◎ Ernst Ludwig (エルンスト・ルードヴィッヒ) MERITAR 50mm/f2.9 V《中期型−I》(exakta)
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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧東ドイツのERNST LUDWIG製標準レンズ・・・・、
『MERITAR 50mm/f2.9 V《中期型−I》(exakta)』です。
昔も今も、巷では「駄目玉/幽霊玉/迷玉」と酷評の嵐の中をジッと耐え凌ぎ、ひたすらに底辺で生き抜いている可哀想な境遇の標準レンズです。ある意味オールドレンズの中の「深海魚」の如く(笑)、ひっそりと目立たずに長き歳月を重ねるだけの存在なのかも知れません。
ところが最近の温暖化の影響なのか異変が起き(笑)、このモデルの海外オークションでの流通価格帯が1万円台に乗っています。当方がオーバーホールを始めた8年前は僅か1,000円台という市場価格でしたからオドロキの変わりようです (それでも売れなかったのですが)。
近年のこの価格高騰の原因は非常に明確です。一つはカメラボディ側の進化により、ミラーレス一眼の性能が上がると同時に価格が下がってきた背景がありますが、最大の原因はもっと本質的な話です。
それは「インスタ映え」すると再評価された事が原因だと当方は考えています。
しかしハッキリ言ってこのモデルの描写特性はまさに製産されていた当時でさえ低評価でした。それはそもそも一眼レフ (フィルム) カメラのセットレンズとして、取り敢えず供給されていただけのあくまでも「廉価版モデル」の格付だったからです。
当時の旧東ドイツの状況を考えると、一眼レフ (フィルム) カメラのセットレンズと言えども
何だかんだ言ってやはりCarl Zeiss Jenaの独壇場だったと考えられます。戦前こそCarl Zeiss Jenaに肩を並べていたMeyer-Optik Görlitzにはもはやその勢いも無く、さらに弱小のErnst Ludwigにしてみれば、Carl Zeiss Jenaに追いつく事すらできなかったMeyer-Optik Görlitz
との協業でしか販路を確保できなかった (生き残れなかった) 経緯からも、必然的にMeyer-Optik Görlitzよりもさらに下の格付「単なる廉価版モデル」としての供給しか余地が無かったと容易に推測できます。
そんな中でどうしてこのモデルが再評価されていったのかを見ていきたいと思います。
なお今回はマウントアダプタとの相性問題が面倒くさいので(笑)、敢えて「exaktaマウント」をチョイスしています。また「後期型」のゼブラ柄は距離環とプリセット絞り環/絞り環の配置が逆転してしまい使い辛いので、それも敢えて避けています (プリセット絞り機構でなければ使い辛いとは感じない)。
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旧東ドイツはDresden (ドレスデン) 近郊のLausa町で、戦前の1924年に十数人の従業員と共に眼鏡用硝子レンズ会社「Optisches Werk Ernst Ludwig」(後に光学顕微鏡用レンズも含む) として創業したのがスタートになります。戦時中は軍用光学製品も手掛けていたようですが、戦後は民生用135ミリ判フィルムカメラ用レンズの市場に参入します。
Ernst Ludwig社は当初6×6判レンズなどを手掛けていましたが、1939年に戦前ドイツの「Kamera-Werkstätten Guthe & Thorsch」社から発売された一眼レフ (フィルム) カメラ「Praktiflex」用セットレンズとして発売した「Anastigmat Victar 5cm/f2.9 (M40)」で
マーケットに参入しています (M40スクリューマウント)。しかし時を同じくして第二次世界大戦に突入してしまい、商品の開発/製産は戦後まで滞ってしまいます。
戦後になるとすぐ1945年にレンズ銘板から「Anastigmat」を省いた「Victar 5cm/f2.9」を発売し、マウントもM42スクリューマウントに変更しています。
その後1951年には光学系に3群3枚のトリプレット型を採用した「Peronar 5cm/f2.9 V (M42)」を発売し、Meyer-Optik Görlitzとの協業によりIhagee Dresdenが発売する一眼レフ (フィルム) カメラ「EXA/EXAKTA」シリーズのセット用レンズとして供給がスタートし最盛期を迎えます。
今回扱うモデル「Meritar」はその後に登場したモデルですが、先に登場していた「Peronar」と全く同一の筐体のままモデル銘だけを変えて併売していたようです。その中で今回の出品個体は「中期型−I」にあたり1965年の発売になります。
【モデルバリエーション】
※オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。
Anastigmat Victar 5cm/f2.9:前期型 (1939年発売)
光学系構成:3群4枚アナスチグマート型
コーティング:ノンコーティング
絞り制御:実絞り
プリセット絞り機構:無し
レンズ銘板:Anastigmatの刻印が有
Victar 5cm/f2.9:後期型 (1945年発売)
光学系構成:3群4枚アナスチグマート型
コーティング:シングルコーティング
絞り制御:実絞り
プリセット絞り機構:無し
レンズ銘板:Anastigmatの刻印無し
Peronar 50mm/f2.9 V (1951年発売)
光学系構成:3群3枚トリプレット型
コーティング:モノコーティング
絞り制御:実絞り
プリセット絞り機構:無し
レンズ銘板:V刻印有
Meritar 50mm/f2.9 V:前期型 (発売年度不明/1951年発売?)
光学系構成:3群3枚トリプレット型
コーティング:モノコーティング
プリセット絞り機構:無し (実絞り)
レンズ銘板:V刻印有
筐体:Peronar 50mm/f2.9と同一
製造番号:〜100xxxx以下
MERITAR 50mm/f2.9 V:中期型−I (1956年発売)
光学系構成:3群3枚トリプレット型
コーティング:モノコーティング
プリセット絞り機構:有り (実絞り)
レンズ銘板:V刻印有
筐体:新設計の筐体デザイン
製造番号:100xxxx〜120xxxx
Meritar 50mm/f2.9 V:中期型−II
光学系構成:3群3枚トリプレット型
コーティング:モノコーティング
プリセット絞り機構:有り (実絞り)
レンズ銘板:V刻印有/無が混在
筐体:新設計の筐体デザイン
製造番号:120xxxx〜145xxxx
Meritar 50mm/f2.9:後期型 (1963年発売)
光学系構成:3群3枚トリプレット型
コーティング:モノコーティング
プリセット絞り機構:有り (実絞り)
レンズ銘板:V刻印無
筐体:絞り環と距離環逆転配置、ゼブラ柄
製造番号:146xxxx
会社の屋台骨となるような中心的存在の光学設計技師を確保していなかったのか、発売されたモデルは焦点距離:50mm (開放f値:f2.9) をメインに据えた展開に終始し、他の焦点距離の製品はそれほど売れていなかったようです。結局、Ihagee Dresden の「EXA/EXAKTA」の
セットレンズ化により販路を急拡大しましたが、同時にそれら一眼レフ (フィルム) カメラ衰退に伴い経営難に陥り、ついに1972年にはVEB PENTACONに吸収され消滅していきます。
なお「Victar 50mm/f2.9」は「Victor (勝利者)」ではなく「Victar」です。
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光学系は3群3枚のトリプレット型構成で、先代「Victar」の3群4枚アナスティグマート型構成から発展した、当時の標準レンズとしては最先端の光学設計とも言えます (3群4枚テッサー型が主流になる前の時代)。
しかしMeyer-Optik Görlitzとの協業によりマイヤーのモノコーティング「V」を蒸着しながらも光学設計の追求が足りなかったのか (或いは格となる光学設計者が居なかったのか)、ピント面の解像度不足とアウトフォーカス部の収差改善が進まないままに最後のモデルまで続いてしまいました。
逆に考えれば「廉価版モデル」の格付たるセットレンズが辿る運命だったのか、次期モデルに繋ぐ光学設計に着目せずに筐体設計やデザインばかりに資金を費やしてしまった事が、経営難に拍車を掛ける結果に至ってしまいました。
詰まるところ、このモデルが「駄目玉/幽霊玉/迷玉」と揶揄されるのは、まさにそれら戦略面での失敗を物語っているようにも見えますね。
上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。
◉ 一段目
左端から真円で明確なエッジを伴うシャボン玉ボケが滲んでいく様をピックアップしています。光学系が3枚玉トリプレット型構成なのでシャボン玉ボケの表出が特異なのは理解できますが、この「廉価版モデル」でここまでキレイなシャボン玉ボケを表出できてしまうところが新鮮だったりします (収差の影響を大きく受けないので滲みながらも/溶けながらも真円を維持し続けているところがスゴイ)(笑)
◉ 二段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して円形ボケになった後、次第に溶けて背景ボケへと変わっていく様をピックアップしました。ここでも収差の影響が現れながらも素性の良い溶け方をしていくので、まだ真円を維持し続けていますから相当なレベルです。むしろ下手な銘玉のほうこそ、これほどまで真円を維持し続けたシャボン玉ボケ〜円形ボケの表出に対応できません。
◉ 三段目
さらに左端から今度は収差ボケとして汚く滲んだりモロに収差の影響や周辺域の流れが現れている実写をピックアップしました。オモシロイのは、右端写真のようにパッと見で「グルグルボケ (?)」に見えそうで見えない収差ボケまで吐き出せるところが、ダブルガウス型光学系でもないのにウケてしまいます(笑)
◉ 四段目
ここからがこのモデルの真髄ですが「駄目玉/幽霊玉/迷玉」と揶揄される因果関係を表します。ダイナミックレンジが狭いので暗部の黒潰れに滅法弱く、且つ明部の白飛びも激しいので画全体的に階調が極端に収束してしまいます。特に明暗部の濃淡を伴うシ〜ンだったりするとそれが顕著に表れるので「画の印象がドライ感だけで終わってしまう」生々しさが全く無い写真に堕ちてしまいます。おそらく輝度のコントロールが上手くできていないのではないかと考えますが、ところが白黒写真になると俄然表情が変わって素晴らしいダイナミックレンジに割り振りされます (右写真)。その意味で、もしかしたら白黒フィルムしか想定していなかった光学系の設計なのかとも勘ぐりたくなるほどの違い (変わりよう) です(笑)
◉ 五段目
ダイナミックレンジの狭さと輝度コントロールの拙さは結局ピント面の質感表現能力まで落としてしまい、左端の写真のように被写体の材質感や素材感を写し込めずに誇張的な表現に堕ちてしまいます。それは最終的に人肌の表現性にも致命的なので、このモデルの人物写真には辛いものがあります。
これらの特徴から最近の「インスタ映え」写真として考えると、特に階調の幅が広くないライトト〜ンな写り方には滅法強く(笑)、まさにこのオールドレンズの能力を最大限に発揮できる要素ではないかとみています。
何とも皮肉なことに、半世紀以上も経って初めて活躍の場を得たりと脚光を浴びるチャンスの到来なのでしょうか(笑)
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造は至ってシンプルで構成パーツ点数まで少なめですから、パッと見で「初心者向け」と思い込んでしまいますが、実はこのモデルは「高難易度モデル」です(笑)
その最大の理由は、ヘリコイド (オスメス) の制御概念が一般的なオールドレンズとは真逆である事と、何よりも光路長確保を必須とする設計なので組み上がった状態で鋭いピント面を確保できる保証が無いからです (つまり単に組み上げても鋭いピント面には至らない)。確かに光学系は3群3枚のトリプレット型構成なので、僅か3枚の光学硝子レンズの話ですが、各群で光路長確保が必要なのでそう簡単には調整が仕上がりません。
↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒ですが、今回の「中期型−I」では光学系第3群 (後玉) が一体成形で既にカシメ止めされています。と言う事はどのような調整が必要になるのかここでピ〜ンと来ない人は、残念ながら技術スキルが低いのでこのモデルはバラさないほうが無難です。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
↑5枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。このモデルの絞り環操作はクリック感が全く無い無段階式 (実絞り) ですが、そのトルクがスカスカに堕ちてしまうかどうかは、実はここの工程で決まります。
↑完成した鏡筒をひっくり返して裏側の光学系第3群 (後玉) を撮影しました。ご覧のように既に組み込まれて製産されているワケですが、グリーンの矢印で指し示した領域に切り欠き (スリット) が用意されています。この部分に「開閉キー」が刺さり絞り環と連係することで絞り環を回すと絞り羽根が開いたり閉じたりする仕組みです。
ここがポイントで、絞り羽根開閉領域がここで決まってしまうと同時に後玉まで一体で組み込まれているのが鏡筒なのが問題になります (つまりどのような調整が必要なのか理解しているか否か技術スキルの問題)。
↑フィルター枠から続く (レンズ銘板も兼ねる) 光学系前群格納筒に第1群 (前玉) 〜第2群をセットして組み込みます。
↑次に特大の螺旋バネを内蔵させてから「プリセット絞り機構部」をセットします。この「プリセット絞り機構部」にはヘリコイド (オス側) のネジ山が切られています (グリーンの矢印)。これで鏡胴「前部」が完成なので、ここからは鏡胴「後部」の組み立て工程に移ります。
↑マウント部ですが基準「△」マーカーが刻印されている指標値環を兼ねます。
↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。
↑距離環を本締めで締め付け固定してしまいます (仮止めではない)。ここですぐにピ〜ンと来なければ技術スキルが低いことになります(笑)
距離環を仮止めできないと言うことは「無限遠位置微調整機能」を装備していない設計を言えますから、ヘリコイド (オスメス) のネジ込み位置だけで無限遠位置のアタリ付けを行う必要が出てきます。ところが光学系のピント面を鋭く確保する光路長も微調整が必須ですから、ではどのようにヘリコイド (オスメス) と適合させていくのかがポイントになりますね。
それが分からなければこのモデルは組み上げできません (組み上げできても鋭いピント面には至らない)。
なお、冒頭解説のとおりこのモデルのヘリコイド (オスメス) 制御方法は一般的なオールドレンズとは真逆なので、例えばヘリコイド (オス側) が最も繰り出されている時に鏡筒は最も格納されている位置になります (普通はヘリコイドが繰り出されれば鏡筒も繰り出される)。それゆえこの概念が理解できなければ無限遠位置さえ適合させることができません。
完成している鏡胴「前部」を組み込んでから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。
↑完璧なオーバーホールが終わりました。内部に塗布されていたヘリコイドグリースの性質から、海外で数年内 (1年〜数年内) に整備された個体であることが判明していますが、当初バラす前のチェックでは残念ながら鋭いピント面には至っていませんでした(笑)
今回の扱いが累計で16本目にあたりますが、その中でちゃんと鋭いピント面で仕上がっていた個体は僅か4本ですから(笑)、如何にこのモデルの光路長確保が必須なのか分かると思います (逆に言えば過去メンテナンス時にちゃんと整備されていないという話)。
上の写真のレンズ銘板をご覧頂くと写っていますが、このモデルでレンズ銘板に が附随する個体は実は非常に少ないのです。同じ「Meritar」シリーズでもこの後に登場する製造番号:120xxxx〜になると省かれていますし、逆に〜100xxxxでも刻印がありません。Ernst Ludwigで唯一「最高級品」を謳っている刻印を表し、例えばCarl Zeiss Jena製やMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズの「1st quality」と同じ意味のロゴマークです。
もちろんMeyer-Optik Görlitzとの協業によるモノコーティング蒸着が施されているのでレンズ銘板には誇らしげに「V」刻印を伴います。その意味で先代「Peronar」或いはこの後に登場する同型モデルの中でも「最も華やかだった頃の製産個体」とも言えると考えていますが、個体数自体は少なめです。
↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。
残念ながら後玉の外周附近に1箇所「硝子欠け」がありますが、それが無ければまるで新品同様品の如くスカッとクリアな光学系の状態ですから、それだけでもこのモデルにしては非常に珍しいです (逆に言うとそれほどコーティング層の経年劣化が進行している個体ばかりと言える)。
↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
↑赤色矢印で指し示した箇所に⌀2mm大の硝子レンズの欠損があります。
↑上の写真 (2枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。
【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ:
※以下の点キズはコーティング層へのCO2溶解に伴う点状浸食痕なので、パッと見で微細な塵/埃に見えるが清掃でも除去できない点キズです。
(従って光学系内の塵/埃進入ではありません)
前群内:16点、目立つ点キズ:10点
後群内:19点、目立つ点キズ:13点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内僅か)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズなし)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:あり
(後玉外周附近に1箇所 ⌀2mm径の欠けあり)
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内には「極微細な気泡」が複数ありますがこの当時は正常品として出荷されていましたので写真にも影響ありません(一部塵/埃に見えます)。
(極微細な点キズは気泡もカウントしています)
(気泡の数を除けば極微細な点キズは数点です)
・光学系内の透明度が非常に高い個体です。
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。
↑5枚の絞り羽根もキレイになりプリセット絞り環/絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正五角形を維持」したまま閉じていきます。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。クロームメッキのゼブラ柄部分も当方にて「光沢研磨」を施したので、当時のような艶めかしい眩い光彩を放っています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人により「軽め」に感じ「全域に渡り完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
・当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。
↑実際に手に取って撮影してみるとすぐに分かりますが、実はこのモデルのピント合わせは「ピントの山がとても掴みにくい」ので、距離環を回す時のトルクが重すぎると使い辛くて仕方ありません (開放付近ではさらに難しい)。
従って使い勝手の良さを追求しようと考えれば「距離環を回すトルクは軽めが良い」のがこのモデルに限定して当てはまる話です。今回のオーバーホールではまさにそれを実現した仕上がりになっています。
先日お問い合わせ頂きましたが「筐体外装をピッカピカに磨き上げているのはどんな薬剤を使ってどのような処置を施しているのか」と言う内容でした。時々、あたかもファンのような顔をして似たような問い合わせが来ますが(笑)、企業秘密なので明かすことはできません。但し一つだけ言えるのは「光沢剤などの類の薬剤は一切使用していない」のは事実です。その理由は明白で、オールドレンズのほとんどが筐体にアルミ合金材を使っている為に「光沢剤」などの薬剤を使うと途端に表層面の経年劣化が発生するので次の (将来的な) 整備時にどうにもなりません。従って当方のオーバーホールでは内外問わず「一切薬剤は使わない」方針です(笑)
もちろん薬剤を使わずともご覧のようにピッカピカですし、エイジング処理済なので擦れ/キズが無ければまさに新品同様品の仕上がりです (ご落札頂いた方だけが実感できますが)(笑)
これはいわゆる「如何にも金属を磨いた」みたいな仕上がりになっていないので、そう明言できてしまうワケです (当方からシルバー鏡胴モデルをご落札頂いた方はもう既にご存知です)。
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑ここからはこのモデルの「プリセット絞り機構」を解説していきます。「プリセット絞り機構」を理解しようとする時、必ず重要なのは「プリセット絞り環/絞り環」の別です。このモデルは上側の絞り値が刻印されているほうが「絞り環」で直下のローレット (滑り止め) だけが「プリセット絞り環」なので、一般的に多いこの当時のシルバー鏡胴モデルとは逆です。
すると黒色のフィルター枠部分に基準「●」マーカーがあり (グリーンの矢印)「プリセット絞り環」にも「●」マーカー刻印があります (オレンジ色矢印)。
上の写真では絞り羽根が完全開放している開放f値「f2.9」に設定されていますし (グリーンの矢印)、且つ絞り羽根が開ききっていることも覗き込まずとも「プリセット絞り環」の「●」マーカー位置をチェックするだけですぐに分かります (オレンジ色矢印)。
解説ではプリセット絞り値を「f5.6」に設定する手順を解説していきます。「プリセット絞り環」側を指で掴んだまま離さずにマウント側方向に引き下げたまま (ブルーの矢印①) 設定絞り値「f5.6」まで回します (②)。「f5.6」のところに来たらカチッと言う音がして填るので指を離します (③)。
↑すると上の写真の状態になりますが「絞り環」側はまだ触っていないので、基準「●」マーカーの位置は開放f値「f2.9」のままになっています (グリーンの矢印)。試しに覗き込んでみるとちゃんと絞り羽根が完全開放していますね(笑)
この時「プリセット絞り環」側は前の手順で「プリセット絞り値:f5.6」に設定済なので「●」マーカーがちゃんと「f5.6」の位置にセットされています (オレンジ色矢印)。
この状態で距離環を回してピント合わせを行いシャッターボタン押し込み前に「プリセット絞り環/絞り環」どちらでも良いので指で掴んで時計と反対方向 (上の写真では右方向) に回します (ブルーの矢印④)。
カチンと突き当て停止するまで回しきって構いません。すると停止した位置がちゃんと基準「●」マーカーの位置に合致しているハズです (グリーンの矢印)。
つまり「プリセット絞り環/絞り環」はプリセット絞り値を設定し終わる共用で駆動する (一緒に回る) ので上の写真ブルーの矢印④方向に回せば、最後まで突き当て停止する位置まで回した時に「設定絞り値まで絞り羽根が閉じきる」事になり、逆にブルーの矢印⑤方向に (上の写真では左方向) 回せば突き当て停止する位置まで回しきっても「絞り羽根が完全開放している状態に戻る」ワケです。
するとプリセット絞り値さえ設定してしまえば、後は「プリセット絞り環」だろうが「絞り環」だろうがどちらでも良いので、ワザワザ見て確認する必要も無くシャッターボタン押し込み前に「とにかく右方向に回しきってしまえば設定絞り値まで絞り羽根が閉じる」と言えます。逆方向に回せば絞り羽根は完全開放します。
これがこのモデルでの「プリセット絞り機構」の仕組みであり概念ですから、この後の時代に主流となる「自動絞り方式」ではないので、シャッターボタン押し込み前に「自分で絞り羽根を閉じる一手間が必要なので」と理解してしまえば良いだけですね(笑)
↑シャッターボタンを押し込んで撮影が終わったら、取り敢えずまた開放状態に戻します。基準「●」マーカー位置 (グリーンの矢印) にプリセット絞り値の「f5.6」が居るままなので (オレンジ色矢印)「プリセット絞り環/絞り環」どちらでも良いので掴んでブルーの矢印⑤方向に回して絞り羽根を完全開放状態に戻します。
↑再び絞り羽根が完全開放状態に戻ったので (グリーンの矢印) ここで「プリセット絞り値を開放f値に戻す」作業を行います (オレンジ色矢印)。「プリセット絞り環」側を指で掴んで保持したままマウント側方向に引き下げ (ブルーの矢印⑥) そのまま指を離さずに開放f値「f2.9」まで回します (⑦)。カチッと音がして「f2.9」の位置で填るので指を離します (⑧)。
これで基準「●」マーカー位置に「プリセット絞り環/絞り環」の両方がセットされたので「プリセット絞り環/絞り環」どちらを掴んで回そうとしても「開放f値から一切動かない」状態に設定されています。
つまり「プリセット絞り機構」とは、撮影前に事前に設定絞り値を決めて、その絞り値にセットすることで絞り羽根の開閉を「開放f値〜設定絞り値との間で開閉させる」仕組みのことを指しますし、その絞り羽根の開閉動作は人間が行うと言うワケですね(笑)
↑当レンズによる最短撮影距離80cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。
↑最小絞り値「f16」での撮影です。「回折現象」の影響が現れています。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。