◎ Kern-Aarau (ケルン・アーラウ) KERN-MACRO-SWITAR 50mm/f1.8 AR(ALPA)
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今回の掲載はオーバーホール/修理ご依頼分に関するご依頼者様や一般の方々へのご案内ですのでヤフオク! に出品している商品ではありません。
写真付解説のほうが分かり易いので今回に限り無料で掲載しています。
(オーバーホール/修理の全行程の写真掲載/解説は有料です)
オールドレンズの製造番号部分は画像編集ソフトで加工し消しています。
今回オーバーホール/修理を承ったモデルはスイスのケルン製標準レンズ『KERN-MACRO-SWITAR 50mm/f1.8 AR (ALPA)』です。今回は累計3本目の扱いになりますが、今まで1日で組み上がった試しがありません。2日掛かりなのは当たり前で下手すれば3日掛かることもありました。1年間で3日掛かりでオーバーホール作業を行うのは2〜3本程度なのですが今回がその1本になってしまいました (今年2本目)。
そもそも当方のスキルレベルでは一日1本しか組み上げられないのですが(笑)、さすが3日掛かりで作業すると必ず最後は自己嫌悪に陥り、何でこんなに技術スキルが低いのかと本当にイヤになります。7年経ってもこれですからね、救いようがありません・・。
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スイスのBallaigues (バレーグ) に1918年創業の時計部品メーカーPegnons S.A. (ピニオン) 社が1944年に発売したライカ判フィルムカメラ「ALPA Reflex Model I」に続くシリーズ向けに同じスイスのシネカメラレンズで有名なKern-Aarau社から1951年に発売された「KERN-AARAU SWITAR 50mm/f1.8 AR」が初代のモデルですが、1958年にモデルチェンジし今回の『KERN-MACRO-SWITAR 50mm/f1.8 AR (ALPA)』が登場しました。
【モデルバリエーション】
※オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。
初期型:1951年発売
モデル銘:KERN-SWITAR 50mm/f1.8 AR
光学系:5群7枚アポクロマート
絞り機構:手動絞り (実絞り)
絞り羽根枚数:15枚
最短撮影距離:53cm
フィルター:専用Aタイプ
中期型-Ⅰ:1958年発売
モデル銘:KERN-MACRO-SWITAR 50mm/f1.8 AR
光学系:5群8枚アポクロマート
絞り機構:自動絞り
絞り羽根枚数:9枚
最短撮影距離:28cm
フィルター:専用Bタイプ
中期型-Ⅱ:1958年発売
モデル銘:KERN-MACRO-SWITAR 50mm/f1.8 AR
光学系:5群8枚アポクロマート
絞り機構:自動絞り
絞り羽根枚数:9枚
最短撮影距離:28cm
フィルター:専用Bタイプ
後期型-Ⅰ:1968年発売
モデル銘:KERN-MACRO-SWITAR 50mm/f1.9 AR
光学系:5群8枚アポクロマート
絞り機構:自動絞り
絞り羽根枚数:9枚
最短撮影距離:28cm
フィルター:専用Bタイプ
非常に高価なオールドレンズなので当方はゼッタイに手を出せません(笑) それにも拘わらず 大変有難いことにオーバーホール/修理ご依頼を頂くので3本目の扱いなのですが過去に扱った2本は製造番号やタイプが異なり6番台と7番台でした。そして今回は10番台とまた別のタイプを扱うことができ本当にありがたい限りです。この場を借りてこのような機会に恵まれたことをお礼申し上げます。
上の写真はFlickriverで、このモデルの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
◉ 1段目
ピックアップとして円形ボケをまとめてみました。キレイな真円のシャボン玉ボケには至らないようですが違和感の無い自然な円形ボケを表出します。
◉ 2段目
独特な背景ボケ (左端1枚目) と特徴的な緩やかなボケ味、それに見たがままに写る発色性と低コントラストのシ〜ンをピックアップしました。
◉ 3段目
ピント面の鋭さや花弁の質感表現 (左端1枚目〜2枚目)、或いは夜間の雰囲気がそのまま伝わるような臨場感 (バイク)、素材感をこれでもかと写し込む焼き物の写真 (右端)。
◉ 4段目
人物表現のリアルさや空気感 (2枚目) に被写界深度と逆光をピックアップしています。
光学系は当初発売された「初期型」では5群7枚の拡張ダブルガウス型で
したが (右図)、ダブルガウス型の直前に1枚両凸レンズを追加した光学設計です (この光学系を指して何型と呼ぶのか分かりません)。
ネット上の解説では1968年発売の開放f値「f1.9」モデルである「後期型」から5群8枚に変わったと説明していますが、前回扱った「中期型-I」ではバラしたところ既に5群8枚の光学系に設計変更していました (右図)。前回扱いモデルは「こちらのページ」に掲載しています。
過去2本の製造番号が6番台と7番台なので、今回の個体10番台の製造番号から必然的に光学系は5群8枚だとばかり考えてバラしましたが・・すると
何と光学系は5群7枚でした!(右図)(驚)
右図は今回の個体をバラして光学系を清掃した際にスケッチした構成図なので曲率やサイズなどは正確ではありませんがほぼカット図 (左図) に近いので間違いないと思います。
特に第1群 (前玉) と第5群 (後玉) の裏面側曲率が表側より小さいのが特徴的です (初期型では表裏同一の曲率)。
こうなるとモデルバリエーションの中で「初期型」だけは最短撮影距離:53cmなので異なる光学系だとしても中期型〜後期型に至っては必ずしもバリエーションを分けられないように感じました (そもそも製造番号がシリアル値で並ばない)。ちょっと扱い個体数が少なすぎるので何とも結論を見出せずにいます・・。
当方がこのモデルの描写性に見るのは、ピント面も鋭くボケ味も確かに独特で味があるのですが最も強く感じたのは「現場の雰囲気を閉じ込める画造り」です。空気感や風まで感じてしまいそうなくらいに、或いは付近の音や匂いまで伝わりそうなほどに臨場感豊かに表現できるモデルではないかと感じました。素晴らしいオールドレンズであることは間違いありません!
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今回のオーバーホール/修理ご依頼は「光学系内のカビ清掃」と「絞り環が重い」「距離環のトルクムラ」でしたが届いた個体をチェックすると以下のような問題点がありました。
【当初バラす前のチェック内容】
① 光学系内にカビと汚れ状のものが視認できる。
② 絞り環を回すと少々ぎこちない印象 (重め)。
③ 距離環もトルクムラを生じており2箇所で急に重くなる。
④ 鏡胴を保持して距離環を回すとガタつきを感じる。
⑤ 簡易検査具でチェックすると最小絞り値「f22」で開きすぎ。
【バラした後に確認できた内容】
⑥ 過去メンテナンス時に白色系グリースがヘリコイドに塗布されている。
⑦ 同様に絞り環側にも白色系グリースが塗られている。
⑧ 絞りユニット内のスプリングに問題あり。
⑨ ヘリコイド (オス側) ネジ山の一部に削れあり。
⑩ 絞りユニット内「開閉環」に擦れキズあり。
⑪ 直進キーの固定ネジの一部が半締めのまま。
「正常品」として承りましたがこんな感じで相当重症のような気がします。しかし当方の技術スキルの低さを如実に思い知らされたのは、こんな生易しい話ではありませんでした(笑)
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。今回の個体もヘリコイド (メス側) の「空転ヘリコイド」外すのに専用レンチが必要なので解体できていません (今後も解体できませんし過去メンテナンス時も解体していないのを確認しました)。
また、残念ながら絞りユニット内の「位置決め環」も完全固着しており溶剤を数回流し込もうが「加熱処置」しようが何をしても歯が立たず解体を諦めました。申し訳御座いません・・。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒ですが前述のとおり「位置決め環」を外せていないのでご覧のとおり装着したままです。鏡筒の縁に刻まれている「23」と言う数字は全ての構成パーツにマーキングされているので製産時点の刻み込みだと推測します。
↑鏡筒を立てて撮影しましたがご覧のように下から金具が顔を出しています。
↑9枚の絞り羽根を組み付けて再び鏡筒内部を撮影しました。絞りユニット内の「位置決め環」には「長いコイルばね (スプリング)」が付けられており「常に絞り羽根を閉じようとするチカラ」が及びます (グリーンの矢印①)。
一方「位置決め環」の外周にもコイルばね (スプリング) が両サイドに巻かれており「常に絞り羽根を開こうとするチカラ」が及びます (赤色矢印②)。この位置決め環の外周にグルッと巻かれているスプリングは2箇所で留具によって固定されています (ブルーの矢印)。
一般的にオールドレンズは「位置決め環側は固定」の設計を採っていることが多いのですが、このモデルは「初期型」からして「位置決め環も開閉環も共に回る」設計です。
上の図をご覧下さいませ。絞り羽根は「時計回りの方向」に組み付けられるのでこの上に被さる「開閉環」が右回りに回ると絞り羽根は閉じていくことになりますね。ところがこの時このモデルでは上の写真に写っている「位置決め環」まで一緒に回ってしまうので絞り羽根が閉じずに「開放のまま」になります。
つまり一般的なオールドレンズでは「位置決め環」側が固定なので「開閉環が回ることで絞り羽根が閉じる」仕組みなのです (だから当方では開閉環と呼称している)。
↑こんな感じで「開閉環 (左横)」にコイルばね (スプリング) を接続します。
↑鏡筒の下には「位置決め環」の外周にグルッと巻かれているコイルばね (スプリング) をまとめて1本の「伝達アーム」が飛び出ます。
↑すると「伝達アーム」が引っ張られているのでご覧のように絞り羽根が閉じています。
↑実は絞りユニットはまだ固定されていないので光学系第2群〜第3群をセットすることで絞りユニットの締め付けを代用させている設計です。
これが厄介な話で「開閉環の縁」が光学系の下部に接触したまま回っていることになるので経年の酸化が進行していたりすると抵抗/負荷/摩擦となって絞り羽根の開閉に影響を来します。従って当方では必ず光学系の硝子レンズ格納筒 (真鍮製) まで「磨き研磨」してピッカピカにしています (バラした当初は経年劣化で酸化して焦茶色に変質している)。キレイにするのが目的ではなくあくまでも不必要な抵抗/負荷/摩擦を低減する目的ですね (だから冒頭のパーツ全景写真でピッカピカ)(笑)
↑再び鏡筒を立てて撮影しました。鏡筒の下部には「ヘリコイド (オス側)」が用意されており「制限キー」と言う距離環の駆動範囲を限定しているキーも備わっています (無限遠位置から最短撮影距離位置までを決めているネジ)。
↑鏡筒をクルッと回して反対側を撮影しました。絞り環との「連係ネジ」が刺さったまま左右に移動する「孔 (スリット)」があります。
↑被写界深度環とインジケーターをそれぞれセットします。インジケーターはグリーンの矢印のように被写界深度環の中に入り込みます。
↑絞り環をセットしたところですが、実はこの写真を撮るのに1日が経過しています(笑) 3日掛かりの作業の1日目ですね。
ハマったのは絞り環操作時の「重さ」です。ご依頼内容の「重い操作性」が一切改善できていません。ちゃんと内部にはグリースを塗布しているのですが絞り環をセットすると重くなります (逆に言うと絞り環が無ければ軽い操作性)。さらによ〜く見るとインジケーターのオレンジ色が半分くらいしか出ていません。これには参りました。当初バラす前にインジケーターの状況をちゃんとチェックしていないのです (丸穴が全てオレンジ色で埋まっていたように思いますが)。
実はこのインジケーターの環 (リング/輪っか) はそのまま入れ込んでもストンと落ちてきます。締め付け環が内部にあるのでそれを緩〜く締め付けると絞り環の操作は軽くなってきますが、それでもまだガチガチした印象です。取り敢えず原因が全く分からないので締め付け環を緩くしたまま先に進みます (絞り環操作がある程度軽い状態)。
↑ヘリコイド (メス側) である「空転ヘリコイド」は締め付け環を外すのに専用レンチが必要になるので外せません (今まで外せたことがありません)。「空転ヘリコイド」は止まらずに何処までもグルグルと回せるヘリコイドのことです。
↑「空転ヘリコイド」の内部には1箇所出っ張りがあり「操作キー」が飛び出ています。
↑この「操作キー」はシャッターボタン押し込み動作に従い左右に向きを変える仕組みでシャッターボタンが押されるとグリーンの矢印 (①) 方向に、自動/手動切替スイッチ (A/Mスイッチ) の操作で赤色矢印 (②) 方向に動きます。
↑こちらの写真は鏡筒に用意されている「ヘリコイド (オス側)」を撮影しました。3日掛かりの作業2日目はこのヘリコイドのトルク調整だけで一日が過ぎていきました(泣) ネジ山の赤色矢印箇所が削れています。
↑反対側を撮影しました。やはり赤色矢印箇所が削れています。写真では分かりにくいですがヤスリ掛けしたような感じで削れています。
距離環を回した時のトルクムラがやはり残ってしまい、塗布するヘリコイドグリースを替えてみたり粘性を変更したりいろいろと試しましたがどうしてもトルクムラが解消できません。それでもう一度バラしてヘリコイドのオスメスをそれぞれチェックしたところ気がつきました。
真鍮製の「空転ヘリコイド (メス側)」側はキレイなのですがオス側が削られている為に距離環を回すとどうしても2箇所で急にトルクが重くなります。過去メンテナンス時に削ったのだと思いますが、どうして削る必要があったのかは残念ながら見当着きません。
結局2日目も丸一日がかりで距離環のトルク調整に費やしてしまいました。ヘリコイド (オスメス) のネジ山を「磨き研磨」し、且つ「直進キー」の調整を施し、もちろん塗布するヘリコイドグリースも種別を替えたり粘性を変更したりと15回ほど組み直してようやくトルク改善できました (組み直し回数を11回までしか覚えていない)。
↑絞りユニットから飛び出ている「伝達アーム」がご覧のように「操作キー」に入ります。
↑この上に「直進キー」が被さります。「直進キー」は距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツですが特大のサイズが1個だけ用意されているのが今回のモデルです。上の写真のとおり全部で「3本の締め付けネジ」を使って直進キーが固定されます。
↑一方外側からも特大の締め付けネジで直進キーを固定します (赤色矢印)。
しかし、ここでまたハマりました・・(泣)
直進キーを締め付けする前は距離環のトルク感がちゃんと改善できていたのに締め付けると途端にまた重くなりトルクムラが出てきます。締め付けネジを緩めるとトルクムラはほぼ解消します。
そこで思い出しました! 冒頭問題点の④「鏡胴のガタつき」です。その原因は直進キーの固定方法でした。裏側の3本の締め付けネジのうち2本が緩く締め付けされていたのです。つまり過去メンテナンス時にも同じ「距離環のトルクムラ」が発生していたことになります。そしてさらに調べていくと鏡筒の「制限キー」以外に何かが擦っているように感じます。
原因を調べるだけでまた5〜6回バラしていろいろチェックしました。原因は「インジケーター」でした。インジケーターを緩く固定してあったので擦れているのが分かりました (その結果トルクに影響を来す)。
ではインジケーターをキッチリ締め付けるとキレイに丸穴がオレンジ色で埋まるのですが今度は絞り環が硬くなります。アッチ良ければこっちダメ・・(泣) 2日目は距離環のトルク調整とその原因究明だけで終わっていきました。
↑いよいよ3日目です。上の写真は距離環まで組み上げたのを全てまたバラして一番最初の工程に戻りました。
絞りユニットから飛び出ているコイルばね (スプリング) を見ると過去メンテナンス時に「開閉環」をムリに被せた為に咬んでしまった痕が残っています (赤色矢印3箇所)。しかし問題だったのは「開閉環」側の擦れている箇所です (グリーンの矢印)。
↑上の写真はセットした絞り羽根まで取り外して試しに開閉環だけを組み込んだ写真です。赤色矢印のように開閉環と鏡筒とが接触したまま開閉環が回っていることになります。
↑3日目にしてようやくこの事実に気がつきました(笑) 鏡筒の赤色矢印の箇所を「磨き研磨」して平滑性を戻しました。同時に「開閉環」側も「磨き研磨」します。
↑さらに何度か組み込んでチェックしていくと開閉環に絞り環との連係ネジが刺さる場所もササクレしていたのを発見!(笑) すかさず赤色矢印の箇所を削って平滑にします。水平に2本の短いマーキング (右横) が刻まれているのは当方ではないので過去メンテナンス時に刻んだものと推測できます。
この後組み上げて被写界深度インジケーターをセットして絞り環を組み込むとまた重くなりました。絞り環をセットしなければ軽いままですしインジケーターも緩いままならOKです。
そこでハタと気がついて内部の鋼球ボールとスプリングをチェックしました。スプリングは純正でしたが何と鋼球ボールが純正ではありません!(怒)
このモデルで使われている絞り環のクリック感を実現している鋼球ボールは「⌀1mm径」ですがセットされていたのは「⌀1.2mm径」でした。これが原因で絞り環が重くなっていたのです。
仕方なく「⌀1mm径」の鋼球ボールを調達して組み込むととても軽い操作性で絞り環が回ってくれました。しかし、数回回しているうちにクリック感が無くなってしまいました (つまり実絞り状態)。再びバラして鋼球ボールをチェックすると何と穴にハマってしまいました!(驚)
つまり過去メンテナンス時に代用で入れられた「⌀1.2mm径の鋼球ボール」により穴が広がってしまい正しい「⌀1mm径」を入れたらハマってしまったワケです。一度削れて広がった穴はどうにも修復できません。仕方なくインジケーターの位置を少し下に落としたまま (鋼球ボールがハマらない程度に) セットしました。
↑距離環のトルク調整が完了し当初よりはトルクムラが改善できています。絞り環操作も軽めの操作性に改善できました (インジケーターだけちゃんとオレンジ色で埋まらない)。
しかし絞り環を回して絞り羽根を開閉させると途中で止まってしまいます(泣) ハッキリ言って3日目はもうイヤになっていました(笑)
6時間掛かりで調べた結果、何とシャッターボタンに連動して動く「操作キー」が上の写真グリーンの矢印の方向にしか動きません。左写真は過去に扱った別タイプの個体ですが今までの2本共に「操作キー」は左に動いていました (同じグリーンの矢印で解説しています)。
どうして今回の個体だけ逆方向に動くのでしょうか???
答えは「自動 (A) スイッチの無効化」でした。上の写真赤色矢印方向にA/Mスイッチを切り替えても動かないのです。従って今回の個体はシャッターボタン押し下げと同時に設定絞り値まで絞り羽根が閉じる「AUTOモード」が無効になっています。
(最後まで気がつかなかったのがまさに当方の未熟さそのものです)
そして何と絞りユニット内部のコイルばね (スプリング) も逆方向にセットして初めて正しい絞り羽根の開閉動作に戻りました (バラした時は瞬時に外れるので分からなかった)。
↑3日目にしてようやく組み上がりました。この後は光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
【当初バラす前のチェック内容】
① 光学系内にカビと汚れ状のものが視認できる。
→清掃してカビ除去し汚れもキレイになりました (カビ除去痕は残っています)。
② 絞り環を回すと少々ぎこちない印象 (重め)。
→鋼球ボールを入れ替えてインジケーター固定位置をズラして改善しました。
③ 距離環もトルクムラを生じており2箇所で急に重くなる。
→直進キーの調整でほぼトルクムラは低減しています (解消はしていない)。
④ 鏡胴を保持して距離環を回すとガタつきを感じる。
→直進キーを完璧に締め付け固定したのでガタつきは解消。
⑤ 簡易検査具でチェックすると最小絞り値「f22」で開きすぎ。
→適正な閉じ具合に調整しました。
【バラした後に確認できた内容】
⑥ 過去メンテナンス時に白色系グリースがヘリコイドに塗布されている。
→今回オーバーホールでは黄褐色系グリース「粘性:軽め」塗布。
⑦ 同様に絞り環側にも白色系グリースが塗られている。
→同様黄褐色系グリースを塗布して滑らかにしています。
⑧ 絞りユニット内のスプリングに問題あり。
→変形したスプリングは元に戻せないのでそのまま使用。
⑨ ヘリコイド (オス側) ネジ山の一部に削れあり。
→「磨き研磨」により改善。
⑩ 絞りユニット内「開閉環」に擦れキズあり。
→「磨き研磨」により改善。
⑪ 直進キーの固定ネジの一部が半締めのまま。
→完全に締め付け固定しました。
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
↑光学系内の透明度が非常に高くなっています。カビ除去痕は数箇所残っています (後玉表面) が汚れ状は消えています。
↑カビ除去痕の一部が視認できるレベルですが写真には一切影響しません。
↑過去メンテナンス時に最小絞り値「f22」までワザと閉じないよう調整されていましたが今回正しく閉じるよう調整済です。
↑塗布したヘリコイドグリースは黄褐色系グリース「粘性:軽め」ですがヘリコイド (オス側) の削り箇所 (2箇所) は元に戻せないので滑らかに「磨き研磨」するのが精一杯です。また過去メンテナンス時は「直進キー」の締め付けでごまかしていたのでちゃんと固定しました。
距離環を回すトルク感は「普通」人によって「重め」ですが当初の白色系グリースよりは滑らかに軽く改善しています。距離環距離指標値の「12インチ前後」と「1.7ft前後」の2箇所で多少トルクが重くなりますが当初よりは違和感になっていません。しかし完全に解消できなかったので申し訳御座いません・・。
↑上の写真 (2枚) のように被写界深度インジケーターは一部が半分程度にオレンジ色に埋まる感じに仕上がっています。ちゃんと埋まるようにインジケーターを締め付けるとまた鋼球ボールがハマってしまうので下手すれば二度と外れなくなるためこれ以上改善できません。申し訳御座いません・・。
↑当レンズによる最短撮影距離28cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
↑設定絞り値は「f4」に変わっています。フードが無いのでハレが出始めています。
↑f値「f16」です。当初バラす前は最小絞り値「f22」で「f11」の閉じ具合でした (簡易検査具でチェック)。
↑最小絞り値「f22」での撮影です。大変長い期間お待たせしてしまい誠に申し訳御座いませんでした。またこのように不本意なる仕上がりになり大変申し訳御座いません。お詫び申し上げます・・せめてものお詫びとしてフィルターや前後キャップもキレイに清掃しました (フィルターはカビ除去も終わっています/もちろんサービスで無償です)。