〓 Carl Zeiss (カールツァイス) Sonnar 180mm/f2.8 T*《MMJ》(C/Y)

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今までにまだ扱いがないモデルなので、本来ならオーバーホールして完璧に仕上げたいところですが、内部で何か部品が外れているという現象だったので単なる修理として承りました。

届いた現物をチェックしてみると、外れているのはマウント部からも飛び出る「絞り羽根開閉レバー」の環 (リング/輪っか) でした。マウント規格が「C/Yマウント」なので、他に絞り値伝達レバーも飛び出ます。

これはマウントを外して外れた原因を確認すれば簡単かな・・と思ったのが浅はかで(笑)、 マウントの爪を外したところで全くアクセスできず本格的にバラしていくハメに陥りました。

↑結局、何だかんだ言ってヘリコイド (オスメス) と絞り環に指標値環まで解体という、結構 本格的なバラしになってしまいました(笑)

上の写真はバラした直後に撮っており、このモデルは距離環の裏側がそのままダイレクトに「ヘリコイド (メス側)」になっています。焦点距離が180mmなので繰り出し量が多く、その分だけ距離環裏側のメスネジ山もグリグリと切削されています。

ところがご覧のとおりヘリコイド (オス側) は意外にも大変短い距離なので、このモデルの場合「落下やぶつけたりして距離環に打痕があったらトルクムラが酷く出る」設計なのが一目瞭然です。

例えば標準レンズなり中望遠レンズなどが皆ヘリコイドはオスメスで独立したパーツとして用意され、最後に距離環が被さる設計であれば、落下や衝撃などでヘリコイド (オスメス) に影響が及ぶ可能性もだいぶ低減します。

さらにこのモデルの設計上の懸念材料をもう一つ挙げるなら「ヘリコイドのオス側よりも基台側のネジ山のほうが長い」と言う問題です。

つまりこの基台側のネジ山に距離環の裏側に用意されているネジ山 (オス側) がネジ込まれるので、距離環のみならず指標値環や絞り環などに打痕の凹みなどが残っている個体も「重篤なトルクムラ発生」の原因になります。

従って製産から何十年も経っているのがオールドレンズだからと多少のキズや打痕を気にしない人が多いですが、そうは言ってもこのように設計を知ることで「整備しても直らない経年の状態」が残っている個体には手を出さないほうが良いと言う「現実的な目利き/見たて」が叶うという話です。

このブログのメインメニューにある『問い合わせ先→見たて依頼受付フォーム』でチョコチョコとご依頼頂くようになってきましたが、単にオークションなどに掲載されている写真を見て何が分かるのかと言えば、まさにこのような「完全解体しているからこそ知り得るチェック項目」があったりするので、それはそれで当方の調達 (見たて) でも意外にも重要な要素だったりしますから、ある意味当方自らが調達している時と条件は同じと言えるワケで見たての意義があるというものです。

なお、ご覧のとおりビッチリと「白色系グリース」が塗られているので基台の内側や絞り環側など相応に液状化した揮発油成分がビッチリ附着していました。

ちなみにこのモデルはヘリコイド (オスメス) のネジ込み位置や組み立て工程手順の関係からシロウト整備ができるモデルではありません。相当難度が高い設計なので、これら「白色系グリース」で整備したのはプロの所業とすぐに分かります(笑)

本来なら前玉側からバラしていくのが筋ですが、面倒なので一括でバラしてしまいました(笑)

↑今回のご依頼で内部パーツが外れていたその「犯人」は右横に写っている「絞り羽根開閉レバー環」です。この環 (リング/輪っか) は左側に並べて写した光学系後群の格納筒外壁に用意されている回転機構部 (グリーンの矢印) にセットされるべきパーツです。

このモデルの光学系は・・オドロキの構成を採っていて・・何と後群側はマウント部に固定なのです!(笑)

逆に言うなら、距離環を回して直進動しているのは光学系前群側だけと言う設計を採っているので焦点距離から考えると「入射光の中で使っている光が都度変化している光学設計」と言わざるを得ず、オドロキの要素です。

↑上の写真は、当初マウント部だけを外してアクセスできなかったので、仕方なく距離環〜ヘリコイドと解体していきましたが、そもそもこの「絞り羽根開閉レバー環」がどのようにセットされていたのか、単に被せてみただけの写真です。

するとご覧のとおりグリーンの矢印で挟んだ箇所を見ると「斜め状に傾いてしまう」のが分かります。

つまり一切水平にならず、てっきりパチンとハマるのかと思っていたところ、実際は貫通してしまう内径なので「セットする方法が見当たらない」と言う疑問にブチ当たりました!(驚)

ブルーの矢印のように開閉レバーが移動することで鏡筒の絞りユニットから飛び出ている開閉キーが操作されてダイレクトに絞り羽根が開いたり閉じたりする仕組みですから、何かしら 固定する方法が存在しないとこの機構部の意味が成り立ちません!

その原理はよ〜く分かるのですが、はたしてこの「絞り羽根開閉レバー環」をどうやって固定するのか???

↑この光学系後群側の格納筒外壁に備わる「回転機構部」にはご覧のように⌀ 1㍉という微細な鋼球ボールがビッシリ詰め込まれています。従って360度グルグルと回る仕様なのですが、そこにどうやって前述の「絞り羽根開閉レバー環」が固定されるのか???

↑その答が判明しました!(笑) 上の写真は⌀ 1㍉径の微細鋼球ボール (7個) なのですが、実はこれら7個の鋼球ボールはヘリコイド (オスメス) の間/隙間から回収したのです。

たまたま運良くネジ山に入らなかったのでトルクに影響を来す結果に繋がりませんでしたが、この鋼球ボールがどうやって外れたのかが問題なのです。

逆に言うなら、前述の光学系後群側格納筒外壁に備わる「回転機構部」から飛びだした鋼球ボールではありません!

では、いったいどこで使っていた鋼球ボールなのか???

↑今度は光学系後群側格納筒の外壁に備わる「回転機構部」までバラした写真です。⌀ 1㍉径の微細鋼球ボールが全部で「118個」詰まっていましたが、全て取り出して洗浄しています (白色系グリースの揮発油成分で粘りが発生していた為)。

すると解説のとおり中心の位置する「格納環 (リング/輪っか)」の上下を挟むように「締付環①」と「締付環②」が存在し、それぞれが鋼球ボールを詰め込んだ後に締め付け固定する環 (リング/輪っか) と言う設計だったのです。

逆に言うなら「格納環 (リング/輪っか)」の内外に⌀ 1㍉径の微細鋼球ボールがセットされる設計なのです!(驚)

これを最も分かり易く的確に解説するなら「締付環①/締付環②/格納環/絞り羽根開閉レバー環」これら4つの環 (リング/輪っか) は互いに内径が合わないので『互いに貫通して抜けてしまう』サイズなのです。

それが抜けずにシッカリ保持できる手段・・「鋼球ボールの径の半分0.5㍉分」で各環 (リング/輪っか) を保持させる設計なのです!

従ってヘリコイド (オスメス) 側に飛び出して堕ちていた鋼球ボール7個は、この「締付環②」が緩んでしまいバラバラと落ちたのが自明の理です。そしてその結果「絞り羽根開閉レバー環の脱落」に至ったのが分かりますね(笑)

ではどうしてこの鋼球ボール7個だけが外れたのでしょうか (締付環②が緩んだのか) ???

その理由がまさに「白色系グリースによる経年の揮発油成分の締付環①側への附着により粘性を帯びた」からこそ、その粘性のチカラに耐えられずに使っているうちに少しずつ「締付環②が緩んでいった」ワケで、ある日突然7個の微細鋼球ボールが落下してレバー環が脱落した次第です

観察と考察」によりその因果関係をキッチリ考えたらその後は「原理原則」に則り次回同じ現象が起きないように配慮して組み上げれば良いことになります。

↑つまり⌀1㍉径の微細鋼球ボール118個をちゃんと洗浄してから詰め込んで締付環①でキッチリ締め付け固定してから、さらに「絞り羽根開閉レバー環」を被せて (この状態ではまだ貫通してしまうから指で保持したまま) 落下していた微細鋼球ボール7個をハメ込んで指を離すと「あ〜ら不思議上の写真のとおり中空に保持されて外れないし、しかもちゃんとクルクルと回ってくれる」この時もちろん「締付環②」もキッチリ締め付け固定してあります。

このように「/リング/輪っか」の内径をワザと大きめに設計し貫通させてしまうものの、実は回転機構 (互いにクルクル回る場所) だったりする自愛によく採られる仕組みが「鋼球ボールの半径だけで保持させる原理」なのです。

逆に言うなら鋼球ボールの半径だけで保持させるなら環/リング/輪っかが互いに貫通してしまうのが「理に適った設計」のハズなのです。

これを一部の環/リング/輪っかだけが貫通せずに残ると、その時のチカラの伝達は「鋼球ボールが主体ではなくなる」ので、必然的に鏡面仕上げなどの処置が必須になります (そうしないと無抵抗で回らないから)。

このモデルではそれを鋼球ボールの転がり係数を基に活用して採り入れた設計だった次第です。

こういう部分でちゃんと「設計者の意図を汲み取る」ことで適切な組み上げが叶い、且つ必然的に決まった組み立て手順/工程が自ずと見えてくるので「サービスマニュアルなど手元に必要ない」のが当方の「DOH」の大前提だったりしますね(笑)

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大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした・・。

お詫び申し上げます・・。

もう1本のほうも無事に修理完了したので本日まとめて梱包し発送致します。

督促メール」を頂いてしまったので、別の方同様に当方の慣例として「無償扱い」にてお届けしますからご請求は発生しません。遅延しましたこと、改めてお詫び申し上げます。

申し訳御座いませんでした・・。