◎ TOKUO KOGAKU (東京光学) RE GN TOPCOR 50mm/f1.8(RE/exakta)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、東京光学製
標準レンズ『RE GN TOPCOR 50mm/f1.8 (RE/exakta)』です。


今回初めての扱いになりますが、上位格の開放f値「f1.4」モデルを先月オーバーホール/修理しました。上位格モデル「RE GN TOPCOR M 50mm/f1.4 (RE/exakta)」は光学系の設計がマルチコーティングですが、今回の「f1.8」モデルはモノコーティングです。

巷ではTOPCOR製オールドレンズファンの間で最後に到達する憧れのモデルとしてこの「RE GNシリーズ」が位置付けられているようですが、その一つの要素には、ピント合わせをしている時の合焦の仕方が特徴的だからだと考えられます。

このモデルは距離環を回してピント合わせする時に「無限遠位置2m」辺りまでは普通の一般的なオールドレンズと同じようなピントの山になりますが、そこから先の「2m最短撮影距離40cm」の間になると「まるで被写体が浮き出てくる」かの如くスパンッと瞬時に合焦します。

その様子は、今でこそデジカメ一眼/ミラーレス一眼などのオートフォーカスでは「ピピッ」と瞬時に合焦しますが、それこそその時の達成感に近い程の気持ち良さが伴う「チョ〜気持ちいい!」と唸りたくなるような合焦の仕方です(笑)

モデル銘の「GN」はフラッシュ (ストロボ) の「ガイドナンバー」を表し、絞り環に「GNスイッチ」なるツマミが用意されていて、その設定 (ON) により、フラッシュのガイドナンバーに見合う絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) を自動的に制御できる優れモノです。つまりフラッシュを焚く時に、被写体まで到達するフラッシュ光量に頭を悩ませる必要が一切ありません。逆に言えばフラッシュを焚いて撮影する時は、単にピントさえ合わせてあげれば勝手に適切な絞り値でちゃんと撮影できていると言う話です。

これはなにもフィルムカメラ全盛時代の当時だけに限定した恩恵の話ではありません。今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼に於いても大変ありがたい機構だと言えます。そして、実はその特徴的な機構「フラッシュマチック」を実装するが為に光学系を専用に設計してきた事が、その魅力的な描写性となって顕れているが故に、TOPCORファンの方々には堪らない存在なのではないでしょうか・・。

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この「RE GNシリーズ」の最大の特徴は、手に取って操作してみればすぐに「えッ?!」とオドロキを伴って理解できますが、無限遠位置から距離環を回した時に途中からいきなり「ググ〜ッ」と鏡筒が飛び出てくる、他のオールドレンズとは異なる繰り出し/収納をする点にあります (通常繰り出し/収納は一定量なのが一般的)。
つまり「可変直進式ヘリコイド駆動」なのですが、それは内部構造に「昇降機能」を持たせているからに他なりません。

では何故そのような特異な駆動方式で設計したのかと言えば、それこそが前述の「フラッシュマチック装備」の実現が最大の目的だったと言えます。

1973年に東京光学から発売された一眼レフ (フィルム) カメラ「TOPCON SUPER DM」のセットレンズとして登場した標準レンズで、開放f値「f1.4/f1.8」の2モデルが用意されました。

この一眼レフ (フィルム) カメラの最大の特徴は、オートワインダー (フィルム自動巻き上げ機構) を初めて装着できるように設計され、且つ標準セット品として発売された点です。さらにセットレンズの標準レンズ (f1.4/f1.8) にはフラッシュマチック機構を装備した点も当時非常に注目を浴びたようです。

このフラッシュマチック機構は、ストロボのガイドナンバー (GN) をセットすると、自動的に適合する (ストロボの照射光が届く) 撮影距離と絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) が連動させてセットし、且つ絞り環のクリック感まで解除されてシームレスに (実絞り状態のまま) ピント合わせに集中できると言う優れモノです。

このフラッシュマチック機構の使い方はこのブログの最後のほうで解説していますので、興味がある方はご参照下さいませ。

すると確かにフラッシュマチック機構を使わない (フラッシュ撮影をしない) なら意味がありませんが、実はフラッシュマチック機構を装備するが為に「専用の光学設計が必要だった」点が大変重要です。もちろん距離環の駆動方式 (鏡筒の繰り出し/収納) が特異である点も加味されますが、それは何だかんだ言って写真には結果として現れません。

内部にヘリコイド (オスメス) を有せず「昇降機能」によるシームレスな (可変式の) 鏡筒繰り出し/収納方式を採用したことから、必然的に「屈折率の追求が必須」に至ったと推察します。

つまり焦点距離が僅かに異なるものの同一開放f値「f1.8」ながらモノコーティングのままである「RE,AUTO-TOPCOR 58mm/f1.8」とは全く別次元の描写性に至っている点を汲みしなければ、このモデルの素晴らしさは理解できないと考えます。全てはまさしく東京光学の意地を架けたとも言える「フラッシュマチック機構」実装から始まった話であり、しかし悲しいかな、東京光学は1980年にはフィルムカメラ市場から撤退してしまいました。思えばマウント規格として「exaktaマウント」を採り入れた独自規格「REマウント」を採用したがために、その規格上の制限から逃れられず次代へのマウント変更もままならないまま消えていく運命を辿ったのかも知れません。想いを馳せれば戦前の昭和7年 (1932年) から存在し、戦中は日本陸軍の光学機器を一手に扱い、日本海軍がNikonだったのに対して「陸のトーコー/海のニッコー」と当時呼ばれていたようです。

カメラ市場から撤退した東京光学は、現在株式会社トプコンとして現存し、様々な産業計測機械や先進的な機器の開発に挑戦し続けているとても元気の良い会社です。



上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端から大変美しいシャボン玉ボケが破綻して円形ボケを経て収差の滲みを伴う背景ボケへと変わっていく様をピックアップしています。光学系が5群6枚のウルトロン型構成なのですが、ハッキリ言って真円で明確なエッジ (輪郭) を伴う美しいシャボン玉ボケの表出が苦手なハズなのに、このように表出できるのがオドロキです (左端写真)。

特にこのシャボン玉ボケに関しては上位格の開放f値「f1.4」モデルでは大変難しい要素なので、却って感銘を受けてしまいました。また淡く緩やかに滲む円形ボケかと思いきや、乱れてザワついた印象、或いはふんだんに収差の影響を残した背景ボケなど、被写体に対する効果的な背景を用意するにはとてもオモシロイ効果が狙えそうです。

二段目
発色性 (左2枚) と被写体の素材感や材質感を写し込む質感表現能力の高さ (右2枚) を示す実写をピックアップしてみました。「トプコンの」をちゃんと継承しているのでご覧のような大変鮮やかな、然し決して違和感に至らない赤色を表現してくれますし、それは同時に青色などの原色に対する反応の機敏さも示しています。

三段目
左端の写真を見れば相当ダイナミックレンジが広い事が分かります。実は上位格「f1.4」モデルの唯一の欠点がダイナミックレンジの問題で、特に明暗部が急にストンと堕ちてしまうので、人物撮影や陰影を伴うシ〜ンが苦手だったりします。今回のモデルは開放f値を「f1.8」と控え目に採ってきた事も一因ですが、そもそも光学系の設計を5群6枚ウルトロン型とした事が大きくこの描写性の相違に繋がっているように考えます。

ネット上ではこの「f1.8」モデルは立体感が無いと酷評を得ていますが、当方にはちゃんと「空気感/距離感」を留めたリアルな空間表現の再現性にも優れているようにも見えますが、皆様は如何でしょうか・・。

光学系は先に発売されていた同じモノコーティングのモデルたる (58mm
/f1.8)「RE,AUTO-TOPCORシリーズ」が同じ5群6枚ですが、光学設計の基本はダブルガウス型構成の範疇に留まります (後群側貼り合わせレンズを分割して色収差改善を狙っているだけの話)。

また「RE,AUTO-TOPCORシリーズ」の実写をチェックすると、自ずと画全体的な印象は「マイルドな優しさに包まれた」写りに終始し、もちろんピント面のエッジ (輪郭) は「RE GNシリーズ」と比べて細く繊細です。

一方今回のモデルは5群6枚のウルトロン型構成で設計しており、特に第2群の曲率は相当なレベルです。また後群側の径を小さくせずに相当拘った屈折率を保たせている事が覗えます。

今回バラして清掃時にデジタルノギスで計測しほぼ正確にトレースした構成図です。
当方が計測したトレース図なので信憑性が低い為、ネット上で確認できる大多数の構成図のほうが「」です (つまり右図は参考程度の価値もない)。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)

 

左写真は、当初バラしている最中の撮影ですが、解体した「昇降筒 (内外筒)」を撮っています。

過去メンテナンス時に「白色系グリース」さらにその後「潤滑油」が注入されてしまい、バラす前の時点はとても撮影で使える状況にない距離環固着に至っていました。

結局「昇降筒 (内外)」は酸化/腐食/錆びが酷くなり、アルミ合金材は微細なキズが表層面についています。

左は当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で2回目の洗浄後に撮影しています。

パーツを「ピッカピカ」にするのが目的ではなく(笑)、可能な限り表層面の平滑性を確保してムダな (不必要な) グリースの塗布を避けると同時に「適切なトルク感の実現」を狙っている処置です。

特にこのモデルは「昇降機能」を装備しているため「昇降筒 (内外)」の互いが接触する面は「鏡面仕上げ」である必要があります。過去メンテナンス者は、それを一切考慮せずに (配慮せずに) 整備してしまった事が「白色系グリース/潤滑油」の使用で一目瞭然です。

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オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。東京光学製の他のオールドレンズと同じ設計概念で作られているので、内部構造も構成パーツも理に適った設計ですが、このモデルを適切な状態でキッチリ仕上げられるかどうかは「原理原則」を熟知している人でなければまず不可能です。

つまりこのモデルは相当難易度が高く、且つ非常に神経質な微調整を強いられる、ハッキリ言って整備者にとっては東京光学製オールドレンズの中で決して扱いたくないモデルとも言えます(笑)

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルはヘリコイド (オスメス) がそもそも存在しないので、鏡筒が格納される先は「昇降筒 (内筒)」であり別に用意されています。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

絞り環を回すとことで「制御環」が連動して回り絞り羽根の開閉角度が決まるので、マウント面の「絞り連動レバー」が操作されることで絞り羽根の「開閉キー」が瞬時に移動して「位置決めキーを軸にして絞り羽根の角度が変化する (つまり開閉する)」のが絞り羽根開閉の原理です。

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。

↑完成した鏡筒をひっくり返して裏側 (つまり後玉側方向) から撮影しました。ほとんどの絞り羽根制御系がこの裏側に一極集中しています。絞り環と接続する「連係アーム」から続く途中に「なだらかなカーブ」が用意されており、その勾配 (坂) に「カム」が突き当たることで、絞り羽根の開閉角度が決まる仕組みです。

なだらかなカーブ」の麓部分が最小絞り値側になり、坂を登りつめた頂上が開放側 (グリーンの矢印) です。上の写真ではカムが麓部分で突き当たっているので最小絞り値まで絞り羽根が閉じていますね。

するとご覧のように「スプリング (2本:ブルーの矢印)」が附随しており、互いに「常に絞り羽根が閉じるチカラ」と「常に開くチカラ」のバランスの中で適正な絞り羽根開閉が実現できるので、このスプリングの片方だけでも経年劣化で弱ってしまうと途端に「絞り羽根の開閉異常」が起きます。

開閉アーム
マウント面絞り連動ピン (レバー) が押し込まれると連動して動き勢いよく絞り羽根を開閉する

制御アーム
絞り環と連係して設定絞り値 (絞り羽根の開閉角度) を絞りユニットに伝達する役目のアーム

↑今度は完成した鏡筒を立てて撮影しました (写真上が前玉側方向)。すると鏡筒の側面に「イモネジ (3本)」が締め付けられており (赤色矢印)、実はこのイモネジが居る意味を理解していないと、このモデルは「正しい絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量)」にセットできません

それは特にこのモデルが「フラッシュマチック機構」を装備しているからこそ重要な話なのであり、その機能をONして使っている時の絞り羽根開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) が適切ではなければ、そもそも焚いたフラッシュの光がチグハグな結果 (過不足) に至ります。

イモネジ
ネジ頭が存在せずネジ部にいきなりマイスの切り込みが入っているネジ種

↑こちらは距離感やマウント部が組み付けられる基台です。

↑基台の側面に用意されている「絞り値キー」と言う「」部分を拡大撮影しました。この「絞り値キー」の板状パーツは締付ネジで左右を固定されますが「マチ幅 (隙間) が用意されている」点を気がつかなければイケマセン。

過去メンテナンス者はそれを無視した為に、今回の個体は当初バラす前の時点で開放f値「f1.8」側が詰まっておりクリック感を感じない状況でした (同様最小絞り値側f22は先まで動いてしまう)。

この「」部分にベアリングがカチカチとハマるのでクリック感を実現していますが、冒頭解説のとおりこのモデルには「フラッシュマチック機構」が装備されているので、絞り羽根の開閉幅 (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) が狂ってしまうと焚いたフラッシュとのガイドナンバーによる連係が執れません。

つまり、この工程で前出の「鏡筒側面のイモネジ」と合わせて「絞り値キーの微調整」という「2つの箇所の微調整」が必須である事を過去メンテナンス者は気がついていませんでした(笑)

単に絞り環を回した時にカチカチとクリック感を与えているだけと考えてしまったら、このモデルの整備ができる技術スキルを有しながら (おそらくプロの仕業) お粗末な話です(笑)

↑真鍮製 (黄鋼) の「昇降筒 (外筒)」を無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。

GNキー
絞り環にあるGNスイッチが刺さる溝/キー

昇降スリット
昇降筒 (内筒) を昇降させる為のキーが行ったり来たりするガイド部分

ここでのポイントは「距離環が組み付けられる昇降筒 (外筒) 自体にGNスイッチが刺さる」点です。つまり絞り環に用意されている「GNスイッチ」をONにすると (距離環に刺すと) この真鍮製の「昇降筒 (外筒)」は絞り環まで一緒に回していくハメに陥る事をシッカリと認識しなければイケマセン。

何を言いたいのか?

このモデルは如何に「昇降筒 (内外)」をスムーズに組み上げられるかが最大の難関ですが、それは同時に「絞りユニットとマウント部からのチカラの伝達/影響を加味して仕上げられている事」がとても重要な話になってきます。

単に滑らかにスムーズに軽い操作性でこの「昇降筒 (内外)」が動いているだけでは、最後まで組み上がっても期待どおりのトルク感には至りません(笑)

↑アルミ合金材の「昇降筒 (内筒)」をセットしますが、この筒は一切固定されておらず「単に両サイドの昇降キーだけでブラ下がっている状態」である点が如何にこのモデルの難易度が高いのかを示しています。

もちろんこの「昇降筒 (内筒)」の内部にストンと鏡筒が入るワケですから (つまり光学系前後群が入るから) ここがブレていたらアウトなのがご理解頂けると思います。

かと言ってキッチキチに詰まっていたら (内外筒が接触していたら) 距離環を回した時のトルクはとてもピント合わせできる話には至りません (つまり当初バラす前の状態がそれ)。

昇降スリット (溝)」の中を「昇降キー」が左右に動いていく事で、同時にそれに伴い「昇降筒 (内筒)」が上下に直進動する仕組みです (ブルーの矢印)。

上の写真ではもう既にグリースを塗布済です (と言うかグリースを塗らないと内外筒はカジリ付いてしまう/固着して外れなくなる)。何故なら互いの接触面が「鏡面仕上げ」だからです。これが「原理原則」です(笑)

↑基台に指標値環をセットするのですが、その時に上の写真のように「皿頭ネジ (3本)」を使って締め付け固定します (グリーンの矢印)。

ところが過去メンテナンス者は何を考えたのか「エポキシ系接着剤」でこの指標値環を接着してくれました。

左写真はちょっと分かりにくいのですが (写真下手クソでスミマセン) バラしている最中に剥がしたそのエポキシ系接着剤のカスです。

この指標値環が外れなくても「昇降筒 (内外)」のセットには支障ないのですが、然し「GNスイッチ」との連係動作で正しい絞り羽根の開閉をしているのかをチェックする為には邪魔です。

従って指標値環は外す必要があるワケで、なにゆえにこのような固着剤を入れる必要が無い箇所を固着させるのか (しかもエポキシ系接着剤を使っているし) 甚だワケが分かりません。

↑指標値環をセットしたところですが、もうこの段位で「GNスイッチ」との連係位置がチェック済になっていなければイケマセン。

↑ベアリングを組み込んでから絞り環をセットします。

↑この状態で基台の内側を撮影しました (写真下側が前玉方向)。基台の両サイドには「直進キー」が1本ずつ締め付け固定されますが、ご覧のようにその「直進キー」が行ったり来たりスライドする箇所は「コの字型の受けだけ (赤色矢印)」であり、そこが「直進キーガイド」の役目です。

何を言いたいのか?

過去メンテナンス者はこの直進キーに相当な量のグリースを塗っていましたが(笑)、その全てが周囲に溢れてしまい用を成していませんでした。つまり板状のカタチをした「直進キー」が「直進キーガイド」と接触する部分は「コの字型の縁部分だけ」なのでグリースを塗る必要すら無い事になります。

これも「原理原則」であり、不必要な箇所にビッチリとグリースを塗るのはお粗末な話なのですが、ここでのポイントは「では何処で距離環を回すトルク調整をしているのか?」です。

少なくとも「直進キー」は単に締め付けて固定するしかないのでトルク調整のしようがありません。

直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目

↑こちらはマウント部内部の写真ですが、既に当方による「磨き研磨」を終わらせて撮影しています。

↑取り外していた各構成パーツも個別に「磨き研磨」した後組み付けます。すると「開閉レバー」なるとても長い板状パーツが左右に移動するようになっています (ブルーの矢印)。

前回のオーバーホール/修理ではこの「開閉レバー」が極僅かに変形していたワケですが (今回も極僅かに垂直を維持していない)、非常に重要なパーツの一つです。

↑完成したマウント部を基台にセットします。

↑「昇降筒 (内筒)」の内側に完成している鏡筒をストンと落とし込み締付環で締め付け固定します。この時に前出マウント部内部の「開閉レバー」が鏡筒内の「絞りユニット」に刺さります。

もっと正確に言えば、前のほうで解説した絞りユニット内の「開閉環」と言う「絞り羽根の開閉角度を変更させている環 (リング/輪っか)」にグサッと刺さったまま鏡筒が繰り出されたり収納したりします。

すると絞り環操作で絞り値を変更するので上の写真ブルーの矢印①のようにそれぞれが動きながら鏡筒が直進動している事になりますね。これが非常に重要であり、この時距離環を回したトルクにはこの「のチカラ」が加わっていることに気がつかなければ、このモデルを適正なトルク感で仕上げる事ができません。だから「高難易度モデル」なのです。

たいていこのモデル (f1.4/f1.8) の過去メンテナンスは、単純に「昇降筒 (内外)」のトルクを軽くスムーズにする事しか考えていない整備なので、逆に絞りユニットや「開閉レバー」は故意にワザとイジってしまい (変形させてしまい) 絞り羽根がそれらしく開閉するよう処置した「常套手段」が多いのが現実です。

当方のオーバーホールでは、それら講じられてしまった「常套手段」を逆に本来の状態まで戻してから各部位の微調整を施して組み上げているワケで、何と面倒くさいことか!!

↑今回のオーバーホールもそんな腹立たしさを目一杯感じながら組み上げて、最後距離環を仮止めしてから光学系前後群をセットして無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑完璧なオーバーホールが終わりました。これでもかと言わんばかりの完成度に仕上がっていますが、残念な点が1点。

過去メンテナンス時にイジられてしまった絞りユニット内の「開閉環に附随する開閉アーム」とマウント部内部の「開閉レバー」が極僅かに変形している為、それを可能な限り本来の状態に戻しましたが、どこでどう擦っているのか「絞り値をf1.8/f2.8にセットしていると距離環を回した時擦れるカリカリ音が聞こえる」のですが、その改善の為に4回バラして「磨き研磨」などいろいろ処置しても完全に改善できていません (その音が聞こえている最中に内部を目視できないので確認のしようがない)。

特に絞り環の設定絞り値が「f1.8/f2.8」の時、距離環を回して鏡筒を繰り出していく時 (つまり最短撮影距離位置まで回している時) は「小さなカリカリ音」が聞こえますが、逆に鏡筒を収納する時 (無限遠位置に戻している時) は「大きめのカリカリ音」が聞こえます

この擦っている箇所は分かっているのですが、4回「磨き研磨」を施してもカリカリ音が消えません。あまり多く何度も「磨き研磨」してしまうと、今度はどちらかが必要以上に削れてしまい絞り羽根がすぐに反応して動かなくなります (従って適度なところで諦めて処置をやめる必要がある)。

残念ながら設定絞り値「f1.8/f2.8」の時だけ距離環を回すと「カリカリ音」が聞こえますが、それ自体が将来的にトラブルを誘発する事はあり得ません (単に擦って聞こえている音だから)。ある意味「開閉環」の厚みが薄いので、その「振動音」なのかも知れないと考えますが、組み上げてしまうと内部が見えないので確認のしようがありません (事前告知済なのでクレーム対象としません)。

↑光学系内は透明度が非常に高いのですが、残念ながら前後玉にカビ除去痕が相当量残っています。前玉側はポチポチとあるだけですが (大きいのは1mm大)、一方後玉には相当量のカビ除去痕があります。一部は三角状に中心から外周に向かって広がって残っているので、撮影時の角度によっては光源や逆光撮影時にフレアの出現率が上がる懸念があります (事前告知済なのでクレーム対象としません)。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑パッと見で後玉のカビ除去痕は視認できませんがLED光照射すると相当量が浮かび上がります。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:9点、目立つ点キズ:5点
後群内:19点、目立つ点キズ:16点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:なし(前後群内僅か)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・光学系前後玉に極微細なカビ除去痕が複数残っており前玉は数箇所ながら後玉は相当な領域でLED光照射すると極薄いクモリを伴って浮かび上がります。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。
但し後玉の状況から逆光や光源を伴う撮影時には入射光の角度によりハロの出現率が上がる懸念があります。
・当初バラす前と同じ無限遠位置で調整しましたがオーバーインフ量が少々多めです。適度な位置に改善させると最短撮影距離位置まで距離環が回らなくなる為、当初位置で仕上げています。

↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じていく際は「完璧に正六角形を維持」しています。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「重め」に感じ「全域に渡ってほぼ均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。
・GNスイッチ設定時は絞り環がフリー状態になり距離環を回す時に絞り環まで同時に駆動させる仕組みなので、その分距離環の操作性はさらに「重い」印象になりますが、これはこのモデルの仕様なので改善できません。
・ヘリコイドの構造に昇降機能が備わっている為、距離環刻印距離指標値「2m」辺りから急に繰り出し量が増大しますがそのような設計です。
・絞り環が「f1.8/f2.8」設定時は距離環を回した時にカリカリ音が聞こえますが改善できません。
(特に鏡筒収納時に音が大きくなる)
事前告知済なのでクレーム対象としません

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
マウント面に電話番号のような数値の羅列が刻印されています(消すことができません)。
・当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(あくまでも単なる附属品扱い/無償で附属の意味)。
附属品を除外しても値引等対応できません。

↑往年の銘玉と揶揄されている『RE GN TOPCOR 50mm/f1.8 (RE/exakta)』ですが、モノコーティングながらも立体的でリアルな描写性が魅力に感じますし、開放f値「f1.4」モデルよりも広めのダイナミックレンジも嬉しい限りです。

距離環を回すトルクは「フラッシュマチック機構」との関係、及び「絞りユニットとマウント部内部開閉レバー」との関係から影響を受けるので、決して「軽め」とは言えませんが、市場に出回っている多くの個体のようにピント合わせし辛く感じる状況ではありません (どちらかと言うとピント合わせは軽い操作性です)。

唯一前述の「カリカリ音」が気になるところですが、将来的なトラブルは発生し得ないので安心してお使い下さいませ。「GNスイッチ」ONの時のガイドナンバー連係は「距離環刻印距離指標値がそもそも厳密な実距離と一致しない」のであくまでも目安的な意味合いになります (そういう仕様/設計)。

その為、無限遠位置のオーバーインフ量を低減させようとしましたが、今度は最短撮影距離側が適合しなくなってしまったので元に戻しています。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/少々多めのオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

マウント面には電話番号のような数値の羅列が手書き刻印されています。

これはおそらく海外での所有者が紛失時に自分の所有物である事を知らしめる対策として刻んだのだと推測できます (当時のみならず今でもそうする人が海外では多いらしい)。

一度刻まれてしまったモノは「磨き研磨」でも消す事はできないのでそのまま残っています。

↑ここからは「フラッシュマチック機構」の解説をします。距離環が無限遠位置「∞」で (赤色矢印) 絞り環が開放f値「f1.8」の時 (グリーンの矢印)、距離環を極僅かに繰り出すと (ブルーの矢印①) 絞り環に附随する「GNスイッチ」がカチンとガイドナンバーの数値部分に填るようになります (自分でスイッチを押し込まないと刺さらない)。

↑上の例ではガイドナンバー「80」の位置 (赤色矢印) で「GNスイッチ」を上方向に差し込んでカチッとハメ込みました (ブルーの矢印②)。

この「GNスイッチ」を上方向に差し込んで刺さる位置は決まっているので、ガイドナンバーの数値に合わせようとしても刺さらない時は、多少距離環を回して前後に微動させないとスイッチが入りません。今まで4本「RE GNシリーズ」をオーバーホールしましたが、どの個体も必ず「GN刻印」と「GNスイッチの刺さる位置」がピタリとド真ん中になりません。これは実はガイドナンバーと実距離との関係を計算すると何となく分かります (後ほど説明しています)。

ちなみに「GNスイッチ」は自分で押し込まない限り「設定ON」にならず、普通にカチカチとクリック感を伴った絞り環操作のままです。

↑するとこの時、絞り環の開放f値「f1.8 (グリーンの矢印)」は無限遠位置「∞」から僅かにズレた位置「40m手前辺り (赤色矢印)」のところに来ています。

カシオ計算機(株)様の「keisanサイト」でストロボの発光が届く距離を計算できるので有難いです。計算するとガイドナンバー「80」の時の到達距離は開放f値「f1.8」で「44.44m」であり、最小絞り値「f22」では「3.64m」です。この計算結果からも距離環の刻印距離指標値がアバウトなのが理解できます。

従って距離環刻印距離指標値がそれを表している事になりますね。この状態で (GNスイッチONで) 距離環を回していく事でピント合わせを普通のように行えば良いワケです (ブルーの矢印③)。その時、絞り環も距離環と一緒に連動して勝手に動いています。だからピント合わせに集中するだけで良いことになりますね。逆に言えばGNスイッチON」の時は、OFFの時よりも距離環を回すトルクが「僅かに重くなる」になります (何故なら絞り環まで同時に動かしているから)

↑距離環を最短撮影距離方向にさらに回して「突き当て停止する位置」まで来ると、同時に絞り環も勝手に回っているので最小絞り値「f22」の位置でカチンと突き当て停止します (グリーンの矢印)。この時の距離環刻印距離指標値は「3m」なので (赤色矢印) まさにほぼ計算どおりと言うことになりますね。

従って距離環は上の写真ブルーの矢印範囲内しか動かないので「設定したフラッシュのガイドナンバーに見合う撮影距離と絞り羽根開閉が自動的に連動した仕組み」というワケです。もちろん操作途中で「GNスイッチ」をマウント側方向に押し下げてしまえば「解除」になり、そのまま普通のようにカチカチとクリック感を伴った絞り環操作に戻り、当然ながら距離環は無限遠位置〜最短撮影距離位置までシームレスに回せるようになります (この時絞り環は独立した普通のオールドレンズと同じ操作方法に戻っている)。

なお、設定するガイドナンバー (GNスイッチを刺す位置) によって距離環の駆動範囲 (上の写真ブルーの矢印の領域/距離指標値の範囲) は、広がったり狭まったりします。それはフラッシュ光の到達距離だからであり、同時に絞り羽根の開閉幅の自動制御が必要だからでもあります。

これがストロボ撮影時に大変有難い「フラッシュマチック機構」だと言えますね。
(上の解説では後玉にキズが付くのでマウントアダプタを装着したまま撮影しています)

↑当レンズによる最短撮影距離40cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f4」で撮影しました。

↑f値は「f5.6」に変わっています。

↑f値「f8」で撮りました。

↑f値「f11」です。

↑f値「f16」になりました。極僅かに「回折現象」の影響が現れ始めているでしょうか? 「f16」でこのレベルなので相当光学系のポテンシャルは高いとみています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。