◎ LEITZ (ライツ / ライカ) MACRO-ELMARIT-R 60mm/f2.8《3カム》(LR)
今回は3本目になりますが、引き続きライカのレンズを出品します。当レンズをバラした際にはレンズの固定環は緩くなっており、マウント部の固定ネジも緩く、最後までキッチリと締め付けがされていませんでした。また内部には既にマーキングの刻みがあり過去にメンテナンスされた痕跡が見受けられます。そして残念なことに前玉の端が一部欠けていました。その欠けている箇所の状態は以下に写真を掲載しています、また念のためにその欠け部分が写真に影響するかどうかを実写にて各絞り値で撮影し掲載しています (このページの最後のほうでまとめています)。
当レンズは製造番号から1983年に生産された3,000本の中のひとつになります。当モデルのモデル・バリエーションとしては全部で大きく3つのバリエーションがあるようですが、当レンズはその第2世代にあたり、全長が短縮化されフィルター「E55」を使うフード内蔵式のモデルです。
1:2撮影が可能なマクロレンズですが、骨太なエッジと共に非常に鋭いピント面を構成し、色乗りの良い発色性と高めのコントラストによりクッキリハッキリの画造りが成されています。しかし画の中に繊細感も漂わせており、さすがライカレンズだと感じました・・。
オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載しています。
今回の個体は鏡筒内の第2群〜絞りユニットまでが外せなかったので、その部位の構成パーツのみバラしていません。
解体したパーツの全景写真です。
ここからは解体したパーツを使って実際に組み上げていく工程に入ります。
構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。
まずは前玉の欠けている箇所の状態です。前玉外周部に幅1cm奥行5mmほどの領域で前玉裏面の欠けが生じています。
上の写真は当初この個体を入手した際に撮影した写真です。前玉と第2群との間 (空間) に欠けた硝子材の破片が落ちていました。
こちらの写真は当方にて前玉の清掃を施した後の写真です。落ちていた破片は除去しました。また欠けている箇所は欠落しているのではなくヒビ割れが入っている状態のようです。破片の分の大きさだけが欠損していました。
少し遠目に撮影するとこんな感じです。ちょうど第2群の固定環に架かるほどの領域が欠けています。
前玉方向から撮影しました。第2群のほうのレンズ径が小さいので、欠けている箇所はちょうど固定環の辺りになっているようです。
同じ位置のまま拡大撮影をしました。こんな感じの欠け方です・・。
【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:12点、目立つ点キズ:4点
後群内:8点、目立つ点キズ:3点
コーティング経年劣化:前後群なし
カビ除去痕:なし、カビ:なし
ヘアラインキズ:前後群に薄く極微細各1本。
・その他:バルサム切れ無し。前玉外周部に欠け(幅1cm奥行5mmほどの領域) あり。
・光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れ、クモリもありますがいずれもすべて写真への影響はありませんでした。
光学系後群はキレイな状態ですが極微細な点キズなどはやはりあります。
上の写真 (2枚) はその極微細な点キズの状態を拡大撮影しています。
光学系の状態を撮影した写真は、そのキズなどの状態を分かり易くご覧頂くために、すべて光に反射させてワザと誇張的に撮影しています。実際の現物を順光目視すると、これらすべてのキズは容易にはなかなか発見できないレベルです。
これらの極微細な点キズは「塵や埃」と言っている方が非常に多いですが、実際にはカビが発生していた箇所の「芯」や「枝」だったり、或いはコーティングの劣化で浮き上がっているコーティング層の点だったりします。当方の整備では、光学系はLED光照射の下で清掃しているので「塵や埃」の類はそれほど多くは残留していません (クリーンルームではないので皆無ではありませんが)。
光学系は前玉と後群のみバラしたので、それ以外の絞りユニットなどは今回は清掃ができていません。しかし特に汚れてもおらず油染みも無いのでそのままで問題ないと判断しました。
ここからは工程を進めていきます。
ヘリコイド (メス側) を組み付けます。このモデルでもヘリコイド (メス側) は「フリーの状態」でグルグルと回転するような仕組みになっています。
この状態でヘリコイド (メス側) の内部を撮影しました。既に「直進キー」を両サイドに組み付けてあります。「直進キー」は距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目なので、当モデルはマクロレンズですから鏡筒の繰り出し量も多く、相応な長さを持っています。
ヘリコイド (オス側) を無限遠位置のアタリを付けてネジ込みました。このモデルでは「無限遠位置調整機能」が装備されており、どのような調整範囲でも調整ができるよう配慮されているので、この段階では大凡のアタリが構いません。
この状態でひっくり返して撮影しました。ここからはマウント部の組み付けに移ります。
まずは絞り環との連係機構部を組み付けます。この連係機構部のパーツがドイツ国内ライカ工場の製品とカナダ工場の製品とで全く同一なので、どちらかが供給しているものと推察できます (当レンズはドイツ製の個体になります)。
「1カム」「2カム」を取り付けました。「3カム」は既に絞り環連係機構部にセットされています。
完成している鏡筒をセットします。この段階で正しく絞り連動機構の噛み合わせを実施し確認しておきます。
上の写真は内蔵フード (写真右側) とマウント部の光学系後群用反射防止パーツです。共に「樹脂製 (プラスティック製)」なのですが、特にマウント部のほうは外すのに相当難儀します。理由は「接着」されているためで、恐らくライカのサービスセンターでは、この部分のパーツを入れ替えているのだと思います。外す時も取り付ける際にもコツが必要なことが今回の整備で判りました。そう簡単には外せません・・。
当然ながら清掃は施していますが、他の金属製パーツと同様に溶剤で清掃してしまうとプラスティック製ですから好ましくないですね。
上の写真 (2枚) は組み上げが完成した出品商品の鏡胴を撮影しました。経年相応の使用感があります。
ここからは組み上げが完成した出品商品の写真になります。
純正の前後キャップ (樹脂製) が附属しています。前キャップはスナップオン方式です。
光学系は5群6枚の変形ダブルガウス型ですから、第2群に2枚のレンズの「貼り合わせレンズ」が位置しています。バルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) の進行も無く、とてもクリアな状態を維持しています。
ここからは鏡胴の写真になります。経年相応の使用感がある個体です。
【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。距離環のトルク感は滑らかに感じ完璧に均一です。ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「実用品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
内部の構成パーツは、ヘリコイドも含めてすべて当方にて「磨き研磨」を施しているので、ほぼ生産時の環境に近づいた状態に戻っています。また、使用したヘリコイドグリースは、距離環を回す際は「僅かに重め」なのにピント合わせをする時は「とても軽いチカラ」でス〜ッと吸いつくように微妙なピント合わせができることを最優先した粘性を選択しています。過去に落札されたオールドレンズやオーバーホール/修理を承ったオールドレンズなど、その後「このトルク感がクセになる」「ピント合わせを意識させないシットリした動き」などとお褒めを頂き、ありがたいことに「リピーター」になって頂いている方々も最近は多く、感謝の念に堪えません・・ありがとう御座います。
整備を施しオーバーホール済として出品します。前玉外周部の欠けが残念ですが、写真への影響も無いようです。当初ガチャガチャしていた「絞り環」も調整を施し、少々スカスカ感のあった「距離環」もグリースの入れ替えで大変滑らかになりました。操作性はとても良くなっています・・。
当レンズによる最短撮影距離27cm附近での開放実写です。ピントは手前のヘッドライトにしか合っていません。
ここからは前玉の欠けを考慮して各絞り値での実写を掲載していきます。
絞り環操作は判断ずつのクリック式ですが、掲載する実写は一段ずつで撮影しています。f値「f8」になります。
最小絞り値「f22」になります。一応前玉の (しかも外周部の固定環辺り) なので、それほどの影響は無いようです。