◎ FUJI PHOTO FILM CO. (富士フイルム) EBC FUJINON 55mm/f1.8《後期型》(M42)

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※解説とオーバーホール工程で使っている写真は現在ヤフオク! 出品中商品の写真ではありません

今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルはもフジカ製
標準レンズ・・・・、
EBC FUJINON 55mm/f1.8《後期型》(M42)』です。


フジカ製FUJINONレンズは毎月必ず市場をチェックしていて調達の機会を狙っているのですがイザッこのグリーン色 (ブルー色) の光彩を放つ個体を探そうとするとなかなか市場に出回りません (前回手に入れることができたのはちょうど半年前/そのつもりで調達しても届くと普通の光彩だったりするから)。

一般的に市場に多く流れているタイプは、左写真のような「パープルアンバー」な2色の光彩を放つコーティング層が蒸着されています。

これがノーマルで光学系は前後群共に同じ2色の光彩を放っています。どんなに見る角度を変えても、或いはLED光照射でも次の3色目の輝きを放ちません(笑)

一方こちらの左写真の個体は、見る角度によって3色目のグリーン色 (ブルー色) の光彩を放ちます。

もちんノーマルと同じ「パープルアンバー」な2色の光彩しか放たない角度もありますが、いろいろと角度を変えて覗くと特定の角度で
ご覧のように光り輝きます。

実際にバラして光学硝子レンズを1枚ずつ清掃している時に確認しているので間違いないのですが、オモシロイのは同じグリーン色 (ブルー色) の光彩を放つ個体でも、前玉/後玉の各裏面のみに限定してグリーン色 (ブルー色) の光彩を放つコーティング層が蒸着されている場合と、プラスα第2群と第3群の貼り合わせレンズ表面にまで蒸着されている場合の2種類が存在します (つまり3色目のグリーン色 (ブルー色) の濃さが変わってくる)。

貼り合わせレンズ
2枚〜3枚の光学硝子レンズを接着剤を使って貼り合わせて一つにしたレンズ群

そして、このグリーン色 (ブルー色) の光彩を放つことで、ではいったい写真に対してどのような効果が期待できるのか? 或いは何が違うのか? と言う疑問が湧いてきます。しかし、残念ながら当時のフジカのレンズカタログを見てもコーティング層に関する記載はマルチコーティングの「EBC (Electron Beam Coating)」のことしか記載されていません。

例えばこの当時の他社光学メーカーのオールドレンズでも、似たようにグリーン色 (ブルー色) の光彩を放つモデルが幾つも存在します。その中でLeicaやMINOLTA、或いはNikonなどカタログや説明書にはヒントとなる記載がありました。最も明確に記載していたのはMINOLTAで「アクロマチックコーティング (AC) 」として解説しています。確かにMINOLTAのオールドレンズは一部に「緑のロッコール」と俗に呼ばれ続けていたモデルが多く存在し、そのモデルに「アクロマチックコーティング (AC) 」が蒸着されています。

その目的は、人間の目で見たより自然な (よりリアルな) カラーの再現性を追求していたようです。そしてこの技術はそのままLeicaとの技術提携によりライカレンズにも一部採用されていたようですね。

このMINOLTAの「アクロマチックコーティング (AC) 」も今回のFUJINONもグリーン色 (ブルー色) の光彩を放つコーティング層は必ず「パープルアンバー」の次、つまり最後に蒸着されています。

どうしてそのように明言できるのかと言うと、MINOLTAのオールドレンズの光学硝子を清掃していてコーティング層の経年劣化が進行しているとグリーン色 (ブルー色) の光彩を放つコーティング層が清掃しただけで剥がれてしまいます。その結果、グリーン色 (ブルー色) の光彩を放つコーティング層の下から出てくるのが「パープルアンバー」のコーティング層だったからです (EBC FUJINONでも剥がれてパープルアンバーだけになってしまったことがある)。

つまり「パープルアンバー」のコーティング層の上にグリーン色 (ブルー色) の光彩を放つコーティング層を蒸着することで、より自然な色再現性を狙っていたことになります。

そもそも光学硝子レンズに光が入射した時に光が反射してしまう「表面反射」が必ず生じます。光学硝子レンズの1つの面当たり必ず4%ずつ反射してしまうので、光学硝子レンズには表裏がある為に1枚の硝子レンズを入射光が透過した時8%分が減じられる計算になります (1枚目の光学硝子レンズを通過すると92%分の光しか次の2枚目の硝子レンズには到達しない)。
従って光学硝子レンズの枚数分入射光が減じられるので、表面反射を可能な限り低減させる目的、及び収差改善や解像度向上目的でそれぞれのコーティング層を蒸着しての入射光の透過率を上げているワケです。

では、どうしてコーティング層はいろんな色合いで見えるのでしょうか? 一番良い例が最も多い「パープルアンバー」の2色のコーティング層蒸着ですね。

それはそもそも「」を扱う道具なのがオールドレンズですから、自ずと入射光を記録する方法に辿り着きます。つまり人の目で見た色合いを記録しようとした時、それは「総天然色」としての光の割り振りになるので「光の三原色」と言う概念に至ります。つまり「光を波動 (波長) として扱う」ことで総天然色に割り振って記録する概念ですね。すると当時は「」の3色で総天然色を記録していましたが、現在はデジタルとして「」つまり「RGB」によって総天然色を記録保存しています (最新技術ではRGBYの4原色を使う場合もある)。

このように「波動 (波長)」として扱うと、オールドレンズに入ってきた入射光も当時は「」の反射を防げば良いことになるので「パープルアンバー」は「」に対して光学硝子レンズの表面反射を防いでいたことになります (パープルの両方に対応)。

この時、光学硝子レンズの特定箇所のコーティング層を覗き込むと、見る角度によってパープルになったりアンバーになったりします。もしも仮にこれが光学硝子レンズの特定箇所が1色しか光り輝かないとすると、それは斑模様の光彩になってしまいますね(笑) つまり同じ箇所なのに見る角度で2色の色合いに光彩を放つとすれば、それは「2色のコーティング層が蒸着されている (つまりパープルアンバー)」ことにならなければ説明できません (2つの波長があるから見る角度で異なる)。

と言うことは「シングルコーティング」ではなく「モノコーティング」であると言えるのではないでしょうか? シングルコーティングは業界用語では「単層膜コーティング」と呼び、その複数形は「複層膜コーティング」です。すると見る角度によって光学硝子レンズの特定箇所が「パープルアンバー」に光り輝くのだとすると、それはシングルコーティングではなく「モノコーティング (複層膜コーティング)」と考えなければ説明できません。

つまり2種類の資料 (基となる原材料) を使って「パープルアンバー」の2種類のコーティング層を蒸着しているからこそ、見る角度の相違で同一箇所が2つの光彩を放つのだと説明できます (従ってモノコーティング)。

例えばネット上の解説では旧東ドイツの「ZeissのT」コーティング「パープルアンバー」を
シングルコーティングと呼ばないでほしいとちゃんと解説しいらっしゃる方が居ますから、
さすがです!

結局グリーン色 (ブルー色) の光彩がどうして必要なのかは「より自然な色再現性の実現」からさらに具体的になりませんが(笑)、考えるにグリーン色 (ブルー色) のコーティング層蒸着に
より「GB成分」をさらに残した状態で入射光を透過させることで、人間の目で見た自然な景観表現に近づけようという狙いが合ったのかも知れません (例えば景色を見た時に遠方が青味がかって見えることがある/森や植物などの色合いに人は反応する)。

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ネット上の解説などを見ているとこの「EBC」が本当に11層も蒸着されているのか?と言う疑念が載っています。具体的にコーティング層 (蒸着層) の数を明記しているサイトが少ない為ですが、それは当時のカタログにちゃんとメーカー自ら記載しているので間違いありません。

左写真は当時のフジカ (富士フイルム) から発売されたフィルムカメラ「ST901 (1974年発売)」のレビュー記事から引用したものですが、 部分に11層の蒸着であることが記載されており、且つ99.8%もの入射光透過率を実現していると謳っています。

また自社内に於けるコーティング層蒸着による入射光透過率テストで光学硝子レンズの面数が「2面」の時、非コーティングの場合 (ノンコーティング) 透過率は90%であり、シングルコーティング時は96%に上がって3層コーティング時に99%まで向上していることが示されています。この時「EBC」コーティングでは99.6%と言う驚異的な数値です。

光学硝子には必ず表裏の2面が存在するので入射光が透過する際の表面反射で片面約4%ずつ減じられてしまいます (つまり表裏で合計約8%減)。それが僅か0.4%減に抑えられているワケですから当時としては相当なコーティング技術だったのではないかと考えています。

右はその当時1974年に印刷された富士フイルムのカタログに記載されている内容です。「EBC」コーティング層が11層であることと透過率公称値が「99.8%」と記載されており前述のレビュー記事と一致しています。そして「フレアを撲滅した」とまで謳っているワケで相当な自信が伺えます。

ちなみに、この当時の旭光学工業が1976年に発売したフィルムカメラ「PENTAX K1000」のカタログを見ると「SMC (Super-Multi-Coated」のコーティング層蒸着数が7層であることを謳っています ( 部分)。しかし透過率まで記載していません (前出の富士フイルムのカタログは1974年発売当時のもの)。

当時の海外勢光学メーカーとの対比でコーティング層技術を考えれば7層でも充分なくらいだと考えますが、その中にあって11層の「EBC」はまさに神業だったのかも知れません。富士フイルムに於けるその技術はまさにフィルムメーカーたる賜物であり (フィルム面への薬剤蒸着技術) 畑違いの光学メーカーにとっては敵う相手ではなかったのかも知れませんね。

そして当時世界で4社しか作れなかったフィルム技術は4つのコア技術「ナノ乳化/ナノ分散技術マイクロカプセル技術コーティング技術製膜技術」として今現在も延々と受け継がれており、その研究成果は医療関係にまで及んでいるから本当にオドロキものです。猛威を振るっているエボラ出血熱のワクチンを世界で最初に開発したのは他ならぬ富士フイルムであり、しかも一番最初に現地に提供したと言う即応性の高さがまさに「技術の証」そのものではないでしょうか。他社光学メーカーには一切真似できるものではありませんね (一応OLYMPUSは医療関係のシェアが最も高い/イメージング部門の収益率は微々たるもの)。

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今回のモデルは、1974年に当時のフジカ (現富士フイルム) から発売されたフィルムカメラ「ST901」用に用意された交換レンズ群の中の標準レンズで、このシリーズとしては「後期型」になります。

【モデルバリエーション】
オレンジ色文字部分は最初に変更になった要素を示しています。

初期型:1970年発売 (ST701用)

コーティング:モノコーティング
開放測光用の爪:無
距離環ローレット:金属製
レンズ銘板:金属製

初期型:1970年発売 (ST701用)

コーティング:モノコーティング
開放測光用の爪:無
距離環ローレット:金属製
レンズ銘板:金属製

前期型:1972年発売 (ST801用)

コーティング:マルチコーティングEBC
開放測光用の爪:
距離環ローレット:ラバー製
レンズ銘板:プラスティック製

後期型−Ⅰ:1974年発売 (ST901用)

コーティング:マルチコーティング「EBC
開放測光用の爪:有
距離環ローレット:ラバー製
レンズ銘板:プラスティック製

後期型−Ⅱ:1974年発売 (ST901用)

コーティング:モノコーティング
開放測光用の爪:有
距離環ローレット:ラバー製
レンズ銘板:プラスティック製

各バリエーション発売年度と発売時に対象としたフィルムカメラのモデル銘を併記しました。特に「後期型−Ⅰ」に関しフィルムカメラ「ST801」と同時に発売されたと解説しているサイトがありますが正しくは「ST901」発売のタイミングで登場したのであり「ST801」発売当時に存在していたのは「前期型」のほうのタイプになります (筐体デザインが異なる)。

あくまでも「FUJINON 55mm/f1.8」シリーズの進化と捉えると上のようなバリエーションの展開が見えてくるワケですが、この他に廉価版のモデルが存在しています。

「FUJINON 55mm/f2.2」1976年発売 (ST601/ST605用)
コーティング:モノコーティング
開放測光用の爪:有
距離環ローレット:ラバー製
レンズ銘板:プラスティック製
筐体:プラスティック製

「FUJINON 55mm/f1.6」1978年発売 (ST705W用?)
コーティング:モノコーティング
開放測光用の爪:有
距離環ローレット:ラバー製
レンズ銘板:プラスティック製
筐体:プラスティック製

これら廉価版モデルは光学系構成が異なっており「FUJINON 55mm/f1.8」とは全くの別モノです。この廉価版モデルを富士フイルムから発売されたフィルムカメラ「ST701〜ST605II」までの時系列の中で捉えると意外なことが判ってきます。

バリエーションの中で「FUJINON 55mm/f1.8」シリーズのを附した「後期型−Ⅱ」については本来コーティング層をモノコーティングにして価格を僅かに安く控えた廉価版モデルとして登場させたつもりだったのでしょうが市場は反応せず結果として出荷台数は伸びなかったようです。そこで新設計による本格的な廉価版モデルを用意したのが「FUJINON 55mm/f2.2」だったのかも知れません。従って「後期型−Ⅱ」の位置付けとしてはモノコーティングとして括り「初期型」→「後期型−Ⅱ」としたほうが分かり易いと思います。

ちみなみにを附したモデルは「初期型」の単なるカラーバリエーションのひとつ「ブラックバージョン」なのでモデルの変遷に入るワケではありませんが、ネット上の解説でバリエーションとして捉えているサイトもあるので敢えて確認のために載せておきました。

   
   

上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
左端からシャボン玉ボケが破綻して円形ボケへと変わっていく様をピックアップしています。光学系構成がダブルガウス型構成なので、そもそも真円でエッジが明確に出てくるシャボン玉ボケの表出が苦手のハズなのですが、一応標準レンズ並に精一杯表出できています。

二段目
背景の円形ボケはやがて滲んでトロトロにボケていきます。従ってピント面のエッジが強調的に表現されるので非常にインパクトの強い写真を残す事もできます。被写体の素材感や材質感を写し込む質感表現能力に優れ、人物撮影も十分対応できます。

三段目
左端のこのグラデーション表現がこのモデルのポテンシャルの高さを示していると考えます。現場の距離感や空気感までも感じさせる立体的な写真も得意です。

光学系は典型的な4群6枚のダブルガウス型構成です。右図は今回バラして清掃時にデジタルノギスで計測してほぼ正確にトレースした構成図です (各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測してトレースしました)。

なお、このモデルの光学系を清掃していて最近思うのは、特にコーティング層の経年劣化進行がそろそろ限界に達しているのではないかと考えています。と言うのも、オールドレンズの光学硝子面を清掃していると、モデルや個体別にコーティング層の「滑らかさ」が違って感じます。それはいまだに大変滑らかに清掃できるモデルがあるとすれば、逆に清掃時に「抵抗/負荷/摩擦を強く感じる」場合があります。この当時のフジカ製モデルは総じてどの個体を清掃していてもコーティング層の抵抗/負荷/摩擦を感じる事が多いように考えますね。

ちなみにこの「コーティング層表層面の抵抗/負荷/摩擦」とは当方の考察では、コーティング層の (表層面の) 経年劣化進行に伴うクラック (極微細な亀裂/破壊/剥離) が大きく影響しているのではないかと考えています。従っていずれは清掃している時に剥がれていく運命にある箇所とも考えられます。

従って、今後さらに50年の歳月を現状のコーティング層を維持したまま経過することを期待できそうもありません。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。

【注 意】
ここから先のオーバーホール工程で使っている掲載写真は全て過去の別の個体を組み立てた際の写真になります (今回出品する個体の写真ではありません)。当ブログ契約サーバーの容量の問題から毎回写真掲載するのをやめています。
(上の全景写真のみ今回出品個体の構成パーツを撮影した写真になります)

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) です。

絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。

位置決めキー
位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー

開閉キー
開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー

位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)

開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環

↑6枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。

↑完成した絞りユニットをひっくり返して裏側を撮影しました。

絞り環を回すとことで「制御環」が連動して回り絞り羽根の開閉角度が決まるので、マウント面の「絞り連動ピン」が押し込まれることで絞り羽根の「開閉キー」が瞬時に移動して「位置決めキーを軸にして絞り羽根の角度が変化する (つまり開閉する)」のが絞り羽根開閉の原理です。

また絞り羽根の開閉制御を司る「チカラの伝達」手法として「アーム」が用意されており、
開閉アーム/制御アーム」の2種類により具体的な絞り羽根開閉動作を実現しています。

開閉アーム
マウント面絞り連動ピン (レバー) が押し込まれると連動して動き勢いよく絞り羽根を開閉する
制御アーム
絞り環と連係して設定絞り値 (絞り羽根の開閉角度) を絞りユニットに伝達する役目のアーム

絞り環を回すと連動して「制御アーム」が移動して途中にある「なだらかなカーブ」の位置が変化します。するとマウント面の絞り連動ピンが押し込まれた時点で「開閉アーム」が勢いよく操作され「カム」がなだらかなカーブの勾配に突き当たることで絞り羽根の開閉角度が決まっています。上の写真では「なだらかなカーブ」の麓部分に突き当たっているので最小絞り値まで絞り羽根が閉じています。

↑完成した絞りユニットを鏡筒に組み込みます。

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。

↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で7箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑この状態で基台をひっくり返して裏側を撮影しました。鏡筒から飛び出ている2本のアーム「開閉アーム/制御アーム」がマウント部内部へと連係していきます。「直進キー」が既にセットされているのでヘリコイドのトルク調整が終わっています。

↑マウント部内部の各構成パーツを取り外して当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮っています。今回の個体は潤滑油「呉工業製CRC5-56」がこのマウント部内部にまで注入されており、一部に腐食/サビが生じ、且つ粘性を帯びていた為にすべて溶剤漬けして完全除去しています。

↑外していた各構成パーツも個別に「磨き研磨」を施し表層面の「平滑性」を確保して組み付けます。マウント面から飛び出ている「絞り連動ピン」が押し込まれると (ブルーの矢印①) その押し込まれた量の分だけ「開閉」が移動します ()。

従って、フィルムカメラに装着するなら問題が発生しませんが、マウントアダプタ (ピン押し底面タイプ) 経由装着する場合に留意する必要があります。

ピン押し底面の深さが深すぎるマウントアダプタの場合
絞り連動ピンの押し込み量が足りなくなるので絞り羽根が最小絞り値まで閉じきらない不具合が発生する懸念がある。

ピン押し底面の深さが浅すぎるマウントアダプタの場合
絞り連動ピンの押し込み量が多すぎる為に必要以上のチカラが伝わってしまい「開閉爪開閉アーム」を伝わって絞りユニットまで伝達されてしまう。結果絞り羽根の開閉異常に至る。

さて、ここで今回の個体が過去メンテナンス時に「ごまかしの整備」が施されていた証拠を解説していきます。上の写真でグリーンの矢印で指し示した箇所には「捻りバネ (2本)」が使われています。それぞれ絞り羽根が「常時開こうとするチカラ」と「常に閉じようとするチカラ」が及ぶ相反するチカラのバランスの中で絞り羽根が正常に開閉する仕組みです。

左の写真はその「捻りバネ (2本)」だけを取り出して並べて撮影していますが、オリジナルの状態を撮っています。

互いに反発するチカラを与える為に「捻られることでチカラを及ぼす」原理なのですが、工場製産時点では左のカタチになっています。

一方左写真は今回の個体にセットされていた「捻りバネ (2本)」ですが、片方の捻りバネだけが赤色矢印の箇所で故意に (ワザと) 曲げられています。

こうするとことでオリジナルの状態よりも「さらに強い反発力を与える」目的で曲げているワケですが、製産時点 (設計時点) を逸脱したチカラを及ぼすよう処置されていることになります。

何を言いたいのか?

つまりおそらく過去メンテナンス時に「絞り羽根の開閉異常」が発生していたと推測できるのですが、その因果関係をちゃんと調べて原因を突きとめ、その改善処置を執らずに「安直に捻りバネを曲げてしまうことで改善させる」目的で故意に曲げてしまったワケです (より強いチカラを及ぼすことで絞り羽根の開閉動作を改善させようとしている)。

はたしてこのような処置が「正しい所為」と言えるのでしょうか?

当方にはとてもこのような行為は許せません。実は、現在ヤフオク! に出品中の別件モデルも似たような処置が施されていました (やはりマウント部内部捻りバネに細工が施されていた)。

今回の個体もヘリコイド (オスメス) の塗られていたヘリコイドグリースは「白色系グリース」であり、既に経年劣化から「濃いグレー状」に変質し僅かに粘性を帯びていました。その状況から5〜6年以内の過去メンテナンスだったのではないかと推測できますが、実際内部には至る箇所に「緑色の固着剤」が塗られており、相当神経質に (本来必要ない箇所にまで) 固着剤で止めていました(笑)

これらの事実 (捻りバネへの細工/ヘリコイドグリース/固着剤の使い方) から過去メンテナンス時の整備者は素人ではなく「プロの仕業」と判定できます。何故なら、この「捻りバネ (2本)」のうちのどちらを、さらに左右のいずれを何処の位置で曲げれば、どのようなチカラが及ぶのかを知っている整備者の仕業です。

このような事柄が分かる整備者は「プロ」以外考えられません。

仕方なく今回のオーバーホールでは当方にて再び本来の正しいカタチに「捻りバネ (2本)」を戻してから組み込んで使っています。

逆に言うと、過去メンテナンス時にこのような「ごまかしの整備」をしていたのに、今回の
オーバーホールでどうして元に戻しても問題なくちゃんと絞り羽根が動くのか?

・・そのような疑念が湧いてくるのではないでしょうか(笑)

それは過去メンテナンス時に発生していた「絞り羽根の開閉異常」の根本的な原因を、今回のオーバーホールで当方が自ら探索して突きとめたからです。何のことはなく、過去のメンテナンス者のごまかしの尻ぬぐいまでさせられているハメに陥っています(笑)

その根本原因さえ排除してしまえば、絞り羽根は何ら問題なく再び製産時点と同じような抵抗/負荷/摩擦の無い状況でちゃんと動いてくれます。

このような感じで、個体別にバラしながら「観察と考察」から導き出された因果関係に基づき「原理原則」に則り適切な処置を施すことで、本来の正しい状態に戻すことが叶っているワケです。

決して「ごまかしの整備」を行う必要性がありませんね(笑)

如何ですか? 今ドキの整備会社の中にもこのような「ごまかしの整備」を平気で行っている会社が存在するワケで (少なくとも5〜6年のスパンの話) 外からは一切見えないのでバレることがありませんが、ちゃんと整備している人間がバラしてしまえば全ては白日の下に曝される話です(笑)

↑完成したマウント部を基台にセットします。

↑指標値環を組み付けます。

↑距離環を仮止めして光学系前群を組み付けてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

DOHヘッダー

ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑ちょっと珍しいグリーン色 (ブルー色) の光彩を放つフジカ製標準レンズ『EBC FUJINON 55mm/f1.8《後期型》(M42)』です。

見る角度によっては (光に反射させる角度によっては) 、左写真のように一般的な個体と同じようにパープルアンバーの輝きしか放ちません。

逆に言うと、一般的な個体のパープルアンバーは、どんなに向きを変えて光に反射させても3色目のグリーン色 (ブルー色) の光彩に輝くことはありませんね。

すると、一般的な個体以上に趣の異なる写真が撮れると言う話になってきませんか?当方の狙いはそこにあります。「パープルアンバーだけしか光らない個体で撮れない写真を撮ってみたい」と言う気持ちが働いているので、敢えてこのような個体を手に入れてオーバーホールしてヤフオク! 出品しています。↑光学系内は非常に透明度が高い状態を維持しています。LED光照射でもコーティング層の経年劣化に伴う極薄いクモリすら皆無です。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑光学系後群も非常に透明度が高い状態を維持しています。特に後玉表面側にLED光照射で浮き上がるカビ除去痕に伴う極微細な点キズが少々多めです。LED光照射した時にパッと見で「極微細な塵/」に見えますが、3回清掃しても除去できないカビ除去痕に伴う極微細な点キズです (極薄いクモリではありません/非常に微細な点キズの集合です)。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(LED光照射で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:13点、目立つ点キズ:7点
後群内:20点以上、目立つ点キズ:17点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内僅か)
(第2群表側に極微細な2cm長他短め数本あり)
・バルサム切れ:なし (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内の透明度が非常に高いレベルです。
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・光学系後玉に極微細な塵/埃に見えるカビ除去痕が無数に残っており順光目視ではほぼ見えにくくもLED光照射で全面に渡って浮かびあがります。
・光学系内のコーティング層には一部に拭き残しのように見えてしまうコーティング層経年劣化が線状に見る角度により光に反射させると視認する事ができますが拭き残しではありません。
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑6枚の絞り羽根もキレイになり絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じていく際は「完璧に正六角形を維持したまま」閉じていきます。

ここからは鏡胴の写真ですが、経年の使用感をほとんど感じさせない大変キレイな状態を維持しています。当方による筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度と軽め」を使い分けて塗布し距離環や絞り環の操作性は非常にシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「軽め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。
・マウント部内部の爪が内部でアームを掴んだままなので距離環を回してピント合わせする際にカリカリ音が聞こえますが将来的に不具合の要素にはなりません。
マウント面に「開放測光用の爪」が1mm程突出しています。「切削」が必要な方はご落札後の一番最初のメッセージにてご申告下さいませ。
別途「作業料2,000円」を送料欄に加算の上お支払い頂きます。
再度マウント部を解体後に切削し着色後に発送します(発送が数日遅延します)

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。
当方出品は附属品に対価を設定しておらず出品価格に計上していません(附属品を除外しても値引等対応できません)。

↑鋭くカリカリのピント面を構成し元気の良い鮮やかな発色性が魅力で、いまだに人気が絶えないフジカ製標準レンズ『EBC FUJINON 55mm/f1.8《後期型》(M42)』です。お探しの方は是非この機会にご検討下さいませ。

コーティング層を光に反射させて覗き込む角度を変えると、左写真のようにグリーン色 (ブルー色) の光彩を放ちます。

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません

↑マウント面にこの当時のフジカ製フィルムカメラに装着して機能する「開放測光用の爪」をワザと残したまま仕上げていますから、フィルムカメラでご使用の方にはお勧めですね。

もしもマウントアダプタ (ピン押し底面タイプ) 経由デジカメ一眼/ミラーレス一眼に装着される場合は、マウント面の「開放測光用の爪」を当方にて切削しキレイに着色処理しますので、必ずご落札後の一番最初の取引ナビメッセージにてその旨ご案内下さいませ

再び一旦バラして絞り環だけを取り出し「爪」のみ切削するのでとてもキレイに削れますし、もちろんちゃんと目立たないよう着色します (装着するマウントアダプタ側に擦りキズが付いたりしません)。作業料として別途「2,000円」を申し受けます (発送が数日遅延します/作業料はヤフオク! の送料欄に加算してお支払い下さいませ)

↑当レンズによる最短撮影距離45cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

なお、この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります。しかし簡易検査具による光学系の検査を実施しており光軸確認はもちろん偏心まで含め適正/正常です。

↑絞り環を回して設定絞り値「f2.8」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f4」で撮りました。

↑f値は「f5.6」に変わっています。

↑f値「f8」になりました。

↑f値「f11」です。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。「回折現象」の影響が出始めています。

 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。