◎ Canon (キヤノン) CANON LENS 50mm/f1.2(L39)
(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます
※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません
オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載しています)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)
今回の扱いが累計で僅か4本目になりますが、すべてオーバーホール/修理ご依頼分のオーバーホールばかりであり (つまりヤフオク! に出品したことがまだありません)、しかも今回は実に
4年ぶりの扱いなので本当に久しぶりです・・。
先ずはこの場を借りてお礼をひと言・・このような大変貴重なモデルのオーバーホール/修理ご依頼を賜り、誠にありがとう御座います!
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
実は当方はCanon/Nikonのオールドレンズと相性が良くないと言うか、あまり興味関心が沸かないので、普段から (今までも変わらず) 特に自ら扱うことがありません(笑) ましてやオーバーホール/修理となれば「作業をご辞退するメーカー」の中に入っているので、必然的に承り件数が少ないワケですが、Canon/Nikonの中でも「L39マウント」だけはポチポチと時々扱って いる次第です(笑)
さて、今回このモデルを扱うに際し4年ぶりと言うこともあるので実写などを見てみようと ネット上でチェックしてみました・・。
そうしたら上の2枚の写真で『● ● ●!(汗)』目が点になってしまいました(笑)
(上の写真をクリックすると写真撮影者の投稿ページが別ページで開きます)
まずは左側の写真。ドライフラワーが透明な花瓶に挿してあるだけですが「なんとリアルな 写真なのか!(驚)」と言うのが目が点になった理由。「日射し感」を感じ「距離感/空気感」 まで感じ、そして下手すれば何かしら匂いまで漂ってきそうな気配さえ感じてしまいます。
さらにこの写真のピント面は「小っちゃなピンク色のドライフラワー」にピタリと鋭く合っています。繊細なエッジながらもインパクト強く (決して周囲の滲みに負けずに) 凜と写っている様が「・・あぁ〜凄い!」と再び溜息(笑)
そしてそして右横の写真。人の目で見た時にまさしくこのように見えていると言う意味での「まるで自分で現場に立って見ているかのようなリアル感」を感じました。
つまり「鋭くカリッカリに写りすぎると人の目で見た印象からむしろ遠ざかる」と言う感覚的な部分が、当方の写真鑑賞する上での前提です。
この写真を見ただけで既に非日常に飛んでしまい、時計との「距離感/空気感」をこれでもかと言わんばかりに感じ入り、同時に周囲のちょっと陰鬱な暗い (古びた) 感じまで (知らない ウチに) 感じてしまっているような錯覚に囚われます。下手するとすぐ横に鳩でも数羽居て、ポッポポッポとさえずりながら行ったり来たりしている情景すら浮かんできそうです(笑)
当方が言うところの「リアル感」とは、そのような「情景的な現場感に瞬時に没入してしまう瞬間」を以てリアルさを感じ取っています。
しかもこれ・・RICOHのGXRで撮った写真ですョ!(驚)
APS-Cサイズですが1,230万画素のCMOSセンサーの写りです・・!(溜息)
【反省・・!】
反省します! Canon Lens 凄いです・・!
改めてマジッに考え直します!
・・とまぁ〜、一人で今頃鳥肌立っていた次第です(笑)
そもそも未熟者ですし(笑)
まさしく食わず嫌いって言うヤツです!(泣)
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
1954年にレンジファインダーカメラの「ライカM3」が発売されると当時日本のカメラメーカー各社は挙って開発に凌ぎを削り始めます。1956年ついにCanonからレンジファインダーカメラ「Canon VT」が発売されます。この時同時に用意されたオプション交換レンズ群の中に今回扱う開放f値「f1.2」と言う、当時で考えても最速な明るさを 持つ標準レンズが登場しました (右写真はVT deluxe black)。
光学系の第1群 (前玉) 外径が何と「⌀47.99mm」もあるチョ〜大口径の標準レンズです。必然的に重量が嵩み「349.0g」ですが、驚異的なのはそれだけではありません。
最後の後玉の外径がさらにオドロキで「⌀30.31mm」と前玉の大口径に比して異常に小さいのです。それもそのハズでマウントが「ライカスクリューマウント規格 (L39)」ですから致し方ありませんが、然しそうは言ってもこれだけの屈折率を1956年時点で既に軽々と確保できてしまっている「光学技術」にひたすらに感嘆です!
しかもしかも・・!光学系内の光学硝子レンズに「酸化トリウム」や「ランタン材」など含有させて強制的に屈折率を向上させているワケでもありません (それぞれ20%/10%台まで屈折率を上げられる)。
光学系は5群7枚の拡張ダブルガウス型構成ですが、前述のとおり第1群 (前玉) が「⌀47.99mm」と言う大口径を採っています。さらに第3群の貼り合わせレンズで驚異的な屈折率を実現して光学系後群側へと入射光を渡し、僅か「⌀30.31mm」しかない第5群 (後玉) へと繋いでいます。
カタログなどの構成図を見ると後玉は「同じ曲率の両凸レンズ」で印刷されていますが、今回オーバーホールで完全解体して清掃する際にチェックしてみると「実際は内側が平坦に近い緩やかな曲率の両凸レンズ
(カメラ側の曲率が高い)」でした。
上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。
◉ 一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して滲みながら溶けていき円形ボケへと変わっていく様をピックアップしています。しかし光学系は5群7枚の拡張ダブルガウス型構成なので、フツ〜に考えたらこのような真円のシャボン玉ボケ表出が苦手なハズなのに (そういうオールドレンズのモデルがたくさんある) キレイに表現できちゃっています!(驚)
しかも!非常に細く繊細なエッジをちゃんと残したままの真円ですから、これを見て光学系構成図と頭の中で一致しませんでした (思わず実写のモデル銘を確認したほど信じられなかった)。もちろん非点収差の影響が多分に出てきている写真もありますが、それでも消えそうなくらいに薄いエッジの正真正銘シャボン玉ボケを出しつつも、少しずつ玉ボケへと変化できる描写性と言うのは、ちょっと似た性能を持つモデルが思い浮かびません。
もちろん旧東ドイツのMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズなら、このような真円で繊細なエッジのシャボン玉ボケ表出はいとも簡単にできてしまいますが、それだけで終わってしまうのがMeyer-Optik Görlitzです。被写界深度の驚異的な薄さ (浅さ) ながらも、然しピント面の鋭さは相当なモノで、これはMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズには一切見られない特徴です (3枚玉トリプレットではここまで強調して鋭く出せないから)。
つまり「別次元のシャボン玉ボケ〜玉ボケ〜円形ボケへの自由自在な変化」と言えそうです。
◉ 二段目
さらに円形ボケが滲んでいき溶けて背景ボケへと変わっていきますが、その時に収差を多分に含んだ「収差ボケ」が現れます。それを「敢えて背景の効果として使ってしまう」撮影方法としてこの段のピックアップを集めました。2枚目の写真などは収差ボケで滲みまくっているかのように見えて、実はピント面の鋭さが相当なレベルであり、且つ色合いまでキッチリ表現できているのが (この画全体的なブル〜のイメージの中で) オドロキです。人物写真もよ〜く見ると決して二線ボケではなく「収差ボケ」がむしろ「油絵」の如く効果として効いています。
◉ 三段目
そしてまたこの段の実写がやはりオドロキです。左端写真などは「ピンボケ?」と思いきや、ちゃんと花びらに鋭くピントが合っています。そして2枚目の写真は一瞬ピント面にハロが伴うのかと思えば、実は滲んでそのように見えてしまっている (写っている) ワケで、そのような芸当ができてしまうところにオドロキを隠せません。竹の写真などはフィルムカメラによる撮影ですが、その粒状感に負けずにシッカリと竹の素材感を写し込んでいるからさすがです。
ましてや右端の砂浜の写真はもぉ〜コトバが出ません!(笑)このグラデーションをキッチリ収めつつ、然し砂浜の質感表現をちゃんと押さえているのが溜息モノです (水のブル〜の色合いまで相当ハイレベルに撮れている)。
◉ 四段目
左端の写真のようにパッキパキのコントラストで残せると思えば、2枚目の写真のように大人しく厳かに控え目なコントラストで、然し全ての色合いをちゃんと表現できているのがオドロキです。この写真、下手なオールドレンズのモデルで撮影すると「単にバックの模様でゴチャゴチャしただけの写真」で終わってしまいます(笑)
つまりはCanonのこのモデルは「光の使い方」に相当な幅があるので、撮影者のスキルに見合うレベルで自在な表現性を写真に与えられそうです。
◉ 五段目
しかしそうは言っても、どうも人物はちょっと苦手なようで(笑)、人肌の表現性も素晴らしいだろうと期待していただけに少々落胆です。このようなケースが時々見られるのですが、様々なシ〜ンで素晴らしい表現性を発揮していながら、イザッ人物写真となったら「へッ???」みたいな、何かカメラの設定を間違えたかと錯覚してしまうほど「つまらない写り」に堕ちてしまったりします。
要は人肌の表現性には、単に鋭さだけや階調表現、或いはコントラストにグラデーションのレベル等々、スペック的にどんなに優れているモデルでも「人肌表現に必要な何か」があるのでしょう (当方はまだ知りませんが)。
以上、ちょっと気合いを入れて実写をピックアップしてしまいましたが(笑)、それほど新鮮なオドロキを何度も感じたワケで、相当見直してしまいましたね(笑)
少なくとも同じ開放f値「f1.2」の富岡光学製モデルなどは足元にも及びませんし、他社光学メーカー品の中でもこのモデルと肩を並べられるオールドレンズがどんだけあるのか・・ちょっと考え込んでしまいそうです。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造は図体がデカイ割りに実は簡素で(笑)、それほど難しいモデルではありません。むしろ各部位をキッチリこだわりを以て微調整したいと考えると、逆に「高難度」に上がってくるモデルとも言えます。
つまり「単にバラして (グリースを入れ替えて) 組み直すだけ」の整備をするなら簡単ですが「素晴らしい操作性」まで期待した仕上がりを追求するなら「高難度モデル」と言えるほど「各部位の微調整は難しい」です。
絞り環操作一つとってもその感触はマチマチに仕上がりますし、もちろん距離環を回すトルク感も良し悪しいろいろです。光学系の鋭さも光路長確保をしたのか否かで必然的に実写で変わってきますから、要は「どんだけこだわって細かく微調整するのか」で、いくらでも微調整に時間をかけられるモデルとでも言いましょうか(笑)
【当初バラす前のチェック内容】
① 光学系の後玉に「全面に渡り微細な水滴状のクモリが発生」している状況。
② 絞り環操作はだいぶガチガチした (堅い) 印象の操作性。
③ 距離環を回すトルクもピント合わせするには少々使い辛さを感じる重さ。
④ 実写チェックでピント面が期待ほど鋭くない。
【バラした後に確認できた内容】
⑤ 過去メンテナンス時に白色系グリース塗布の箇所と潤滑油の箇所と複数混在。
⑥ 絞り羽根に赤サビ発生し油染みが生じている。
⑦ 距離環の空転ヘリコイドが酸化/腐食/錆び進行。
⑧ 光学系内の一部の群が指だけで簡単に回して外せる状況。
・・とこんな感じでした。
↑光学系の第1群 (前玉) 〜第2群までがバカデカイので(笑)、鏡筒はまるで広角レンズの如くラッパ状に広がっています(笑) 過去メンテナンス時におそらく「絞りユニットの絞り羽根が刺さる位置決め環を一度も外していない」ようで、底部分に (絞り羽根の下に) 経年の油汚れなどが溜まっていました (ちょっとキモイ感じでした)。
当方のオーバーホールでは可能な限り (外せるなら) 完全解体して絞りユニット内の絞り羽根が刺さる箇所の環 (リング/輪っか) まで外してしまいます。もちろん組み戻す際は最後にちゃんと簡易検査具を使って「絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量)」を調べて適正な状態にセットします。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
↑11枚の絞り羽根は全てに「赤サビ」が発生しており、且つ油染みがあったのでだいぶ汚れており、絞り羽根が駆動する際は抵抗/負荷/摩擦を感じました。したがって11枚全ての絞り羽根を1枚ずつ当方により「磨き研磨」を施して、上の写真のようにキレイに仕上げました。もちろん絞りユニット内部やそれこそ鏡筒内部 (特に底部分) まで「磨き研磨」したので、ご覧のようにピッカピカなワケです(笑)
↑後からでは面倒なので、ここで先に光学系前群を組み付けてしまいます。第1群 (前玉) 〜第2群までが一つの格納筒に収まり、その次の貼り合わせレンズ第3群が別に独立していますが、その貼り合わせレンズが指で簡単に回りました!(笑)
過去メンテナンス時にカニ目レンチで硬締めしていないと思います・・(笑)
↑完成した鏡筒をひっくり返して撮影しています (上の写真上部が後玉側方向)。ここから絞り環を組み付けて光学系後群までセットする工程に入ります。このモデルは鏡胴が「前部/後部」の二分割方式なので、ヘリコイド (オスメス) は鏡胴「後部」側に配されています。
従ってまず先に鏡胴「前部」側を組み上げているワケですが、筐体外装は全て「アルミ合金材」であり、且つ「梨地仕上げ」の表層面です。
↑まずは光学系後群をセットしてしまいます。問題の「後玉の全面に渡る水滴状のクモリ」は今回の個体だけに限らずこのモデル自体の「宿命」てあり、ある意味「持病」とも言えそうです (そのくらいクモリの無い個体が少ないと言う意味)。
「水滴状のクモリ」はバルサム切れではなくコーティング層の経年劣化でした。従って、仕方ないので当方の手による「光学硝子研磨」を、約2時間に渡って黙々とひたすらに削り続けました(笑)
◉ バルサム切れ
貼り合わせレンズの接着剤/バルサムが経年劣化で剥離し始めて白濁化し薄いクモリ、或いは反射が生じている状態
その結果「水滴状のクモリ」は解消できていませんが、少なくとも当初バラす前の実写チェック時に「コントラスト低下/解像度不足」に陥っていた「1枚ベール越しの撮影」のような印象の画からは「格段に改善」できました (このページ最後の実写でご確認頂けます)。
それでもまだ「水滴状のクモリ」が残っているので、結果的に設定絞り値を「f11〜f22」にセットすると、特に「f22」ではまるで別のオールドレンズで撮影したかのような写りに変わります (コントラスト低下/解像度不足発生)(笑)
なお、上の写真はで所々に「白っぽい跡」が残っているのは「アルミ合金材の腐食箇所」であり、過去メンテナンス時に塗布された「白色系グリース」の経年劣化進行に伴い発生していた「揮発油成分」が液化してヒタヒタと附着していた為に、その近辺で腐食しています (腐食は削り取らない限り消えません)。
↑絞り環をセットしてから「絞り値キー」と言う溝が刻まれているパーツを固定します (赤色矢印)。この「溝」部分に鋼球ボールがカチカチと填ることでクリック感を実現する仕組みです。
なお、光学系の第4群貼り合わせレンズは、過去メンテナンス時に (おそらく数回)「コバ端を反射防止塗料で着色」が繰り返され、既にだいぶ塗膜面の厚みが増えていたと思います。格納筒から全く外れず「加熱処置」を行いました。光学系前群側でも同様「加熱処置」して外しているので、その分が加算請求になります (外さないと硝子研磨できないから)。
申し訳御座いません・・。
今回のオーバーホールでは一旦コバ端塗料を全て落としてから、格納筒側もだいぶ酸化/腐食/錆びしていたので「磨き研磨」しつつ、コバ端も「磨き研磨」してから着色して組み込みました。
↑絞りユニットとの連係アーム (シリンダーネジ) を組み込んで連結させ、鋼球ボールを組み込んでから「銅製板バネ」をセットしたところです。
当初バラす前の時点で相当ガチガチした印象のクリック感でしたが、ここの「板バネ」を単に締付ネジで締め付け固定しただけの整備を過去メンテナンス時にしていたので、そのような酷い操作性に陥っていました(笑)
ロクなことをしません・・(笑)
今回の当方のオーバーホールでは、ご依頼者様しか分かりませんが「クンクンと鋼球ボールの填る振動が指に伝わる小気味良くも軽やかなクリック感」で操作して頂けます。
ハッキリ言って、これで遊んでしまうくらいチョ〜気持ちいいですッ!(笑)
つまりは「どうして銅製の板バネでクリック感なのか?」と言う「観察と考察」を過去メンテナンス時の整備者がな〜んにもしていないから(笑)、つまらない操作性に堕ちてしまいます。
ちゃんと「銅製でしかもこのカタチの板バネ」である点をよ〜く考えると「自ずと微調整の内容が見えてくる」ワケですね(笑) 何故なら、当方にはサービスマニュアルなど一つも無いので(笑)、すべては「観察と考察」でどのような微調整をするべきなのかを判断していかなければイケマセン。
逆に言えば、完全解体するのに「単にやみくもにバラす」のではなく、ちゃんと「各構成パーツの役目/設計の理由」を考えつつ解体する事で、実は「本来 (製産時に経ていたであろう) 工程の順序」が自然に見えてきます。
例えば過去メンテナンス時の整備者の「いい加減な整備」でよく見かける話なのが「皿頭ネジと鍋頭ネジの違いを理解していない整備者」と言う話です(笑)
どうしてその箇所に「皿頭ネジ」を使っているのか? そのような事柄に考えを及ぼさないから「何でもかんでも固着剤で固めれば良い (慣例だから)」と言う頭しか無い人が居ますね(笑)
その辺の違いが今回の個体で、当方のオーバーホールによる「絞り環の操作性の素晴らしさ」をジックリご堪能頂けると思います(笑)
マジッで気持ちいいですッ!(笑)
↑ここからは鏡胴「後部」の組み立て工程に移ります。マウント部「L39スクリューマウント」ですね。このマウント部も含め鏡胴「後部」のヘリコイド (オスメス) や主要パーツは全て「真鍮 (黄銅) 製」です。
↑実はこのモデルが大口径ながらも後玉が小っちゃい「L39マウント」なので、必然的にヘリコイド (オスメス) をまともに設計して組み込んでいたら、とても当時のレンジファインダーカメラに装着した時、使い易い状態にはなりません。
そこで「空転ヘリコイド」を採用する事で「ヘリコイド (オスメス) が必要する容積を低減させた」設計と言えます。
何故なら、このモデルは「L39マウント」ですから、必然的に「距離計連動ヘリコイド」を装備しています。つまり一般的には「ダブルヘリコイド方式」を採って「距離計連動ヘリコイドを同時進行で駆動させる必要がある」話になるからです。
その分製品の全長が長くなってしまうのを嫌い、敢えて「空転ヘリコイド」方式を採った事が分かりますね。
従って、材は「真鍮 (黄銅) 製」ですがピッカピカに「光沢研磨」して「鏡面仕上げ」に戻しました。本来設計時点で「空転ヘリコイド」は接触面が「鏡面仕上げ」なのですが、その事に一切配慮しなかった過去メンテナンス時の整備出品の所為により「白色系グリース」が塗られてしまい(泣)、且つ経年劣化進行に伴い酸化/腐食/錆びしてしまったので重いトルク感に陥っていたワケです。
ヘリコイド側も空転ヘリコイドも含めピッカピカにしてからグリーンの矢印のようにセットします。上の写真オレンジ色矢印の箇所が総て「鏡面仕上げ」です。
↑「空転ヘリコイド」を「距離計連動ヘリコイド」にセットしたところです。空転しているおかげで必要以上に嵩張らないので「距離計連動ヘリコイド」は、まさに距離計の為だけの動きをすれば良い仕組みに仕上がっています (そういう設計)。
すると「直進キー」と言うパーツが1箇所しか無いので、距離環を回すトルクはその全てがここに一極集中します。さらによ〜く観察すると「直進キー」を締め付け固定している締付ネジは「皿頭ネジでしかも3本使っている」ことが分かりますから、必然的に「直進キーにマチが無い」事になり、要は「直進キーの微調整ができない設計」なのが分かります。
何を言いたいのか?
この「直進キー」にどんなにグリースを塗ったくったところでトルク改善は一切できません。距離環を回すトルクを軽く仕上げたいなら、全く別の箇所で微調整するしかない事が明白ですね(笑)
過去メンテナンス時の整備者は、それすら気が付いていませんでした(笑)
↑決して軽い操作性には落ち着きませんが、少なくともピント合わせ時に違和感を抱くほどの「重いトルク感」からは格段に改善され、極軽いチカラでピント合わせできるようになりました (それでも印象としては重めの部類に入るトルク感)。
距離環を本締めして (硬締めして) この後は完成している鏡胴「前部」を組み込んで、無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。
このモデルはヘリコイドのネジ込み位置 (セット位置) との関係で無限遠位置の微調整をするしかできません。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
↑いやはや未熟者はどうにも煮ても焼いても食えませんね(笑) Canonレンズを見直してしまいました(笑) まだまだケツが青い輩だと言う「証」そのモノです。
素晴らしいモデルのオーバーホール/修理ご依頼を賜り、本当にありがとう御座いました。ベストな仕上がりに至っています。当初問題点の①〜⑧まで全て改善済です。
↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。問題の第4群貼り合わせレンズの「水滴状のクモリ」は「半減程度」の改善止まりです。これ以上「硝子研磨」してしまうとコーティング層が剥がれ始めるので、却って白濁してしまいます (当方では完全に剥がすまでガラス研磨ができません)。
申し訳御座いません・・。
↑上の写真をよ〜く見ると「確かに薄くクモリが残っている」のが分かると思います。現物を確認頂ければ明白ですが、特に中心部付近でクモリを低減させたので、写真のコントラストが上がり本来の解像度まで鋭くなった次第です。
↑さらに拡大撮影しました。ポチポチと水滴状なのがまだ散らばっていますが、当初の密集状態からはだいぶ改善できていると思います。
↑11枚の絞り羽根は前述のとおり全て「磨き研磨」したのでキレイになり抵抗/負荷/摩擦無く駆動しますから、結果的に鋼球ボールのクリック感も含めて絞り環のがちが痴漢まで解消し、絞り環は「気持ち良い操作性」に仕上がっています。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」を使い「粘性:中程度+軽め」を使い分けて塗布しています。距離環を回すトルク感は「全域に渡り完璧に均一」で「普通」人により「重め」に感じ、ピント合わせの際は極軽いチカラだけでピント合わせできます。
このモデルのピントの山がアッと言う間なので、その分トルク感を軽めに仕上げないと使い辛くなりますね。
↑完璧なオーバーホールが終わりました。前述の光学系後群側に半分程度残っている「水滴状のクモリ」がもしもご納得頂けない場合は、ご請求金額よりご納得頂ける分の金額を減額頂けます。大変お手数ですが「減額申請」にてご申告下さいませ。減額の最大値は「ご請求金額まで (つまり無償扱い)」とし、当方による弁償などは対応できません。
申し訳御座いません・・。
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑当レンズによる最短撮影距離1m付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。
当初バラす前の実写チェック時点では、この開放時で既に「コントラスト低下/解像度不足」が出ていましたから、だいぶ改善できたと思います。何となくコントラストがちょっと低く 見えているのはこのモデル開放時の描写性です。
↑絞り環を回して設定絞り値「f1.4」にセットして撮影しています。
↑f値「f8」です。ここまでが描写性が期待できる状況の写り具合です。
↑f値は「f11」に上がっています。この絞り値ではそろそろ「回折現象」が表れ始めています。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。
↑f値「f16」です。だいぶ「回折現象」の影響を受けていますが、それでも当初から比べるとこのf値での写真が撮れること自体が喜ばしい話です。
↑絞り羽根が閉じきっている状態の最小絞り値「f22」なので、さすがにご覧のようにコントラストが抜け気味で、且つピント面の解像度も低下しています。
大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい、本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。