◎ TOKYO KOGAKU (東京光学) RE、AUTO-TOPCOR 20mm/f4《後期型》(RE/exakta)
(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
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オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)
今回扱う『RE、AUTO-TOPCOR 20mm/f4《後期型》(RE/exakta)』はオーバーホール/修理として承りましたが、初めて扱うモデルでした (当初の概算見積に案内し忘れてしまいまいました)。申し訳御座いません・・。
バラす前に現物をチェックすると、距離環を回すトルクは「充分に軽い操作性」なのですが、ご依頼内容は「さらに軽く」との事。当方で用意しているヘリコイドグリースの一番軽い粘性を使っても「同程度にしか仕上がらない」のではないかと戦々恐々(怖)
(当方では現状より軽くできないと思います)
さらにご依頼内容の「クモリ」が相当酷く、ほぼ全ての群に渡って大小のクモリが生じているものの、それらは概ね「経年劣化レベル」に留まる範疇に見えます。それは経年で揮発油成分が附着してしまったクモリなのか、或いは最悪光学硝子レンズのコーティング層が劣化している懸念も捨てきれません。
しかし「致命的にコントラスト低下を招いている原因」は「後玉 (表面)」の盛大なクモリで、入射光が料理されてカメラ側に入射していく最後の最後で (後玉の) 強烈なクモリによってコントラスト低下に至っています (バラす前の実写チェックでコントラスト低下を確認済)。
光学系内の「クモリ」は、例えば今回のような広角レンズ〜超広角レンズでは、LED光照射でようやく視認できるレベルの極薄いクモリが「裏面側」にうっすらと見える事が多いです。
(もちろんカビの発生などでクモリが見えている場合はまた別の話)
ところが今回の個体の後玉 (表面) にあるクモリは「本格的に白く曇っているのがそのまま視認できてしまうレベル」です。まるで汚れた手で触って指でこすったかのようにドロッと白濁しています (指紋の痕跡は一切無い)。
すると、経年でこのような濁った (明確な)「白濁」に至る因果関係で有力な事柄が一つだけ思い浮かびます。
それは、過去メンテナンス時などに「カビキラー」などの化学薬品を使って光学硝子レンズを清掃していた場合です。たまたま「カビキラー」が分かり易いので掲示していますが、他の同類化学薬品たる「カビ除去洗剤」分類の代名詞として使っているだけです。
これら化学洗剤の成分の中に、光学硝子面の特にコーティング層に対して好ましくない素材 (どのような成分を指すのかは誓約済なので公表できません) が含まれているお話を光学硝子
レンズ精製会社の方に以前お聞きしました (当方が作業時に使う光学硝子洗浄剤のご相談に伺った時)。その時のお話で、経年により場合によっては「白濁する」と具体的に教えて頂いたのを記憶しています。
さらにもっと言えば、ネット上でも「水道水 (+中性洗剤)」を使うのが最もカビ除去対策で効果が見込めると真しやかに語られていますが、実は「水道水」にも光学硝子レンズに対して好ましくない成分が含まれていますし「中性洗剤」も当然ながら薄めて微量使ったとしても決してお勧めできないとのお話です。
そもそも「カビの繁殖」についてちゃんと考察していないからそのような話が語られるのだと思いますが、カビ菌は空中に浮遊しており、且つ「好湿性〜好乾性」まで非常に多くの種類が存在します。しかし、カビ菌は「無機物 (オールドレンズで言えば金属材や樹脂材)」を糧にして繁殖することができないので、必ず「有機物」が繁殖条件の一つに入ってきます。
つまり「水道水」を使ってもカビ菌の繁殖条件を逆に用意しているような話にもなってしまいます(笑)
今回の個体で言えば、このような「明白な白濁」のレベルは化学洗剤を過去メンテナンス時に使った「証」ではないかと推察しています。
オールドレンズを自ら整備している整備者の中には「カビキラーの類」を平然と公言して使っている人も居ますが、将来的な光学硝子レンズの経年劣化に対して非常に危険ですし「水道水 (+中性洗剤)」もはたして光学硝子レンズ精製会社で使う手法なのかどうかを考えれば、自明の理です (精製水を使うならまだ理解できるが中性洗剤を混ぜた時点でアウト)(笑)
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今回のモデルは、1963年に東京光学から発売されたフィルムカメラ「RE SUPER」用の交換レンズ群として用意された超広角レンズの一つです。
モデルバリエーションとして「前期型/後期型」に分かれますが、今回扱うモデルは市場流通個体数が少ないので、以下では標準レンズの「RE、AUTO-TOPCOR 58mm/f1.4」を使って解説していきます。
【モデルバリエーション】
※オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。
※以下解説は標準レンズの「RE、AUTO-TOPCOR 58mm/f1.4」で説明。
指標値環基準マーカー:●
距離環ローレットの縁:有
マウント面凹み:有
指標値環基準マーカー:●
距離環ローレットの縁:無
マウント面凹み:無
・・ところが、製造番号との関連付けで捉えると、さらに細かいモデル・バリエーションの展開が見えてきます。
【製造番号とモデル・バリエーションの関係】
※サンプル数50本 /オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。
※焦点距離:レンズ銘板に刻印されている表記方法の相違
※基準マーカー:指標値環に刻印されている「●」の色
※距離環ローレット:ラバー製ローレットの縁の有無
※マウント面凹み:フィルムカメラ「TOPCON R」用の窪み有無
※D以降の製造番号は変化無くサンプル取得をやめた
- 製造番号「94xxxx」:
焦点距離:5.8cm、基準マーカー:●、距離環ローレット:縁有、マウント面凹:有
- 製造番号「11200xx」〜「11298xx」:※先頭「112」でも総桁数が1桁短い
焦点距離:5.8cm、基準マーカー:●、距離環ローレット:縁有、マウント面凹:有
焦点距離:5.8cm、基準マーカー:●、距離環ローレット:縁無、マウント面凹:有
- 製造番号「11210xxx」〜「11216xxx」:※前期型/後期型の要素が混在
焦点距離:5.8cm、基準マーカー:●、距離環ローレット:縁有、マウント面凹:有
焦点距離:5.8cm、基準マーカー:●、距離環ローレット:縁無、マウント面凹:有
- 製造番号「11217xxx」〜「11233xxx」:※ここから完全な「後期型」になる
焦点距離:58mm、基準マーカー:●、距離環ローレット:縁無、マウント面凹:無
- 製造番号「9410xxxx」:
焦点距離:58mm、基準マーカー:●、距離環ローレット:縁無、マウント:NikonF
このように見ていくと「前期型」からある一時期に一斉に「後期型」に切り替わったのではなく、一部の構成パーツを変更しつつ徐々に「後期型」へと変遷していったことが判明します。同時に内部を調べていくと、例えばマウント部内部に配置されている「絞り開閉アーム」機構部の仕様変更やヘリコイド内部に配置されている「直進キー」の仕様変更なども「後期型」に向けて徐々に切り替わっていきます (上記モデルバリエーションのA.〜E.全て5種類を今までにバラしてオーバーホールしているので検証済です)。
ちなみに、バラしてみると内部に使われている「締付ネジの種別」で「前期型〜過渡期〜後期型」のタイミングさえも判明してしまいます。「磁性反応しないマイナスネジ」なら「前期型」の時代になりますし「一部は磁性反応する」なら「過渡期」であり「磁性反応するプラスネジ」なら「後期型」とも言えます。
「観察と考察」することで、このような事柄も見えてきますね(笑)
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上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。
◉ 一段目
このモデルの実写が非常に少ないのでたいしてピックアップできていません。左側2枚はディストーションの確認として掲載していますが、極僅かに「タル型歪み」でしょうか。
右側2枚は明暗部の対応能力をチェックする為にピックアップしました。この当時のオールドレンズとしては相当にダイナミックレンジが広い光学設計とも考えられますが、特に暗部が突然ストンと堕ちてしまうので陰影があるシ〜ンでは撮影スキルが試されるかも知れません。
◉ 二段目
同様ダイナミックレンジの確認に使えますが左端の写真は「トプコールの紅」を確認する為にピックアップしました。独特な大変美しい赤色を表現すると当時から好評を得ていたようです。また被写体の材質感や素材感を写し込む質感表現能力も長けており、焦点距離20mmという超広角レンズながらたいしたものです。
それだけにさすがパースペクティブは広がり感が凄く広角レンズファンの方には堪らないでしょう。
光学系は6群8枚のレトロフォーカス型構成ですが、右図はネット上で掲載されている光学構成図をトレースしました。おそらくこの構成図は当時のレンズカタログなどに印刷されている構成図ではないかと推察しますが、設計段階での諸元図レベルではないかと考えます。
一方、右図は今回バラして光学硝子レンズを清掃した際に当方がデジタルノギスで逐一計測したトレース図です。同様6群8枚のレトロ
フォーカス型構成ですが、各群の厚みや曲率はほぼ同一なものの第3群のカタチが少々異なります。
この相違があると、特に光学系前群側の光学硝子レンズ格納筒の設計まで違うハズなので一部設計変更していたと推測できます。
当方が計測したトレース図なので信憑性が低い為、ネット上で確認できる大多数の構成図のほうが「正」です (つまり右図は参考程度の価値もない)。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)
左写真は当初バラし始めた時に解体したヘリコイド (オスメス) と基台を並べています。
赤色矢印で指し示した箇所にほんの微量ですが「黄褐色系グリース」が残っていました。しかしほぼ90%以上が「白色系グリース」でありさらにその「粘性:軽め」から過去メンテナンス時は古いグリースをある程度拭ってから「白色系グリース」を塗り足した「グリースの補充」だったことが覗えます。
実はいまだにこの方法「グリースの補充」が整備会社などでも執り行われている始末で(笑)、下手すると古いグリースを一切除去せずに上から新たなグリースを塗り足している場合も、今までにオーバーホールした2,000本を越える個体の中には相当な本数で顕在していました。
「白色系グリース」も「黄褐色系グリース」も共に分類上は「潤滑材」なので同じだと言う概念なのでしょうが、これも以前グリース関係の業界の方にお話しを伺った際「あり得ない」との事でした(笑)
当方ではグリースの色合いで分けていますが、原則的には「成分/配合と添加物の相違」を以てして分類するべきです。しかし解説を始めると難しいので簡単に「色合い」で分けて説明しています。従って一部のグリースには「黄褐色」でありながら「白色系グリース」の成分/配合/添加物だったりしますから、一概に本当は色だけで判定できません。
いずれにしても「グリースの補充」などと言うのは、至極尤もな話のように聞こえますが(笑)
実はグリースの常識を逸脱した使い方なワケで騙されてはイケマセンね(笑)
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。
実は「東京光学」の歴史は相当古く戦前から存在していた日本有数の光学メーカーであり、戦前戦中は「陸のトーコーに海のニッコー」などと揶揄されていました (大日本帝国陸軍向けは東京光学で大日本帝国海軍向けが日本光学の意味)。
しかし、この当時の東京光学製オールドレンズをバラしていくと、多くのモデルである一つの考えに到達します。それは東京光学は「カメラメーカーであってレンズメーカーではなかった」と言う評価です。
もちろん戦前から歴として光学レンズの開発製産も手掛けていたワケですから、間違いなくレンズメーカーでもあるのですが、主体はカメラのほうではなかったかと当方は受け取っています。それは当時のNikon/Canon或いはMINOLTA製など多くの光学メーカー製オールドレンズをバラして比較していくと答えが出てきます。
内部構造 (設計概念) や構成パーツに対する「細かな配慮」が、いわゆるレンズメーカーのそれとは異なるのです。逆に広義的に言ってしまえば、細かい部分に拘らないと言う概念が東京光学自体にあったのかも知れません。
当方がそのように受け取る理由などを今回のオーバーホール工程の中で敢えて説明していきたいと思います。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オス側) が独立しているので別に存在します。
焦点距離が超広角レンズ域なので、この鏡筒だけでは足りずに「延長筒 (光学硝子レンズ格納筒)」を光学系前群用に備えている設計です。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
例えば、上の左写真で各絞り羽根を見ていくとグリーンの矢印で指し示した箇所に「バリ」が残っていますが、Nikon/Canon/MINOLTA/OLYMPUS/Asahi Opt. Co.,などなど・・凡そこの当時の日本光学メーカーの多くには絞り羽根に「バリ」が残っている事は少ないです (もちろん1970年代辺りからのお話)。
このモデルの絞りユニットは、光学系の設計がレトロフォーカス型構成である事から鏡筒の奥行きが深くなっているワケですが、その影響から絞りユニットをセットするのが相当厄介です。
さらに最後まで組み上げて光学系前後群がセットされている状態で初めて「絞り値との整合性チェック」ができるワケで、その都度再びバラしてはこの鏡筒を引っこ抜いて「絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) 微調整」を執り行うので非常に面倒くさいです(笑)
しかも東京光学製オールドレンズの多くのモデルで採用されている問題点から、鏡筒の出し入れ時には相当神経を遣わざるを得ないのが余計にハードルを高めています。
↑完成した鏡筒をひっくり返して後玉側方向から撮影しています。
◉ 連係アーム
絞り環から延びている「操作爪」が掴んだまま鏡筒が直進動する為に用意されているアーム
◉ カム
なだらかなカーブに突き当たることでその時の勾配により絞り羽根の開閉角度を決める役目
◉ 制御アーム
絞り環と連係して設定絞り値 (絞り羽根の開閉角度) を絞りユニットに伝達する役目
◉ 開閉孔
マウント面開閉レバーが刺さるスリットで操作により連動して勢いよく絞り羽根を開閉する
すると、グリーンの矢印で指し示した箇所に「スプリング (2本)」が附随し、互いに「絞り羽根を常時閉じるチカラ/常に開こうとするチカラ」の相反するチカラが及んだまま、そのチカラバランスの中で適正な絞り羽根開閉動作が行われています。
従って、この2本のスプリングのうち一方、或いは両方が経年劣化で弱った時点で「絞り羽根の開閉異常」が発生します (開放時に絞り羽根が顔出ししていたり最小絞り値まで閉じないなどの不具合)。
今回のモデルで感心したのは「制御アームが円柱」である点です。これは多くの東京光学製モデルで「板状」になっている事が多く、過去メンテナンス時や経年劣化で「垂直を維持していない」為に、絞り羽根が設定絞り値に対して正しく機能しない不具合の一因になっているからです。
ところが・・。
今回の個体は、内部で使われている「締付ネジ」のほとんどが「磁性反応しないマイナスネジ (一部のみ磁性反応するプラスネジ)」ばかりでしたから、モデルバリエーションのタイミングで言うと「過渡期」に製産された個体とも考えられます (つまり後期型でも最初の時期のほうの個体)。
それはマウント部内部の「開閉レバー機構部」の構造をチェックすればちゃんと辻褄が合っているので間違いないワケですが、するとある一つの疑問が湧いてきます。
左写真は「RE GNシリーズ」の鏡筒を同じ角度で撮影している写真ですが「制御アーム」は薄い板状パーツになっています (円柱ではない)。
新しい純然たる「後期型」では「板状アーム」を絞りユニットで使っていたのに、どうして古いモデルのほうがむしろ改善されているのか?
これは「板状アーム」にしてしまう事で「チカラに弱くなる」問題があるので「円柱アーム」のほうが間違いが少ないワケです。
つまり製産時期の前後として捉えると、内部設計の辻褄が合いません・・。
そこで見えてきたのが「焦点距離の問題」でした。
つまり今回のモデルは超広角レンズ域なので光学系前群は「延長筒式」でさらに長くなっています (鏡筒内だけで収まりきらない)。するとこの鏡筒で「光学硝子レンズ格納筒の為のスペースが少なくて済む」話になります。
何故なら、レトロフォーカス型光学系なので「絞りユニット直前の光学系第5群」はその外径サイズが極端に小さい点に着目する必要があります (冒頭の光学系構成図を見ると分かる)。
何を言いたいのか?
この当時の東京光学では、既に「板状アーム方式」を採ると経年の耐用年数で不利になる点をちゃんと理解していたことが見えてきました。
例えば標準レンズなどで「板状アーム方式」を採っていたのは、鏡筒に入る光学硝子レンズ格納筒の外径サイズが特大だからであり、絞りユニット直前でも径が大きい為に「円柱アームを配置するスペースが無かった」事が判ってきました。
つまり「仕方なく板状アームにしていた」ワケです・・。
ず〜ッとこの疑問が頭の隅に残っていたのですが、純然たる「後期型」(例えばRE GNシリーズなど発売年度が最後のほうのモデル) でも耐用年数が短いハズの「板状アーム」を使っているのに、どうしてそれより前の (古い) モデルでむしろ耐用年数が長くなる改善が成されていたのでしょうか?
それら「後期型」モデルでは内部に使われている「締付ネジ」は「磁性反応するプラスネジ」ばかりです。それに比べて古い時代の製産個体のほうが耐用年数が長くなるであろう「円柱アーム」を使っていたのは「まさに絞りユニット直前の光学硝子レンズの大きさ次第」だった事が見えてきました。
「観察と考察」で一つ疑問が晴れました・・(笑)
↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。「延長筒」の役目も兼ねる光学系前群の硝子レンズ格納筒が別に存在するので、ご覧のように鏡筒自体は短い長さの設計です。
この鏡筒の組み上げ工程だけで5回も再組み直しをするハメに陥ったので (それほど難しい)、少々意気消沈状態です(笑)
↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
↑ヘリコイド (オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で7箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。
完成したヘリコイド (オスメス) を基台ごとひっくり返して後玉側方向から内部を撮影しました。
ご覧のように「直進キー」が「直進キーガイド」に刺さっています。「直進キーガイド」はヘリコイド (オス側) に用意されているので、結果ヘリコイド (メス側) が回るとヘリコイド (オス側) が繰り出されたり/収納したりする仕組みです。
◉ 直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目
◉ 直進キーガイド
直進するチカラに変換されたチカラでヘリコイド (オス側) が直進動する溝 (スリット)
するとこのモデルでは「直進キーガイド」が「コの字型」をしているので「直進キー」が受けたチカラはそのまますぐにガイド部分に蓄えられます。しかし、仮に蓄えられ続けてしまうとヘリコイド (オス側) の繰り出し/収納動作にはならないので「トルクが重くなる/トルクムラが出る」話に繋がります。
従って「距離環を回したチカラはそのまますぐに直進動として伝わってしまう (ガイド部分にチカラを蓄えない)」必要が高くなりますが、意外と過去メンテナンス時にこのガイド部分にグリースをビッチリ塗っていたりします (今回の個体も同様)。
しかも材質が共に「直進キー/直進キーガイド共に真鍮製 (黄銅)」なので「チカラに対して撓りやすい」点にも配慮が必要です。
つまり単純に「グリースの種別や粘性の相違だけでトルク調整できない」のが今回のモデルを「高難易度モデル」にしている要素とも言えます。
↑前述のヘリコイド (オスメス) のトルク調整だけでやはり7回も組み直しを行い、さらにヘリコイドグリースの種別や粘性もその都度入れ替えていたので相当疲れました(笑)
如何に当方の技術スキルが低いのかを物語っている話ではないでしょうか?(笑)
ようやく指標値環をセットできました。
↑この工程の解説が東京光学がカメラメーカーではないかと言いたくなる箇所です(笑)
鏡筒はストンとヘリコイド (オス側) 内部に落とし込まれて「締付環」で前玉側方向から締め付け固定する方式なのですが、問題なのは「ヘリコイド (オス側) も締付環も共に同じアルミ合金材」である点です。
しかも切削されているネジ山の切削レベルがそれほど褒められるモノではないので「締付環」を締め付ける際に相当気をつけないとネジ山が咬んでしまい固着して (ネジ込むことも外すこともできなくなって)「製品寿命」に至ります。
これが当方にとっては相当怖いワケで、どんなに慎重にネジ山を合わせてネジ込もうとしても、回していく途中で抵抗/負荷/摩擦を感じたりします。するとその都度恐怖感が湧いてくるワケで、本当に恐ろしい一瞬です (早く回しすぎると摩擦熱でカジリ付を誘発しかねない)。
ところが、Nikon/Canon/MINOLTA/OLYMPUSなどの光学メーカー製オールドレンズになると、ネジ山すらちゃんと面取り加工されているのでカジリ付の心配が最小限で済みます (恐怖感の程度が全く違う)。
これが当方が東京光学メーカーは「カメラメーカー」だと言いたくなる理由のひとつです (決して貶しているワケではありません)(笑)
つまりはネジ山切削の粗さ次第と言うところでしょうか・・。
↑「径:⌀1mm」しかない微細な鋼球ボールを組み込んでから絞り環をセットします。この「径:⌀1mm」の鋼球ボールは市場流通していないので紛失すると意外と大変です(笑)
↑東京光学が「カメラメーカー」だと言いたくなるもう一つの箇所がこのマウント部の問題です(笑)
マウント部は「締付ネジ (4本)」で締め付け固定されるのですが (赤色矢印)、それは何処の光学メーカーでも多く採用されている話です。ご覧のように「ネジ穴」が用意されているワケですが「まさに単にネジ穴が空いているだけ」なのが東京光学製オールドレンズの多くのモデルで採用されている設計概念です。
逆に言うと、多くの光学メーカーの設計概念は「マウント部はガシッと固定される箇所が明確にある」のですが、東京光学では「締付ネジで締め付けているだけ」なので、ネジ穴のマチが「約0.1〜0.3mm」ほどある為に最後まで締付ネジを締め付けない限りマウント部のガタつきは消えません。
どうしてこれが問題になるのかと言えば、マウント部である以上 (東京光学はバヨネット式なので) 相当なチカラが及んでマウントの着脱を行っているワケで、それを「たった4本の締め付けネジだけに頼っている」事が当方にとっては信じられない話なのです(笑)
似たような設計概念で製産していたのが旧東ドイツのPENTACON製オールドレンズ、或いは一部のロシアンレンズだったりします。もちろん日本の他社光学メーカー品の中にも似たような設計のオールドレンズが一部は存在しますが「共通の設計概念」で作っていたのは日本国内の大手光学メーカーでは東京光学だけではないでしょうか。
これがオールドレンズの設計概念として考えると当方には「ウッソ〜」と思えてしまうワケですね(笑)
実際に以前実験したことがありますが(笑)、マウント部内部の「開閉レバー機構部 (鋼球ボール出回る部位)」をそっくり取り外してしまい、本当にマウント部だけにして基台にセットしてみたことがあります。
すると「360度」グルグルと回ってしまいました・・(笑)
つまり「締付ネジだけに頼っている」事が歴然だと言う考えに至ったワケです。その「締付ネジ」がステンレス製など硬性の高いネジ材ならまだ許せますが「同じアルミ合金材」となると「これッて下手したら折れない?」と思ってしまいますし、少なくともネジ山の摩耗も避けられないのが現実の話です。
↑従って神経を遣いながら「締付ネジ (4本)」もちゃんと均等のチカラで少しずつ順番にネジ込んでいくことで、マウント部の組み付けに関して均一性を可能な限り追求している「つもり」です(笑)
↑距離環を仮止めしてから光学系前後群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
↑今回初めて扱ったモデル『RE、AUTO-TOPCOR 20mm/f4《後期型》(RE/exakta)』でしたが、絞りユニットの絞り羽根開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) 微調整に手こずり、さらに距離環を回すトルク調整にも手こずり、どんだけ当方の技術スキルが低いのかをまざまざと見せつけられた結果のオーバーホールになってしまいました(笑)
↑光学系内は第1群 (前玉) 〜第5群までについて相当に透明度の高い状態までクモリが除去できました。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。
つまり各群にあった「薄いクモリ」は、過去メンテナンス時に塗布された「白色系グリース」のせいで廻ってしまった経年の揮発油成分だったことになりますね。
↑唯一光学系で問題なのがこの第6群 (後玉) です。冒頭解説のとおり「明白な白濁」が生じていたワケですが、それは清掃などでは一切除去できませんでした。
つまり「コーティング層の劣化」と言えるワケですが (清掃で除去できないから)、それは「経年劣化ではない」とも言えます。例えばこれがカビ除去痕ならば考えられる話ですが、今回の個体の後玉は「カビ除去痕の痕跡が見られない (菌糸などの痕が皆無)」事から過去メンテナンス時の所為と推察しました。
おそらく化学薬品を使ったのではないでしょうか・・不明なままです。
このままではせっかく直前の第1群〜第5群までがスカッとクリアになったのに、最後の最後後玉でコントラスト低下が出てしまいます (実際オーバーホール途中で実写チェックしたところ当初よりは僅かに改善したもののコントラスト低下は明白な状況)。
これを改善させる為には残念ながら「硝子研磨」するしか方法がありません。仕方なく処置しましたがその結果後玉 (表面) のコーティング層の該当領域が剥がれました。
申し訳御座いません・・。
上の赤色矢印がその剥がれてしまったコーティング層の領域ですが、一部だけ外周附近に除去できなかったクモリがそのまま残っている以外、肝心な中心付近部分のクモリは「ウソ」と思えるくらいにキレイに除去できてスカッとクリアになりました。
但し、具体的にコーティング層が剥がれてしまったワケですから、光源を含む場合や逆光撮影時などにはハレの出現率が (中心部だけに) 上がる懸念があります。
重ね重ね申し訳御座いません・・。
↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環操作共々確実に駆動していますが、絞り羽根が閉じる際は「僅かに歪なカタチ」になります。
当初バラしている際に、6枚の絞り羽根のうち2枚が外れなかったのでバラした後に絞り羽根をチェックしたところ「キーが垂直を維持していない」為に填ってしまいます (全ての絞り羽根のキー付近に油染みも出ていました)。絞り羽根の「キー」なので改善できません。
申し訳御座いません・・。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感がほとんど感じられない大変綺麗な状態を維持した個体ですが、当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「シルバーな梨地仕上げ」もローレット (滑り止め) 部分含めより光沢感が増しています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」の「粘性:軽め+超軽め」を回分けて塗っていますが、ご指示内容の「当初より軽め希望」には至っていません。
距離環を回すトルク感は「普通」人により「軽め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」ですが、当初のトルク感とたいして変化していません (下手すれば僅かに重くなってしまったか?)。
但し、ピント合わせ時の微動については当初より「さらに軽く」仕上がっているので、ピント合焦時の操作性は向上していると思います。
申し訳御座いません・・。
↑距離環のラバー製ローレット (滑り止め) が既に経年劣化からだいぶ緩んでいる (伸びが出ている) ので貼り付け直しています。
以下の点について納得できる仕上がりに至っていませんし、ご指示内容の「現状より軽めのトルク」にも仕上がっていません。以下についてご納得頂ける分の金額をお手数ですが「減額申請」にてご申告の上、減額下さいませ。
大変申し訳御座いません・・お詫び申し上げます。
① 距離環を回すトルク感が当初と同じか重くなっている点
② 絞り羽根が閉じる際に僅かに歪なカタチになる点
③ 後玉のコーティング層が剥がれた点
④ 後玉に一部白濁のクモリが残っている点 (外周附近1箇所)
減額の最大値は「無償扱い (ご請求金額0円)」までとし、大変申し訳御座いませんが「弁償」などは対応できません。
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑当レンズによる最短撮影距離30cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。
↑f値「f16」です。極僅かに「回折現象」が現れ始めています。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。
大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい、本当に申し訳御座いませんでした。このような不本意なる結果になりお詫び申し上げます。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。
このブログをご覧の皆様も、どうか当方の技術スキルはこの程度ですので重々ご承知置き下さいませ。整備のご依頼はプロのカメラ店様や修理専門会社様宛にご依頼されるのが最善であり安心です (当方にご依頼頂いてもご期待に添えません)。