◎ Canon Camera Co. (キヤノン) CANON LENS 35mm/f1.8《Sレンズ》(L39)
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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。
今回完璧なオーバーホールが終わってヤフオク!出品するモデルは、国産は
Canon製広角レンズ・・・・、
『CANON LENS 35mm/f1.8《Sレンズ》(L39)』です。
ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ! Слава Україні! Героям слава!
上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。
Slava Ukrainieie! Geroyam Slava!
今回完璧なオーバーホールが終わってヤフオク! 出品するモデルは、当方がオーバーホール作業を始めた14年前からの累計で、当時のCanon製広角レンズ域で「L39マウント規格品」だけで括ると3本目ですが、Sレンズシリーズの開放f値:f1.8は初めての扱いです。
ッて言うか、たまたま直近で広角レンズ域モデルばかりに集中していますが(汗)、当方は基本的に広角レンズ域のオールドレンズにあまり関わりたくありません(汗)
その理由は、レトロフォーカス型光学系 (いわゆる逆望遠型) 中心のモデルばかりなので、光学硝子レンズの枚数が多いこと、さらに前玉が大口径なのに後玉のほうになると10㎜代の小径サイズばかりで、清掃時に見えません(汗)
要は描写性の問題や画角の好き嫌いではなく、あくまでも整備する時の面倒臭さから関わりたくない気持ちが大きいのです(笑)・・そもそも描写性能や画角に構図などなど、凡そ当方は「写真スキルが皆無」なので、気にする話以前のレベルです(恥)
↑例によって「極度のカメラ音痴」ともなれば、そもそも今回扱うモデルの存在すら知らなかったほどで、上の図はキヤノンのカメラミュージアムからの引用になります (当方により構成図など手を加えています)。
上の光学系構成図は、今回のオーバーホールで完全解体した際、光学系の清掃時当方の手によりデジタルノギスを使い逐一全ての光学硝子レンズを計測したトレース図なので、まさに実装しているその実態を正確に表しています (ネット上に多く掲載されている構成図を引用しての、そのままのトレースとは別モノです)。
従ってネット上を探索しまくって、登場時期の背景や描写性能などの情報を手に入れるところから始めたワケですが、そこで思わぬ言い回しに遭遇しカチンッと来てしまい、調べる方向性が完全にひっくり返ってしまいました(汗)
いわゆる今ドキ流行りの「インデックス→解説→レビュー記事→写真掲載→まとめ」と言う、サクッと情報共有するが如く (きっと) 個人のブログ掲載なのでしょうが、そこで述べられていた言い回しが酷する・・と言うか、あまりにも雑・・なので、キッチリ名誉挽回に務めるべきと決心した次第です。
逆に言うなら、こういう「型にハマったレビュー記事を嫌う人種」はむしろ外国人であって(笑)
海外の方々は、自身の独自性をとても大切に表現しようと努力を惜しみません。それに反してニッポン人は、もうすぐ戦後80年という時の流れを経ているにもかかわらず、相変わらずの「迎合主義」張りで(笑)、サクッと周囲から好まれることに価値観を見出す、或る意味「協調と迎合を理解しようと試みない」どうしようもない風習が今も残っている民族です (その方向性から述べるなら、日本に帰化したいと一度は決心して住んでみても、最終的に肌に合わずに仕方なく帰国してしまう外国人も相応に居るのがリアルな現実)。
・・その言い回しとは???
当方がカチンッと来たのは、まさに今回扱うモデルのレビュー記事だったのですが、そもそもこの当時の国産「L39マウント規格品」オールドレンズは、どのメーカーも挙って「ライカコピー」であり、模倣した光学系であり、パクリモノの如くまるで貶しているかのような言い草に受け取れる内容だったのです。
確かに今回扱ったモデルのネット上での評価を調べると「日本製ズミクロン」或いは「35㎜ではこれ以上無い写りの銘玉」と囃し立てられているのは承知していますが、だからと言ってそこにライカ製「Summilux 35mm/f1.4」をあてがって「コピーした光学系」の如く罵るのは・・はたして今回扱うモデルが大好きな皆さんが観たら、どのように思うのか考えた時、ちょっと黙って居られなくなりました!
ライカ製モデルが唯一の孤高の存在なのだと言いたげなのは分からないでもありませんが、だからといってCanonの「Sレンズシリーズ」をコピー製品の如く扱うのには、甚だ抵抗感が強いです。
そこで今回は徹底的に「それを言うならSummicronだってパチモンじゃないか!」との根拠を挙げて、Canonの「Sレンズシリーズ」の名誉挽回を図ると同時に、ライカコピーの本質を正したいと思います (決してSummicronを罵る気持ちはありませんし、やはりライカが孤高の存在なのは間違いありません)。
・・狙いは、こういうサクッと評価して、今ドキを着飾るアホどもをヤッつけるためです!
少なくとも、貴重な自分の人生の相応の時間を賭して、意義を抱き、目標を掲げて情熱一筋に「天文学的莫大な計算をこなして仕上げた光学設計者の開発履歴」を、そんなひと言に吐き捨てられたのでは堪ったものではありません (と怒り心頭です)!
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↑上の図は、いわゆる巷で8枚玉と揶揄される、ライカ製「Summicron 35mm/f2」の実装光学系に関する特許出願申請書の登録データからの引用です。参照した特許出願の発明案件を時系列で昇順に並べ替えています。
逆に言うなら「Summilux 35mm/f1.4」の光学系構成図を持ってきて「ほらコピーじゃないか!」とヤルのがそもそも大きな間違いなのに、それに全く気づいていない恥ずかしいヤツです(笑)
第一光学系の設計とは、必ずしもそのように近似した設計からだけがルーツに該当するものではありません。近似した光学系構成図をあてがって、あ~だこ~だ騒ぎ立てて、煽りまくっているほうがよほど低俗です (どうして恥ずかしいと思わないのでしょうか)(笑)
←左図は、キヤノンの光学設計者「向井 二郎」氏による特許出願申請書です。
⓿ 『DE1095539B (1955-01-14)』ドイツ特許省宛て出願
まさに今回扱う『CANON LENS 35mm/f1.8《Sレンズ》(L39)』の実装光学系に関する発明案件との推測に至ります。
すると「向井 二郎」氏は、特許出願に際しこのタイミングでどんな既知の発明案件を参照していたのでしょうか???
「参照」と言うのは、別のコトバで表現するなら「引用」にあたります。それは自身の発明
・・発想経緯の概念・・のいったいどの要素が「既知の発明に抵触するか」を明示することでそれを活用していることの告知を意味し、その価値と実績を尊重する意志の表れを表明している「客観性の確保」に他なりません。その意味で一般的に言うところの「模倣」や「パクリ」とは一線を画す考え方であり、そのような失礼極まるコトバで貶すのは、それら発明者を罵るのと同じ行為ではないかと、当方は強く、本当に強く思いますね・・だから『低俗だ』と言っているのです。
↑・・氏が参照していたのは、上のたったの2つの案件だけです!(驚)
❶ 『US2611295A (1951-06-14)』米国特許庁宛て出願
→ Eastman Kodak Co. Willy E. Schade (ウィリー・シャーデ)
特許出願申請書の記述を読むと、最小絞り値:f11.4~f11.5辺りを目指した映画撮影用レンズとして発明しているようで、特にバックフォーカスを勘案した際に課題として残る斜め球面収差の改善に着目しているようです (要は像面が合致せず解像度不足に陥る問題)。
❷ 『US2171641A (1936-09-02)』米国特許庁宛て出願
→ Ernst Leitz GmbH Max Berek (マックス・べレク)
当方の受け取りとしては、そもそも広角域の「Summicron光学系」の始祖を示すのは、まさにこの光学設計の発案ではないかとみています(汗)
特許出願申請書の記述を読むと、ガウス型対物レンズとトリプレット型光学系の特徴を組み合わせている発明であると述べ、光学系前群にガウス型を配置し、絞りユニットを挟んで後群側にはトリプレット型要素を組み合わせているものの、それを超越する役目として追加で単独の要素を組み合わせることで、球面収差とコマ収差の改善に奏しているとの記述です。そして特に後群側のこの3枚貼り合わせレンズ (トリプレット化/集合体とも記述) の特に両凹レンズには、非常に高い屈折率の硝子材が求められ、それによる結果として球面収差、コマ収差、非点収差、歪曲収差に像面歪曲に対して良い結果を示すとの実施例に臨んでいます。
するとこれらの参照案件から見えてきたのは「Summicron系どころか、もっと遥か昔に登場していた発明案件からのルーツ」なのが間違いなく、前述のブログでの言い回しや・・「Summilux 35mm/f1.4」の光学系構成図をあてがうのがまるで違っています(笑)
その一方で、では本家8枚玉たる「Summicron 35mm/f2」の特許出願申請書の記述がどうなっていたのかを辿ったのが、まさに冒頭の参照一覧です。何故なら「Summilux 35mm/
f1.4」が登場したのは1960年であるものの「Summicron 35mm/f2」のほうは数年早い1958年発売だからです。
↑とにかくカチンッときたので(笑)、徹底的に全ての参照案件を洗いざらい列挙しますが、その説明は注目するモノだけに絞ります (なにしろ当方は光学知識皆無なので解読するのが大変)。
❶ 『US3006249 (1957-10-01)』米国特許庁宛て出願
→ Ernst Leitz Canada Ltd. Walter Mandler (ヴァルター・マンドゥラー)
この特許出願申請書が8枚玉「Summicron 35mm/f2」の発明案件と推定できます。するとこの案件は「視野角62°を目指した高速広角対物写真レンズ用の発明である」旨の記述からスタートし「絞りユニットを挟んで互いに4つの凹メニスカスレンズを配置し、そのうち正負の要素で一対を成す」としており、先ずは前後群で対称型である前提を明示しています (記述の多くが実施例を示す数値なので、当方の頭ではとても追いつけない)(恥)
❷ 『US2828671 (1956-04-10)』米国特許庁宛て出願
→ Nippon Kogaku KK. 村上 三郎氏
驚いたことに、この巷で銘玉と囃し立てられているライカ製広角レンズの実装光学系の発明に際し、その参照先にしているのがNikonの「村上 三郎」氏発明の案件だと言うのです!(驚)
・・凄いと思いませんか???!!!(驚)
記述を読み進むと「理論上、開放f値:f1.1を実現し得る、色収差、球面収差、コマ収差、非点収差、且つ像面歪曲も最小限に抑えられる、広口径対物写真レンズの実施が可能」とまで明示しています(驚)
当時、日本の光学メーカーの多くがライカの光学設計をパクっていたとの指摘は、この実例からしても該当しないのが歴然ではないでしょうか・・少なくとも頭が悪い当方にはそのように受け取れてしまいます(汗)
さらに下段に移って❺~❼については、英国はTaylor, Taylor & Hobson社に在籍していたHenry Gordon Cook (ヘンリー・ゴードン・クック) 氏による発明案件になり、いずれも前後群で対象型に配置する6つの構成で色収差、球面収差、コマ収差、非点収差、且つ像面歪曲と歪が改善できると記述しています。
そして最後下段右端こそが核心的な発明案件へと誘います。
❽ 『US213076 (1936-05-05)』米国特許庁宛て出願
→ KAPELLA Ltd. Arthur Warmisham (アーサー・ウォーミィシャム)
彼の「4群6枚オピック型光学系」を発明した、Horace William Lee (ホレス・ウィリアム・リー) が独立後、自身の会社KAPELLA Ltd.を創設した後の発明であり、在籍していたArthur Warmisham (アーサー・ウォーミィシャム) 氏による特許出願申請書です。
この発明の目的は「視野角45°~50°を実現し、開放f値:f2以上の高速、且つ平坦性のとれた対物写真レンズ」と記しており、それが意味するのはまさに広角レンズとしか言いようがありません(汗)
何故なら、当時戦前~戦時中に最も利用されていたのはレンジファインダーカメラであり、そこにはバックフォーカスが必要になるクィックリターンミラーも存在せず「標準レンズ域の光学設計活用で広角レンズ域まで対応できていた」からであり、もっと言えば当時の標準レンズ域の視野角が「35°辺りから」と捉えるなら、決して広角レンズ域も不可能ではないとの妄想にハマります (光学知識皆無な当方の妄想範疇に留まります)(汗)
なお「4群6枚オピック型光学系」を発明した、Horace William Lee (ホレス・ウィリアム・リー) 氏に関する解説は『Summarit 5cm/f1.5《1956年製》(L39)』のページ冒頭で詳説しています。
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以上の参照特許出願案件の履歴から辿れる話は「キヤノンがパクったのではなく、ライカもパクっておらず、すべては既知の発明案件の一部を参照し、或いは改善を目指して活用しているにすぎない」ことが理解できないでしょうか・・特許出願申請書を提出してまで自身の発明案件を主張するのは、自らの権利を明示しているワケで、その一方でその活用を決して妨げず、阻害せず、将来へのさらなる革新的発展に資するべきと願い、それは「まさに発明家の情熱そのもの」ではないかと、頭が悪い当方には受け取れるのです(汗)
なお、そもそも敗戦時ドイツが所有していた特許権は、戦前にまで遡って占領統治した連合国により「戦時賠償の一貫」として、凡そ70%について剥奪しており、それを同じ敗戦国でありながら占領統治した米国により一切の特許権を剥奪しなかった当時の敗戦国日本は、それらドイツ特許をどのように参照し活用しようが罪に問われなかったのは言うまでもありません。それゆえバルナック判ライカコピー機のモデルが様々に発売されようとも、特許権侵害裁判沙汰にされなかった背景がちゃんとあります(笑) むしろ連合国側が有する特許権に抵触する場合など、当然ながら当時から裁判沙汰になっています・・これこそがライカコピーの正体であり、同じコピーの文句であってもその実が全く異なります。
・・それをパクっているとか、単にコピーしているとか貶める言説のほうがより低俗です。
ちなみに敗戦した日本を占領統治したGHQ (General Headquarters) も含め、連合国軍最高司令官の任に就いたのが有名なDouglas MacArthur (ダグラス・マッカーサー) 司令官であり、欧州での敗戦国ドイツが戦争終結時に政府とその機構のほぼ全てが既に破綻し壊滅していたことから、戦時賠償能力に充たないとの判定を下し、前述のとおり特許権まで戦前に遡って剥奪しました。
それに反し、敗戦時の日本は政府も省庁も何もかも機能したまま自らの意志で降伏してきたことに、米国一国による占領統治を米国自身が非常に強く進言し、特に日本の半分を占領統治する権限を有すると主張した当時の旧ソビエト連邦政府と軍に対し、時の米国Harry S. Truman (ハリー・トルーマン) 大統領が自ら徹底的に抗議し日本全土の占領統治を確実にしたのは、結果的に日本が糸魚川を挟んで電源周波数が異なるのまで残されたまま、安寧に戦時処理を進められた背景の一つではなかったかと研究していて強く思うところです(汗)
その結果、同じ敗戦国ながらドイツだけが戦時賠償の請求は厳しく、一方で自ら進言し率先して戦時賠償に臨んできた日本との立場の違いを明確に表し、直近に迫っていた旧ソ連軍の南下政策、特に朝鮮半島の問題から、即座に疲弊した日本工業/経済、そして商業の再生に力を注いだのは、奇しくも敵国だったハズの米国であり、後の日本高度経済成長の足がかりを築いたとも言えそうです。
このような敗戦時の背景こそが、写真機業界ひいてはフィルムカメラやオールドレンズの発展、或いは既知の特許権活用に関しても活発に、盛況に進められ、その中でドイツから剥奪された戦前まで遡る膨大な発明案件は、日本の光学製品に於ける発展の道筋の中で即戦力として採り入れられ、且つさらなる革新的技術へと昇華していったように思うところです(笑)
おそらくは当時の日本の光学技術に目をつけていたのは、当の米国のほうであり「軍需産業、ひいては兵器開発面での即効材料」の如く、焚き付けていたようにすら見えてしまいます(笑) その一方で工業商業全ての面で復活するには、敗戦国ドイツのほうはだいぶ時間を要したのではないかと受け取れます。
いったい何がどう影響して、その後の歴史の流れを大きく変えてしまうのかは、きっと誰にも分からない話なのでしょう。
↑上に挙げた光学系構成図は、いずれも当方の手によるトレース図です。
◉ 左:Canon製「CANON LENS 35mm/f1.8 (L39)」(今回扱った個体)
◉ 中:Ernst Leitz Wetzlar製「Summilux 35mm/f1.4 (L39)」(以前扱った個体)
◉ 右:Arthur Warmisham氏「US2130760A」特許 (特許出願申請書の図面からトレース)
左と中央のみ、オーバーホールの為に完全解体した際に当方がデジタルノギスを使い実測した計測値からのトレースです。「Summilux 35mm/f1.4」のみ、後群側3枚貼り合わせレンズは内部に「空気レンズ層を含む」光学設計の為、白抜きの図面表示にしてあります。
なお今回の扱いで非常に難儀したのはこの色付した光学系後群側第3群の問題です(涙)
←左図はキヤノン光学設計者「向井 二郎」氏の特許出願申請書掲載図面からのトレースですが、この「後群第3群のカタチ」がトラブルの原因でした(涙)
色付の光学系構成4枚め凸メニスカスがヤバイのです!(涙)
ネット上の掲載図も同じで、真に現ブツを撮影したりトレースしている人が誰一人居ないのが問題だったのです(涙)
・・いったい何がヤバかったのか、以下のオーバーホール工程の中で説明していきます。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。完全解体した構造は、ご覧のとおりパーツ点数自体が少なく、多くの構成パーツにこの「Sシリーズ」に共通項的に顕在する設計概念と製品設計を確認できます。その一例を挙げるなら、例えば絞り環操作した時にカチカチとクリック感を実現する構造には「板バネ」を使い、その後の時代に一般的になる「鋼球ボール+反発式スプリング」の組み合わせによるものではない点があります。
(逆に言うなら、この当時の日本国内の多くのメーカーで採用され続けていた原理でもある)
さらにその絞り環と鏡筒最深部に組み込まれる絞りユニットの「開閉環」との連結構造にも「Sシリーズ」共通の設計概念が垣間見え、同じ製品設計者による指揮で開発/量産化が進められていたことを窺えさせます。
その意味でも当時のキヤノンにとり「先代のSERENARシリーズに次ぐ、とても重要な製品戦略の一つだった」ことを彷彿させる、これら構造として受け取れます。
なお、今回これらCanon製「Sシリーズ」モデルは『CANON LENS 50mm/f1.4《Sレンズ:第1世代》(L39)』に『CANON LENS 50mm/f1.8《Sレンズ:第2世代》(L39)』或いは少々前にオーバーホールした『CANON LENS 50mm/f1.2《前期型》(L39)』と続きましたが、はたして製産時点に執られていた処置なのか、それとも過去メンテナンス時の整備者による処置なのかの判定に結論づけできない「疑念」ばかりが増大し、そもそものキヤノンの設計ミスだったのか、或いは整備者の仕業なのか「その真偽について謎が深まる一方」と言うリアルな現実を迎えています(涙)
・・今回のオーバーホール作業でも、その疑念に挑んでいきたいと思います。
↑先ずは当初バラしている途中の写真の中から、問題箇所について掲載していきます。当初バラす前の確認時点で以下の瑕疵内容がこの個体に現れていました。
《当初バラす前のチェック時に気になっていた内容》
❶ オーバーインフ量が少しあり、無限遠合焦は50m右横位置になる。
❷ 無限遠合焦を調べた時、ピント面の鋭さ感が少々少ない印象。
❸ 鏡胴に極僅かな前後方向のガタつきが残っており都度ピント面の鋭さ感が変化する。
❹ さらに距離環の左右方向/水平方向も僅かなガタつきがありピント面が微動する。
❺ 距離環を回していると再現性が低いが時々トルクムラが現れる。
❻ 絞り環操作した時、マウント部が回ってしまうほど硬いクリック感を伴う。
《バラした後に新たに確認できた内容》
❼ 空転ヘリコイドに白色系グリースが使われており、摩耗が酷い。
❽ 内部構成パーツにマーキングが多く、その数値は2種類確認できる。
❾ 例によって位置決め環の固定に固着剤を使い削れている箇所を確認。
❿ 開閉環にグリースを塗布してごまかしている。
・・こんな感じです。
上の写真はこのモデルが鏡胴「前部」と「後部」の二分割方式なので (Sレンズシリーズは全て同一)、取り外した鏡胴「前部」をヒックリ返し、前玉方向を下に向けて撮影しています。
すると絞り環 (黒色の環/リング/輪っか) に対し「板バネ (左)」と「開閉アーム、及びその受け部のコの字型爪 (右)」が確認できます。ご覧のように相当なレベルで、アルミ合金材パーツの経年劣化進行に伴う酸化/腐食/サビの進行を視認できます。
↑さらにバラしている途中の写真ですが「絞りユニット内部の開閉環 (赤色矢印) に、白っぽいウレアグリースがビッチリ塗られている状況」が確認できました。また鏡筒の一部には「?? 535」と日本人による筆順と推定できる数値がマーキングされています (グリーン色矢印)。
これらの状況は「証拠写真」として撮影しましたが、実は前述した今までに当方が扱ってきた「3つのSレンズモデル」全ての個体に共通的に残っていた状況と全く以て一致してしまうのです(驚)・・マーキングまで (数値こそ違えども) 残している所為が同じなのです。
・・これらの所為はいったいどうして施されているのでしょうか???
そこでさらにその真相を掴むべく「新たな証拠写真」を掲示します。
↑上の写真は光学系後群側の「第3群格納筒」を真横から拡大撮影していますが、ご覧のようにやはり「535」について間違いなく日本人の筆記順でマーキングが施されているものの、その左側の2文字は判読が難しいです・・そして真実は次の写真です。
↑同じ「光学系第3群格納筒」の拡大写真ですが、今度は向きを変えて「遮光環部分が上になる位置で撮影」しているものの、赤色矢印で指し示している箇所に「マーキングした535の文字の終端が、キズとなって露出してしまっている」のが判明します。
そしてさらに問題だったのは、このオレンジ色の矢印で指し示している箇所の「遮光環部分」は、ちゃんと製産時点で「黒色メッキ加工」が被せられていたのに、さらにその上から「反射防止黒色塗料」が塗られていたのです。
今回溶剤を使い剥がしたところ、製産時点を示す黒色メッキ加工が現れ、さらにマーキングによる傷つけだったことまで白日の下に晒される結果になりました(笑)
要はこうです・・「535」とマーキングしたら、その端が遮光環部分にまで到達してしまい/飛び出てしまい (明確なキズに見えるようになってしまった)、分かってしまうので仕方なく「反射防止黒色塗料」を塗って隠した・・と言う次第です(汗)
・・こういうごまかしって、一体何の必要性があってヤッているのでしょうか???(汗)
この事実から、これら数値をマーキングしている所為は「決して製産時点ではなく、過去メンテナンス時の整備者による仕業」と結論づけることが100%確実になりました(汗)
しかも鏡胴の「前部/後部」の別で2つの数値に分かれる為、これらの数値が意味するのは「個体別の管理番号」ではないかと推測でき、要は「良品だけでニコイチされた個体」と捉えることができそうです(汗)
プロの整備会社のくせに、このような「転用を前提とした整備」が横行していることに、非常な憤りを本当に強く、強く感じます!!!(怒) 幾つもの個体を入手して、それらをバラし使える構成パーツだけ転用して合体させる「ニコイチ/サンコイチが当たり前」の整備概念って、まるで信じられません!(怒)
そのクセ、無事に整備/修理が終わりましたと相応の金額を請求して渡しているのでしょう(驚) 知らないのは、修理依頼したご依頼者様だけか、店頭のガラスケースに並んでいたのを購入した顧客だけです!(驚)
・・いったいどうしてこういう所為に「良心的な呵責を覚えない」のでしょうか???
眼の前の個体をバラして修理して改善させるのと、取っ替え引っ替え良品パーツだけで使って合体させて組み上げるのとでは「その内容が違う」と言っているのです!(怒)・・問題なく組み上がって適正に動けばいいじゃないか・・と言う、そういう考え方、概念が当方は大キライです!!!!!(怒)
使う本人が知らないところで、このような「ごまかしの整備」が施されているのは、まるで先般の何処ぞのモーターズの事件のような話で、修理で改善したのかと思いきや、取っ替え引っ替えされてまるで直ったかの如くあしらわれていたなど、それを鵜呑みに信じ込んでいた顧客は・・いったいどういう気持ちになれば良いのでしょうか???(怒)
・・頭にきてしまい、怒りが収まりません!!!(怒)
少なくとも直近で当方が整備した「3つのSレンズ」でどれも同じ所為が講じられていたので同一の整備会社による仕業と推定できますが、でははたしてこれだけのモデルや個体の相違の中で「同一の整備会社の整備になる確率」とは、一体何なのか「???」ちょっと怖くなってしまいました(怖)
・・未だに疑念が晴れないままです(涙)
↑同じように「3つのSレンズ」で共通的に「鏡筒内に固着剤 (褐色) が塗られていた」要素まで100%同一です (ブルー色の矢印)。
さすがモデルを違えれば、それは過去メンテナンス時の整備者による所為ではなく「製産時点を示す証拠」とも捉えられ、前回の整備では「キヤノンの設計ミス」と認識を改めていましたが、今回の個体の整備で再び新たな疑義が現れてしまい「再びの???」です(汗)
↑一つ前の鏡筒内側に「固着剤」を塗るのは、上の写真の絞りユニット構成パーツの一つたる「位置決め環」を固定する目的なのが分かっていますが、その箇所をブルー色の矢印で指し示しており、やはり「固着剤」がこちらのパーツ側にも相応に残っています。
また経年の中でグリーン色の矢印で指し示している箇所に「削れた痕跡」が確認できるため、絞り環との連携により「絞り環操作時に削れてしまった」ことが窺えます。
ところがその削れている箇所が「位置決め環の内側オレンジ色の矢印の位置まで続いている」となると話は変わります(驚)
するとこの削れ痕が意味するのは「絞り環との連携で開閉環が回った時に削れてしまった」のは「あくまでも結果の話」であって、その根本は「位置決め環を固定していた箇所/位置が適切ではなかった」ことを表し、だからこそ開閉環の駆動域を超えてもなお削れていたのです(汗)
結果的に「はたして位置決め環の固定位置をミスるような所為が製産時点に執られていたのか???」と言うシンプルな疑念に繋がってしまいました(汗)
↑上の写真は問題の「位置決め環」を溶剤で洗浄し、当方の手による「磨き研磨」まで終わった状態を撮影しました。
・・ところがこのタイミングでようやく真実が判明しました!(驚)
ブルー色の矢印で指し示している箇所の他の「3つのSレンズ」に共通的に残っていた「イモネジ用の下穴」が存在しないのです!(驚)
この「位置決め環」は鏡筒最深部に落とし込んだ後、鏡筒の横方向から「2本のイモネジを使い締め付け固定する」工程を経ます。
◉ イモネジ
ネジ頭が存在せずネジ部にいきなりマイス切り込みが入るネジ種で
ネジ先端が尖っているタイプと平坦なタイプの2種類が存在する。
大きく2種類の役目に分かれ、締め付け固定位置を微調整する役目を兼ねる場合、或いは純粋に締め付け固定するだけの場合があります。
ところが一方で右側に赤色矢印で指し示している箇所には「明確にイモネジを締め付けた痕跡が2つ残っている」のを発見でき、するとブルー色の矢印で指し示している箇所の1つだけ残る「イモネジの締め付け痕」が意味するのは「製産時点ではなかった」ことを表すとしか考えられません。何故なら、製産時点の工程で締め付けたり、締め付けなかったり、或いは固着剤で代用するなど考えられないからです。
そして上の写真が「真実を示す証拠写真」と指摘できる最大のポイントは「赤色矢印で指し示している箇所に2つ残るイモネジの締め付け痕」であり、これが意味するのは「絞り羽根が閉じる際の閉じ具合が、製産時点と2回めの整備に於いて変わっていたことを示すまさに証拠そのもの」であり、こればかりは製産時点ではないと100%断言できてしまいます!(驚)
つまり絞り環操作した際に、製産時点よりも絞り羽根が「閉じすぎていた」のか「開きすぎていた」のかは分かりませんが、少なくとも適切ではない時期が一定期間あったこを意味しています。
さらにグリーン色の矢印は開口部の端から端まで到達していましたし、オレンジ色の矢印で指し示している箇所の削れ痕もさらに伸びていました(汗)
これらの事実から、この「位置決め環」の固定位置が全く以て不適切だったことを表し、しかもそれを「固着剤」でごまかしていたことが確実視されます(驚)
詰まるところ残る疑念は、これだけの個体数を一手に引き受けていた整備会社が本当に存在するのかと言う話です(汗)
↑上の写真はなかなかショッキングな写真ですが(笑)、光学系第3群3枚貼り合わせレンズのコバ端を拡大撮影しています。着色されていた「反射防止黒色塗料」の一部が汚く溶けていたので (グリーン色の矢印)、全て剥がしている最中の撮影です(笑)
・・どうしてこのように「反射防止黒色塗料」がとけたのかは「???」です。
また赤色矢印に塗られていた「反射防止黒色塗料」とブルー色の矢印で指し示している箇所の「反射防止黒色塗料」は、互いに種別が違います。
↑上の写真 (3枚) は、光学系後群側の前出「3枚貼り合わせの第3群」を拡大撮影し、様々な角度からどのように3枚の光学硝子レンズを接着しているのかを撮影しています(汗)
↑光学系第3群、3枚貼り合わせレンズのり面側の反対側を拡大撮影しました。ご覧のようにブルー色の矢印で指し示している箇所には、何と「バルサム剤がハミ出てきている」ではありませんか!!!(驚)
・・この上から「反射防止黒色塗料」を塗っていたワケです。
↑このタイミングでようやく (頭が悪い当方は気づいて)「汚れ状や蒸着コーティング層の経年劣化と認識していたのは、実はバルサム切れだった」と受け取りを更新し、赤色矢印で指し示しています (今さらです)(汗)
何しろ特許出願申請書の掲載図面やネット上の光学系構成図が示す「第3群の3枚貼り合わせ状況と各構成レンズの接着位置」を鵜呑みにしていた自分が悪いのです!(涙)
もっと早いタイミングで気づくべきでした・・この個体の第3群は「バルサム切れまみれ」だったのです(涙) せめてもの言い訳を許してもらえるなら、この第3群の外形サイズは「僅か
⌀ 18.92㎜」しかないので、よく見えていなかったのです(汗)・・ハイ、言い訳になりませんね (ゴメンナサイ)(涙)
↑結局、剥がすハメに陥りました・・いや、いったい3枚の貼り合わせって、どうやってヤレばいいの???・・と言う世界が待ち受けています(笑)
赤色矢印のように先ず剥がしたのは3枚張り合わせの一つ「構成6枚目の光学硝子レンズで凸メニスカス」であり、冒頭の色付けで 色付部分の光学硝子レンズです(汗)
残念ながらこの後は「頭が真っ白」になってしまい、写真撮影すら失念してしまい、ひたすらに「3枚貼り合わせって、どうやるの???」と考えまくっていた、本当に長い時間に突入します(涙)
↑全ての光学硝子レンズ (ッて言うか、これから光学清掃が待っていますが) を並べて撮影しています。問題となる「第3群」の再接着も終わりました(汗)
↑同様ヒックリ返して裏面側を撮影しています。赤色文字が光学系前群を意味し、後群側をブルー色文字としています。またグリーン色の矢印で指し示している方向は「前玉の露出面側方向」を表します。
前の写真を撮影する前の時点で「頭が真っ白」に陥った理由は、上の写真「第3群」の上部に見えている小さな「構成4枚目の凸メニスカス」がポロッと外れてしまったからです (上の写真撮影時にはもう既に再接着が終わっている)(怖)
やはりバルサム剤が浮いていたので、外れる寸前だったのに、触ってしまった当方が悪いのです(涙)・・後悔しても仕方ありません。とにかく剥がしてしまった以上「3枚を元どおりに復元するため、張り合わせるしか道は残されていない」と言う、まさに背水の陣を張る運命が待っていた次第です(笑)
・・笑えます(涙)
従って上の写真2枚は既に2日が経過している中で、やっとのことで3枚貼り合わせを完遂し、任務終了と言うところで、お祝いの記念に皆んなで集合写真を撮ったところなのです(涙)
・・何しろ、初めての3枚貼り合わせですから(怖)
↑今一度光学系構成図を見て下さいませ。左が特許出願申請書の掲載図面からのトレース図で、右が今回の個体をバラした際の計測値に基づくトレースです (いずれも当方の手によりトレースした作図です)。
前群のカタチや厚み/曲がり率の相違は別にして、3枚貼り合わせレンズたる「第3群」だけが問題です。
先ず最初に自分で剥がした 色付の構成6枚目は「凸メニスカス」です。従って自動的に 色付の構成5枚目は「凹メニスカス」と言う話になりますね。そして 色付構成4枚めも (自分で剥がしたのではなく、ポロッと外れましたが) やはり「凸メニスカス」です。
ここで「頭真っ白」の理由は、構成4枚めの 色付「凸メニスカス」が、次の「凹メニスカス」に角ばってカチッとハマっていなかったからです!(驚) 「構成」と言うコトバは、入射光の入り口である前玉側方向からの構成枚数を数えていった時に何枚目なのかを表します。
従って絞りユニットを挟んで前玉側方向を「光学系前群」と呼び、絞りユニットの背後から続くのを「光学系後群」と呼ぶので、今回のモデルで言えば「4群7枚構成」と言う表記になります。
もう一度左のトレース図をよ~く見て下さいませ。 色付「凸メニスカス」のコバ端が角ばっていて、差し込んだ時の位置が確定しているように見えるのです。
・・これに騙されてしまいましたね(涙)
リアルな現実は「単にコバ端まで湾曲面が続いていただけ」と言う、まさに右図のデジタルノギスで計測した構成図の状態だったのです(涙)
・・何を言いたいのか???
つまり、この構成4枚めの 色付「凸メニスカス」は、次の「凹メニスカス」に差し込んでもツルツル動いてしまって、或いは回ってしまい「水平垂直を全く維持してくれない」と言う、バルサム剤を注入して固定するにも「位置が定まらない」と言う、まさに前代未聞の境遇に追い詰められてしまったのです(涙)
・・こんなことになるなら、買わなければよかった!(涙)
3日間、悩みに悩みましたね(涙)・・3日めにしてようやく「もしかしたらこうしたら上手く固定しながら接着できるかも???」との微かな期待を繋げる方法を思いつきました(汗)
結局2日前に「治具の作成」に取り掛かり、1日めは失敗し・・要は再接着を試したが、接着が固まってから実写すると光軸ズレまくりで気持ち悪くなるくらいの写り・・になり、2日めに全く別の治具を制作してもう一度剥がしてから、ようやく完成に至ったのです(涙)
・・都合、5日間費やして、この第3群だけに没頭していたワケです(笑)
確かにこのおかげで「3枚貼り合わせレンズの再接着に光明を得た」感がありますが、ハッキリ言ってもぅ二度とヤリたくないです(涙)
・・だから皆んなで記念撮影しました(祝)
何しろ光学系後群側で、しかも3枚の貼り合わせレンズの中の1枚めであり、この構成4枚めが極僅かでもズレれば「光軸どころか写真すら見られるレベルにならない」のは自明の理です
・・いったいどうやって水平垂直を担保して芯出しするのか???(笑)
これは治具を造らない限り不可能だと悟り、それを考えまくっていた次第です(笑)・・寝ていても夢の中で治具を考えていましたね (当方の大変ありがたい特技です)(笑)
ちゃんと夢の中で考えていた治具を造り、試せるのですからありがたくない、助からないワケがありません!(笑) その夢の中で、1発目で失敗した治具の問題点を総ざらいして、それを克服しつつ新たな手法で治具を用意して臨んだ次第です。
・・もちろん起きてからそのとおり作成して試したのですが(笑)
↑なお上の図は「球面レンズのカタチ」を解説しており、光学系内の光学硝子レンズのカタチは凡そこれらのどれかに該当します (もちろん外形サイズや厚みに曲がり率などは任意です)・・
ちなみに入射光の透過する方向を黒色矢印で示しています (左から右に向かう方向)。
すると例えば❶ 両凸レンズは、表裏面の曲がり率 (膨らみ具合) を別にして、垂直方向での中心から左右に互いに突出している時点で「両凸レンズ」と呼称します。その表裏面での突出の度合いから一方が「平坦」の場合に❷や❸の呼称になります。
また「メニスカス (meniscus)」はレンズのコバ端 (上の図では上下方向の端部分を指す) とレンズの中心部分の厚みを比較した時の度合いを基に「中心>端:凸メニスカス」と呼称し(❹)
その反対を意味する「端>中心:凹メニスカス」と呼びます (❺) (メニスカスの詳説はこちらwikiに説明されています)。
そして 色付のグループを指して「凸レンズ系」を表し、一方 色付が「凹レンズ系」を意味します。
・・いずれも曲がり率が任意であることを前提にすれば、分かり易いと思います(笑)
従って入射光の方向性に対して「左から右に向かう透過」なら、その時に「凸平レンズ」と言われれば「前玉側方向が凸で後玉側方向の面が平坦」だと、すぐにレンズの向きが確定し理解が進むワケです(笑)
なお一部には「両平レンズ」と言う、要はまるで両面のガラス板のような光学硝子レンズが存在しますが、これは入射光/波長の分散を逆手に活用した概念で、実際に前後玉として使っていたりする光学設計があります (球面レンズではないので上の一覧には載らない)。
↑ここからはオーバーホール工程の解説に移ります。絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。他の「3つのSレンズ」同様、内外全ての面で光沢がある微細な凹凸を伴う梨地メッキ加工です (俗に言うサテン仕上げとは凹凸の形状が別モノです)。
↑絞りユニットを構成する「位置決め環 (左)」と「開閉環 (右)」です。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
◉ 絞り羽根開閉幅
絞り羽根が閉じていく時の開口部の大きさ/広さ/面積を指し、光学系後群側への入射光量を決定づけている
↑鏡筒最深部に絞りユニットがセットされます。もちろん今回のオーバーホール工程ではこの時に冒頭で問題視した「固着剤」など入れません(笑)
逆に言うなら「固着剤」無しでも問題なく組み上げられ、適正な絞り環操作にまで仕上げられるのが分かったので、やはり製産時点に「固着剤」を注入していなかったと今はみています。
↑完成した鏡筒を下向きに置いて撮影しました。鏡筒は全面に渡り光沢がある微細な凹凸を伴う梨地メッキ加工です。
↑当初バラす前段階のチェックでマウント部が回るほど絞り環操作が硬かったのですが、右に並べた絞り環の内側でグリーン色の矢印で指し示している箇所が、左側鏡筒の赤色矢印箇所に直接接触しながらセットされる仕組みです。
従って今まで扱ってきた「3つのSレンズ」とは少々異なり、今回の場合はグリースを塗布する費用性が起きます・・何故なら、他の3つとは異なり、接触面積が同一だからです (これによりグリースを塗布する想定で設計しているのが分かるから)。
ブルー色の矢印で指し示している箇所には、前述の数値マーキングが見えています(笑)
↑制御系パーツを組み付けます。もちろん絞りユニット内部にもグリースを塗らないので (当たり前の話) ご覧のようにコの字型の爪との連携は素のままです(笑)
↑「絞り値キー」の各絞り値に見合う位置に刻まれている「溝」の間隔は不均等であり、且つこの真鍮材/ブラス材パーツを締め付け固定するネジ穴にはマチが備わらず、微調整できないのが明白ですから、調整するのは「板バネ側の話」と言う道理に至ります(笑)
・・つまりここでカチカチとのクリック感を調整します(笑)
↑この後は光学系を清掃してから組み込めば鏡胴「前部」が完成するので、ここからはヘリコイド群たる鏡胴「後部」の組立工程に移ります。
赤色矢印で指し示している箇所は「空転ヘリコイドが格納される平滑面」です。
↑マウント部内側にも数値マーキングが刻んでありますが、こちらの数値は「3704」と、やはり日本人の筆順が分かり、数値の相違から別個体からの転用との懸念が高くなります (赤色矢印)(汗)
❶ 空転ヘリコイド用封入環
❷ 空転ヘリコイド
❸ 距離計連動ヘリコイド
❹ 距離環ローレット (滑り止め)
❺ ヘリコイドメス側
❻ マウント部
↑こんな感じで組み上げていきます。既にヘリコイドグリースを塗布済みです(笑)
↑空転ヘリコイドが組み込まれる際に「平滑性が担保されるべき箇所」をグリーン色の矢印で指し示しており、当然ながら既に当方の手による『平滑研磨』によって処置済みです・・普段処置している『磨き研磨』とはまた違う処置/研磨です。
なおブルー色の矢印で指し示している箇所が「直進キー」です。
◉ 直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目
◉ 直進キーガイド
直進キーが直進動でスライドして移動するガイド/溝であり鏡筒の繰り出し量をカバーする
ここからは完璧なオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
↑完璧なオーバーホールが終わりました。3枚貼り合わせレンズの再接着で、本当にどうしようかと焦りまくりでしたね(泣)
↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。
3枚貼り合わせレンズも一旦剥がしてから (外れたと言うべきだが) 再接着したので、本当に驚異的な透明度に戻りました(驚)
1点だけ目立つように上方に写っているのは「おそらく気泡」ではないかとみていますが、
もしかしたら点キズかも知れません (拡大すると気泡のように見える)。
◉ 気泡
光学硝子材精製時に、適正な高温度帯に一定時間到達し続け維持していたことを示す「証」と捉えていたので、当時の光学メーカーは正常品として「気泡」を含む個体を出荷していました (写真に影響なし)。
↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
↑後群側もスカッとキレイになり、LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です。本当に涙ぐましいくらいの努力により、治具まで造るハメに陥りましたが、3枚貼り合わせレンズがキッチリ収まり、鋭い解像度の描写性に戻っています(涙)
↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
なお3枚目の写真に円弧を描いた筋状に写っているのは、撮影時の映り込みでキズではありません。
【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:8点、目立つ点キズ:4点
後群内:19点、目立つ点キズ:12点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:なし、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内僅か)
(前後群内に極微細な薄い最大8mm長数本あり)
・バルサム切れ:なし (貼り合わせレンズあり)
(3枚貼り合わせレンズ再接着しています)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・光学系内は透明度が非常に高いレベルです。
(LED光照射で確認しても極薄いクモリが皆無)
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
↑10枚の絞り羽根もキレイになり、絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正十角形を維持」しながら閉じていきます (途中カタチが変わります)。
また当初硬すぎた絞り環操作もとても軽い操作性とクリック感に戻っています。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度+軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感で距離環を回す時のトルクの印象は「普通」人により「重め」に感じ「全域に渡り完璧に均一」です。特にピント合わせ時は距離環を掴んでいる指の腹に極僅かなチカラを伝えるだけで微妙な前後動が適い正確にピント合わせできる素晴らしい操作性を実現しています。
・距離環を回すとヘリコイドネジ山が擦れる感触が指に伝わります(神経質な人には擦れ感強め)。
・なお距離環を早めに回すと設計上の問題からトルクムラのような抵抗感を感じますが、操作しているうちに解消します(内部空転ヘリコイドの厚みに対し距離環の厚みが数倍に長い為)。事前告知済みの為クレーム対象にしません。
【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。
上の写真撮影で、撮影時にミスッて絞り環の基準「●」マーカーがf22位置に来ていますが、ちゃんと開放位置に合わせられます。
↑今回のオーバーホール済でのヤフオク! 出品に際しセットした附属品の一覧です。
《今回のヤフオク! 出品に際し附属するもの》
❶ 純正樹脂製被せ式前キャップ (中古品)
❷ 本体『CANON LENS 35mm/f1.8《Sレンズ》(L39)』
❸ 純正樹脂製ネジ込み式L39後キャップ (中古品)
❹ 汎用樹脂製ネジ込み式SONY E前キャップ (新品)
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
被写界深度から捉えた時のこのモデルの無限遠位置を計算すると「焦点距離:35㎜、開放F値:f1.8、被写体までの距離:27m、許容錯乱円径:0.026㎜」とした時、その計算結果は「前方被写界深度:14m、後方被写界深度:∞m、被写界深度:∞m」の為、20m辺りのピント面を確認しつつ、以降後方の∞の状況 (特に計算値想定被写体の30m付近) をチェックしながら微調整し仕上げています。
・・一言に無限遠位置と述べてもいったいどの距離で検査したのかが不明瞭ですね(笑)
↑当方所有RICOH製GXRにLMマウント規格のA12レンズユニットを装着し、ライブビューで無限遠位置の確認等行い、微調整の上仕上げています。その際使っているのは「Rayqual製変換リング (赤色矢印)」です。無限遠位置は「∞」刻印ピタリの位置でセットしています。
(写真に写っているGXRやA12レンズユニットにRayqual製変換リングは今回の出品物には含まれません)。
あくまでも当方での確認環境を明示しているに過ぎません。
↑当レンズによる最短撮影距離1m付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。
↑f値「f11」です。だいぶ絞り羽根が閉じてきている為「回折現象」の影響が現れ始めています。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。
◉ 被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。
◉ 焦点移動
光学硝子レンズの設計や硝子材に於ける収差、特に球面収差の影響によりピント面の合焦位置から絞り値の変動 (絞り値の増大) に従い位置がズレていく事を指す。