◎ CARL ZEISS JENA DDR (カールツァイス・イエナ) MC SONNAR 135mm/f3.5《後期型》(M42)
(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
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オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載しています)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)
このモデルの累計扱い本数は今回が23本目にあたりますが、サボっていたのかオーバーホール工程の掲載を怠っていました。
【オーバーホール/修理のご依頼内容】
今回のオーバーホール/修理ご依頼の内容は以下になります。
① 絞り環にガタつきがある
【当初バラす前の確認事項】
以下は当方がバラす前に今回扱う個体 (オールドレンズ) をチェックして確認した内容です。
② 距離環を回した時のトルクが重い (ピント合わせが大変)。
③ 一部にトルクムラが発生している。
④ A/Mスイッチ設定M (手動) の時、開放で絞り羽根が僅かに顔出し (4枚)。
⑤ A/Mスイッチ設定A (自動) の時、全ての絞り値で絞り羽根顔出し(6枚)。
⑥ 内蔵フードが引き出しにくい。
この個体を入手されたのはカメラ店様からのようですが、そもそも開放時にA/Mスイッチの切り替えに関係なく一部/全部の絞り羽根が顔出ししているのは問題/不具合だと当方では認識します。従って、当方がオーバーホール済でヤフオク! 出品する場合も、このような不具合は必ず明記してご落札頂くようにしています。
つまり今回のオーバーホール/修理ご依頼内容にご指摘がなかったので、ご依頼者様はもとより下手するとカメラ店様さえも認識していなかったのかも知れません。
きっとそれでもカメラ店様で扱っているとなれば、それだけでその信用/信頼の高さからそのまま売れてしまうのでしょうが、同じことを当方がヤルと途端にクレームが付いて下手すれば (当然ながら) キャンセル/返品に至ります(笑)
それでも「非常に悪い/悪い」の評価が付かないのは、まさにご落札者様皆様方の心温かな
ご配慮以外にないワケで(涙)、特にこのような個体を手にすると余計に感謝の気持ちがフツ
フツと湧いてきますね。
ありがとう御座います・・。
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今回扱うモデルは旧東ドイツのCARL ZEISS JENA DDR製望遠レンズ『MC SONNAR 135mm
/f3.5《後期型》(M42)』ですが、当然ながらその実装している光学系は3群4枚ゾナー型構成です。
しかしこのゾナー型構成と言うのは、ドイツ製オールドレンズに限らず日本の光学メーカー品も含め、世界中で非常に多くのオールドレンズで採用していた光学系の概念であり、標準レンズ域の50mmから中望遠レンズ域の85mm、或いは105mmそして今回の望遠レンズ域までと光学硝子レンズの枚数やカタチがそれぞれで異なるものの、とても幅広く使われ続けた光学系と言えます。
戦前ドイツで1929年にLudwing Bertele (ルードヴィッヒ・ベルテレ) によって開発されたSonnar型構成の概念は、当時のZeiss Ikonによってパテント登録され、同時に1932年にはZeiss Ikonから発売されたレンジファインダーカメラ「CONTAX I」の標準レンズ「Planar 50mm
/f2」としてさっそく登場しています。
このレンジファインダーカメラ「CONTAX I」用の交換レンズ群の中には、他にも中望遠レンズや望遠レンズとしてゾナー型光学系を実装したモデルが用意されており、その一つに今回扱うモデルの先代たる「Sonnar 135mm/f4 (CONTAX RF)」が居ました。
(右は当時のカタログから抜粋)
すると今回扱うモデルと同じ3群4枚のゾナー型構成ですが、同一の仕様である最短撮影距離:1mながらもモノコーティングだったことから、各群の光学硝子レンズのカタチやサイズ/曲率が違います。
(右の構成図は当時の設計諸元書よりトレース)
今回扱うモデルの光学系構成図が右図になり、最短撮影距離:1mと同一の仕様ながらもマルチコーティング化に伴う解像度の向上と諸収差改善から、第1群 (前玉) の曲率はもとより第2群の形状/曲率が大きく変更され、第3群も従前の凸メニスカスから凸平レンズに設計変更しています。
特にネット上で案内されている光学系構成図は、全て先代モノコーティングモデルの構成図であり、今回扱うマルチコーティングタイプの構成図は載っていません。
右図は今回バラして清掃時にデジタルノギスで計測しほぼ正確にトレースした構成図です。
当方が計測したトレース図なので信憑性が低い為、ネット上で確認できる大多数の構成図の
ほうが「正」です (つまり右図は参考程度の価値もない)。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)
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上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。
◉ 一段目
左端から円形ボケが破綻して背景ボケへと変わっていく様をピックアップしています。焦点距離が135mmにしては円形ボケの大きさが小ぶりです (例えば同じ旧東ドイツのMeyer-Optik Görlitz製135mmのほうがもっと大きなシャボン玉ボケになる)。また円形ボケ自体のエッジも明確に出ずそのまま滲んでしまうので円形ボケはちょっと苦手なのかも知れません。
◉ 二段目
ピント面の背景に収差ボケとして汚く滲んでいる実写を敢えてピックアップしてみました。ボケ味が汚いとひと言で片付けてしまうのも仕方ありませんが、むしろこのような収差ボケを「残存収差を多く含んだオールドレンズだからこその効果」として捉えれば、また愉しい撮影に繋がるとも考えます。
従って、当方はトロトロにキレイに (滑らかに) 溶けていくようなボケ味だけを褒めちぎらずに(笑)、このような汚い醜いボケ方にも同じように評価を与える眼差しで、先ずは決めつけずに見てみる癖を持つようにしています。
◉ 三段目
背景ボケがトロトロになった場合の実写を左端に用意しましたが、おそらく光学系の設計の問題を含んでいると思うのですが、ピント面からのアウトフォーカス部の滲み方にクセがあるようで、どことなく背景ボケに中途半端な印象が憑き纏います。確かに世間の評判のとおりコントラストが高く出てメリハリ感のある色乗りの良い発色性なのですが、それにしては写真の画全体の印象としてインパクトを与えるまでには至っていないような、少々未完成的な印象を受けます。その意味では、準広角レンズの「MC FLEKTOGON 35mm/f2.4」辺りの洗練されたこの当時のマルチコーティング化としての (一応の) 完成の域に到達した画造りと比較すると、何だか違うように見えてしまいます(笑)
【モデルバリエーション】
※オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。
初期型:1932年発売
絞り羽根枚数:13枚
最小絞り値:f16
最短撮影距離:1m
絞り機構:手動絞り (実絞り)
筐体:シルバー (アルミ合金材/戦前は真鍮製)
前期型:1954年発売 (?)
絞り羽根枚数:8枚
最小絞り値:f22
最短撮影距離:1m
絞り機構:プリセット絞り (実絞り)
筐体:シルバー (アルミ合金材)
中期型-I:1958年発売 (?)
絞り羽根枚数:8枚
最小絞り値:f22
最短撮影距離:1m
絞り機構:自動絞り (実絞り)
筐体:グッタペルカ (アルミ合金材)
中期型-II:1962年発売 (?)
絞り羽根枚数:8枚
最小絞り値:f22
最短撮影距離:1m
絞り機構:自動絞り (実絞り)
筐体:ゼブラ柄 (アルミ合金材)
中期型−III:1965年発売
絞り羽根枚数:6枚
最小絞り値:f22
最短撮影距離:1m
絞り機構:自動絞り
筐体:ゼブラ柄 (アルミ合金材)
後期型−I:1975年発売
絞り羽根枚数:6枚
最小絞り値:f22
最短撮影距離:1m
絞り機構:自動絞り
筐体:黒色鏡胴 (アルミ合金材)
後期型−II:1975年発売
絞り羽根枚数:6枚
最小絞り値:f22
最短撮影距離:1m
絞り機構:自動絞り
筐体:黒色鏡胴 (アルミ合金材)
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。以下のオーバーホール工程で案内していきますが、この当時のCARL ZEISS JENA DDR製オールドレンズ (つまりは黒色鏡胴モデル) に於いて、その構造面での設計概念に「共通化/標準化」の考え方がようやく浸透したようで、鏡筒/ヘリコイド (オスメス)/光学系/絞り環/マウント部の5つの部位に対する使い回しができるよう配慮されている事に (その変化に) 気がつきます。
左写真は当初バラす前のチェック時点で撮影した写真ですが、後玉側から開放時の絞り羽根顔出し状況を撮っています。
前玉側方向から見るとこんなに絞り羽根が突出して見えないのですが、それでも赤色矢印で指し示した4枚の絞り羽根が極僅かに顔出しします (後玉側から見ると開放時でも絞り羽根が見えるのが正常/そういう設計)。
上の左写真はA/Mスイッチの切り替えを「M (手動)」に設定していた場合ですが、スイッチを「A (自動)」に切り替えると、絞り環を回した時すべての絞り値で必ず絞り羽根が顔出ししてしまいます (僅かではなく相当な量が顔出しする)。
従って、冒頭解説のとおりカメラ店様ではA/Mスイッチを「M (手動)」設定でのみチェックしたのではないかと推測した次第です (自動切替を確認していない/確認忘れか?)。
いつもと同じですが(笑)、今回の個体も過去メンテナンス時に「白色系グリース」をヘリコイド (オスメス) に塗っています。と言うか2,000本以上扱ってきましたが、今までに「黄褐色系グリース」を塗布した個体を数本しか見ていません(笑)
やはりご覧のように綿棒でグリースを拭うと「濃いグレー状」にヘリコイドネジ山のアルミ合金材摩耗粉が混じっています。
いつも思うのですが、このように「白色系グリース」を使っている整備会社 (整備者) というのは「トルク調整をしていない/トルク調整をする考え方そのものが無い」のではないかと勘ぐってしまいます。
と言うのも、おそらくヘリコイドのトルクが重いと感じたら「軽い粘性の白色系グリースに変更」しているだけではないかと考えられるからです。逆に言えば「トルク調整をした痕跡が見つからない」とも言えます。
もしもそうだとすれば整備に掛かっている所用時間が短く済むのも納得です。当方の場合は
一つのグリース粘性で、まずは「トルク調整」を納得できるまで実施してしまうので、どうしても仕上がるのに丸一日がかりになります(笑)
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在します。
この当時のCARL ZEISS JENA DDR製オールドレンズ (黒色鏡胴モデル) に於いて、ほぼ全てのモデルで鏡筒は上の写真の設計で共通化されています (一部切削が違う場合が当然ながらある)。従って実装する絞りユニットに使う絞り羽根も同一の設計になり、光学系の相違は「延長筒」を介在させる事で補っています。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。上の写真下が前玉側方向で、上が後玉側方向になります。
◉ 連係アーム
絞り環の設定絞り値を「制御環」に伝達する役目の板状パーツ
◉ 上カム/下カム
絞り連動ピンやA/Mスイッチからのチカラ伝達を鏡筒内の絞りユニットに伝達する役目
実は、この当時のCARL ZEISS JENA DDR製オールドレンズの多くのモデルで、今現在発生している「絞り羽根開閉異常」のほとんどの原因箇所が上の写真「上カム/下カム」です。
これらの上下カムは、マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれるとそのチカラが伝達され、まず最初に「上カム」が動きます (ブルーの矢印①)。同時に「下カム」が鏡筒内部の絞りユニットに附随するスプリングのチカラで動きます (②)。
つまりスプリングは上の写真で鏡筒の外側に取り付けられている「上カム」と、さらに鏡筒内部の絞りユニットにもう1本あり、その2本のスプリングのチカラのバランスで絞り羽根が開閉する仕組みです。
ここで問題になるのが「上カム/下カム」なのですが、材質がエンジニアリング・プラスティック製で作られているパーツです。エンジニアリング・プラスティック製のパーツなのに、その軸として締め付け固定しているのは「金属製ネジ」なのです。
従って、この「上カム/下カム」が経年摩耗で擦り減ってしまうと「水平を維持しなくなる」ために不具合に至り「絞り羽根の開閉異常」が発生します。
左写真は、同じ部位の「上カム/下カム」の位置関係を分かりやすく別の角度から撮影しています。
「上カム」の爪のようなカタチの部分が「下カム」の出っ張りを操作しているのが分かるでしょうか? 互いに接触しているのはその部分だけです。
実際に綿棒を挟んで「上カム」が「下カム」から離れた時の状態を再現しました (マウント面の絞り連動ピンが押し込まれた時の状態を再現)。
すると「上カム」が「下カム」を押し込んでいたチカラが開放されるので「下カム」が自由になり飛び出てきて絞り羽根が設定絞り値まで開いたり閉じたりする仕組みです。
ここでのポイントはグリーンの矢印で指し示した部分で「上下カムが僅か1mm弱で互いに接触する」点です。従って上下カムのうちいずれか一方 (或いは両方) が経年摩耗で水平を維持しなくなった途端に互いの接触が適切にならず、特に「下カムの駆動範囲が変化してしまう」事で結果的に「絞り羽根の開閉異常」に陥ります。
↑「鏡筒」に対して「直進筒」と「ヘリコイド (オス側)」が組み合わさる事でヘリコイド (オス側) の直進動によって鏡筒が繰り出されたり/収納したりする仕組みですね。この時、距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が直進動する「直進するチカラ」に変換する役目を担うのが、上の写真「直進キー」の役目であり、グリーンの矢印で指し示した「直進キーガイド (溝)」に刺さって行ったり来たりスライドする事で鏡筒が直進動しています。
↑距離環 (ヘリコイド:メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
ここでのポイントは「距離環の裏側がヘリコイド:メス側のネジ山」であり、グリーンの矢印で指し示した長さ (範囲) が全てネジ山になっています。従って「距離環や基台に打痕やぶつけた痕が残っていたらトルクムラの懸念が高くなる」ことが要注意事項になります (何故ならヘリコイド:メス側が真円を維持しなくなるのでトルクムラにそのまま繋がってしまう)。
それゆえ、年代物のオールドレンズだから多少の打痕やぶつけた痕など外観は気にしないとしても、そもそも気にするべき意味が違う事を理解するべきですね (キレイな外観の個体を手に入れる為ではなくトルクムラの無い個体を入手するのが目的で外観を調べる) (笑)
↑ヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で15箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
↑ここで例として最短撮影距離位置:1mまで距離環を回して繰り出している時の内側の状態を撮影しました。すると距離環の裏側にあるヘリコイド (メス側) のネジ山をず〜ッとヘリコイド (オス側) が繰り出していって、ご覧のように「直進キーガイド」の縁ギリギリの位置で「直進キーの先端部分だけが引っ掛かっている状態」なのが最短撮影距離位置の時です (グリーンの矢印)。
従って、この状態の時にフィルターの着脱をしたり、或いは距離環を回すトルクが重いからとムリなチカラを加えて回そうとすると「直進キーが根元のネジ穴部分で変形する」のがご理解頂けるのではないでしょうか (下手すればネジ穴部分で割れる/破断する)?
このように、この当時のCARL ZEISS JENA DDR製オールドレンズのほとんどで同じ設計概念なので、距離環を回すトルクが重すぎる場合にムリなチカラを加え続けて操作し続けるのは危険な事が分かると思います。
↑マウント部内部の写真ですが、既に構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮影しています。
↑外していた「絞り連動ピン」や「A/Mスイッチ」に「絞り環」などを組み込んでマウント部を完成させたところです。この当時のCARL ZEISS JENA DDR製オールドレンズで、特に黒色鏡胴モデルの場合にこのマウント部の設計が共通化されています。モデルによって「操作カム/絞り環連係ガイド」の長さが異なるので、そのままダイレクトに転用できませんが、各機構部の連係概念は同一なので筐体の部位としてはマウント部が独立して完結しています。
なお、この「操作カム/絞り環連係ガイド」もエンジニアリング・プラスティック製パーツなので、もしも経年摩耗や劣化で擦り減ったり変形していたら、それはそのまま「絞り羽根開閉異常」に繋がっているハズなので改善処置が必要になりますね。
つまり「絞り羽根の開閉異常」で、例えば開放時に絞り羽根が顔出ししていたり、最小絞り値まで閉じなかったり、或いは絞り羽根の動きが緩慢だったりした場合、それらの因果関係は単なる「絞り羽根の油染み」だけではない事がご理解頂けると思います (絞り羽根の油染みを清掃し終わっても不具合が解消しない懸念があると言う意味)。
↑完成したマウント部は上の写真「上カム/連係アーム」にそれぞれ前述のエンジニアリング・プラスティック製パーツが組み込まれるワケです。
↑後からでは面倒なので先に光学系後群を組み付けてしまいます。この後はマウント部をセットしてから光学系前群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
↑焦点距離:135mmの望遠レンズとして考えると意外にもコンパクトな筐体サイズですが、ちゃんと内蔵フードまで組み込まれているので思ったよりも取り扱いが便利です。
↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持しており、LED光照射でもコーティング層の経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。一部にカビ除去痕やコーティングの経年劣化が数箇所ありますが、まず見つけられないくらい微細です。
また、ご覧のとおり当初4枚顔出ししていた絞り羽根はキレイに完全開放状態に戻っています。この状態で後側から覗き込むと絞り羽根が見えているので顔出ししているように思ってしまいますが、実はそれで正常なのです。
↑実際に後玉側方向から撮影しましたが、ご覧のように絞り羽根が出ているように見えますが前玉側から見ると前の写真のとおりちゃんと完全開放しています。当初はこれよりもさらに4枚の絞り羽根が飛び出ていた顔出し状態だったワケです。
↑そして。その「絞り羽根の顔出し (4枚)」と特に「A/Mスイッチ」の設定が「A (自動)」の時に全ての絞り値で絞り羽根が顔出ししてしまうのも、いずれもこの「絞りユニットと上下カムの不具合」が原因です。
今回のオーバーホールでは特にその不具合の改善に時間が掛かりました。「上下カム」を可能な限り水平状態に戻し、且つ絞りユニット内部の「開閉環と位置決め環」も「磨き研磨」しましたが、絞り羽根の顔出しを改善できたものの残念ながら正常に戻っていません。
絞り環操作、或いは「A/Mスイッチの切り替え操作」マウント面から飛び出ている「絞り連動ピンの押し込み動作」など、何かのタイミングで絞り羽根が閉じなくなる現象が発生します。
おそらく絞りユニット内部の「開閉環/位置決め環」の経年摩耗で何処かが接触していて、その抵抗/負荷/摩擦の影響で絞り羽根が閉じるのをやめてしまうようですが、再現性が無く、且つ内部状況が掴めないので改善できません。申し訳御座いません・・。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」を使い「粘性:中程度+軽め」を使い分けて塗っています。当初の重いトルク感に比べると大幅に軽めに改善できていますが、残念ながら「黄褐色系グリース」の性質上「ネジ山が擦れる感触が指に伝わる」ので申し訳御座いません・・。
距離環を回すトルクは「普通」人により「重め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
ピント合わせも極軽いチカラで微動できるので、操作性は格段に良くなっているハズです。
↑ご依頼内容であった冒頭「問題点①絞り環のガタつき」については、申し訳御座いませんがこれが「正常」です。どうも今ドキのデジタルなレンズなどと比較されて「ガタつき」を気にされていらっしゃるようですが、残念ながら鋼球ボールでクリック感を実現している設計なので極僅かなマチが与えられており、それがそのまま「絞り環のガタつき」のように感じてしまいます。
これを改善させようと処置すると、今度は絞り環が硬すぎて動かなくなります。
従って処置できません。申し訳御座いません・・。
その他、冒頭「問題点②と③のトルク関係の問題点」は完璧に解消しました。また「問題点④と⑤絞り羽根の顔出し」も完璧に解消できていますが、逆に新たに「絞り羽根が開放から閉じなくなる」現象 (不具合) が再現性無く発生する懸念が残っています。
なお冒頭「問題点⑥フードが引き出しにくい」のもおそらく過去メンテナンス時に貼り替えられた不織布のようなので (少々厚みがある)、今回のオーバーホールで改善できません。申し訳御座いません・・。
左写真のように内蔵式のフードになっているので (金属製)、とても助かります (少々シッカリ掴んで引き出さないと出てこない)。
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑当レンズによる最短撮影距離1m付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
内蔵式フードを引き出して撮影しています。
↑最小絞り値「f22」での撮影です。僅かに「回折現象」の影響が出始めています。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。
大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。