◎ TOMIOKA KOGAKU (富岡光学) AUTO TOMINON 135mm/f2.8(M42)
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今回の掲載はヤフオク! 出品用ではなく、オーバーホール/修理ご依頼を承ったオールドレンズの掲載になります (有料にて掲載しています)。ヤフオク! には出品していませんので、ご注意下さいませ (オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています)。
富岡光学の純正ブランド「AUTO TOMINON 135mm/f2.8 (M42)」です。このような機会を得たことにまず感謝したいと思います。ありがとう御座います。オーバーホール/修理ご依頼は「距離環のトルクムラとガタつき」と言う内容でしたが届いた現物を確認するとそれ以外にも次のような問題点がありました (オールドレンズ単体で確認した場合)。
- 自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :M (手動) 時機能せず
- 自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) :A (自動) 時絞り羽根戻らず (動きが緩慢)
- 無限遠位置:僅かに無限遠が出ていない (合焦していない)
これらを踏まえてオーバーホールのためにバラしていくワケですが、こちらの個体も距離環が外れません。正確に言えばイモネジが外せて距離環がフリーの状態にはなるのですが筐体から取り外せません・・距離環が入っている位置でスルスルと空転しているだけという状態です。これではオーバーホールができません。仕方なく通常とは真逆の解体方法でバラしていくことになりました。必然的に無限遠位置のアタリ付けもマーキングも何もできないままバラしていくので組み立ての工程は相当にハードになることが予測されます。
光学系はバラして確認すると第2群が貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) になっている4群5枚の拡張エルノスター型でした。構成図はバラした光学系を基に図をひいたモノですから正確ではありません。第2群のバルサムの経年劣化が進行しておりいずれは剥離が始まるかも知れません (現状は問題なし)。また各群のコーティング層も既に経年劣化が進んでいます。
こちらの個体も既に過去のメンテナンスが施されているワケですが、やはりあまり褒められるような処置が成されていません。以下オーバーホールの工程をご案内していきます。
このモデルは距離環を外さない限りは一切解体できません (マウント部さえも取り外すことができません)。冒頭に申し上げたとおり距離環が空転したまま一切外せないので正しい解体手順とは異なる方法でバラしていかなければなりません。上の写真は光学系前後群を取り外した後にバラし始める時の写真です。この状態で後群側を外した開口部から工具を差し入れコチョコチョと狭い空間の中でネジを外していく方法です(笑) 写真をご覧頂くと分かりますがマウント部内部のパーツにはグリースが塗られていたり一部にはサビも出ています・・。
やっとのことで距離環を外した時の写真です。距離環はイモネジ (3本) を使って締め付け固定されているのですがもう1箇所に「距離環駆動域制限キー」と言う金属製のシリンダーが距離環の内壁から打ち込まれています。距離環の外側から見ると単に穴が開いているだけに見える箇所です (イモネジの部分はマイナスの切り込みがちゃんと見えています)。
過去のメンテナンスではイモネジ (3本) を外したにも拘わらず距離環が外せずに困惑したことが伺えます。観察して「制限キー」の穴を見つけたので4本目のイモネジだと思い込んで回して外そうとしたようです・・既に銀色に削れていました。「制限キー」ですからネジではないので当然ながらマイナスドライバーで回そうとしても空転するだけで外れません (結果銀色に削れたワケです)。この過去にメンテナンスした人は次にどうしたのかと言うと、何と先が尖った工具でこの「制限キー」部分を打ち込んだのです。上の写真は清掃剤を使って「制限キー」の穴の内部を洗浄した状態で写真を撮りました。キーの中心部にさらに穴が開いているのが見えるかと思います・・これは先が尖った工具を刺してトンカチか何かで叩き込んだ痕跡です。
そのような処置を施したのだとしてもどうして距離環が外れなかったのか・・??? 答えは上の写真の解説のとおりです。「制限キー」自体はもう少し長いのですが当方にて電気ドリルを使ってキーの打ち込まれている部分を僅かに削りました。過去のメンテナンス時に叩き込まれたためにキーの中心部に穴が開き周りが広がってしまったのです。結果、キーはどうにもこうにも外れなくなっていました。
さらに悪いことに叩き込んだせいでこの「制限キー」が距離環の内部で浮き上がっていたのです。それが原因で「キーの頭部分」が引っ掛かってしまい距離環が外れなかったのです・・本当にろくなことをしません。丁度上の写真の部分がそっくり距離環の内壁から飛び出ている状態でしたので (本来は右側の打ち込まれている部分は飛び出ていない) 外せなかったのです。
このキーの役目は距離環を回した際に「無限遠位置」と「最短撮影距離」の2つの位置で距離環を停止させる役目ですので、このキーが距離環の内壁に入っていなければ正しく操作できません。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。
絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) は独立しており別に存在しています。
6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。絞り羽根は油染みが乾いてしまった状態になっていました。
この鏡筒からは1本の板状真鍮製パーツ「絞り羽根開閉アーム」が飛び出ているのですが、それに附随するマイクロ・スプリングも過去にデタラメな処置が施されていました。当方にて適正な状態に改修しています (固定ネジにスプリングが巻かれていました)。
こちらも富岡光学製オールドレンズに採用されている大きな特徴のひとつである「鏡筒の位置調整機能」が備わっています。鏡筒の位置を水平方向で0.5mm前後左右にズラすことで絞り羽根の開口部 (正六角形の開口部/入射光量) 調整を行う仕組みです。右側に一緒に写したヘリコイド (オス側) には切り欠き部分がちゃんと用意されており、そこに鏡筒のこの「調整キー」が填ります。ネジを緩めて真鍮製の小さな円盤を回すことで鏡筒の位置が左右にブレてビミョ〜な絞り羽根の開閉調整ができるワケですね・・上の写真ではブルー色の矢印でヘリコイド (オス側) に入る箇所を示しています。
こちらは距離環やマウント部を組み付けるための基台です。上の写真で右側に少し高い壁のような部分があります。この壁の縁に先の「制限キー」が当たることで距離環が停止する仕組みです。従ってキーが存在しないと距離環が何処までも回ってしまい最後にはヘリコイドが脱落して抜けてしまうワケです。
真鍮製のヘリコイド (メス側) をネジ込んでからヘリコイド (オス側) をネジ込みます。それから鏡筒を差し込んだ状態で写真を撮りました。真ん中の真鍮製のヘリコイド (メス側) には縦方向に「幅広の溝」が用意されています。この部分が「制限キー」を逃がす場所になっておりこの位置まで距離環を回してから抜き取れば簡単に距離環を外せるワケです・・つまり、今回の個体を過去に整備した人はそのことを知らなかった人と言うことが言えます。しかし、ヘリコイドのグリースを交換していますし (白色系グリースを使っている) マウント部内部の連動系・連係系パーツの調整も行っています。相応のスキルを持っている人なのですがどうして距離環の外し方を知らなかったのか??? 謎です・・。
実は上の写真は今回正しい解体手順ではない方法でバラしているので無限遠位置のアタリ付けが全くできていために単にここら辺でネジ込むのではと予測してネジ込んだだけで撮っています。最後まで組み上げて無限遠位置の確認をしない限りはネジ込み位置が正しいのか否か不明なままです。つまりは何度も何度も組み上げては無限遠位置を確認しまたバラしては組み上げて・・を繰り返すことになります。相当ハードな作業になると予測していたワケです。
こちらはマウント部内部を撮影していますが既に各連動系・連係系パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮っています。当初バラした直後はこの内部にまでグリースが塗られておりサビが出たりしていました。
上の写真は自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) の操作で絞り羽根の動き方を変える仕組みの部位を撮影しました。自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) 制御環になりますがその基は「制御アーム」と言う単なる「金属棒」です。
このパーツを発見して作業するのがイヤになってしまいました。実はヤシカ製オールドレンズ「AUTO YASHINON-DX」シリーズでもこの仕組みが採用されており、現在に於いて自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) の不具合が多発しているのです。このような「金属棒」の曲がり方で絞り羽根の動き方を変更するという安直な仕組みを設計してしまったために経年で制御アームが変形してしまいどうにもこうにも絞り羽根が正しく動かないのです。
そのような個体が市場にはたくさん出回っており、当方で過去に整備した「AUTO YASHINON-DX」シリーズの実に4割が改善できないままジャンク品としてヤフオク! で出品しています。それほど厄介な部分がこの「制御アーム (金属棒)」です。左下の切り替えキーの場所には鋼球ボールが填って自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) がカチカチと切り替わる動作をします。またツマミの取付場所も用意されていますね・・。
絞り環を組み付けた状態で撮影しています。やはの絞り環の内側に「溝」が刻まれており「絞り値キー」と言います。この溝に鋼球ボールが填ってカチカチとクリック感を実現しているワケです。
マウント側から「絞り環用固定環」をやはりイモネジ (3本) を使って締め付け固定します。この固定環の固定位置をミスると絞り環の操作時に絞り値とクリック感が一致しないばかりか最悪開放側や最小絞り値側まで絞り環が回らなくなってしまったりします。今回の個体も当初の状態でクリック感を感じる位置が僅かにズレているのを確認しています。
当初オールドレンズ単体の状態で確認した際に絞り羽根の開閉に関わる不具合が出ていた原因が上の写真の解説です。絞り連動ピンとの連係で動くアームを撮影しているのですが「捻りバネ」が組み付けられています。本来この捻りバネは真っ直ぐなのですが過去のメンテナンス時にペンチを使ってムリに曲げられている箇所が複数ありました。しかもキッチリ曲げてしまったので (角が付いている) その部分が経年で既に錆びているのです。従って今回この捻りバネを正しい形状に戻そうと考えたのですが錆びている部分からポロンと折れてしまったら大変です。仕方ないのでそのまま使いました・・申し訳御座いません。
このアーム部分は右と左の2本のアームがひとつにまとめられているのですが、その中心にある留め具が既に緩んでおり、結果として左右のアームにガタつきが生じています。本来は水平位置のままでそれぞれが動かなければイケナイのですがビミョ〜に1mmほどの範囲で上下方向にブレます。これが絞り羽根開閉時の不具合を引き起こしている原因です。
残念ながらリベットのような方法で打ち込まれている留め具なので左右のアームにガタつきが生じないように改修することができません。このまま使用することになります・・大変申し訳御座いません。
結局数時間を掛けて調整を試みましたがオールドレンズ単体の状態では自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) を「M (手動)」に設定した場合、絞り羽根の開閉は絞り値「f8」から先には絞り羽根が閉じません。「開放〜f8」までは正しく開閉しますが「f8〜f22」の間は絞り羽根は「f8」のままで動きません。その原因となる箇所が上の写真のブルーの矢印で指し示した部分です。もう少し内側に弧を描いて曲がっていればアームが正しく押されて絞り羽根の開閉がコントロールできるハズなのです。ところが今回の個体は先の説明のとおりアーム自体にガタつきが生じているのでその影響からここのカーブを改善させても絞り羽根が正しく開閉してくれません。
アームのガタつきが結果として絞り羽根の開閉動作に支障を来しているワケです。今回のオーバーホールでは仕方ないので自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) は「A (自動)」の状態にセットしたままご使用下さいませ。絞り連動ピンが押し込まれている限りは絞り羽根が正しく動作します。逆に言うとマウントアダプタ (ピン押しタイプ) 経由装着される場合には自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) の設定は「M (手動)」でも「A (自動)」でもどちらでも構いません。絞り連動ピンが必ず押し込まれるので影響を受けないからです。
根本的な原因は先の「捻りバネ」を曲げてしまったのが拙かったワケですが折れてしまったら大変なので今回はいじっていません・・申し訳御座いません。もしもご納得頂けないようであればご請求額より必要額を減額下さいませ。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
レンズ銘板の「TOMINON」の位置はレンズ銘板自体が前玉の固定環そのモノなので位置調整することはできません。指標値環の「Ι」マーカーに対して必ず6時の位置に来てしまいます (それがオリジナルの状態です)。
光学系内の透明度が非常に高い個体です。各群のコーティング層は経年劣化が相応に進んではいますがまだまだ10年は問題なくご使用頂けると思います。光に反射させて覗くと極微細な薄いヘアラインキズが数本浮かび上がりますがコーティング層に付いているヘアラインキズなのでLED光照射では視認できません (つまり光学硝子レンズ自体に付いたヘアラインキズではない)。
光学系後群も透明度が大変高いです。カビ除去痕が1点残っていますが前述のとおりコーティング層の経年劣化があるので敢えてガラス研磨は行いませんでした。申し訳御座いません。
ここからは鏡胴の写真になります。
塗布したヘリコイド・グリースは「粘性:重め」をご希望により塗りました。当初生じていた絞り環のガタつきも改善させてあります (現状ガタつき無し)。トルクは全域に渡って「ほぼ均一」ですがネジ山の状態がそれほど良くないので (過去のメンテナンス時に白色系グリースが塗られていたためグリースが乾燥してしまい摩耗しています) グリス溜まりが生じて時々トルクが極僅かに重く感じたり擦れている感触を感じる箇所があります。距離環を回しているうちに改善されますが再発することもあります (最短撮影距離 (1.5m) 附近でトルクが変わるのはヘリコイドのネジ山の摩耗に拠るものなので改善はできていると思います)。また距離環を回していると内部から何かが当たって擦れている音 (と感触) が聞こえてきますが、これも前述のアームとの関係によるモノなので改善させようとすると「A (自動)」でも絞り羽根が正しく動かなくなってしまいます。現状どうしようもありません。もしもご納得頂けなければこちらも減額下さいませ。
マウントアダプタ (ピン押しタイプ) 経由装着されるならば自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) の設定はいずれでもOKです。絞り羽根は正しくちゃんと駆動します。もしもフィルムカメラに装着されるならば「A (自動)」にスイッチをセットしてご使用下さいませ。そうすれば問題なく正しく機能します。
当レンズによる最短撮影距離1.5m附近での開放実写です。今回のオーバーホール/修理ご依頼誠にありがとう御座いました。