◎ A.Schacht Ulm (アルベルト・シャハト・ウルム・ドナウ) Travegon 35mm/f3.5 silver(exakta)

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今回初めての扱いになりますが「何でこんなに難しい設計で作るかなぁ〜?!」と甚だイラッときてしまった、良く言えばオーバーホールし甲斐のあるモデル、悪く言えばちょっともぅ 二度と触りたくないかなって言うレベルのお話しです(笑)

そもそもバラす際にヘリコイド側がアッと言う間にバラけてしまうので、このモデルはバラした時の順番で組み立てようとすると仕上がらない天の邪鬼な設計です。従って「原理原則」に則り今一度冷静になって考え(笑)、組み立て工程を再考しなければ適切な微調整すら掴めない「高難度モデル」と言えます。

何しろ旧西ドイツの光学メーカーですし、そもそもA.Schacht Ulm創設時の経緯からして、「勘弁してョ!」モードです(笑) 確かにドイツ人の工業技術力にこだわるチカラは認めますが、ハッキリ言って如何に難しく難解に設計するのか競っていたのではないかと勘ぐりたく なるくらいに、飛んでもないです(笑)「もっとスマートに物事考えないと人生踏み外すョ!」と助言したいくらいですョね・・ってもぅ既に人生終わってしまいましたが(笑)

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創業者であるAlbert Schacht (アルベルト・シャハト) 氏は、元々戦前ドイツのCarl Zeissに在籍していましたが、1909年にカメラメーカーであるICA AG (Internationale Camera Actiengesellschaft:イカAG/後の旧西ドイツZeiss Ikon母体の一つ) に移籍した後、1939年にはSteinheilに移籍後テクニカルディレクターを経て1946年に退職し、1948年にようやくMünchen (旧西ドイツ側) でAlbert Schacht GMBH.社を創業します。

この遍歴の中で重要なファクターは、ICA AGに在籍していた点とSteinheilとも繋がりがあった点です。さらにICA AGではLudwing Jakob Bertele (ルードヴィッヒ・ヤコブ・ベルテレ) 氏と知り合い、後のA.Schacht Ulm製オールドレンズ全ての光学設計を手掛けています。

1954年にMünchenからUlm-Donau (ウルム) に本社移転しA.Schacht Ulmに至ります。然し苦しい経営状態が続き1967年にはSchneider-Kreuznach傘下のConstantin Rauchから支援を受けますが、1969年にはWetzlarの光学機器メーカーWilhelm Will KG社に売却され、翌年1970年には会社清算しています。

このような遍歴が分かったことで、A.Schacht Ulm製オールドレンズ光学系がベルテレの設計だったことが判明しますが、同時に内部構造の設計に大きく携わったのが、当時のSteinheilから協力の依頼を受けたSchneider-Kreuznachでもありました。当時A.Schacht Ulmが開発を 目指していたオールドレンズのほとんどがM42マウントモデルか、exaktaマウント (極僅かにPraktinaマウントとライカ判L39マウントが顕在) だったので、Schneider-Kreuznachが関わってきたことで内部構造が近似した設計概念を採り入れた理由も納得できます。

すると当時の旧西ドイツ光学メーカーISCO-GÖTTINGEN社がSchneider-Kreuznachの100%出資子会社であったのに対し、同時にA.Schacht UlmもSchneider-Kreuznachから技術協力を受けていたとなると、自ずとそれら3社間で内部構造に近い要素が採れ入れられていたのも、至極頷けると言うものです。つまり当時の旧西ドイツ光学メーカーSchneider-Kreuznach、Steinheil München、A.Schacht Ulm、そしてISCO-GÖTTINGENと、凡そこの4社が開発したオールドレンズはその内部構造に於いて、近似した設計概念の背景があるのだと認識して良いと考えています (実際それぞれバラすと近似しているから)。

今回扱うモデル『Travegon 35mm/f3.5 silver (exakta)』はネット上でこのモデル銘で検索すると幾つもヒットしてきます(笑) 普通この当時のオールドレンズで検索してヒットするのは限られるハズですが特にA.Schacht Ulm製オールドレンズに関しては数種類混在しています (左は当時の広告)。

そもそもモデル銘が「Travegon、Travenar、Travelon、Travegar、Travenon、Albinar」と非常に近似したモデル銘が混在し、且つ「Travegon」に絞ったとしても「Travegon、S-Travegon、Travegon R、S-Travegon R」と前後に「SかRが附随」したモデルも顕在し相当複雑です。

何かの思惑があって「Trave・・」をサフィックスにしているのでしょうが「旅行」が好きなのだとしてもモデル銘前後に附随する「S/R
の意味が不明で、何とも消化不良的な話で毎回イラッと来ます(笑)

せいぜい前に付く「S」が「Super」の頭文字だとしても、後の「R」の法則性が見えてきません (Sは明るい開放f値のシリーズに附随)。


↑「Travegon」銘だけでもこれだけ出てきます(笑) 上段左端から順に・・。

・EDIXA-TRAVEGON 35mm/f3.5 zebra (半自動絞り)
・R Travegon 35mm/f3.5 silver
・R TRAVEGON 35mm/f3.5 zebra
・Travegon 35mm/f3.5 R zebra (L39版)
・S-Travegon 35mm/f2.8 R zebra
・Edixa-Travegon 35mm/f3.5 zebra (自動絞り)
・EDIXA-TRAVEGON 35mm/f3.5 silver (半自動絞り)

まだ他にもあるかも知れません・・(笑)

光学系は3群6枚の変則的なレトロフォーカス型構成ですが、第2群の 3群4枚テッサー型構成の前群側を貼り合わせレンズで設計してきた
発想にオドロキしか出てきません。第1群 (前玉) の貼り合わせレンズも純粋にバックフォーカスを稼ぐ意味合いだとしても何故に貼り合わせてきたのか・・??? どうしてもコンパクトな光学系に仕上げたかったのか?、3群構成という点に脅威を感じますね(笑)

これが一段分明るくなった上位格モデル「f2.8」では第2群を3枚の貼り合わせとしているので、さらに驚きを隠せません!(笑) よくも同じ
発想のままより明るい開放f値「f2.8」を実現してしまった (まとめ上げてしまった) ものだと感心しきりです。




上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端から円形ボケや背景ボケを集めてピックアップしていますが、基本的に円形ボケはほぼ諦めたほうが無難です(笑) ッて言うか、そもそもアウトフォーカスのボケ方が非常に硬めなので、このモデルでボケ味を狙って撮影するには相当な撮影スキルが求められるかも知れません(笑) ある意味良く言えば距離感や空気感を与え易い印象の背景ボケであり、悪く言えば汚くまとまり易いとも言えるので、このボケ味に好き嫌いが分かれるかも知れません。

 二段目
旧西ドイツの光学メーカー全般に言えるかも知れませんが、特にA.Schacht Ulm製オールドレンズはその発色性が「シアンに振れる傾向が強め」と言えます。従って植物のグリーンもご覧のように元気で鮮やかな写り方ですし、ブルーレッドに至っては相当艶やかに表現できますから、これと同じイメージを普通のオールドレンズに求めてもなかなか実現できません。特に独特な空の色合いを表現できるところに素晴らしさがあると思います。

三段目
昔に香港に2年ほど住んでいたので懐かしさのあまりまたピックアップしてしまいましたが(笑)左端は九龍サイド (中国大陸側) から撮った香港島の写真で、スターフェリーというフェリーが20分ほどで行ったり来たり往来しています。

香港には四季があるものの年間を通して温暖なので (26度前後)、特に湿度感が相当高いために曇っている日が多かったりします。ところが希に左写真のような大変美しい海の色合いになる時があり、左端の写真はまさにそれを写し撮っているキレイな写真です (海の水の色が濁っていて汚く見えるのが多い/泥水のような印象)。

意外にダイナミックレンジが広めなので暗部の潰れもギリギリまで耐えています。またト〜ンのグラデーションも相応に対応できるポテンシャルを持ち、なかなかの描写性能です。

四段目
レトロフォーカス型光学系でこれだげ人物を表現できればたいしたモノだと思います。ディストーションも素直で歪みが少なく優秀な部類だと思います。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造はいたって簡素で構成パーツ点数も少なめですが、冒頭解説のとおり組み立て工程の手順を把握するのに相当難儀します (少なくともバラした時の順番で組み立てるとまともに組み上がらない)(笑)

白紙の上に並べている光学系の格納筒が真鍮 (黄銅) なので「光沢研磨」していますが、これには理由があり「落とし込み方式」だからです。第2群はストンと鏡筒内に落とし込んでから第1群 (前玉) をセットして、最後に締付環で締め付け固定するだけです。従って真鍮 (黄銅) 材の経年劣化進行に伴い酸化/腐食/錆びが進んでいると「適切な光路長を確保できない (つまり甘いピント面)」懸念が高くなります (当初バラした直後は真鍮 (黄銅) 材は全て焦茶色)。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルは鏡胴が「前部/後部」の二分割方式なので、ヘリコイド (オス側) は鏡胴「後部」に配置されています。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑10枚のフッ素加工で仕上げられている絞り羽根を組み付けて絞りユニットを鏡筒最深部にセットしますが、この絞り羽根の刺さっている「キー」の厚みが薄いので、10枚中8枚までしか重ねられずに最後の2枚でバラけてしまいます (自重で収まってくれない)。

たま〜にこういうオールドレンズが出てくるのですが、今回も絞り羽根の組付けだけで1時間もかかってしまいイラッ!(笑)

このモデルは「半自動絞り方式」を採っている時代のオールドレンズなので、ご覧のようにチャージ環用のスプリングが絞り環内部に存在します (赤色矢印)。

↑最も前玉寄りに「チャージ環」が配置されるので、絞り値をセットした後はいちいち「都度チャージ環を回して開放にセットする必要」があります。シャッターボタンを押し込むと、同時に瞬時に絞り羽根が設定絞り値まで閉じる仕組みなので「半自動絞り方式」と言うワケです。

上の写真は完成した鏡筒を立てて撮影していますが、写真上側が前玉側方向です。

↑組み立て工程 (の順番) が難しいので一気に組み上がっていますが (途中の写真を撮れない)、チャージ環はフィルター枠の締め付けで初めて固定されるので、フィルター枠が無いとスプリングのチカラでバラけてしまいます (当然ながら絞り羽根がバラけるから再び1時間がかりで絞り羽根を重ねるハメに陥る)。

飛んでもない設計です・・!(怒)

絞り環が2列目のシルバー環ですが、クリック感があり正しくは「プリセット絞り環」になります (つまりプリセット絞り環が絞り環兼務)。実際チャージ環で都度開放にセットする必要があるので、操作面で「絞り環」の認識にしか至りませんね(笑)

また「絞り環」も鋼球ボール+スプリングが組み込まれているので、ご覧のようにヘリコイド (オス側) がセットされないとやはりバラけます。この組み立て工程では「チャージ環」から伸びる「連係アーム」が最終的に絞りユニットと連結するので (絞り環を貫通)、その辺の設計概念が掴めているかどうかが整備者には問われます。

なおオーバーホール/修理ご依頼内容の一つ「クリック感を少し軽めに」は、そのご指示に従い「当初より軽め」に仕上げたので、前述のように「プリセット絞りだが絞り環としての使い方」で普通にカチカチと操作して頂けるよう仕上げています。これ以上軽くしてしまうとチャージ機能との連係で問題が発生するので「できません

↑取り敢えず仮組みですが鏡胴「前部」が仕上がったので、ここからは鏡胴「後部」の組み立て工程に入ります。マウント部も兼ねる真鍮 (黄銅) 製のズッシリと重みを感じる基台です。

↑この内部に「チャージ機構」と「直進キー環」がセットされるシンプルな構造ですが、重要なのは「チャージ機構の反発力微調整」です。反発力が強すぎればシャッターボタン押し下げで連動して瞬時に絞り羽根が閉じなくなりますし、逆に弱すぎる絞り環操作後にチャージ環を回して開放状態にセットできません。

さらに厄介なのが「直進キー環」です。両サイド1箇所に「直進キー」と言う突出が用意されており、これがヘリコイド (オス側) に刺さることで「距離環を回すと鏡筒が繰り出される」原理です。

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

ところがその「直進キー」をよ〜く見ると、上の写真下側の「直進キーが半分に割れている」のが分かります。これはそういう設計であり故意にワザと半分に割っている設計で「回転するチカラの逃げ分を相殺」する目的です。

距離環を回してヘリコイド (オス側) が回転し始めると、その「回すチカラ」は外側に逃げるチカラが反対側に作用します。そのトルクムラを相殺する目的なのですが、残念ながら経年で既に擦り減っている為に「僅かなトルクムラが残っている」状況です。

↑無限遠位置のアタリを付けた場所までヘリコイド (メス側) をネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

ところがヘリコイドのネジ山が逆方向なので「繰り出すと鏡筒は最も収納した位置」と言う相反する概念の設計なので、一般的なオールドレンズのヘリコイド (オスメス) 認識でいると組み上げられません(笑)

↑ご覧のようにヘリコイドが繰り出している時に最も鏡筒が格納されている (最深部まで深く下がっている) 状態になる「逆方向の動き方」です。するといったいヘリコイド (オスメス) は何処の位置で無限遠位置に合致するのか、或いは何処で最短撮影距離位置になるのか、そのんのアタリ付けができる人でないと組み上げられません。

普通はヘリコイド (メス側) を最もネジ込んだ時が最深部なので無限遠位置が確定しますが、それが逆となると「無限遠位置も最短撮影距離位置も両方とも確定が必要になる」ワケです(笑)

↑前の工程で何を言っているのか分からない人は、ちょっと整備はできないレベルと諦めたほうが良いですね(笑) このモデルは「無限遠位置微調整機能」が無いので距離環を本締めで組み付けてしまいます。

つまりはヘリコイド (オスメス) のネジ込み位置がピタリと合致していないと無限遠すら適切に合焦しなくなると言う話です(笑)

↑仮組みで完成している鏡胴「前部」をセットするとこんな感じに組み上がります。

↑シャッターボタンの部位を完全解体して、当方の手によって「磨き研磨」を施します。当初バラす前の時点ではシャッターボタンを押し込んだ時に「押し込みの途中で抵抗を感じた」ので、何となく2段階で押し込んでいるような感触でした。

もちろん正しくは「1回押し込むだけ」ですから(笑)、そのように滑らかでスムーズな操作性に戻るよう完全解体したワケです。

↑こんな感じでシャッターボタンの部位が組み付けられて、この後は光学系前後群をセットして無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑完璧なオーバーホールが終わりました。ハッキリ言ってこのモデルをここまでキッチリと完璧に組み上げられるスキルと言うのは、そう多くの人が持ち合わせていないと思います。当初バラす前の状態にまで仕上げれば良いだけなら組み上げられる人が多いと思いますが、距離環を回すトルク感やその他の操作性などまで含め、納得できる状態にまで改善させて組み上げられるというのは、なかなか難しい話だったりします。

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。

第1群 (前玉) のコバ端に浮きが生じているので「白っぽく」なっていますが、改善できません。申し訳御座いません・・。

↑光学系後群側も透明度が高く、同様LED光照射で極薄いクモリが皆無です。後玉の外枠は一部がご覧のように切削されています。

↑何とも恨めしい絞り羽根ですが(笑)、10枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「真円の円形絞り」を維持したまま閉じていきます。

チャージ環をいちいち操作して開放状態にセットしないとダメですが (半自動絞り方式だから)、実はそのギミック感が愉しかったりします(笑) さらにシャッターボタン押し下げ時の シャコッと瞬時に設定絞り値まで絞り羽根が閉じる瞬間が「チョ〜気持ちいい!」だったり しますね(笑)

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑筐体外装のアルミ合金材のほうは、当初バラす前の時点では「ポツポツと白濁している腐食状態」だったので、刻印されている指標値が視認できないくらいでした。「光沢研磨」を施したので本来の光沢感に再び戻りました!(笑) もちろん「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」ですがトルク感は前述のとおり「直進キーの摩耗」がある為に僅かにトルクムラが残っています。またヘリコイド (オスメス) が真鍮 (黄銅) 材なので、基本的に「軽め」には仕上がりません。「重め」の印象です。ヘリコイドの一方がアルミ合金材だったりすれば、もう少し「軽め」に仕上げられると思います。

現状これ以上軽い粘性のグリースを塗布すると、トルクムラが酷くなり引っ掛かるようになるので限界です。申し訳御座いません・・。

もしもご納得頂けない場合はご請求金額よりご納得頂ける分の金額を減額下さいませ。減額の最大値は「ご請求金額まで (つまり無償扱い)」とし、申し訳御座いませんが弁償などは対応できません。

↑シャッターボタンの操作性は1回押し込みでキッチリ絞り羽根が設定絞り値まで閉じるようになりました (軽い操作性です)。また絞り環を兼ねるプリセット絞り環のクリック感も「軽め」に仕上がっています。チャージ環の操作性は当初より軽めでしたので変化ありません。

光学系は特に前群側が落とし込み方式なので、最後までちゃんと落とし込みできるよう真鍮 (黄銅) 材の酸化/腐食/錆びを完全除去したので、本来の描写性能に至っていますが、バラす前とたいして変化ありません。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離70cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありません。またフード未装着なので多少フレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」に上がっています。

↑f値「f11」です。

↑f値「f16」になりました。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。そろそろ「回折現象」の影響が現れ始めています。大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。