◎ Carl Zeiss Jena (カールツァイス・イエナ) Pancolar 50mm/f1.8 zebra《前期型》(M42)

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オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)


当方がオーバーホールを始めて8年が経過しましたが、その間に扱った旧東ドイツCarl Zeiss Jena製「Pancolarシリーズ」は88本あり、今回が累計で89本目です。その中にはモデルバリエーションの初期型〜後期型までが混在していますが、ハッキリ言って今回の「前期型」ほど「高難易度」な「Pancolarシリーズ」はありません。

難易度別に並べると、前期型後期型初期型の順になります。例えば、オーバーホールする際に「マウントアダプタ装着に限定」してしまうならだいぶ楽になります (難易度レベルが下がる)。それをフィルムカメラに装着してもマウントアダプタで使っても「どちらでも同じように駆動する/正常に使える」事に拘ってしまうと、途端に「高難易度」モデルになってしまいます。

このように当方が言うと「フィルムカメラでもデジカメ一眼/ミラーレス一眼などでも同じように使えるのが当たり前だろ?!」と仰る方が居るのですが(笑)、当方の今の技術スキルでは (スキルが低いので) そんな簡単なお話になりません。そのようにお考えの方は、是非とも当方のような低い技術スキルしか有さない整備者ではなく、ちゃんとしたプロのカメラ店様や修理専門会社様宛に整備をご依頼されるのが最善と考えます (何よりも安心です!)(笑)

今回扱うモデルのマウント種別は「M42マウント」であり、正しくは「プラクチカスクリューマウント」と言い「マウント内径⌀42mm x ピッチ1mm」のネジ込み式マウントを指します。

確かにフィルムカメラで使おうがデジカメ一眼/ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着しようが「M42マウントである事は変わらない」為 (マウントアダプタ側も同じM42マウント規格だから) 何ら問題無く使えると考えがちなのですが、実は「規格は同じでも内部のチカラ伝達に違いが出てくる」事が一切考慮されずに、いまだに当方には毎月のようにクレームが来ています (まさにそれが当方の技術スキルの低さを物語っている)。

根本的なフィルムカメラとマウントアダプタ経由装着時との相違は、たった一つ「マウント面の絞り連動ピンが押し込まれ続けるか否かの問題」だけです。フィルムカメラによる撮影時はたいていの場合「シャッターボタン押し込み時に瞬時に絞り連動ピンが押し込まれる」のに対して、デジカメ一眼/ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着すると「マウント面の絞り連動ピンを常に最後まで押し込みきってしまうピン押し底面タイプのマウントアダプタを使う」事が前提になります。

ここにオールドレンズ内部に伝わる「チカラの相違」が表れ、その調整に当方はいまだに (8年経っても) 四苦八苦しているワケです(笑)

このように言うと、今度は「絞り連動ピンの役目は絞り羽根を設定絞り値まで閉じるだけだからどちらで使っても同じじゃないか!」となります(笑)

こうなると、もぅ何を言ってもダメなので(笑)、最近はクレームが来たらひたすらに謝り続けて「無償扱い」にするのが手っ取り早いと考えるようになってしまいました (気が小さいので怒鳴られるとタダになりますョ/タダでオーバーホールが終わって戻ってきます)(笑)

世の中、なかなか厳しいですね・・(笑)

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Pancolarシリーズ」の前身が存在し、1957年に発売された旧東
ドイツのCarl Zeiss Jena製標準レンズ「Flexson 50mm/f2 (M42/
Praktina」です。

そもそもシルバー鏡胴時代に標準レンズの座を独占していたのが「Biotar 58mm/f2 T」だったワケですが (Biotarシリーズは消滅)、
標準レンズ後継モデルとして登場したもののプレビューボタンを装備しただけの手動絞り (実絞り) だったので、すぐに「Pancolarシリーズ」に移行しました。

その後1960年代に入ると、世界規模で流行り始めた「ゼブラ柄」の勢いに乗って1965年に、当時併売されていた「Tessar 50mm/f2.8 zebra」の筐体外装を一部共通パーツ化して光学系を再設計した「Pancolar 50mm/f1.8 zebra《初期型》」が登場します。

この「初期型」は光学系に「酸化トリウム」を含有した、俗に言う「アトムレンズ (放射線レンズ)」であり、光学系内の光学硝子が「黄変化」した個体が今でも時々市場に流れます。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

初期型」発売:1965年

距離環ローレット:ゼブラ柄
フィルター枠:二段に絞った形状
光学系:複層コーティング (酸化トリウム含有)
絞り羽根枚数:8枚

前期型」発売:1968年

距離環ローレット:ゼブラ柄
フィルター枠:ストレート形状
光学系:モノコーティング (酸化トリウム無し)
絞り羽根枚数:6枚

後期型」発売:1975年

距離環ローレット:ブラック鏡胴
フィルター枠:二段に絞った形状
光学系:マルチコーティング (酸化トリウム無し)
絞り羽根枚数:6枚

この中でゼブラ柄の「初期型」と「前期型」の見分け方について解説します。

 

モデル銘はどちらも「Pancolar 50mm/f1.8」ですが、実装している「絞り羽根枚数」が異なり「初期型8枚前期型6枚」それをチェックすれば確実ですが、外観からでも簡単に判別できます。

フィルター枠まで続く鏡筒カバー (グリーンのライン部分) がどのようなカタチをしているのかで判定できます。ゼブラ柄で且つフィルター枠に向かって一段すぼまっているのが「初期型」であり、同一径のままが「前期型」です。

どちらも最短撮影距離35cmなので同じなのですが、光学系の設計は別モノに変わっているので当然ながらその描写性も全く別です

上の表は「初期型後期型」の別を製造番号を基にネット上の写真から調査した一覧です。
すると製造番号帯の中で「初期型前期型」が互いに混在してしまっている事実を突きとめました。もっと言えば「後期型」が登場しているタイミングの製造番号帯の中にも「前期型」は混じって出現しています。

これを皆さんはどのように説明されるでしょうか?
それぞれのタイミングで、ワザワザ一世代前のパーツを並べて製産工場のラインの中で作り分けていたのでしょうか?

違いますね(笑) これは一つには旧東ドイツの国家体制が関わってきますが (厳密には大戦後の占領統治なので国際法上は国家ではない)、旧ソ連と同じ複数工場で並行生産する「5カ年計画に基づく工業体制」を採っていたことに起因しています。

つまり工場を分けて生産前に事前に製造番号を割り振っていた「製造番号割当制」による付番だったことから、新旧のモデルバリエーションの中で製造番号帯が跨いで混在してしまう結果になりました。当時の旧東ドイツの産業工業国家体制については「PENTACON auto 50mm/
f1.8《後期型−I》
(M42)
」のページで解説しているので、興味がある方はご覧下さいませ。

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上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して円形ボケへと変わっていく様をピックアップしています。実写は「初期型前期型」の別をなかなか判定できないので、取り敢えずマルチコーティング化された「後期型」だけは省いて集めています。従ってシャボン玉ボケや円形ボケの表出の仕方も光学系の設計が変わっている以上、参考程度にしかならないかも知れません。

二段目
さらに背景ボケに収差の影響を受けて汚く滲んでいく様をピックアップしました。当方は何でもかんでも「トロトロボケだけしか認めない派」ではないので(笑)、このような背景の汚いボケ方も「それはそれでオールドレンズの味」として捉えており、むしろ愉しいとさえも感じています。

逆に言えば、トロトロボケがどんなに凄くても意外にも「ノッペリした平面的な写り」にしか見えない写真がたくさんあると感じており、なかなか「質感表現/空気感/距離感」などを兼ね備えた非常にリアルな写真の要素にはトロトロボケは前提には成り得ないと考えています。

三段目
左端はダイナミックレンジの広さとしてピックアップしましたが、明暗部の変化が急に訪れるので (黒潰れ/白飛びが極端) すが、ギリギリのところまで頑張っているようにも見えます。その効果が出ているのか、被写体の材質感や素材感を写し込む質感表現能力の高さが相当高いレベルだと感じています。

四段目
基本的に旧東ドイツのCarl Zeiss Jena製おーるは、どのモデルもピント面のエッジ (輪郭) が細く繊細に出てくるので、ピント面全体的に骨太感を強く感じるロシアンレンズとは真逆の印象になります。

光学系は当初登場した「Pancolar 50mm/f2 (Flexsonの後継モデル)」では、典型的な4群6枚ダブルガウス型構成でした。

開放f値「f2.0」ながらも最短撮影距離50cmに採ってきた光学設計です (シルバー鏡胴のBiotarは最短撮影距離:60cm)

光学硝子レンズに「酸化トリウム」を含有してきた「初期型」では、開放f値を「f1.8」に明るくすると同時に「最短撮影距離35cm」に短縮化した拘りの光学設計でしたが、やはり4群6枚のダブルガウス型構成のままです。

そして今回扱う「前期型」は最短撮影距離:35cmと変わっていないにも拘わらず、どう言うワケか光学系を再設計してきて5群6枚の変形ダブルガウス型構成としてきました。

おそらくその理由は、最短撮影距離を35cmに維持したまま硝子材から「酸化トリウム」を排除する必要性から仕方なく、後群側の貼り合わせレンズを分割してきたのではないかと考えています。

なお、ネット上の某有名処に掲載されている構成図とは少々異なり、第5群 (後玉) のカタチが違っています。

某有名処の掲載では曲率が表裏で同一の両凸レンズですが、今回バラして清掃時に計測すると裏面側の曲率が緩い両凸レンズでした。

そうは言っても当方が計測したトレース図なので信憑性が低い為、ネット上で確認できる大多数の構成図のほうが「」です (つまり右図は参考程度の価値もない)。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)

左写真は当初バラし始めた時に撮影したヘリコイド (オスメス) と基台です。過去メンテナンス時に塗られていたのは「白色系グリース」でしたが、おそらくその後に次のメンテナンスとして「潤滑油」を注入されてしまったと推測します。

既に揮発してしまい「白色系グリース」に粘性を帯び始めているのでこの後1〜2年でヘリコイド固着に陥いる懸念が高い状況です。

左写真はオーバーホール工程で組み立て始めている途中の撮影ですが絞り環用の連係ガイドです。

裏側が過去メンテナンス時に切削されていました (赤色矢印)。片側のネジまで切削していますが、この事実からある推測が成り立ちます。

こちらもオーバーホール工程の途中ですが、今度は絞り羽根開閉に関わる構成パーツの一部を撮っています。

ご覧のように一部にヤスリ掛けしており、これらの事実から過去メンテナンス時に既に「絞り羽根の開閉異常」が発生していたことが判明します。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。既に当方による洗浄と「磨き研磨」が終わった状態の各構成パーツを並べています。

前述の過去メンテナンスに於ける所為 (切削やヤスリ掛け) から「絞り羽根の開閉異常」が起きていたことを容易に推察できますが、だからと言ってこのような処置を講じてしまう必要性には至りません。逆に言えば、そのような「荒療治」をせずとも「原理原則」に則って適切な調整を施せば、各部位からの「チカラの伝達」が適正になり確実に駆動するように戻ります。

その意味で、今回の個体が正しく駆動するか否かは、このように既に「荒療治」が加えられてしまっている以上、なかなか難しい面が出てきます。つまり今回のオーバーホールでは、バラす以上過去メンテナンス時の処置まで当方の責任として被る可能性が非常に高くなるとも言えるワケで、一般的に組み上がってしまうと、内部状況の細かい話に聞く耳を持たない人が居るのも現実だったりします(涙)

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ここで少々脱線しますが、この当時のCarl Zeiss Jena製オールドレンズに於ける「絞り羽根開閉機構部の変遷」を解説しておきます。同じモデル銘だとしても内部構造に相違がある点を、是非とも皆様にご理解頂きたいからです。

まず「初期型」ですが、プレビューボタンを装備しているだけでA/M切替がまだ無い設計をとっている為、絞り羽根の開閉制御機構には「テコの原理」が活用され、まるでシーソーのような仕組みを採っていました (プレビューボタンからの部分)。

この構造 (設計) は当時のTessarと全く同一です。

今回のモデル「前期型」になるとA/M実装してきた為に、マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」とのチカラの伝達にさらに工夫が必要になりました。

絞り連動ピン連動カム」を介在させることで、絞り連動ピンが押し込まれた時のチカラを伝達する考え方です。

左写真も同じ「前期型」ですが、実は製造番号が少し後の個体写真です。

すると「絞り連動ピン連動カム」によってチカラの伝達をしている概念は同一ですが、絞り羽根の開閉動作に関しては「スプリングをもう1本追加」して、設計を一部変更していることが分かります。

さらに今度は「後期型」の黒色鏡胴で採用された絞り羽根開閉機構部の設計ですが、プラスティック製の上下カムを使って絞り羽根の開閉制御を行う設計に変更してきます。

プラスティック製の上下カムを締め付けているのが金属製ネジなので「後期型」はこの上下カムが経年摩耗してしまう持病を持っており、擦り減ってしまった上下カムは元に戻せません。

このように時代と共に「絞り羽根開閉制御機構」に改善を加えていたことが分かりますが、逆に言えば当時のCarl Zeiss Jenaは相当この絞り羽根の開閉動作について頭を悩ませていた事にもなります。

一方、当時の日本の光学メーカーは既に画期的で効率的な (間違いのない) 絞り羽根開閉制御の概念を確立できていましたが、それはそもそも金属製やプラスティック製など構成パーツの成分配合をキッチリ厳格に執り行い、且つ高い切削 (成形) レベルを以て耐摩耗性を追求していた事が裏打ちとなって結果に結びついていたとも言えます。

厳格さと管理に創意工夫の情熱が加わり、もはや当時の海外勢光学メーカーには太刀打ちできないレベルまで産業工業が発展していたとも言えるワケで、全く以て先達に対する感謝の念でいっぱいになります・・。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在します。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

絞りユニットの構成パーツである「位置決め環/開閉環」を並べて撮影しました。

絞り羽根がそれぞれ刺さる先の環 (リング/輪っか) でもありますが、この仕組み (構造) をシッカリ認識する事が非常に重要になります。

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

左写真は「位置決め環」ですが、サイド部分のスリット (切り欠き) にネジをネジ込んだ痕跡が残っていました。但し、バラした時点でそのネジ込まれたであろうネジ自体が存在していません。

つまり過去メンテナンス時にネジが無いのに、別途ネジを準備してこの箇所にネジ込んでいた事まで判明してしまいます (何故ならそもそもオリジナルの状態でそのようなネジが存在しない設計だから)(笑)

左写真は鏡筒を真横方向から撮影していますが、前述のネジを締め付けた箇所が赤色矢印で指し示した丸穴です。

単に穴が空いているだけの箇所に何でネジを締め付ける必要があるのか?(笑) 何も考えずにネジ穴だと思い込んでネジを調達してまでネジ込んだのでしょうが、これは違います。

操作窓」であり、ある調整をする為に用意されている「丸穴」です。

これらの事実から、過去メンテナンス者は「原理原則」を全く理解できておらず、且つこのモデルの構造にも疎い整備者だったことが判明してしまいます。

逆に言えば「原理原則」さえ熟知していれば、当方も同じですが全く初めてバラすオールドレンズでも、問題なく正しく適正な微調整を施しつつ組み上げることが可能です。むしろ単にバラしてヘリコイドグリースを入れ替えて組み戻している整備者のほうが、このようなケースの場合正しい組み立てが分からずにテキト〜整備に堕ちたりしますね(笑)

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させますが、上の写真はまだ工程途中で「半完成状態」です。

↑とても重要な説明があるので「半完成状態」で一旦撮影しています。

絞りユニットには「開閉カム」と「制御カム」と言う2種類の真鍮製 (黄銅) パーツが附随しますが、グリーンの矢印の指し示した「スプリング」がおそらくこのモデルで一番大切な構成パーツとも言えます

非常に線径が細いスプリングで、且つ棒状に伸びている部分を有するので、このスプリングのチカラが弱ったからと言って切削などしてしまうと、とんでもない不具合にハマります(笑)

重要なのはこのスプリングのチカラで「常に絞り羽根を閉じるチカラ」が及んでいる点です。これをシッカリ認識しない限りこのモデルの「絞り羽根開閉異常」を元通りに戻すことはできません。

↑「制御環」を組み込んでようやく絞りユニットが完成した状態です。「制御環」には「なだらかなカーブ」の真鍮製 (黄銅) パーツが附随しており、そこに「制御カム」が突き当たることで絞り羽根の開閉角度が決まります。

なだらかなカーブ」の麓部分が最小絞り値側になり、勾配 (坂) を登りつめた頂上が開放側です。

するとこの「なだらかなカーブの固定角度が変わるだけで絞り羽根の開閉角度も変わってしまう」点に気がつかなければイケマセン。

何を言いたいのか?

今回の個体は当初バラす前の実写チェックで「絞り羽根が閉じすぎていた」事が確認できています。つまり最小絞り値が「f22」を超過してしまい「f32」直前まで到達していました。もっと言えば、絞り羽根を閉じていった時「f16」で既に「f22」を越えてしまっています。

これが単にバラして組み戻すだけの整備で問題になってくる「絞り羽根の開閉角度と絞り値との整合性」が未チェックのままま組み上がっている話になり、このようないい加減な整備が実は今のヤフオク! などでも整備済を謳って罷り通っているのが現実だったりします(笑)

それは同型モデルで (例え整備済でも) 最小絞り値まで閉じている写真 (絞り羽根の開口部の大きさ) が個体別にバラバラなのを見れば一目瞭然です。例えば最小絞り値が「f16」のモデルなのだとすれば、どうして個体別に最小絞り値の時の開口部の大きさが違うのでしょうか?

説明できませんね・・(笑)
それ故、検査しているのかどうかがポイントになってきます (当方は簡易検査具のレベル止まりです)。

ちなみに今回のモデルで言えば「初期型」は光学系の設計が違い、且つ絞り羽根も8枚装備しているので最小絞り値まで絞り羽根が閉じた時の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) は異なりますし、後に登場した「後期型」もマルチコーティング化に伴い光学系が再設計された為、やはり最小絞り値の絞り羽根の閉じ具合が今回とは異なります (ネット上の個体写真をチェックしてみると分かります)。

従って光学系の設計が異なる以上、モデル別に絞り羽根の閉じ具合は当然ながら変わりますから、何でもかんでも閉じれば良いとはなりません(笑)

↑鏡筒の片側を撮影しました。「開閉カム/制御カム」が用意されており、別に「絞り環連係ガイド」もあります。それぞれ稼動部分 (ブルーの矢印) です。

↑「絞り環連係ガイド」には「」が用意されていて、ここに絞り環からの連係アームが刺さったまま、距離環を回すことで鏡筒が直進動した時、ちゃんと設定絞り値が伝わるよう設計されています (ブルーの矢印方向に動くことで絞り羽根の設定絞り値が変化する)。

↑鏡筒が完成したので工程を進めます。距離環やマウント部が組み付けられる基台です。

↑距離環 (ヘリコイド:メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

この当時のCarl Zeiss Jena製オールドレンズで非常に多く採用されている設計概念ですが「距離環の裏側がヘリコイドメス側」と言う設計です。つまり過去に落下やぶつけたりなどで「極僅かでも距離環が変形したらヘリコイド (オスメス) も変形を免れずにトルクムラに至る」点です。

何を言いたいのか?

よくオールドレンズだから外観は多少キズや凹みが多くても気にならないと仰る人が多いですが、Carl Zeiss Jena製オールドレンズに関しては「距離環の凹み/打痕はトルクに対して致命的」だと言えるワケです。従って当方が仮に調達する際は、必ず距離環に凹み/打痕が無い個体だけをチョイスしています。逆に言えば、ヘリコイド (オスメス) が真円を維持していないなら、どんなにヘリコイドグリースを入れ替えてもトルクムラは解消できません

だから凹み/打痕がイヤなのです。そういう部分の把握にも役立つと考えて、超長文ですがこのブログを掲載しています。

↑フィルター枠から続く鏡筒カバー (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で13箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

完成した基台をひっくり返して裏側 (つまり後玉側方向) から撮影しました。「直進キー」が両サイドの1本ずつ固定されますが、解説のとおり「直進キーはヘリコイドオス側に刺さり」同時に「ヘリコイドオス側は距離環のメス側操作で直進動している」点が重要です。

このモデルを解体しようとした時、或いはフィルター着脱で外れずに強いチカラをかけてフィルターを外そうとした時、そのいずれでも「直進キー変形」の危険性が高くなります。一度でも「直進キーが垂直を維持しなくなる」と途端に距離環を回す時にトルクムラが酷くなります。下手すれば「直進キー破断」にもなり兼ねません。

こう言う部分も事前情報として提供しているつもりです・・。

↑いよいよこのモデルで「絞り羽根開閉異常」を正すことができるか否か真髄に入ってきます。マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれると、写真右端の「絞り連動ピン連動カム」が上下動して、それにつられて「ステンレスワイヤー」も引っ張られます (ブルーの矢印)。

ちなみに「ステンレスコイル」はあくまでも「フレキシブル管」としての役目として用意されているだけです (コイルの役目ではない)。

↑こんな感じで鏡筒にセットされます。「ステンレスコイル」の硬性の高さがお分かり頂けると思います。

↑「開閉機構部」の真下に「開閉カム」が備わっています。従ってステンレスワイヤーの引っ張るチカラで「開閉機構部」がスライドする仕組みです (ブルーの矢印)。

さて、非常に重要なポイントが出てきました。グリーンの矢印で指し示した「スプリング」です。この「スプリング」のチカラで「常に絞り羽根を開こうとしている」ワケであり、前述の絞りユニット内部に附随していた細い「スプリング」と相反するチカラバランスの中で「絞り羽根が正常に開閉する」設計概念です。

これを理解していないとそもそも絞り羽根の開閉微調整すら行うことができません。仮に開放時に「絞り羽根が顔出し」していても、或いは「最小絞り値まで閉じきらない」など、いずれの改善でも必ずこの2つの相反するスプリングのチカラバランスを理解できていないと「まず修復できない」と言えます。

↑今度は同じ箇所ですが、鏡筒の横方向から「開閉機構部」を撮影しました。ちゃんと下に「開閉カム」が居ますね (ステンレスワイヤーの引っ張るチカラでブルーの矢印のように動く)(笑)

操作キー」によって「開閉カム」が操作されるので、結果的に絞り羽根が開いたり閉じたりしているワケですが、その時のチカラは「2つのスプリングのチカラバランスの中で執り行われている」話です。

これを適切に処置して改善できる (つまり絞り羽根の開閉異常を修復できる) 技術スキルを持っている人が、意外にも少ないのが現実だったりします。

↑位置を変えて、同じく鏡筒を横方向から撮影していますが「制御カム」側を撮りました。ご覧のように「制御カム」に附随する棒状のピン (金属棒) が外側に飛び出てきています。この棒状ピンが絞りユニット内部に勢い良く入ることで絞り羽根が瞬時に設定絞り値まで閉じる仕組みです。

↑また別の位置を撮りましたが、今度は絞り環と連係する「絞り環連係ガイド」を撮っています。

↑上の写真 (2枚) は、完成した鏡筒を基台にセットしてから「絞り連動ピン連動カム」と正しく連係するよう微調整を施した後に撮影しています。

1枚目の写真は完全開放状態を撮っていますが、マウント面の「絞り連動ピン」が押し込まれて「絞り連動ピン連動カム」がその押し込まれた量の分だけ押し下げられると、上の写真2枚目のように最小絞り値まで絞り羽根が閉じます (上の写真ではドライバーで動作を代用している)。ドライバーを離せば、また勢い良く完全開放状態まで復帰します。

この小気味良く開いたり閉じたりする動きが「2つのスプリングのチカラバランス」の中で駆動している事を理解しているか否かが最大のポイントです。

なお、上の写真を見ると分かりますが、冒頭で案内した「過去メンテナンス時にヤスリ掛けしてしまったパーツ」が狭い箇所にビッチリセットされるので、過去メンテナンス者は「絞り羽根の開閉異常の原因」がそれらヤスリ掛けしてしまったパーツの接触による抵抗/負荷/摩擦が原因だと考えていたことが判明します。

しかし、実際は全く関係なく、余計な処置だったことになりますね(笑)

↑同じ話ですが「絞り連動ピン連動カム」の上下 (ブルーの矢印) でつられて「ステンレスワイヤー」が引っ張られたり/戻されたりしている仕組みです。

↑絞り環がカチカチとクリック感を伴っているのはこの「絞り値キー」と言う「」に鋼球ボールがハマッているからですが、この「絞り値キー」はプラスティック製です (一切経年で擦り減っていない)。擦り減っていないので原則的にクリック感が軽くなる要素がありません

↑鋼球ボール+スプリングを組み込んで絞り環をセットします。

今回のオーバーホール/修理ご依頼内容に「絞り環の動きが軽すぎる」とありましたが、残念ながらこの個体に使われている「鋼球ボール+スプリング」の「スプリング」のほうが代用品でオリジナルのスプリングではありません。線径が細く反発力が弱いので強くできません (従ってクリック感も非常に軽いままで改善できない)。一応絞り環を回すトルク感だけは多少「重め」になるようグリース調整しました。

申し訳御座いません・・。

こんな感じで、絞り環から飛び出ている「連係アーム」が鏡筒に附随する「連係ガイド」の「」に刺さって、ご覧のようにスライドします (ブルーの矢印)。

つまり距離環を回して最短撮影距離の位置ま鏡筒が繰り出されたり/収納したりするので、その分の長さだけ「連係ガイド」も長くなっている設計です。

↑やはり鋼球ボール+スプリングを組み込んでから、A/M切替スイッチの「スイッチ環 (リング/輪っか)」をセットします。するとスイッチ操作でブルーの矢印①方向にスライドするとマウント面から飛び出ている「絞り連動ピンが押し込まれた状態」と同じ設定で「絞り連動ピン連動カム」が押し込まれて、逆にブルーの矢印②方向にスライドすると解除されます。

つまり手動絞り (実絞り) がブルーの矢印①で自動絞りがブルーの矢印②ですね。この工程で重要なポイントはグリーンの矢印で指し示した部位です。

↑以上長々と解説してきた、様々な構成パーツや部位の微調整が全て終わったので、ここでようやくマウントカバーをセットできます。

逆に言えば、一つ前の工程で「スイッチ環」をセットしてからが実は本番で「各部位/各構成パーツの微調整」と同時に「絞り羽根の開閉動作」を実施しているワケで、その結果が「簡易検査具で検査した絞り環との整合性がある絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量)」とも言えるのです。

従って、解説の為に各工程で逐一写真撮影しましたが、一つ前の写真からマウントカバーを被せた上の写真を撮るまでの間に、実は「7時間」が経過しており、その間あ〜だこ〜だと微調整にハマッていた次第です(笑)

どんだけ当方の技術スキルが低いのか物語っている話ではないでしょうか(笑) このブログをご覧の皆様も重々ご承知置き下さいませ (当方の技術スキルは低いです)。プロのカメラ店様や修理専門会社様の宛に整備をご依頼されるのが最善であり安心です

この後は光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑ハッキリ言ってこれでもかと言わんばかりに完璧な状態でオーバーホールが完了しました。唯一残念だったのは「絞り環のクリック感が軽すぎ」な点ですが、当方に適合するスプリングが無いのでどうにもできませんでした。申し訳御座いません・・。

↑光学系内もこれでもかと言わんばかりに透明度が高い状態を維持した個体です。もちろんLED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。極微細なヘアラインキズが数本 (凡そ2mm長) と経年のCO2溶解に伴う極微細な点キズが数点あるだけです (パッと見で微細な塵/埃に見えますが清掃しても除去できない微細な点キズです)。

↑光学系後群側も極薄いクモリが皆無でスカッとクリアです。

↑当初閉じすぎていた最小絞り値から適正な絞り値まで絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) を簡易検査具で逐一チェックしながら適合させています。絞り羽根が閉じる際は少々歪なカタチになりますが「キー」の変形 (垂直を維持していない) の為に改善できません。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。ゼブラ柄も「光沢研磨」したので当時のような眩い艶めかしい光彩を放っています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」を使い「粘性軽め」を塗っています。距離環を回すトルクは「普通」人により「重め」に感じ「全域に渡り完璧に均一」です。ピント合わせ時は極軽いチカラだけで微動できるので当初に比べたら格段に操作性が向上しています。もちろん当方の特徴たる「シットリ感漂う操作性」も実現済です。

↑おそらく当方が手掛けた「Pancolarシリーズ」の中ではベストと言えるくらいの仕上がりに至っています。それだけに「絞り環のクリック感が軽すぎ」なのが惜しい限りですが、もしもご納得頂けない場合はご請求金額よりご納得頂ける分の金額をお手数ですが「減額申請」にてご申告の上、減額下さいませ。

申し訳御座いません・・。

なお、鏡胴刻印指標値の一部が洗浄時に褪色した為、当方にて「着色」しています。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑当レンズによる最短撮影距離35cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f4」で撮りました。

↑f値は「f5.6」に変わっています。

↑f値「f8」になりました。

↑f値「f11」です。

↑f値「f16」での撮影です。極僅かに「回折現象」が出始めています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。

大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい、本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。