◎ PETRI (ペトリカメラ/栗林写真工業) AUTO PETRI 28mm/f2.8《富岡光学製》(M42)

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今回完璧なオーバーホールが完了して出品するモデルは、ペトリカメラ製広角
レンズ『AUTO PETRI 28mm/f2.8《富岡光学製》(M42)』です。


今回扱ったのは、ペトリ製オールドレンズの中にあって少々珍しい「M42マウント」ですが、マイナーで、しかも特に評価が高いワケでもない全くの無名モデルです。どうして扱ったのかと言えば、理由はたった一つ「富岡光学製」だからです。特にPetri製の広角レンズをチェックしたかったワケでもありませんし、描写性に惹かれたワケでもありません (実写情報すら見つからない)。

さらに都合が悪いことに、このモデルの情報を調べようとするとネットでヒットするのは他のモデルばかり(笑) あまりにも無名すぎるかと思いきや、バラしてみると意外な事実が・・(笑)

C.C Auto Petri 28mm/f2.8 

光学系構成:6群6枚レトロフォーカス型
最短撮影距離:40cm
A/M切替スイッチ:有
製造元:富岡光学製 (?)

Auto Petri 28mm/f2.8 

光学系構成:7群8枚レトロフォーカス型
最短撮影距離:35cm
A/M切替スイッチ:有
製造元:富岡光学製

C.C Auto Petri 28mm/f2.8

光学系構成:不明
最短撮影距離:40cm
A/M切替スイッチ:有
製造元:不明

Petri 28mm/f2.8

光学系構成:7群8枚レトロフォーカス型
最短撮影距離:35cm
A/M切替スイッチ:有
製造元:不明

・・ネットで調べ上げた当時のペトリカメラ製焦点距離28mm広角レンズです。

この中では過去にオーバーホール済ですが「argus Cintar 28mm/f2.8 (M42)」のレンズ銘板すげ替えバージョンです。また、は今回出品するモデルの「後期型」バージョンで「富岡光学製」ですが、どう言うワケかフィルター枠径が「⌀58mm」に変わっています (今までに 当方扱い無し)。

しかし、どのモデルも製造番号に時系列的な繋がりが一切無くシリアル値として捉えることが不可能です。富岡光学製オールドレンズは製造番号の先頭1桁〜3桁を指向先メーカーのモデル別に暗号符番していたため、2桁〜4桁目だけがシリアル値になっています。
(例:東京光学製RE,Auto-Topcorシリーズなど)

これらのモデルはどれもペトリカメラ (旧:栗林写真工業) 内製ではなく他社光学メーカーのOEM供給に頼っていた時期の製品であり、おそらく1970年代後半辺りに「単発製産」で供給を受けていた「造り切り製品」ではないかと推測しています (多くても1万台の製産/契約までで完了の製品ばかり)。

だとするとペトリカメラは1978年に倒産していますから経営難に喘いでいた時期でもあり、すでに内製で製産していく体力すら失っていたことが窺えます。

一方、今回出品するモデルは「富岡光学製」ですが、当の富岡光学も1968年には経営難からヤシカに吸収されています。さらにそのヤシカ自体も既に経営は悪化しており1975年ついに 倒産してしまいます (子会社の富岡光学だけが京セラに吸収合併)。

このように当時の時代背景を考えるとペトリカメラも富岡光学も共に薄利多売に活路を見出さざるを得ない状況だったことが窺えますが、今回出品モデルをバラしてみると内部構造の一部には「富岡光学のミスジャッジ」が垣間見えました・・。

光学系は7群8枚のレトロフォーカス型ですが、実はバラしてみると内部の構造も含め「原型モデル (参考モデル)」が存在することが判明しました。

驚いたことに、それはYASHICA製広角レンズ「AUTO YASHINON-DS 28mm/f2.8《後期型》(M42)」でした・・!

だとすると、おそらく1972年前後に製産されていたようにも見えますし、その後かも知れません。その考察も交え以下オーバーホール工程で解説していきたいと思います。

なお、Flickriverで実写検索しても他のモデルばかりヒットし、たったの1枚しか発見できませんでした。円形ボケのニュアンスが掴めるかどうかと言う感じですがピント面の繊細なハロが特徴的でしょうか。
如何にマイナーなモデルなのかと言わんばかりです・・(笑)
発色性はこの当時のペトリカメラ製オールドレンズの特徴を踏襲しているようです。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。バラしてみると相応な構成パーツ点数に及びますが「富岡光学製」であることを決定づけるパーツが存在していました (後ほど出てきます)。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在します。

上の写真赤色矢印は、この鏡筒を固定する際に固定ネジで締め付け固定するために用意されている「下穴」ですが、3本の固定ネジを使います。ご覧のように下穴以外締め付けされた時の痕跡が残っていません。つまり、今回の個体は生産後一度も過去にメンテナンスされていないキチョ〜な個体なのが判明します。

どうしてこれがそんなに貴重なのかと言うと (あくまでも当方が貴重だと思っているだけです)過去メンテナンスが一度も施されていないなら「塗布されているヘリコイド・グリースの種別/粘性は生産時のオリジナルのまま」になるからです。これは当方にとって相当な価値があります。

バラしてみると「黄褐色系グリース」が塗られておりヘリコイドのネジ山が一切摩耗していない状態でした。そもそも当初バラす前のチェックで、距離環を回す際のトルク感は経年劣化による「僅かな液化進行」を感じる程度で、大変スムーズな滑らかさを維持しており、一般的にグリース塗り替えを要するとジャッジするほどではありません。

つまり、あくまでも当方の持論ですが「製産されていた当時は黄褐色系グリースだった」ことの「」をまた一つ手に入れたと言えます。塗布されていたグリースは、乳白色の少々粗めの粒子感を感じる黄褐色系グリースながらも、市場には流通していない独特な粘性であり (指でグリグリしました)、特別に配合したグリースであることが判ります。

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。上の写真では絞り羽根の直前に「梨地仕上げのメクラ蓋」がセットされていますが、ちゃんと経年の揮発油成分が絞り羽根や露出している光学系前群のコーティング層に附着しないよう配慮した設計なのが、これだけで分かります (さすが光学メーカー)。

↑この状態で完成した鏡筒を立てて撮影しました。鏡筒裏側はたった1本のコイルばねだけと 言うシンプルさです。このコイルばねは「絞り羽根を常に開こうとするチカラ」が働いてい ます。先ずはここがポイントですね。

↑こちらは距離環やマウント部を組み付けるための基台です。7群8枚もあるレトロフォーカス型光学系内ので光路長を確保する必要性から相当な深さ/厚みをもたせている基台の設計です。

↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑ヘリコイド (オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で5箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に 無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

ここで、冒頭でご案内したYASHICA製広角レンズ「AUTO YASHINON-DS 28mm/f2.8《後期型》(M42)」をご覧頂いた方は相違点に気がつかれたと思います。YASHINON-DSではヘリコイド (メス側) に「真鍮材」を使ったアルミ合金材とのサンドイッチ構造でした。つまり、同種の金属材でネジ山を切削した時に「カジリ付現象」でヘリコイドが互いに噛み合ってしまい固着するのを防いでいた時代の設計になります。ところが、今回の個体は同一アルミ合金材によるヘリコイド (オスメス) ですから、製産された時代は「さらに後の時代」であることが明白になります (工場の生産設備が更新された後の生産品と言える)。

オールドレンズは、内部構成パーツの「観察と考察」をシッカリ行うことで、時系列的な背景/タイミングまで明確になるからオモシロイですね (やめられない♪止まらない♪オーバーホール♪)(笑) いえ「かっぱえびせん」食べながら作業してませんから・・。

↑ここで当方が気がついた点をご紹介します。上の写真はネジ込んだヘリコイド (オス側) ネジ山を拡大撮影していますが、グリーンの矢印の箇所でグリーンのラインを境にして左右のネジ山切削が違っています。左側は滑らかに対し右側はゴツゴツした粗めです

写真ではちょっと分かりにくいですが (下手クソでスミマセン)、これは同種のアルミ合金材に拠るヘリコイド (オスメス) で「カジリ付現象」を避ける意味から、一部のネジ山切削をワザと故意に替えています。粗めのネジ山は半周ほど回ると滑らかな切削にもどり再び粗めに至る、その繰り返しでネジ山が続きます。

つまり、このような仕様で切削されているヘリコイドに白色系グリースを塗布してしまうと距離環を回す時に「重め」のトルク感に陥るか「擦れ感」のある印象に仕上がってしまいます (下手すればトルクムラ)。何を言いたいのかと言うと「黄褐色系グリース」を塗布する前提でヘリコイドのネジ山が設計されていることの「だと言いたいのです。そこに気がつかず (配慮せず) に白色系グリースを塗るから、数年で経年劣化から液化が進行すると (白色系グリースの液化率は高いから) トルクムラや段々重くなってきたりするワケです。

今回バラした時に「オリジナルな乳白色の黄褐色系グリースが塗られていた」ので生産時に塗布された富岡光学純正グリースですから、相当な年数トルク感を維持し続けてきたと言って良いと思います。もちろん僅かに経年劣化に拠る液化は進行していましたが、少なくとも乳白色のままであり白色系グリースのように濃いグレー状/ネジ山摩耗には至っていません。これが当方が「黄褐色系グリース」に拘って執着する理由です (当方だけの主張なので信用性は非常に低い/皆無)。

↑他の富岡光学製オールドレンズと全く同様ですが、鏡筒をヘリコイド (オス側) の中にストンと落とし込んでから「締め付け固定環」で前玉方向から締め付け固定する方式を相変わらず採っています (グリーンの矢印の順番)。この方式の目的は「鏡筒の位置調整で絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) を調整する」考え方だからです。絞り羽根が開きすぎていたり (閉じすぎていたり) した時に、鏡筒の位置をズラして調整することで絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) を強制的に調節しているワケです。

↑実際に鏡筒をセットするとこんな感じですが、一つだけ進化を発見しました。過去の設計では単に締め付け環で締め付け固定していましたが、このモデルでは「締め付けネジ」をさらに用意しています (グリーンの矢印:3本)。

先ずは、多少進化があっとしてもこのような従前の考え方を踏襲し続けたことが「富岡光学のミスジャッジ」と言えます。構成パーツの材質を変更するだけではたいしたコスト削減には繋がりません (最終的な生産量との見合わせなので)。ところが、実際の組み立て工程時の「工程数削減」は、そっくりそのまま「人件費削減/生産量の増大」に結びつきますから、こんな面倒な設計を続けずにサッサと鏡筒をダイレクトにネジ止め固定にして、内部の絞りユニットの位置調整だけで絞り羽根の開閉幅調整に設計を替えれば良かったのです。

既に当時、他社光学メーカーは挙って生産量とコスト削減に走っており (日本製カメラ/レンズが世界中を席巻し終わったら次は利益の圧迫しか残らない)、その中で出遅れた富岡光学は必然的に経営難に陥るワケで、最大の取引先だったヤシカに身を売ったが為に母体のヤシカと共倒れしていく運命に至ります。おそらく、経営者の先見性が低かったのではないでしょうか。

↑この状態で基台ごとひっくり返して撮影しました。絞り羽根の開閉をダイレクトにしている「絞り羽根開閉アーム」がありマウント面にある「絞り連動ピン」の押し込み動作に連動して絞り羽根を開閉しています (ブルー矢印)。また両サイドには距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツ「直進キー」がセットされています。

この「直進キー」も今回の個体が生産時のままだったが為に、やはり当方の持論である「生産時には直進キーにグリースを塗らない」のが確認できました。一般的にメンテナンスが施されると (今現在も) この「直進キー」にビッチリとグリースを塗る整備業者ばかりです(笑)

「直進キー」はチカラを変換する役目ですが同時に「決してチカラを留めずすぐにそのまま伝達してしまう」と考えます。仮にこの直進キーでチカラが留まるとすると「面 vs 面」の設計をするワケがありません(笑)
当方は業界を知らないので詳細は分かりませんが、いわゆる転がり係数みたいな話で接触面積
/接地面積は可能な限り低く採ると考えます。だとすると面で互いに接するような設計は採らないハズであり直進キーには「チカラが留まらない (単に変換して伝えているだけ)」と言う結論に達します。従って当方では一切グリースを塗りませんし、実際塗らずとも大変滑らかに駆動します (磨き研磨してるから)

「原理原則」に則りさえすれば、自ずと工程の作業は決まってくるものですが「グリースに頼った整備」をするからオールドレンズ内部に必要外のグリースばかりが多くなり、結果、経年劣化から揮発油成分が廻ってしまい肝心な光学系コーティング層の劣化を促します。
「悪循環」の何物でもありませんね・・(笑)

↑こちらはマウント部内部を撮影しましたが、既に各連動系・連係系パーツを取り外して当方による「磨き研磨」が終わった状態を撮っています。

↑これが問題のパーツです。自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) の切り替え操作で、この「棒バネ」が反応して絞り羽根の開閉動作を切り替える仕組みです。この「S字型棒バネ」の反発力だけで切替を決めているので「S字」のカタチが適合しないと途端にスイッチ操作による絞り羽根の開閉異常を来します。さらに「S字型棒バネ」はネジ固定なのでネジが緩んだらアウトです (スイッチ操作でチカラが掛かる箇所なのに)(笑)

今回の個体はオールドレンズ単体状態、或いはフィルムカメラ装着時は問題無く絞り連動ピンとの連係もスイッチ切替動作も正常でした。ところが、マウントアダプタに装着すると一発でアウトです。「絞り羽根開閉異常」を来たし最小絞り値「f22」まで絞り羽根が閉じません (f8でストップ)。

当方がこのモデルを「富岡光学製」と明言している理由が過去にRevue製標準レンズ「AUTO REVUENON 55mm/f1.2 TOMIOKA (M42)」をオーバーホールした経験があるからです。このTOMIOKA銘のモデルには全く同一の設計思想に基づく「S字型棒バネ」が内部に備わっています。

製産メーカーが異なるのに、ワザワザ他社製品の構成パーツをソックリ似せて用意し設計する必要性は全くありませんョね?(笑)
自社工場の設備に合う独自設計を考えるのがフツ〜でしょう。

従って、今回のモデルが「富岡光学製」だと言い切れるワケで、決して根拠がないまま (それこそ外観が似ているとか否かとか) 明言しているワケではありません(笑)
ここまで具体的な根拠を示して「富岡光学製」であることを解説しているのに、いまだに信じない人が居ます(笑) ならば富岡光学製ではない根拠を示してみろ!と言いたいですね。意外とそう言う人に限ってバラしたことがなかったりします(笑) 口ばかりで肝心な部分は自らの主張に固執しているだけで、いまだに外見上の相違点やコーティングの違いなどに拘っています。

製品とは、内部構成パーツの積み上げで組み上がり、それは取りも直さず「設計思想」の現れであり、企業の製品戦略の一環でもあることに目を向けようとしない (本質を見抜けない) 人々ですね(笑)

↑マウント部内部に外していた個別の各連動系・連係系パーツを、やはり「磨き研磨」を施して「表層面の平滑性を担保」して組み付けます。

  • 絞り連動ピン
    マウント面に配置されている絞り羽根の開閉を制御する基のパーツ
  • スイッチ環
    自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) のツマミ操作で絞り羽根の開閉動作を切り替えている環 (リング/輪っか)
  • 絞り環連係環
    絞り環との連係をしている環 (リング/輪っか) で絞り羽根の具体的な開閉角度を決めている
  • 開閉アーム
    絞り羽根を勢いよく開閉するチカラを伝達する役目
  • 棒バネ
    スイッチ環の設定により絞り羽根の開閉動作を切り替えるチカラを及ぼすバネ

・・ザッとこんな感じです。実は、上の写真は2日目に撮影しています(笑)

結局、オールドレンズ単体やフィルムカメラ装着に限定すれば正常で一切問題が無かったのですが、やはりマウントアダプタ経由装着したい人もいらっしゃると思います。従って、マウントアダプタ装着時でも正常に絞り羽根が開閉するよう問題の「S字型棒バネ」を調整した次第です。

何しろ「S字型」ですから、そのカーブのカタチが少しでも変わると「開閉アーム」の動き方が変わってしまうので、それは自動的に絞り羽根の開閉動作にダイレクトに影響します (ブルーの矢印)。冒頭で解説した鏡筒の絞りユニットから飛び出ている「開閉アーム」の爪に刺さるのがこのアームだからです。

しかも、調整とは言ってもここまでマウント部を組み上げて基台にセットしてからでなければ絞り羽根の開閉は確認できません。従って、棒バネの状態まで再びバラしてからS字型のカタチをほんの少し (0.2〜0.3mmほど) イジっては組み上げて絞り羽根の動きを確認し、再びバラしてを延々と2日目まで続けていたワケです(笑)

何でこんな「針金みたいなバネ」を考えたのョ!(怒) 恨むぜ富岡光学!!!

こちらの「S字型棒バネ」は「絞り羽根を常に閉じようとするチカラ」が働きます。ところが冒頭の解説のとおり鏡筒裏側には「絞り羽根を常に開こうとするコイルばね (スプリング)」が居ますから(笑)、この2種類のバネのチカラの相互関係の上に成り立って初めて絞り羽根の開閉は適正状態に至ります。

アッチが良ければこっちがダメみたいな、そんな同道巡りを2日間続けていたワケで、壁に放り投げたくならないほうがウソですョ!(笑) いえ、投げてませんが・・。

↑後から組み付けることができないので、ここで先に光学系前後群をセットしてしまいます。上の写真は光学系後群です。左端に鏡筒から飛び出ている「開閉アームの爪」が見えています。
憎たらしい!

↑前群は後からでも良いのですが先にセットしてしまいます。

↑光学系前後群をセットし終えた鏡筒をセットし直して締め付け固定したところです。

何で鏡筒をセットし直しているのか?(笑) 鏡筒の位置調整で絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) が変わるからです。つまりマウント部の「S字型棒バネ」のカタチをイジりつつ、この鏡筒の位置も微調整しつつ・・どんだけ調整が厄介なんだ、勘弁してくれョ!!!

↑完成したマウント部を基台にようやくセットできますが、後から指標値環を差し込めないので先に入れ込んでおきます。同時にスイッチのツマミも後から組み付けられないのでセットしておきます。しかし、これだけスイッチ用ツマミが出っ張ってくると、どうやって絞り環をこの後入れるのでしょうか?(笑)

↑指標値環をイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本を使って正しい位置で固定します。この指標値環の固定位置がズレると、絞り環を回した時のクリック感がチグハグになってしまいますね(笑)
ちゃんと上の写真の反対側にはスイッチのツマミが出っ張っています。

↑絞り環をセットしたところですが、この状態ではまだベアリング+コイルばねがセットされていません (絞り環操作にはクリック感が伴うのに)。

スイッチのツマミが出っ張っているのに、絞り環をセットできました(笑) 少々コツがあるのですが当方はもぅ慣れっこなので簡単です。
このスイッチのツマミは内部でネジ止めされています (2本)。マウント部を既に基台にセットしているワケですから、スイッチのツマミを先に固定せざるを得ないので出っ張っているワケですね (基台にセットしたら内部にアクセスできないから)。

↑この当時の富岡光学製オールドレンズでは絞り環を回した時のクリック感 (カチカチ) を実現している「絞り値キー (溝)」を、絞り環とは反対側の「スイッチ環」に用意してしまったのです。そんな面倒な設計にせず、他社光学メーカー同様に「絞り環の裏側」に絞り値キー (溝) を用意する設計にすれば、工程数が省けコスト削減になも繋がっていたハズです。

富岡光学製オールドレンズは、このような『意味不明の設計』を採っており、何故にここまでして工程数を増やした設計で造ってきたのか全く以て理解に苦しみます。どうしてもっとシンプルに設計できなかったのか?

ちなみに上の写真の「板バネ」はスイッチのツマミがカチカチする際の反発を与えているので、弱っていればカチカチしないですし強ければ操作時に指が痛くなります(笑) 従って必然的にオーバーホールの中で適正な強さに (こんな板バネまでも) 調整が必要になります。

↑「富岡光学製」である「」が上の写真の解説です。スイッチ環をイモネジ3本で側面から締め付け固定 (グリーンの矢印) していたのは富岡光学だけだったからです。外見で「富岡光学製」と判定する有力な材料がこの部位のチェックで判定できます。

結局「指標値環の固定位置」と「スイッチ環の絞り値キー (溝) の位置」及び「絞り環のベアリングの位置」の三つ巴で合致しないと、絞り環を回した時のクリック位置がズレます。しかし内部には「ベアリング+コイルばね」が入っていますから互いに反発し合っているので上下方向でこの3つの環 (リング/輪っか) が浮いてしまいます。正しい位置でイモネジ固定するのが少々厄介な考え方の設計ですね。

↑距離環を仮止めしてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (それぞれ解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑2日間恨み辛みをタップリ言いながら完成したペトリカメラ製広角レンズ『AUTO PETRI 28mm/f2.8《富岡光学製》(M42)』です。光学系内のコーティング層は「パープルブル〜アンバー」な光彩を放つ大変美しいモデルです。

確かに富岡光学製のOEMモデルで指向先はペトリカメラですが、だからと言ってバカにしてはイケマセン。今までご覧頂いたとおり本格的な富岡光学製オールドレンズとしての構造設計が成されています。

何よりも、この7群8枚と言うレトロフォーカス型光学系が富岡光学が決して手を抜いていなかった「」です。何故ならば、手を抜きたければレトロフォーカス型は4群4枚まで簡素化できるからです。

ここまでの流れで考えると、時期的にヤシカ製「YASHINON-DX」シリーズの自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) 装備モデルと例の「S字型棒バネ」で合致します。ところが、冒頭の解説のとおり「YASHINON-DS」シリーズとも一部合致しているので、ヘリコイド全てをアルミ合金材だけで製産していることからも「YASHINON-DX/DS」を製産していた時期の終盤期にペトリカメラ向け指向したOEMモデルではないかと推測しています。

「YASHINON-DS」の焦点距離28mm/f2.8とは最短撮影距離が異なるので (ヤシカ製は30cm) 必然的に光学系の設計をイジっており違うワケであり、ここが手を抜いていなかったもう一つの理由でもあります (ワザワザ7群8枚の構成のまま新設計している)。

前述の「S字型棒バネ」は富岡光学内部でも評判が悪かったのか(笑)、この後のモデルではすぐに改善され使われなくなりました。

↑光学系内の透明度は驚異的な状態を維持しています。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑光学系後群も極微細な点キズは僅かに多めですが (経年のCO2溶解による)、写真には一切影響しません。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:13点、目立つ点キズ:8点
後群内:18点、目立つ点キズ:13点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:無し
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):皆無
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが実際はカビ除去痕としての極微細な点キズです (清掃しても除去できません)。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑6枚の絞り羽根もキレイになり、絞り環共々確実に駆動しています。

ここからは鏡胴の写真ですが、経年の使用感をほとんど感じさせない大変キレイな状態を維持した個体です。当方による「磨きいれ」を筐体外装に施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布しています。距離環や絞り環の操作はとても滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「普通〜軽め」で滑らかに感じトルクは全域に渡り「完璧に均一」です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・距離環を回すと一部にヘリコイドネジ山の擦れを感じる箇所があります。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑筐体外装は「プライトフィニッシュ (光沢ブラック鏡面仕上げ)」が施されたとても美しい
オールドレンズです。清掃により当時のように鮮やかな指標値が戻りました。

今回バラす前のチェックでマウントアダプタ装着時絞り羽根の開閉異常を来したので「イヤな予感」がしましたが、バラせば前述の「S字型棒バネ」装備から、その調整に手間取り丸2日掛かりの作業になってしまいました。

そもそも製産されていた当時はフィルムカメラへの装着しか想定していませんから、マウント面の「絞り連動ピン」が常時最後まで押し込まれたままになる状況は設計の想定外です。必然的にマウント部内部のパーツが内壁に当たってしまい固まってしまうので、そのチカラの影響が絞りユニットに伝わり絞り羽根が「f8〜f11」でストップするワケです。

「S字型棒バネ」を装備していると事前に知っていれば決して手を出さなかったのですが (当方はYASHINON-DS/DXシリーズを敬遠しています)、まさしく後悔の念先に立たずです(笑)

結果、オールドレンズ単体状態、フィルムカメラ装着時、或いはマウントアダプタ (ピン押し底面を有するタイプ) 経由での装着、いずれの場合でもA/Mスイッチの操作に連動して確実に絞り羽根が最小絞り値まで開閉するよう改善できています。このモデルは、ヤシカ製オールドレンズ「AUTO YASHINON-DS/DX」シリーズ同様の問題を抱えていると言わざるを得ませんが、その意味では改善策を施した貴重なオールドレンズに仕上がったと言えるのではないでしょうか。

なお、ヤシカ製「AUTO YASHINON-DS/DX」シリーズのオールドレンズをマウントアダプタ経由装着する際に「ピン押し底面」を有さない「非ピン押し底面タイプ」のマウントアダプタを推奨しているプロのカメラ店様や修理専門会社様、或いはヤフオク! の出品者が居ます (ドイツ在住でヤフオク! 出品している人)(笑)
具体的には「FOTGA製マウントアダプタ (中国製:右写真)」に装着すれば「ピン押し底面」が無いマウントアダプタなので、A/Mスイッチの切り替え操作だけで (つまり手動/M設定) 正常に絞り羽根が開閉します。

ところが、このマウントアダプタは製品高が高め (厚め) の仕様なので、そのまま装着すると オールドレンズのモデルに拠っては「光路長超過で無限遠が出ない (合焦しない)」現象に陥ります。前述のYASHINON-DS/DXシリーズもそのひとつで、ヘリコイドのネジ込み位置調整などを施さない限り無限遠での撮影は僅かにピント面が甘い状況に至ります。

同じような話はシルバー鏡胴のオールドレンズにもそのまま当てはまり、マウント面に「絞り連動ピン」が存在しない時代のシルバー鏡胴ながらも、マウントのネジ切り規格がM42だとしてもビミョ〜に異なるので (ネジ切りスタート位置が違う) 単に「ピン押し底面」を有するマウントアダプタに装着した時、最後までネジ込めないことを指しているようですが、実際は光路長も異なっています。

つまり光路長の問題など何も考えずに、絞り羽根の開閉に異常を来したからと「非ピン押し底面」タイプのマウントアダプタならばOKみたいな安直な判断をしている「」であり、全く以て信用して手に入れた人はガッカリでしょう(笑) そのような安易な考え方をしている人ほど実は一度もオールドレンズをバラした経験が無い「頭でっかち」だったりします (ヤフオク! の出品者がまさしくそう)。オールドレンズをそこまで侮った考え方で単に売り捌くと言うのも、どうなんでしょうか・・?(笑)
当方のヤフオク! 出品の真似をして、現地ドイツの整備業者にメンテナンスしてもらったオールドレンズを「整備済」で出品していますが、肝心なオールドレンズに対する「構造面での考察」が皆無なので (知ったかぶりしてますが)(笑)、結局のところそのような不適切な案内 (FOTGA製マウントアダプタの推奨) を平気で続けています。出品ページを読む限り無限遠位置の調整を施した整備済であることは一切記載がありません(笑) これを以てして当方と同じ「転売屋/転売ヤー」と言わずして何と言うのでしょうか? 笑ってしまいますね(笑)

つまりは、マウントアダプタに装着することまでちゃんと考慮したメンテナンスが必要なのであり、それすら配慮せずに単に真似をして出品するスタンス自体が人としてどうなのかと問われますね (ドイツからの出品ながら同じ日本人なのに情けない)(笑)

  ●                 

今回の個体は光学系の透明度が素晴らしく (極微細な点キズはある)、距離環を回すトルク感も当方にしては上出来な仕上がりで組み上がっています。もちろん無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/
入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済ですし、フィルムカメラに装着した場合のマウント面絞り連動ピン押し込み動作に伴う絞り羽根開閉の挙動もチェック済です。距離環を回すトルク感も「全域に渡り完璧に均一」でトルクは「普通」程度に仕上げており、ピント合わせもし易く調整しています。

ペトリカメラ製の単なる焦点距離28mmの広角レンズとして捉えれば、マイナーを通り越して無名でしかありませんが「富岡光学製」で、しかも本格的な内部設計に拘ったモデルであり、それは光学系の構成から見ても納得できるオールドレンズではないかと考えます。見る角度によっては「ブルシアンブル〜」に光彩を放つ光学系はそれはそれでまた魅力的なモデルです。前述したヤシカ製広角レンズ「AUTO YASHINON-DS 28mm/f2.8《後期型》(M42)」とは コーティング層の光彩が異なっており、今回のモデルは「グリーン色」ではなく「ブルシアンブル〜」の光彩ですから、自ずと描写性の狙いが違っており、以下実写のとおり鋭いピント面を構成しています (YASHINON-DSでは柔らかな描写性を狙っている)。
是非ご検討下さいませ・・。

↑当レンズによる最短撮影距離35cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに絞り環を回してf値「f5.6」で撮影しました。

↑f値は「f8」になっています。

↑f値「f11」になりました。

↑f値「f16」です。このf値でも「回折現象」が現れていませんから、やはり7群8枚の光学設計に拘った結果が出ているのではないでしょうか?

↑最小絞り値「f22」での撮影です。