◎ CORFIELD (コーフィールド) LUMAX 50mm/f2.4 zebra《ENNA製》(L39)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます

今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、イギリスはCORFIELD製標準レンズ・・・・
LUMAX 50mm/f2.4 zebra (M42)』です。


前回オーバーホール済でヤフオク! 出品してから2年が経ってしまいましたが、海外オークションebayでの出現頻度は年に10本台でしょうか。市場価格は3万円〜5万円の価格帯ですが、光学系の状態 (カビの発生率が高い) と距離環を回す時のトルク感が重い個体が多い (設計上の問題) のでなかなか手を出せません。

今回久しぶりに扱いましたが、非常に滑らかな操作性で仕上がり、光学系内の透明度もクリアな個体だったので2年前の即決価格と同じ設定でヤフオク! 出品します。

  ●                

CORFIELD (コーフィールド) 社は、イギリスのグレートブリテン島の中部に位置するバーミンガム近郊スタッフォードシャー (現ウェスト
・ミッドランズ州) Wolverhampton (ウォルバーハンプトン) と言う街で創業者のケネス・ジョージ・コーフィールド卿 (1980年ナイト称号拝受) により戦後間もない1948年創設の光学製品メーカーです。

 

CORFIELD社が1954年に発売したレンジファインダー方式のフィルムカメラ「Periflex 1」はライカ互換のL39マウントを採用しましたが、距離計連動の機構を装備していないペリスコープ方式 (潜望鏡方式) を実装した独創的な発想のフィルムカメラです。

その結果、L39マウントながらも最短撮影距離を短縮化させたオールドレンズ群を用意してきています。左写真は第3世代の「Periflex 3」ですがマウント部内部に自動的に降りてくる「潜望鏡」機構部を撮影しています (もちろんシャッターボタン押し下げ時は先に瞬時に潜望鏡が収納されます)。

創業期には露出計「Lumimeter/Telemeter」やビューファインダー、アクセサリなどを開発して生産していましたが、1950年に英国のE Elliott Ltd and The British Optical Company (エリオット&英国光学会社) による資金提供を受けて、1954年には念願のレンジファインダーカメラ「Perifelx 1」や光学レンズの発売に漕ぎ着けています。

光学レンズ設計はロンドンにあるWray Optical Works (レイ光学製造) 社のパテントに拠りますが、その後生産を旧西ドイツの光学メーカーENNA OPTISCH WERK (エナ・オプティッシュ・ヴァーク:エナ光学工業) 社に委託しWrayパテントに基づき生産し、最後には光学設計を完全にENNA社に切り替えたようです (ENNAはローマ字的な読み方のエンナではなくドイツ語なのでエナです)。

【CORFILED社製オールドレンズ】

  • CORFIELD内製 (Wray PAT.):RETRO-LUMAR 28mm/f3.5 (silver)
  • CORFIELD内製 (Wray PAT.):RETRO-LUMAX 35mm/f3.5 (silver)
  • CORFIELD内製 (Wray PAT.):RETRO-LUMAX 35mm/f2.8 (silver)
  • CORFIELD内製 (Wray PAT.):LUMAX 45mm/f3.5 (silver)
  • CORFIELD内製 (Wray PAT.):LUMAX 45mm/f2.8 (silver)
  • CORFIELD内製 (Wray PAT.):LUMAX 45mm/f1.9 (silver)
  • CORFIELD内製 (Wray PAT.):LUMAR 50mm/f3.5 (silver)
  • CORFIELD内製 (Wray PAT.):LUMAR 50mm/f2.8 (zebra)
  • ENNA製 (Wray PAT.):LUMAX 50mm/f1.9 (zebra)
  • ENNA製:RETRO-LUMAX 28mm/f3.5 (zebra)
  • ENNA製:RETRO-LUMAX 35mm/f2.8 (zebra)
  • ENNA製:LUMAX 50mm/f2.8 (zebra)
  • ENNA製:LUMAX 50mm/f2.4 (zebra)

・・他にも中望遠〜望遠レンズまで発売していましたが、オールドレンズに関する詳しいことはネットを検索してもあまり出てきません。今回出品モデルは、1959年に発売された旧西ドイツのENNA WERK製委託製品 (新規開発による製品) と推測しています。



上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して背景ボケへと変わっていく様をピックアップしています。4群6枚の典型的なダブルガウス型光学系なので真円のシャボン玉ボケ表出は苦手です。口径食や残存収差の影響で円形ボケも歪なカタチになり不均等に溶けていきますし、僅かに二線ボケっぽい滲み方にもなります (右端)。

二段目
被写体の材質感や素材感を写し込む質感表現能力に優れ (左側2枚の写真)、同時にダイナミックレンジの広さも手伝い独特な空気感や距離感を感じる写真を残してくれます (右側2枚)。このリアル感を留めてくれる描写性と言うのは、必ずしも多くのオールドレンズで体現できる特徴ではないのでとても貴重です。

三段目
製産が旧西ドイツのENNA WERK製なので「シアンに振れる」色付き方は、同じく他の旧西ドイツ製オールドレンズ (Schneider-KreuznachやSteinheilなど) との共通項ですが、このモデルの発色性は原色に反応しつつも「艶やか」に発色するのが特徴で、決して元気の良い鮮やかな色ばかりに変質するのではなく、渋みを残しながらもメリハリ感のある画造りにまとまるのが不思議です。もちろん人物撮影の人肌感の表現性もENNA WERK製なら折紙付きですね。

光学系は典型的な4群6枚のダブルガウス型構成ですが、前後群で比較した時に光学硝子レンズの外径サイズに大きな差がある設計を採っており、屈折率が非常に高いのが分かります (前玉:29.44mmに対し後玉は僅か18.96mm)。その分ピント面の鋭さは相当なモノで、開放f値「f2.4」と余裕を採っているのが描写性の特徴として功を奏しているのかも知れません。

旧西ドイツ製オールドレンズの「シアンに振れる鮮やかな発色性」に好感が持て、しかし決してナチュラルで低いコントラストに終始するワケではない、むしろ高めのコントラストと「艶やかさ (艶感)」を表現できる独特な画造りが貴重なモデルです。この「写真に艶を感じる」と言う要素は、数多くのオールドレンズの中でも極一部の製品でしか感じないと当方では受け取っています。おそらく入射光を輝度として写真に写し込む際の振り分けが極端な結果に陥るからなのだろうと思いますが、質感表現能力の高さと相まり、同時に独特なボケ味から何とも絶妙な「リアル感 (空気感/距離感/臨場感)」を演出してくれる、数少ないオールドレンズの一つとポジティブに評価しています。

上のピックアップ写真を見れば分かりますが (二段目右端)、特に街中スナップ撮影において絶大なる「リアル感」を写真に留めてくれる期待感は相当なものではないかと感じます。日射し感や街の喧騒まで聞こえてきそうな現場感が堪りません・・(笑)

それはいったい写真として何が影響している結果なのかと言えば、二段目右端の街の情景写真にはちゃんと「空気」が表現されているからで、いわゆる「遠方の霞み」の如く僅かに濁るかのような空気の淀み感を写真の中に取り込めているからではないかと感じます。

このような要素を強く感じる描写性として、当方はいの一番に思い付くのが「SIGMAのFOVEONセンサー技術」であり、まさしく人の瞳で見たがままの印象をそのままリアルに記録するセンサー技術ではないかと考えています。それに近い印象を受けるのが、このような「リアル感 (空気感/距離感/臨場感)」の表現性に長けたオールドレンズと認識しています (従って上のピックアップ写真の中で一番このモデルの特徴を凝縮している実写は二段目の右端街中スナップです)。これをリアルに表現できるオールドレンズは、どちらかと言うとライカレンズを筆頭に旧西ドイツ製オールドレンズに多く感じられる描写特徴ではないかと考えています。

右図は今回バラして清掃時にデジタルノギスで計測しほぼ正確にトレースした構成図です。
このモデルの光学構成図がネットでは一切ヒットしませんが、当方が計測したトレース図であるために信憑性は低いです (参考程度の価値もない)。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造自体は決して難解ではなく、組み立ての難易度としては「中級程度」なのですが、しかし最も特徴的な「懸垂式ヘリコイド駆動方式」のトルク調整と、それに伴う絞り羽根開閉動作の範囲指定、或いは無限遠位置の微調整機能があるようで実は微調整できない設計が、最終的に「高難易度モデル」にしてしまっている少々特殊な設計概念です (ある意味ENNA WERKらしい構造とも言える)。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑この当時のオールドレンズとしては珍しい7枚の絞り羽根 (しかもフッ素加工が施されている) を組み付けて絞りユニットを完成させます。このモデルは絞り羽根の駆動が「手動絞り (実絞り)」なので特に面倒な連係など一切存在しませんが、独特なヘリコイド駆動「懸垂式ヘリコイド駆動方式」を採ってしまったが為に、絞りユニットの制御方法まで厄介になりました。

先日別件のオールドレンズをご落札頂いた方から問い合わせがありましたが、当方案内の説明が拙くて分かりにくいようなので、ここで補足解説します (申し訳御座いません)。

問題の内容は「開放時に於ける絞り羽根の顔出し」についてです。
開放状態の時、光学系内を覗き込むと絞り羽根が極僅かに顔出ししているように見える (完全開放していない) との問い合わせでした。

左写真は今回の個体の絞りユニットを撮影していますが、見えているのは「位置決め環」で、ここの裏側に絞り羽根が刺さっています (赤色矢印)。

するとグリーンの矢印で指し示したように「位置決め環の開口部」内径は前玉から入って来る入射光を遮っているので、この分で開放f値が決まってしまいます (今回のモデルで言えばf2.4の分の内径に設計されている/絞り羽根が顔出しせずピタリと収納されている状態)。

この時、仮に「絞り羽根が顔出ししている状況」を撮影すると左写真のように具体的に絞り羽根が「位置決め環の内径 (グリーンの矢印) よりもさらに飛び出てきている」状態を言います。

絞り羽根が飛び出てきているので「位置決め環の内径よりもさらに小さい開口部 (ブルーの矢印)」まで入射光が遮られることになります。

従って仮に今回のモデルで言えば製品仕様である開放f値「f2.4」よりもさらに暗い開放f値まで絞り羽根が閉じてしまっている状態「つまり絞り羽根の顔出し」と言える状況です。

今回のモデルは「位置決め環」が露出して前玉側方向から見える設計なので、これ以上説明できない為にイメージ図を用意しました。

上の図は説明の為に簡素化した鏡筒内部を真横から見た時のイメージ図 (断面図) です。
(解説が複雑になるので開閉環を省いた断面図にしています)

位置決め環の開口部と絞り羽根の開口部が同一なので開放f値は仕様上の価のまま
この場合レンズ方向から鏡筒内部を覗き込むと絞り羽根が見えていますが、開放f値は仕様上のf値のままなので (位置決め環の開口部より絞り羽根が飛び出ていないから) これを以て「絞り羽根の顔出し」とは言いません。

位置決め環の開口部より絞り羽根の開口部のほうが狭まっている (仕様上より暗いf値)
この場合、レンズ方向から鏡筒内部を覗き込んだ時、位置決め環の開口部から絞り羽根が飛び出ているので「絞り羽根の顔出し」と言えますね。

すると上の左写真で2枚目の状況が上のイメージ図にあたります。従って前玉側方向から内部を覗き込んだ時に「絞り羽根が見えているのかどうか」が問題なのではなく、仕様上の開放
f値よりも暗い状態まで絞り羽根が飛び出てきている状況を指して「絞り羽根の顔出し」と考えるべきではないでしょうか?

それは詰まるところ「位置決め環よりも絞り羽根が飛び出ているので絞り羽根の顔出し」と言えるのではないかと考えます。

なかなか重箱の隅を突くようなクレーム (と言うか問い合わせ) でしたが(笑)、ご納得頂けるよう分かりやすい説明ができておらず大変申し訳御座いませんでした (お詫び申し上げます)。

重要なのは前玉側方向から光学系内を覗き込んだ時に「絞り羽根が見えるかどうか」ではなく (それは関係ない話)「仕様上の開放f値より暗くなってしまう開放状態に絞り羽根が飛び出てきているのか」なのだと思います。

だとすれば、自ずと整備者は「絞り環に刻印されている絞り値との整合性検査」するのが必須ではないかと考えますね。簡易検査具で検査した上で「問題無し」としてヤフオク! 出品しているので、それに対して疑念を抱かれても説明のしようがありません (申し訳御座いません)。

↑オーバーホール工程に戻ります。完成した鏡筒に光学系前後群を組み込みます (前玉のみ最後に組み込む)。すると鏡筒には外周に「ヘリコイド (オス側)」のネジ山が切られており、且つ両サイドに「直進キーガイド」と言う「」が用意されています。

また下部には「開閉アーム」が飛び出てきています。

この時、グリーンの矢印で指し示した箇所を見ると、ネジ穴などが全くありません。
ここで不思議に思った方は、相当詳しい方ですね(笑)

この鏡筒 (ヘリコイド:オス側) は固定ネジ用の下穴が一切ありませんが、いったいどうやってオールドレンズ内部で保持しているのでしょうか???

これを覚えておいてください・・。

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台ですが、ご覧のように相当深い (長い) 設計です。

↑ヘリコイド (メス側) を、無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

すると、このヘリコイド (メス側) にネジ穴が用意されています (グリーンの矢印)。ここに距離環が固定されるので、その締付ネジ用の下穴が存在します。

↑完成していた鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で11箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

この状態で前玉側方向から撮影しました (左写真)。グリーンの矢印で指し示したようにヘリコイド (メス側) には距離環固定用のネジ穴がありますが、鏡筒 (ヘリコイド:オス側) は全くありません。

従って、これを以て「懸垂式ヘリコイド駆動方式」と当方では定義しています。つまりヘリコイドが何処にも固定されずにブラ下がった状態のまま繰り出したり/収納したりする方式です。

このような方式でヘリコイドを駆動させているオールドレンズは、実はそれほど多くありません。何故なら重さのある光学硝子を格納した鏡筒ですから、何かしら固定する方法で設計していることが一般的です。逆に言えば、旧西ドイツのENNA WERKはこのような設計概念を好んで使っていました。

実は、この設計が市場に出回っているENNA製オールドレンズの距離環を回すトルクが重くなってしまう一因です。ヘリコイドグリースが経年劣化の進行で粘性を帯びてくると、途端に重いトルクに陥り下手すればピント合わせできない状況です。

↑基準「|」マーカー (グリーンの矢印) が刻印されている指標値環をイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本で締め付け固定します。

イモネジを使っている以上、この指標値環の固定位置を微調整する意味があるワケですが、しかし下部の「開閉アーム」の駆動域は開口部の大きさが決まっているので微調整できません。

これがこのモデル (或いはENNA製オールドレンズ) の意味不明な設計の一つです。

↑両サイドに「直進キー」と言うパーツをネジ止めしてトルク感をチェックします。

この「直進キー」が両サイドから鏡筒側面に用意されている「」に刺さることで、辛うじて鏡筒 (ヘリコイド:オス側) が保持に近い状態を維持しますが、仮に溝に直進キーが最後までキッチリ填ってしまったら、鏡筒は上下にスライドして直進動することができません。

つまり「直進キー」のセットは鏡筒 (ヘリコイド:オス側) の固定を目的としていないことになります。それ故、一切保持されないままブラ下がっている状態と言えるワケですね (何故なら鏡筒は繰り出したり/収納したりするから固定できない)。

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

↑絞り環を組み込んでからプリセット絞り環をセットします。

↑マウント部をセットしたところですが、このオールドレンズをカメラボディにネジ込んだ時 (或いはマウントアダプタに装着した時) ちゃんと基準「|」マーカーが真上に来るよう位置調整済です。

↑距離環を仮止めしてから未装着の前玉をセットして無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にレンズ銘板をセットすれば完成です。

ここで問題が出てくるワケですが、距離環側には「無限遠位置調整機能」が用意されているのに、前述のとおり絞りユニットや「開閉アーム」が関わる「基台の開口部」は大きさが決まっています。

すると指標値環や距離環をズラして無限遠位置を適合させようとしても、絞り羽根制御部分の位置がズレないので「無限遠位置の微調整ができない」ことになります。

どうして距離環側に無限遠位置調整機能を装備してきたのかが不思議です・・。

修理広告     DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑市場には滅多に出回らない、ある意味「珍品」なのですが、このモデルの描写にハマる人が居ます (当方もその一人)(笑)

しかもこれでもかと言わんばかりに大変滑らかでスムーズな駆動を実現した距離環のトルク感に仕上がっていますから、このような完成度の個体はまず入手できません。

↑光学系内の透明度が相当高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。僅かに微細なヘアラインキズが数本視認できますが、それぞれ5mm長と4mm長程度なので写真には一切影響しません。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。前玉表面側に経年相応な拭きキズやカビ除去痕などが複数残っています (5mm長の微細なヘアラインキズも1本あり)。

↑光学系後群も大変クリアで極薄いクモリは皆無です。やはり4mm長の極薄いヘアラインキズが数本あります。

光学系後群側の硝子レンズ格納筒の縁に「lens made in W. Germany」の刻印があるので旧西ドイツ製なのですが (ENNA WERK製)、このモデルの発売が1959年ですから、戦後僅か14年足らずでもとの敵国たるドイツの光学メーカーに委託製産したワケで、それを考えるとなかなか感慨深い思いになります。確かに自社の製品戦略上、必要だったからこその話だったのでしょうが「良いモノは良い」として工業技術に着目し互いに利害の追求を優先して事を進めた、今で言う処の「ウィンウィン」のような話であり、何処かの国のようにいつまでも執拗に過去の歴史に拘り続ける話とは次元が違うようにも感じますね(笑)

その意味で、まさにケネス・ジョージ・コーフィールド卿 (CORFIELD社の創業者) の英断に、エールを贈りたい気持ちになります。この大変美しいデザインの筐体は、その描写性と相まりなかなかの所有欲を満たす逸品です。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:20点以上、目立つ点キズ:16点
後群内:18点、目立つ点キズ:12点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内には「極微細な気泡」が複数ありますがこの当時は正常品として出荷されていましたので写真にも影響ありません(一部塵/埃に見えます)。
(極微細な点キズは気泡もカウントしています)
光学系内の透明度が非常に高い個体です
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・前玉表面に極微細なヘアラインキズ(5mm長)が1本あり、後群側にも1本(4mm長)ありますが写真には一切影響しません。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑7枚のフッ素加工が施された絞り羽根もキレイになり絞り環/プリセット絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際はほぼ円形絞りを維持します。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。ゼブラ柄ローレット (滑り止め) 部分も「光沢研磨」を施したので、当時のような眩い艶めかしい光彩を放っています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生ずることもありません。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「軽め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。
・プリセット絞り環のセット時最小絞り値側が僅かにセットしにくいですが、絞り環を微動させてハメ込めばOKです。もともとプリセット絞り値セットが細かいのでコツが分かれば楽にセットできます。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑距離環刻印距離指標値が「Inf」位置の時、且つ絞り環の設定も開放状態だとすると、ご覧のようにゼブラ柄ローレット (滑り止め) のシルバーメッキ部分が上下にピタリと合致してとても美しいですね(笑)
このデザインを見ただけでも何となくイギリスっぽく見えてしまうから不思議です・・。

距離環の刻印距離指標値がフィート表記なので分かりにくいですが、刻印されている最短撮影距離は「2ft (フィート):60cm」です。ところが距離環を回すと「2ft」を越えて約350度回ってしまうので実測すると「50cm」になります。筐体全高が54mmなので被写体までの実距離は最短でフィルター枠端迄「45cm」くらいになりますね。

距離環が無限遠位置「Inf」の時、前玉の位置は左写真のようにとても奥まった位置に収納されています。

これが距離環を回して最短撮影距離「2ft (60cm)」を越えて突き当て停止する位置まで回すと次の写真のようにフィルター枠直下までレンズ銘板が到達します。

つまりフィルター (径:⌀52mm) を装着していてもレンズ銘板が突き当たってしまうことがないワケですが、ご覧のようにギリギリの位置まで繰り出しますから「インナーフォーカス」に近い直進動なのだと言えます (実際は距離環を回すと1.5mmほど距離環が繰り出されていることになる)。

従って筐体サイズはほぼ変化せず54mmのままに見えます。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑ここからは「プリセット絞り機構」の解説に入ります。

絞り値が刻印されている上側のローレット (滑り止め) が「絞り環」になり、その直下のゼブラ柄ローレット (滑り止め) が「プリセット絞り環」です。

指標値環の基準「|」マーカー (ブルーの矢印) に開放f値「f2.4」がセットされている時「プリセット絞り環」側のマーキング「」も合致しています (グリーンの矢印)。

↑例として設定絞り値「f5.6」にプリセット絞り値を設定する操作を解説していきます。「プリセット絞り環」をマウント側方向に向かって押し下げて (ブルーの矢印①)、指で保持したままマーキング「」を「f5.6」まで持っていきます (回します:)。カチッと言う音がして填ったら指を離します ()。すると上の写真のように「f5.6」にマーキング「」が合致しています。

この時「絞り環」側は動かしていないので絞り羽根は「開放状態を維持」しています。

↑距離環を回してピント合わせを行い、カメラのシャッターボタンを押し下げる直前で「プリセット絞り環」を基準「|」マーカー位置まで回します (ブルーの矢印④)。マーキング「」が基準「|」マーカーに合致するので、この時絞り羽根が設定絞り値「f5.6」まで閉じたことになりますね (グリーンの矢印)。このままシャッターボタンを押し込んで撮影します。

↑撮影が終わったらプリセット絞り値をもとの開放に戻します。「プリセット絞り環」をブルーの矢印⑤の方向に回すと絞り羽根が開いていきますから、突き当て停止した時基準「|」マーカー位置に開放f値「f2.4」が合致します (赤色矢印)。

↑最初の逆の操作をすれば良いワケで「プリセット絞り環」を指で掴んで保持したままマウント方向に引き下げ (ブルーの矢印⑥) そのまま回して () 開放f値「f2.4」に合わせます。カチッとハマるのでそこで指を離すと () プリセット絞り値が開放状態にセットされたことになり「絞り環/プリセット絞り環」共にほとんど動かない状態に戻ります。

慣れてきたらいちいち開放位置に戻さずともダイレクトに操作頂いて構いませんが、原理として「プリセット絞り値の設定方法」を覚えておいて下さいませ (時々壊してしまう方がいらっしゃるので)。

↑当レンズによる最短撮影距離50cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

このモデルのピントの山は大変分かり易く、ピタッと合焦するのが非常に心地良いです(笑)
もちろんご覧のようにとても鋭いカリカリのピント面ですから、コンパクトな筐体からはちょっと想像できない程の解像感です。

その発色性の魅力 (旧西ドイツ製オールドレンズたる特徴のシアンに振れつつもコントラストが高い印象) とも相まり、相当なポテンシャルを秘めたモデルと当方は評価しており、毎月のように海外オークションに出回るCORFILED製オールドレンズをチェックしていますが、特にこの開放f値「f2.4」と「f1.9」のゼブラ柄モデルに関してはなかなか流通価格 (3万円〜8万円台) に見合う光学系の状態、或いはヘリコイドネジ山の状態にはなりません。

共に「懸垂式ヘリコイド駆動方式」を採り入れた設計となれば、ピントの合わせ易さを決める非常に重要な要素なので、調達するにも勇気がいります。

なお、今回のモデルで絞り環を見た時に、刻印されている絞り値の開放f値「f2.4」の右隣に極僅かな余白が残っています。実はここに上位モデル開放f値「f1.9」の刻印が入ってくるワケで、パーツを共通仕様として設計していたことが判ります (もちろん内部構造も共通仕様化されている)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」にセットして撮影しました。

↑さらに回してf値「f4」で撮影しています。

↑f値は「f5.6」に変わりました。

↑f値「f8」になっています。

↑f値「f11」です。

↑f値「f16」での撮影です。そろそろ極僅かですが「回折現象」の影響が出始めています。

回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像力やコントラストの低下が発生し、ねむい画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞りの径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

↑最小絞り値「f22」で撮りました。