◎ CHINON (チノン) AUTO CHINON 55mm/f1.4《前期型−II:富岡光学製》(M42)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。

今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、国産の
チノン製標準レンズ・・・・、
AUTO CHINON 55mm/f1.4《前期型−II:富岡光学製》(M42)』
です。


  ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ!    Слава Украине!  Героям слава!  

上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。

今回オーバーホール済でヤフオク! 出品するこの個体も含めておそらくこの当時の時代に作られていた『富岡光学製』と思しきOEMモデルは当方がオーバーホールを始めた10年間の累計で54本目の扱いになり、さらにその中でCHINON製モデルは僅か8本目と言う少なさです。

特に敬遠しているワケではありませんがおいそれと手を出せない大きな理由があります。それを 説明しているのが左の写真です。

今現在海外オークションebayで出品されている 掲載写真から転載してきましたが光学系後群の「特に後玉表面」の状態で赤い円で囲った箇所に特に酷く汚れのようなモノがとても薄く視認できます。

おそらくこの後玉をLED光照射でチェックすればもっとハッキリと明確に汚れが分かりますがこれは後玉のコーティング層が経年劣化の進行に伴い「コーティング層の浮き/剥がれ」が起きている現象で、パッと見では如何にも汚れのように見えますが洗浄液で清掃しても少しもキレイになりません (従って当方はこのような個体に手を出しません)。

さらに始末が悪いのはこれら「コーティング層の浮き/剥がれ」はたいていの場合で「極薄いクモリ状にほぼ全面に渡って広がっている (LED光照射でチェックした時)」のでどんなに光学系前群の状態が良くても後玉表面のたったこれだけの薄いクモリだけで「撮影する写真は1枚ベール越しのようなまるで霧の中での撮影のようにコントラスト低下が起きる」と明確に指摘できます。

ヤフオク! の出品商品の中でもこのような状況を指して「光や逆光撮影時にコントラスト低下が起きる懸念」とちゃんと明記する出品者はまだマシですが下手すれば「一般的な写真には 影響なし」と謳う事が多いです(笑)

要は売りたいが為にそのような謳い文句を並べているワケですが「後玉表面のほぼ全面に渡る極薄いクモリは致命的」である事をちゃんとリスクとして認識頂くべきです。当方のように 必ずオーバーホール後に実写確認し、且つその時の写真を各絞り値で掲載していれば「コントラスト低下が起きていれば開放側の絞り値で明確にその状況が撮影した写真に現れる」のが ご理解頂けると思います。

逆に指摘するならヤフオク! の出品で「どの絞り値で撮影したのか不明な実写」を載せている出品がありますが何の判定基準にも成り得ません(笑) あたかもユーザーに配慮したかの如く「実写つき!」など謳って出品していますがそもそも基本的なことが理解できていないので ただ単に実写があれば落札率が上がるなどと思い込んでいます(笑)

一例として載せた上の左写真はパッと見ではまるでキレイに見えますが画像加工ソフトでイジッてチェックすると汚れ部分が明確に視認できるので致命的なのです。

そして残念な事に『富岡光学製』オールドレンズの多くの個体で光学系の状況が既に限界値に到達し始めているようでカビの繁殖状況が酷いですし、且つコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリも多いのが現実であり、最低限それらをチェックして調達しようと努めるなら自ずと「後玉の確認」だけは必須と明言できます。

仮に外周部分にクモリが起きていても中心部がクリアならまだ逃げられますがコーティング層の経年劣化の場合全面に渡り均質に悪化している事が多いようです (パッと見で外周だけでもLED光照射するとちゃんと全面に渡っている)(涙)

このような状況から特に「55mm/f1.4」モデルに関しては何処のメーカーに指向されたOEM品だろうが関係なく、なかなか光学系の状態が良い個体をゲットできずにただただ時間だけが過ぎていきます(涙)

その意味でこのブログでも何回も申し上げていますが『オールドレンズは絶滅危惧種』なのでおそらく50年先には光学系の特徴やモデルの希少性などは二の次になってしまい(笑)、何よりも「光学系がスカッとクリア」なだけで高額流通する時代が来るでしょう(怖)

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オールドレンズ時代の「チノン株式会社」は1948年に長野県茅野市で茅野弘氏により創業した光学メーカーで初期〜前期は8ミリシネカメラ用の鏡筒や鏡胴の他に光学硝子レンズを供給していたようですが後は1960年以降に当時爆発的にヒットした「チノンズーム8」から次々に新製品を発売し1972年に「M42マウント規格」を採用した自社初の一眼レフ (フィルム) カメラ「CHINON M-1」を発売し一眼レフ (フィルム) カメラ市場に参入しました。

その後経営の多角化が仇となりついに1997年Kodak傘下に入ったものの2009年には民事再生法を申請し事実上消滅しました。しかしチノンブランドの商標は残され1962年に当時Kodakの傘下に入らなかった茅野正澄氏による資産管理会社として新設していた「三信商会」の商号を「株式会社チノン」に改称しブランドを引き継ぎ現存しています (左ロゴは現存する株式会社チノンのロゴマーク)。

現チノンの製品で有名処は「Bellamiシリーズ」などレンズ交換式デジタルシネカメラやオモシロイ製品ではiPhone用のパッシブスピーカー「CH-PS840シリーズ」がありまさに「所有欲をくすぐる」素晴らしい製品が開発されています。

そんな波瀾万丈な背景があるチノンですが残念ながら現チノンのサイトでは旧チノン製品などの情報を一切載せていないので特にオールドレンズとの関わりが強いフィルムカメラの情報はその詳細が不明です (wikiにも発売製品一覧がない)。

例え旧チノンから引き継いだワケではないにしろ「古き良き時代」たる戦後の昭和を駆け抜けていった数多くの光学製品に対しその慈しみをちゃんと後世に残す気概は現存する血筋の一つの企業としてせめてそれら製品情報を載せてほしいものです (そういう責任と義務まで放棄しないでほしいと請願するばかり)(涙)

ネット上を検索しても当時チノンが発売していたフィルムカメラのwikiがありません。主要のモデル発売時期などを調べて時系列でまとめたのが下記です。他にも海外輸出専用モデルや バヨネットマウント化した「PKマウント機」など数多く顕在します。

【チノン製一眼レフカメラ】
※M42マウントモデルの発売年度別時系列/( )は海外輸出ブランド

CHINON M-1:1972年発売 (GAF L-17)
CHINON CM:1974年発売 (GAF L-CM/aurgus CR-1)
CHINON CE MEMOTRON:1974年発売 (GAF L-ES/SEARS 2000)
CHINON CX:1974年発売 (GAF L-CX/argus CR-2)
CHINON CXII:1976年発売
CHINON CS:1976年発売 (?)
CHINON CEII MEMOTRON:1976年発売 (GAF L-ESII/argus CR-3)
CHINON CE-3 MEMOTRON:1977年発売
CHINON CM-1:1978年発売 (?)
CHINON CM-3:1979年発売
CHINON CS-4:1980年発売

↑上の写真は左から CHINON M-1(1972年発売)、 CHINON CX(1974年発売)、 CHINON CS(1976年発売)、 CHINON CEII MEMOTRON(1976年発売) のそれぞれの取扱説明書の表紙ですが当時セットレンズ化していた標準レンズの状況が掴めます (何故ならセットレンズなので合わせて発売/製産されている必要があるから)。

まず最初にこれら4機種のフィルムカメラ取扱説明書から1974年まではセットレンズたる標準レンズは「合皮革を貼り付けたローレット (滑り止め) だった」点に着目しました。

ところが一番右端の同じく1976年に登場した高級機指向のモデル「 CHINON CEII MEMOTRON」にはラバー製ローレット (滑り止め) が貼り付けられ、且つちゃんと開放f値「f1.4」を載せています (他は全てf1.7モデル)。もっと指摘するならマルチコーティング化 されている事も判明します (他は全てモノコーティング)。これ以降 (1976年以降) セットされる標準レンズは全てラバー製ローレット (滑り止め) が貼り付けられたモデルに遷移します。

↑実際に現物を調べるとこんな感じです。左端から CHINON M-1(1972年発売)、 CHINON CE MEMOTRON(1974年発売)、 CHINON CEII MEMOTRON(1976年発売)、 CHINON CE-3 MEMOTRON(1977年発売) ですが一番右端の CHINON CE-3 MEMOTRON では同じマルチコーティング化のラバー製ローレット (滑り止め) たる標準レンズにしてもモデルバリエーションで言う処の「後期型」なのが分かります (レンズ銘板の刻印からMULTI-COATEDのタイプ/いずれも取扱説明書掲載パターンでの実機写真)。

するとここで見えてきた事実が幾つかあります・・。

セットレンズたる標準レンズには開放f値「f1.4/f1.7」があった。
一番最初は合皮革ローレット (滑り止め) からスタートしている。
最後はラバー製ローレット (滑り止め) で終焉する (且つマルチコーティング化される)。

例えば一番右端の CHINON CE-3 MEMOTRONは前年の1976年に戦略上高級機指向に舵を切り替えて開放f値「f1.4」モデルの標準レンズを載せてきましたがおそらく市場ウケが低迷した結果から再び開放f値「f1.7」モデルに戻してきた事が伺えます。

このように当時の一眼レフ (フィルム) カメラ取扱説明書をチェックする事で当時の戦略などが見えてきますがチノンでは「金属製ローレット (滑り止め)」を最初に据えていなかった事が明白です。するとここでチノンに於けるセットレンズたる標準レンズの戦略性が垣間見えてきました。

左はまさにそれが掴める当時の一眼レフ (フィルム) カメラに附随していた取扱説明書からの抜粋です。

標準レンズ域では開放f値「f1.7/f1.4のモノコーティング」モデルの他に「f1.7/f1.4のマルチコーティング」も併売され、且つ当時流行っていた (流行らそうとさせていた)「1/3倍撮影のマクロ機能付標準レンズ」まで標準レンズ域として掲載しています。

これは当ブログで別に掲載しているAUTO CHINON MCM 55mm/f1.7 MULTI-COATED LENS MACRO《富岡光学製》(M42)』を指しますが、ちゃんと製造メーカーたるチノン自身が標準レンズ域に扱っていた事が明白です (何故ならマクロレンズの欄が別に存在するから)。

ここまでの調査から開放f値「f1.7とf1.4が併売されていた」ことが分かりマルチコーティング化の後にも従前のモノコーティングモデルがやはり併売されていた事実も判明します。また チノンでは当初から金属製ローレット (滑り止め) タイプを用意していなかった事も分かり何となくチノンの戦略が垣間見えたようにも感じます (ちょっとしたロマン)(笑)


↑上の写真 (8枚) は『富岡光学製のf1.4OEMモデル』を順にピックアップした写真ですが上段左端から順にモノコーティングモデルを並べて下段の左から2番目より右端までの3本だけがマルチコーティングモデルです。国産のRICOH (RIKENON) にCOSINA (COSINON) の他海外輸出機モデルとしてSEARS (米国) にREVUENON (旧西ドイツ) やPORST (旧西ドイツ) を列挙しましたが他の無名ブランドのような得体の知れない名前のモデルも多数あります (例えばAUTO REFLECTAなど多数顕在)。

実はあたかも何でもかんでも全て似たような意匠モデルをまるで『富岡光学製』にしてしまっているとSNSで批判の嵐なのですが(笑)、ちゃんと根拠があって羅列しています。酷い場合は「富岡光学狂」とまで貶められている始末で思わずウケてしまいましたが(笑)、そのように貶すならちゃんと反論材料を「証拠を基に指摘する」のが大人ではないかなぁ〜と思います(笑) むしろそういう人のほうが何でもかんでもサイトに明記している内容に「」を附随させてあたかも明言しているが如く実は確実ではないみたいな逃げ処を用意している卑怯な人です(笑)

極めつけの写真 (左) を載せてしまいますが(笑)、ちゃんとブランド銘が「TOMINON銘」の開放f値「f1.4」モデルの存在です!

このオールドレンズの解説を観ると後の時代に合皮革タイプが現れて「レンズ銘板からTOMIOKA銘が消えた」と解説していましたがそれが違う事を今まで説明してきました。

距離環のローレット (滑り止め) が「金属製なのか合皮革なのか或いはラバー製かは純粋に指向先メーカーの判断に拠るだけの話」であってあたかも発展の経緯として最初が金属製ローレットだったワケではなく、もしもそれを指摘するなら「最後にラバー製が多用された」と言うのが正しい評価でしょう(笑)

そして当然ながら当方は完全解体を旨としたオーバーホール『DOH』と言う決して譲らぬポリシ〜があるので(笑)、これら数多く存在する『富岡光学製』オールドレンズ達を逐一バラしていくとちゃんとその内部構造と使われている構成パーツやその仕組みに『富岡光学製たる共通項が歴然に示せる』からこそ『富岡光学製』と指摘しているのであって、多くのサイトで様々なモデルの根拠として指摘している「筐体外装の相違や駆動方向の違い或いは刻印指標値の字体など」はハッキリ言って金属加工の製産工程の途中で自由自在に変更可能です (以前取材した金属加工会社の社長さんのご教授により全て根拠に至らないと判明)。

左写真はその『富岡光学製』たる根拠の一つとして挙げる証拠で1974年にCHINONから発売された一眼レフ (フィルム) カメラ「 CHINON CE MEMOTRON」の取扱説明書です。

この取扱説明書の表紙を飾っているセットレンズたる標準レンズは「AUTO CHINON 55mm/
f1.4 TOMIOKA
(M42)
と「TOMIOKA銘」をレンズ銘板に刻む希少な証拠モデルです。

このモデルを完全解体して内部構造を把握し各構成パーツの存在理由まで突き止めたからこそその後に登場したモデルバリエーション上の変遷の中で「何がどう変化していったのか」を 逐一説明できるからこそ『これらのモデルは富岡光学製であって他の何物でもない!』と強力に断言できるのです (何処ぞのサイトのように憶測だけでモノを言っているワケではありませんし貶すだけ貶しておいて逃げ処を用意する卑怯な事を当方はしません!)。

その根拠の基になるモデル「AUTO CHINON 55mm/f1.4 TOMIOKA (M42)をご覧頂ければそのオーバーホール工程を逐一確認できますが、そこから判明した『富岡光学製たるその根拠を 示す共通事項』を以下にちゃんと示します(笑)

以下の3項目だけが当時流通していたオールド レンズの中で他社に同一の設計をみないまさに『』そのものです。

具体的には『富岡光学製』の構造的な要素 (特徴) として大きく3点あり、いずれか1点、或いは複数合致した時に判定しています。

M42マウントの場合に特異なマウント面の設計をしている (外観だけで判断できる)
内部構造の設計として特異な絞り環のクリック方式を採っている (外観だけでは不明)
内部構造の設計として特異な絞り羽根開閉幅調整方式を採っている (外観だけでは不明)

上記3点は今までに3,000本以上のオールドレンズを扱ってきて富岡光学以外の光学メーカーで採っていない設計なので『富岡光学製』判定の基準としています。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

前期型−I1972年発売
レンズ銘板:TOMIOKA銘刻印あり
距離環ローレット:エンボス加工/合皮革
銀枠飾り環:有
コーティング:モノコーティング
コーティング層光彩:アンバーパープル

前期型−II1973年発売 (?)
レンズ銘板:TOMIOKA銘刻印なし
距離環ローレット:エンボス加工/合皮革
銀枠飾り環:有
コーティング:モノコーティング
コーティング層光彩:アンバーパープル

中期型1976年発売
レンズ銘板:TOMIOKA銘刻印なし
距離環ローレット:幾何学模様/幅広ラバー製
銀枠飾り環:有
コーティング:マルチコーティング
コーティング層光彩:グリーン含む3色

後期型1977年発売
レンズ銘板:TOMIOKA銘刻印なし
距離環ローレット:幾何学模様/薄型ラバー製
銀枠飾り環:有
コーティング:マルチコーティング
コーティング層光彩:グリーン含む3色

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上の写真はFlickriverで、このオールドレンズの特徴的な実写をピックアップしてみました。
ピックアップした理由は撮影者/投稿者の撮影スキルの高さをリスペクトしているからです
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています/上記掲載写真はその引用で
転載ではありません。

一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して次第に円形ボケへと滲んでいく様をピックアップしています。光学系構成が5群7枚の拡張ダブルガウス型構成なのでシャボン玉ボケが表出するものの収差の影響を受けて真円を維持できなくなっています。

開放f値が「f1.4」なので上位格付の開放f値「f1.2」モデルと比べると明らかにピント面の アウトフォーカス部はその滲みが緩やかであり被写界深度が「f1.2ほど狭くない使い易さ」が撮影時の楽な一面であり、それを武器にして撮るのも一手です。基本的に円形ボケのエッジ 部分は太く現れませんが逆に指摘するなら乱れて溶けていくのでキレイな滲み方とは言えないかも知れません。

二段目
さらに滲んでいく円形ボケに収差の影響が大きく表れて酷く暴れた印象になるのが左側2枚でそれから先さらにトロットロにボケていくのが右側2枚です。その背景ボケを敢えて上手く「背景効果」として使ってしまいピント面を惹き立たせた素晴らしい撮影スキルの実写です。

三段目
左側2枚はダイナミックレンジの広さを示す為にピックアップしており特にライトト〜ンでの表現性はギリギリまで耐性が続くので美しいグラデーションと共に背景の壁など材質感や素材感をシッカリキープしてくれています。

四段目
左端の「紅色の花」が凄くてまさに「富岡光学の紅色」なのか色飽和してしまったかの如く その判定が難しいほどに美しくひたすらに「紅色」です・・あぁ〜素晴らしい!(涙) 赤色の発色性に特徴が起きるとブル〜の表現性までキリッと冴えるから堪りません!(涙) 被写界深度の材質感や素材感などを写し込む質感表現能力の高さも『富岡光学製』光学系の特徴です。

五段目
動物毛や人物表現も生々しさをちゃんと含めて残してくれます。3枚目の花はまるで中空に突然現れたかの如くその被写界深度の特徴からインパクトの強い写真に仕上がっています。これが開放f値「f1.2」モデルになると背景ボケももっとトロットロに溶けますが合わせて花のそれこそ花びらだけにしかピントが残らないのでさすがに中空に浮いているような印象には至りません。その意味で何でもかんでも開放f値は「明るいほうが良い」と言う概念には当方自身多少疑問が残ります (性能検査数値の至上主義者ではない)(笑)

光学系は5群7枚と言う拡張ダブルガウス型構成で後群側の貼り合わせレンズの先に1枚追加した設計です。

右構成図は今回のオーバーホールで完全解体した際に光学系の清掃時当方の手によりデジタルノギスを使い逐一全ての群の光学硝子レンズを計測したトレース図です

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。今回この個体を 完全解体して内部構造と共にその使われている各構成パーツを把握したところ「本来の前期型のすぐ次に僅かな設計変更を伴ったタイプ」である事が判明しました。

逆に指摘するならこの後に登場した「中期型後期型」にはやはり内部構造と使われている 構成パーツの一部にこの2つのモデルバリエーション内だけで通用する共通項が見出せるので「前期型−I前期型−II vs 中期型後期型」では明らかに内部構造の設計変更が伴い、且つ もちろんその中にあって光学系のマルチコーティング化まで進んでいる事実が指摘できます。

従って今までこのCHINON製モデルバリエーション上で「前期型/中期型/後期型」と3つに 分けていた分類を「前期型−I/前期型−II/中期型/後期型」の4つに区分けを変更しました。

これは明らかな相違点が判明した為に「前期型」と同一に括れなくなりました (製産ラインの都合上一緒に製産できないから)。その解説はまた後でご案内します。

↑上の写真は今回のこの個体のマウント部内部から取り外した構成パーツの一つです。ブルーの矢印①で指し示した金属の黄鋼製筒状パーツを軸として左側に写る「開閉爪 (ブルーの矢印②)」が移動する仕組みです。その時の反発/移動するチカラと合わせて「必要以上にマウント面から飛び出ている絞り連動ピンが押し込まれた時の必要外なチカラを逃がす役目として捻りバネが存在する」事をグリーンの矢印で指し示しています。

このマウント部内部では「捻りバネ」を使っていますがオールドレンズ内部の別の部位では「スプリング」を使っておりこの「2つのバネ材の反発力と引張力が互いにバランスする事で初めて絞り羽根の正常な開閉が適う」原理です。

ところが今回の個体は当初バラす前の確認時点で「鏡胴に極僅かな前後方向のガタつきを感じていた」問題が起きていました。上の写真でオレンジ色矢印で指し示した箇所は過去メンテナンス時に整備者が故意にワザとペンチを使って曲げてしまった事になります。

捻りバネは金属の黄鋼製筒状パーツの周りにキッチリ隙間無くキレイな真円状態で巻かれて入って両方向に腕を広げた「ハの字型捻りバネ」です。ところが片方はその巻きが緩んで広がってしまいましたしもう一方は強制的に角度を付けてグッと曲げています。

つまりこれらの処置は「反発力を強くしたかった」からなのが明白で「過去メンテナンス時の整備者は何処をどう曲げたらチカラが強く変わるのか」を熟知していたプロの整備者なのが 確実です(笑)

要は過去メンテナンス時点で既に「絞り羽根の開閉異常」が起きていてそれを解消するが為に「捻りバネを強制的に曲げてごまかしの整備」を施しています(笑) マウント面から飛び出ている絞り連動ピンの押し込みに反応した時の絞り羽根の動きに何か問題があったのでしょう。(何故なら上のパーツは左端の開閉爪が絞りユニットから飛び出る開閉アームをガシッと掴んでいるから)

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑鏡筒最深部に絞りユニットが格納されました。

↑完成した鏡筒をひっくり返して裏側 (つまり後玉側方向から) を撮影しています。すると絞りユニットから飛び出てきた「開閉アーム」にスプリング (グリーンの矢印) が附随して「常に 絞り羽根を完全開放状態にするチカラ」が及んでいます。

一方前述解説でマウント部内部の「捻りバネ」を強制的に曲げてチカラを強くした過去メンテナンス時に整備者の所為が判明していますが、あの「捻りバネ」が「設定絞り値まで絞り羽根を閉じるチカラ」を及ぼす仕組みです (オレンジ色矢印のところ)。

このスプリングと捻りバネはそれぞれはチカラの向きが異なり「スプリング引っぱる引張力」に対し「捻りバネ反発力」なのでそれぞれの部位別にチカラの伝達が変わるので (チカラの伝達経路と力の伝わり方が違うから) それを見越して対処しないと「結果的に絞り羽根開閉異常に至る」次第です。

しかし今回の個体はこれらバネ材の問題が根本的なトラブルの因果関係ではありませんでした(笑) 本当の「絞り羽根の開閉異常」を来す因果関係は全く別の場所に隠れていました(笑)

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。

↑こちらはヘリコイド (メス側) になりますが上下に2段でネジ山が切削されています。上の 写真で言うと上段側がヘリコイド (メス側) になります。

↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

すると露出しているネジ山は「ヘリコイド (メス側)」になりますね。

↑上の写真は以前オーバーホールした「レンズ銘板にTOMIOKA銘刻印がある」モデル「AUTO CHINON 55mm/f1.4 TOMIOKA (M42)の同じ工程から掲載写真を転載しました。

同様にヘリコイド (メス側) が露出しており既に基台にネジ込まれています。すると手前に側面にセットしてある「距離環駆動域制限キー」と言う赤色矢印で指し示しているパーツが今回の個体にはありません。

この「制限キー」の役目は「距離環が回転する範囲を決めているパーツ」なので、このキーの固定が狂うと「無限遠位置がズレる」話になり、当然ながらその反対側たる「最短撮影距離側もズレる」ワケで下手すれば最短撮影距離が仕様諸元値に至らない場合もあり得ます (たいていの方々は無限遠位置ばかり気にしますが)(笑)

何しろ「制限キー」が可変式の構造ではないので無限遠位置がズレれば同時にそれは最短撮影距離位置まで延びてしまい適切な最短撮影距離まで近寄れない場合も考えられます。

そもそも「ヘリコイド (メス側) パーツの材質が変化している」のが明白ですが「前期型−I」では黄鋼製だったのが今回の「前期型−II」ではアルミ合金材に変わっただけではなく「距離環の駆動方法が変化した」のが設計変更の本質です。

つまり上の方式で「制限キーによる微調整機能」の設計よりも「一つ分工程数を減らして合理化した」のが設計変更の目的です。そしてそれは「いちいち金属材の種類を違えて設計していた時代との決別」でもありまさに「同一材たるアルミ合金材のヘリコイドオスメスで回転時のトルク問題が解消できた」事こそがこの設計変更の真髄です。

これは何を示すのかと言えば「技術革新が進み切削精度が向上したので同一材による低トルク回転に問題が起きなくなった」と言うつまりはコンピュータ制御によるNC旋盤機の性能向上の結果とも言い替えられます。

こんなヘリコイド (オスメス) 部分の「観察と考察」だけでそのような当時の時代背景が大きくクローズアップされます!(驚)

逆に指摘するならまさにこのような核心的技術の向上こそが「世界規模でいつの時代にも軍事転用されている事の表れ」とも言い替えられ 東芝機械ココム違反事件 と言うココム規約 (対共産圏輸出統制委員会規約) に違反する事件になり日米間の政治問題にまで発展した事件があったりしたのです。

簡単に説明するなら当時の東芝機械がコンピューター制御の最新NC旋盤機を旧ソ連邦に輸出しこれによって旧ソ連海軍所有の最新原子力潜水艦のスクリューが作られたと言う密告により事件化したと言う内容です。

この事件は1982年〜1984年のココム違反による事件の話ですが何だか今のまさに世界規模での国際秩序の転換期にも相通ずる話だと思いませんか???(笑)

何処ぞの政党が反対したり因縁付けていますが(笑)、このような核心的最先端技術と言うのはいつの時代も必ず軍事転用されており、兵器を研究したり製産しなければ良いとド素人感覚でしか物事を考えられない何処ぞの政治家達の頭のせいでこういう事件が今もなお起きる話になります。

実際つい先日ウクライナ軍によって撃墜されたロシア軍のUAV (無人攻撃用ドローン) の内部を調べたら「何とCanon製品が実装されていた」ワケではたしてこの事実をどのように企業は認識するべきなのか? もっと言うならどの国のどの兵装にどのような日本製品が使われているかなど関知できない (管理できない) とも言えないでしょうか。個人が購入していて最終的にその個体が実装されていたのだとしたらいったいどうやってそれを管理できるのかと言えば ほぼ100%管理不能でしょう(笑) 然しそんな事を言っていてはラチがあかないのでせめて核心的技術の製品にはそれら重要な部品にトラップを仕掛けてブラックボックス化に努めてほしいですね。それを法規として創設しても良いくらいに今ドキの世の中は混沌としています(涙)

例えば今現在数多く流通しているオールドレンズには決してそのような核心的技術保護の為のトラップなどが仕掛けられているワケではありませんが(笑)、然し実はとても似たような結末に至る設計上の与件があります。

それは「直進キーと直進キーガイドの関係」です。

以下にも解説しますが、仮にオールドレンズを解体したいと考えていた時に外観からはとても解体する取っ掛かりになりそうなネジなどが少なかった場合「たいていの人が距離環を回して鏡筒を繰り出した状態のままフィルター枠を回して外そうと試みます」何故そのような所為に及ぶのかと言えば「鏡胴にもフィルター枠にも取り付けネジが見えないので回せば外れると 安直に考えるから」ですが(笑)、実はその「鏡筒を繰り出した時」と言うのはオールドレンズ 内部で「直進キーが直進キーガイドのほぼ端に到達している状態」であり、まるで「直進キーの先端部分だけで保持されているような状況」です。

するとこのような状況の時にフィルター枠を外そうとして両手で鏡胴とフィルター枠を掴んだまま思いっきり回したら (ちょうど雑巾を絞る時のように互いに反対方向に回したら) アッと 言う間に「内部の直進キーは根元から曲がって変形し下手すればちぎれてしまう」と言う結末に至ります。

もしも「直進キー」と言うパーツをほんの僅かでも変形させてしまったらどんなに丁寧に頑張って組み上げても「距離環を回す時のトルクムラはまず防げない」と言うまるでジャンク品のような仕上がりに至ってしまいます。

従って多くのオールドレンズが「環/リング/輪っか」の集合体として勝手に思い込んでいる人に限ってこのような不始末に及びせっかくのオールドレンズをジャンク品に堕としてしまう 懸念が高まります(怖)

例として挙げたこのような話は設計時点の決してトラップ的な要素ではありませんが、結果的に対象となるそのオールドレンズの内部状況を知らないが故に壊してしまう、或いは本来の 性能/機能/操作性に至らない結末を迎える事は容易に指摘できますね(笑)

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

直進キーガイド
直進キーが直進動でスライドして移動するガイド/溝であり鏡筒の繰り出し量をカバーする

↑話が飛んでしまいましたが(笑)、ヘリコイド (オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります (赤色矢印)。

さらにヘリコイド (オス側) の内壁には両サイドに「直進キーとそのガイド (溝)」が備わります (グリーンの矢印)。当初バラした直後はここにビッチリと「白色系グリース」が残っていました (全く使われていない塗布した時のまま)(笑)

上の写真の状態が一つ前の工程で最後に解説した「直進キーの先端部分だけでヘリコイドオス側が保持されている状況」に近づいている時の内部撮影です (グリーンの矢印)。この状態のままフィルター枠を回されたら「直進キーの頭の部分だけが反対方向にチカラが及び容易に根元部分が曲がる」原理がご理解頂けると思います。

↑完成した鏡筒をセットしますがこの時鏡筒の外壁の一箇所にセットされている「絞り羽根開閉幅微調整キー」と言う小さな円盤を締め付け固定している箇所を微調整する必要があります (赤色矢印)。

上の写真を見ると分かりますが黄鋼製の小さな円盤を締め付け固定するネジが「中心からズレた位置にネジ止めされている」のが分かります。つまりこの締付ネジを緩めると円盤が動きますが「その時円盤は左右に大きくブレながら回る」ので結果的にこの円盤の固定位置に従い「鏡筒の固定位置が左右にブレる」から絞り羽根の開閉角度が微調整されて完全開放〜最小 絞り値までの絞り羽根の閉じ具合が変化する原理です。

この要素が冒頭の『富岡光学製の構造の根拠足る要素の一つ』であり 内部構造の設計として特異な絞り羽根開閉幅調整方式を採っている (外観だけでは不明) と言う根拠になります。

もちろん上の工程で微調整機能を説明していますが実際は「光学系前後群を組み込んで製品が組み上がらなければ絞り値との整合性は確認できない」ワケで(笑)、おそらく富岡光学での製産時点では専用の治具が用意され「光学系前後群を鏡筒に組み込んだ状態で検査できた」のだと推測しています (製産後は単に総合検査するだけ)。

もちろん当方にはそんな治具を用意する能力はありませんし数多くのオールドレンズで全て千差万別なので作っても意味がありません(笑)

従って逐一必ずオーバーホールが終わって仕上がってから簡易検査具で調べる始末でそのたびにズレていたら再びここまで戻って微調整するハメに陥ります(笑)

・・だからこそ一日1本しか組み上げられないのです (今は数日必要ですが)(笑)

↑こんな感じで鏡筒が「締付環」によって締め付け固定されます (ネジで固定しない)。このようなネジで鏡筒を固定しない手法も当時の他社製品ではどんどん合理化が進み容易にネジ止め固定に変化している中「富岡光学は相変わらず旧態依然の方式を続けた」からこそ1968年には経営難で大手顧客先だったYASHICAに吸収合併し、やがて1983年にはYASHICAまで京セラグループの参加に甘んじました(泣)

一にも二にも金属材やパーツ点数によるコスト削減ではなく「最も企業利益を食うのは今も昔も人件費」なのであってそれは詰まるところ「製産時点の工程数削減」しかなくそもそも設計時点からして合理性や効率性の追求が求められるのではないでしょうか。

↑鏡筒をセットした状態でひっくり返して後玉側方向から撮影しました。基台の両サイドにちゃんと「直進キー」がそのガイドに刺さっています (グリーンの矢印)。またちゃんと「開閉アーム」も飛び出てきてマウント部内部の「開閉爪」がガシッと掴めるよう十分な長さです (赤色矢印)。

前の工程のところでまるでトラップ的な要素として「直進キーと直進キーガイドの関係性」を解説しましたが、このように「直進キーは根元部分で締め付け固定されている」ので不用意な横方向 (水平方向) のチカラが及んだ時に簡単に変形/破断してしまうワケです(笑)

逆に指摘するなら対象となるオールドレンズが初めての扱いで「内部の構造を知らないまま 解体する」時の恐怖感と言ったらどれ程の話なのかご理解頂けるでしょうか(笑) ましてや そのオールドレンズがオーバーホール/修理ご依頼分の個体で「他人様の所有物」となれば、 その恐怖心たるや如何ばかりかというまるでホラー映画並みのレベルだったりします(怖)

↑こちらはマウント部内部の写真ですが全ての構成パーツを取り払い当方の手で「磨き研磨」が終わった状態を撮っています。当初バラした直後は過去メンテナンス時に塗られていた「白色系グリース」のせいで経年に拠る揮発油成分がヒタヒタと附着して一部にサビが出ていました。

↑取り外していた各構成パーツを全てセットしてマウント部内部が完成したところです。

マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれると (ブルーの矢印①) その押し込まれたチカラの分だけカムが押されて (ブルーの矢印②) 先端の爪が「連動アーム」を押します (ブルーの矢印③)。

するとこの時「連動アーム」に仕込まれている「捻りバネ (前述のオレンジ色矢印で指し示した曲げられていた捻りバネ)」のチカラが影響して適切な移動量で「開閉爪」が動き (ブルーの矢印④)、その際途中にあるグリーンの矢印で指し示した金属製のキーが「制御環の途中にあるなだらかなカーブ」に突き当たる為「設定絞り値まで絞り羽根が瞬時に閉じる」と言う原理です。

このようなマウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」の押し込み動作から始まるチカラの伝達経路とその伝わるチカラの強さが全ての操作性を実証し確かな結果に繋げるオールドレンズ全ての根源的な要素なのです。

この「原理原則」が理解できていない整備者はたいていの場合で冒頭解説のような「ごまかしの整備」で仕上げている次第です(笑)

ちなみに「制御環の途中にあるなだらかなカーブ」の勾配で麓部分が最小絞り値側になり坂を登り切った頂上部分が開放側になっています (ブルーの矢印)。

↑絞り環をセットしたところです。一つ前の工程で解説した「なだらかなカーブがある制御環」が既にこの絞り環と連結しています。

↑このモデルの絞り環操作はカチカチとクリック感があるワケですが、それを実現している仕組みが上の写真です。

絞り環の裏側には「」が刻まれていてそこに「飾り環側に仕込まれたベアリング+スプリング」がカチカチと当たる事でクリック感が実現できます (赤色矢印)。ベアリングはグリーンの矢印のようにこの溝に填まるのでこの2つのパーツがセットで存在して初めてクリック感が適います。

このように2つのパーツでクリック感を実現していた手法の設計を採り続けたのが『富岡光学』であり冒頭の 内部構造の設計として特異な絞り環のクリック方式を採っている (外観だけでは不明) になりますね(笑)

ちなみに絞り環裏側に刻まれている「」は「絞り値キー」と言って各絞り値に見合う位置で溝が切削されています。

↑こんな感じで「飾り環」がセットされます (赤色矢印)。しかし実はここが最大の難所で(笑)、この「飾り環の固定位置をミスるとクリック感を感じる位置と絞り値とが合致しない」操作性に至ります(笑)

飾り環 (赤色矢印)」は横方向から「イモネジ」と言う特殊ネジで締め付け固定されます (グリーンの矢印)。

従ってこのイモネジによる締め付けでどの位置に「飾り環」を固定すれば良いのかミスるとクリック感がチグハグに至りますが、実は指標値環ともズレてしまいます!(笑)

この「横方向からイモネジで飾り環を締め付け固定する手法」を採り続けていたのも当時の他社製品の中で『富岡光学製』モデルだけの特徴であり「唯一この要素だけが外観から判定できる」証拠です。

冒頭解説の M42マウントの場合に特異なマウント面の設計をしている (外観だけで判断できる) がまさにこの点を示しています。

↑まさにその「指標値環」をセットしたところです (赤色矢印)。すると指標値環に刻印されている基準「」マーカーの位置と各絞り値の位置が合致して、且つ当然ながらクリック感も一致しなければいったい設定絞り値の左右どちらの絞り値で絞り羽根が開閉しているのか確認する必要性が生じて使い辛くて仕方ありません!(泣) そもそも開放f値「f1.4〜f11」までは半段絞りなので面倒くさい話になります(笑)

従って「富岡光学製」オールドレンズで「M42マウント規格」の場合はこれら微調整機能の「原理原則」を熟知し、且つ確実な微調整ができるスキルが必ず必要になりますね(笑)

↑上の写真はオーバーホール工程の途中で指摘した「距離環の駆動方式が変わった部分」を解説していてヘリコイド (メス側) には均等配置で全部で6箇所にネジ穴が備わり (グリーンの矢印) そこに距離環が締め付け固定される設計です。

従って上の写真で赤色矢印で指し示しているとおり「指標値環の内側に一つ制限キーがある」のがモデルバリエーション上で言う処の「前期型−I」からの設計変更点でありまさにこれこそが「前期型−II」たる証拠になります。

距離環を締め付け固定する場所は自由自在なので距離環に刻印されている「∞」刻印が多少ズレてもピタリと合わせられます。ところが「この制限キーだけはズレない!」のでどんなに距離環の固定位置を合わせて「∞」刻印をピタリとさせてもそもそもヘリコイドのネジ込みを失敗していたら意味がないと言うお話です(笑)

それで全部で13箇所ネジ込み位置がある事が重要な話になります。

↑いよいよ最終工程に入りました(笑) 距離環を仮止めしてから鏡筒に光学系前後群を組み込んで無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

実は冒頭でお話した当初バラす前の今回の個体の状況「鏡胴に前後方向にガタつきが起きていた」理由がマウント部内部の構成パーツの使い方を過去メンテナンス時の整備者がミスっていて、その結果「A/M切替スイッチの切り替えが適切に絞り羽根に伝わらなかった」ので何とやはりA/M切替スイッチに関係するスイッチ環と言う環/リング/輪っかまでペンチで曲げて「ごまかしの整備」を施していました(笑)

僅か0.3ミリ」程度の曲がりですがそれが影響して基台〜ヘリコイド (オスメス) 〜距離環までの一式を本締めで締め付け固定すると「何と距離環が固まってしまった」ので締付ネジをほんの僅かに緩めたまま「固着剤で固定した」なら良いのですが、何と「エポキシ系接着剤を使って固定した」から堪りません!(涙)

バラすのに本当に苦労しましたが全てはいろいろと起きていた不具合の「観察と考察」ができずに「原理原則」にも従わず「ごまかして組み上げた」からの仕上がりだった次第です(笑)

たいていの場合で何某かのトラブルを抱えている個体と言うのは「過去メンテナンス時の整備者によるごまかしの整備」から起因している事が多く、当方がヤッている作業と言えば「単に製産時点に各構成パーツをひたすらに戻しているだけ」で何らハイレベルな技術スキルも伴っていない始末で、まさにSNSで指摘されている批判のとおり「プロになれなかったド素人崩れの整備者」なのが当方と言うお話ですね(笑)

・・当方の技術スキルは相当低いレベルです!(笑)

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑完璧なオーバーホールが終わりました。今回扱う個体はレンズ銘板に「TOMIOKA銘」刻印が附随しませんがおそらくその刻みがあった「前期型−I」の翌年辺りに登場した「単にTOMIOKA銘を省いただけ」ではないバラしてみると歴然たる設計変更が成されていた「前期型−II」との判定に至りました。

逆に言うなら「マウント面の飾り環が白いタイプが前期型−I」と認識して良いとの判定に至りました (内部構造の相違から)。

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でも光学系内のコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。

光学系前後群の外周附近に極微かな菌糸状を伴うカビ除去痕が非常に薄いクモリを伴って残っていますが写真には一切影響しないレベルです。一部はカビ除去痕としてその芯だけが影のように点状に残って視認できます。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑光学系後群側も透明度が高く前群と共に「スカッとクリア」であり、合わせて冒頭解説で指摘した「後玉表面側の状態もとてもキレイ」でありそれだけでも商品価値が高いです (光学系の問題の全てが後玉表面で決まってしまう!)。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:15点、目立つ点キズ:10点
後群内:20点以上、目立つ点キズ:20点以上
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
(前後玉に微かなカビ除去痕が計6箇所あり)
・ヘアラインキズ:あり(前後群内僅か)
(前後群内に極微細な薄い3mm長数本あり)
・バルサム切れ:なし (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
(但し前後玉外周附近に非常に薄い微かな菌糸状を伴うカビ除去痕のクモリが数箇所あります)
・光学系内は透明度が非常に高いレベルです。
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑6枚の絞り羽根もキレイになりA/M切替スイッチや絞り環共々確実に機能しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正六角形を維持」したまま閉じていきます。

冒頭解説したマウント部内部の構成パーツに附随する「捻りバネ」の問題点も解消させてマウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」の押し込み動作に応じて適切なチカラ伝達を促し適切な絞り羽根の開閉駆動を復元しました。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

当方ではヤフオク! で流行っている「抗菌剤/除菌剤による清掃」などは絶対に実施しません。これをやると薬剤に含まれている成分の一部が金属の表層面に対して酸化/腐食/錆びを促す結果に至るので、早ければ1年、遅くとも数年でポツポツと錆が表れ始めます。

詳細は厚労省の「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」が詳しく解説しています。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度+軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人により「軽め」に感じ「全域に渡り完璧に均一」です。
距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります
・マウント部内部捻りバネの経年劣化進行に伴い僅かに弱っている為に絞り連動ピンの押し込みに対する反応が適正を維持できなくなっています。もしもマウントアダプタ経由デジカメ一眼/ミラーレス一眼に装着使用される場合はK&F CONCEPT製のマウントアダプタをご使用頂き、且つピン押し底面を「凹面」にセットしてご使用下さいませ。それで適正な絞り連動ピンの反応を維持できます。さらに当然ながらマウントアダプタ装着時は「A/M切替スイッチ」の設定は自動(A)手動(M)の別なくいずれも絞り羽根の動きは手動絞りに限定されます。
(マウントアダプタのピン押し底面の存在により絞り連動ピンが常時押し込まれるから)。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。
・A/M切替スイッチのプラスチック製ツマミが経年劣化進行に伴い一部欠損しています。正常に機能するので操作面で支障ありません。

今回のオーバーホール済でのヤフオク! 出品に際しセットした附属品の一覧です。

《今回のヤフオク! 出品に際し附属するもの》
HAKUBA製MCレンズガード (新品)
本体『AUTO CHINON 55mm/f1.4《前期型−II:富岡光学製》(M42)』
汎用樹脂製ネジ込み式M42後キャップ (新品)
汎用樹脂製スナップ式前キャップ (新品)

このモデルのピントの山がアッと言う間で一瞬なので距離環を回すトルク感に特にこだわり「軽め」に仕上げています。それによりピント合わせ時の前後微動がし易くストレスを感じません。また絞り羽根開閉も内部のチカラ伝達を徹底的に改善したので適正に戻りA/M切替スイッチのいずれの設定でも確実に駆動します。

光学系内の「スカッとクリア」な状況と合わせて考えれば操作性のレベルの高さも相まりまさに逸品レベルの仕上がりです。

なおちゃんと距離環のエンボス加工が施された合皮革ローレット (滑り止め)、或いは絞り環のギザギザ部分も含め中性洗剤で洗浄してあるので経年の手垢などが残っておらずキモくないです(笑)

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑鏡胴のマウント面のすぐ直前に配置されているA/M切替スイッチはそのツマミが経年劣化により弱っています。既に片側 (向かって左側) が欠損していますが破断面を処置して整えてあります (赤色矢印)。

↑当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f2.8」で撮りました。

↑f値は「f4」に上がっています。

↑f値「f5.6」になりました。

↑f値「f8」です。

↑f値「f11」での撮影です。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。既に「回折現象」の影響が現れ始めておりピント面の解像度が極僅かに低下しています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。