◎ PETRI (ペトリ) EE Petri MC LENS 55mm/f1.7《マウント改造品》(M42)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます
※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません


今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、PETRI製
標準レンズ・・・・、
 『EE Petri MC LENS 55mm/f1.7《マウント改造品》(M42)』です。


先日扱ったPETRI製オールドレンズに『C.C Auto Petri 55mm/f1.8 silver《過渡期型》(M42)』というのがありました。

ペトリの独自マウント規格ブリーチロック式スピゴットマウントから倒産する1978年の直前の頃に、特に海外向けOEM品として数多くの「M42マウント」モデルを製産し輸出していた時期があり、その頃の「過渡期の製品」なのではないいかと推測した個体でした。

この時オーバーホールの為に完全解体してバラした際の内部構造や各構成パーツの仕様などを参考に、今回出品する個体で同じことができないかいろいろ試した結果の完成品になります。

もちろんこの当時のPETRI製オールドレンズのオプション交換レンズ群の中に、今回オーバーホール済でヤフオク! に出品する個体と「同一のモデルは存在しない」ので、お間違いなきよう。あくまでも当方の手による「マウント改造品」になります (将来的にオリジナルの状態に戻すこともできません)。

  ●               ● 

前述の「過渡期モデル (55mm/f1.8)」をバラした時のチェックでは、確かに内部の構成パーツはその当時のPETRI製オールドレンズ純正パーツばかりであり、内部には一切改造の痕跡が残っていませんでしたが、数多くのヒントを得ることができました。

最大のポイントは「内部の絞り羽根制御機構の配置が正反対で2種類存在している」事実を 掴んだことでした。それは外見上からも判定することができます。

↑上の写真は前回扱った「過渡期モデル (55mm/f1.8)」と「EEモデル (55mm/f1.8)」です (右側2個)。

すると「絞り環の回転方向が逆になっている」ことが分かります。一方マウント面の「絞り 連動ピン/絞り連動レバー」の位置は両方共に「」マーカーに対して正反対の直径上に位置 し同一なのですが、その「制御方法/方向」が内部で全く逆だと言う意味です。従って内部の構造面で「鏡筒の転用ができない」事になり、当時PETRIがワザワザ正反対のモデルを用意していた事を意味します (鏡筒を標準化させていなかった)。

さらに今回この「マウント改造個体」に挑戦したところ、その他の要件も明確になり、おそらく当時のPETRI社内では様々な設計で数多くのモデルを次から次へと用意していたのではないかと考えています。或いは、もしかするとそのような非効率的で非合理的な (都度コストが掛かる) 設計/開発を続けていたが為に、ついには倒産へと繋がっていったのかも知れません。

今回のこの「マウント改造」にトライした最大の理由は以下になります・・。

PETRI製オールドレンズの中で唯一無二の存在、且つ最初で最後のマルチコーティング化モデルを汎用性を重視した「M42マウント」で仕上げる。

そもそも元となるモデル「EE Petri MC LENS 55mm/f1.7 (Petriマウント)」が1974年に 開発された事から市場での出現率が相当低く、海外オークションebayでさえ年間で数本レベルですから、そのようなモデルを独自性の強い「ブリーチロック式スピゴットマウント」ではなく、汎用性の高い「M42マウント化」に仕上げる事で、必ずや喜んで頂ける『ペトリファン』の方がいらっしゃるとの願いからです。

そしてもう一つの理由がその背景にあります・・。

PETRI製オールドレンズの違和感の無い色再現性とリアル感の中で、最も旧東ドイツMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズのシャボン玉ボケに匹敵する質を提供してくれる「インスタ映えオールドレンズ」だから。

これら2つの理由が念頭にあり今回トライする気持ちになった次第ですが、その期待とは裏腹に丸2日掛かりの作業に陥り、正直なところ二日分の作業対価回収が非常に難しいとの反省が残りました(笑)

その意味では「渾身の仕上がり」とも言え、もちろん「唯一無二のM42マウント化」とも言えます。なお、今回の「マウント改造」に当たって最も配慮した優先事項があり、それは「エポキシ系接着剤を絶対に使わない」逆に言えば「オリジナルの純正パーツしか使わない」事を 大前提としてトライした次第です。

従って全ての締付ネジがちゃんと効いていますから鏡胴内部の構成パーツにズレやムリが生じている事は一切無く、同時に将来的に外れたりポロッと落下したりの心配が一切ありません。

  ●               ● 

1974年にPETRIから発売されたフィルムカメラ「PETRI FTE」のセット用標準レンズとして登場した、後にも先にもPETRI製オールドレンズ群の中では純然たるPETRI社内の設計/開発による (コシナなどのOEM製品ではない) 唯一無二のマルチコーティング化モデルです。

ブリーチロック式スピゴットマウント規格ですが、マウント面には カメラボディ側で実測した適正絞り値を伝達する役目の「絞り値伝達用ピン」が追加で用意されます。

そもそもPETRI製オールドレンズのマウント規格についてちゃんと解説してくれているサイトがありませんが、以下のようになります。

↑上の写真はフィルムカメラの各マウント規格について写した写真を並べています。

ネジ込み式 (スクリュー) マウント規格 (例:M42マウントなど)
オールドレンズをネジ込んでいき、最後に詰まった位置で「固定したと解釈する方式」ですが、一部メーカーにはロック解除ボタンを装備している方式もあります。

バヨネットマウント式マウント規格 (例:OLYMPUS/PENTAX/Nikonなど)
オールドレンズとフィルムカメラのマウント部にあるリリースマーカー「」を互いに位置を合わせてマウントの「爪」をハメ込んでからオールドレンズ側を回すことで「爪」がカチッとロックされる方式で、リリース解除には解除ボタン操作が必要です。

スピゴット式マウント規格 (例:Canon/PETRIなど)
オールドレンズはリリースキー (レンズ側マウント面に突出している棒状) をあわせて基本的にフィルムカメラのマウント側にあてがうだけで、フィルムカメラ側マウントに用意されている「締付環」を回すことでロックされる方式。解除には「締付環」を反対方向に回すことでオールドレンズを取り出せる。

スピゴットマウント式規格の「ブリーチロック」とは「締付環をまわして締め付け固定する 方式」を指します。従って外で不用意に外したりするとボロッとオールドレンズだけが外れて落下しかねません(怖) バヨネットマウント式の場合は外す際にオールドレンズ自体を手でホールディングして回して外しているので、よほどでない限り落下はありませんね。またネジ込み式の場合も自分で掴んで回しているので落下しにくいですが、距離環のトルクが重すぎると回ってしまう事があります。

それぞれのマウント規格で一長一短でしょうか。

↑そこでPETRI製オールドレンズで新たに加わったマウント規格としての機能「EE」は「electric-eye」の略で、要はフィルムカメラ側での測光による自動露出機構で、本来はシャッタースピード優先自動露出でしたが現在は広義での自動露出と認識されています。また「AE」は「Auto Exposure」の略なのでコトバどおり勝手に決まる自動露出です。

すると従前でPETRI製オールドレンズには当初より左右方向にのみ動く「絞り連動レバー」が備わっており (赤色矢印)、前期型/後期型、或いはモデル別によりレバーの動きで絞り羽根が 開くのか/閉じるのかの相違が顕在しています (ブルーの矢印)。

一方「EE」では適正露出値をオールドレンズ側が受け取り「フィルムカメラ側が設定した露出値で絞り羽根を閉じさせる」必要が発生した為、マウント面の突出している棒状ピンが「垂直方向で押し込まれる」方式を採っています (グリーンの矢印/ブルーの矢印)。何となく「M42マウント」の「絞り連動ピン」の動き方に似たような印象ですね(笑)

M42マウント」の絞り連動ピンとの決定的な相違点は、M42マウントの場合は「原則的に 棒状ピンの押し込み量が一定以上必要」であるのに対し、PETRIの「EE」では「押し込み量で絞り値が決まる」ので設定絞り値により押し込み量がマチマチです。つまり「M42マウント」では絞り羽根を何処まで閉じるのかの主体は「絞り環 (で設定した絞り値)」ですが、PETRIではフィルムカメラ側が測光した適正露出値であり、それは「伝達ピンの押し込み量が絶対的な主体」なので、絞り環は「EE」にセットしたままと言うことになっています。他の「AE」も似たような機能ですね(笑)

光学系は典型的な4群6枚のダブルガウス型構成ですが、マルチコーティング化モデルですので従来の「アンバーマゼンタ」コーティング層の上からさらに3つ目のコーティングとして「グリーン色のコーティング層」を蒸着しており、一部のサイトで「前群側」と案内されていますが他社メーカーも含め大方のオールドレンズで前群だけに限定してマルチコーティング化している事はむしろ希です(笑)

今回バラして光学硝子レンズを清掃する際に1枚ずつチェックしたところ、右構成図のように「第1群 (前玉) 裏面側」と「第4群 (後玉) 表裏面」の合計「3面」のみがマルチコーティング化でした (右構成図の 部分にマルチコーティング化としてグリーン色の蒸着がある)。

なお右構成図は今回のオーバーホールで当方が1枚ずつデジタルノギスで計測した実測値を 元にトレースしています。

左写真は当時の「PETRI FTE」の取扱説明書からの抜粋ですが、通常のモノコーティング (Petriの社内ではコンビネーションコーティングと呼称していた/だから略としてC.Cになる) に対して、光学硝子レンズの光学面に於いてその反射を5%低減させていると記載していますね。

ちなみに、右写真はそのフィルムカメラ「PETRI FTE」の取扱説明書ですが、掲載写真のセットレンズがちゃんと「EE Petri MC LENS 55mm/f1.7 (Petri)」になっていますね。一説によるとこのマルチコーティング化モデルの標準 レンズはブラック色のフィルムカメラに限定してセットされていたと案内されていますが、 ご覧のようにシルバーモデルのほうにもちゃんとセットされているように見えます。

 



上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。同型モデルの実写がないのでOEMモデルとして供給されていたEXAKTAR 55mm/f1.7の実写をピックアップしています。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端から真円で繊細、且つ明確なエッジを伴う大きめのシャボン玉ボケが出現し、やがて破綻して滲んでいき薄く背景に溶けていく様をまとめてピックアップしています。まず4群6枚の典型的なダブルガウス型構成でここまで真円を維持した状態で美しいシャボン玉ボケを表出させられると言うこと自体がオドロキです。このシャボン玉ボケの品質レベルは、まさしく旧東ドイツのMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズ、特に3枚玉トリプレットモデルのシャボン玉ボケに匹敵し得る大変貴重なオールドレンズに入ると考えます。

普通のダブルガウス型光学系モデルでここまで徹底的なシャボン玉ボケの表出は難しいです。

二段目
さらに円形ボケへと背景が滲み始めて徐々に溶けて消えていきますが、その過程で収差の影響を色濃く残したままの「ある意味汚いボケ味」を逆に「背景の効果」として活用してしまうと考えピックアップしてみました。従って当時のフィルムカメラ全盛時代には、これら背景の醜い滲み方は「単なる収差」として嫌われているだけの存在でしたが、今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼に特にマウントアダプタ経由装着する場合などの使い方を想定すると、そのような「効果」としての活用方法が見出され価値に変わります。

その意味で特に「インスタ映え」などと揶揄されている撮影にはもしろ好ましい (楽しい) 効果として影響を与えますし、下手すれば「美しさ」に繋がるシ〜ンにも至るかも知れません。例えば2枚目のネコの写真などは十分にそのような要素を残していると思います。

三段目
ピント面の鋭さに違和感を感じず、その発色性に於いても決してコッテリ系に偏らない「質の良さ」が実はPETRI製オールドレンズの共通項目だったりします。十分に繊細で細いエッジながらも大人しめな表現なのがかえってピント面の「緻密感」を高めてくれます。その意味で何でもかんでもギッシリ詰まりまくった緻密感だけ/それこそ情報量の多さだけが鋭さの代名詞ではないと考えますね(笑) そういう描写性は今ドキのデジタルなレンズの方に任せておけばいいと思います(笑)

なお、一部の某有名処サイトでの実写がハイキーに飛んでしまっている写真ばかり掲載されていますが、上記実写やこのページ下の当レンズによる実写を見る限り、他のPETRI製オールドレンズと同じようにちゃんと写っているのでハイキーの写り方は個体の光学系の問題だと思います。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。まず最初にお断りしておきますが、今回のオーバーホール済でヤフオク! に出品する個体は「オリジナルの 製品ではない当方の手によるマウント改造個体」です (実際に当時製産され市場流通していたモデルではありません)。

また今回の「マウント改造」に関し、その改造方法は切削したりエポキシ系接着剤を使って 接着したりなどの処置を一切講じず「ひたすらにオリジナルの構成パーツの組み合わせだけで組み上げている」事をお知らせしておきます (但し一部スリット/切り欠きを用意したりなどの処置は講じている)。

今回の個体は最終的に4つの個体から必要となる各構成パーツをチョイスして組み上げた「ヨンコイチ品」です。

この点を十分ご理解の上で是非ともご検討下さいませ。
そして同時に今回の「マウント改造」を実施した趣旨/狙いは、まさに・・。

PETRIにとり、唯一無二の最初にして最後のマルチコーティング化モデルを 汎用性の高いM42マウントで提供すること

・・です。是非とも宜しくお願い申し上げます。

そしてハッキリ言って、4つの個体から必要な構成パーツをチョイスしていく作業は、相当に複雑で困難を極める状況だった事をお伝えしておきます。それは内部構造を十分に把握し、且つ各構成パーツの「役目/存在価値」をまさに設計者の身になって推測できているか否かが問われる中で、一つの構成パーツを選択した時に「チカラの伝達」がどのように他の部位に影響していくのかを「確実に把握できているか」と言う命題との背中合わせであった事も、ご案内しておきます。

それほどハードな複雑極まりない状況だったのですが、その「チカラの伝達」にこだわらない限り、組み上げて仕上がった個体の操作性は「単なる改造品」に堕ちてしまうとも言い替えられます。

あたかもまるで当時流通していた製品の如く自然に違和感なく佇むこと・・

それが当方にとっての「ご落札頂くたった一人の方の為」に最初から最後まで配慮した一貫 したポリシーでもあります。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。ヘリコイド (オス側) は独立しており別に存在しますが、そもそもこの「鏡筒」自体からして「絞り羽根の制御方向/位置」が決まってくる重要な部位なので、まずはこの「鏡筒」が決まるまでが大騒ぎでした(笑)

それほど「マウント面から飛び出る絞り連動ピンの駆動方法/内部機構部の位置」が重要だったとも言い替えられます。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

当方ではこのPETRI製オールドレンズで使われている「絞り羽根」を「オットセイ型絞り羽根」と呼んでいますが(笑)、その打ち込まれている「キー」の長さもモデル別でマチマチであり、必然的に制御方法とも密接に関わりますから「ヨンコイチ」はまるで地獄のような話でしたね(笑)

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させて組み込みます。

↑完成した鏡筒をひっくり返して (つまりは後玉側方向から) 撮影しました。最終的に完璧な状態で組み上げられるのかを決めてしまうのが、まさにこの「絞り羽根制御方法」であり、ここが決まらない限り先に進めません。問題なのはこの後の工程で、この「制御方法」との辻褄合わせができるのか否かと言う話です。

連係ガイド
絞り環との連係ガイド/スリット/切り欠きが用意されている

スプリング
絞り羽根を常に閉じようとするチカラを及ぼす目的で使っている

開閉アーム
マウント面から飛び出ている絞り連動ピンとの連係動作で絞り羽根を開閉する役目

カム
なだらかなカーブに突き当たる事で絞り羽根の開閉角度を決めて伝達する役目

すると「なだらかなカーブ」の麓部分が最小絞り値側になり、反対に坂を登りつめた頂上が開放側に至りますが、そもそもこれらの要素全てが他の部位との整合性の中で決まっていくので、この「制御方法」が決まったと言う事は逆に言えば「他の部位の使用パーツも決まる」話になり、ここだけ完成しても組み上がる話ではありませんね(笑)

つまりは全てが見えている中で何をチョイスしていくのかが問われる世界なので(笑)、例えばこの「連係ガイド」を選択しただけで何処がどのように影響を受けるのかを知っていなければ、ここの工程だけ仕上がっても全く意味がありません (何故なら最後まで適切な微調整を伴って組み上げられないから)。

その結果ムリに組み合わせたりして切削やエポキシ系接着剤による接着などが発生してしまいますね(笑)

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。

↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリをつけた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

当然ながらヘリコイド (オスメス) のネジ山の数/長さは最短撮影距離60cmとも関係が強いのでチョイスするパーツが決まってきますが、それは裏を返せば「今回使うマルチコーティング化された光学系の設計仕様に合致しているのか」が問われる話です。

逆に言うなら、単に元のモデルのヘリコイド (オスメス) をそのまま転用すれば何も心配ない/確実にピントが合う話ですが、実はそうすると「M42マウント化」ができない話に至ります(笑)

このような葛藤の中で作業が進められていきます・・。

↑ヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリをつけた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で17箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

上の写真でグリーンのラインで示していますが、互いのヘリコイド (オスメス) の肉厚が異なり、特に「ヘリコイド (メス側) が薄い」為に、ヘリコイド (オス側) にセットされる距離環を急いで回そうとしたり、トルクが重いからと強く掴んだりすると「簡単にヘリコイドメス側が撓る」ワケで、それがそのまま「トルクムラ」に繋がる原因になります。

何故なら、一度変形してしまった「真円を維持しないヘリコイド (のネジ山)」はどうにも直せないからです。その意味でペトリカメラ製オールドレンズの多くのモデルが「同じ設計概念ヘリコイド (メス側) が薄い」で造られているので、距離環を回すトルクが重すぎるといずれはトルクムラが酷くなっていきます (一度変形すると重いからとムリなチカラで回そうとするのでさらに変形が進むから)。

↑完成した基台をひっくり返して (つまりは後玉側方向から) 撮影しています。両サイドに「直進キー」と言うパーツが締め付け固定されていますが、この「直進キー」が片側に1個存在なのか、このように両サイドなのかも非常に重要な話になり、それはそもそも設計者がどのように決めたのかが大きく影響してくるので、やはり全てが見えていないとどうにも決められない話です(笑)

何故なら元々のマルチコーティングモデル自体は「直進キーは一つ」だったからです (つまりオリジナルは直進キーが一つだけの設計)。

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

↑完成したヘリコイド (オス側) の内部に完成している鏡筒をストンと落とし込んでから締め付け固定します。この時点で既に「全ての部位の制御方法/チカラの伝達レベル」が決まっているワケで、ここに至るまでで丸々一日を要しました(笑)

どんだけ技術スキルが低いのか・・と言う話です(笑)

↑ここで面倒なので先に距離環を仮止めしておきます。上の写真では当たり前のように基準「」マーカー位置に「∞」刻印が合致していますが、そもそもそれがどうしてちゃんと合致するのかと言う話です(笑)

観察と考察」そして「原理原則」が常に問われる話ですね・・。

↑鋼球ボールを組み込んでから絞り環をセットします。

↑こちらはマウント部内部の写真ですが、既に各構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮っています。よ〜く見ると分かるのですが、このマウント部は表裏全てが「マットな梨地仕上げ」のメッキ加工です。

つまり経年による揮発油成分を嫌っている設計なのが明白ですから、ここにグリースを塗ってしまうこと自体がそもそも設計者の意図に反している話になります。

梨地仕上げメッキ加工
金属に極微細な凹凸をつけてメッキする加工で内部パーツの油成分流動性を低減する目的

↑取り外していた構成パーツを個別に「磨き研磨」してからセットします。マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれると (ブルーの矢印①)、その押し込まれた量の分だけ「カム」が押されて () 先端の「操作アーム」が移動する () ので、鏡筒から飛び出ている「開閉アーム」が操作される仕組みです。

従ってその時のチカラ伝達で最も重要な役割をしているのはこれら機構部ではなく、実は上の写真でグリーンの矢印で指し示している「捻りバネ」だったりしますから(笑)、このバネが経年劣化で弱まったら「製品寿命」と言う事になりますね。

よく多いのが過去メンテナンス時にこのマウント部内部にグリースを塗ったくってスムーズに動くよう処置していることが多いのですが(笑)、その結果グリースは経年劣化により「濃いグレー状」に変質してしまい、同時に「捻りバネに赤サビが発生している」のがほとんどです。

仕方ないのでその「赤サビ」を除去して各構成パーツを「磨き研磨」することで、必要とする平滑性を確保して、上の写真のとおり「グリースなど塗らずに」当方のオーバーホールでは組み上げています。

過去メンテナンス時のツケまで払わされている始末で(笑)、何とも面倒くさい話です。

↑いよいよ最終工程まで辿り着きました。既に二日目に入っており(笑)、この後は光学系前後群を組み込んで無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑ついに二日目にして完成しました!(笑) 二日間あ〜だこ〜だとアッチのパーツを持ってきてこっちのパーツを入れ替えてと、散々4個の個体から取り外したパーツを広げて (まるでジグソーパズルの如く) チョイスしては試しまた外して入れ替えては試しをひたすらに黙々と続けていました(笑)

そして・・この美しいコーティング層が放つ光彩が全てを癒やしてくれます(涙)

↑見る角度を変えるとご覧のようにアンバーパープルの光彩が現れ、そもそもの「Combination-Coating」が見えますね。逆に言えばこの光学系第1群 (前玉) は表面がアンバーパープルで裏面側にその上にプラスして3つ目のコーティング層として「グリーン色を蒸着」していると言えます (実際に清掃時に確認している)。

ちなみにレンズ銘板の「EE」は冒頭解説のとおり「Electric-Eye」の略で、同時に前述の「Combination-Coating」を兼ねている為に赤色刻印になっています。

MCの文字が誇らしげに見えます・・(涙)

↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体ですが、残念ながら前後玉の特に表面側は経年相応に拭きキズやハガレ、或いはカビ除去痕などが残っており、LED光照射すると微かなクモリとして浮かび上がります (但し総合的には透明度が高いと判定できるレベルであり何ら気にする必要無し)

↑上の写真 (4枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。一部にはコーティング層に経年劣化に伴う「剥がれ」があり、また第2群貼り合わせレンズなどはコバ端の反射防止塗膜納期がポツポツと白っぽく浮き上がって見えます。

↑光学系後群側も透明度が高く後玉を覗け歯LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。後玉表面側にはやはり経年相応のカビ除去痕が少々多めにLED光照射で極薄いクモリを伴って浮かび上がります

光学系後群はこの第4群 (後玉) が表裏面共に3つ目のコーティング層として「グリーン色を蒸着」しています。つまりこのモデルの光学系は合計で「3面に対してグリーン色のコーティング層蒸着」と言えます (グリーン色のコーティング層はアンバーパープルのモノコーティングの上にマルチコーティングとしてプラスして蒸着している)。

従って「モノコーティング (複層膜蒸着)」ではなくて「マルチコーティング (多層膜蒸着)」と言えるワケです。

↑上の写真 (5枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。ご覧のように後玉外周附近は一部にコーティング層のハガレがあります。

【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:20点以上、目立つ点キズ:20点以上
後群内:20点以上、目立つ点キズ:20点以上
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内僅か)
(極微細で薄い14ミリ長が数本あります)
・バルサム切れ:なし (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:あり
(各群に過去メンテナンス時の拭きキズが数本あります/また第2群貼り合わせレンズのバルサム材に1箇所線状汚れが入っています)
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):あり
(前後玉にLED光照射で浮き上がる極薄いクモリがあります)
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内は経年並みに極微細な点キズや拭きキズあります。またコーティング剥がれや見る角度により拭き残しのように見えてしまうコーティング層の経年劣化に伴う汚れ状などが残っていますが4回清掃しても除去できません。
・各群の光学硝子レンズはコバ端の反射防止塗膜が経年劣化に伴い浮き始めている箇所があります。
・光学系内は透明度が非常に高いレベルです。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。A/M切替スイッチの挙動も瞬時に切り替わり適切です。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正六角形を維持」したまま閉じていきます。

↑使用した構成パーツの都合から「絞り環の最小絞り値がf16の一つ先まで回る」ためにご覧のように本来の最小絞り値「f16」からもう一段分閉じて「実測でf22手前辺り」まで閉じます (そのまま使っても全く差し支えない)。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度+軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人により「重め」に感じ「全域に渡り完璧に均一」です。
距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触とゴリゴリ感が伝わる箇所があります
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・ピント合わせの際は極僅かに非友邦孔でのガタつきがあります(内部パーツの経年摩耗なので改善できません)。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。
・絞り環を回すと最小絞り値「f16」の一つ先まで回って停止します(もちろんf16でもクリック感を伴い普通に停止可能です)。これは内部に実装したパーツの都合からなので改善できません)。
この時その動きに連動して絞り羽根も閉じる為実測で最小絞り値は「f22」手前辺りの光量まで絞り羽根が閉じている換算になります。
・A/M切替スイッチの動作は正常に働き機能しています。
・本来レンズ銘板の刻印のとおりペトリの「EE」機能を実装したモデルですが、今回出品に際しマウントを「M42マウント規格」に変更している為、且つ普通の「自動絞り方式」なのでペトリ製フィルムカメラに装着し「EE」機能を働かせようとしても機能しません。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。

↑完璧なオーバーホールが終わりました。もちろんオールドレンズとしての完成度もまったく普通の個体と同様100%機能していますから、このまま「当時販売されていました」と言われても信じ込んでしまうくらいです(笑)

特にPETRI製オールドレンズでこのように距離環を回すトルクが楽な状態に仕上がるのは珍しいので (当方のオーバーホールでは当たり前の話ですが) 一応神経質な方の為に「重め」としています(笑)

できれば「ゴリゴリ感」と言うヘリコイドネジ山の擦れ感が残らなければ良かったのですが、こればかりは「ヘリコイド (メス側) の肉厚が薄い事から起因している問題」なのでどうしようもありません (つまり設計上の仕様とも言い替えられる)。

その意味で、本来なら純正のヘリコイドグリースを塗ればおそらくこのゴリゴリ感は消えると思いますが、もう手に入りません(笑)

↑純正の被せ式樹脂製前キャップが附属しますがカパカパ状態です(笑) 一応中古のフィルターもちゃんと清掃してありカビ除去が済んでいます (後キャップは汎用品です)。

↑上の写真 (2枚) は、前述の「絞り環の最小絞り値f16の一段先まで回る」事を示しています。ちゃんと仕様上の「f16」でクリックストップしますが、さらにもう一段分ちゃんとクリックストップして停止すると言う意味です (赤色矢印)。

↑当レンズによる最短撮影距離60cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影しています。絞り環のクリックは一段分ずつでのストップです (半段ストップが無い/これはPETRI製オールドレンズ全てのモデルでの設計上の仕様です)。

↑さらに回してf値「f4」で撮影しています。

↑f値は「f5.6」に変わりました。

↑f値「f8」になります。

↑f値「f11」です。

↑本来の仕様上の最小絞り値「f16」での撮影です。

↑さらに今回の個体がその先まで絞り環が回るので、突き当て停止する位置まで回した時の「実測絞り値f22手前辺り」での写り具合です。

回折現象」の影響が現れています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。