◎ Paul Piesker & Co. Berlin Picon 135mm/f3.5 silver(exakta)
ネット上でもほとんど情報が流れていない謎の光学メーカーです。創設者はPaul Piesker (ポール・ピエスカー) 氏のようですが、旧西ドイツのベルリンで1951年から主にOEM品に頼って発売していた光学メーカーのようです。
当レンズは「Picon 135mm/f3.5」の「後期型」にあたり、前期型にも装備されていた「プリセット絞り機構」部の仕組みと組み付け方法を扱い易いように改善させています。光学系は3群3枚の典型的なトリプレット型で15枚もの絞り羽根で大変整ったキレイな「円形絞り」を構成します。最短撮影距離が「8フィート越」なので実測値で2.1mくらいでしたから、あまり寄れるモデルではありません。
当レンズのレンズ銘板にはコーティングを示す刻印が無い「無印」ですが、今回バラしてみると各群のレンズ裏面にはコーティング層がちゃんとあり (既にカビが発生していた) モノコーティングのようです。またモデルバリエーションとしてRED「V」刻印のあるタイプがありますが、一部ネット上の解説では旧東ドイツの「Meyer-Optik Görlitz製」とのことでした。たまたま「Tele-Picon 180mm/f5.5 V」の修理依頼を受けたのでバラしましたが、内部にはMeyer-Optik製を示すパーツは「皆無」であり、特に距離環の「回転するチカラ」を鏡筒を前後動させる「直進するチカラ」に変換する「直進キー」と言うパーツの「仕組み」と「形状」がそもそも異なっており、明らかにMeyer-Optik製ではありません。
このモデルの特徴は何と言ってもやはりその描写性です。この当時のexaktaやM42マウントの中望遠レンズで多用されていたF値「f4」や「f4.5」からすると僅かに明るめの設定ですが、非常に線の細いエッジを伴う鋭いピント面を構成します。開放でもこのページの最後に掲載している実写のように大変コントラストのあるメリハリが効いた端正な画を残してくれました。光学系の状態が良ければ開放でも決して「甘々でソフト」な画にはならないと言えそうです。
本来コントラストが高い描写ではないのですが、ボケ味とエッジの繊細さにピント面の鋭さが相まって、とても独特な「微妙な髙コントラスト感」を構築しています。そしてそのボケ味はシーンによって幾通りにも愉しめる様々な特色あるボケ味がこのモデルの魅力です。エッジから直ぐに滲んで極微細なハロを伴いつつ微妙に輪郭が誇張された鮮やかな印象の写真や、とてもキレイな真円のリングボケ (玉ボケ) を伴う写真、或いは背景が放射状に破綻して乱れたハロを附随して拡散していく「華やかさ」と言う印象の写真・・等々、特色豊かなボケ味ですが、基本的にとても滑らかで階調豊かな柔らかいボケ味を持っています。
このボケ味と繊細なエッジの鋭いピント面プラス微妙なコントラスト感が・・何ともコトバでは言い表し難いこのモデルの大きな魅力です。隠れファンがいらっしゃるのも納得してしまいました・・!
オーバーホールのために解体した後、組み立てていく工程を解説を交えて掲載しています。
すべて解体したパーツの全景写真です。
ここからは解体したパーツを実際に使って組み上げていく組立工程の写真になります。
まずは絞りユニットや光学系を収納する鏡筒です。このモデルでは鏡筒の後部にヘリコイド (オス側) が接続されます。
実際に15枚もある絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。
次の写真は角度を変えて撮影しています。この「サファイアブルー」に美しく輝く絞り羽根は・・あまりのキレイさに感動してしまいもう1枚写真を撮ってしまいました(笑) カーボン仕上げではなく既にフッ素加工を施している先進的な造りです。15枚の枚数でも本当の「真円」にならないモデルもあるのですが、このレンズでは大変キレイな「真円」になってくれます。さすがです・・。
鏡筒に「プリセット絞り環」を組み付けます。この個体は「Picon 135mm/f3.5」としては「後期型」にあたりプリセット絞り機構の仕組みと操作性が扱い易くなるよう改善されており、ありがたいですね。
次に「絞り環」をセットしてプリセット絞り機構が正しく機能しているか確認しておきます。当レンズでは絞り操作自体は無段階の「手動絞り (実絞り)」になります。プリセット絞りも「カチカチ」と小気味良く填り (クリック式ではありません) 絞り環の操作性も大変滑らかで軽く仕上がりました・・パーツの磨き研磨を施したのが、最終的にこのような「操作性の向上」として現れますね・・。
メンテナンスなどで (例え専門会社だとしても) 意外と多いのが「潤滑油」を塗布して済ませている処があります。当方ではさすがに「絞り羽根」の近辺には「潤滑油」は使いたくありません。将来的な絞り羽根の「油染み」を防ぐ意味合いからも、当方ではちゃんと粘性考慮したグリスをネジ山に極微量だけ塗布しています。オールドレンズに於いて「絞り羽根の油染み」「粘り」は絞り羽根に打ち込まれている「キー」の周囲を破断させる最大の原因になるので、疎かにはできませんね・・そのような状況に陥れば・・絞り値の制御ができずにいきなりレンズの「寿命」が尽きたコトになってしまいます。
このモデルではレンズ収納筒がフィルター枠やレンズ銘板を兼ねているので、ここで据え付けておきます。この収納筒の中には既に光学系の第2群の凹レンズが1枚直接組み付けられています。
この時点で他の光学系も組み付けて光学系を先に完成させてしまいます。まずは第1群の前玉です。
光りの角度によってはこのように大変クリアです。しかしワザと光に翳すと次の写真のようにカビ除去痕が浮かび上がります。
上の写真はワザとカビ除去痕を誇張的に目立つよう撮影しています。
光学系は順光目視にて前玉は裏面のコーティング層に中央部から外周附近に向けてのカビ除去痕が全体的にあり、また外周には菌糸状のカビ除去痕があります。拭きキズや点キズ、ヘアラインキズも経年相応にあります。後玉にも前玉同様にカビ除去痕が薄く全体的にありますが、意外とレンズ自体のクリアさは保たれており実写でま確認にて影響を感じませんでした。但し、被写体に光源を含むシーンや逆光撮影時には相応な影響を来すと思われます。基本的にこのレンズはフードの装着が必須と思われます。光学系内はLED光照射でようやく視認可能レベルの極微細な拭きキズや汚れもあります。
次は第3群の後玉です。
やはりクリアですが光に翳すとカビ除去痕が浮かび上がります。
総じて光学系は経年相応と言うコトになりますが、決して曇っているワケではないのでクリアなのが1枚目の写真でお分かり頂けたと思います。
鏡筒カバーをネジ込んだ状態です。
このモデルは鏡胴が3つの部位に分割されます。「前部」「中部」「後部」ですね・・。上の写真の状態で鏡胴「前部」は完成しました。
次の写真は距離環やマウント部を組み付けるための基台です。
ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けてネジ込みます。このモデルには「無限遠位置調整機能」が装備されていないので、ここでミスると最後にまたバラしての再組み直しに陥ります。このレンズのパーツの中で、このヘリコイド (メス側) だけが「真鍮 (黄銅) 製 (ガンメタル)」のズッシリと重いパーツでした。他は全てアルミ材削り出しパーツです。
ヘリコイド (オス側) を24箇所あるネジ込み位置の中から、無限遠が出る (合焦する) 正しいポジションでネジ込みます。ヘリコイド (オス側) は全長8cmほどのネジ山の集合体なので相当に長いです。
距離環を基準マーカに合致させてセットしますが、ローレットのジャギーに明けられた「穴」からイモネジで締め付けて固定します。しかし、締め付け箇所は既に決まっているので、無限遠位置の調整ができません。無限遠位置の調整をするためにムリに位置を変えると、距離環の駆動は大変重くなってしまいます。それは真鍮 (黄銅) 製のヘリコイド (メス側) にガイドの穴を事前に用意してもダメです。僅かでもイモネジのネジ込み角度が変わると距離環の駆動に影響を来します。そのような個体が実際には市場に多く出回っていますね・・「ヘリコイドやや重い」などです(笑)
先に完成している鏡胴「前部」をネジ込んでセットする方式です。
次の写真はマウント部です。マウント部は既にexaktaマウント部が溶接されているのでこのままイモネジで締め付けて固定するだけです。
ここからは組み上げが完成した出品商品の写真になります。あまり聞き慣れない「Piesker & Co. Berlin」と言う会社の中望遠レンズで、市場にもそれほど多くは出回りません。特徴のある描写なので、ファンの方が入手されるとまずは手放さないのでしょう。「ゆるふわ」ファンの方は・・この機会に是非如何ですか? 整備済で出回るのは少ないと思いますよ・・。
専用の鏡筒カバー (シルバー) と純正と思しき金属製後キャップが附属しています。前キャップはありません。
絞り羽根は本当に美しい「サファイアブルー」の輝きで・・うっとりしますね。大変キレイな「真円」の「円形絞り」が構成されます。
ここからは鏡胴の写真になります。極僅かに引っ掻きキズやハガレなどが見受けられますが、経年の使用感をほとんど感じさせない大変キレイな状態を維持した個体です。当方にてクロームメッキ部分の「光沢研磨」を施しているので艶めかしく光り輝いています。
距離環や絞り環の操作は大変滑らかになりました。距離環のトルク感は滑らかに感じほぼ均一です。距離環を回転させている際に負荷を感じる箇所がありますが「グリス溜まり」なので操作しているうちに改善されます (グリス溜まりの位置は多少移動します)。ピント合わせの際も軽いチカラで微妙な操作が楽に行えます。
レンズ銘板附近に引っ掻きキズが数箇所あります。またフィルターも塗装落ちがあるので当方で着色しています。
市場であまり見かけない「Piesker & Co. Berlin」の「Picon 135mm/f3.5 silver (exakta)」です。
マウント部はイモネジで脱着が可能ですし、この会社のモデルはマウント部が共通化されているので他のマウントのモデルを既にお持ちでしたら差し替えが可能です。
当レンズによる最短撮影距離2.1m附近での開放実写です。如何ですか・・? 開放でも意外と端正なシッカリした画でしょう。ネット上の「甘々ソフト」な写真とは少し違いますね・・。光学系の状態でだいぶ変わると思います。しかしボケ味のコントロールは幾通りもできるので非常に楽しみなレンズですね。