♦ Carl Zeiss Jena (カールツァイス・イエナ) Biotar 58mm/f2《中期型−II》(M42)

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※解説とオーバーホール工程で掲載の写真はヤフオク! 出品商品とは異なる場合があります。

今回完璧なオーバーホール/修理が終わりご案内するモデルは、旧東ドイツは
Carl Zeiss Jena製標準レンズ・・・・、
Biotar 58mm/f2《中期型−II》(M42)』です。


  ЯПОНІЯ З УКРАЇНОЮ!    Слава Україні!  Героям слава!  

上の文は「日本はウクライナと共に! ウクライナに栄光あれ! 英雄に栄光を!」の一文をウクライナ語で国旗色を配って表現した一文です。現地ウクライナでは民衆が「ウクライナに栄光あれ!」と自らの鼓舞を叫ぶとそれに応えて民衆が「英雄に栄光を!」と返すようです。

Slava UkrainieieGeroyam Slava

今回完璧なオーバーホール/修理が終わってご案内するモデルは、当方がオーバーホール作業を始めた14年前からの累計で、当時の「Biotarシリーズ全体」の括りでカウントすると84本目の扱いですが、その中で標準レンズ域「58㎜/f2」だけで括ると76本目にあたり、中望遠レンズ域は6本のまま、さらにスクエアフォーマットのRoBoT用標準レンズのほうでは2本という状況です。

さらに標準レンズ域のモデルバリエーションの中を手繰っていくと、初期型が8本のままで、前期型も21本のままですが、その一方で今回扱う中期型が46本目に更新され、後期型は
1本
のままという内訳です。

どういうワケか、当方がオーバーホール済みでヤフオク!出品しても人気がなく落札されない為(笑)、2022年で扱いをやめると宣言していたものの、管理用データベースへの入力を怠ってしまい、今年の8月に再び扱ってしまいました (その際未入力を発見し改めて更新)(汗)

従って今後はオーバーホール済みでのヤフオク!出品は行わず、ひすらにオーバーホール/修理ご依頼分だけを承ると言うスタンスに現在は変わっています(汗)

今回のオーバーホール/修理作業で、どれだけ完成度高く組み上げられるのかを目の当たりにできるものの、それを知るのはたった一人「ご依頼者様だけ」なのがリアルな現実であり・・、当方がオーバーホール済みでヤフオク!出品しても人気がない根本的な原因は、きっとそれがイケナイのでしょう(笑)

然し根っからの喧伝が憚られる性格ゆえ、自らあ~だこ~だ騒いで立ち居振る舞うのも恥ずかしく、専らヤフオク!でもお奨めの紹介機能をワザと故意に使わないようにしている始末で、いつまで経っても人気がありません(笑)

  ●               

そんな中で今回はせっかくオーバーホール/修理ご依頼として賜ったので、この機会を活用して最近ハマっている光学系の由来について、ここでも探っていきたいと思います(汗)

今回扱う「Biotar (ビオター)」の歴史を探る時、その始祖まで探っていくと一番最初に現れるのは1889年に登場した「ガウスレンズ」になります。

4群4枚ガウス型光学系

US399499 (1889-03-12)』米国特許庁宛出願
→ Alvan Graham Clark (アルバン・グラハム・クラーク)

米国人天文学者が「ガウス型光学系」を絞りユニットを挟んで2枚ずつ互いに反転させて相似配置させる発明をします。これは特に当時の写真技術でその画像に歪みが多かった背景から、その探求として大きな課題でもあった「像の平面性」を追求した考案として「ダブルガウス型光学系の始祖」と当方では捉えています。

いわゆる「非点収差に於ける平坦性の追求」とも受け取れますが、実際特許出願申請書の記述を読むと「非常に硬質なクラウンガラスを対物側に配置し、且つ2枚を分離させて固定することで像の平坦性を確保でき、より鮮明な画像を手に入れられる」と述べており、当時の天文学者にとってこの結像時の非点収差改善が大きな課題になっていたことを窺わせます。

しかしこの「4群4枚ガウス型光学系」が狙う「像の平坦性」を裏返しに (光学技術のコトバで) 言うと「Achromat (アクロマート) である状態」を指します。そしてその「Achromatである」ことは「入射光の色の波長両端 () に於いて、Aplanat (アプラナート) な状態である」ことを意味し、それが何を意味するのかと言えば「球面収差とコマ収差を改善していることを表す」ワケで、もぅこの時点で当方のレベルでは「???」です(笑)

???」の領域に浸ってしまったことで、自分で調べている最中に思わず笑ってしまいましたが(笑)、要は「球面収差」で入射光のレンズ透過時に生じる中心からのズレによって結像点にボケが広がる現象を指し、一方で結像時のズレの中で起きる「彗星が尾を引くような収差のズレ」を指して「コマ収差」と呼び、この2つに於いて収差改善が期待される時「Aplanat」の状態であることが分かります。その際合わせて入射光の波長2色 (に対して「色収差改善」を執った時「Achromat」になったと言い、それは色ズレを厳密に低減させているが故に「より厳格/厳密にAplanatに至る」との逆算ではないかと、光学知識が皆無ながら妄想している次第です(笑)

ところが今までに調べてきた中で、この「Achromat」の追求に関し、今回解説しているこの「ガウス型光学系」の登場によって「2系統に改善できる」ことをむしろ気づかせてしまいました(汗)

何故なら、当方は既に1811年まで遡って調べた別の色消し手法たる「フラウンホーファー型光学系」を知っているからです(汗)

重クラウンガラスの凸レンズと、軽フリントガラスの凹レンズという2枚の光学硝子レンズを貼り合わせてダブレット化することで「入射光の色消し効果を期待できる」点に着目して発明しています (右図はwikiより引用)(驚)

これは当方が以前調べ尽くして「光学史上に於ける環境整備と付随的な発明」と感嘆を覚えたドイツ人物理学者/光学硝子レンズ製造技術者たる「Joseph Ritter von Fraunhofer (ヨーゼフ・リッター・フォン=フラウンホーファー)」氏による功績を説明する必要に迫られます(汗)

氏はスイス人のピエール=ルイス・ギナンに師事し光学硝子レンズ製造技術を学び、1811年に「フリントガラス製造術」を発見した事実までちゃんと語る必要があります。

何と光学レンズ設計の発明以前に、まさにその道具たる光学硝子材の精製に係る信憑性から入り、その精度を担保できるし得る環境整備からスタートすると言う、真に本質を極める覚悟を示しつつ偉業を成した人物だからです(涙)

これは当時先進的と評された英国製クラウンガラスに対する「光学硝子精製に係る不均質性」を改善しない限り、真の研究に資さないとのフラウンホーファー自身の決心からスタートしています。

・・はたして、こんなレンズ設計者が居たでしょうか???(驚)

後に英国製クラウンガラスの不規則な屈折を抑えた、より優れたクラウンガラスの製造に到達し、1814年までに世界で初めて「分光器を発明」し、太陽光スペクトルの分光に570を超える暗線の存在を確認した「フラウンホーファー線」発見者でもあります (右図はその
記念切手
)・・現在では数万のフラウンホーファー線 (暗線) が確認できています。

後の1817年に、このスペクトル内の暗線を活用する事で、光学ガラスレンズの屈折率を
調べる術
を世界で初めて発案した
功績は、光学ガラスレンズ史上特記すべき功績とも考えられています。

するとまさにこのフラウンホーファー型光学系が明示しているのは「Achromat」であり、それは「Aplanatな状態」と指摘できますが、1826年にベルリンで肺結核症、或いは重金属中毒により39年の短い生涯を終わりました(涙)

・・しかし残存する非点収差の課題は大きく残ったままでした。

非点収差
子午面 (光軸を含む面) と球欠断面 (子午面と垂直な面) との曲率半径の違いによって生じる収差 → 要はX軸 (縦方向) にピントを合わせても、Y軸側で水平方向でのズレが生じ、一方Y軸側で合わせてもX軸方向のズレが残る、互いに収差ズレが生じることによる乱れた画像。

そして遅れること半世紀以上経てガウス型光学系による「Achromat」の追求と「Aplanat」な改善を同時に満たしつつも、非点収差の改善に挑む光学系の発明に到達します。

2群4枚アナスティグマート型光学系

CH2305A (1890-04-19)』スイス特許庁宛出願
→ Paul Rudolph (パウル・ルドルフ)
※後に「Protar (プロター) 型光学系」と名称変更。

Paul Rudolphは非点収差の改善について発明を深化させ、特許出願申請書の記述では「前群後群とで非対称化し、使用する硝子材の分散能力を偏差的に利用し、且つその曲がり率を制御することで、色収差と非点収差に加えてコマ収差や歪曲収差、或いは倍率色収差までの改善を狙える」と述べています。

既知のフラウンホーファー型光学系は、重クラウンガラスと軽フリントガラスのダブレット化により十分にAchromatな環境を整え、凡そ19世紀のAplanatな写真レンズ提供を支えましたが、前後群の対称配置では「色収差改善を期待できても、球面収差が残り、非点収差と像面歪曲による歪に問題が残る」と考え、非対称配置によるダブルガウス型光学系へと傾倒する考えを固めていたのだと思います。そこに対極側から拍車をかけたのが当時Paul Rudolphが在籍していたCarl Zeissの競合たる、Carl Paul Görz (ゴルツ) 社のEmil von Hoegh (エミール=フォン・フーフ) による発明であり、直ぐ後に特許出願申請書が出願されます(汗)

2群6枚ダブル・アナスティグマート型光学系

CH6167A (1892-12-19)』スイス特許庁宛出願
→ Emil von Hoegh (エミール=フォン・フーフ)

先ずこの特許出願申請書の記述を読んでいて驚いたのは「高光度なアナスティグマートの実現性を明示した」と直近のPaul Rudolph博士の発明を実名を挙げてまで称えている点であり、しかも「重クラウンガラスと軽フリントガラスによるダブレット化が必須」であることを、他のレンズ設計者がまるで倣っていないとまで指摘している点で、自身の競合相手でありながら正統的に臨んでいる相手の姿勢に敬意を示しているのが素晴らしいです(驚)

しかしこの発明案件の登場により、非対称性を主軸に据えようと考えていたPaul Rudolphにとっては相当ショックが大きかったように受け取れます。合わせてそれが意味するのは、何よりも当時のCarl Zeissにとり競合相手に先手を取られ、光学設計の伸びしろを奪われてしまったことを意味し、その後Paul Rudolphは背水の陣を余儀なくされます(汗)・・まさに市場はGörz社の写真レンズに大きく反応してしまい(汗)、より成功した地位を確立しました。

4群6枚プラナー型光学系

DE92313C (1896-11-14)』ドイツ特許省宛出願
→ Paul Rudolph (パウル・ルドルフ)
※今回の探索で新たに発見した特許出願申請書で、僅かに早い出願。

非対称のアナスティグマート型光学系を開発してから僅か4年でそれを自ら捨て去り、現代までその継承を残す稀有な発明プラナー型光学系の開発に到達しました(汗)

広い視野に渡りとても良好な非点収差画像の平坦性を有し、画像の色収差及び球面収差補正に対する高い要求を満たす、非常に明るいレンズを提供することを目的とした発明」との出だしで始まり、且つ「非常に狭い領域だけを対称としたガウス型望遠鏡に限定した補正原理からさらに広い画角を視野に収めることを可能にする写真レンズの領域にまで、その原理を広げて発展させるものである」とも述べ、まさに非点収差解消に成功したことを自身の言葉で最大限に明示した記述をとても誇らしげに感じます(祝)

・・そしてこの「平坦性」の担保こそがドイツ語「Planar」のネーミングなのです(涙)

或る意味、競合するレンズ設計者に先を越されたが故に尻に火がつき到達し得たような経緯ですが、如何せんその高額な製品価格 (当時の製造技術では容易に量産化できなかった) 故に市場反応は芳しくなく、結果的に致命的な売上不振をCarl Zeissに招聘します(涙)

・・思うに、おそらく数十年早すぎた発明案件だったのかも知れませんね(涙)

詰まるところ、Paul Rudolphは1902年にErnst Wandersleb (エルンスト・ヴァンダースレーブ) との協力により、3群3枚トリプレット型光学系からの発展として3群4枚テッサー型光学系を開発するも、直ぐ後に経営陣との軋轢によりCarl Zeissを退職します。

以降Paul RudolphCarl Zeissとの当初雇用契約に従い20年間競合光学メーカーへの再就職を禁じられてしまい、光学レンズ設計業界からの引退を余儀なくされ僅かな年金生活だけの晩年を迎えます(涙)

4群5枚変形トリプレット型光学系

DE404805C (1923-08-02)』ドイツ特許省宛出願
→ Willy Walter Merté (ヴィリー・ヴァルター・メルティ)

Carl ZeissPaul Rudolphを排除した後にWilly Walter Merté (ヴィリー・ヴァルター・メルティ) を採用しますが、始めの頃に開発したのは3群3枚トリプレット型光学系からの発展系案件でした。この案件では「主に写真レンズや映画撮影用レンズ、或いはプロジェクション向けなど、相応に画角が狭い範囲 (凡そ30°の視野角) を対称とし、開口率f1.9を達成し球面収差とコマ収差に色収差の改善に成功している」としたものの、発売には至っていません。

実はここまでの解説の多くは「zeissikonveb.de」の記事を参照しており、この4群5枚変形トリプレット型光学系が「Biotar III」の実施案件であると解説していますが、Mertéが確かにPaul Rudolphが開発した案件を参考にしていた実施例があるにも関わらず、意図的にCarl ZeissによってBiotar開発の履歴は抹消されているとすら述べ、ことPaul Rudolphに関するCarl Zeissの執拗な対応が窺えます(怖)

4群6枚ダブルガウス型光学系

US1786916 (1927-09-29)』米国特許庁宛出願
→ Willy Walter Merté (ヴィリー・ヴァルター・メルティ)

ようやく製品化されるBiotarの特許出願申請書にまで漕ぎ着けました・・長かったです(涙)

結局ダブルガウス型光学系、ひいてはPaul Rudolphが開発した4群6枚プラナー型光学系にまで回帰するような開発案件として仕上がっているようにも見えますが、はたしてどうなのでしょうか???

その特許出願申請書内記述では「球面収差、色収差、非点収差、コマ収差を完璧に改善した対物レンズ」と明確に謳い上げ、しかも開放f値f1.4と明記してしまっている時点で本人曰く「非常に大きな開口部を持ち、最高の鮮明度と解像度を得られる」とまで締めくくっている始末で、実際「Biotar 4cm/f1.4」として製品化されています(驚)
(右写真は海外オークションebayからの引用でLMマウント改造品)

とても長い解説になりましたが(汗)、ようやく製品化されたBiotarに到達でき、その光学設計の背景と経緯まで知るにつけ、なかなか経営陣とレンズ設計者との確執は避けられず、どんなに稀有な銘玉たる光学設計も (確かに当時の製産技術が未だ確立されていなかったにしても)、排除されていく運命を避けられなかったことに、間違いなくPaul Rudolph博士に対する悲運を嘆くところであります(涙)

後には大戦中に「Biotar 5cm/f1.4」も登場しますが、いずれも映画撮影用写真レンズとして製産されており、特に戦後のクィックリターンミラーを内蔵した一眼 (レフ) フィルムカメラ向けにバックフォーカスを確保したオールドレンズでの製品化に際しては、その製造コスト面からの妥協もあり「開放f値f2」へと開口比を丸める必要があったのかも知れません(汗)
(右写真は同様海外オークションebayの引用でL39マウント改造品)

↑今回のオーバーホール/修理個体を完全解体した時のパーツ全景写真です。具体的なオーバーホール工程やこのモデルの当時の背景など詳しい解説はBiotar 58mm/f2 《中期型ーI》(M42)』のページをご参照下さいませ。内部構造や各構成パーツがとても近似しており、設計概念が今回扱ったモデルに近いです。

DOHヘッダー

ここからは完璧なオーバーホール/修理が完了したオールドレンズの写真になります。

↑上の写真は当初バラし始めている最中の撮影で、鏡筒 (左) と絞り環 (右) を分離させたところです。

今回のオーバーホール/修理ご依頼内容の中で一番の問題は「絞り環操作が硬すぎてマウント部が回ってしまうほど」と言う異常な絞り環操作の重さです。確かにバラす前の確認時点では硬くて少しずつしか回らず、そのうちマウント部が回り始めてしまうくらいでした(汗)

バラしてみたところ過去メンテナンス時に塗布していたグリースは「黄褐色系グリース」なのが確認できました・・最近「白色系グリース」ばかりが当たり前なので少々珍しい印象です。

↑その塗布されている古い「黄褐色系グリース」を拡大撮影していますが「黄褐色系グリース」が塗られていたからこそ、ヘリコイドネジ山の摩耗は相当なレベルで避けられ続けており、ご覧のように「白色系グリースの事例のように濃いグレー状に変質していない」のが明白です。

但し、今回の個体には「潤滑油」が注入されており、古い「黄褐色系グリース」がヘリコイドネジ山から追いやられてしまい、ネジ山端に集まっているのが分かります。

逆に言うなら、ヘリコイドネジ山に残っているのは既に揮発してしまい潤滑性を失いつつある潤滑油の残骸だけで、それによってアルミ合金材削り出しのネジ山の摩耗が始まっているのも視認できます。

さらに上の写真一番下部に確認できますが「古いグリース成分がバタバタに凹凸を伴い轍のように浮き上がっている」のが分かりますが、これは「潤滑油を注入された結果反応して粘性を帯びている黄褐色系グリースの一部」の特徴です。

黄褐色系グリース」に「潤滑油」を注入すると、多くの場合でこのように浮き立ち上がる状態に至ります・・但し「白色系グリース」の場合は全く異なり、多くの場合で潤滑油の成分揮発が進むと「化学反応により粘性を帯びてきてカジリ付現象に至る」のが常で、放置していればやがて『製品寿命』を迎えます(涙)

↑こちらは絞り環の内側を拡大撮影していますが、同様ネジ山端に古い「黄褐色系グリース」が追い出されているものの、赤色矢印で指し示している箇所には凹凸状の浮き立ち上がっている残骸が確認できます。

このように「観察と考察」を行うことで、過去メンテナンス時に何を処置されたのか、或いはその後にどのような追加所為が成されたのかを追うことが適い、問題となる瑕疵内容の因果を追求でき、その改善策を講じることができます。

↑こちらは取り外した鏡筒の後ろ部分で「光学系後群用格納筒」を拡大撮影しています。赤色矢印で指し示している箇所には外周にグルっとネジ山が備わり鏡胴「前部」の固定の役目を担っていますが、その両サイドに (赤色矢印で指し示している箇所) カニ目レンチで取り外す際に干渉してしまい、削れて摩耗し、且つ「その時のチカラが強すぎた為に、内側に極々僅かに凹んでいる」のを確認できます。

当初バラす前はこの場所は「反射防止黒色塗料」が塗られていたので視認できていません。

↑さらにこちらは光学系後群側の第3群格納筒を拡大撮影しています。この格納筒 (と内側にセットされた光学系第3群) は決して外に露出しませんが、赤色矢印で指し示している箇所が1箇所だけ、外方向に向けて極々僅かに広がって変形していました(汗)

この結果、この光学系第3群を締め付け固定している「締付環」が回せるものの、最後の数周でこの広がっているネジ山のせいで一段分違えてしまい、再び奥に戻ってしまい外れません(泣)

かと言ってこの光学系第3群は2枚の貼り合わせレンズなので「加熱処置」も本格的に処置できないワケで、なかなか解体するのに難儀しました(汗)

このように単に「締付環が固着していて回せず外れない」だけに限らず、回るのにネジ山が潰れていたり、今回のように変形していたりなどの因果によって「締付環を外せない (浮いているだけで何回も数段分ネジ山が違えて同じことの繰り返しに陥る)」場面に遭遇します

やはり「反射防止黒色塗料」が塗られていてバラすまえ時点では確認できていません。

↑せっかくなので(笑)、当方の筐体外装「磨き入れ」でいったいどのようにピッカピカに戻るのかを示してみます(笑)・・特に今回のようにシルバー鏡胴モデルのオーバーホール/修理ご依頼になると、一度でもご依頼を賜ったご依頼者様なら味を知ってしまい「また次もシルバー鏡胴が届く」みたいな話になったりします(笑)

と言うのも、当方のオーバーホール/修理工程ではこの筐体外装の「磨き入れ」処理がオーバーホール作業の基本工程の中に入っている為、特にお代金を別途頂戴して行っている作業ではないのです (オーバーホール作業の中の一つに含まれている)。

結果、当方にてオーバーホール/修理を承ると、必ずこのようなシルバー鏡胴モデルは「光彩を放つピッカピカに戻って手元に帰ってくる」話になり、味を占めるご依頼者様が結構多かったりします(笑)

ちなみにどのように変化していくのかを分かり易くする目的で、敢えてワザと故意「経年劣化進行に伴う酸化/腐食/サビ (白サビ) が明確に現れている箇所」を赤色矢印で指し示して明示しています(笑)

↑オーバーホール工程の作業途中での撮影です。グリーン色の矢印で指し示している箇所などが既に「1回めの磨き入れが終わった場所」です。

現在も「分解整備済」を謳ってオールドレンズのヤフオク!出品をしている出品者が居ますが、その出品ページを読むと「アルミ合金材はすぐに酸化被膜が掲載されるので、水没などしない限り酸化/腐食/サビが局所的に現れることはない」と明言していますが (化学反応の解説までしている)、それを言うなら「いったいどうしてこの白サビが現れているのか???」説明してほしいところです(笑)

当方が知る限り、過去に一度でも水没しているような個体は、今まで扱ってきた3,400本以上の中で数本レベルしか手にした記憶がありません(笑) もっと言うなら、水没の痕跡が一つも確認できないのに、こういうアルミ合金材の「白サビ」は、それこそ非常に多くの個体で内外パーツに於いて確認できるのがリアルな現実だったりします(笑)

そのヤフオク!出品者は、まるで「ラッピング研磨手法」を崇めまくっており、ヘリコイドネジ山 (要はオスメスの噛み合わせ) から絞り環に至るまでの構成パーツに対し処置しまくっていますが(笑)、当方は逆に滅多なことではヘリコイドネジ山など研磨することは処置しません(怖)

・・条ネジの原理」に従えば明白の為、それを逸脱した所為は執りませんねぇ~(笑)

↑一通り「1回めの磨き入れ」が終わった状態を撮影しました (ローレット (滑り止め) や指標値刻印部分も全て1回めの磨き入れ済)。この後、再び2回めを実施してから最後に「エイジング処理」を含めた「仕上げ処理」を行い終わらせます。

↑こんな感じでピッカピカの光彩を放つシルバー鏡胴に戻りました(笑) ここで重要な話が2点あり「すぐに1年ほどでポツポツと酸化/腐食/サビが現れないエイジング処理を必ず行うこと」及び「アルミ合金材の金属質の方向性に見合う質感を維持したまま磨き上げる」ことが肝要です(笑)

これは特に海外オークションebayなどで近年流行っている処置が大きく影響しており「シルバー鏡胴や黒色鏡胴に限らず、クリア (艶の有無含め) を塗布してキレイに仕上げている擬物」が横行している為、とてもキレイに写真撮影されているのを鵜呑みにして落札したら、届いた個体の筐体外装は「そこいら中が微細に剥がれまくっていて、却って汚らしい」みたいな事象が頻発し始めています(怖)

例えばまさにロシアンレンズなどはシルバー鏡胴モデルで当たり前のようにクリアが被せられている始末で、数年前までは経年の手垢で褐色な個体が数多く流通していたのに、今はまるで新品の如くピッカピカだったりします(笑)

・・なかなか世知辛い世の中になりました(涙)

↑こちらは当方の『磨き研磨』がおわり、オーバーホールの組立工程を経ている途中の写真です。鏡胴「前部」の鏡筒に光学系第3群が格納され、その周囲の隙間に右横に並べた光学系第4群格納筒が入る設計です。

従ってこの第3群格納筒の内壁や第4群格納筒を「反射防止黒色塗料」で着色しまくっていると、確実に最後までネジ込めずに光路長が狂うことが多くなります(怖)

↑冒頭で説明したカニ目レンチで内側方向に僅かに凹んでいたカニ目溝も「ちゃんと真円になるようカタチを戻した」ので、ご覧のように光学系第4群後玉も確実に締め付け固定が終わりました (内側に第3群とその締付環も見えています)。

↑完璧なオーバーホール/修理が終わっています。ご依頼内容の一つだった絞り環の操作性はしっかりしたトルク感ながら、確実な操作性に戻っています。

↑光学系内の不必要な「反射防止黒色塗料」を完全除去した為、光路長が正されピント面の解像感が僅かに増した印象です (カメラのピーキング反応が僅かに増えている) 。

↑後群側もスカッとキレイになり、LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です。後群内には僅かに「微細な気泡」が残っています。

気泡
光学硝子材精製時に、適正な高温度帯に一定時間到達し続け維持していたことを示す「」と捉えていたので、当時の光学メーカーは正常品として「気泡」を含む個体を出荷していました (写真に影響なし)。

↑10枚の絞り羽根もキレイになり、絞り環・プリセット絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に正十角形を維持」したまま閉じていきます。プリセット絞り感のクッション性も正したので製産時点に戻っています。

ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」を使い、当方独自のヌメヌメッとしたシットリ感漂う軽めのトルク感で、掴んでいる指の腹に極僅かにチカラを伝えるだけでピント面の前後微動が適うトルクに仕上げられており、抜群の操作性を実現しています(笑)

ヘリコイドネジ山数が長いので、どちらかと言うと「しっかりしたトルク感」に仕上げており、当初バラす前時点のツルツル感を伴うグリース切れ状態からはだいぶ変わっています。

↑ご依頼者様のセンスの素晴らしさを感じましたが、こういう旧東ドイツのCarl Zeiss Jena製オールドレンズには「シルバーなフィルターが似合う」と言うか、シルバーとブラックのtwo-toneがドイツ臭さを演じてくれ、またステキに見えてしまいます(笑)

↑今回の個体のマウント部には「M42マウント規格のネジ切りの先に突出が在る」タイプですが、その突出の途中に赤色矢印で指し示しているように削れているキズが残っています(泣)

このキズは近年のマウントアダプタに装着した際に、そのピン押し底面の深さが適合しておらず擦れて残っているキズを意味しています(汗)

↑このモデルのマウント部は最大で8.45mmの突出があり (グリーン色のラインで囲っている部分) その中で途中に残るキズの深さを計測すると「5.5mm (赤色矢印で囲っている領域)」ほどの印象です。

↑近年のマウントアダプタ (M42マウント規格用) には「ピン押し底面」と言うM42マウント規格品オールドレンズの、特に「自動絞り方式」のモデルを対称に「マウント面から飛び出ている絞り連動ピンを強制的に押し込む役目」として、マウントアダプタの内側に棚状に迫り出しが用意されています。

この内側に突出している棚状の部分がオールドレンズ側マウント面から飛び出ている絞り連動ピンをネジ込む際に押し込んでいく為、絞り環操作で設定絞り値まで絞り羽根が閉じるようになります。

この「ピン押し底面の深さ6mm」を上の写真でグリーン色のラインで囲って示していますが、一つ前の写真の計測値「8.45mm」に対し、凡そ3mmほど残すところで干渉し擦れていたことが分かります。

当方で用意するM42マウントアダプタはK&F CONCEPT製品なので、この「ピン押し底面」が樹脂製であり、干渉しても削れるほどの影響を与えにくいです。

↑しかしそうは言っても干渉すればオールドレンズが最後までネジ込めず、無限遠位置が狂う懸念すら現れます(怖)

そこで上の写真のように当方では「ピン押し底面を外しても使えるように処置している」次第です。これにより今回のモデルのように、マウント面の突出が多くても気にする必要なく装着ができ、当然ながら無限遠位置は適正値を執ります(笑)

↑当初「ピン押し底面を取り外す前」時点でネジ込んでいくと、極僅かですが樹脂製の「ピン押し底面」が干渉し始めてネジ込みがキツクなり、最終的に赤色矢印で指し示しているように極僅かな隙間が残ります(汗)

↑一方「ピン押し底面を取り外せる」と、こんな感じで最後まで普通にネジ込めますし、そもそも基準「」マーカーまでちゃんと真上の位置に来ているのが確認できます(笑)

こういう事柄についても研究を怠らずに、こうやってブログだとしても明示してご案内していく姿勢こそが、本当の解説サイトの役目ではないかと思いますね(笑)

なお、ご報告すべき瑕疵内容は残ってません。

オーバーホール/修理ご依頼者様皆様に告知しているとおり、もしもお届けしたオールドレンズの仕上がり状況にご満足頂けない場合は、そのご納得頂けない要素に対して「ご納得頂ける分の金額をご請求金額より減額」下さいませ。
減額頂ける最大値/MAX額は「ご請求金額まで (つまり無償扱い)」とし、大変申し訳御座いませんが当方による弁償などは対応できません・・申し訳御座いません。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

被写界深度から捉えた時のこのモデルの無限遠位置を計算すると「焦点距離58㎜開放F値f2.0被写体までの距離65m許容錯乱円径0.026㎜」とした時、その計算結果は「前方被写界深度33m後方被写界深度∞m被写界深度∞m」の為、40m辺りのピント面を確認しつつ、以降後方の∞の状況 (特に計算値想定被写体の70m付近) をチェックしながら微調整し仕上げています。

・・一言に無限遠位置と述べてもいったいどの距離で検査したのかが不明瞭ですね(笑)

↑当レンズによる最短撮影距離50cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学硝子レンズの格納位置や向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もして います)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f4」で撮影しました。

↑f値は「f5.6」に上がっています。

↑f値「f8」での撮影です。

↑f値「f11」です。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。ごく僅かですが「回折現象」の影響が現れ始めています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。

被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。

焦点移動
光学硝子レンズの設計や硝子材に於ける収差、特に球面収差の影響によりピント面の合焦位置から絞り値の変動 (絞り値の増大) に従い位置がズレていく事を指す。