解説:コーティングについて
3月に入ってから、寒暖の差が激しいので体調が芳しくありません・・。
当方は、このブログを立ち上げた2014年の年末にエコノミー症候群で倒れました。
社会人になってから数十年来接客業で一日中立ち仕事だったのが、突然のリストラで今度は 一日中座り仕事に激変したのが影響したのかも知れません・・。
左脚のふくらはぎに居る (今も住んでます) 血栓の一部が外れてカラダに廻ってしまい「肺動脈塞栓症」で肺が10%以下しか機能しない状況に陥り、呼吸困難で倒れました。
自宅の他に作業場としてアパートを借りており「工房」にしています。倒れた時は、ちょうど工房に居た時だったので自分ひとりだったワケですが、今思えばそう言う緊急時こそ救急車を呼べば良かったのかと、今頃反省している始末です(笑)
緊急入院で生き存えたので今こうしてブログを更新できていますが(笑)、倒れた時は性格から他人に迷惑を掛けたくない一心で、何と近くの駅のタクシー乗り場まで歩いて行きました。
倒れてから一晩をヤリ過ごし、翌朝になって普段徒歩で15分で辿り着くタクシー乗り場まで
1時間かけて歩いて行きました。しかし、おそらく誰が見ても「異常な歩き方」をしていた
ようで (それもそのハズで塀や電柱を伝い歩きしているような感じ) 道行く人々に救急車呼びましょうかと声を掛けられたり、腕を貸してもらったりと、結局大迷惑を掛けてタクシー乗り場に辿り着き病院に向かった次第です (頭が悪いと言うか頑固者と言うか/ケータイ壊れてた)(笑)
病院に着くと係の人に目を合わせた途端「緊急!」と大声で叫ばれビックリ!(笑) 前の晩に倒れてから一睡もできずに、ひたすらに心臓の鼓動の速さと息を吸っても入ってこない空気の量のコントロールをしていたので (寝たら死ぬと思い溜まっているオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズが気になり起きているしかなかった)、睡魔に襲われ後は覚えていません (気絶したのか?)(笑)
気がついたのは翌日でICU (集中治療室) に居ました。定員いっぱいで混んでいる中、のほほんと横になっていたので何と申し訳ないことか。看護師の方に「混んでるから病室でいいです」と請願したら「ダメ!ダメダメ!」と一喝(笑)、穴があったら入りたい気持ちでした。
1カ月入院しましたが、それ以来平熱が低くなってしまい35.1度です。病院の先生には血管がだいぶ弱っていると指摘されたので、相当前から体温が下がっていたのかも知れません。冷血動物ならぬ恒温動物ヨロシク非人間になってしまったワケですが、生まれてからこの歳になるまで体温調節に関することを母親にも教わっていないので、季節の変わり目は体温調整が上手くできません。いつの日にか人間に戻りたいと・・願ってやみませんね(笑)
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冒頭でイキナシくだらない話をしてしまいスミマセン (しかも長いし!) ・・。
日々オールドレンズのオーバーホールで「DOH」をしていますが、その前に自らのカラダをDOHして血管の平滑性を担保したいです!(笑)
毎日毎日2時間かけて金属製パーツの「磨き研磨」でゴシゴシやってますから、どんだけの量の血管があっても大丈夫です! それだけはプロ級と言えるのではないでしょうか・・(笑)
金属製パーツは「磨き研磨」で生産時の如く平滑性を戻せますが、光学硝子レンズに施されている「コーティング層」だけは何ともできません。
このコーティング層に関して様々な考えがあるかと思いますが、当方での呼称/認識を以下にご案内します。
- ノンコーティング
光学硝子面に一切コーティングを施していない場合。 - シングルコーティング
単層膜コーティングを指しマルチコーティングの対義的な意味になる。 - モノコーティング
複層膜コーティングを指すが、単なる進化/発展途中の技術/考え方に留まらない。 - マルチコーティング
多層膜コーティングを指し、後にはさらに複層膜コーティングを重ねている場合もある。
例えば、旧東ドイツのオールドレンズで「T」刻印がレンズ銘板にあるモデルに対して「シングルコーティング」と解説しているサイトが非常に多いように感じます。
コーティングに関係する業界用語を調べてみると「シングルコーティング」とは呼称せず「単層膜コーティング」と案内されています。単に日本語で呼称しているだけなのかも知れませんが「シングル」よりもより明確な表現だと思います。
一方「マルチコーティング」も「多層膜コーティング」になるワケですが、実際に様々なオールドレンズをメンテナンスしていると光学硝子レンズの表裏に施されているコーティング層の相違に気がつきます。
仮にあるオールドレンズの光学系に光を翳して反射させた時に「アンバーパープル」の光彩を放っていたとします。ある特定の領域に光を当てると最初は「アンバー」に光り輝いていたのに、角度を変えると同じ領域が「パープル」に見えます。
これが仮に (あり得ませんが) 角度を変えて光に翳しても特定の領域だけ色合いが異なるなら、それは「斑模様」になって見えてしまいますね(笑)
つまり、コーティング層は光学硝子材に対して資料 (基となる材料のこと) を用意して真空専用設備で蒸着させますから、前述の例では「アンバーパープル」なので2種類の資料が必要になります。これを以てして「シングルコーティング」と考えるのは辻褄が合わないではないかと言うのが当方の考え方です。
色の反応とは「周波」の話になりますから (当方は詳しくないですが)、1つの資料だけで2つの周波を放つことはあり得ないと思います。だとすると同一領域が光を当てる角度によって2つの色合いを発するならば、それは入射光が2つの層を透過している時の光彩であり2種類の資料を使って重ね合わせて蒸着していると考えなければ説明がつきません (1つの資料で2つの周波に対応しない)。
従って「シングルコーティング (単層膜コーティング)」はあくまでも1層のコーティング層でしかなく、複数層のコーティングが施されているならば自ずと「複層膜コーティング」と言う呼称/認識が現れなければ辻褄が合いません。
一方「マルチコーティング」はそのコトバの通り「マルチ」なので「複数/多数」の意になりますが、業界で「多層膜」と呼称/認識している以上、それをひっくり返しても複雑になるだけです。従って「マルチコーティング (多層膜コーティング)」に落ち着きます。
例えば、当時の日本製オールドレンズで旭光学工業製「Super-Multi-Coated TAKUMAR (SMC TAKUMAR)」シリーズは7層のコーティングを蒸着していましたし、富士フイルム製「EBC」は11層にも及びます。コーティング層の蒸着として考えると、それだけ複数の層として蒸着しないと目的とする諸元値を確保できなかったのでしょう。
すると、前述の例「アンバーパープル」は複数 (多数) ではないかと言う話になってしまいます(笑) さすがにzeissの「T」をマルチコーティングと呼んだら「アホじゃねぇ〜の?」と言われてしまいますから(笑)、ここはメーカー自らが呼称している「T*」がマルチコーティングですね。
結果、zeissの「T」だけが浮いてしまうので、こじつけと仰るかも知れませんが当方では「複層膜コーティング」と呼称/認識しています。しかしせっかくなので、格好良くカタカナで英語的に言いたくなります(笑) それで「モノコーティング」が登場するワケですね(笑)
当方は頭があまり良くないので単純にしか考えられず複雑なのは苦手です・・。
なお、光学硝子レンズに於ける「コーティング」とは入射光に対する透過率向上のための処置であり、硝子レンズの表層面に薄膜を蒸着することで入射光の透過率をアップさせます。
1枚の硝子レンズには必ず「表裏」が存在しますが、一つの面に対する入射光は硝子面の表面反射で4%が必ず失われます。これを可能な限り低減させ透過率を上げるために考え出された表面反射の改善技術が「コーティング」です。
ちなみに、1枚の硝子レンズの表裏では合計8%透過率が低下しますから、仮に光学系内に全部で6枚の硝子レンズが実装されたとすると「48%」の入射光が失われる単純計算になりますョね? そんなことは一大事です(笑)
そこで昔から挙って各光学メーカーが独自のコーティング層蒸着技術を開発した次第です。
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さらにここまで話が進むと今度はコーティング層技術の発展/歴史について問題が出てきます。
この当時のコーティングに対する進化/発展は時代の流れと共に以下のように進みますが、 この認識は問題を含んでいます。
ノンコーティング ☞ シングルコーティング ☞ モノコーティング ☞ マルチコーティング
このような進化/発展/歴史として認識してしまうと少々ニュアンスが違ってしまいます。
この中で「モノコーティング」だけを別の流れにしなければイケマセン。
ノンコーティング ☞ シングルコーティング ☞ モノコーティング ☞ マルチコーティング
☞ モノコーティング
・・こんな感じです。つまり「モノコーティング」だけは最後まで (何と今現在も) マルチコーティングと共に使われ続けている技術なのです。
この考え方は少々ややこしいのですが、単なるコーティング層の薄膜数として捉えた場合は最初の進化/歴史の範疇に留まります。良い例が前述のzeissの「T」ですね。これは複層膜コーティングであり「モノコーティング」そのものです。
ところが、MINOLTAが世界に先駆けて開発した「アクロマチックコーティング (AC)」層技術は、このモノコーティングの考え方に当てはまりません。それは当時のMINOLTAのカタログにも記載されており「表現性の一つの手段 (味付け)」の意味合いを含んできます。
つまり、入射光に対する何かしらの「味付け」であり、それは例えば発色性であったり描写性であったりと言う、様々な目的のために追加で附加しているコーティング層技術ですからモノコーティングやマルチコーティングの上に最後に、それこそ本当にまるで「味付けのための薬味」のように蒸着されているコーティング層です (MINOLTA/技術提携したライカでは画の柔らかさを表現する味付けとして使用)。その意味では、単なる複層膜コーティングの範疇には留まらず、その概念を逸脱した技術なので上の流れ (2つ目) の如く「モノコーティングだけ捉え方が違う」と言えます。
従って、実際にMINOLTA製オールドレンズをバラすと、後期型モデルである「MCタイプ」のマルチコーティング層の上にさらに「緑色のコーティング層」を極薄膜で蒸着しているのでMINOLTAの当時のオールドレンズは「緑のロッコール」と呼ばれていました (実際にグリーン色の光彩を放っているから)。
もちろん「前期型 (AUTO ROKKORシリーズ)」のモノコーティングの上にもグリーン色のコーティング層を蒸着しているので、この「アクロマチックコーティング (AC)」層は開発後だいぶ長い期間使われ続けていた技術ではないかと考えています (最後のNew MDシリーズでは蒸着をやめてしまった)。
同じ考え方に則ると、マルチコーティング化される前のオールドレンズの中に一部存在していた「アポクロマートレンズ」の説明も付きます。アポクロマートレンズは、厳密に入射光の色収差を改善させた技術で、当時のオールドレンズの光学系を光に翳すと「アンバーパープル ブルー」の3色の光彩を放ちます。この光彩の色合いが3色なのを以てマルチコーティングだと主張する人も居ますが、モデルの変遷や技術的な時代背景などをもとに考察すると、マルチコーティング化が達成されるにはプラス10年の歳月が必要でしたから、あまりにも先取りしすぎです (マルチコーティング技術の目的は色収差改善のみに留まらず解像度の向上やその他の様々な収差の改善を狙った技術だから)。
そもそも当時の自然光の解釈 (つまり色の三原色) が「赤青黄」であり、現在のデジタルに於ける「RGB (赤緑青)」とは異なっています (現在の最新技術では「RGBY (赤緑青黄)」も採用されている)。「色の三原色」は総天然色を表現する上での考え方なので、必然的に入射光の色ズレ (色収差) を改善させようとすれば (当時は)「赤青黄」つまり「アンバーパープルブルー」の
3色に対して入射光の表面反射を防ぐ必要があり、それは3つの資料を使った薄膜蒸着に至ったと考えられます (つまりアポクロマートレンズの説明も成り立つ)。
ちなみに「アポクロマートレンズ」とは、球面収差/コマ収差/非点収差/像面歪曲/歪曲収差等の諸収差に対して硝材の組み合わせで収差を改善していく際に、屈折率と分散率が異なる2つの硝材 (凸凹) を組み合わせることで入射光の2波長に対して厳密な色収差を改善させた「アクロマートレンズ」の発展系として、3つの硝材 (凸凹凸) 組み合わせによりアクロマートで補正しきれなかった3つ目の波長 (紫成分) を補正させたレンズを指します。
従って、古い時代の3色の色合いは「モノコーティング (複層膜コーティング)」の一種だと考えれば、マルチコーティングとの時系列的な相違や説明も付くと言う考え方です (3色の光彩
=マルチコーティングは思い込み)。
これらの説明からあるひとつの事実が説明できるようになります。オールドレンズの光学硝子レンズを清掃しているとバラす前に「グリーン色の光彩」を放っていたのに清掃したら「グリーン色のコーティング層が剥がれてしまった」時です。MINOLTA製オールドレンズでコーティング層の経年劣化が進行していた場合、残念ながら清掃しただけで (洗浄液を垂らしただけで) 極薄膜層が剥離してしまいます。
つまり、清掃する前は「アンバーパープルグリーン」の光彩を放っていたのに、組み上げて完成したら「アンバーパープル」だけになっている事例です (MCタイプに多い)。これはロシアンレンズや日本製オールドレンズにも言えることです (経年劣化が進んでいなければ清掃しても剥がれない/経年劣化は予測不可能なので清掃しなければ結果は分からない)。
なお、現在に於いてオールドレンズに「硝子研磨」を施し経年のキズやコーティング層の劣化部分を除去し、新たにコーティング層を蒸着した場合「清掃」しただけでそのコーティング層が剥離してしまいます。これは当方が実際に某所に硝子研磨を依頼した後に戻ってきた個体が光学系内に塵/埃が多かったため清掃した際に剥離してしまった (つまりノンコーティングに なってしまった) 検証済の事実です。
おそらくコーティング層を確実に定着させるための何かしらの技術か専用機械設備が、さらに必要なのではないかと考えられます (つまり厳密には硝子研磨後に新たにコーティング層を 確実に蒸着するのは生産時/製産メーカーでしか処置できない)。
それこそ「味付け」のように蒸着している前述の「アクロマチックコーティング (AC)」層の ような話なのですが、そう考えるとオールドレンズに蒸着されている生産時のコーティング層は、可能な限り残さなければイケナイと結論しました。それが当方が拘っている「DOH」にも繋がっているワケです (必要外のグリースをオールドレンズ内部から排除する考え方)。
そもそも、現在に於いて新たにコーティング層を蒸着するのは「あくまでも擬似的に処置している」だけであり、オールドレンズ個体が生産された時点で蒸着されていたオリジナルな成分
/配合とは既に異なってしまっています。現在為し得る単層膜/多層膜の代表的な成分/配合で蒸着しているだけに過ぎず、その処置を施した時点で既に本来の生産時点性能諸元値からは逸脱していると推測できます。ましてや解像度の向上/収差の改善を狙っているマルチコーティング層に関してはなおさらです (もちろんノンコーティングよりはましですが)。オリジナルなモノコーティング/マルチコーティングを残そうと考えれば、自ずと生産時点のコーティング層は残っていてほしいものです。
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如何ですか? コーティングについて少しは理解が深まったでしょうか・・。
つい先ほどですが、先日ご落札頂いた当方出品オールドレンズに対する評価を頂き、ヤフオク! の「取引ナビ」でこんなメッセージを頂きました。
「貴方様の出品される商品は単なるレンズではなく「誠意」でコーティングされてます」
・・このメッセージを目にした時、思わず涙が出そうでした。本当にありがとう御座います!
これだけで苦悶の日々が報われ、オーバーホールした甲斐があったと言うものです・・(涙)
また、当方のオーバーホール工程に於いて「ごまかしや隠し事」をせず、包み隠さず写真付で解説していること。オールドレンズの時代背景や考察を書き添えていることなどに対して、
その労力に見合った価格設定でヤフオク! 出品していないことまでメッセージを頂きました。
そこまで仰って頂き、本当に感謝の念に堪えません・・。
この場を借りて感謝の気持ちを申し上げたいと思います・・ありがとう御座います。
確かに、一日1本しか仕上げられず8時間以上掛けてオーバーホールしていますが、それは単に当方の技術スキルがまだ低いからで修行途上の由縁です。正直な記載に努めているのも純粋に自らの性格だけですし、むしろ正直に記載したがゆえに逆にガッカリさせてしまうことにも結びつきます。そのオールドレンズの時代背景や考察を交え解説しているのも、単にネット上の諸説を調べ上げてまとめているだけで、当方自身による研究努力などは皆無です。
そもそも、これらの事柄をブログにアップした時点で「公に知らしめている」ワケであり、 それに対価を求めてはイケナイと考えます。従って、あくまでもオーバーホールの対価だけをヤフオク! 出品時の価格に載せているのですが、オークションの性格上「良い物をより安く」が前提でしょうから、必然的に皆様の目は厳しく成らざるを得ないのだと受け取っています。結局は、修理業者ではなく「転売屋/転売ヤー」たるスタンス止まりなのだと言ってしまえば元も子もありませんが(笑)、そこに落ち着くしかないのでしょう・・自業自得の世界で日々 のたうち回るだけです(笑)
すべてはそのオールドレンズをご活用頂きたいが為、愛着や思い入れに繋がってほしいだけでこれらの作業をしていますが、本を正せばそれすら当方の願望を満たすがゆえの所為でしかありません。
なかなか褒められるような要素が無いのですが(笑)、いつの日にか皆様に喜んで頂き認めてもらえるよう、これからも精一杯心を込めたオーバーホールをしていきたいと思っています。
せっかくご教授頂いたので当方のコーティング層に対する認識がまた一つ進化しました・・!
マルチコーティングの後に「SC (Sincerity Coating):真心コーティング」を無色透明で申し訳御座いませんが、そッと蒸着させて頂きますね(笑)
どんなに光に翳しても決して視認できませんが(笑)、オーバーホールさせて頂くすべてのオールドレンズに必ずや想いを蒸着させて頂きますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
(専用の機械設備が無くても蒸着できるコーティング層は世界初かも・・ですョ!)
生きていると・・何か良いことがあるのですねぇ〜。
(ガンバルぞ!)