◎ CARL ZEISS JENA DDR (カールツァイス・イエナ) PANCOLAR electric 50mm/f1.8《後期型》(M42)
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1910年頃の戦前ドイツはテューリンゲン州イエナにあるCarl Zeiss Jena工場 (本社屋) 全景図です。このモデルの当方での扱いはPancolar全体では累計で92本目ですが、今回の「後期型」では33本目にあたります。
Pancolarシリーズにはその前身が存在し、1957年に発売された標準レンズ「Flexson 50mm/f2 (M42)」があります (右写真)。
exaktaマウントの他にPraktinaマウントも用意されていますが、まだこのモデルの登場時点では自動絞り方式が採り入れられていませんでした (その代わりプレビューレバーを装備)。
1959年になりようやくPancolar銘のモデルが登場し、その後のゼブラ柄登場まで標準レンズの主力を担ったモデルです。やがて開放f値の高速化でゼブラ柄の「f1.8」モデルが投入されますが、光学硝子材に「酸化トリウム」を含有した、俗に言う「アトムレンズ (放射線レンズ)」でした。その後1975年の黒色鏡胴モデルの登場までゼブラ柄が世界規模で流行り続けます。
【モデルバリエーション】
※オレンジ色文字部分は最初に変更になった要素を示しています。
光学系:4群6枚ダブルガウス型 (絞り羽根枚数:6枚)
鏡胴意匠:シルバー (エンボス柄) のみ
被写界深度インジケーター:無し
マウント:praktina/exakta
Pancolar 50mm/f2:1959年発売
光学系:4群6枚ダブルガウス型 (絞り羽根枚数:6枚)
鏡胴意匠:シルバー/黒色鏡胴 (エンボス柄)
被写界深度インジケーター:有り (赤色爪)
マウント:M42/exakta/praktina
Pancolar 50mm/f2:1959年発売
光学系:4群6枚ダブルガウス型 (絞り羽根枚数:6枚)
鏡胴意匠:黒色/シルバー鏡胴 (エンボス柄)
被写界深度インジケーター:有り (黒色爪)
マウント:M42/exakta/praktina
Pancolar 50mm/f2:1959年発売
光学系:4群6枚ダブルガウス型 (絞り羽根枚数:6枚)
鏡胴意匠:シルバー鏡胴/黒色鏡胴 (突起柄)
被写界深度インジケーター:有り (赤色爪)
マウント:M42/exakta/praktina
Pancolar 50mm/f2:1959年発売
光学系:4群6枚ダブルガウス型 (絞り羽根枚数:6枚)
鏡胴意匠:黒鏡/シルバー鏡胴 (突起柄)
被写界深度インジケーター:有り (黒色爪)
マウント:M42/exakta/praktina
光学系:4群6枚ダブルガウス型 (絞り羽根枚数:6枚)
鏡胴意匠:ゼブラ柄
被写界深度インジケーター:有り (黒色爪)
マウント:M42/exakta/praktina
Pancolar 50mm/f1.8《初期型》:1965年発売
光学系:4群6枚ダブルガウス型
(酸化トリウム含有/絞り羽根枚数:8枚)
鏡胴意匠:ゼブラ柄
被写界深度インジケーター:無し
マウント:M42/exakta
Pancolar 50mm/f1.8《前期型》:1968年発売
光学系:5群6枚変形ダブルガウス型
(酸化トリウム含有無し/絞り羽根枚数:6枚)
鏡胴意匠:ゼブラ柄 (フィルター枠:ストレート)
コーティング層:モノコーティング
PANCOLAR auto 50mm/f1.8 MC《後期型》:1975年発売
光学系:5群6枚変形ダブルガウス型 (絞り羽根枚数:6枚)
鏡胴意匠:黒色鏡胴
コーティング層:マルチコーティング
制御系:A/Mスイッチ装備
この中でゼブラ柄の「初期型」と「前期型」の見分け方について解説します。
モデル銘はどちらも「Pancolar 50mm/f1.8」ですが、実装している「絞り羽根枚数」が違い「初期型 (8枚):前期型 (6枚)」です。しかし外見上の相違で簡単に判別できます。フィルター枠まで続く鏡筒カバー (グリーンのライン部分) のカタチで判定でき、フィルター枠に向かって一段すぼまっているのが「初期型 (左側)」で、同一径のままなのが「前期型 (右側)」です。
どちらも最短撮影距離:35cmなので同じなのですが、光学系の設計は別モノに変わっているので当然ながらその描写性も全く別です。
上の表は「初期型〜後期型」の別を製造番号を基にネット上の写真から調査した一覧です。
すると製造番号帯の中で「初期型と前期型」が互いに混在してしまっている事実を突きとめました。もっと言えば「後期型」が登場しているタイミングの製造番号帯の中にも「前期型」は混じって出現しています。
これを皆さんはどのように説明されるでしょうか?
それぞれのタイミングで、ワザワザ一世代前のパーツを並べて製産工場のラインの中で作り 分けていたのでしょうか?
違いますね(笑) これは旧東ドイツの産業工業の体制が関わってきますが、旧ソ連と同じ複数の工場で並行生産する「5カ年計画に基づく工業体制」を採っていたことに起因しています。
つまり工場を分けて生産前に事前に製造番号を割り振っていた「製造番号割当制」による付番だったことから、新旧のモデルバリエーションの中で製造番号帯を跨いで混在してしまう結果になりました。当時の旧東ドイツの産業工業国家体制については「PENTACON auto 50mm/
f1.8《後期型−I》(M42)」のページで解説しているので、興味がある方はご覧下さいませ。
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上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。
◉ 一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して滲み溶けていく様をピックアップしていますが、そもそも光学系の基本成分がダブルガウス型構成なので真円を維持した円形ボケの表出自体が苦手です。またPancolarシリーズの中でマルチコーティング化してきた事から、モノコーティングのゼブラ柄モデルに比べて、より明確にエッジ表現を際立たせる描写性を実現しています。
◉ 二段目
背景に収差の影響を受けた実写をピックアップしていますが、今ドキのインスタ映えを考えればこのようにむしろ収差の影響を受けた背景を上手く活用してしまうのも一つの手です。
◉ 三段目
この左側2枚の写真がまさにCarl Zeiss Jena製オールドレンズの醍醐味を現していると考えているのですが、ロシアンレンズではなかなか表現できない「繊細感」を漂わせた空間表現の素晴らしさです。ビミョ〜な滲み方 (ボケ方) の効果としてこのように空気感や距離感を感じさせる写真を上手く仕上げてくれます。
◉ 四段目
左端はピント面の穂部分の解像度を維持しつつも赤色の花をビミョ〜にボケさせた、なかなか上手い撮影スキルの写真です。被写体の材質感や素材感を写し込む質感表現能力に優れているのが、人物撮影のリアルさや取っ手の写真で感じ取れます。
光学系は当初登場した「Pancolar 50mm/f2 (Flexson後継モデル)」では、典型的な4群6枚ダブルガウス型構成でした。開放f値「f2.0」ながらも最短撮影距離:50cmに採ってきた光学設計です (シルバー鏡胴のBiotarは最短撮影距離:60cm)
その後に開放f値を「f1.8」と高速化してきたゼブラ柄モデル「初期型」では、光学硝子材に「酸化トリウム」を含有させた俗に言う「アトムレンズ (放射線レンズ)」だった為に、その屈折率の向上から入射光制御に従来の絞り羽根枚数では足りずに、唯一Pancolarシリーズの中で「8枚」の絞り羽根を実装してきています (酸化トリウム含有で屈折率を20%台まで向上できる)。
その後の「前期型」になると最短撮影距離:35cmと変化していないにも拘わらず光学系を再び設計し直して5群6枚の変形ダブルガウス型構成としました。これは一つには光学硝子材への「酸化トリウム」含有をやめた事に起因していると推測できます。
そして今回扱う「後期型」ですが、マルチコーティング化に伴いまたも光学系を再設計しています (モノコーティングと同一の光学設計になる道理が無い)。
右図は今回のオーバーホールで光学系を清掃した際に各群をデジタル ノギスで計測してトレースした図です。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。この黒色鏡胴モデルになると、当時のCarl Zeiss Jena製オールドレンズは部位の共通化が図られ、各モデルで設計概念を可能な限り近似させることで組み立て工程の簡素化を狙い、製産能力の向上と共に人件費削減を狙っていた事がその内部構造の変化から汲み取れます。
それは部位別に鏡筒/ヘリコイド/マウント部の大きく3つの部位を標準化させてきた設計を 採っています。
左写真は、今回扱う個体をバラした直後に溶剤で洗浄する前に撮影したヘリコイド (オスメス) と基台です。
するとこの個体は都合2回メンテナンスが施されているのが分かりますが、ヘリコイドのネジ山には「砂」が混じっており、且つ経年劣化進行から「白色系グリース」は「濃いグレー状」に変質しています。
しかし今回の個体で問題だったのはその話ではなく以下のような状況です。
① 1回目のメンテナンス時に「黄褐色系グリース」塗布。
② 2回目のメンテナンス時に「白色系グリース」を塗布。
③ つい最近さらにその上から「潤滑油」が注入されている。
都合3回メンテナンスが施されていますが、2回目の「白色系グリース」塗布時点では古い「黄褐色系グリース」を全く除去しないまま、その上から「白色系グリース」を塗り足しています。さらに最後の「潤滑油」注入時も「白色系グリース」は「濃いグレー状」に残ったまま注入してしまったので「ベタベタに粘性を帯びた状態に変質」していました。
なおグリーンの矢印で指し示した箇所には古い「黄褐色系グリース」が微かに残っているので、古いグリースを除去せずに塗り足す「グリースの補充」だった事が判明した次第です。
つい最近「潤滑油」が注入されたと推測できる理由は、まだ揮発していないレベルなので、そのベタベタ感 (粘性) が酷くなっていないからです。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しているので別に存在します。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。今回の個体は光学系前群の硝子レンズ格納筒の固着が酷く、外せなかった為に「加熱処置」を試み解体しています。また光学系前群側の第1群 (つまり前玉)「締付環」も固着が酷くやはり「加熱処置」していますが、そもそもバラす前の実写チェック時に「甘い印象のピント面」だった事、さらに前玉が極僅かに「カタカタ音」が聞こえている状態でした。
つまり前玉の「締付環」が浮いた状態で固定されていました。
↑完成した鏡筒をひっくり返して立てて撮影していますが、上の写真上部が後玉側方向になり下部が前玉側です。
鏡筒には「上下カム」が備わっていますが、これらカムはプラスティック製です。マウント面に飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれると、その押し込まれた量の分だけチカラが伝達されて「上カム」が動きます。すると「下カム」が解除されるので絞り羽根が設定絞り値まで閉じたままになります。
また上の写真グリーンの矢印のとおり「スプリング」が「上カム」にチカラを及ぼしており「常に絞り羽根を開こうとするチカラ」が作用しています。
ここでのポイントは「上下カムがプラスティック製」である点です。プラスティック製のカムを「金属製の締付ネジ」で固定している事がポイントで、経年によりネジ穴が擦り減ってしまった場合「上下カムが水平を維持しなくなる」不具合が発生します。マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」の押し込みで「上カム」が操作させると ブルーの矢印②のとおり開いて「下カム」が解除されるのでオレンジ色矢印のとおり絞り羽根が閉じます。
「上カム」が再びスプリングのチカラで元に戻ると (ブルーの矢印①)、オレンジ色矢印のとおり絞り羽根は完全開放します。
従って「上下カム」が水平を少しでも維持できなくなると、互いに接触する角度が狂ってしまうので絞り羽根の開閉制御まで狂ってしまい「絞り羽根の開閉異常」が発生します。
何故なら、左写真のとおり「上下カム」が互いに接触している部分はグリーンの矢印のように「僅か1mm程度」しか無いからです。
すると「上下カム」が少しでも水平を維持していないだけで、この接触範囲が変化するので絞り羽根の開閉動作に大きく影響するワケですが、経年で擦り減ってしまったプラスティック材は元に戻りません。
左写真のように互いが接触する位置の面積が極僅かなので (グリーンのライン) この当時のCarl Zeiss Jena製オールドレンズで黒色鏡胴モデルは「絞り羽根の開閉異常が修復できない」場合がある事を覚悟しなければイケマセン。
逆に言えば「絞り羽根の開閉異常」が生じている個体は手に入れないほうが無難と言う話です (修復できないワケではない)。
↑工程を進めます。「直進筒」にヘリコイド (オス側) をセットします。「直進筒」には両サイドに「直進キーガイド (溝)」が用意されており、そこを「直進キー」がスライドしながら上下方向に行ったり来たりするので (ブルーの矢印) 鏡筒が繰り出されたり/収納する仕組みです。
↑基台にヘリコイド (メス側) である「距離環」を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
↑すると上の解説のとおり「距離環」の裏側にビッシリとヘリコイド (メス側) のネジ山が切削されています。「距離環」を回すことで裏側に切削されているヘリコイド (メス側) のネジ山がグルグルと回転し、ヘリコイド (オス側) のネジ山がそれに伴い「直進キー」によって「回転するチカラ」が「直進するチカラ」に変換されるので、結果的に「鏡筒を繰り出し/収納する」仕組みです。
ここで問題になるのが上の写真グリーンのラインで示した「距離環の肉厚」です。決して厚みがあるワケではないので、この当時のCarl Zeiss Jena製オールドレンズの黒色鏡胴モデルは「距離環や基台の打痕はトルクムラの大きな原因になる」事が自明の理ではありませんか?
何を言いたいのか?
よく製産後数十年を経たオールドレンズなのだから多少の打痕は気にならないと言う人が多いですが、話は単なる打痕のキズの問題ではなく「トルクムラ」の因果関係ですから「打痕などにより真円を維持していない」ネジ山はどうにも修復できません。
従って「距離環/基台の打痕を必ずチェックする」のが当方では必須作業になります。
このように外見上からは全く予測できない設計上の構造面から、敢えて修復できない問題点を事前に予測する事が可能なのが「バラすことで構造を理解する」事の重要性とも言えるのではないでしょうか?
確かに内部構造に興味が無い人にとっては、このブログの超長文の解説はただひたすらに苦痛なだけですが(笑)、内部構造を知る事で注意するべき点を把握できるとなれば話は別問題ではないかと考えますね(笑)
↑ヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルでは全部で9箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
左写真は既にヘリコイド (オス側) をネジ込んだ状態で内側が見える位置で撮影しています。
「距離環」が無限遠位置∞の時、ご覧のように「直進キー」は「直進キーガイド」に完全に収まった状態になっています。「距離環」を回すと「直進キー」がスライドして露出してくる仕組みですね (直進筒を繰り出すから)。
左写真は実際に最短撮影距離位置まで「距離環」を回しきった時の状態を撮影しています。
グリーンの矢印で指し示したとおり「直進キー」が露出して「直進キーの先端部分だけが直進キーガイドに辛うじて刺さっている状態」になります。
従ってこのように最短撮影距離位置まで「距離環」を回したままフィルターを強く締めつけたり、或いはトルクが重いからと必要以上にチカラを入れると「直進キーの変形」を招くのが 分かると思います。何故なら「直進キー」の根元には固定用の締付ネジが入っているからです (その根元部分で簡単に変形してしまう)。
内部構造を知る事の重要性は、このように「やってはイケナイ操作」まで明確化できるワケです。
↑完成している鏡筒を「直進筒」にセットします。「制御アーム」は絞り環と連係するので、絞り環を回した時ブルーの矢印の範囲を移動します。
↑上の写真はマウント部内部の写真ですが、既に各構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮影しています。
↑絞り環を撮っていますが、解説のとおり「連係ガイド」が用意されており、ここに前述の鏡筒から飛び出ている「制御アーム」が刺さってスライドしながら行ったり来たりします。
従ってグリーンの矢印で指し示した長さが「距離環を回した時の鏡筒が繰り出す/収納する長さ」と言えますが、実はこのパーツはプラスティック製です。すると「ムリなチカラで絞り環操作する」とこのプラスティック製パーツが折れたりヒビが入ったりするので、その結果絞り羽根の開閉が正しく伝わらない場合もありますね。
↑マウント部を組み上げた状態を撮っています。マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれると (ブルーの矢印①) その押し込まれた量の分だけ「伝達カム」が移動します (②)。すると「操作カム」にチカラが伝わるので傾きが変わり前述の鏡筒に用意されている「上カム」を操作します。
結果「絞り羽根が設定絞り値まで閉じる」と言う概念ですね。しかしこれらカムも同様プラスティック製ですから、経年で擦り減ってしまった摩耗箇所はどうにも元通りに修復できません。
つまりこのようにこの当時のCarl Zeiss Jena製オールドレンズで黒色鏡胴モデルは「プラスティック製パーツを多用している」のが経年で大きな問題に繋がっている事を理解する必要があります。何故なら、それら経年で摩耗してしまったプラスティック材を元通りに復元する事は不可能であり、何かしら別の解決策を講じない限り修理できない事になるからです。
この後は完成したマウント部を基台にセットして光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
↑完璧なオーバーホールが終わりました。当初バラす前の以下問題点は全て完全に解消できています。
【当初バラす前のチェック内容】
① 距離環を回すトルクが非常に重くほぼ回せない状況。
② 絞り環が全く動かない。
③ 筐体にガタつきが生じている。
④ 無限遠が出ていない (合焦していない)。
⑤ ピント面が甘すぎる。
⑥ 絞り羽根が閉じすぎている。
【バラした後に確認できた内容】
⑦ 過去メンテナンス時に古いグリースを除去せずに「白色系グリース」塗布。
⑧ さらにその上から「潤滑油」が注入されている。
⑨ ヘリコイド (オスメス) のネジ込み位置ミス。
⑩ 絞りユニットの微調整ミス。
↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。
↑光学系後群側も透明度が高く極薄いクモリが皆無ですが、残念ながら後玉表面には経年相応に拭きキズやヘアラインキズが何本も残っています (但し写真には一切影響しないレベル)。
↑6枚の絞り羽根も油染みが生じていましたがキレイになり、絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正六角形を維持」したまま閉じていきます。もちろん簡易検査具を使い適切な「絞り羽根開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量)」に微調整済です。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」の「粘性:中程度+軽め」を使い分けて塗布しています。距離環を回すトルクは「全域に渡り完璧に均一」であり、且つトルク感は「普通」人により「重め」に感じシットリ感漂う印象に仕上がっています。もちろんピント合わせ時には極軽いチカラだけで微動できるので、だいぶ操作性が向上していると思います。
↑筐体に生じていた極僅かなガタつきも解消しましたが、絞り環に残るガタつきは設計上の仕様なので改善できません。また絞り環を操作した時に開放f値と最小絞り値とでそれぞれ先まで動いていましたが「f1.8でちゃんと停止/f22で停止」するよう駆動範囲をキッチリ制限しています。もちろん「A/M切替スイッチ」の操作にも確実に連動して絞り羽根が小気味良く (勢い良く) 切り替わってくれますから、ついついシャコシャコと切替動作で遊びたくなってしまいますね(笑)
左写真はオーバーホールが終わった状態の撮影ですが、光学系第1群 (前玉) を締め付け固定している「締付環」を指し示しています (赤色矢印)。
過去メンテナンス時にこの「締付環」に何度も反射防止塗料を塗りたくった為に、グリーンの矢印の隙間に固まってしまい正しく最後まで「締付環」が締め付けられていませんでした。当初バラす際に振るとカタカタ音がしていた原因です。
従ってオーバーホール後の現状は「このモデルとしての本来の鋭いピント面」に戻っています。
無限遠位置 (当初バラす前の位置から適正化済/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑当レンズによる最短撮影距離35cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。
↑f値「f16」での撮影です。そろそろ極僅かですが「回折現象」の影響が現れ始めています。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。
↑最小絞り値「f22」での撮影です。大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。