◎ YASHICA JAPAN (ヤシカ) AUTO YASHIKOR 35mm/f2.8(M42)
久しぶりにYASHICAのレンズをオーバーホールして出品致します。今回のモデルは『珍品』です。YASHIKOR (ヤシコール) となれば二眼レフやライカスクリュー・マウント (M39) などのモデルがヤシカから発売されていましたが、この「M42」のモデルでは「AUTO YASHINON」や「AUTO YASHINON-DX」「DS」などが出回っていました。しかしこの「YASHIKOR」銘のモデルは国内では発売していなかったようです。
このモデルは恐らく輸出用として生産されていたモデルだと推測します。念のためネット上でも調べてみましたが、詳細不明な謎のレンズです。サンプルの撮影写真は皆無で解説として英語圏のページが2枚だけアップされていました。モデルは全く同一で製造番号は「73xxxxx」なので、今回出品のこの個体と共に全て同じ先頭「2桁=73」になります。この製造番号の先頭数桁を固有の番号で符番していたのがOEM生産もしていた富岡光学になります。例えば東京光学の「RE,AUTO Topcor 5.8cm/f1.4」などは製造番号「94xxxx」「112xxxxx」といった具合です。
モデル・バリエーションとしては、当レンズの他に「AUTO YASHIKOR 28mm/f2.8」「AUTO YASHIKOR 135mm/f2.8」「AUTO YASHIKOR 200mm/f3.5」が生産され輸出されていたようですが、どう言うワケか標準レンズだけが見つかりませんし、英語圏のデータベースサイトでも掲載されていないので、実際に生産されていなかったようです。
実際、今回バラしてみると「絞り羽根」や「絞りユニット」「光学系の収納方法」「鏡筒〜ヘリコイド」などが富岡光学製を匂わせる仕様になっていました。特に絞りユニットに関しては「RICOH XR RIKENON」の前期型に採用されていた絞りユニット方式 (28mmや35mmなど) と同一のパーツ構成です。時期としては、設計の作り込みが足りていないような仕様なので「XR RIKENON」よりも前の生産ではないかと推測しています。
その他にも「意味不明」な箇所もあり (富岡光学製のモデルには、必要ない工程数を増加させるだけの意味不明の構造化が多い)、組み立てていてなかなか面白いモデルでした・・。このモデルはヤシカの初期のレンズに多い「絞り連動ピン」が干渉するモデルです。具体的には、ミラーレス一眼にマウントアダプタ (絞り連動ピン強制押し込みタイプ) 経由装着した場合に、マウント部内部の絞り連動ピン関連パーツの仕様上から「絞り羽根開閉異常」を来してしまいます。今回オーバーホールし組み立てていて、途中まで気がつかずにそのまま組み上げてしまいましたが、最後の最後で確認の際「絞り羽根開閉異常」が発生してしまい、思い出しました。
結果、仕方なく「絞り連動ピン」と「マウント部内部の関係パーツ」を除去しています (外しています)。マウント面には絞り連動ピンが出ていません (ありません)。絞り環操作はクリック感を伴う操作ですが「手動絞り (実絞り)」のみの制御になります。
富岡光学製ではないとのご指摘を頂きました。ありがとう御座います!
掲載時期が2015年なのでオーバーホール作業も調査もとても甘くまだまだ
お叱りを受けながら作業していた時期ですので、数多くの間違いや思い込みがそのまま掲載され続けています。この場を借りてお詫び申し上げます。
気づいた時点で随時訂正などに努めますが数が多く、また今現在の日々の体調を見合わせながら進めていきたいと思います。
・・申し訳御座いません。
2022年1月25日
オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載しています。
すべて解体したパーツの全景写真です。
部品点数は100%すべてが富岡光学製ではないので、筐体の大きさからすると意外と少なめです。
構成パーツの 中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、 同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて 経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。
絞りユニットや光学系前群を収納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。この奥の深い鏡筒の一番奥に「絞りユニット」がセットされ、普通のレンズとは「逆向き」の絞り連動パーツの向きになります。同じ構造化を採っているのが「RICOH XR RIKENON 28mm/f2.8」などだったりします・・。
冒頭の説明で「作り込みの甘い設計」と書いた理由が、上の写真の赤矢印の銅製「ワッシャー固定環」で、ちょうど「英語のC」の文字型に似ています。カッパー色の銅製ワッシャー環ですが、その直下真鍮製の「絞り羽根制御カム (輪っか)」を固定する役目です。ところが最初バラした際に、このワッシャーが「接着」されていました。ワッシャー自体を接着する意味が分かりません (何のための固定環の役目なのか?)。今まで様々なオールドレンズをバラしていて、ワッシャーが接着されていた個体は、あまり記憶がありませんね(笑) それでてっきり過去にメンテナンスされていて、その時に接着されたのだと思い込んでしまいました。
このワッシャー環を接着しないと、絞り環を回して絞り値を変えた際に一緒に動いてしまい、何度か絞り環操作をしているウチに絞り環がだんだん動かなくなってしまうのです・・。再びバラしてこの部位を確認してみたら案の定、ワッシャー環がグルッと半周回ってしまい、カムの場所を邪魔していました。結果、絞り連動アームが動かなくなり「絞り環が動かない」になっていたのです。とんでもない仕様です・・。
鏡筒 (ヘリコイド:オス側) の側面を撮影しました。絞りユニットから飛び出ている「絞り連動アーム (手前)」と「絞り羽根制御アーム (奥)」の2本の板状金属板が写っています。普通多いのは、これらのアーム部分が後側 (つまりマウント方向側) へ飛び出している構造です。このモデルは逆向きで「前玉方向」に向いています・・変わってますね。
ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。このモデルには「無限遠位置調整機能」が装備されているので、大凡のアタリで構いません。
奥の深い (長い) 鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再度ばらしてここまで戻るハメに陥ります。
この状態でひっくり返して「絞り環」を鋼球ボールとスプリングを内部に仕込んで組み付けます。
最終的に「絞り羽根開閉異常」が起きたために「手動絞り (実絞り)」で制御するために、このパーツを除去しています (外しています)。上の写真では、実はマウント部の「造り」を確認して撮っています。アルミ材削り出しによる一体型のマウント部です。
マウント部の外周部分にも外れる場所がありません・・何でこんなに分厚い、そして重いアルミ材削り出しによるマウント部にしたのでしょうか? このマウント部だけで相当な重さを占めています・・これもコストが掛かってしまう「意味不明」の仕様です(笑)
マウント部を基台に組み付けます。この時点では、まだ「絞り羽根開閉異常」が発生することを予測していませんでしたので、シッカリ絞り連動ピンをセットしたまま組み上げています(笑)
さて、こちらもさらに「意味不明」な部分です。絞り環にはこのように「ネジ穴」が5箇所空いています。しかし、この絞り環は肉厚のある絞り環で、この内部に何かパーツを固定するワケではありません・・。
当初バラした際に「???」の状態でしたが、仕方ないので取り敢えずネジを外しました。しかし、この5本のネジは何も固定しておらず、そのまま元に戻してネジ込みました(笑) 飾りネジをワザワザつける必要もありませんし・・全くの「意味不明」です。これだけでネジ止めの工程が生産時に1つ増えていますよね・・(笑)
距離環を仮止めしてこの次に光学系前後群を組み付けます・・の前に、念のために絞り連動ピンとの連係を「絞り環」を回して確認しておきましょう。
と言うことで、ここで「絞り羽根開閉異常」が発生してしまい、バラしての調整作業に入った次第です。バラして調整して組み立てて・・繰り返すこと数回。どうやってもマウントアダプタを装着すると絞り羽根は正しく動いてくれません (レンズ単体では正常です)。そこで思い出しました・・コイツもダメなヤツか! 似たような症状が発生するヤシカのオールドレンズでは「AUTO YASHINON-DX」が突出して多いです。
ようやく「絞り連動ピン」と「絞り連動ピン附随パーツ」を外す決心が着いて「手動絞り (実絞り)」での使用方法に落ち着きました(笑)
まずは光学系前群を組み付けます。大変美しく「ブルシアンブルー」に光り輝くモノコーティングが施されています。
上の写真 (3枚) は光学系前群のキズの状態を拡大撮影した写真です。1枚目がうっすらと見えるカビ除去痕や薄い極微細なヘアラインキズ、或いはコーティング剥がれなどの拡大写真です。2枚目〜3枚目はやはりカビ除去痕としての極微細な点キズと薄い極微細なヘアラインキズも一緒に撮っています。
【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:19点、目立つ点キズ:10点
後群内:8点、目立つ点キズ:3点
コーティング経年劣化:前後群あり
カビ除去痕:あり、カビ:なし
ヘアラインキズ:前後群共に薄い極微細なヘアラインキズが数本あります。
・その他:バルサム切れなし。前玉にはカビ除去痕としてのコーティングスポットやコーティングの剥がれなどが数点あります。
・光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れ、クモリもありますがいずれもすべて写真への影響はありませんでした。
光学系後群です。後群もカビ除去痕がありますが、それ程多くの極微細な点キズやヘアラインキズなどは視認できません。
後玉の外周にコーティング剥がれがあります。内側には極微細な点キズも数点見受けられます。
光学系の状態を撮影した写真は、そのキズなどの状態を分かり易くご覧頂くために、すべて光に反射させてワザと誇張的に撮影しています。実際の現物を順光目視すると、これらすべてのキズは容易にはなかなか発見できないレベルです。
こ れらの極微細な点キズは「塵や埃」と言っている方が非常に多いですが、実際にはカビが発生していた箇所の「芯」や「枝」だったり、或いはコーティングの劣 化で浮き上がっているコーティング層の点だったりします。当方の整備では、光学系はLED光照射の下で清掃しているので「塵や埃」の類はそれほど多くは残 留していません (クリーンルームではないので皆無ではありませんが)。
光学系内については、何でもかんでも「カビや塵・埃、拭き残しと決めつける方」或いは「LED光照射した状態をクレームしてくる人」は、当方ではなくプロのカメラ店様や修理専門会社様などでオールドレンズのお買い求めをお勧めします。当方のヤフオク! 出品オールドレンズの入札/落札や、オールドレンズ/修理のご依頼などは、御遠慮頂くよう切にお願い申し上げます。
当方には光学系のガラス研磨設備やコーティング再蒸着設備が無く、キズやコーティングの劣化が全く無い状態に整備することは不可能です。
ここからは組み上げが完成した出品商品の写真になります。
このモデルには少々珍しい純正の「金属製前キャップ」が附属しています。「YASHICA」のロゴがステキです・・。国内では発売されていないようなので、あまり見かけない「YASHIKOR」銘のM42マウントモデルです。
光学系第4群の貼り合わせレンズにもバルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) が進行しておらず、とてもクリアな状態を維持しています。LED光照射では特に前玉にカビ除去痕が浮かび上がりますが写真には影響しません。
数回の再組み直しを経て、ようやく正しく絞り羽根が駆動するようになりました。「手動絞り (実絞り)」によるマニュアルでの絞り環操作になりますのでご注意下さいませ。その代わり、ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着される方は、何も気兼ねなく普通のM42マウントのオールドレンズとしてそのままご使用頂けますので楽ではあります。下手にM42マウントアダプタの「相性」に悩まされることもありません。
ここからは鏡胴の写真になります。僅かに経年の使用感が感じられる個体ですが、当方にて着色しています。
【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。
・距離環のトルク感は滑らかに感じ「完璧に均一」です。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・絞り連動ピン、及び関係パーツをはずしている為マウント面には絞り連動ピンがありません。ミラーレス一眼などにマウントアダプタ経由装着する場合にはそのまま普通のM42レンズとして、ご使用頂けます。絞り操作はマニュアル (実絞り) のみになります。
【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「美 品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
内部の構成パーツは、ヘリコイドも含めてすべて当方にて「磨き研磨」を施しているので、ほぼ生産時の環境に近づいた状態に戻っています。また、使用したヘリコイドグリースは、距離環を回す際は「僅かに重め」なのにピント合わせをする時は「とても軽いチカラ」でスッと微妙なピント合わせができる (ピント合わせしていることを意識したチカラの入れ具合) ことを最優先した粘性を選択しています。すでに1,000本を越える本数の整備をして参りましたが、ヘリコイドグリースに纏わるクレームは数件レベル (まだ1桁) です。
数件だとしても、この「言葉じり」を引用してクレームを付けてくる人が居ますが、感覚的な要素なのでそのようなクレームはご勘弁下さい。何かしら適確に説明したいので「コトバ」で表現しているに過ぎませんから・・。
あまり見かけない『珍品』モデルです。オーバーホール済で如何でしょうか・・。
光学系は前後群ともに「ブルシアンブルー」に光彩を放ち大変美しいですね・・英語圏のサイトで見た逆光シーンの撮影でもそれほど耐性が悪いとは感じませんでした。シッカリとフードを付けてあげれば、端正な写真を残してくれると期待できます。
当レンズによる最短撮影距離50cm附近での開放実写です。開放f値を「f2.8」と欲張らずに仕上げているのでハロも出ずに光学系に含まれているテッサーの成分から、キッチリとした鋭いピント面を構成してエッジが太めに出ているにも拘わらず画全体がマイルド感漂う印象です。最近こう言うナチュラルな描写性に反応するようになりました・・素晴らしいモデルだと思います。
もう少し寄れて、筐体がコンパクトであれば申し分がなかったのですが・・。