◎ YASHICA (ヤシカ) AUTO YASHINON – DS 28mm/f2.8《後期型》(M42)

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DS2828(0614)レンズ銘板

yashica-100-logo意外にも海外オークション「ebay」はもとより国内のオークションでも希にしか出回らない「AUTO YASHINON-DS 28mm/f2.8 (M42)」です。標準レンズの「50mm/f1.9」や「f1.7」などは時々出回っていますが広角レンズの焦点距離28mmはほとんど見かけません・・あまり人気が無かったのでしょうか?

従って英語圏も含めてネット上の解説を探してみてもほとんど掲載されていませんが調べてみると当時のYASHICA製フィルムカメラ「TL ELECTRO AX」カメラの取扱説明書にはオプションレンズ群の一覧にこのモデルが記載されていました。しかしそれ以前のYASHICA製フィルムカメラの取扱説明書オプションレンズ群一覧には記載がありません。従ってフィルムカメラ「TL ELECTRO AX」が発売された1972年前後に用意された広角レンズなのかも知れませんが確かなことは分かりません。

発売された年度が1972年前後だとすると既に富岡光学はヤシカの傘下に入っていた時期で他のモデル「AUTO YASHINON-DX」などと同様に今回バラしてみると内部の構造化や構成パーツは富岡光学製であることが判明しました。しかしマウント部の設計を見ると富岡光学製オールドレンズとしては後期の時期にあたるようで、従前のメクラ蓋で絞り環を固定させていた設計から仕様変更してより簡便に工程を進められる一体型のマウント部に設計変更していました。この後に登場する様々なOEM供給モデルはさらに合理化が進んで富岡光学と言えども他社光学メーカーと同様の構造化に変遷していきます・・しかし母体のヤシカ自体も経営難で喘いでいた時期に重なりそれら合理化の施策は既に時遅しと言わざるを得ません。やがてヤシカも倒産し富岡光学だけが京セラに吸収されていきます。

DS2828構成光学系は7群8枚のレトロフォーカス型で第3群には大きなガラスの塊である貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) を配置しています。このモデルのコーティングは従来は「アンバー系」の光彩を放つモノコーティングだったハズなのですが今回出品する個体はそれ以外にも「パープル系」とさらに「グリーン系」の輝きを放っており、当方でも今回初めて目にした光彩を放つコーティング層の個体です・・まるでYASHICAの「DS-M」のようなマルチコーティングの輝きに見えます。

距離環のラバー製ローレットが安っぽく見えるのか「チープ感」を感じられる方が多いようですが現物はズッシリと重みを感じる堅牢な造りです。さらに当方も勘違い (思い込み) をしていたのですがYASHICAのこの当時のオールドレンズで「AUTO YASHINON-DS」には自動/手動スイッチ (A/Mスイッチ) が装備されておらず、そのスイッチを装備しているモデルは「AUTO YASHINON-DX」だとばかり信じていました。しかし、今回出品する個体には自動/手動スイッチがちゃんと備わっています。

ネット上の写真などを調べてみると確かに製造番号が古い個体は「アンバー系」の光彩だけを放つコーティング層で自動/手動スイッチが無いタイプですが、製造番号が新しい後の時期の生産品には自動/手動スイッチが装備されコーティング層の光彩にも「パープル系」の輝きが含まれていました。しかしやはり「グリーン系」の光彩を放つ個体の写真は50枚近くを確認したにも拘わらずたったの1本しか見つけられませんでした。その発見した1本の製造番号も今回出品する個体の製造番号に非常に近い番号でした。もしかすると「AUTO YASHINON-DS 28mm/f2.8」としては最後期に生産された個体なのかも知れません・・確かなことは全く不明です。

DS2828(0614)仕様

DS2828(0614)レンズ銘板

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。

すべて解体したパーツの全景写真です。

DS2828(0614)11ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。

構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。

DS2828(0614)12絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) は独立しており別に存在します。

DS2828(0614)136枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。このモデルも当時の富岡光学製オールドレンズ (広角レンズ域のモデル) に多く採用されていたキー (金属製の突起) が1本だけしか打ち込まれていない仕様です。このキーは絞り羽根の絞りユニット内部での位置決めの役目を担っています。絞り羽根の端には「穴」が空いており、その穴に絞りユニット内の「絞り羽根制御環」の突起が刺さる仕組みを採用しています・・つまり穴あきの絞り羽根と言うことになります。

DS2828(0614)14この状態で鏡筒をひっくり返して撮影しました。この機構部の構造も富岡光学製オールドレンズに多く採用されている仕組みであり、そっくりなのはやはり富岡光学がOEM供給していたRICOH製「XR RIKENON」シリーズの前期型モデルなどが挙げられます (後期型では日東光学製に変遷しています)。

「絞り環連係アーム」の直前に位置している「カーブ部分」をカムの金属棒が沿って移動していくと絞り羽根の角度が変わり開口部の大きさ (つまり入射光量) が変化していく仕組みです・・上の写真では絞り羽根は開放位置になっています。

上の写真ではマイクロ・スプリングが1本しか見えていません (写真左端) がこの反対側にもう1本あり、2本のマイクロ・スプリングが互いに反対方向にチカラを及ぼしています。どちらか一方の強さが経年劣化などで弱ってしまうと「絞り羽根が正しく動かない」などと言った不具合が生じます。

DS2828(0614)15こちらは距離環やマウント部を組み付けるための基台です。

DS2828(0614)16真鍮製のヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。この当時でもアルミ材削り出しのヘリコイドの間にネジ山が咬んでしまうのを防ぐ目的から材質が異なる真鍮製のヘリコイドをワザワザ挟んでいます。

DS2828(0614)17ヘリコイド (オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で6箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

DS2828(0614)18ここで先に鏡筒を差し込みセットしてしまいます。この仕組みも富岡光学製オールドレンズでほとんどのモデルに採用され続けていた方式なのですが、鏡筒をネジ止め固定せずにヘリコイドの内部にストンと落とし込み前玉側から固定環で締め付け固定する固定方法です。鏡筒を直にネジ止めしてしまえば簡単なのをこのように手間を掛けていた理由は、鏡筒の位置調整で「絞り羽根の開閉幅調整」を行っていたからです。「絞り羽根の開閉幅」とは絞り羽根の開口部の大きさを意味しており入射光量を絞り環の絞り値と整合性を保たせるために開口部の大きさを調整しなければなりません。それを鏡筒の位置で調整する方法を採っていたワケですね・・富岡光学製であることの証のひとつです。

DS2828(0614)19こちらはマウント部内部を撮影していますが既に内部の各連動系・連係系パーツを取り外して当方による「磨き研磨」が終わった状態で撮っています。

DS2828(0614)20外していた各連動系・連係系パーツも個別に磨き研磨を施してから組み込みます。このモデルは3階層に分かれて構成パーツがセットされるのでマウント部の厚み自体が相応にあるワケです。

なお、絞り連動ピンの機構部の仕様からミラーレス一眼にM42マウントアダプタ経由装着される場合には以下の点ご留意下さいませ。

  • 「ピン押しタイプのマウントアダプタに装着する」
    当レンズの絞り連動ピンはマウント面から「4.5mm」突出していますが実際にはマウント部のネジ山に枠があり、その枠の出っ張り (約0.5mm弱) から絞り連動ピンは最後まで押し込まれません。また絞り連動ピンの内部機構部の構造も完全にチカラを逃がせない設計なので距離環を回した際に無限遠位置に近づくと少々重めのトルクに感じます。当レンズ単体で距離環を回すとそのようなことが無いので分かると思います。
  • 「非ピン押しタイプのマウントアダプタに装着する」
    この場合は前述の不具合が発生しないので自動/手動スイッチを「手動 (M)」位置にセットしてご使用頂ければ絞り羽根は正しく駆動し同時に距離環のトルクが重くなることも発生しません。

・・従って可能であれば「非ピン押しタイプ」のM42マウントアダプタに装着してご使用頂くのがミラーレス一眼ではベストになります (あくまでもこのモデルに関しての話です)。

DS2828(0614)21マウント部を基台にセットします。この時に各連動系・連係系パーツと鏡筒裏側のパーツとの噛み合わせをキッチリ行わなければマウント部はセットできません。単純に組み上げただけでは絞り羽根の動き方が異常だったりするので事前に調整をしておかなければイケマセン・・富岡光学製オールドレンズはレンズ内部の至る処の調整が神経質であり非常に厄介なオールドレンズです。

DS2828(0614)22絞り環をセットします。このモデルにはクリック感が伴う絞り環操作なのですがこの段階ではまだ鋼球ボールなどを組み付けることができません。

DS2828(0614)23指標値環を3本のイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) で締め付け固定します。この時に同時に鋼球ボール+マイクロ・スプリングを組み込んで指標値環を固定しますが、この指標値環の位置で絞り環に刻印されている「絞り値」とクリックとの整合性を保たせているのでテキト〜に指標値環を固定してしまうとクリック感が絞り値と一致しなかったりします。実際にそのような個体を数多く調整してきましたが過去のメンテナンス時にはあまり深く考えずに組み上げてしまったのでしょう(笑) このような面倒な方式にしているのも富岡光学製オールドレンズのひとつの特徴です。

DS2828(0614)24距離環を仮止めしてから光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

DS2828(0614)1冒頭で解説した珍しい「グリーン系」の光彩を放っているのが上の写真になります。この他に見る角度によっては「パープル系」と「アンバー系」の光彩を放ちます・・まるでマルチコーティングのようですね。

DS2828(0614)2今回出品する個体も光学系内の透明度が非常に高い個体です。中玉 (第3群) のガラスの塊に外周附近にほんの微かな非常に薄いクモリがコーティング層の経年劣化で生じている以外にはクモリが全くありません。そしてその中玉のクモリ自体はLED光照射でも発見できないほどに薄いので実際には当方も清掃するまで気がつきませんでした・・従って写真への影響は皆無です。光源を含む写真だろうが逆光撮影だろうがこの程度の薄いクモリは何ら写真に影響しません。

DS2828(0614)2-1

DS2828(0614)2-2

DS2828(0614)2-3上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。1枚目は極微細な点キズを撮りたかったのですが微細すぎて全く写りませんでした。2枚目は前玉裏面の外周附近にあるコーティング層の経年劣化に拠る「汚れ状」を撮っています。この「汚れ状」のコーティング層のムラは他の場所にも数箇所ありますが写真への影響はありません。3枚目はキズに見えてしまいますが実際には第2群の硝子レンズを固定している固定環のハガレです (レンズ面のキズではありません) ので敢えて拡大撮影しました。

DS2828(0614)9光学系後群も大変キレイな状態をキープしています。

DS2828(0614)9-1光学系後群のキズの状態を拡大撮影していますが極微細な点キズやヘアラインキズなどは微細すぎてほとんど写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:6点、目立つ点キズ:2点
後群内:11点、目立つ点キズ:7点
コーティング経年劣化:前後群あり
カビ除去痕:あり、カビ:なし
ヘアラインキズ:あり
LED光照射時の汚れ/クモリ:微かにあり
・その他:バルサム切れなし。光学系中玉の外周にほんの微かな非常に薄いクモリがあります。LED光照射でも見えず硝子レンズの清掃時にようやく視認できたレベルです。
・光学系内の透明度は非常に高い個体です。
・光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細なキズや汚れ、クモリなどもあります。
・いずれもすべて写真への影響はありませんでした。

DS2828(0614)36枚の絞り羽根キレイになり確実に駆動しています。

ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感がほとんど感じられないとてもキレイな状態を維持した個体です。

DS2828(0614)4

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DS2828(0614)7【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドのグリースは「粘性:中程度」を塗布しています。距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「普通」で滑らかに感じ完璧に均一です。
・YASHICAのオールドレンズに割に多い現象ですがミラーレス一眼にM42マウントアダプタ経由装着する場合「絞り連動ピン押し込み底面」を有するM42マウントアダプタを使った場合にレンズ内部の構造的な仕様から距離環が無限遠位置に近づくに従って距離環のトルクが僅かに重くなります。このモデルの仕様ですので改善はできません。この現象を回避するには「非ピン押しタイプ」のM42マウントアダプタをご使用頂き、同時に自動/手動スイッチを「M (マニュアル)」に設定してお使い頂ければ問題が無くなります。詳細は当方ブログにて解説しています。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

DS2828(0614)8ほとんど見かけない広角レンズ「AUTO YASHINON-DS 28mm/f2.8 (M42)」ですが、今回出品の個体は謎の「グリーン系」の光彩を放つコーティング層を持っています。お探しだった方、完璧なオーバーホールが完了していますので是非ともご検討下さいませ。

ちなみに距離環のラバー製ローレットには経年劣化に拠る弛みや緩みなどがまだ生じていない個体です (市場には多く出回っていますが・・)。また筐体の塗装は「梨地仕上げのマットブラツク」なのですが光に反射させてよ〜く観察すると「濃い緑色のブラック」であることが分かります。

DS2828(0614)10当レンズによる最短撮影距離30cmでの開放実写です。