◎ OLYMPUS (オリンパス) M-SYSTEM G.ZUIKO AUTO-W 35mm/f2.8(OM)

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ZW3528(0512)レンズ銘板

olympus-logos-100新オーバーホール/修理のご依頼で数本オリンパスのオールドレンズを整備しましたが、今回初めて「G.ZUIKO AUTO-W 35mm/f2.8」を整備済でヤフオク! に出品します。今後はオリンパスのオールドレンズもレパートリーに入れて随時取り扱っていきたいと思います。

1972年に発売されたフィルムカメラ「M-1」用の交換レンズ群として用意された中の広角レンズです。発売後すぐにライカから自社の「Mマウントシステム」と被るためにクレームが入ってしまい急きょオリンパスの「O」を附随させて「OM-SYSTEM」と変更しました。それに従いフィルムカメラも「OM-1」とした経緯があったようです。生産された分については出荷を許されたために初期のみ「M-SYSTEM」を刻印したモデルが僅かに出荷されました。今回出品する個体は製造番号から恐らく初期生産品の最後のほうの個体と推測しています。

光学系は6群7枚の典型的なレトロフォーカス型で第6群に貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) を配置しています。開放からシャープなピント面を構成し歪曲の少ない端正な描写が特徴です。発色性はナチュラルですがコントラストが相応に高くとてもメリハリのある画造りの印象です。

ZW3528(0512)仕様

ZW3528(0512)レンズ銘板

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。

すべて解体したパーツの全景写真です。

ZW3528(0512)11ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。一般的にオールドレンズの古いモデルなどは前玉の周辺に絞り機構部を配置していた時代がありますが、自動絞りが採用された頃のモデルでは多くの光学メーカーがマウント側に絞り機構部を移しています。その中でオリンパスは従前の思想を踏襲した設計に拘ったようで自動絞りを採用しながらも前玉周辺に絞り機構部が配置されています。

これはその機構部の構造化を見ればよく判るのですすが、鏡筒内部に格納してしまうという様々な工夫を基に結果として筐体自体をとても小さくコンパクトに仕上げたかった拘りが伺えます。それはまた大口径の光学系に頼らず必要な光量と諸元値を満たす光学系設計にも顕れているのかも知れません。いずれにしても相当な部品点数が構成パーツとして使われています。

構成パーツの中で「駆動系」や「連動系」のパーツ、或いはそれらのパーツが直接接する部分は、すでに当方にて「磨き研磨」を施しています (上の写真の一部構成パーツが光り輝いているのは「磨き研磨」を施したからです)。「磨き研磨」を施すことにより必用無い「グリースの塗布」を排除でき、同時に将来的な揮発油分による各処への「油染み」を防ぐことにもなります。また各部の連係は最低限の負荷で確実に駆動させることが実現でき、今後も含めて経年使用に於ける「摩耗」の進行も抑制できますね・・。

ZW3528(0512)12絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) は独立しており別に存在しています。

ZW3528(0512)13上の写真は絞りユニットのペース部分ですが既に各連動系・連係系パーツを外してから当方による「磨き研磨」が終わった状態で撮影しています。当初バラした直後はこの絞りユニットのパーツにまで過去のメンテナンスでグリースが塗られていましたが (過去にメンテナンスされた痕跡が随所にある)、当方は鏡筒内部にグリースを塗布するのは光学系が直接隣接している位置なので良くないと考えています。それは塗布されたグリースの経年劣化に拠る揮発油成分が光学系前後群のコーティング層の経年劣化を促進させてしまう懸念があるからです。

ZW3528(0512)14まずは絞り機構部の「第2階層」を組み付けた状態です。この機構部の直ぐ下に「絞り羽根」の格納部分が既にセットされておりそこが「第1階層」になります。

ZW3528(0512)15絞り環との連係を司る「第3階層」を組み込みました。この上にさらに「第4階層」として光学系前群が入ってくることになります。鏡筒内は4つの階層で構造化されていることになりますが鏡筒自体は他社光学メーカーの同じ焦点距離 (35mm) 広角レンズの鏡筒と比較してもたいして違いが無い大きさです。如何にコンパクトにまとめあげて鏡筒内に機構部を収めているのかが判ります。

しかしオリンパスの凄いところはこのような「小さく作る」技術と拘りだけではなく実は「調整箇所を極力少なくする」設計思想が伺えるからなのです。人間の手は人種や男女の別で多少は差があるもののオールドレンズに架かるチカラはオールドレンズの筐体を小さくすればするほど負荷として大きくなっていきます。その中で光学系の設計 (光路長など) を勘案しつつも鏡筒内で多階層の構造化を行い、且つその連動・連係を確実にしていくことは容易いものではありません。

この構造化の中で使われている各構成パーツはアルミ材削り出しパーツ、真鍮製、真鍮 (黄銅) 製 (ガンメタル)と要所要所にコストを掛けたパーツを惜しみなく採用し、それらのパーツは「位置調整」「連動・連係調整」を極力排除した設計思想がその「材質の相違」によって裏打ちされています。狭く少ない空間の中でこのような構造化で設計ができたのはまさしく日本の工業技術の賜物と言えるのではないでしょうか・・オリンパスのオールドレンズの凄さに当方が感銘を受けた理由がそこにあるのです。その意味でオリンパスのオールドレンズを整備するのはとても楽しい作業であり、今後のレパートリーに追加することに決めた次第です。組み立て工程を進める中で設計者の思惑を感じられながら作業をしていくのはとても楽しい時間です(笑)

ZW3528(0512)16鏡筒を立てて撮影してみました。鏡筒の外側に向かって「絞り環連係アーム」が両サイドに1本ずつ飛び出てきます。

ZW3528(0512)17ヘリコイド (オス側) を鏡筒にセットします。

ZW3528(0512)18こちらは距離環やマウント部を組み付けるための基台です。筐体がコンパクトなので大変薄い基台です。

ZW3528(0512)19ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。このモデルには「無限遠位置調整機能」が備わっているのでここでのアタリ付けは大凡で構いません。

ZW3528(0512)20鏡筒 (ヘリコイド:オス側) をやはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルには全部で9箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

ZW3528(0512)21距離環を仮止めしてセットしておきます。1978年以降に生産されたオリンパスのオールドレンズには、この距離環のラバー製ローレットを外した位置に白色塗料による「製造情報」が暗号で印刷されています。当レンズは1978年以前の生産個体なのでまだ暗号が印刷されていません。

ZW3528(0512)22こちらはマウント部内部の写真です。既に各連動系・連係系パーツを取り払い当方による「磨き研磨」を終わらせています。

ZW3528(0512)23外していた各連動系・連係系パーツにも「磨き研磨」を施しマウント部内部に組み込みました。当初バラした直後はやはりこのマウント部内部にまでグリースが塗られていました。いわゆるグリースに頼った整備が過去のメンテナンスで施されていましたが、もちろん当方ではグリースなどは一切この部位には塗布しません (光学系に対する将来的なコーティング層劣化の懸念があるため)。各連動系・連係系パーツは表層面の平滑性が確保できているのでグリースを塗布する必要が無いのです・・生産時の状況に限りなく近い状態ですね。

ZW3528(0512)24組み上がったマウント部を基台にセットします。今回の個体は「M-SYSTEM」の出荷品なのでマウント部を固定している締め付けネジの頭が「マイナス」です。「OM-SYSTEM」になってからは「プラスネジ」に替わっています。

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ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

ZW3528(0512)1当方でオーバーホールを施しヤフオク! に出品する第1号機になった「M-SYSTEM G.ZUIKO AUTO-W 35mm/f2.8」です。純正の前後キャップが附属しています。

ZW3528(0512)2光学系内の透明度は大変高くLED光照射でも「薄いクモリ」が皆無です。残念ながら第3群の外周附近に除去できなかった判別不能な「カビ (?)」「カビ除去痕」「汚れ」が極微細ですが4箇所あります。LED光照射するか光に反射させないと視認できないレベルです。

ZW3528(0512)2-1

ZW3528(0512)2-2上の写真 (2枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。1枚目は前玉の極微細な点キズの状態を撮りましたが写真下側にある「白点」は撮影時に埃が付いてしまったので実際にはありません。2枚目が前述の第3群外周附近にある判別不能な部分です。反対側にもう2つあるので全部で4つです・・LED光を後玉側から照射して問題の部分をワザと浮かび上がらせて撮影しているので順光目視では視認できません。恐らくカビだと思うのですがコーティング層に生えてしまったのでしょうか溶剤でも除去できませんでした。ちなみにこの部分は貼り合わせレンズではないのでバルサム切れ (貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態) ではありません。貼り合わせレンズはこのモデルでは最後の第6群 (後玉) になります。時として何でもかんでもバルサム切れや拭き残しとクレームしてくる人が居ますが勘弁してください。

ZW3528(0512)9光学系後群、特に後玉には極微細な点キズが僅かにあります。

ZW3528(0512)9-1写真に影響を来すキズではないですが・・こんな感じです。総じて今回出品する個体は光学系内はキズが大変少ない個体であり、且つ透明度が非常に高い部類です。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
前群内:4点、目立つ点キズ:1点
後群内:6点、目立つ点キズ:3点
コーティング経年劣化:前後群あり
カビ除去痕:あり、カビ:あり (?)
ヘアラインキズ:あり
・その他:バルサム切れなし。中玉の外周附近にカビなのか汚れなのかの判別ができない微細で小さめの薄いクモリが4箇所あります。目視ははしにくいのでLED光照射で浮き上がります。
・光学系内の透明度が非常に高い個体です。
・光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れ、クモリもありますがいずれもすべて写真への影響はありませんでした。

光学系の状態を撮影した写真は、そのキズなどの状態を分かり易くご覧頂くために、すべて光に反射させてワザと誇張的に撮影しています。実際の現物を順光目視すると、これらすべてのキズは容易にはなかなか発見できないレベルです。

これらの極微細な点キズは「塵や埃」と言っている方が非常に多いですが、実際にはカビが発生していた箇所の「芯」や「枝」だったり、或いはコーティングの劣 化で浮き上がっているコーティング層の点だったりします。当方の整備では、光学系はLED光照射の下で清掃しているので「塵や埃」の類はそれほど多くは残留していません (クリーンルームではないので皆無ではありませんが)

光学系内については、何でもかんでも「カビや塵・埃、拭き残しと決めつける方」或いは「LED光照射した状態をクレームしてくる人」は、当方ではなくプロのカメラ店様や修理専門会社様などでオールドレンズのお買い求めをお勧めします。当方のヤフオク! 出品オールドレンズの入札/落札や、オールドレンズ/修理のご依頼などは、御遠慮頂くよう切にお願い申し上げます。
当方には光学系のガラス研磨設備やコーティング再蒸着設備が無く、キズやコーティングの劣化が全く無い状態に整備することは不可能です。

ZW3528(0512)36枚の絞り羽根もキレイになり確実に駆動しています。

ここからは鏡胴の写真になります。経年の使用感をほとんど感じさせない大変キレイな状態をキープした個体です。筐体外装も当方による「磨き」をいれたので落ち着いた美しい仕上がりになっています。

ZW3528(0512)4

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ZW3528(0512)7【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドのグリースは「粘性:中程度」を塗布しています。距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。
・距離環を回すトルク感は「軽め」で滑らかに感じほぼ均一です。ヘリコイドが擦れる感触を感じる箇所が一部ありますが使用上 (将来的に) 問題になることはありません。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。

【外観の状態】(整備前後拘わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

「磨き研磨」は極力グリースの類の塗布を少なくして、今後の経年使用に於いても「揮発油成分」が光学系まで回らないよう配慮した処置です。それは既に光学系、特にコーティングの劣化が相応に進行しており、さすがに硝子材だけはいくらメンテナンスと言えども、おいそれと何度も研磨することはできません (せいぜい当初生産時諸元値の1%以下程度までしか研磨できません)。それを考えるとグリースを塗ったくったり、或いは液化の早い滑らかな (粘性が軽めな) グリースばかりを好んで使うのもどうかと思いますが・・。

その意味では、使い倒すつもりならば整備する必要は無いでしょうし (スルスル回るのは既にグリースの限界が来て液化が始まっているからです)、少しでも長く使うならば整備したほうが良いコトになります (グリースを入れ替えるワケですから、トルクはそれなりに変化します)。その辺のリスクが分からない (気がつかない) 方が最近は多くなってきました・・当然ながら、当方のスキルレベルは低いですから、完璧な整備を望まれる方は「プロのカメラ店様/修理会社様」に整備をご依頼されるのが最善かと思いますヤフオク! に出品しているオールドレンズの入札/落札も、このブログをご覧頂き「オールドレンズ/修理」のご依頼をされるのも、すべてスルーして頂くようお願い申し上げます

それでもヤフオク! の当方評価に「非常に良い/良い」をお付け頂ける方がいらっしゃるのは、或いは「オーバーホール/修理」のご依頼を頂けるのは、市場に出回っているオールドレンズの状態を既にご存知だからです。問題なのは、このブログが検索でヒットして「オーバーホール/修理」のご依頼をされる方々の中で「認識」「感覚」が「プロのカメラ店様で販売しているオールドレンズしか知らない」と言う方々です。そのような方々からのご依頼では、トラブルになることが最近は多くなってきました・・ご勘弁下さいませ。何度も言いますが、当方の技術レベルは低いです・・

ZW3528(0512)8生産された個体数自体が少ない「M-SYSTEM」初期出荷分の個体です。フィルター枠や絞り環のクロームメッキ部分は「光沢研磨」を施したので大変艶めかしい輝きを放っています。

ZW3528(0512)10当レンズによる最短撮影距離30cm附近での開放実写です。