◎ VOIGTLÄNDER (コシナ製) NOKTON CLASSIC 40mm/f1.4(LM)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます

nk40140923%e3%83%ac%e3%83%b3%e3%82%b9%e3%82%99%e9%8a%98%e6%9d%bf

voigtl-nder100%ef%bc%9a%e7%8f%be%e5%9c%a8今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。

nk4014%e6%a7%8b%e6%88%90コシナ製のVOIGTLÄNDERブランド「NOKTON CLASSIC 40mm/f1.4 (LM)」のオーバーホール/修理を承りました。今回バラしてみると光学系内にはマルチコーティングが施されていたのでご依頼の個体は「MC」タイプのほうになるようです (モノコーティングのほうはSC)。メーカーサイトを見ると6群7枚ですが敢えて収差を残した光学設計をしているとのことで、その拘りが伺えます。

ご依頼では「距離環を回すと軋む音が聞こえる」とのことで、届いた現物を確認してもその症状が確かに出ていました。元来コシナのヘリコイド・グリースは大変質の良いグリースを塗布しているのでヘリコイドから軋む音が出るには相当な時間が必要ではないかと考えます。原因が全く想像できないままバラしていくことになりました。

nk40140923%e4%bb%95%e6%a7%98

nk40140923%e3%83%ac%e3%83%b3%e3%82%b9%e3%82%99%e9%8a%98%e6%9d%bf

nk4014092311こちらの写真は当初バラした直後の清掃する前の状態で撮っている写真です。上の写真パーツは「内ヘリコイド」のオス側になります。このモデルはダブルヘリコイド方式になっており「内ヘリコイド」と「外ヘリコイド」が互いに連動して鏡筒を繰り出す仕組みを採っています。

当初の症状で軋んでいた音の原因は内ヘリコイド (オス側) に固定されている直進キーガイド環の固定ネジが1本破断していたのが原因のようです。バラしながらヘリコイドを動かしていくと、この内ヘリコイド側のほうから軋む音が聞こえてきました。

nk4014092312同じく内ヘリコイド (オス側) のネジ山部分を撮影しています。バラした直後でまだ清掃もしていない状態なのですがグリースが全く残っていません。また「外ヘリコイド」側にはヘリコイド・グリースが塗布されていましたが「白色系グリース」が使われています。コシナ製の純正グリースも白色系グリースなので純正グリースのようにも見えますが分かりません (つまり内ヘリコイド側にはグリースが塗られていない?)。

おかしいと考えたのは上の写真のとおり内ヘリコイドのネジ山にグリースが残っていない事実です。仮に純正の状態だったのだとすればコシナ製のグリースが残っているハズなのですが一切ありません。さらに内部には数箇所にマーキングの刻み込みがされていたので恐らく過去に一度メンテナンス (コシナ以外で) されているのではないかと推察します。

いずれにしても原因はネジの破断とグリースが無くなっている状態だったのが影響していたと推測します。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

nk4014092313ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。コシナ製のVoigtländerブランド、或いはzeissブランド、いずれに於いても絞りユニットやその他のパーツに同じ設計のパーツが存在しているので、コシナ独自の全く別モノとして設計されているレンズ群だと言えるでしょう。あくまでもブランド (商標権) を冠した旧来の光学系を参考にした新設計商品と捉えるのが正しいと考えます。

nk4014092314絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。冒頭の説明のとおり、このモデルはダブルヘリコイド方式を採っているので2種類のヘリコイドが互いに連動して鏡筒の前後動を行う仕組みになっています・・つまりヘリコイドが2セットあると言うことになります。

nk401409231510枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。コシナ製のオールドレンズをバラしていてオモシロイ (さすがだ) と感じるのは絞り羽根の開閉幅を調整する機能を持たせていないことです。まさに現代の日本工業製品の賜物ですがキッチリと厳格に諸元値を満たしてしまう造り上げができているので個体差が生じようがありません。

nk4014092316絞りユニットを組み付けた鏡筒に今度は絞り環を組み付けます。この絞り環の内側に各絞り値でクリック感を実現している「絞り値キー」と言う「溝」が用意されており、そこに鋼球ボールがカチカチと填り込んでクリック感の操作性になるワケですが、実はその絞り値キーの箇所にグリースが相当量塗られていました。これはコシナでの生産時に塗布されたとは考えられません・・メーカーではグリースはそれほど塗らないと思います。

今回当方による「磨き研磨」を施したので当初誇張的な印象のクリック感だった絞り環の操作性は小気味良い印象のクリック感に仕上がっています。

nk4014092317何と先の写真の状態では鏡筒が一切固定されていない状態だったワケですが、真鍮製 (しかも真鍮 (黄銅) 製) のフィルター枠をセットしてようやく鏡筒が固定されます。どうしてフィルター枠を鏡筒の固定環の代用とさせているのかは当方には分かりませんが、あまり褒められる設計とは思いません (やはり固定環はあったほうが良いと思いますしライカ製オールドレンズには必ず存在しています)。さらに「シム」と言うスペーサーのような役目なのですが無限遠位置の調整用に今回の個体では厚みの異なる薄いシム環が数枚使われていました。これも現代のマニュアルフォーカスレンズとして捉えればシムを使わずに済むような設計で作って欲しいと思います。

nk4014092318こちらは「内ヘリコイド」のメス側兼「外ヘリコイド」用オス側でもあります。両サイドに「内ヘリコイド」のための直進キー (距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目) 用ガイドが用意されています。

nk4014092319内ヘリコイドのオス側をネジ込んで内ヘリコイドを完成させます。この状態で「外ヘリコイド」用の直進キーガイドも備わったことになり、一般的なオールドレンズが1セットしか直進キーを有さないのに対してダブルヘリコイドの場合には2セット分の直進キーガイドが用意されたことになります。

nk4014092320距離環用のベース環のためのネジ山をセットし、同時に直進キーも両サイドに組み付けます。

nk4014092321距離環用のベース環を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

nk4014092322指標値環とマウント部 (外ヘリコイド用オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で6箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

この後は距離環をセットして (取り付け位置の調整はできません) 光学系前後群を組み付けてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にレンズ銘板をセットすれば完成です。

写真ではいとも簡単にここまで工程が進んだように見えますが、実はダブルヘリコイドの場合内外ヘリコイドの格納方法 (4種類あり) によって鏡筒の繰り出し方が異なっています。今回のモデルでは内ヘリコイドが繰り出されることで鏡筒が格納されると言う一般的なオールドレンズとは逆のパターンに動く直進式ヘリコイドを採っていました。

つまり内ヘリコイドと外ヘリコイドとのネジ山の向きが全く逆なのです・・従って内ヘリコイドがネジ込まれる (つまり収納される) と外ヘリコイドは繰り出されて最短撮影距離の位置になりますし、内ヘリコイドが繰り出されると外ヘリコイドが格納され無限遠位置の状態に落ち着きます (内ヘリコイドの繰り出しで内外ヘリコイドの全長が短くなり内ヘリコイドの収納では逆に全長は長くなる)。

この動きのパターンと、ブラスα無限遠位置のアタリ付け、そして2セット分の直進キーの上下動域 (直進キーが上下する範囲) の三つ巴でアッチが動けばコッチがこう動く・・みたいな構造の検討が必要になります。なかなか一筋縄では工程を進められない強者です。この構造を調べるだけで数時間を要してしまいました。特に直進キーの駆動域を確定させる (そうしないと距離環が最後まで回りません) にはその都度バラしては組み上げてを繰り返すのでアッと言う間に両手がグリースでグチョグチョになっていきます。

ところが今回問題だったのは「軋む音」ですから、構造が判明した時点でようやくその改善に移れるワケです。

 

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

nk401409231とても美しいマルチコーティングの光彩です。

nk401409232光学系内の透明度は当然ながら非常に高いのですが各群には極微細な点キズが数点付いています。実は清掃を3回実施しましたが、それらの極微細な点キズは除去できませんでした。写真には微細すぎて写っていません (微細な塵や埃に見えます)。

nk401409239光学系後群も同じく数点ですが非常に微細な塵や埃のように見えてしまう除去できなかった点があります。

nk401409233絞り羽根はキレイになり確実に駆動しています。当初からキレイな状態に見えていましたが絞り羽根を清掃するとほんの微かに油染みが附着していたようです。

ここからは鏡胴の写真になります。元々が使用感を感じさせない大変キレイな状態ですが、一応当方による「磨き」をいれてあるので筐体は落ち着いた美しい仕上がりになっています。もちろんクロームメッキ部分も磨きをいれています (指紋が気になるほどの輝きになっています)。

nk401409234

nk401409235

nk401409236

nk401409237塗布したヘリコイド・グリースは「粘性:中程度」で最初試しましたが軋み音とトルクムラが解消されるにも拘わらずヘリコイドの駆動がとても重くなってしまいました。仕方なく再度バラして「粘性:軽め」を塗布しましたが今度は軋み音とトルクムラが僅かに出てきます (もちろん内ヘリコイドにもグリースを塗っています)。例の破断しているネジの部分やネジ山の摩耗が影響しているのかも知れませんが明確なことは判りません。

再度バラしてグリースの種別を替えるなどいろいろと試しました。全部で6回の組み直しを行いようやく軋み音とトルクムラが解消された状態で距離環のトルクも「普通〜僅かに重め」程度まで改善できました。

nk401409238実際に仕上がったレンズで試写すると距離環のトルク感としては滑らかなのですが、できればもう少し軽いほうが使い易いのかも知れません。特にレバーのツマミだけで操作しようとすると負荷が片側に架かってくるのでトルクムラが出てくるように感じます (重く感じる箇所が出てくる)。しかしツマミと距離環とを親指と中指で保持した操作を行えば軽いトルク感で操作できます。

実は試しに軋み音が出ている状態で (つまりワザと内ヘリコイドにグリースを塗らないままで) 組み上げたところとても軽いトルク感で仕上がりました。しかし軋み音は当初の状態からは改善されていませんしトルクムラも出ています。もしかしたら既に内ヘリコイドのネジ山に摩耗があるのかも知れません (ビミョ〜にネジ山同士のブレがあるのかも)。結果的に軋み音を解消させることを優先してグリースを塗布し、且つ普通程度のトルク感に仕上げた次第です。もしもご納得頂けないようであればご請求額より必要額を減額下さいませ。申し訳御座いません。

nk4014092310当レンズによる最短撮影距離70cm附近での開放実写です。オーバーホール/修理のご依頼誠にありがとう御座いました。