◆ Tanaka Kogaku (田中光学) W TANAR 35mm/f2.8(L39)
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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。
今回完璧なオーバーホール/修理が終わってご案内するモデルは、国産は
田中光学製広角レンズ・・・・、
『W TANAR 35mm/f2.8 (L39)』です。
ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ! Слава Україні! Героям слава!
上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。
Slava Ukrainieie! Geroyam Slava!
今回完璧なオーバーホール/修理が終わってご案内するモデルは、当方がオーバーホール作業を始めた12年前からの累計で、当時の田中光学製広角レンズ「35mm/f2.8」の括りで捉えても僅か2本目です。前回の扱いが2016年だったので、相当久しぶりです(笑)・・ッて言うかよくもまぁ〜2016年辺りでこんな難度が高いモデルを扱っていたものだと、自分で言うのも何ですが、今さらながらに感心してしまいます(笑)
・・歳を重ねると何事にも覇気が失せてくると言うか、気力減退します(笑)
ついでに何事にも諍いを避けたくなると言うか、物事を深く掘り下げなくなってくるから、自分の都合の良い解釈で捉えて満足していたりします・・こう言うのを「歳と共に丸くなる」と言うのでしょうが、ことオーバーホール作業になるとそのような考え方は許されません(笑)
・・一にも二にも疑って疑って疑い尽くしてかかれ! (と心の中で誰かの声が聞こえます)(笑)
今回のオーバーホール/修理作業は・・まさに自らの言霊と対峙したが如く、それはそれは足元を今一度確かめる必要をヒシヒシと思い知った次第です(笑) 「初心忘るべからず!」とは、そう言う事なのでしょう・・真摯な想いで2016年時点の自分に今一度立ち戻るべきです(笑)
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戦時中の1940年に東京本所で創設した「光学精機社」と言う光学工房が後のニッカカメラ株式会社の前身ですが (1948年に日本カメラ製作所/1949年ニッカカメラワークスに社名変更/1958年ヤシカに吸収合併)、そもそもCanonの前身たる「精機光学」の元社員7人と共に熊谷源治氏が1930年代に精機光学を退社した後に光学精機社に加わり、さらに1948年にはかつて神奈川県川崎市で創業した「田中光学株式会社」に移りました。
この田中光学にて熊谷源治氏の手により設計されたバルナック版ライカカメラのコピーモデルたるレンジファインダーカメラ「Tanack 35 (Tanack IIc)」が田中光学の最初のフィルムカメラになり1953年に発売しています (右写真はTanack IIc)。
その後、同年「Tanack IIIc」翌年「Tanack IIF、IIIF、IIIS」と続き1955年には「Tanack IVS」を立て続けに発売し、1957年に
「Tanack SD (右写真)」を発売した後、翌年「Tanack V3」発売が最後のモデルになり、1959年には倒産してしまいます。
↑上の写真 (4枚) は、今回扱ったモデルのモデルバリエーションとして並べていますが、バリエーションは大きく2つしかなく、1957年の発売時点から最後まで変化が無かったようです (倒産年度の1959年まで製産が続いていた)。
ライカスクリューマウントの今回扱い品たる「L39マウント規格品」の他に「Nikon-Sマウント規格品/CONTAX-Sマウント規格品」のモデルが全く筐体意匠が異なるタイプとして用意されていました。
上の写真は左端が今回扱い品の「L39マウント規格品」になり、2枚目以降の3枚の写真が別モデルですが、右側2枚の写真のとおり「マウント面の詰めに附随するロック用ツマミ直前にN刻印 (Nikon-S) 或いはC刻印 (CONTAX-S) が示されている」のが分かります (いずれも海外オークションebayの掲載写真より転用)。
光学系はネット上の解説で一部に「3群4枚テッサー型構成」との紹介がありますが、実際に完全解体してみると正しくは4群6枚のダブルガウス型構成です。
そもそも1950年代当時にはレンジファインダーカメラ向けの広角レンズ域は、そのフランジバックから「標準レンズ域の光学設計を延伸させるだけで対応可能だった」ハズなので、標準レンズ域の光学設計で当時主流になっていた4群6枚のダブルガウス型構成から3群4枚のテッサー型へと退化するが如く逆光させる事は、あまり考えられないと思い、2016年に扱った際にもチェックしています。
右構成図は今回のオーバーホールで完全解体した際に光学系の清掃時、当方の手によりデジタルノギスを使い逐一全ての群の光学硝子レンズを計測したトレース図です。
さらに指摘するなら、当時のNikonでさえ1952年に発売した「W-Nikkor 3.5cm/f2.5」の存在を考えればなおさらの事です (ニッコール千夜一夜物語のこちらのページ掲載図よりトレース)。
念の為にネット上を調べていて発見し、なるほどなぁ〜と感心した次第です。
そして詰まる処、そもそもLeicaのほうで1958年から登場していた「Summaron 35mm/f2.8」でも、やはり4群6枚のダブルガウス型構成ですから、開放f値の明るさ「f2.8」となれば納得できる話です (右構成図もネット上掲載図よりトレース)。
パッと見で/ドシロウト感覚でこれら構成図を見ると、光学系第2群や第3群の2枚貼り合わせレンズの「貼り合わせ面」でモデルの性格が多少変化していくような思いに至りますが、どうなんでしょぅかね・・(笑)
◉ 貼り合わせレンズ
2枚〜複数枚の光学硝子レンズを接着剤 (バルサム剤) を使って貼り合わせて一つにしたレンズ群を指す
◉ バルサム切れ
貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態
◉ ニュートンリング/ニュートン環
貼り合わせレンズの接着剤/バルサム剤が完全剥離して浮いてしまい虹色に同心円が視認できる状態
◉ フリンジ
光学系の格納が適切でない場合に光軸ズレを招き同じ位置で放射状ではない色ズレ (ブルーやパープルなど) が現れてエッジに纏わり付く
◉ コーティングハガレ
蒸着コーティング層が剥がれた場合光に翳して見る角度によりキズ状に見えるが光学系内を透過して確かめると物理的な光学硝子面のキズではない為に視認できない
◉ ハレーション
光源からの強い入射光が光学系内に直接透過し画の一部分がボヤけて透けているような結像に至る事を指す
◉ フレア
光源からの強い入射光が光学系内で反射し乱反射に至り画の一部や画全体のコントラストが 全体的に低下し「霧の中での撮影」のように一枚ベールがかったような写り方を指す
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。今回の扱いが累計で2本目ですから、オーバーホール工程を解説していく必要は本来ないのですが、何しろ前回の扱いが2016年なので今一度工程を踏んでいきたいと思います。
内部構造は簡素で理に適った設計を採っていますが、一部構成パーツの「固定手法」が確かにこの当時1950年代の (まだ主流のままだった) 手法を採っているが為に「金属材の違いと共に締め付け手法にも要注意」なのが厄介と言えば厄介です (後ほどの工程で解説します)(泣)
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒で、この当時としてはまだまだ主流だったのが真鍮 (黄銅) 製/ブラス製のパーツだったので、ある意味アルミ合金材で切削されていて先進的な印象です・・先進的と共に実はこの当時の加工工作機械設備のレベルで捉えるなら、まだまだアルミ合金材の切削加工に良し悪しが残っていた時代でもあるので、この品質で切削できてしまうところに「徒者 (ただもの) ではない!」怖さを感じます(怖)
逆に言うなら1959年に倒産してしまうには「設計も技術スキルも機械設備まで含めて何から何まで完成の域に到達していたのに・・何でなの???」と言う無念しか抱きませんね(涙)
・・本当に惜しい光学メーカーです!(涙)
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
◉ 絞り羽根開閉幅
絞り羽根が閉じていく時の開口部の大きさ/広さ/面積を指し、光学系後群側への入射光量を決定づけている
↑上の写真は絞りユニットを構成する主体的な構成パーツで「位置決め環 (左) と開閉環 (右)」です (赤色文字)。開閉環には1箇所だけ「開閉キーが刺さる場所が備わる」のをグリーンの矢印で指し示しています。
この当時既に他社光学メーカーでは「ネジ種」を使い絞り環と絞りユニット内開閉環トの連結を設計していたのが多かったハズなのに、どうして敢えて「板状のパーツを刺して連結させていたのか???」との部分に、ちゃんとした答えをある程度見出せるか否かが、ある意味整備者のスキルに係ると思います(笑)
特に田中光学の数多くのオールドレンズ達で「絞りユニット内開閉環と絞り環との連結は板状パーツが主流の設計を好んで採っていた」点に於いて、明確な設計概念をとても強く感じ、そんな事柄まで見えてくると惜念の思いが余計に募るばかりで涙もろくなりそうです (基本年寄りは涙腺が緩い)(涙)
↑そんな感慨に耽っていたら「位置決め環に4点もの締め付け痕が残っている (赤色矢印)!」(驚) 次第で(笑)、いったいどの締め付け痕が「製産時点」なのか、最低でも4回は組み立て直すのを覚悟しつつ調査モードに入りました(泣)
結局3回目の組み立て直しで正しい位置が判明したので、やっとの事で工程を進められます・・この位置決め環の固定位置が適切でない場合は、絞り羽根の開閉角度が変わってしまうので、当然ながら「絞り環操作時の操作性に大きく影響を来す」次第ですが、そもそも「絞り環に刻印されている絞り値との整合性が執れなくなる」点のほうが重要度が高いです(泣)
↑ちゃんと正しい「位置決め環の固定箇所」を調べて組み上げ工程を進めたとこです。上の写真の状態は「開閉環をセットしたところ」ですが、まだ絞りユニット自体が固定されていないので、このままひっくり返したりすると絞り羽根が外れてしまいます。
なおグリーンの矢印で指し示した位置に絞り環と連結をする「開閉キーが刺さる場所」として切り欠きが用意されているのが分かります (田中光学ではネジ類ではなく板状パーツを好んで使っていたのでこのようなカタチの切り欠きになっている)。
↑光学系第2群の格納筒をネジ込んだので、これで絞りユニットが固定されました (つまり光学系第2群の格納筒が絞りユニット締付環の役目も兼ねている)。
↑合わせて光学系後群格納筒もセットしてしまいます (光学系第3群が一体モールド成形されている)。光学系は第2群と第3群が2枚の光学硝子レンズの貼り合わせレンズなので、このように格納筒に一体モールド成形されている場合「接着面のバルサム切れが生ずると剥がしての再接着ができない」場合が多く「製品寿命」になり兼ねないので、例えばヤフオク! などで調達する際「いったい光学系内の何処の群にクモリが生じているのか???」が結構重要だったりします。
・・従ってオールドレンズの光学系構成図を知る事は、無難な調達の前提との一面も在る。
↑引き続き鏡筒周りの組み立て工程を進めます。鏡筒に真鍮 (黄銅) 製/ブラス製の「フィルター枠環」をセットし、合わせてアルミ合金製の「絞り環用ベース環」を組み込んで「開閉キーを開閉環に刺す」ことで絞り環との連結が適います (赤色矢印)。この時注意すべきは「グリーンの矢印で指し示している基準●マーカー位置」であり、ここがズレるとそもそも絞り環の操作性を悪くしますし、下手すれば絞り羽根の開閉角度が狂い「絞り値との整合性を失う」結果に至ります(泣)
↑一つ前と同じ工程での写真ですが、向きを変えて反対側を撮影しています。するとフィルター枠環 (赤色矢印) の側面に「絞り値キーという溝」があり、そこに「板バネ」がカチカチとハマる事で絞り環操作時のクリック感を実現しています (グリーンの矢印)。
この「板バネ」には固定位置を微調整する機能が備わっていないので、締付ネジで締め付け固定したらその位置でしかクリック感は実現できません。さらに「板バネはハガネなのでクリック感の強さも変更不可能」です。
時々この当時の他社製オールドレンズでハガネの板バネをペンチでムリヤリ曲げてクリック感の強さを変えている個体が出てきたりしますが、ハッキリ言ってハガネの耐用年数を大きく短くしています(怖)
特に今回のモデルのように「板バネ自体にクリックのボール鋼球ボールが埋め込まれている設計」の場合、下手な細工を施すと外れてしまう懸念が起きるので、このような設計の場合は「そのまま組み上げるしか手がない」点を承知するべきです。
従って今回のオーバーホール/修理ご依頼内容の一つであった「絞り環操作が固すぎる」問題点の一部の要素は「改善不能」だと言う事がこれで明白になります(泣)
↑絞り環をベース環にセットしたとこです。この「絞り環の固定方法」が冒頭で解説していた特殊な方法なので、それが影響してご依頼内容の一つ「絞り環操作が固い」問題点について原因の一つになっていました。
絞り環の内側に「ベース環と合わせてイモネジをネジ込む下穴が切削されている」設計を採り、グリーンの矢印で指し示しています。イモネジをネジ込む時に「ベース環と絞り環の両方に切削されているネジ山をイモネジがネジ込まれるので、それによって締め付け固定する手法」を採っているワケです。
従って「絞り環用ベース環」と「絞り環」との位置が極僅かでもズレるとイモネジのネジ込みに抵抗/負荷/摩擦が増大し、且つ「絞り環が応力分で膨張してしまうので絞り環操作が重くなる」一因に至ります。
しかし今回の個体の絞り環操作が固すぎた原因はズレではなく「ブルーの矢印で指し示している箇所のイモネジが内部で破断していた」為に、その膨張により応力が働き絞り環操作に大きく影響していました。
ッて言うか、そもそも今回の個体を完全解体する際に「絞り環のこの部位が全く外せなかった」ので、そもそも完全解体すら危ぶまれている状況でした(泣)
結局、このブルーの矢印で指し示している箇所のイモネジが内部で完全に破断していた為、仕方なくドリルでイモネジ自体を切削し解体しました(泣)
当然ながら組み立て工程では代替イモネジを当方で用意してネジ込んで締め付け固定しています・・絞り環の内側3箇所で均等配置でイモネジによる締め付け固定を採っているため、その3箇所の一つでも応力分が働くとアルミ合金材の絞り環が膨張してしまい「絞り値キーの板バネ部分で固くなる」から、当初バラす前の時点で絞り環操作できなかったのです(涙)
・・ご依頼内容の一つの因果関係はこのような原因でした(泣)
↑鏡胴「前部」の完成間近です(笑)・・が然し、上の写真で横に並べた「シム環 (赤色文字)」で後で泣かされる事に至りました(涙)
この「シム環」は無限遠位置の微調整機能としてスペーサー的な役割を帯びている事が多いですが、それ以外にも「鏡胴前部と後部との適切な隙間を用意する役目」も兼ねている場合があり、今回のモデルはそこで泣かされるハメに陥りました(涙)
↑上の写真は以前2016年に扱った別個体の完全解体写真ですが、赤色矢印で指し示している「シム環」が4個並んでいるのが分かります。
今回の個体はどういうワケか「3個のシム環しか挟まっていなかった」のです(泣)・・後々、この問題で大変な騒ぎになりました(涙)
↑鏡胴「前部」完成間近です。光学系第1群前玉を組み込みました。
↑鏡胴「前部」がほぼ完成なので、ここからは鏡胴「後部」の組み立て工程に移ります・・と言っても、鏡胴「後部」側はヘリコイド群と距離環/ツマミくらいしか構成パーツがありませんから単純明快です(笑)
このモデルのマウント規格が「L39マウント規格」なので「距離計連動ヘリコイドを有する」ので、その結果、一般的にはヘリコイドが2セット必要になる「ダブルヘリコイド方式の設計」を採る事になります。
普通にオスメスのネジ山が備わるヘリコイド群が一つと、もう一方は「距離兼連動ヘリコイド」なのですが、オールドレンズの筐体サイズが大きくなってしまうので「空転ヘリコイドを採用して簡素化/合理化している設計」を採っています。
従って上の写真でグリーンの矢印で指し示している「空転ヘリコイドの接触面」の平滑仕上げが大変重要になってきます。
↑マウント部に「空転ヘリコイド」をセットしますが、グリーンの矢印で指し示している接触面の「平滑仕上げ」を施し、ほぼ抵抗/負荷/摩擦が発生しない状況で「空転ヘリコイドを封入」します。
とこがたいていの過去メンテナンス時の整備では「グリースのチカラに頼って平滑性を有効にしている」為に経年での摩耗が信仰してしまいます(泣)
そもそも真鍮 (黄銅) 製/ブラス製製のマウント部と、それに対する黄銅製の「空転ヘリコイド」が互いに接触し合うので「平滑仕上げが必須」なのに、それを処置せずに「グリースのチカラに頼る」から本来必須である平滑仕上げが不十分な分、経年摩耗が進行してしまうのです(涙)
当方では「キッチリちゃんと平滑仕上げを復活」させるので (当方による「DOH」による)、その結果「グリースのチカラに頼るのではなく、むしグリースで自在にトルク感を与える」ことが適います・・その結果、今回の個体では「敢えてトルクを与えて心地良い操作性を実現させて仕上げた」次第です(笑)
つまり「空転ヘリコイド」を包括している設計の場合、そこをグリースのチカラに頼って組み上げてしまうと「設計概念とは真逆の結果に至る」ので、結果として経年摩耗が進行するのです(涙)
なお、マウント部には赤色矢印のように「制限壁」と言う壁が備わるので、ここで距離環の駆動域が決定づけられてしまいます。
↑マウント部をひっくり返して撮影していますが「距離計連動ヘリコイド」を組み込んだとこです (赤色矢印)。またヘリコイドの途中には「直進キーガイド」と言う溝が用意されていて (グリーンの矢印) ここを「直進キー」がスライドして行ったり来たりするので「距離計連動ヘリコイドの繰り出し/収納が実現される」原理ですね(笑)
↑再び上に向けて撮影していますが、今度は「ヘリコイドオスメス」を組み込んで距離計連動ヘリコイドを連係させています。これにより距離環を回すことで「距離計連動ヘリコイドが繰り出し/収納する」と同時に「鏡筒も繰り出し/収納が実現できる」ワケです。
上の写真解説のとおり「ヘリコイド群の締付環」が介在するので (赤色矢印) 互いに固定されて連携が適いますが、それを確実にしているのがグリーンの矢印で指し示している箇所の「イモネジによるネジ込み」です。
◉ イモネジ
ネジ頭が存在せずネジ部にいきなりマイスの切り込みが入っているネジ種 (左写真)
◉ イモネジの有効性
締め付け固定する際に対象となるパーツの固定位置を容易に変更/ズラして固定できる
(但し別の用途で敢えて使う場合もあるので必ずしも微調整を伴うとは限らない)
今回の個体ではこのイモネジを使って二つのパーツを互いに同時に締め付け固定する手法を採っています。合わせて、次は距離環を組み込んでからブルーの矢印で指し示している箇所で「やはりイモネジによる締め付け固定」で距離環が固定される設計です。
従って冒頭で解説した「絞り環とベース環の3箇所イモネジ固定」同様、ヘリコイド群のほうでも距離環の固定含めイモネジによるネジ込み固定なので、互いの位置が極僅かでもズレていると抵抗/負荷/摩擦がアッと言う間に増大しますし、そもそも黄銅材なので「簡単に応力が働く」分、その影響は蔑ろにはできません。
・・こう言う事柄一つ一つをキッチリ潰していく事で完璧な操作性が実現できています(泣)
↑同梱頂いた附属品に「ファインダー」が在ったので(笑)、そちらも完全解体して全て清掃しています。
↑こんな感じで組み上がりました。もちろん距離計ダイヤルに従いちゃんと角度が変化するようになっていますし、光学系内も清掃により大変キレイになりました(笑)
この後は完成している鏡胴「前部」を組み込んでから、最後レンズ銘板をセットして無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。
ここからはオーバーホール/修理が完了したオールドレンズの写真になります。
↑完璧なオーバーホール/修理が終わっています。ご依頼内容の一つだった「絞り環操作が固すぎる」問題は、イモネジの破断や絞り羽根の開閉角度のズレなどが影響していたので逐一改善処置を講じ適切なトルク感に戻っています・・但し、前述のとおり「ハガネによる板バネクリック方式」なので、クリック感自体はカッチリした硬さに至り、これの微調整機能はそもそも設計時点から備わっていません・・申し訳御座いません。
↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。但し、光学系前群後群共に、前玉と後玉の中心部辺りに経年の非常微細な拭きキズが残っています (写真には一切影響せず)。
↑後群側も同様LED光照射で極薄いクモリが皆無です。距離計連動ヘリコイドも適正値にセットしてあります。
↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。前述のとおり絞り環操作は適正なトルクに戻りましたが、クリック感だけはハガネの板バネクリック方式により微調整機能そのものが備わっていません。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
当方ではヤフオク! で流行っている「抗菌剤/除菌剤による清掃」などは絶対に実施しません。これをやると薬剤に含まれている成分の一部が金属の表層面に対して酸化/腐食/錆びを促す結果に至るので、早ければ1年、遅くとも数年でポツポツと錆が表れ始めます。
詳細は厚労省の「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」が詳しく解説しています。
↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」を使い、ちゃんと「空転ヘリコイド」を平滑仕上げで組み込んであるので「むしろ距離環はトルクを与えて仕上げてある」次第で(笑)、当方独自のヌメヌメッとしたシットリ感漂うトルク感に仕上がっています(笑) 距離環の駆動時も当初バラす前の重いトルク感からは相当に改善が終わっています。
↑ちゃんと絞り環側の基準「●」マーカーと指標値側の基準「▲」マーカーが一直線上に並ぶよう位置合わせして組み上げてあります (グリーンのライン)。
結局、もう一つのご依頼内容だった「距離環のトルクが重すぎる」或いは「絞り環操作が固い」は確かにイモネジの破断問題も影響していましたが、最終的にオーバーインフ量まで多くなっていた最大の因果関係として「シム環が1個足りない/欠品している」問題でした(涙)
それを突き止めるのに相当時間を割きました(涙) 結果、代替のシム環を用意して (と言うか製作して)(涙)、ようやくオーバーインフ量を極僅かに戻し、合わせて距離環を回すトルクが軽く変わり、同時に絞り環操作も本来の軽さに戻りました(涙)
過去メンテナンス時の整備者が「ヘリコイド群の組み込みをミスッた」為にオーバーインフ量が増大し、合わせてシム環まで1個外してしまったのだと思います(泣)
・・マジッでロクな事をしません!!!(怒)
おかげで問題の因果関係を突き止めるのに相当な時間がかかり、何回も組み直すハメに陥り、言い複合的に要因が重なっていたのでここまで突き止めるのに本当に苦労しました!(涙)
・・過去メンテナンス時の整備者に文句を言いに行きたいくらいです!(涙)
そもそもオーバーインフ量が多すぎた (距離環距離指標値の25ft過ぎ辺りで無限遠合焦していた!)(驚) のを、その整備者はどうやってユーザーに言い繕ったのでしょうか???(笑)
結局、そういう過去メンテナンス時の不始末の尻拭いをヤラされるハメに陥るのが常なので、本当に因果な作業です(涙)
↑附属で同梱頂いた日本製Rayqual製の「L39→LM変換リング (赤色矢印)」に合わせて、当方所有日本製Rayqual製マウントアダプタにて全ての微調整位置を確認し仕上げてあります。
無限遠位置 (当初バラす前の位置から調整済/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
オーバーホール/修理ご依頼者様皆様に告知しているとおり、もしもお届けしたオールドレンズの仕上がり状況にご満足頂けない場合は、そのご納得頂けない要素に対して「ご納得頂ける分の金額をご請求金額より減額」下さいませ。
減額頂ける最大値/MAX額は「ご請求金額まで (つまり無償扱い)」とし、大変申し訳御座いませんが当方による弁償などは対応できません・・申し訳御座いません。
↑当レンズによる最短撮影距離1m附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。
↑f値「f16」です。そろそろ「回折現象」の影響が現れ始めています。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。
◉ 被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。
◉ 焦点移動
光学硝子レンズの設計や硝子材に於ける収差、特に球面収差の影響によりピント面の合焦位置から絞り値の変動 (絞り値の増大) に従い位置がズレていく事を指す。
↑最小絞り値「f22」での撮影です。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。以上にてご依頼分3本の作業が全て終わりましたので、本日梱包し発送させて頂きます。どうぞよろしくお願い申し上げます。