DALLMEYER (ダルマイヤー) ”SPEED” ANASTIGMAT 1″ / f1.5(C)写真

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Dallmeyer(100)今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。

Cマウントのオールドレンズは普段ほとんどオーバーホールなどをしないので全く知識がありません。個人的に光学レンズの中心部分しか解像せず周辺域が流れたり収差が酷かったりする画に反応しないせいかあまり関心が無いのも事実です。今回はオーバーホール/修理のご依頼を承りましたが当然ながら初めて扱うモデルです。依頼の内容は「無限遠が出ない (合焦しない)」「光学系内のクモリ除去」と言うご依頼でした。

AN115黒色16mmシネマ用レンズとして当時20mmの他に1インチ、1.5インチ、2インチ、2.5インチそして3インチのモデルが生産されていたようですが詳しいことは知りません。今回のモデルは「“SPEED”ANASTIGMAT 1インチ/f1.5 (C)」になりますが海外オークションのebayなどで探してみても黒色鏡胴のモデルでよく出てくるのは左の写真のモデルばかりです。

今回の個体は鏡胴の一部がこの黒色なのですが他の部分にはクロームメッキが被せられているツートーンであり、ネット上の何処を探しても同型品は見当たりませんでした・・よく分かりません。

しかし気になったのは距離環に刻印されている距離指標値です。黒色鏡胴のモデルもクロームメッキのモデルも共に焦点距離1インチの場合にはfeet表記では無限遠の「INF」の手前は「30ft」になっています。ところが今回の個体はいきなり「9ft」の刻印から始まっています。またさらに注意深く観察してみるとマウント部の筐体と距離環との面が一段差になっており、ネット上で確認できる同型品の一回り外径が大きい筐体とは異なる意匠です。違うモデルなのでしょうか・・???

Anastigmat 1%221.5構成図光学系は4群6枚のキノ・プラズマート型なのですが、今回バラしてみるとこれもネット上で見られる光学系構成図の曲率とは全く異なる曲率の光学硝子レンズを使っていました。右の構成図は今回バラした時の硝子レンズを参考に当方でイメージ図を引いたモノですので正確ではありませんが、気になったのは第1群と第4群の裏側 (つまり2枚目裏面と5枚目の表面) が平坦だったことです。ネット上の構成図を見るとどれも曲率が相応にある凹メニスカスなのですが今回の個体は平凹レンズなのです・・これもよく分かりません。

今回の整備で工程を進めてみると不具合のひとつ「無限遠が出ない (合焦しない)」は意外な原因でした。

Anastigmat-1'1.5仕様

Anastigmat-1'1.5レンズ銘板

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

AN115(0829)11ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。とてもコンパクトな筐体なので部品点数自体も少ないですね。

AN115(0829)12絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。真鍮製ですが硬い「ガンメタル (砲金)」のほうであり、今回の個体はヘリコイド (メス側) を除いてすべてが真鍮 (黄銅) 製でした。上の写真の鏡筒 (ヘリコイド:オス側) は既に当方による「磨き研磨」が終わった状態で撮影していますが、当初バラして清掃した直後はほとんど黒色に近い焦茶色でした。メッキ表層面の経年劣化に拠る腐食から焦茶色になっていると同時に摩擦も生じています。バラしてみたところ過去にメンテナンスが施されていたワケですがグリースに頼った整備をしていたようです (塗布されていたのは黄褐色系グリースでした)。

《 訂 正 》
材質について「砲金」と述べていますがその後専門の方からご指摘頂き考え方を改めました。「砲金」ではなく真鍮 (黄銅) 製です。ここに訂正してお詫び 申し上げます。大変申し訳御座いませんでした。

ちなみに上の写真では「磨き研磨」が終わっているので黄金色に光り輝いていますが絞り羽根がセットされる部位 (穴が開いている箇所) はメタリック色になっています。これはそのようなメッキ加工をワザワザ施しているワケで絞り羽根の油染みによる駆動への影響を少なくする目的でマットなメッキを被せています。

AN115(0829)138枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。絞り羽根はまだカーボン仕上げの時代だったようです。経年の油染みで既にカーボンが剥がれ、同時に絞り羽根の全面に渡って赤サビが生じていました。この錆の影響でも摩擦が増大し最悪の場合絞り羽根のキー (金属製の突起棒) が外れてしまう不具合に陥ります。キーが外れてしまうと修復することはまず難しいでしょう・・製品寿命と言うことになってしまいます。

AN115(0829)14鏡筒には2種類のネジ山が切られており絞り環用のネジ山とヘリコイドのオス側になります。

AN115(0829)15絞り環をネジ込み光学系前後群を組み付けます。絞りユニットは「C型ワッシャー」を使って固定する方法なのですが今回の個体はそのC型ワッシャーがキッチリ溝に入りません・・当初バラす前の時点で絞り環操作が重いと感じていたのはこれが原因のようです。僅か1mmにも満たない薄いワッシャーが入る溝なので補修のしようがありません。可能な限り絞りユニットの内部を磨き研磨して絞り環操作が軽くなるようにしましたが、結果として引っ掛かりを感じる操作性のままになっています (ワッシャーがキッチリ填っていない部分があるようでそこが負荷になり引っ掛かりのように感じていると思います)。組み付けの際にはワッシャーをキッチリ溝に入れようとするのですが片側がどうしてもはみ出てきます (C型なので)・・申し訳御座いません。

鏡胴は「前部」と「後部」に二分割するモデルなのでこれで鏡胴「前部」が完成したことになります。

AN115(0829)16鏡筒「後部」の組み立てに入りますが上の写真はマウント部です。冒頭の説明の通りネット上などで見ると黒色鏡胴もクロームメッキ鏡胴のモデルもすべてこのマウント部はもう一回り肉厚があるモノばかりなのですが、今回の個体は距離環と同一の外径です。

AN115(0829)17距離環 (ヘリコイド:メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

実際はこの次に唯一アルミ材削り出しでできているヘリコイド (メス側) をネジ込むのですが、ここでハマりました。ネジ山は全部で7箇所あったのですがどのネジ山でネジ込んでも直進キー (距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のネジ) を入れようとすると無限遠がちゃんと合焦する位置で適合しません。切削されていなければイケナイ場所が切削されていない・・と言うことになります。そもそもバラす前の時点ではちゃんと組み上がっていたワケですからこれはおかしいです。

無限遠位置を無視してネジ込めばキッチリ組み上げが完了するのですが、それでは当初の状態と同じままです・・7箇所すべてのネジ込み位置で組み上げを行い鏡胴「前部」をネジ込んで締め付け固定してから実写すると全く無限遠が出ません (合焦しません)。すべてのネジ山を試したにも拘わらず無限遠位置が合わない「???」となってしまいました。

そこで冷静になってもう一度原理原則からヘリコイドのオスメスを確認していきました・・すると発見しました。

AN115(0829)7上の写真は既に組み上がった状態で距離環を回して最短撮影距離の位置まで鏡筒を繰り出した状態で撮った写真です。解説の通り「」マーカーの刻印をヘリコイド (メス側) に見つけました。何とヘリコイドが逆向きにネジ込まれていたのです!(笑) 上の写真のように「」マーカー刻印がある箇所は黒色に塗装されているのですが、当初の状態ではその部分はマウント部内部に入っており (逆向きにネジ込んでいるから中に入ってしまっていた)、いきなり絞り環が距離環から出ている状態だったのです・・つまり光学系の位置が奥まで入っておらず無限遠が合焦していなかったワケです。7箇所すべてのネジ山でネジ込んでみても無限遠が出ない (合焦しない) のは当たり前でした・・それに気がつかずすべてのネジ山で確認してしまったのは何ともお恥ずかしい限りです。まだまだ修行が足りていないことを痛切に感じました。

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

AN115(0829)1このような感じで「」マーカーが2つ並んでいるのが正しい組み上げだったのです。上のほうの「」マーカーは当初は塗装が剥げていましたが当方で着色しています・・刻印自体が削れているのでキレイに着色できていません。スミマセン。

また直進キー (上の写真の銀色の特大ネジ) は恐らくこのモデルの本来のパーツではないと考えます。それは直進キーが入るネジ穴には皿頭ネジ用の切削がされていないからです。純正の直進キーは恐らくイモネジ型のキーだったのではないでしょうか・・この個体の直進キーは代用パーツだと思います。問題なく使えるのでそのままネジ込みました。

AN115(0829)2撮影の角度をミスってしまい曇っているように見えますが、光学系内は全群に対して「ガラス研磨」を施したので大変クリアな状態になっています。「気泡」も僅かにあるのでパッと見ると塵や埃が入っているように見えますが透明度の高い状態まで改善できています。

また貼り合わせレンズの切削面 (コバ部分) はコバ塗膜がだいぶ剥がれていたのでコントラストの低下を招くことから当方で着色しています。同様にマウント部ネジ山内の・・光学系後玉の周囲も真鍮色のままでしたので着色しています。

AN115(0829)3絞り羽根は前述のとおり赤サビを落としているので滑らかにはなりましたがC型ワッシャーの影響から引っ掛かりを感じる駆動になっています。もしもご納得頂けないようであればご請求額より必要額を減額下さいませ

ここからは鏡胴の写真になります。

AN115(0829)4

AN115(0829)5

AN115(0829)6塗布したヘリコイド・グリースは「粘性:重め」を塗っていますが構成パーツのほとんどが「真鍮 (黄銅) 製」なので結果的に「軽め」の印象のトルク感です。ちなみに距離環を回す際に極僅かなガタつきを感じるのは (当初からありましたが) 先の説明のとおり直進キーが代用パーツであることが原因ですので、これも改善できません (キーのシリンダー部分が細すぎるのでガタつきが発生している)。

なお、専用フードの内側の一部が黒色塗装されていなかったので、こちらも着色しています。

AN115(0829)10

AN115(0829)10-1上の写真 (2枚) は、当レンズによる最短撮影距離46cm附近での実写で1枚目が開放「f1.5」での撮影になり2枚目がf値「f4」辺りでの撮影です。今回のオーバーホール/修理ご依頼誠にありがとう御座いました。