◎ PENTACON (ペンタコン) PRAKTICAR 50mm/f1.8 MC《前期型》(PB)

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※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません

オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載しています)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)


PENTACONのブランドのロゴにもなっている「ERNEMANN TOWER (エルネマン・タワー)」がそびえ立つ、戦前ドイツDresden (ドレスデン) 市で1889年創業のカメラメーカー「ERNEMANN-WERKE (エルネマン工場)」全景です (1925年当時のカタログ掲載図)。

ERNEMANNは後の1926年にはZeiss Ikonの設立母体にも参画し、1945年以降本社工場はそのままZeiss Ikon本社として使われ、その後PENTACONへと引き継がれたのでZeiss Ikon含め社の象徴的な建物として今も現存しています。現在はタワーがあるビル一角のみですが、ちゃんと隣接棟への連絡橋まで残っています (さすがに煙突は無い)。当時最大規模の時は、地下1階まで含み12階建てだったようですからその全景は壮観な眺めだったのではないでしょうか (今も12階建てですがタワーの階数が違う)。右写真はGoogleMapで前の道路から見上げた写真です。

ちなみにPENTACONブランドのロゴマークにこの「ERNEMANN TOWER」が使われていますが、元のエルネマンのロゴは右図になり全く別です。また ネット上で「エネルマン」と案内されている事が意外と多いですが、正しくは「エルネマン」だと思います・・。

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ドイツは敗戦時に旧ソ連軍と連合国軍によって占領され、国が二つに分断されました。ソ連軍が占領統治したのがドイツ民主共和国 (旧東ドイツ) であり (左図ピンク色)、連合国側であるアメリカ・イギリス・フランスが分割占領統治した国がドイツ連邦共和国 (旧西ドイツ) になります (ブルー色)。

ところがベルリンは旧東ドイツ側に位置しており (左図の緑色の矢印) 旧東ドイツの首都になりました。一方旧西ドイツの首都はボンになるので旧西ドイツ側なのですが、ベルリン自体も連合国側と旧ソ連によって分割統治することが決まりました。

そして後の1961年には「ベルリンの壁」が登場します。意外と「ベルリンの壁」がぐるりとベルリン全体を覆っていたかのように認識している人が多いのではないでしょうか・・。

実際にはベルリンも2つに分断されており、連合国側の管轄地であった「西ベルリン」側が「有刺鉄線」によってグルリと囲まれていたのです。それもそのハズでベルリンが旧東ドイツの中に位置していたことから囲まれていたのは実は「西ベルリン」だったワケですね(笑)

そもそも「ベルリンの壁」が建設されたのは戦後すぐではなく1961年であり、東西ドイツの経済格差がより顕著になってきたことから旧東ドイツから旧西ドイツ側への逃亡者が多くなり敷設された壁だったようです (初期の頃は有刺鉄線のみ)。ちなみに、西ベルリンもアメリカ・イギリス・フランスの3カ国による分割統治になります。

旧東ドイツは共産主義体制ですから「私企業」の概念が存在せず、すべての企業は国に従属した企業体でした。この企業体を指して様々なサイトで「人民公社」と解説されますが、どちらかと言うと「人民公社」は中国のほうが当てはまります。

旧東ドイツでは、敗戦後の初期に於いては「人民所有経営 (Volkseigene Betriebe:VB)」と呼ばれ後に「人民所有企業 (Volkseigener Betrieb:VEB)」に変わります (以降、最小単位の企業体として使われ続けた呼称)。ちなみに旧ソ連も社会主義国家ですが企業体を指して「国営企業」と呼称しています (専門に研究している方の論文を読んで勉強しました)。

上の一覧は、旧東ドイツが敗戦時からスタートした国の共産主義体制確立と同時に様々な産業工業再建のために策定された「計画経済」であり、その中で特にCarl Zeiss Jenaを中心にまとめたのが上の表です。

敗戦時からすぐに様々な企業体が分野別にVEBの集合体として国に接収されますが、その中でオールドレンズが関わっていたのは「光学精密機械VVB (局)」です。
(人民所有企業連合:Vereinigung volkseigener Betriebe)
当初は国の直轄管理で分野別に各局の隷下で各VEBがバラバラに集められ連合化していましたが、共産主義体制の確立に手間取り経済格差が拡大し、ついには旧東ドイツから旧西ドイツへの逃亡者が増大した為に1961年8月13日未明から「ベルリンの壁」敷設が始まっています。

そして、1967年にようやく国の産業工業体系図に局から独立した「光学機械製造コンビナートVVB」が登場し、そこにとりまとめ役として初めてCarl Zeiss Jenaの名前が登場します。この時点でCarl Zeiss Jenaは、既に17企業体 (VEB) を手中に収めており、従業員数は44,000人に上っていましたから、それまでに多くの光学メーカーを吸収合併していたことになります

また翌年の1968年には州/県を跨いで統括指揮できる「コンビナート令」が公布され、光学機械製造コンビナートVVBではCarl Zeiss Jenaの絶大なる権威が名実共に確立しています。ここで注目するべきは、実はCarl Zeiss JenaではなくPENTACONのポジショニングです。当時PENTACONはCarl Zeiss Jena配下のVEB格付のままであり、特にオールドレンズの開発/生産に苦慮していました。一方敗戦後に運悪くどう言うワケか軍需産業VVB (局) に編入されてしまったMeyer-Optik Görlitzは、軍需用光学製品を生産する傍ら民生用光学製品の開発/製造も続けていましたが、念願の光学精密機械VVBへの編入を、自社工場をCarl Zeiss Jenaに売却してしまうことで達しています。

ここがポイントで、自社工場をCarl Zeiss Jenaに統合されてしまったMeyer-Optik GörlitzはCarl Zeiss Jena配下のPENTACONへと製品供給が義務づけられますが、経営難から脱することができずMeyer-Optik Görlitzは1968年ついにPENTACONとの吸収合併により統合され長い歴史の幕を閉じます。
従って、1970年以降オールドレンズのレンズ銘板にはMeyer-Optik Görlitzの刻印が消えてPENTACON銘で生産されていくことになります。

そしてPENTACONも4つの企業体を吸収 (従業員数:8,500人) しながら1975年にはVEK (Volkseigenes Kombinat:コンビナート) に昇格しますが、最終的に経営の建て直しには至らず1981年にとうとうCarl Zeiss Jenaに吸収統合され消滅していきます。第六次5カ年計画中の1981年時点では、肥大化したCarl Zeiss Jenaしか残っていなかったことになりますね。

つまり、Carl Zeiss Jena製オールドレンズは、吸収統合していった様々な光学メーカーの技術を飲み込みながら結実していったオールドレンズであることがご理解頂けると思います。その中にはMeyer-Optik Görlitzの技術があり、同時にPENTACONへと引き継がれ、最後はCarl Zeiss Jena製オールドレンズとして何かしらの匂いを漂わせるだけだったのかも知れません。

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長々とMeyer-Optik GörlitzとPENTACONとの繋がりにCarl Zeiss Jenaのポジショニングを 合わせて解説しましたが、実は今回のモデルはこれら3社との関係が強く残っています。

↑上の一覧は今回の掲載にあたりネット上でサンプルをピックアップして調査した「製造番号をもとにしたモデルの展開」です (サンプル数68本)。

するとご覧のように大きくPENTACONとCarl Zeiss Jenaの2つの系統に分かれ、且つ光学系の再設計から (最短撮影距離の相違から) 3つに分類されるのが分かります。

これはよくネット上で間違った案内がされている「思い違い」の因果関係にも繋がりますが、着目するべきは「最短撮影距離」です。最短撮影距離が異なれば必然的に光学系が変わるので (再設計されるので)、モデルバリエーション上は別のモデルになります。

上の一覧はそれを「製造番号から検証した」ワケですが、圧倒的に多く市場流通しているのは 部分の「最短撮影距離45cm」モデルです。すると途中で製造番号がMAXに到達してしまい再び4桁にリスタートしているのが分かります。一方Carl Zeiss Jena側も製造番号がMAXに到達してしまいやはりリスタートします (PANCOLARモデルでリスタートしている)。

本来「M42マウント」のほうでMeyer-Optik Görlitz製標準レンズ「Oreston」から吸収合併後「PENTACON」モデルへ引き継ぎ、その発展系としてバヨネットマウント「PBマウント」へと展開していきます。また同様にCarl Zeiss Jena側も標準レンズ「PANCOLAR」モデルの展開が同時進行になる為、1981年以降PENTACONの吸収合併後は「ベルリンの壁崩壊事件」勃発までの極短い期間に限定して「バヨネットマウント化したPANCOLARモデル」の製産が混在します。

従ってご覧のとおり「PRAKTICAR (プラクチカー)」シリーズは同じバヨネットマウント化した「PBマウント」だとしても、モデルバリエーション上は2つの系統に分かれ3つのモデルが存在していたことが納得できます。

何を言いたいのか?

このようにオールドレンズは「当時の背景」を理解しながらモデルの考察を進めていかないと「見えてこない」事が自明の理です。Meyer-Optik Görlitz製標準レンズ「Oreston」から 継承した光学系であるが故に「最短撮影距離33cm」なのであり、且つその発展系として「最短撮影距離45cm」が同じ4群6枚ダブルガウス型構成で登場しています。一方「最短 撮影距離35cm」モデルは別系統である点のヒントになり、それは時代背景を知っていれば自ずと「PANCOLAR」のその後なのだと理解できますね(笑)

上の一覧はそれを検証する一つの手法として「製造番号」を使ったワケです。ちなみにCarl Zeiss Jenaは製造番号「1199xxxx」でMAX値到達しますが、PENTACON側はおそらく「899xxxx」がMAX値なのだと考えます (吸収合併していても製造工場は旧来のPENTACON工場のままだから)。またモデルバリエーション内で製造番号が跨いでいる理由は「複数工場による並行生産」だからであり、同時に「事前製造番号割当制」だったが為にバリエーションを跨いで製造番号が混在していると考察しています。

なおこれらMeyer-Optik Görlitz製標準レンズ「Oreston」及びその継承先「PENTACON」モデルに関する詳細は「PENTACON auto 50mm/f1.8 MULTI COATING (M42)」で解説 しているのでご参照下さいませ。

モデルバリエーション
オレンジ色文字部分は最初に変更になった要素を示しています。

前期型1980年発売

コーティング:マルチコーティング
最短撮影距離:33cm
光学系:4群6枚ダブルガウス型構成
マウント規格:バヨネットマウント (PB)

後期型

コーティング:マルチコーティング
最短撮影距離:45cm
光学系:4群6枚ダブルガウス型構成
マウント規格:バヨネットマウント (PB)

PANCOLARからの発展系

前期型1980年発売

コーティング:マルチコーティング
最短撮影距離:35cm
光学系:5群6枚変形ダブルガウス型構成
マウント規格:バヨネットマウント (PB)

このように3つの系統として別れますがの「最短撮影距離35cm」のみ「後期型」の存在がまだ検証できていません。ちなみに発売年度「1980年」は新たにバヨネットマウント化された一眼レフ (フィルム) カメラ「PRAKTICA B200」発売年度を、オプション交換レンズ群の 登場時期とみています (取扱説明書から判定/セットレンズだから)。

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上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

描写の特徴
このモデルの実写自体が少ないので、且つモデルバリエーション上のどのモデルなのかが不明な為、なかなか描写の特徴を特定できません。しかしこのモデルに共通して言える特徴は下段左端のダイナミックレンジの広さです。明暗部の潰れに耐性があり、且つグラデーションが滑らかに滲んでいくので非常に自然な画造りです。さらに発色性としてご覧のように独特な濃い赤色を発色し、且つこの空の色合いを出せるのがさすがに旧東ドイツ製オールドレンズの特徴だと考えています (例えば旧西ドイツ製オールドレンズだと鮮やかな空の色合いになる)。

また人物撮影で標準レンズでありながら、このようにとてもリアルな表現性で上手く人肌を 表現できる特徴があるモデルは、意外と少ないですね。

光学系は4群6枚の典型的なダブルガウス型構成です。右構成図は今回 バラして光学硝子レンズを清掃した際に、当方がデジタルノギスを使い
1枚ずつ計測した実測に基づくトレース図です。


右図は某有名処で掲載している構成図のトレースですが、同じ4群6枚 ダブルガウス型構成としても第1群の曲率/厚みなどからしてビミョ〜に違いがあります。

またそう言うとSNSで批判されるので(笑)、取り敢えず某有名処の掲載図が「」であり、当方が計測した実測値に基づくトレース図は信憑性が低いのであてにしないで下さいませ (誹謗中傷メールはご勘弁下さい)(笑)

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。今回の扱いが 初めてのモデルですが、いつものように過去メンテナンス時の整備者の所為で「そこいら中に固着剤」状態で、しかもマウント部の爪の固着剤が相当厄介で、おかげで完全解体まで時間がかかってしまいました (4回目の加熱処置でようやくバラせた)。

ハッキリ言って、以下のような問題があるのにどうしてここまで執拗な「固着剤塗布」に拘るのか?!(怒) 世の中の整備会社の整備者は大いに反省してもらいたい!

アンタらのやっていることは自己満足に過ぎない!

【当初バラす前のチェック内容】
 距離環を回すトルクが重すぎてピント合わせできない。
ヘリコイドグリース経年劣化の進行に伴うトルクムラ発生。
絞り羽根開閉幅が不安定 (時々引っ掛かる)。
絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) 微調整が不適切で閉じすぎている。
光学系内にカビ発生。
オーバーインフ量が酷く (故意にワザとズラしてある) 1.5目盛分ズレ過ぎの状況。

【バラした後に確認できた内容】
過去メンテナンス時「白色系グリース」を上塗りしている。
ヘリコイドグリース経年劣化進行で一部スカスカ状態。
 絞り羽根開閉機構部の微調整ミスあり。
ヘリコイド (オスメス) ネジ込み位置ミス、及び無限遠位置微調整ミス。

・・とまぁ〜こんな感じでいろいろ問題点がありますが、上記は経年劣化は一切関係 なく「過去メンテナンス時の整備者のミス」です。それにもかかわらずマウント部の爪を締め付け固定している「締付ネジ (4本)」の執拗な固着は相当頭に来ましたね!(怒)

何故頭に来るかと言えば、その使っていた固着剤が「グリーン色の固着剤」だからです。整備している方はご存知ですが、この色合いの固着剤は現在市場流通しているタイプで、過去メンテナンス時のタイミングは「極最近の整備」であると考えられます (おそらく10年以内)。
もっと古い時代に流行っていた固着剤は「赤色」ですから色合いで大凡判断できます。

↑上の写真は当初バラし始めて (固着剤が酷く解体できずにやっとバラせた) 取り出したヘリ コイド (オスメス) のまだ溶剤洗浄する前の状況です。

ご覧のとおり過去メンテナンス時には「古い黄褐色系グリース (オレンジ色矢印)」を洗浄して除去せずに、その上から「白色系グリース (グリーンの矢印)」を塗り足しています。その塗布された「白色系グリース」は既に経年劣化進行に伴い「濃いグレー状」に変質していますが、よ〜く観察するとさらに古い時代に塗られていたであろう「黄褐色系グリース」のほうが
むしろちゃんと黄色っぽい色合いのまま残っています (オレンジ色矢印)。

この「濃いグレー状」は何かと言えば、真新しい無色透明な溶剤に綿棒ですくい上げて浸すとすぐに分かりますが「サラサラと微細な金属粉」が底に沈殿します。

そうですね「ヘリコイドのアルミ合金材の摩耗粉」なのです。

ところがもっと古い時代の「黄褐色系グリース」のほうがちゃんとそのまま残っています。
この「事実」を今ドキの整備会社の整備者の人は、どう反論するのですか?

しかもこのように種別の異なるグリースを混ぜて塗ってしまう「グリースの補充」と整備会社が呼んでいる処置が施されていますが、はたしてこれッて正しい処置だとマジッに信じてやっているんでしょうか?!(怒)

確かに「白色系グリース」なら均質なトルクですぐに仕上がるので最も費用対効果が期待できますが「経年劣化進行が早い/液化進行まで早い」点を理解してやっているなら「まさに確信犯」ではありませんか?!(怒)

本当に頭に来ます!

こんな整備会社の整備者がプロだともて囃されて、真面目に本来あるべき姿に拘ってやっている当方が貶められている現実に、本当に嫌気が射しますね。しかしそれが現実であり、実際に信用/信頼が無いからこそSNSで批判の嵐なのだから仕方ありません(笑)

この現実を真摯に受け止め、ひたすらに技術スキル向上に努めるしか皆さんに認めて頂ける 方法はありません(涙)

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。確かに旧東ドイツのPENTACON工場で切削されているアルミ合金材の鏡筒ですが、ご覧のとおり決して粗雑な切削レベルではなくちゃんと精度を保って造られていますから、ネットや特にヤフオク! で信用/信頼が高い出品者の謳い文句である「旧東ドイツ製だから精度が多少甘いのは仕方ない」などと言うことはありません。

断言できますね・・(笑)

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

左写真はこの鏡筒 (ヘリコイド:オス側) の最深部にセットされる
絞りユニット」の構成パーツを並べて撮影しています。

するとその中に「開閉環」なるパーツが含まれています。この「開閉環」に刺さっている絞り羽根が角度を変えるので閉じたり開いたりしている仕組みです。

左の写真は別のモデルでPENTACON製標準レンズ「PENTACON auto 50mm/f1.8 MULTI COATING (M42)」から取り出した同じ役目の「開閉環」です。

すると「開閉アーム」なる金属棒が打ち込まれていますが、その軸部分はグリーンの矢印のとおり「穴に単に打ち込んでいるだけ」なのでムリなチカラで絞り環操作したらアウトです(怖)

つまりこのような設計の場合、ムリな操作をする事で「穴が広がったら開閉アームがグラつく原因になる」のが容易に理解できると思います。

すると「開閉アーム」が極僅かでもグラグラしたらどうなるのか? 答えは簡単で「絞り羽根 開閉異常」に陥り最小絞り値まで閉じないか、或いは完全開放しないか何かしら不具合に至ります。

しかしそれを改善させる事ができません何故なら一度摩耗して広がってしまった穴は二度と 元には戻らないからです。従って前述のモデルで「絞り羽根開閉異常」が既に起きている個体の場合は、残念ながら修理できずに「製品寿命」と言う事になりますね(怖)

何を言いたいのか?

この「開閉環」の設計 (ひいては絞りユニットの設計) から、当時既にPENTACONの設計技師がこの問題点に気が付いていた事を示しているのではないかと考察しています。ほぼ同一の光学系を実装しながら絞りユニットの設計をワザワザ変更してきたワケですから、そこには何かしら理由があったハズです。

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。この絞りユニットには「絞り羽根開閉幅微調整機能」が附加されているので、この段階でもう既に絞り羽根の適切な開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) にセット済ですが、最終的には組み上がってから実写確認でチェックするしかありません。

↑完成した鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を立てて撮影しました。写真上側が前玉側方向になります。すると解説のとおり1箇所だけ「直進キーガイド」なる「」が備わっていますが、ここでのポイントは「1箇所だけ」と言う要素です。

つまりこのモデルはトルクムラの発生が神経質だと言わざるを得ません。何故なら鏡筒の繰り出し/収納を司るのが1箇所だけなので (普通は両サイドに2箇所なのに) 全てのチカラの伝達がここに一極集中するからです。

↑完成した鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を今度はひっくり返して裏側を撮影しました (つまり後玉側方向からの撮影)。すると1箇所だけ開口部が用意されていて「開閉環」が見えています (赤色矢印)。ここを操作する事で絞り羽根が開閉する仕組みに設計変更していると言いたいのです。

なお後ほど解説しますが光学系後群用のネジ山が写っています。

↑上の写真は光学系前後群を並べて撮影していますが、後群側に「ネジ山」が切削されています (グリーンの矢印)。前群側は「ネジ山が無い」事をオレンジ色矢印で指し示しています。

この違いに気がついたでしょうか?
非常に重要な指摘をしています・・。

↑上の写真は別のモデルPENTACON製標準レンズ「PENTACON auto 50mm/f1.8 MULTI COATING (M42)」の鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をひっくり返した写真です。このモデルの場合は「開閉環に開閉アームが備わっている」ので裏側から飛び出てきています。

グリーンの矢印で指し示した箇所をご覧下さい (3箇所)。この穴には「イモネジ」と言うネジ種がネジ込まれますが「光学系後群がイモネジ締め付け固定」である事を解説しています。

何を言いたいのか?

今回扱う『PRAKTICAR 50mm/f1.8 MC (PB)』の描写性について「甘い印象の画像」とか「周辺域の収差が酷い」など、ネット上の解説を見ていると指摘している事があります。同様に例として挙げている「PENTACON auto 50mm/f1.8 MULTI COATING (M42)」もそのような話があったりします。

いずれも光学系の一部を「イモネジ締め付け固定」の設計にしてしまったので、過去メンテナンス時の微調整が失敗していて「光軸ズレ/偏心/光路長不一致」など凡そ不適切な所為のまま組み上げられてしまった個体の場合は、本来の描写性能を発揮していません。

例えばこの話で今ドキの整備と比較してみると「光軸ズレの原因になるのでムリに解体せず一部だけ解体して清掃しています」と言って逃げ口上を平然と謳っている事があります(笑)

・・違いますョね?!(笑)

光学系を一部でも外して清掃したなら「必ず検査して光軸/偏心/光路長」が適切か否かチェックする必要がありますョね?(笑)

問題なのは「イモネジだから外さない」なのではなくて(笑)、一部でも外した以上「検査具でチェックして適切に微調整する」責任があるのではありませんか???

何か言っている事とやっている事が一致していないように思うのですが・・(笑)

↑距離環やマウント部が組み付けられる基台です。

↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

まず過去メンテナンス時にこの工程での「無限遠位置のアタリ付け」をミスっているので、組み上がった時にオーバーインフ量が1.5目盛分もズレていたワケです。逆に言えば、ここの工程ミスをごまかす為に距離環の固定位置をズラして、それらしく∞位置でセットしたのでオーバーインフ量が多い結果に仕上がっているとも言えますね(笑)

↑鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で7箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑この状態でひっくり返して裏側を撮影しました (つまり後玉側方向からの撮影)。すると解説のとおり「直進キーガイド」に対して既に「直進キー」が刺さっているので鏡筒が繰り出されたり/収納したりします。

しかし1箇所だけなので全てのチカラがここに一極集中しますから「トルクムラ発生原因の 根源」でもあります。

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

↑鋼球ボールを組み込んでから絞り環をセットします。なぜだか理由は分かりませんが、このモデルは絞り環だけが梨地仕上げのマットなメッキ加工です(笑)

↑マウント面に「電気接点端子」が出てくるので、ここでその端子を組み付けて「制御環」をセットしたところです。この「制御環」に附随する「絞り連動レバー」が絞り連動ピン内部の「開閉環」に刺さるので、絞り羽根開閉が実現できる仕組みですね (ブルーの矢印)。

上の写真では絞り環の設定絞り値が「f16」なので、ちゃんと最小絞り値「f16」までキレイに閉じきっています。

↑マウント部をセットします。当初赤色矢印の「」を締め付け固定している締付ネジ (4本) が完全固着しており全く外れなかったワケです。さすがに4回も「加熱処置」する事はあまり多くありませんね(笑)

↑距離環を仮止めしてから光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

↑前述のとおりこのモデルの場合は「光学系後群側はネジ込み式の設計」に変わっています。

なお当初バラす前の状態で「絞り羽根が時々引っ掛かる」現象が起きていた原因は、この「絞り連動レバー」の微調整を過去メンテナンス時に行っていないからです (本来微調整が必要なのに固着剤だけで済ませているからダメ)。

つまりは過去メンテナンス時は「原理原則」を理解していない整備者だった事がこれで明白です(笑)

↑さて出てきました(笑) この環 (リング/輪っか) がこのモデルの描写性能が堕ちてしまう因果関係を作っている部分で「光学系前群をイモネジ (3本) による締め付け固定で格納する設計」だからです。

ここのイモネジの締め付け具合をミスるから「甘い描写/光軸ズレ/偏心/光路長異常」が起きます(笑)

どうしてなのか未だに分かりませんが、Carl Zeiss JenaがPENTACONを吸収合併していながらも、実際の製品設計はPENTACON技師に一任されていたようで、この「イモネジによる光学系の固定」と言う手法は、連綿とMeyer-Optik Görlitz時代からず〜ッと受け継がれて続いた設計です。

ある意味「必要悪」な概念なのだと知っていながら続けていたのでしょうか?!(笑)

おかげでいまだにMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズもPENTACON製も共に光学系の面倒くさい微調整が憑き纏います(泣) それは例え一部でも光学系を取り外して清掃したら、ちゃんと検査して適切にしないとダメですね (組み上げ後の実写確認だけではダメ)(笑)

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑当方は一応ちゃんと簡易版ですが検査具を使って光学系をチェックするので、不適切なら再びバラして光学系の格納をイジっていますから、たいていの場合鋭い本来の描写性能まで改善できています。但しそうは言っても、光学系内のコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリの発生やカビ、或いは経年のキズなどはそのまま残ってしまいます。

↑ありがたい事に、今回の個体は光学系内の透明度が非常に高い状態を維持しており、LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。

↑光学系後群側もLED光照射で極薄いクモリが皆無ですが、後玉表面側には経年の拭きキズなどが僅かに残っています (写真には一切関係ない話)。

↑当初バラす前のチェック時点で時々引っ掛かっていた絞り羽根の開閉動作も小気味良く確実に機能しており、絞り環共々適切な状況です。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正六角形を維持」したまま閉じていきます。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」の「粘性中程度軽め」を使い分けて塗布し「全域に渡って完璧に均一なトルク感」で仕上げています。距離環を回すトルクは「普通」人により「重め」に感じる印象です。

このモデルは設定絞り値をマウント面から「電気接点端子」で伝達しているので、その抵抗値を取り込む基板が内部にある為、絞り環操作と共に距離環の駆動時もその基板との接触が続くのでトルクに対してその分重みが架かってしまいます。

これは設計上の問題なのでどうにも改善できません。申し訳御座いません・・。

↑今回初めて扱いましたが、当初バラすのに相当大変な想いをしたので(笑)、のっけからイライラがマックスに達していた為に余計な話をしてしまいました(笑) オーバーホール自体は完璧に仕上がっています。

当初は上の写真のようにフィルター枠部位からのキレイな流線型で距離環まで流れていなかったので (カクカクした感じ)、これが正しい組み上げ状態ですね(笑)

キレイでしょ・・?!(笑)

当方は特にこの距離環のラバー製ローレット (滑り止め) が「肉球」みたいな感触で大好きですッ!(笑) プクプクしていて触っていて気持ちいいです(笑)

もちろん中性洗剤を薄めて使い、ちゃんとキレイに洗浄したあるのでローレット (滑り止め) も経年の手垢が消えてキモくないですョ(笑)

距離環のトルクがちょっと「重め」な印象なのは、前述のとおり基板との接触が原因 (そう 言う設計なので/基板からの端子が反発を受けているチカラが伝達されているから) 改善でき ません。

申し訳御座いません・・。

この件、もしもご納得頂けない場合は大変お手数ですが「減額申請」にてご申告の上、ご請求額よりご納得頂ける分の金額を減額下さいませ。減額の最大値 (差し引く金額) は申し訳御座いませんがご請求額までとし (つまり無償扱い)、当方による「弁償」などは対応できません。

筐体外装の刻印文字のうち「白色文字」だけが洗浄時に褪色した為、視認性向上の為に当方で着色しています。

無限遠位置 (当初バラす前の位置から適正化済/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離33cmでの開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f4」になりました。

↑f値「f5.6」で撮っています。

↑f値「f8」になっています。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。絞り羽根が閉じきっていてもほほ「回折現象」の影響を視認できないレベルなので、このモデルの光学系は相当なポテンシャルを持っていると評価できます。

確かに発色性が好き嫌い分かれるかも知れませんが、むしろ他のオールドレンズでは出し得ない発色性なので (特にあの空のブル〜や濃厚な赤色など)、これはこれでCarl Zeiss Jena製「PRAKTICAR」シリーズも含め当方は揃えたいモデルだと考えていますね。

素晴らしいモデルだと思いますョ・・。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼誠にありがとう御座います。