◎ Ernst Ludwig (エルンスト・ルートヴィッヒ) Victar 5cm/f2.9《後期型》(M42)
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オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
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(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)
以前、今回扱うモデルの後に発売された「Meritar 50mm/f2.9 V (M42)」をオーバーホールしましたが、世間の評判は今回扱う『Victar 5cm/f2.9《後期型》(M42)』も含め「駄目玉/幽霊玉/迷玉」と酷評の嵐の中をジッと耐えて、ひたすらに底辺で生き抜いている可哀想な身分の標準レンズです。
ある意味、使えない (手に入れてはイケナイ) 描写性のオールドレンズ代表格として、君臨し続けていると言っても良いくらいでしょうか。何とも不名誉極まりない話です・・(笑)
Meritarは現在の市場でも相変わらず底値を這いずり回っていますが(笑)、どう言うワケか今回扱う「Victar」だけが高騰しており、既に1万円台後半に至っています。どうやら光学系設計の違いに気づいたのか、MeritarとVictarの描写性の相違に今頃脚光を浴びているのかも知れません。
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旧東ドイツはDresden (ドレスデン) 近郊のLausa町で、戦前の1924年に十数人の従業員と共に眼鏡用硝子レンズ会社「Optisches Werk Ernst Ludwig」(後に光学顕微鏡用レンズも含む) として創業したのがスタートになります。戦時中は軍用光学製品も手掛けていたようですが、戦後は民生用135ミリ判フィルムカメラ用レンズの市場に参入し最盛期には同じ旧東ドイツのDresdenを本拠地としていたIhagee Dresdenから発売される「EXA」や「EXAKTA」など一眼レフ (フィルム) カメラ用セットレンズとしても供給されていました。
Ernst Ludwig社は当初6×6判レンズなどを手掛けていましたが、1939年に戦前ドイツの「Kamera-Werkstätten Guthe & Thorsch」社から発売された一眼レフ (フィルム) カメラ「Praktiflex」用セットレンズとして発売した「Anastigmat Victar 5cm/f2.9 (M40)」で
マーケットに参入しています。しかし時を同じくして第二次世界大戦に突入してしまい、商品の開発/製産は戦後まで滞っています。
今回扱うモデル『Victar 5cm/f2.9《後期型》(M42)』は戦後1945年に発売した「後期型」にあたり、レンズ銘板からは「Anastigmat」刻印が省かれています。
【モデルバリエーション】
※オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。
Anastigmat Victar 5cm/f2.9:前期型 (1939年発売)
光学系構成:3群4枚アナスチグマート型
コーティング:ノンコーティング
絞り制御:実絞り
プリセット絞り機構:無し
レンズ銘板:Anastigmatの刻印が有
Victar 5cm/f2.9:後期型 (1945年発売)
光学系構成:3群4枚アナスチグマート型
コーティング:シングルコーティング
絞り制御:実絞り
プリセット絞り機構:無し
レンズ銘板:Anastigmatの刻印無し
上の写真は「Victar」のマウント種別が異なるタイプをピックアップしています。左端から「exakta/L39/M42」ですが、単なるマウントの相違に留まらず筐体のデザインから内部構造まで設計変更しているようです。例えば「L39/M42」はパッと見で同じ筐体デザインに見えますが、鏡筒の固定位置が違います。この後「Victar」は後継モデル「Peronar 50mm/f2.9」に引き継がれ消滅します。
さらに「Peronar」はモデル銘を「Meritar」と変えただけで「Meritar 50mm/f2.9」として筐体外装の意匠や内部構造、或いは構成パーツが全て同一のまま (当方にて共に過去オーバーホールして確認済) つまり、レンズ銘板部分のモデル銘が異なるだけの相違のまま併売していました (モデルチェンジではない)。
Meritarのモデル・バリエーションは全部で3つ存在し「前期/中期/後期」に分かれています。
Peronar 50mm/f2.9 V (1951年発売)
光学系構成:3群3枚トリプレット型
コーティング:モノコーティング
絞り制御:実絞り
プリセット絞り機構:無し
レンズ銘板:V刻印有
Meritar 50mm/f2.9 V:前期型 (発売年度不明/1951年発売?)
光学系構成:3群3枚トリプレット型
コーティング:モノコーティング
絞り制御:実絞り
プリセット絞り機構:無し
レンズ銘板:V刻印有、筐体がPeronar 50mm/f2.9と同一
製造番号:〜1,000,000以下
Meritar 50mm/f2.9 V:中期型 (1956年発売)
光学系構成:3群3枚トリプレット型
コーティング:モノコーティング
絞り制御:実絞り
プリセット絞り機構:有り
レンズ銘板:V刻印有、新設計の筐体デザイン
製造番号:1,000,000〜1,450,000
Meritar 50mm/f2.9 V:後期型 (1963年発売)
光学系構成:3群3枚トリプレット型
コーティング:モノコーティング
絞り制御:実絞り
プリセット絞り機構:有り
レンズ銘板:V刻印の有無混在、絞り環と距離環逆転配置、ゼブラ柄
製造番号:1,450,000〜
Ernst Ludwig社は経営難から1972年にはVEB PENTACONに吸収され消滅していきます。
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上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。
◉ 一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して円形ボケへと変わっていく様をピックアップしていますが、収差の影響を受けてキレイな円形のエッジを伴うシャボン玉ボケの表出が難しいようです。またピント面以外のアウトフォーカス部は周辺部に向かって画の流れなどさらに盛大に収差の影響を受けています。
◉ 二段目
ピント面の鋭さを比較する為にピックアップしてみましたが、このモデルのすべての写真に共通的に言えるのは「ドライ感」です。これはおそらくコントラストの問題以前に、輝度のピークが光学系の設計で制御されていないようにも見えます。
考えられるのは、発売当時はまだ白黒フィルムが主体の時代だったので、カラー成分に対する配慮が光学系の設計段階で考えられていないようにも考察しますから、おそらく白黒写真で撮影すると大変素直な階調表現で美しい写真が残るのではないかとも妄想できます (白黒写真は256階調のグレースケールの世界なのでカラー成分は強制的にそれぞれの階調に割り振られる為また違う写り方に見える)。
なお、右から2枚目の拡大写真は延長筒 (スリーブ筒) などのエクステンション、或いはマクロヘリコイドに装着して近接撮影した写真のようです。
光学系は3群4枚のアナスチグマット型構成です。ネット上には光学系の構成図が一切掲示されていないのですが、4群4枚アナスチグマット型と案内されていることが多いようです。
今回バラして光学硝子レンズを清掃してみると、第2群は分離しておらず貼り合わせレンズになっていました。この構成はパッと見で3群3枚トリプレット型に見えますが、実際4群4枚のアナスチグマット型光学系からの発展系が3枚玉トリプレット型でもあります。
なお、第1群 (前玉) 裏面側に「薄いブル〜」のコーティング層が蒸着されているだけで表側はノンコーティングですし、さらに第2群〜第3群は表裏共にノンコーティングのままでした。
つまりシングルコーティングの「後期型」としても前玉裏面だけの話になりますから、もう少しコーティング層蒸着面が多ければコントラスト低下も防げたのではないかと考えます。
◉ 貼り合わせレンズ
2枚〜3枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群
左写真はバラし始めている途中で撮影した写真ですが、光学系前群を取り外して鏡筒内の絞りユニットを覗き込んだ写真です。
相当な「赤サビ」が発生していますが、もともとこのモデルの絞り羽根が「カーボン仕上げ」だった為にそのカーボンが錆びてしまったワケです。
そうは言ってもその「カーボン」だけを清掃しても赤サビの根は絞り羽根の金属板に生じているので、仕方なく綿棒で1枚ずつ絞り羽根の表裏をゴシゴシやって、可能な限り「赤サビ除去」しました。
絞り羽根の片面だけでこれだけの綿棒を使っています・・(笑)
鏡胴「後部」をバラしてヘリコイド (オスメス) とマウント部を解体したところです。
ヘリコイドに塗布されていたのは「黄褐色系グリース」だけですが、マウント側ネジ山には「白色系グリース」が塗られていました。経年劣化で既に揮発してしまい乾燥でカラカラになっています。
今回のオーバーホール/修理ご依頼内容「ヘリコイド固着」の原因ですが、過去メンテナンス時解体した後の組み戻しの際「原理原則」を理解していない整備者だったようで、ヘリコイドのネジ込み位置をミスっています。それは当初バラす前の時点で固着していたヘリコイドに溶剤を流し込んで動かしましたが、結局無限遠位置「∞」まで回らず「1.5m過ぎ」で停止している状態だったことから明白です。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。このモデルは鏡胴が「前部/後部」の二分割方式なので、内部構造が簡単で構成パーツ点数も少ないです。唯一ポイントは「光路長確保」だけ理解していれば良いのですが、前述のとおりそもそも「原理原則」を知らなければバラしても同じ手順で組み上げることはできません。
各構成パーツは、鏡筒とマウント部の一部 (指標値環) だけがアルミ合金材で、他は全て真鍮材なので小っちゃなパンケーキレンズであるにも拘わらず意外とズッシリと重みを感じます。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納するアルミ合金材の鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オスメス) が鏡胴「後部」に配置されています。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
↑小っちゃいくせに一丁前に13枚もの絞り羽根を実装して円形絞りになります。前述のとおり相当な「赤サビ」が生じていたので1枚ずつ表裏を磨いて可能な限り「赤サビ除去」して組み付けています (当然ながら製産当時のカーボンはもう残っていません/カーボン仕上げの絞り羽根だから)。
いまだにネット上を見ると、この当時の「カーボン仕上げの絞り羽根」には「鉛筆の芯を削って塗すと良い」などと真しやかに語られ続けていますが(笑)、同じ「カーボン」だからと言うことで鉛筆の芯なのでしょうが、はたして削って塗したその「粉」はいったいどうなるのでしょうか?
仮に多少なりとも油染みが進んでいれば、削って塗した鉛筆の芯が絞り羽根に一度は附着しますが、その後その「粉」が光学系コーティング層に付着しないとは言い切れません。以前オールドレンズをオーバーホールしていて光学硝子レンズのコーティング層を清掃した時に「黒っぽい微細な粒状」が拭き取れたことがありますが、まさに鉛筆の芯の削りカスだったのかも知れません。しかし、おかげでコーティング層には微細な二重円の劣化痕が残ってしまうので化学反応していたようにも見えます。
↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。3群4枚のアナスチグマット型光学系なので鏡筒の厚み自体も薄いです。
↑真鍮製の絞り環をセットします。最後までネジ込んでしまうと正しく絞り羽根を開閉できません。
↑ここで先に光学系前後群を組み付けてしまいます。上の写真で絞り環の中腹にマーカー「●」が刻印されているのを覚えていてください (赤色矢印)。
これで鏡胴「前部」が完成したのでこの後は鏡胴「後部」の組み立て工程に移ります。
↑基準「●」マーカーがある指標値環が附随するマウント部です。
↑やはり真鍮製のヘリコイド (メス側) を、無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
↑同様真鍮製のヘリコイド (オス側) わ、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
過去メンテナンス時の整備者は、このヘリコイド (オスメス) 両方のネジ込み位置が「原理原則」として全く理解できていませんでした。そこで「らしく」なるようにデタラメな位置でヘリコイド (オスメス) をセットして組み上げた為に、結果ちゃんと無限遠位置「∞」まで到達せずに途中で距離環が停止していました (1.5m過ぎ辺り)(笑)
↑前の工程で鏡胴「後部」も完成したので、このまま完成している鏡胴「前部」を組み付ければ完成なのですが、ここで完成している鏡胴「前部」を再び撮影しています。
すると赤色矢印で指し示した箇所にもう一箇所、絞り環用のマーカー「●」がローレット (滑り止め) のジャギーに刻印されています。絞り環の反対側には中腹辺りにもやはり「●」マーカーが刻印されています。
↑さらにこのモデルのハードルを上げているのがここの解説で、完成している鏡胴「前部」を寝かせて撮影していますが、光学系後群側のネジ山には「イモネジ用の下穴」が均等配置で3箇所用意されています (赤色矢印)。
↑ところが鏡胴「後部」内側の該当位置には「イモネジ用の下穴」が用意されていません (赤色矢印)。一つ前の写真を見ると明白ですが、「イモネジ用の下穴」は「イモネジ半径分の切削」で用意されています。
つまり互いの接合部を跨いで「イモネジ用の下穴」になるよう半分ずつ下穴が切削される考え方なのですが、マウント部側には存在しません (半分ずつ跨ぐことによって固定位置を確定できるから/片側だけに下穴を用意してしまうと経年使用で位置がズレてしまう懸念が高くなるから)。
何を言いたいのか?
これらの事実からパッと見で「ニコイチ」のようにも考えられますが (実際鏡胴「後部」側には”11/259“と言う刻印がマーキングされているが製造番号とは違っている/鏡胴「前部」側には刻印が全く無い)、実は全く違う考察に至りました。
ちなみに、このマーキング”11/529“は書き順が日本人が書く数字の書き方ではないので、おそらく製産時点でマーキングされたと推測しています。
↑上の写真のように鏡胴「前部」のネジ山にはグリーンの矢印で指し示した「イモネジ用の下穴」が合計3箇所用意されていますが、一切使われていません。そして「締付環」が用意されていて、それで鏡胴「前部」を鏡胴「後部」に締め付け固定する方式を採っています。
通常、オールドレンズをバラしているとその内部構造には「使わないパーツが存在しない/使わない切削も存在しない」のが原則ですが、今回の個体に用意されている「締付環」は、その厚みと径に長さが100%鏡胴「前部」のネジ山に合致しないと「鏡胴前部を確実に固定できない」点がポイントになりました。
つまり、今回の個体はおそらく急きょ「M42マウント」に仕様変更して再利用された個体なのではないかと考えています (つまり第三者の手によるニコイチではない)。
何故なら、代用の環 (リング/輪っか) で「締付環」を用意するにしても、鏡胴「前部」に一切ガタつきや緩みなどが発生せずにピタリと鏡胴「後部」に固定させるには相当適合させる必要があるからです。
するとここで前述の「絞り環側のマーキング●が2箇所に刻印されている点」が納得できました。絞り環の中腹にあるマーキング「●」に合わせて組み上げようとしても位置が正反対なのです (つまり組み上がらない)。
マウント種別の相違によって「絞り環の●マーキング」位置が違っていた可能性が高いです (ニコイチするなら●マーキングは一つあれば充分だから)。
この後は無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
↑完璧なオーバーホールが終わりました。オーバーホール/修理ご依頼内容に「筐体外装の磨きいれ」ご指示がありましたが、残念ながら今回の個体は筐体外装のほとんどが「真鍮製」です。アルミ合金材の筐体外装を使ったオールドレンズと同じように「磨きいれ」を施すとクロームメッキ加工が剥がれてしまうので「軽く磨きいれ」に留めました (表層面のクスミが取れる程度)。申し訳御座いません・・。
↑光学系内は当初の状態ではクモリや汚れが多く、実際バラす前の実写チェックでも盛大にコントラスト低下を招いていましたが、第1群 (前玉) 表面に多少カビ除去痕が残っているものの、或いは第3群 (後玉) 外周附近に極僅かなクモリが残っている程度で、光学系内は相当クリアな状態に戻りました。LED光照射で浮かび上がるのはそれら前後玉の極僅かなクモリだけですから、写真には全く影響しません。
なお、光学系の光学硝子レンズは第2群の貼り合わせレンズについてコバ端着色しています (本来製産時点に施されていなかったようですがコントラスト低下が著しいので処置しました)。その他硝子レンズ格納筒や絞りユニットの位置決め環側も「反射防止塗膜」を処置しています。
これによりコントラスト低下をある程度防げたのがこのページ一番最後の実写で確認できます。
↑第3群 (後玉) も汚れはキレイサッパリ除去できましたが、外周附近の極薄いクモリだけはコーティング層経年劣化なのでそのまま残っています。
↑13枚もの絞り羽根を表裏でゴシゴシとひたすらに「赤サビ取り」させられたのには少々疲れましたが(笑)、ご覧のようにキレイなメタリックグレーに戻りました (完全に赤サビ除去できていません)。特に絞り羽根に打ち込まれている「キー」周りは、表裏で強くゴシゴシすると「キー脱落」が怖いので完全に赤サビ除去できていません。申し訳御座いません・・。
ここからは鏡胴の写真になりますが、筐体外装の「磨きいれ」も軽く処置しただけになります (真鍮製だから)。
↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」の「粘性:重め」を塗りましたが、これ以上重くはできません (当方にあるグリースの中で一番重いタイプを使っているから)。距離環を回すトルクは「普通」人により「重め」に感じ「全域に渡り完璧に均一」です。ヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わりますが、塗布した「黄褐色系グリース」の性質なので改善できません。
無限遠位置と最短撮影距離位置の両端で詰まった印象で停止します。それぞれの位置で強く突き当て停止させると (カチンと強く突き当て停止させると) 固まってしまいすぐに動きません (ピント合わせ時に少々チカラを入れて逆方向に回さないと再び動かない)。
これはこの個体の問題なのか、全ての同型モデルで同じなのか分かりませんが「直進キーガイド」の切削の問題なので改善できません。従って、当初ヘリコイドが固着して動かなかったのも、そもそもヘリコイド (オスメス) のネジ込み位置ミスが原因ですが、無限遠位置まで回ると思って回そうとした為に固まっていたと推測します。
↑絞り環操作は多少トルクを与えてスカスカにならないよう調整しています。筐体外装の洗浄時に刻印指標値のほとんどが褪色した為、当方にて「着色」しています。
無限遠位置 (構造上僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑当レンズによる最短撮影距離75cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。
↑最小絞り値「f16」での撮影です。「回折現象」の影響が出てコントラストが僅かに低下しています。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。
大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい、本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。
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【事後談】
実は、このブログをアップしたところオーバーホールが完了してから撮影した実写を見ていて「ウン? 偏心出てる?」・・「出てるョねぇ〜???」と気がついてしまいました。
上の各絞り値で撮影した実写の「写真左側がどの絞り値でも流れている」のが分かります。
(背景紙の写りが左右で違っている/左側だけ流れている/背景紙までの距離はほぼ同一なので左右で同じようにピントが合わなければオカシイ)
オーバーホール工程の最後に簡易検査具を使って『光軸確認 (偏心含む)』した際はキレイに光軸が入っていたのですが、これだけ偏心が出ていれば光軸確認の工程でちゃんと判明しているハズです。
「・・・・・・???」
それでもう一度個体をつぶさにチェックしたところ・・「あ゙ッ!」(驚)
↑再びチェックして原因を調べている最中に鏡胴「前部」を外して鏡胴「後部」に戻したところを撮っています。
実は、鏡胴「前部」が入っている状態で (つまり組み上がっている状態のままで) 絞り環操作していたら「鏡筒がグラついている」のを発見してしまいました!(驚)
最初は鏡筒がグラついていると疑ってかかったのですが、どうやらその周囲もグラついている・・?
その周囲とは鏡胴「後部」側でした・・!(驚)
そこで鏡胴「前部」を取り外したワケです。
ヘリコイド (オス側) がブルーの矢印方向でグラグラとグラつきます。
↑こちらはひっくり返して後玉側方向から撮影しました。ヘリコイド (オス側) には、両サイドに「直進キー」が刺さっていますが、ヘリコイド (オス側) とマウント部との「間の隙間 (グリーンの矢印)」が空きすぎている為にグラつく原因になっていることを突きとめました。
凡そ「隙間:0.5mm前後」なのですが、鏡胴「前部」がセットされると、この「直進キー」を軸にしてさらにブレ幅が増大します (絞り環の箇所のブレ幅は1mm前後まで増大)。
それで納得です。たまたまオーバーホール工程の途中で簡易検査具で『光軸確認 (偏心含む)』した際はキレイに光軸がチャートに入っていたワケですが、最後の実写で各絞り値に絞り環操作する為、ブレが生じて「偏心」が出てしまったワケです。
原因が判明すれば「改善するだけ」なのですが、はたしてどうすれば良いか?
「・・・・???」
何しろヘリコイド (オス側) は「直進キー」を軸にして距離環を回すと直進動している箇所です。そのブレを均一に (無限遠位置も最短撮影距離位置も両方とも) する手段とは何か?
考えていても仕方ないので、ヘリコイド (オス側) の外回りをテーピングしたり、アルミ板の薄いのをさらに研磨して薄くした板を貼り付けてみたり・・(笑)
あ〜だこ〜だ2時間ほどいろいろ試しましたが、詰まるところヘリコイド (オス側) なので直進動するたびに無限遠位置か最短撮影距離位置のいずれかでそれら講じた処置のせいで抵抗/負荷/摩擦が増大してしまい、ヘリコイドが固まってしまいます。
「ウ〜ン・・ウ〜ン・・・・」
2時間トライしまくってから諦めて「よく使われる常套手段」を試す気持ちになりました(笑)
↑この方法のほうが簡単な話なのですが(笑)「薄い銅板ワッシャー」を隙間に挟み込みました (赤色矢印)。
↑こんな感じで両サイドにある「直進キー」両方に「ワッシャー」を挟み込んでいます (赤色矢印)。
この状態で再び鏡胴「前部」を組み付けて『光軸確認 (偏心含む)』しつつ、今度はちゃんと絞り環操作しながらチェックしたところ改善しました。
↑改善処置を講じた後の各絞り値による実写確認です (既に簡易検査具でのチェックも終わっています)。最短撮影距離75cm付近での開放実写です。
↑最小絞り値「f16」での撮影です。前の実写と各絞り値の描写を比べると「偏心の有無」が確認できます (写真左側が流れていないから)。
最終的に「ワッシャー」は片側だけに挟み込みました (両方に挟んでも改善度が下がるから)。つまりヘリコイド (オス側) を両サイドで同じように厚みを増してもダメだッたワケです。
この事からヘリコイド (オス側) なのか、或いはヘリコイド (メス側) なのか (その両方か) ヘリコイドのネジ山切削が厳密ではない懸念が出てきました (マチがあるのかも知れません)。当方にはそのような検査をする為の機械設備が無いので不明なままです。
原因を発見するのに1時間 (グラつき発見)、その原因箇所の改善方法をいろいろ試すのに2時間、さらに改善が見込めず「常套手段」に打って出てからがまた1時間。
合計4時間がかりでようやくここまで到達しましたが、残念ながら完璧に隙間を塞いでしまうとヘリコイド (オスメス) が互いに接触しあって距離環が固着してしまいます。
つまり鏡胴「前部」もっと言えば絞り環側のブレが「強くブレさせようとチカラを入れてチェックするとまだ極僅かにブレる」状態です。逆に言えばまだ「偏心」が極僅かに残っていますが、取り敢えず『光軸確認 (偏心含む)』でチャートに入っている状態なので「OK判定」としました。
この件、もしもご納得頂けないならご請求金額よりご納得頂ける分の金額をお手数ですが「減額申請」にてご申告の上、減額下さいませ。減額の最大値は「無償扱い (ご請求額0円)」までとし、大変申し訳御座いませんが「弁償」などはできません。
重ね重ね申し訳御座いません・・。
このブログをご覧の皆様も、どうか当方の技術スキルはこの程度ですので重々ご承知置き下さいませ。整備のご依頼はプロのカメラ店様や修理専門会社様宛にご依頼されるのが最善であり安心です (当方にご依頼頂いてもご期待に添えません)。