◎ Tanaka Kogaku (田中光学) TELE-TANAR C. 10cm/f3.5(L39)
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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。
今回完璧なオーバーホール/修理が終わってご案内するモデルは、国産は
田中光学製中望遠レンズ・・・・、
『TELE-TANAR C. 10cm/f3.5 (L39)』です。
ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ! Слава Україні! Героям слава!
上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。
Slava Ukrainieie! Geroyam Slava!
今回完璧なオーバーホール/修理が終わってご案内するモデルは、当方がオーバーホール作業を始めた12年前からの累計で捉えても今回の扱いが初めてです。そもそも製産数が少ない稀少品ゆえ、市場流通数も限られ、そう簡単には手に入らないモデルですので、今回のオーバーホール/修理ご依頼者様に感謝したいと思います・・このような機会を与えて頂き、ありがとう
御座います!(涙)
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戦時中の1940年に東京本所で創設した「光学精機社」と言う光学工房が後のニッカカメラ株式会社の前身ですが (1948年に日本カメラ製作所/1949年ニッカカメラワークスに社名変更/1958年ヤシカに吸収合併)、そもそもCanonの前身たる「精機光学」の元社員7人と共に熊谷源治氏が1930年代に精機光学を退社した後に光学精機社に加わり、さらに1948年にはかつて神奈川県川崎市で創業した「田中光学株式会社」に移りました。
この田中光学にて熊谷源治氏の手により設計されたバルナック版ライカカメラのコピーモデルたるレンジファインダーカメラ「Tanack 35 (Tanack IIc)」が田中光学の最初のフィルムカメラになり1953年に発売しています (右写真はTanack IIc)。
その後、同年「Tanack IIIc」翌年「Tanack IIF、IIIF、IIIS」と続き1955年には「Tanack IVS」を立て続けに発売します。
今回扱ったオールドレンズ『TELE-TANAR C. 10cm/f3.5 (L39)』の発売時期としては謎になっているようですが、1957年に発売されたレンジファインダーカメラ「Tanack SD」登場の頃ではないかとネットでは語られているようです (右写真)。
さらに1958年に「Tanack V3」発売しますが翌年の1959年には倒産してしまいます。
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いつも実写をチェックしているflickriverで写真を探しましたが全くヒットしません(汗) 一部のネット上解説などで多少の実写が確認できますが、なかなかよく写るモデルではないかと思います。
そもそも情報量が少ないのですが、今回の扱いで完全解体してみると光学系は3群4枚のゾナー型構成でした。
右構成図は今回のオーバーホールで完全解体した際に光学系の清掃時、当方の手によりデジタルノギスを使い逐一全ての群の光学硝子
レンズを計測したトレース図です。
この構成図をデジタルノギスを使って計測しながら作図している時に (と言うか既にバラした時点で) パッと閃きました!(笑) 当方にとってとても大好きなシリーズである、Carl ZeissのCONTAREX向け中望遠レンズ「CONTAREX Sonnar 135mm/f4 (black) (CRX)」が実装している光学系の構成図と瓜二つなのです!(驚)
さらにこの中望遠レンズの構成図が思い浮かぶなら、合わせてご案内しなければならないモデルがあります。CARL ZEISS JENA DDR製中望遠レンズ「MC SONNAR 135mm/f3.5《後期型》(M42)」です。
いずれの構成図もオーバーホールで完全解体した際に光学系の清掃時、当方の手によりデジタルノギスを使い逐一全ての群の光学硝子
レンズを計測したトレース図です。
驚いた事に!(驚)、最後に示したCARL ZEISS JENA DDR製中望遠レンズ「MC SONNAR 135mm/f3.5《後期型》(M42)」の光学系第1群前玉の実測値が「ほぼ近似した計測値」に至ったのを、当時計測した時に記録した計測データと今回の計測値を照らし合わせてビックリです (但し外径サイズだけは僅かに異なるものの曲率と厚みはほぼ同じ)(笑) また光学系第2群の2枚貼り合わせレンズもほぼそのカタチは同じです (多少TELE-TANARのほうが短い)(驚)
そこで先日このブログに掲載したばかりの標準レンズ『TANAR H.C. 5cm/f1.5 (L39)』の時の光学系各群の状態を思い出し「???」になってしまいました。
先日の標準レンズも、今回の中望遠レンズも、共に「その実装している光学硝子レンズの完成度の高さ」について、どうして今までネット上で誰も指摘しないのか「???」に陥ったのです (実は先日の標準レンズをバラしている最中に既に???に陥っていたが忘れていた)。
田中光学の創業が1952年として、合わせて当初はシネレンズやファインダーなどを設計し発売していたとの事。1953年〜1959年までの極短期間しか製品を開発し発売しなかったのに「いったいどうして光学硝子レンズの精製レベルが既に完成の域に到達していたのか
???」と言う至極ドシロウト的な疑問です(笑)
例えば栗林写真工業 (ペトリカメラ) のオールドレンズ達が実装している光学硝子レンズのレベルとは次元が違います・・正直、CanonやNikon、或いは当時のOLYMPUSやMINOLTAなどなど、凡そ大手光学メーカーの光学硝子レンズの「質と仕上がりにほぼ互角」と言う現実に「???」だったのです。
逆に言うなら「いったいこの田中光学にはどうして創業当時から硝子溶融解の工場設備が備わっていたのか???」と言う核心的な疑問がフツフツと湧いてしまいどうにもなりません!(涙)・・そのような工場設備 (いわゆる工房レベルの機械設備では全く以て対応できない/適わない) をどうして持っていたのかが不明なのです (誰一人ネット上で解説してくれてません)。
当方にはそのような工場設備を田中光学が所有していたとは考えられないのですが、確かに工場は神奈川県の川崎市に開設当時から倒産時点まで稼動していたようです。しかしいきなり設計してすぐにポンと製品化できるスキルを既に持っていたのかと、或いはそれをそのまま活かせる工場設備が在ったのかとと言う・・至極純粋な疑問です!(泣)
ネット上をいろいろ探っていくと、どうやら熊谷源治氏は、当時のNikonとの繋がりがあったようなので、もしかしたらNikonから光学硝子レンズの供給を受けていたのでしょうか?・・誰か心優しい方がご教授頂けると、心のつっかえがとれてスッキリできそうです(笑)
・・とにかく、実装している光学硝子レンズの品質は既にハンパないレベルです!(驚)
いずれにしても、先日の標準レンズと言い今回の中望遠レンズと言い、その光学設計が旧東ドイツ (或いは戦前ドイツの) 光学系のパテント/特許に非常に近似している点についても相当な興味関心が湧き上がり全く以て尽きません(涙)
↑ちなみに上の並べた写真は当時のCanon製中望遠レンズで、Serenar 100mm/f3.5 I型 (左) とCANON 100mm/f3.5 II型 (右) になり、パッと見で背丈も含め今回扱ったTELE-TANARモデルと非常に近似したサイズと筐体意匠/配置の印象を抱きます。
しかし実は実装している光学系は全く異なり、Canonのこれら中望遠レンズは4群5枚の拡張エルノスター型 (テレフォトフォトタイプ) と言えそうです (右構成図はCanonのサイトからのトレース)。
なお今回も前述の掲載構成図は、当方がデジタルノギスで実際に計測した計測値から起こしたトレース図として光学系構成図を載せているので、いつもどおり「証拠写真」が必要です(笑)
↑上の写真はそれら「証拠写真」として撮影した光学系第2群と第3群を並べて撮影しています・・但し光学系第2群は「アルミ合金材の前群格納筒に一体モールド成形で格納している」状況です。写真上方向が前玉側方向の向きで置いています (第3群も同じ)。
またグリーンの矢印で指し示している箇所は棚状に迫り出ていますが「光学系第1群前玉が格納される場所」なので、この迫り出し箇所までの距離をデジタルノギスで計測すれば自ずと前玉の格納位置も正確に計測できるので、前述のトレースした構成図に至っています(笑)
↑同じように並べたままですが、今度はひっくり返して撮りました。グリーンの矢印で指し示しているのは、第2群の2枚貼り合わせレンズコバ端が相応に幅広なのを解説する為に指し示しています。また第3群は後玉ですが、外側に現れる面の露出面が上を向いています・・以上「証拠写真」でした(笑)
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。構成パーツの種類や点数などは当時の一般的な同分類モデルと同じ範疇に入りますが、先日扱った標準レンズ同様「???」な要素が介在して、なかなか難しい作業に至ってしまいました(涙)・・気にしなければ良いのかも知れませんが、違うモノは違うので無視できません(涙)
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。焦点距離が100mmなのでご覧のように長めの深さになります。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
◉ 絞り羽根開閉幅
絞り羽根が閉じていく時の開口部の大きさ/広さ/面積を指し、光学系後群側への入射光量を決定づけている
↑今回も同様に絞りユニットを構成する重要なパーツである「位置決め環 (左) と開閉環 (右)」を並べて撮影しています (赤色文字)。そして「開閉環」には絞り環と連携する目的/役目の「開閉キー」と言うパーツが刺さる先の「切り欠き/四角い穴」が用意されているのをグリーンの矢印で指し示していますが、実はこの反対側にも同じような穴が用意されています。
↑先日扱った標準レンズ同様に「位置決め環の固定位置が正しいのか否かを調査しているところ」を撮影しています(笑) 上の写真は「位置決め環」を撮っていますが、横方向/側面に残る「イモネジによる締め付け痕」をグリーンの矢印で指し示しています。
◉ イモネジ
ネジ頭が存在せずネジ部にいきなりマイスの切り込みが入っているネジ種 (左写真)
◉ イモネジの有効性
締め付け固定する際に対象となるパーツの固定位置を容易に変更/ズラして固定できる
(但し別の用途で敢えて使う場合もあるので必ずしも微調整を伴うとは限らない)
すると上の写真を見ると分かりますが「全部で3箇所の点状痕が残っている」事になります。しかし当然ながら工場で製産されている時の工程を経て残る締め付け痕は「1箇所だけ」なので、少なくとも過去に2回はメンテナンスされていて「ズレた位置で位置決め環が固定されていた」事が伺えます(汗)
つまり「この3点の締め付け痕のうちどの位置が正しい締め付け位置なのかを調べる必要がある」事を意味しています・・そうしないと絞り環に刻印されている絞り値と実際の絞り羽根が閉じて光学系内の入射光を遮っている時の「入射光の光量」が適正値であるべきなのに、そこから乖離してしまうからです (例えば設定絞り値f5.6で撮ったハズなのに現実にはf8に近かったなど/或いはその逆で絞り羽根が開きすぎていて明るく写ってしまう場合もあります)。
・・いずれにせよ正しい締め付け痕は1点の為3回組み立ててチェックすれば判明する話(笑)
↑絞りユニットを鏡筒最深部にセットし終わり (もちろん正しい位置をちゃんと調べてから位置決め環を締め付け固定済)、完成した鏡筒を立てて撮影しました。写真上側方向が前玉側方向にあたります。
すると鏡筒側面の外壁に数多くの「イモネジ締め付け痕」がやはり残っています(汗) 先ずグリーンの矢印で指し示しているイモネジ用の下穴や締め付け痕は3箇所以上残っていますが「フィルター枠が締め付け固定される時の下穴」です・・見ると分かりますが、一部は横方向に削れて線状に銀色になって残っています (つまり過去メンテナンス時にムリに回して外そうとした時にイモネジと一緒に回ったから削れて線状に残っている事が判明する)(泣)
・・このように残っている痕跡を調べていけば過去にどのような所為が執られたか逐一判明します(笑)
またブルーの矢印で指し示しているのも過去メンテナンス時に締め付けられていた痕跡であり、一部はドリルを使ってちゃんと下穴を開けているのがバレますが、中には単にイモネジを締め付けただけの痕が点状に残っていたりします(笑)・・この位置でイモネジを締め付け固定するパーツは「絞り環」になります(汗)
・・何を言いたいのか???
つまりこれらグリーンの矢印とブルーの矢印で指し示した状況/事実から、過去メンテナンス時に「製産時点とは異なる位置でフィルター枠が締め付け固定されていたり地堀間がセットされていた時期が顕在した」事実が判明します。
ちなみに赤色矢印で指し示しているのは「クリック感を実現している反発力を与える板バネ」ですが、ご覧のように板バネを締め付け固定しているネジ頭が削られています。これは過去メンテナンス時の所為ではなく「製産時点に研磨してその上から被さる絞り環に干渉しないように施してある」事が分かるので、詰まる処「絞り環を回した時のクリック感がカチカチする位置は微調整できないようになっている」事に至ります。
・・これらの事実からクリック位置に合わせて絞り環とフィルター枠の固定位置をずらしていた。
つまり「絞り羽根の開閉角度が変わってしまっていた (製産時点の角度を維持できていなかった) 時期がある事が判明する」次第です(笑)
このように完全解体していく事で一つ一つの「事実」を露わにし、同時にそれらから「観察と考察」を経て何が正しくて何が間違いなのか (或いは過去メンテナンス時の整備者のミスなのか) 突き止め、それを正す事で「本来在るべき姿」として組み立てし上げられる話になりますね(笑)
↑完成している鏡筒を真横から撮影しています。カチカチと絞り環のクリック感を実現している「板バネ」がハマる「溝」を赤色矢印で指し示していますが、この溝を「絞り値キー」と呼びます。前述のとおりこの板バネの固定位置をズラせられないので微調整機能が備わっていない話になりカチカチのクリック位置は固定です。
解説のとおり「開閉キー」が既に刺さっているので、鏡筒内部の絞りユニットに在る「開閉環」と連結しています・・つまりこの部分の環/リング/輪っかが回ると「絞りユニット内の開閉環が回って絞り羽根が閉じたり開いたりする」原理ですね(笑) 従ってこの環/リング/輪っかの上に「絞り環が被さる」次第です。
↑前述したとおり「開閉キーが刺さる穴は両サイドに用意されている」ので、反対側にも「開閉キー」がささっています (グリーンの矢印)。
一方絞り環が被さる場所の下部分を見ると赤色矢印で指し示したように「やはり締め付けてあったイモネジが丸ごと外されずに回して削れている状況」なのが判明します・・ここにはイモネジで締め付け固定されるのは「鏡胴後部側のヘリコイドオス側」になるので、おそらく過去メンテナンス時の整備者は「鏡胴前部を回して外す」のだと考えたのでしょう(汗)
ちなみにブルーの矢印で指し示した場所にあるネジ山が鏡胴「後部」との連結用ネジ山になるので、鏡胴「後部」をネジ込んだ後にイモネジで締め付け固定する設計を採っているのが分かります。
↑後群側もちゃんと清掃が終わってからセットしました(笑) いつもなら先に絞り環を組み込んで鏡胴「前部」の組み立てを完成させるのですが、前述のとおり「幾つもイモネジの締め付け痕が数多く残っており正しい固定位置が???状態」なので、仕方なく先に鏡胴「後部」を組み立てて、ネジ込んでから「本当に正しいイモネジの締め付け場所はいったい何処になるのか?」を絞り環とフィルター枠とに分けて突き止めていきます(涙)
↑さらに厄介なパーツが一つ介在していました(涙)・・もぉ〜イヤになります(笑) この鏡筒には「シム環」と言う黄銅材の薄い環/リング/輪っかがグリーンの矢印の箇所に挟まっていました (当初バラしていった時に挟まっていた)。
普通このような「シム環」は「光学系の格納筒との間に挟まり光学系の光路長を微調整する役目」の場合が多いのですが、今回扱ったこの個体では光路長には一切関係ない箇所に入っていました。
↑さらに鏡筒のグリーンの矢印で指し示している箇所に用意されている「イモネジ用の下穴」は、実は左横に並べて撮影した「フィルター枠 (赤色文字) を締め付け固定する時の穴」であるのを、やはりグリーンの矢印で指し示して解説しています。このフィルター枠にはブルーの矢印で指し示したように絞り環用の基準「▽」マーカーが刻印されています。
・・何を言いたいのか???
つまり、このフィルター枠の固定位置をズラすと言う事は「絞り環の基準位置までズラしている事になる」点を述べているのです。製産時点での基準「▽」マーカー位置は1箇所しか無いハズなのに、それを過去メンテナンス時に故意にワザとズラしていた事がこれらの事実から見えてきます(汗)
↑そこで実際に前述の「シム環」を当初バラした時と同じように間に挟んでから (赤色矢印) フィルター枠を差し込んでみました。するとフィルター枠を締め付け固定するイモネジ用の穴の奥に「下穴が少しだけ見えている」のが分かるでしょうか (グリーンの矢印)?・・イモネジ用の下穴がズレているので「フィルター枠が下穴よりも僅かに上の位置に締め付け固定されてしまう」事になります(汗)
・・こんなんで良いのでしょうか???(笑)
もちろん製産時点ならこんな酷い組み立て工程など在るハズがありません(笑)
↑今度は試しに「シム環を外して」間に挟まずにフィルター枠を差し込んでみました (赤色矢印)・・すると今度はグリーンの矢印で指し示しているとおり「奥の下穴がバッチリキレイに視認できる」ので、詰まる処この位置が生産時点の正しい位置であり「シム環なんて挟んでいなかった」事が判明します(驚)
ちなみにオレンジ色矢印で指し示している箇所には「擦れてしまった痕跡が残っている」のでメッキ加工が僅かに剥がれています(泣)
このように一つ一つの事実に対して、それが本当に正しいのか否か「観察と考察」を経て突き詰めていくと「製産時点の本当に正しい事実が見えてくる」ことを解説しています・・ここではフィルター枠の正しい固定箇所を調べていたワケですね(笑)
↑それでは残るは「どの位置で絞り環用の基準「▽」マーカーを締め付け固定するのが正しいのか?」と言う疑問に立ち返る為、再び工程に戻り「鏡胴後部の組み立て」に入ります。
赤色文字で解説しているとおりヘリコイドオス側 (左) にヘリコイドメス側 (中央) さらにマウント部 (右) です・・グリーンの矢印で指し示している箇所には「ケガキを使って垂線が刻まれている」のが分かります・・その垂線はこれらヘリコイド群全てに一直線で一致するよう刻まれているので「製産時点に目安としてケガキを入れた」のが見えてきます (ありがたい!)(涙)
一方、このヘリコイド群にも異なる位置でイモネジの締め付け固定を試みていた事実が露わになります (ブルーの矢印)(笑)・・まぁ〜これは、一方が単なるイモネジの締め付け痕/点状なので、ほぼ製産時点の下穴は確定です(笑)
↑全ての固定位置をイモネジまで含め探って (何回でも納得できるまで組み立て直して)(笑)、ついに鏡胴「後部」が完成しました!(涙)・・すると上の写真を見れば分かりますがオレンジ色の基準「◉」マーカーが指標値ガイドの中心に刻印されています(涙)・・これがどんなに嬉しい気持ちで眺めていたか?!(笑)
この基準「◉」マーカーが判明する事で、それに合致させて絞り環とフィルター枠が固定されればOKだと言う話に到達し、ようやく途中でやめていたフィルター枠と絞り環の組み込み工程を進められる次第です(涙)・・あぁ〜うれしい〜!(涙)
そして完成した鏡胴「前部」を正しい位置で固定して無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。
ここからは完璧なオーバーホール/修理が終わったオールドレンズの写真になります。
↑完璧なオーバーホール/修理が終わりました。コンパクトな筐体サイズの中望遠レンズなので、内部構造も簡素でパーツ点数も当時の他のオールドレンズ達とたいして変わらないだろうと踏んでいたのが「大きな間違い!」でした(笑)・・意外にも結構難儀して大変でした(涙)
↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です・・何しろ市場に出回る率がとにかく低い稀少品ゆえ、このような素晴らしい状態の光学系を維持している事がオドロキでもあります!(涙)
↑後群側もLED光照射で極薄いクモリが皆無です。なお「距離計連動機構部」の黄銅材パーツは全てが個別に「反射防止黒色塗料」で着色されていましたが、溶剤で簡単に溶けたので全て剥がしました。この「距離計連動機構部」に附随する特大のバネのチカラがヘリコイドオスメスの駆動時に架かるので、それを考慮して余計な/製産時点には介在しない抵抗/負荷/摩擦は排除しています。
↑冒頭でさんざん解説しましたが(泣)、本来の正しい/製産時点と同じ位置でイモネジ固定できたので正確な絞り羽根開閉駆動に戻っています。絞り羽根が閉じる際は「完璧な円形絞りを維持」しながら閉じていきます。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
当方ではヤフオク! で流行っている「抗菌剤/除菌剤による清掃」などは絶対に実施しません。これをやると薬剤に含まれている成分の一部が金属の表層面に対して酸化/腐食/錆びを促す結果に至るので、早ければ1年、遅くとも数年でポツポツと錆が表れ始めます。
詳細は厚労省の「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」が詳しく解説しています。
↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」ですが、当初バラす前の状態では相当軽い印象のトルク感だったので、今回のオーバーホールでは「逆に敢えてワザと重めのトルク」に仕上げています・・理由は、このモデルのヘリコイド駆動が「回転式ヘリコイド駆動」なので、距離環を回すと一緒に鏡筒が回り「絞り環が回っていく」からです。
つまり距離環を回してピント合わせした後に「ボケ具合をイジる (絞り環操作する)」と途端に距離環まで回ってしまいピントがズレるからです。
従ってできるだけ距離環が回らないようにピント合わせの際に苦にならない程度までギリギリの処でトルクを重めに設定して仕上げています。距離環の刻印距離指標値で「無限遠位置〜6ft」辺りまでなら絞り環を回しても/クリックしても距離環が回りにくいのでボケ具合をイジれますが「5ft〜最短撮影距離の3.5ft」間は残念ながらヘリコイドが完全に繰り出されてしまうので (距離計連動機構部からの干渉が減るので) 絞り環操作すると距離環まで一緒に動いてしまいますからご留意下さいませ (つまりピントがズレる)。
・・ご使用頂きもしも軽いほうが良ければまたお送り下さい。もう一度バラして軽くします。
ある意味、使い易さとピント合わせのし易さは紙一重なので(泣)、当方の考えに反してご依頼者様が使い辛いとの印象を抱くなら「何回でもバラして組み直す」のがオーバーホールしている醍醐味とでも言いましょうか(笑)・・そういう融通が利くのも「アリ」ではないでしょうか?!(笑)
↑大変貴重な田中光学の中望遠レンズです。レンズ銘板のとおり「製造番号先頭2桁は焦点距離の10刻印」なので、詰まる処下三桁分の台数しか製産されていない話になりますが、巷では数百台レベルと語られ続けています(驚)
↑いつものとおり絞り環用の基準「▽」マーカーと距離指標値側基準「◉」マーカーを垂直状にグリーンのラインのとおり並べて組み上げてあります・・そして冒頭でさんざん解説していたのは、実は赤色矢印で指し示している絞り環用の基準「▽」マーカーの露出具合で(笑)、もちろん「シム環」が介在して/間に挟んであってフィルター枠のイモネジ位置が上にズレていたワケですが、以下のネット上写真を目にしてしまったので、どうにもこうにも気になってしまいこだわってしまいました(泣)
↑上の写真 (4枚) は、その絞り環用基準「▽」マーカーの下にある垂線が現れるべきなのか、隠れるべきなのかにこだわってしまった為に、いろいろネット上で調べてチェックした時の写真です (ネットから持ってきた写真)。
但し左端だけ今回の個体をオーバーホール後の仕上がり状態で撮影しています。上の写真 (4枚) では一番右端の写真の個体だけが「▽」の下の垂線が僅かに見えていますが、他の写真はほぼ見えず仕舞いです。
そもそも光路長に影響を来さないのに「シム環」を挟んでいる時点で「何でなの???」だったワケですが(笑)、調べてみればどうと言う話ではありません。ワザワザ敢えてイモネジの締め付け固定位置をズラしてまで垂線を出すのもどうかと考えたので、本来の下穴にちゃんとイモネジを刺しています。
結果、絞り環のぎこちなさや硬さが消えて軽めの、然し小気味良い板バネによるクリック感が戻りました・・これで良いのではないでしょうか?!
・・いや、そんなの頼んでないんだから元に戻してョ、お金払わないからねッ!
と言うのも至極ご尤もなお話なので、その場合はもう一度バラしてズラして固定し直します。距離環のトルク含めご検討下さいませ。
オーバーホール/修理ご依頼者様皆様に告知しているとおり、もしもお届けしたオールドレンズの仕上がり状況にご満足頂けない場合は、そのご納得頂けない要素に対して「ご納得頂ける分の金額をご請求金額より減額」下さいませ。
減額頂ける最大値/MAX額は「ご請求金額まで (つまり無償扱い)」とし、大変申し訳御座いませんが当方による弁償などは対応できません・・申し訳御座いません。
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑当レンズによる最短撮影距離1m附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。
↑f値「f16」です、もうだいぶ絞り羽根が閉じきっている状況なので、そろそろ「回折現象」の影響が現れ始めています。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。
◉ 被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。
◉ 焦点移動
光学硝子レンズの設計や硝子材に於ける収差、特に球面収差の影響によりピント面の合焦位置から絞り値の変動 (絞り値の増大) に従い位置がズレていく事を指す。
↑最小絞り値「f22」での撮影です。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。引き続き次の3本目の作業は入ります。どうぞよろしくお願い申し上げます。