘアラインキズ:あり
・その他:バルサム切れなし。後群にLED光照射で浮かび上がる極薄い微細なコーティング劣化のクモリ状が僅かにあります。
・光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れ、クモリもありますがいずれもすべて写真への影響はありませんでした。
光学系の状態を撮影した写真は、そのキズなどの状態を分かり易くご覧頂くために、すべて光に反射させてワザと誇張的に撮影しています。実際の現物を順光目視すると、これらすべてのキズは容易にはなかなか発見できないレベルです。
これらの極微細な点キズは「塵や埃」と言っている方が非常に多いですが、実際にはカビが発生していた箇所の「芯」や「枝」だったり、或いはコーティングの劣 化で浮き上がっているコーティング層の点だったりします。当方の整備では、光学系はLED光照射の下で清掃しているので「塵や埃」の類はそれほど多くは残留していません (クリーンルームではないので皆無ではありませんが)。
光学系内については、何でもかんでも「カビや塵・埃、拭き残しと決めつける方」或いは「LED光照射した状態をクレームしてくる人」は、当方ではなくプロのカメラ店様や修理専門会社様などでオールドレンズのお買い求めをお勧めします。当方のヤフオク! 出品オールドレンズの入札/落札や、オールドレンズ/修理のご依頼などは、御遠慮頂くよう切にお願い申し上げます。
当方には光学系のガラス研磨設備やコーティング再蒸着設備が無く、キズやコーティングの劣化が全く無い状態に整備することは不可能です。
ここからは鏡胴の写真になります。一生懸命磨いたのでキレイになっていると思います・・。
【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドのグリースは「粘性:中程度」を塗布しています。距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。
・距離環のトルク感は滑らかに感じ完璧に均一です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・絞り環は滑らかですが開放側が「f3.5」以上に開くためその位置で擦れる感触や抵抗感が僅かにありますが将来的に問題はありません。
【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・距離環の固定ネジ (イモネジ) が1つ潰れたためにその部分を削っています (指をケガしないよう)。また距離環の縁に1箇所微細な凹みがあります。
「磨き研磨」は極力グリースの類の塗布を少なくして、今後の経年使用に於いても「揮発油成分」が光学系まで回らないよう配慮した処置です。それは既に光学系、特にコーティングの劣化が相応に進行しており、さすがに硝子材だけはいくらメンテナンスと言えども、おいそれと何度も研磨することはできません (せいぜい当初生産時諸元値の1%以下程度までしか研磨できません)。それを考えるとグリースを塗ったくったり、或いは液化の早い滑らかな (粘性が軽めな) グリースばかりを好んで使うのもどうかと思いますが・・。
その意味では、使い倒すつもりならば整備する必要は無いでしょうし (スルスル回るのは既にグリースの限界が来て液化が始まっているからです)、少しでも長く使うならば整備したほうが良いコトになります (グリースを入れ替えるワケですから、トルクはそれなりに変化します)。その辺のリスクが分からない (気がつかない) 方が最近は多くなってきました・・当然ながら、当方のスキルレベルは低いですから、完璧な整備を望まれる方は「プロのカメラ店様/修理会社様」に整備をご依頼されるのが最善かと思います。ヤフオク! に出品しているオールドレンズの入札/落札も、このブログをご覧頂き「オールドレンズ/修理」のご依頼をされるのも、すべてスルーして頂くようお願い申し上げます。
それでもヤフオク! の当方評価に「非常に良い/良い」をお付け頂ける方がいらっしゃるのは、或いは「オーバーホール/修理」のご依頼を頂けるのは、市場に出回っているオールドレンズの状態を既にご存知だからです。問題なのは、このブログが検索でヒットして「オーバーホール/修理」のご依頼をされる方々の中で「認識」「感覚」が「プロのカメラ店様で販売しているオールドレンズしか知らない」と言う方々です。そのような方々からのご依頼では、トラブルになることが最近は多くなってきました・・ご勘弁下さいませ。何度も言いますが、当方の技術レベルは低いです・・。
距離環や絞り環のローレット部分もジャギーの谷までナイロンブラシで一生懸命清掃しましたので、経年の手垢や汚れなどほぼ除去できています・・キレイでしょ? 当時の状態にとても近い輝きまで戻ったのではないでしょうか。美しいです・・。
イモネジが折れてしまいササクレで指をケガするので削りました。
汎用型の前キャップと後キャップを用意しました。フィルター径はØ30.5mになります。できたら撮影時にはフードを付けたほうがいいと思います。その場合は30.5→37mmなどのステップアップリングを別途ご用意頂き (amazon等でも入手可能です)、それにフィルターを装着してフードを付けてもいいですね。同じシルバーのモデルも販売されています。せっかくなのでドレスアップしてあげてください!
当レンズによる最短撮影距離76cm (実写では50cmくらい) での開放実写です。
☞ 背景と解説:Carl Zeiss Jena (カールツァイス・イエナ) Tessar 50mm/f3.5 T silver(exakta)も合わせてご覧下さいませ。