◎ FUTURA FREIBURG BR. (フーツラ・フライブルク) EVAR 50mm/f2(M34)

(以下掲載の写真はクリックすると拡大写真をご覧頂けます)
写真を閉じる際は、写真の外 (グレー部分) をクリックすれば閉じます

オーバーホール/修理ご依頼分ですが、当方の記録用として掲載しており
ヤフオク! 出品商品ではありません (当方の判断で無料掲載)。
(オーバーホール/修理ご依頼分の当ブログ掲載は有料です)


今回完璧なオーバーホールが終わってご案内するモデルは、旧西ドイツFUTURA FREIBURG製標準レンズ『EVAR 50mm/f2 (M42)』です。

当方カメラ音痴なので、しかもレンジファインダーカメラとなると全く別世界で何の知識もありません(笑) 今回は大変珍しいモデルのオーバーホール/修理をご依頼頂き、この場を借りてお礼申し上げます。ありがとう御座います!

  ●               ● 

Fritz Kuhnert (フリッツ・クーネルト) が1950年に旧西ドイツ南西部のバーデン=ヴュルテンベルク州フライブルク創業のカメラメーカーです。1950年レンジファインダーカメラ「FUTURA STANDARD」を発売し、以降「FUTURA P/FUTURA S/SIII」などを順次発売しますが1957年には会社を売却してしまいます。

マウントはスクリューネジマウント方式を採り「内径:⌀34mm x ピッチ0.5mm」で統一し、広角域35mm〜中望遠域90mmと数多くの交換レンズ群を用意しました。

今回扱うのは標準レンズ「EVAR 50mm/f2」ですが、娘の「Eva (エファ)」にちなんだモデル銘で命名しています。

鏡胴に距離環を有さないので (距離計はカメラボディ側に配置の為)、今ドキのデジカメ一眼/ミラーレス一眼などでピント合わせするには「M34M42ステップアップリング」を介在させる事で「M42ヘリコイドマウントアダプタ」でピント合わせすると使い易いです。

ネット上の某有名処では細かく案内してくれていませんが、注意が必要なのはオールドレンズ側マウントが「ネジピッチ0.5mm」なので、用意するステップアップリングは (正しくは)「M34 x 0.5M42 x 1.0」になり、一般的なフィルター用のステップアップリング (0.75mm) を使うと意味を成さない点です (使用方法を案内するならそこまでちゃんと案内してほしいものです)。
レンジファインダーカメラの世界では当たり前なのかも知れませんが、当方のようなカメラ音痴には事前情報が無いと間違ってしまいます (思いやり大国ニッポンたる日本人ならば、そこまで配慮するのが良心的だと思いますが)。


上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して円形ボケを経て収差ボケへと変わっていく様をピックアップしました。意外にも真っ当でキレイな真円に近いシャボン玉ボケが表出しますが (エッジは決して繊細ではない)、収差の影響を受けてすぐに破綻してしまいます。それでもなかなか素直な円形ボケなので好感を持てます。収差ボケ (右端) は画周辺域の流れが酷く現れるので汚いボケ方にもなりますし、そもそも四隅は僅かですが周辺減光も感じます。

二段目
ピント面 (左端) はエッジの線が細く出てくるのですが合焦が結構鋭いのが手伝い全体的にはインパクトを感じるメリハリ感に仕上がります。特に「空気感/距離感」を留めるリアルな (現場の) 表現性にはオドロキました。白黒写真で見てもこのモデルの素性の良さがダイナミックレンジの広さとしてちゃんと表れています。

光学系は基本成分が典型的な4群4枚エルノスター型構成で、第2群を貼り合わせレンズに変更した「変形エルノスター型」です。ネット上で案内されている構成図とは、各群を計測すると違いがあります。特に第2群は別として第3群は平凹レンズであり、ネット上の両凹レンズとは違います (これ結構重要だと思うのですが)。また最後の第4群 (後玉) も同一曲率の両凸レンズではなくて、絞りユニット側が緩い曲率の両凸レンズです (第3群が違うので後玉も違う)。

従って「エルノスター型」を基本としている光学系だと当方は考察しています。

ちなみに右構成図は一般的な4群4枚エルノスター型構成図を載せました。よく比較対象となるMeyer-Optik Görlitz製標準レンズ「Primoplan 58mm/f1.9」の光学系はそもそも「絞りユニットの配置位置が異なる」ので、当方はPrimoplanの光学系を「エルノスター型からの発展系」とは捉えていません。純粋に唯一無二な「プリモプラン型構成」との考察なので、似たようなカタチの光学系が吐き出す写真を比較するのは良いことだと考えます。

右図は今回バラして清掃時にデジタルノギスで計測しほぼ正確にトレースした構成図です。
当方が計測したトレース図なので信憑性が低い為、ネット上で確認できる大多数の構成図のほうが「」です (つまり当方の構成図は参考程度の価値もない)。
(各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測)

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。鏡胴に距離環 (ヘリコイド:オスメス) が存在しないので内部構造は簡素です。がしかし、組み立てには相応に「原理原則」が必要になるので、いわゆるシロウト整備では「本来のあるべき姿」には至らない難しさがあります。少なくとも技術スキルが低い当方にとっては、この個体のオーバーホールには8時間をキッチリ費やしました(笑)

↑絞りユニットや光学系前後群を組み付ける「絞り環を兼ねる」鏡筒です。光学硝子レンズはこの鏡筒内にバラバラと落とし込みで格納されていきますから、最後の前玉用締付環だけでセットされます。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑13枚もある絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。絞りユニットの前方に「絞りユニット用締付環」をネジ込んでカニ目レンチを使って締め付け固定するだけの設計ですが、これが非常に厄介です。

実は、この「締付環」は正しくは「光学系前群用の硝子レンズ格納筒」なのです。つまり直下の絞りユニットの締め付け固定を代用させた設計概念なのですが、問題なのは絞りユニットがフリーのままで単に「締付環」で締め付ける圧力だけで固定している方式を採っている点です。

つまり「締付環」をカニ目レンチを使ってキッチリ硬締めすると、何と直下の絞りユニットが時計方向に硬締めのチカラで動いてしまうのです(笑)

絞りユニットはフリーのままですから、キッチリ「締付環」で硬締めしないと絞り環操作しただけで一緒に回ってしまうワケです (つまり絞り羽根の開閉動作にならない)。

さらに今回の個体で問題だったのは、当初バラす前のチェックで開放時に絞り羽根が入りすぎていた (引っ込みすぎていた) 為に、絞り環で開放f値「f2.0」から微動させて回してもなかなか絞り羽根が出てきません。f値「f2.8」手前辺りでようやく顔出しする状況でした (つまり簡易検査具でチェックするとその時f2.8よりだいぶ明るめの印象)。

何を言いたいのか?

単に「締付環」を締め付け固定したのでは全くダメで、いちいち光学系を実装して簡易検査具で絞り羽根の開閉幅をチェックしては、またバラして絞りユニットの位置を微調整し、再び「締付環」を硬締めして光学系を実装してチェック・・を繰り返すハメに陥りました(笑)

ところがカニ目レンチで硬締めする際に絞りユニットがククッと微動してしまい、なかなか思い通りの位置で固定されません。まずそれを何度も何度もやり直すだけでイラッとしてきました(笑)

実際は、もう一つ大きな問題が今回の個体には発生しており、その処置も同時進行で講じなければならず、なかなか厄介なオールドレンズになってしまいました(笑)

左写真は非常に薄いアルミ板のようですが、今回の個体をバラした際に隙間から出てきました。おそらく絞り環の間に挟み込んでいたのではないかと推測しますが、バラした際に突然落下した為どこに挟まっていたのか定かではありません。

このモデルは鏡胴側が真鍮製なのですが、絞り環からの鏡筒部分はアルミ合金材です。すると当初バラす際にレンズ銘板を回して外すのですが、キーキー音が鳴ってしまうほどに相当硬い状況でした。おそらくフィルター装着時も少々コツがいるかも知れません。

これらの事から、今回の個体は過去に落下したかぶつけたかフィルター枠部分が極僅かに真円を維持していないと思います (レンズ銘板を外す際に軽くなったりキーキー音鳴ったりとトルクムラが酷いから)。

そして、この非常に薄いアルミ板が入っていた理由は、おそらくその極僅かな変形を改善する為に絞り環と鏡胴との間の隙間に挟んでいたと推測できます。結果、絞り環側の側面はアルミ合金材に相当な「擦れ箇所」が局所的に (実際に削れて) 残っていたので、納得できます。

しかし、これがこの後で大きな問題に至ります・・。

↑完成した絞り環 (鏡筒) は単に鏡胴側にネジ込むだけ (グリーンの矢印) なのですが、この時に光学系の光路長確保をする必要があります。それは鏡筒側面にネジ山が備わっており、且つ8mmもの長さで用意されているので、その分光路長の微調整が必要だと言えます。

つまりここでも光学系前後群を組み付けてはネジ込んで実写チェックし、簡易検査具を使って確認しつつも再びバラしてを繰り返すハメになりました(笑)

ちょっともぅお腹いっぱい状態です (飽きてきた)(笑)

↑この鏡筒ネジ込みで光路長確保する際に問題になったのが上の写真です。当初バラす前の時点では赤色矢印の先に「シリンダーネジ」と言う円柱にネジ山が備わったネジ種 (マイナス切り込みあり) が入っていたのですが、何と絞りユニット側の「開閉環のネジ穴」がバカになっています。

ここで絞りユニット内部の「開閉環」がシリンダーネジによって固定されるので、絞り環を回すと絞り羽根が開閉する仕組みです。

つまり前述の非常に薄いアルミ板が挟まっていたせいで、結局経年使用で絞り環操作した時のチカラが全て「開閉環のネジ穴」に一極集中してしまい、且つ「開閉環」はアルミ合金材なので容易にネジ山が削れてしまいバカになってしまったと推測できます。

当初バラす前の時点は、辛うじてシリンダーネジが挟まっていただけでネジ込まれてはいなかったと考えます (実際組み立て工程でシリンダーネジをネジ込んでも貫通してしまい絞りユニットの中に落ちてしまう)。

アルミ合金材の絞りユニット「開閉環/位置決め環」にやはりアルミ合金材の「シリンダーネジ」を使った設計にしてしまったのが耐用年数を低下する要因になっています。

当初バラす前に光学系内をチェックした際、特に後群側に金属粉に見える微細な塵が複数入っていた理由に納得です (開閉環のネジ山が削れていたから)。

今回のオーバーホールでは仕方ないので「代用ネジ」を用意して異なる締め付け方法で「開閉環」の制御を実現しました (本来の正しい制御方法ではありません)。ネジ山がバカになっている以上、残念ながら正規の方法で「開閉環」を回す方策がありません。申し訳御座いません・・。

修理広告     DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。

↑無事に使える状態まで組み上げることができホッとしました(笑)

↑光学系内はクリアになりましたが、残念ながら第2群の貼り合わせレンズにバルサム切れが生じています。第2群の中心部分だけが辛うじてまだ接着状態なので (光学系を覗き込むと周辺部に虹色のバルサム切れ領域が視認できる) 取り敢えずそのまま格納しました (基本的に当方ではバルサム切れは対処できません)。

↑また第1群 (前玉) と第4群 (後玉) には経年相応にカビが発生しており、菌糸状にカビ除去痕が残っています。その影響からシングルコーティングのコーティング層まで一部剥離しているので、光学系の状態はあまり良くありません (もちろん経年の拭きキズなどはそのままです)。光学系内は微細な「/」に見えてしまいますが「気泡」も複数あります。

↑大変綺麗なほぼ真円状態の「円形絞り」で13枚の絞り羽根もサビなどを落としてキレイになりました。

前述の「非常に薄いアルミ板」は敢えて挟み込んでいません。理由は「開閉環のネジ山がバカになっている」からであり、挟み込むことで「絞り環操作が滑らかになる」としても、逆に (将来的に) 絞り羽根の開閉ができなくなる危険性は高くなるので今回のオーバーホールでは挟み込んでいません。

従って、絞り環操作は「f2.0f2.8」間が極度に重くなります (f2.8〜f16間は軽い)。それでおそらく「真円を維持していない」と踏んでいますが「開閉環」に使った「代用ネジ」が再び外れてしまったら、今度は「製品寿命」に至るので (これ以上ネジ穴が削れて広がったらもう適合する径の代用ネジが入らない/スリットのサイズに合わなくなるから) 仕方なくこのような処置に至りました。申し訳御座いません・・。

↑絞り環側は「光沢研磨」したのでピッカピカになりましたが、鏡胴側は真鍮製なので「磨きいれ」していません (剥がれるから)。ローレット (滑り止め) をキレイに洗浄して刻印指標値を着色し視認性をアップしています。

↑光学系第2群のバルサム切れの影響がどうしても現れるので、光学系内がクリアになったにしてはコントラスト低下が著しい印象です。申し訳御座いません・・。

↑当レンズによる開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります (簡易検査具による光学系検査を実施済で偏心まで含め光軸確認は適正/正常)。

ご覧のように光学系内の経年によるカビ除去痕やコーティング層の劣化の影響、及びバルサム切れの問題からコントラスト低下を招いていますが、ギリギリ画像編集ソフトなどを使えば真っ当な写真に至る期待が持てる写りです。特に白黒写真で撮影するならさらに有利になると思います。

光路長をちゃんと何度も組み直しつつ確保したのでピント面は鋭くなりました(笑) アウトフォーカス部や画の周辺域の収差による乱れ方が何とも魅力的なモデルだと感じました。ハロの現れ方にも雰囲気があり好感が持てます。

↑絞り環を回してf値「f2.8」で撮っています。

↑さらに回してf値「f4」で撮りました。

↑f値は「f5.6」に変わっています。

↑f値「f8」です。

↑f値「f11」になりました。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座います。