◎ Voigtländer (フォクトレンダー:コシナ製) NOKTON CLASSIC 40mm/f1.4 S・C(LM)

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今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分のオールドレンズに関する、ご依頼者様へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。写真付の解説のほうが分かり易いこともありますが、今回に関しては当方での扱いが初めてのモデルでしたので、当方の記録としての意味合いもあり無料で掲載しています (オーバーホール/修理の全工程の写真掲載/解説は有料です)。オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。

今回オーバーホール/修理を承ったモデルはコシナ製のVoigtländer『NOKTON CLASSIC S・C 40mm/f1.4 (LM)』なのですが、実は当方は基本的に現在のコシナ製マニュアルフォーカスレンズがあまり好きではありません・・その理由は2つあります。

1つめは、その描写性です。どのレンズも現在のデジカメ一眼やミラーレス一眼に装着して使うことに特化したデジタルレンズとしてのマニュアルフォーカスになるワケですが、どのモデルの写真を見ても「冷たく感じる」画造りが気になって仕方ないのです。すさまじいまでに緻密で情報量の多い写真は確かに光学系技術の賜物なのだと思うのですが画全体の印象として、どうしても冷たく (寒々しく) 見えてしまうのです・・それは暖色系のシーンだったとしても同じです。

2つめの理由は、内部構造です。お世辞にもメンテナンス性が良いとは言えません。オーバーホール/修理のたびにバラしていても全く納得できない構造 (設計) でありサービスマニュアルが無ければ一筋縄では工程を進められない大変厄介なモデルばかりです。当然ながら当方にはサービスマニュアルなどありませんから、バラすたびにその都度あ〜だこ〜だと思考錯誤の中で組み立てていくことになりますが凡そコシナのサーヒスセンターに於いてメンテナンスすることしか考慮されていないと考えられる設計の内部構造には毎回閉口してしまいます (社外メンテナンスを一切考慮していない)。

・・なので今回も覚悟の上でご依頼を承りオーバーホールにリ臨んだ次第です。今回のモデル「NOKTON CLASSIC S・C 40mm/f1.4 (LM)」は過去にマルチコーティングのタイプを整備していたので構造は同じだと踏んでご依頼を承りましたがバラしてみたところ肝心な部分の構造は全くの別モノでした。過去に整備した「NOKTON CLASSIC 40mm/f1.4 (LM)」はこちらのページに掲載していますので興味がある方はご覧下さいませ。

今回バラしたところ内部構造から「NOKTON CLASSIC 40mm/f1.4」としては「前期型」のモデルになることが判りました。過去に整備したマルチコーティングのタイプのほうが「後期型」になります・・そのように判定した理由は今回のモデルの構造に於ける「問題点」を改善させていたのが過去に整備したモデルであることが判ったからです。いったいどこが「問題点」なのかは以下のオーバーホール工程の中で解説していきます。

光学系は6群7枚のノクトン型になりますがコシナのサイトでこのモデルの仕様を見ることができます・・掲載されている光学系のレンズ構成図が分かりにくいので今回バラした光学硝子レンズを基にスケッチしたのが右の構成図です。コシナのページの構成図では第2群が貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) のように見えてしまうのですが実際は独立しており貼り合わせレンズは第5群に位置しています (従って6群7枚)。Flickriverでこのモデルの実写を検索してみましたので興味がある方はご覧下さいませ (マルチコーティングのタイプの写真も混じっていると思います)。

なお、当方にとっては現コシナ製マニュアルフォーカスレンズの中で、その描写性が気に入っている数少ないモデルのひとつが今回のモデル「NOKTON CLASSIC 40mm/f1.4」です。

ちなみにコシナではマルチコーティングのタイプとシングルコーティングのタイプ (S・C) を用意しているのですが光学メーカーが「シングルコーティング」と言うコトバを使うのはどうかと思います・・「シングル」を「単層」と捉え易いので好ましくないと言う考えです。実際には「単層」ではないハズだからであり (今回の個体もバラしてみると単層ではなかったので) マルチコーティングが「多層コーティング」なのに対する反対語的な意味合いで使っているのだと考えますが当方では「モノコーティング」と言う表現を使っています。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。筐体がコンパクトなのでパーツ点数自体はそれほど多くありません。

絞りユニットと光学系前後群を格納する鏡筒です。

10枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させますが完全なマニュアルフォーカスレンズなので非常にシンプルな構造です。

この状態で立てて撮影しました。このモデルは前玉側に絞り環を配しているので、ここから絞り環の組み付けに入ります。

絞り環は半段ずつのクリック感を伴う大変シッカリした操作性のとても扱い易い絞り環です。

何とフィルター枠 (真鍮製/真鍮 (黄銅) 製/ガンメタル) が絞り環の「固定環」の役目を担っている構造ですが絞り環もフィルター枠も共にネジ止め固定などは一切されておらず「C型ワッシャー環 (英語文字のCのカタチをした固定金具)」で挟んで固定しているだけですから経年の使用に於いてC型環が摩耗した場合にはフィルター枠と絞り環の「ガタつき」が発生する設計です・・現在の工業技術からすればあまり好ましいとは言えない考え方ですね。

この状態でひっくり返して撮影しましたが「シム環」が4枚入っていました。この「シム」とはスペーサーのような意味合いで無限遠位置の調整のために薄い金属のリング (輪っか) を必要枚数分入れて適正な無限遠に調整するやり方です。今回の個体では「厚めのシム (2枚)」と「薄めのシム (2枚)」が入っていましたが生産後数十年を経ているオールドレンズでは、よく使われている常套手段です。しかし、今ドキのデジタルなレンズであるならばシムを使わずに設計してほしいものですね・・。

このモデルは筐体が鏡胴「前部」と「後部」に二分割するモデルなので、これで鏡胴「前部」が完成したことになります (後は光学系前後群を組み付けるだけ)。

ここからは鏡胴「後部」の組み立てに入ります。このモデルはダブルヘリコイドのモデル (LMマウント) なのでヘリコイドは「内ヘリコイド」と「外ヘリコイド」に分かれています。上の写真は「内ヘリコイド (オス側)」になります。

どうしてこのような設計にしたのかが全く理解できないのですが、ワザワザ内ヘリコイド用の「メス側ネジ山」を内側に用意したカバーのような環 (上の写真黒色の環) をネジ込むようにしています。この内ヘリコイドのネジ山は外ヘリコイドのネジ山とは逆方向に切られているので「無限遠位置」でヘリコイドは繰り出し状態になり「最短撮影距離位置」では逆に収納状態になります・・従って「無限遠位置」まで距離環を回した時の内部は鏡筒が最大限まで繰り出して伸張し且つ外ヘリコイドは格納されていますが、逆に「最短撮影距離位置」に距離環を回すと鏡筒が格納され外ヘリコイド側がマウント部の方向に繰り出され伸張した状態になっています (つまりダブルヘリコイドの仕組みです)。上の写真はヘリコイドが繰り出された状態なので無限遠位置に合わせている状態で撮っています。

さらにこの上から外ヘリコイド用の「オスネジ」が切削されている真鍮製の環を被せて固定します。内ヘリコイドには直進キー用の「ガイド」が両サイドに用意されており外ヘリコイドには「距離環用連係アーム」が1本附随しています。

実は今回問題になったのがこの構造だったのです。この外ヘリコイドの内側に内ヘリコイド用「メス側」のネジ山を用意すれば良かったものをワザワザ別にしてしまったのが悪影響を来しています・・それこそ設計が拙いのではないかと考えたくなるほど厄介な構造です (問題点は後ほど出てきます)。

こちらは距離環やマウント部を組み付けるための基台です。直進キーと言う距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツを両サイドにネジ止め固定しますが、これもまた厄介なパーツでした。この真鍮製の直進キーは2本のネジで固定されるのですが何とマチ (ネジ穴の隙間) が0.8mmほどもありました・・それはそれで距離環を回すトルク調整ができるので、むしろありがたいのですが問題は次の写真です。

やはり真鍮製の「距離環用ベース環」を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。さて、この部位の問題部分 (設計の拙さ) です。

この状態で直進キーの箇所を拡大撮影した写真です。前述の直進キーが2本のネジで固定されているのですが、そのネジの上に「距離環用ベース環」が覆い被さるように来てしまいます。

つまり「0.8mm」ものマチを用意しておきながら「距離環用ベース環」が被さってしまうので距離環のトルク調整ができないのです・・トルクムラやトルクが重くなったりした場合の調整を、この直進キーのマチを利用して行いますが距離環のトルク調整をするためには毎回ここまでバラして距離環用ベース環まで外さなければ距離環のトルク調整ができない・・と言うメンテナンス性の悪さです。信じられません!

単純に上の写真で黒色の基台り下側から「直進キー」を差し込む方式にしていれば距離環用ベース環のトルク調整 (つまり距離環のトルク調整) でネジのマチを利用して容易にトルク調整が可能なのにワザワザ直進キーの固定ネジをいじれなくしてしまったのです。普通一般的なオールドレンズではほとんどが直進キーの固定ネジにアクセスできるよう配慮した設計をしているのでメンテナンスができるワケですが今回のモデルではすべてバラさない限り距離環のトルク調整はできません。

こちらはマウント部ですが外ヘリコイドの「メス側」が内側に用意されています。

このような感じで内外ヘリコイドがセットされます。

指標値環をセットしてから前述の距離環用ベース環の部位を組み付けます。距離環用連係アームが「無限遠位置〜最短撮影距離」の間を行ったり来たりして (グリーンの矢印) その際に内ヘリコイドのネジ山で鏡筒が繰り出されたり収納したりして無限遠位置や最短撮影距離の位置になるワケです。

今回のオーバーホール/修理は「距離環のトルクが重い」と言うご依頼なのですがハッキリ言ってこのモデルの構造自体にムリがあります。

  1. 負荷の配分 (或いは負荷を逃がす方法) が悪すぎる
    内外ヘリコイドの「ダブルヘリコイド」プラス「距離環用ネジ山」の3つ分の負荷が「距離環用連係アーム」1箇所に集中する設計。
  2. 内外ヘリコイドが複雑すぎる
    内外ヘリコイドのネジ山をシンプルに用意していれば負荷が容易に逃がせる (伝達できる) のに逆にパーツ点数を増やして負荷を増大させている (伝わりにくくしている)。

・・冒頭で話た「問題点」が上記になるワケですが、このモデルの「後期型」ではこれらの問題点がすべて改善され構成パーツの設計が変更されています。とは言いつつもそれすら理に適っていない構造なので、いずれにしても現コシナ製マニュアルフォーカスレンズはコシナサービスでのメンテナンス以外一切考慮されていないと言い切れるでしょう・・その意味では富岡光学製オールドレンズの上を行くレベルであり全く以て腹が立ちます。

結局、上の写真のように「仮組み」をしながら距離環のトルク確認をして、再びバラして直進キーのマチ調整を行い、また仮組みをして確認・・この作業の繰り返しに陥りました。組み直しすること十数回・・その間に塗布するグリースの粘性を替えつつ (軽め〜重め)、或いは白色系グリースと黄褐色系グリースを替えつつ何度も何度も組み上げてはバラしてを繰り返しました。

最終的に黄褐色系グリースの「粘性:軽め」を塗布した状態が最も距離環のトルクが軽くなりましたが、正直な話、当初のトルク感よりも下手すると「重め」に仕上がっているかも知れません。

また、たったの1箇所で距離環を回すチカラが伝達されている (距離環用連係アーム) ために黄褐色系グリースを使うとトルクムラが生じます・・具体的には距離環を回していて止まってしまうことがあります。しかし、そのトルクムラは再現性がありません。

距離環を回していて、もしも止まってしまったら反対方向に少し動かして・・を行って下さい。或いはツマミだけを保持して距離環を回さずにツマミと距離環の反対側の箇所を「中指」で保持しながら回すのも効果的です (左手の親指と中指で摘んでいるようなイメージ)。何しろツマミだけで回そうとすると加えたチカラがすべて「距離環用連係アーム」に架かってくるので、どうしても3つ分のネジ山の負荷が影響してしまい「重めのトルク感」或いは「距離環の停止」に陥ってしまいます。

結局、このような設計なので現コシナでは「専用のグリース (白色系グリース)」に頼った整備を前提にしていると言わざるを得ませんし、今回バラしてみても白色系グリースの「粘性が非常に軽い」専用グリースが塗布されていました。なお、当初バラした際に距離環側と外ヘリコイド側には黄褐色系グリースが塗布されていたので過去に一度は社外メンテナンス (コシナサービス以外でのメンテナンス) が実施されていると推測できますし、当初バラす前の状態で内部の光学レンズにガタつきが発生していたのは光学硝子レンズではなく鏡胴「前部」を完全固定していなかったのです。

おそらく過去のメンテナンス (社外メンテナンス) でも同じ症状だったのではないかと推測します。鏡胴「前部」を完全に締め付け固定すると距離環が動かなくなってしまいますので今回のメンテナンスでもギリギリの状態で締め付け固定しています (ガタつきを解消しつつ且つ距離環のトルクを最大限に軽くしつつで調整しています)。

トルク調整が完了した時点で光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認をそれぞれ執り行い、最後にレンズ銘板をセットすれば完成です。

 

DOHヘッダー

 

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

現コシナ製のマニュアルフォーカスレンズの中では、その描写性で気に入っている数少ないモデルのひとつ『NOKTON CLASSIC S・C 40mm/f1.4 (LM)』です。大変コンパクトな筐体でシッカリした造りなのですが操作性は内部構造から影響が出易い設計だと言わざるを得ません。正直なお話、このモデルのメンテナンスはコシナサービスさんにご依頼されたほうが良いと思います。

従って、今回のオーバーホール/修理ではどうしても距離環のトルク問題 (時々停止してしまう) が気になり十数回組み直しを行い、且つ (例の) 直進キーの固定ネジを調整しつつ (マチ幅0.8mmの部分) 改善を試みましたが距離環の停止をくい止めることはできませんでした。ダブルヘリコイド+距離環ネジ山の3つのネジ山分の負荷が影響してくる・・プラスαその時の距離環を回すチカラがたったの1箇所 (距離環用連係アーム) に集中している設計自体に問題があると言うのが当方の結論です。

しかしそうは言っても当初のご依頼内容である「距離環が固くなることがある」は改善できていないので、もしもご納得頂けなければご請求額より必要額を減額下さいませ。減額頂く金額は「作業料」までをMAXとしますので (つまり無償) 最低限「送料」だけはご負担下さいませ。申し訳御座いません。

今回のメンテナンスで当方の現コシナに対する考え方が変わりました・・現コシナサービスにて今もメンテナンスを受託しているモデルに関しては今後は当方ではオーバーホール/修理のご依頼をお受けしない方向で考えたいと思います。現コシナのマニュアルフォーカスレンズはどのモデルも光学系の設計を過去の銘玉から採ってきているだけの話で内部の構造や設計は全く過去の銘玉とは別モノであり「コシナのレンズ」とひと言で片付いてしまいます。

光学系内はとても透明度が高い個体です。経年の極微細な点キズやコーティング層の劣化部分 (前玉) や拭きキズなどが僅かにありますが写真には一切影響しまないレベルです。なお、前玉の「汚れ」と見えていた部分は実際には非常に微細なカビでしたのでカビ除去ができています。

光学系後群はキレイな状態を維持しています。

10枚の絞り羽根キレイになり確実に駆動しています。

ここからは鏡胴の写真になりますが当初より大変状態の良い個体でしたので当方による「磨き」をいれましたがとてもキレイになっています。

距離環のトルク改善さえできれば完璧なオーバーホールが完了したハズですので誠に遺憾な思いです。ご納得頂けない場合は「無償扱い」にして頂きコシナサービスさんにご面倒お掛けしますが再度メンテナンスのご依頼をお願い申し上げます。

ほぼ丸一日がかりで距離環のトルク調整ばかりをしていたことになりますが・・改善できなかったのが悔しいですね。申し訳御座いません、ご期待に沿えずお詫び申し上げます。

当レンズによる最短撮影距離70cm附近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでベッドライトが点灯します)。

絞り環を回して設定絞り値をF値「f2」にして撮影しました。

F値は「f2.8」で撮影しています。

F値「f4」になりました。

F値「f5.6」になります。

F値「f8」です。

「f11」で撮影しています。

最小絞り値「 は16」になりました。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。不本意なる結果になり誠に申し訳御座いません・・お詫び申し上げます。