◎ Carl Zeiss Jena (カールツァイス・イエナ) Biotar 5.8cm/f2 T《初期型-II:戦時中》(exakta)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧ドイツの
Carl Zeiss Jena製標準レンズ・・・・
Biotar 5.8cm/f2 T《初期型:戦時中》(exakta)』です。


今回オーバーホール済でヤフオク! 出品する『Biotar 5.8cm/f2 T《初期型:戦時中》(exakta)』は、製造番号から1942年春の製産個体と推測できます。ドイツ軍のポーランド侵攻が1939年 (第二次世界大戦勃発)、ドイツ敗戦が1945年なのでちょうど戦時中に製産されたことになります。また距離環の刻印距離指標値が「メートル表記」だけなので、自国内流通品か東欧圏に限定した輸出品、或いは軍への供給品だったのかも知れません (軍部への支給は中心メーカーが限定されていた)。

【ドイツ軍に於ける軍支給カメラ】
・ドイツ陸軍:Leica
・ドイツ空軍:RoBoT
・ドイツ海軍:Exakta

ちなみに日本でも戦時中の軍部支給カメラはメーカーが限定されており、日本陸軍に東京光学、海軍には日本光学でした。今回出品の個体は製産されてから実に77年も経っているワケで、まさに戦中戦後の激動期を生き抜いた強者と言えます。

今回の個体が仮にドイツ海軍への支給品だったとすると、ドレスデン市を本拠地としていたIhagee Dresdenのフィルムカメラ「Kine-EXAKTA」あたりにセットされ使われていた可能性もあります。

このBiotarシリーズで「戦時中製産の個体」で海外オークションebayの流通価格をチェックすると、光学系の状態や距離環のトルクなどに懸念の大小があるものの凡そ「3万円台6万円台」で推移しているのが分かります。それに反して戦後に発売されたBiotarシリーズの市場流通価格帯はむしろ低く
2万円台〜3万円台辺りが多いでしょうか (6万円台まで上がることが無い)。

すると、希少価値の問題だけで市場価格の高騰を招いているとも考えられないので、何某かの具体的な人気を博す要素が「初期型」にはあるのではないかと考えます (その辺も考察してみたいと思います)。

  ●                

Biotarは戦前のドイツで、当初は1910年に開発されたシネレンズとして8.5cm/f1.8が考案されますが量産化までは進まず、1928年にはやはりシネレンズとして量産モデルが焦点距離2.5cm〜7cmまで揃えられたようです。1932年にはフィルムカメラのRoBoT用モデルとしてようやく4cm/f2モデルが登場し、後に1936年一眼レフカメラ用の「Biotar 5.8cm/f2と7.5cm/f1.5」が発売され1965年まで製産が続きました (その後Pancolarに継承される)。つまりBiotarシリーズはシルバー鏡胴だけで消滅していった標準レンズとも言えます。

なお「初期型I/II」には一部にシングルコーティング (単層反射防止膜) の個体が混じっていますが「初期型II」の途中からモノコーティングたる「zeissのT」が蒸着されています。また「中期型II」からはレンズ銘板への「T」刻印が省かれてしまいましたが、同じモノコーティングのままです (モノコーティング:複層反射防止膜)。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった諸元を示しています。

初期型-I1936年発売
絞り羽根枚数:8枚 (歪曲型)
最短撮影距離:90cm
プリセット絞り機構:無
最小絞り値:f16
筐体:総真鍮製

初期型-II
絞り羽根枚数:8枚 (歪曲型)
最短撮影距離:90cm
プリセット絞り機構:無
最小絞り値:f22
筐体:アルミ合金製 (マウント部のみ真鍮製)

前期型-Ⅰ前期型-Ⅲ
絞り羽根枚数:17枚
最短撮影距離:90cm
プリセット絞り機構:無
最小絞り値:f22
筐体:総アルミ合金製

中期型-Ⅰ
絞り羽根枚数:12枚
最短撮影距離:50cm
プリセット絞り機構:
最小絞り値:f22
筐体:総アルミ合金製

中期型-Ⅱ
絞り羽根枚数:10枚
最短撮影距離:50cm
プリセット絞り機構:有
最小絞り値:f16
筐体:総アルミ合金製

後期型
絞り羽根枚数:10枚
最短撮影距離:60cm
プリセット絞り:有
絞り連動ピン:
最小絞り値:f16
筐体:総アルミ合金製




上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して背景ボケへと変わっていく様をピックアップしています。そもそも光学系が典型的な4群6枚のダブルガウス型構成ですから、真円で明確な (繊細な) エッジを伴うシャボン玉ボケの表出は苦手で、口径食や残存収差の影響を受けつつ破綻して消えていきます。ところが左から2枚目の写真のような「盛大なグルグルボケ」の表出がこの「初期型」では顕著です。もちろん淡い円形ボケとして背景にまとめることも可能ですが、その際にグルグルボケが減じられるのも程良い印象 (好感) を受けます。ところがシ〜ンによっては右端のような得体の知れない収差ボケが伴う写真も残せ、何だかとてもオモシロイ描写性を期待してしまいます。

二段目
左端写真はフツ〜のピント面と背景ボケですが、2枚目と3枚目がこのモデルの大きな描写特徴を現しています。まるで背景ボケとして滲んだ写真をワザと下に敷いて、その上に被写体となる花だけをポトンと置いて撮影したかの如く、ピント面だけが「浮き上がる」独特な表現性です。これはまさしくピント面の鋭さを如実に表しているワケで、当時のCarl Zeiss Jena製オールドレンズに共通的に見られる細目で繊細感を漂わすピント面のエッジながらも鋭さをシッカリ残す特徴をそのまま受け継いでいます。それにブラスして何かが影響し、このような異次元的なピント面を表現するのかも知れません。もちろん右端の写真のように一般的なマイルドなトロトロボケの1枚も撮影できます。

三段目
左端から3枚をダイナミックレンジの確認としてピックアップしています。するとこの当時の様々な光学メーカーから登場したオールドレンズと同様に「暗部の黒潰れに滅法弱い」特徴がそのまま感じられますが、逆に明部のグラデーションの滑らかさが相当ハイレベルではないかと感じました (雪の写真のグラデーション)。それが3枚目の「曇天」写真に現れていますが、重く今にも雨が降り始めそうな雲の雰囲気と、それに相反してエメラルドなグリーンを残した海の、その2つの色再現性 (バランス) の良さに目が止まります。そして最後の右端写真を見ると、やはりこのモデル「初期型」だけに感じられる描写性の要素「ドライ感」が強く表れている1枚と評価しています。他のモデルバリエーションのBiotarでは、このような乾いた感覚で写真に残ることがあまり無いように思います。この「ドライ感」の表現性 (被写体自身の乾燥状況/レベルではなく、写真の画全体としての印象がドライに感じて見える) は、それほど多くのオールドレンズで出せる技ではありません。

四段目
発色性は違和感を抱く程まで赤色表現がきつくなりませんし原色の色付き方も自然です。
もちろん人肌表現も許容範囲内です。

今回の「初期型II」の光学系は典型的な4群6枚のダブルガウス型構成ですが「初期型I」と同一の光学設計です。しかし他のオールドレンズに類をみない驚異的な特徴をこの「初期型I/II」は持っており、ご覧のとおり絞りユニットに使われている絞り羽根は「歪曲型」と言う、他のオールドレンズには見られない大変珍しい設計を採っています。
(絞り羽根が平面ではなく上下左右すべてが丸まっている立体的な曲面のカタチ)

前期型IIII」になると光学系が再設計されて右の構成図に変わります。この時点で一般的なオールドレンズ同様の平面的な絞り羽根に変更されました (17枚装備の円形絞り)。最短撮影距離が「初期型」と同じ90cmのままですから、単に絞りユニット (絞り羽根) の仕様変更に伴う光学系の再設計とも考えられます。

そして「中期型I/II」になると三度光学系が再設計されます。最短撮影距離を50cmまで短縮化すると同時に、入射光制御も調整され絞り羽根枚数が12枚→10枚へと減じられていきます。
前後玉の肉厚や貼り合わせレンズの屈折率まで変更していることが分かります。

最後の「後期型」では自動絞り方式を採り入れますが、最短撮影距離は逆に60cmと延びてしまいます。それに伴いまたも光学系が再設計されますが、この後標準レンズの中心的なポジションを「Flexon 50mm/f2」或いは「Pancolar 50mm/f2」に譲り渡し、以降開放f値「f1.8」に繋がりBiotarはついにシルバー鏡胴モデルだけで消滅していきました。

いずれの光学系構成図も、バラして清掃した際にデジタルノギスで計測しほぼ正確にトレースした構成図です。当方が計測したトレース図なので信憑性が低い為、ネット上で確認できる大多数の構成図のほうが「」です (つまり当方の構成図は参考程度の価値もない)。そうご認識頂かないとまた嫌がらせのメールやSNSでの悪評が拡散するので宜しくお願い申し上げます(笑)
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造や個別の構成パーツは、総真鍮製だった「初期型I」と何ら変わっていませんが、真鍮材からアルミ合金材へと変化しています (マウント部のみ真鍮製)。

今回オーバーホールしていて強く感じましたが、戦後のロシアンレンズで1960年代辺りまでのオールドレンズは、多くのモデルでアルミ合金材の切削レベルがそれほど高くありません。それが1970年代に入り闇輸入 (裏輸入) でNC旋盤機を大量に輸入すると、ロシアンレンズのアルミ合金材切削精度が上がっています。

ところが、今回のモデルBiotarは1942年戦時中の製産個体です。にも関わらずアルミ合金材の切削レベルは相当高く、以降に登場する日本製オールドレンズの切削レベルと大差なく感じるほどですから、如何に当時のドイツ工業技術力がハイレベルだったのかが、こんなオールドレンズをバラしただけでも感じ取れます

オールドレンズ・・「観察と考察」することで見えなかった背景などが垣間見え、ロマンが広がり楽しいですね(笑)

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。このモデルではヘリコイド (オス側) が独立しており別に存在します。

左写真がこのモデル「初期型I/II」で採用された「歪曲型絞り羽根」です。ご覧のように上下左右、或いは表裏の総てが歪曲しており平坦な箇所が一切存在しません。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑ご覧のように8枚の絞り羽根が重なりつつ「位置決め環」に刺さり、上から「開閉環」でサンドイッチされます (グリーンの矢印)。

単に8枚の絞り羽根を互いに重ねれば良いだけのように見えますが (簡単に見えますが)、実はこの絞り羽根1枚1枚の曲がり具合が変形していると、次の絞り羽根を重ねて「位置決め環」に刺していく時、順に外れてしまうのです。

つまりコツが分かるまでは何度も何度も重ね合わせる作業を繰り返すハメに陥ります(笑)

しかし、難しいのはそれだけではなく、重ね合わせて最後まで組み上げたとしても「絞り環を回すトルクが重すぎる」結果に陥ることがあります (今回も数回組み直して再調整した)。その原因は、各絞り羽根の「丸み具合」が均一ではない為に絞り羽根を閉じていく時に抵抗/負荷/摩擦となって絞り環の操作性を悪くしているワケです (重すぎて絞り環が途中で止まる)。

ハッキリ言って、このカタチの絞り羽根には関わりたくないですね・・(笑)

1枚ずつ重ねていくだけでも面倒なのに、再びバラしてまた1枚ずつカタチ (丸み) を微調整していくと、いったい自分が何をやっているのか分からなくなります (恍惚化してくる)(笑)
今回はこの絞りユニットの調整だけで2時間を要しました・・。

↑3回目の組み直しでようやく許容範囲内のトルクで絞り環が動くよう絞り羽根のカタチを整えられたので、絞りユニットが完成した写真です。

左写真は撮影する角度を変えて撮っていますが、まるで「カメレオンの目」のように中心部が迫り上がっている (起伏している) のが分かるでしょうか?

当時、一眼レフ (フィルム) カメラが中心になる前の主力フィルムカメラは「レンジファインダーカメラ」でした。すると「レンズシャッター式」だったハズなので、装備していた絞り羽根は水平でした。なのにどうしてこのような「歪曲型絞り羽根」の発想に至ったのでしょうか。

光学系の設計として、入射光量の制御を第2群の貼り合わせレンズ (2枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせてひとつにしたレンズ群) 直下で行う必要性があったのかも知れません。だとすれば、光学系の設計段階で一般化していたであろう「水平な絞り羽根」で入射光量制御するよう考えれば良かったように思います(笑)

いずれにしても設計上のムリがあったのか、或いは組み立て工程での難しさ (入射光量制御上の厳密さ) から後に登場する「前期型」以降、再び平面絞り羽根に戻したとも考えられます。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。ここから絞り環用ベース環、さらにヘリコイド (オスメス) と工程を進めていきます。

↑まずは「絞り環用ベース環」をネジ込みますが、最後までネジ込んでしまうと絞り環操作が滑らかになりません (ネジ込みが足りなくてもダメ)。

↑さらにヘリコイド (オス側) をネジ込みます。もちろんこのヘリコイド (オス側) も最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうとやはり無限遠が出ません (合焦しません)。

↑距離環やマウント部が組み付けられる基台をネジ込みます。ここも最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑ようやくマウント部 (指標値環兼ねる) をネジ込みます。

↑距離環ローレット (滑り止め) をイモネジ (ネジ頭が無くネジ部にいきなりマイナスの切り込みを入れたネジ種) 3本で締め付け固定しますが、このモデルには「無限遠位置調整機能」が装備されていないので、もしも最後まで組み上げて (光学系を組み込んで) 無限遠位置が適合しなければ、再び最初のヘリコイド (オス側) をセットする工程までバラして再調整になります(笑)

↑ようやく「らしく」なってきました。この後は光学系前後群を組み付けてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑大変貴重な戦時中に製産された (1942年春製産)『Biotar 5.8cm/f2 T《初期型:戦時中》(exakta)』です。

今回は、これでもかと言わんばかりに距離環を回すトルク感は滑らかに仕上げ (普通或いは重めのトルク感)、絞り環操作も軽く (スカスカだと違和感を抱くのでワザと故意にトルクを与えています) 最大の魅力は光学系の透明度が高い状態を維持している点です。

↑光学系は、前後玉表面側に経年相応な拭きキズが極微細なヘアラインキズとして複数残っていますが、大変有難いことに今回の個体はカビ除去痕が少なめでした。LED光照射でもコーティング層の経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。

前後玉 (表面) のカビ除去痕は、LED光照射すると繁殖していた箇所に極薄いクモリを伴って微かに浮き上がりますが、写真には全く影響しないレベルです。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑光学系後群側も後玉表面の拭きキズが相応にあるものの、むしろ後群内の「極微細な気泡」のほうが多いくらいです。もちろんLED光照射で極薄いクモリは皆無のままです。

気泡
当時の光学メーカーは、光学硝子材精製時に一定の時間規定の高温を維持し続けた「」として「気泡」を捉えており「正常品」として出荷していました (写真への影響なし)。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:18点、目立つ点キズ:13点
後群内:20点以上、目立つ点キズ:20点以上
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内には「極微細な気泡」が複数ありますがこの当時は正常品として出荷されていましたので写真にも影響ありません(一部塵/埃に見えます)。
(極微細な点キズは気泡もカウントしています)
光学系内の透明度が非常に高い個体です
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・前後玉表面に極微細なヘアラインキズが複数あります。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑絞り環を回すトルクが少々重めですが、設計上の「歪曲絞り羽根」が重なり合う時の抵抗/負荷/摩擦が影響している為、これ以上軽くできません。また絞り羽根が閉じる時のカタチは絞り値によっては歪なカタチ (開口部の大きさ/カタチ/入射光量) です。絞り環の操作は無段階式 (実絞り) なのでクリック感がありませんし、プリセット絞り機構も装備していません。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。メッキ部分も当方にて「光沢研磨」を施したので、当時のような艶めかしい眩い光彩を放っています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「重め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・歪曲型の絞り羽根の為、絞り環の操作性は僅かに重めの印象になりますが設計上の問題なので改善できません(クレーム対象としません)。
・フィルター枠部分に過去メンテナンス時に打痕を修復した痕跡があります(着脱に支障なし)。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑1942年春に製産されてから長い年月を経た「77歳」ですが、再び息を吹き返し次の100歳を見据えて完璧な「DOH」が終わっていますから、まだまだ現役バリバリで活躍できます。特に距離環を回すトルク感が全域に渡り滑らかでスムーズになった分、操作性もだいぶ改善されました (当初は過去メンテナンス時の白色系グリースのせいで粘性を帯びていてピント合わせできないほどのトルク感)。

なお、無限遠位置は仕様上微調整の範囲を持っていないので変更できません。現状マウントアダプタ (Rayqual製/K&F CONCEPT製) ではギリギリピタリの位置になっています。

もちろん絞り環操作も引っ掛かりがあって一部動きませんでしたが、現在は滑らかに適度なトルク感を感じる操作性になりました (スカスカではありません)。

マウントアダプタに装着する限り、容易に着脱できるので取り回しで違和感を抱くこともありません。

光学系内は特に前後玉表面に経年相応な拭きキズが無数にあります。ところがLED光照射でも極薄いクモリすら見えないのがオドロキです。

このオールドレンズを酒の肴にしてロマンに浸るのもオールドレンズだけに与えられた特権です。ピッカピカに磨き上げられた筐体をイジって滑らかなトルク感を堪能する愉しみもあります。吐き出される写真に吐息込めて感動するのも所有欲を充分満たしてくれるでしょう。

完全復活した「Biotarの原点」たる『Biotar 5.8cm/f2 T《初期型:戦時中》(exakta)』を是非ともご検討下さいませ。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑後玉側方向から光学系内の「気泡」を撮影しました。上の写真では大きな「気泡」しか写っていませんが、現物を覗き込むと「/」に見えてしまうほど微細な「気泡」がたくさん視認できます。

↑当レンズによる最短撮影距離90cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

77歳」だからとバカにしたらイケマセン。開放状態でこの鋭いカリカリのピント面を構成するのは、当初バラす前の実写チェック時点から現れていたので、正直唸ってしまいました(笑) プラスして「光沢感」を感じるピント面にも好感を持てます。

さらに、被写体のミニカーが「浮き出る立体感」が「初期型」として特徴的に感じます・・。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f4」で撮りました。

↑f値は「f5.6」に変わっています。

↑f値「f8」で撮っています。

↑f値「f11」になりました。

↑f値「f16」ですが、そろそろ「回折現象」の影響が表れています。

回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像力やコントラストの低下が発生し、ねむい画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞りの径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。