◎ Chiyokō (千代田光学精工) SUPER ROKKOR © 45mm/f2.8 《前期型》(M39)

MINOLTAの創業者「田嶋一雄」氏が家業の漆器製造卸業から独立して、大阪に「日独写真機商店」を開業したのが1928年、その後1931年に「モルタ合資会社」を経て実質的なMINOLTAの前身となる「千代田光学精工」に社名を改称したのが1937年と言うから、相当な老舗の光学メーカーですね。当初「MINOLTA」はあくまでもブランド銘でしかなかったようですが、後の1962年には社名に改称しています。ちなみに「MINOLTA」は「Machinery and INstruments OpticaL by TAshima」のように採った名称とのこと・・なかなか賢い採り方をしています。戦時中は海軍と繋がっていたようですが、ヨーロッパへの旅行でフランスの光学兵器工場を視察したのが転機になったようですね・・。元々の田嶋家家業だった「漆器製造」と言う背景からも「モノ造り」への拘りが受け継がれていたのかも知れません・・もうこれだけでロマンを感じてしまいますよ(笑)


オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程を解説を交えて掲載しています。

すべて解体したパーツの全景写真です。

CSR4528(0710)13このモデル「Chiyokō SUPER ROKKOR © 45mm/f2.8」は、ネットでは「真鍮製」と解説されていることが非常に多いですが、このズッシリと重みを感じる材質は「真鍮製」ではなく「総真鍮 (黄銅) 製 (オール・ガンメタル)」です。コトバ通りの銃身や砲身に使われているほどの耐摩耗性と強度を兼ね備えた非常に重量感のある材料です。

次の写真は、それら真鍮 (黄銅) 製の内部構成パーツを当方にて「磨き研磨」を施した、その前後の写真です。

CSR4528(0710)11 CSR4528(0710)121枚目がバラした後に清掃をした直後を撮影した写真です。2枚目は当方にて「磨き研磨」を施した後の写真になります。1枚目の写真の元々のパーツが黒々としているのは砲金材の表層面が既に経年で「腐食」しているからです。上の写真の構成パーツは「鏡筒 (写真左側)」と「絞りユニット (右側の2つ)」になります。後ほど解説しますが、この当時のモデルでは距離環の駆動と共に「絞り環」まで同時に回転してしまう仕組みで「絞り環」が独立していない構造をしています。従って距離環を回してピント合わせをした後に、絞り環の操作で絞り値を変えようとすると距離環までが一緒に動いてしまい大変操作性が悪いのが問題になります。

2枚目の写真のようにワザワザ当方で「磨き研磨」を施しているのは、このような「駆動系」の滑らかさを復活させるには「潤滑油」に頼るのではなく、本来の生産時に「あったであろう環境」として部材の表層面を研磨して滑らかにし「ピカピカ」「ツルツル」にしている次第です。「潤滑油」に頼ったメンテナンスは、その時点では問題が解消されますが、そもそも潤滑油の油成分は揮発性が非常に高く、その揮発した油成分は否応なくレンズの内部の何処かに集積します。当然ながら集まってしまったその油成分がレンズの使用に於いて「良い効果」を促すワケがありませんね・・(笑)

真鍮製ではないと「断言」しているのにはちゃんと理由があります。「磨き研磨」を施す際「真鍮材」のパーツはほんの僅かな研磨処理でピカピカになりますが「砲金材」のパーツはその10倍の手間がかかっても完全には表層面の腐食は除去できません。必要以上に磨きを処置してしまうと基材が出てきてしまい返って逆効果になります。作業途中で既に「真鍮製ではない」ことが判明しているワケですね・・非常に厄介ですが(笑)

《 訂 正 》
材質について「砲金」と述べていますがその後専門の方からご指摘頂き考え方を改めました。「砲金」ではなく真鍮 (黄銅) 製です。ここに訂正してお詫び 申し上げます。大変申し訳御座いませんでした。

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ここからは解体したパーツを実際に使って組み上げていく組立工程写真になります。

まずは絞りユニットや光学系前群を収納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) は独立しており別に存在します。

CSR4528(0710)14非常に小さな鏡筒ですが、先の説明の通り「真鍮 (黄銅) 製」なので磨き研磨は大変でした・・。7枚ある絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。

CSR4528(0710)15大変美しく輝く「コバルトブルー」の絞り羽根です。既に当時まで流行っていた「カーボン仕上げ」の絞り羽根から「フッ素加工仕上げ」の絞り羽根に変わっています・・さすがの拘りです。偶数枚の絞り羽根枚数ではなく奇数枚にしているのは「円形絞り」を意識してのことと推測できます。この絞りユニットの位置が鏡筒内部で決められておらず、フリーなので絞り羽根開閉幅の調整は非常に面倒です。実際の絞り値は光学系をセットアップして組み上げが完成してからでなければ確認できません。「絞り羽根開閉幅」がズレていれば・・ここまで再びバラさなければならず大変厄介な構造です。

鏡筒に絞り環を組み付けます。

CSR4528(0710)16この絞り環も鏡筒の前方側 (前玉側) よりネジ込んでいくのですが、やはり「位置決め」はされていません。回る回数は20回前後なので、その中でピタリと絞り羽根を駆動させる位置に合わせなければ、最後にまたバラすハメに陥ります(笑)

次の写真は距離環になります。

CSR4528(0710)17距離環のトップには「絞り値」が刻印されています。絞り環のレンズ銘板部には「丸窓」が空いており、そこに設定絞り値が表示されるようになっています。なかなかの拘りのある仕組みです・・。

CSR4528(0710)18ヘリコイド (メス側) を距離環に組み付けます。実はこの距離環がマウント部をも組み付けるための「基台」の役目を担っています。

CSR4528(0710)19絞り環がセットアップされた鏡筒を組み付けます。上の写真では絞り環の絞り値刻印が、距離環の「基準マーカー」位置に合っていない状態の写真です。

ここで先に光学系の前後群を組み付けてしまいます。まずは光学系前群です。

CSR4528(0710)20光学系は順光目視にてすべての群に経年相応の極微細なヘアラインキズが複数あります。また後玉には外周部附近にカビ除去痕として汚れ状の箇所がありますが、いずれも目視での視認はできないレベルです。光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れもありますが、いずれもすべて写真への影響はありませんでした。

このモデルは3群5枚構成のプリモプラン型光学系を採用している、珍しいタイプですね・・。いきなり第1群が「3枚貼り合わせレンズ」になっています。ラッキーなことに、この個体はバルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) が生じておらずとてもクリアな状態を維持していました。

上の写真をご覧頂くと写っていますが「気泡」が数点含まれています。この当時のレンズには多い現象ですが、製造メーカーでは硝子材が一定の時間規定の高温を維持していたことを示すものとして「気泡」を正常と扱っていました。写真への影響は当然ながらありません。

次は後群です。

CSR4528(0710)21光学系内はすべての群のレンズに経年相応のヘアラインキズが複数あります。またカビ除去痕としての極微細な点キズも見受けられますが、それらはいずれも極微細すぎたために写真には写りませんでした。上の写真 (後玉) が曇っているように写っているのは、撮影時のスタジオが写り込んでいるからで、実際はとても透明でクリアな状態を維持しています。

次の写真はこの状態でひっくり返した写真です。

CSR4528(0710)22ここからマウント部を組み付けていきます。

CSR4528(0710)23上の写真ではマウント部はまだ「仮止め」の状態です。指標値環もまだネジ止めされておらずブラブラしていますね(笑) ここにようやく今頃になって「ヘリコイド (オス側)」が入ります。その後で一旦無限遠位置と光軸確認に絞り羽根開閉幅の確認を行い、問題がなければ各パーツを固定して完成になります。

従ってこの後は一気に作業を進めてしまうのが、このタイプでの一般的な組み上げ方法になります。

ここからは組み上げが完成した出品商品の写真になります。「Chiyokō」を「Chiyoko (チヨコ)」としてしまうと「千代子さん」になってしまうので(笑) 最後の「o」は「ō (オー)」であり「千代光」ですね(笑)

CSR4528(0710)1このモデルには「梅鉢」と言う異名で呼ばれることが多いようですが、この「梅鉢」は「家紋」の梅鉢から来ています。しかし植物の「梅」も「家紋の梅」も本来花弁の枚数は「5枚」ですから・・ちょっと1枚多いような気がしますが?(笑)

フィルターは前玉直前 (黒色の前玉固定環) にネジ切りがあり「19mm径」のものであればネジ込みが可能です。またレンズ銘板には外枠があり、そこにもネジ切りがあるので「34mm径」のフィルターも装着可能です。レンズ銘板は絞り環も兼ねていますね。

CSR4528(0710)2この個体は第1群の貼り合わせレンズにバルサム切れが無く、しかも第2群〜第3群もコーティング劣化が経年ほどは進んでいないので、光学系内部はとてもクリアな状態を維持しています。ラッキーですね・・。ちなみにレンズ銘板にある「©」の刻印は「コーティング」を意味しておりシングルコーティングになります。

CSR4528(0710)3コバルトブルー」に光り輝く美しい絞り羽根も油染みが取れてキレイになり確実に駆動しています。

ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感が僅かに感じられる個体です。フィルター枠には2箇所の凹みがあり、既に当方で修復をしており34mm径のフィルター着脱には支障ありません。また距離環や絞り環のローレットには打痕も複数ありますが、筐体の「光沢研磨」も施したので、真鍮 (黄銅) 製であるが故の艶めかしい「艶のある輝き」を放っています。この艶の出方がアルミ材削り出しにメッキの場合と真鍮 (黄銅) 製にメッキの場合とでは、その輝きにビミョーな違いがありますね・・酒の肴にしていて気がついた次第です(笑)

距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。距離環のトルク感は滑らかに感じほぼ均一です。

距離環を回転させている際に負荷を感じる箇所がありますが「グリス溜まり」なので操作しているうちに改善されます (グリス溜まりの位置は多少移動します)。ピント合わせの際も軽いチカラで微妙な操作が楽に行えます。

構造上、距離環と絞り環が独立していないためピント合わせ後に絞り環の操作を行った場合は開放「f2.8」で僅かに抵抗感が残っており距離環が微動してしまうことがありますが、コツが分かれば苦にならないレベルです。

CSR4528(0710)4 CSR4528(0710)5 CSR4528(0710)6 CSR4528(0710)7オール・ガンメタルのレンズは「研磨作業」が相当堪えます(笑) 何しろ硬いのでそう容易には表層面の腐食が剥がれてくれません。せっかくの「梅鉢」ですから(笑) 今回は気合いを入れてストレッチのつもりで頑張りました! ちなみに当レンズは製造番号から相当初期の頃の個体と推測できます。もちろんピントレバーを装備していないので「前期型」になりますし、レンズ銘板の絞り値表示用としての「丸窓」も「前期型」にしか備わっていませんね。

ちなみに、絞り環も絞りユニットも「磨き研磨」を施したので、実用面でも大変「軽く」滑らかにはなっています。開放側の「f2.8」の端で極僅かな引っ掛かりが生じているので、その影響を受けて距離環が微動して回ることがあります。

CSR4528(0710)8光学系後群もキレイになりました。シングルコーティングの輝きが大変美しいです。

CSR4528(0710)9当レンズによる最短撮影距離1m附近での開放実写です。さすがにフードも装着していないと画全体的に開放ではコントラストが低下した写りになってしまいますね・・僅かにハロも出ているでしょうか。しかしこの端正で、骨太なエッジの画造りにはため息が出てしまいます(笑) 今夜の酒の肴はコイツで決まりですね!(笑)

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