◎ Konishiroku (小西六) Hexanon 50mm/f1.9《後期型》(L39)
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千代田商会がライゼ光学に委託製産させて発売したバルナックライカ判レンジファインダーカメラ「Chiyotaxシリーズ」の最終モデル「Chiyotax IIIF」のセット用標準レンズとして、当時の小西六 (KONICAの前身) から供給されたモデルが今回初めて扱う『Hexanon 50mm/f1.9《後期型》(L39)』です。
コニカの歴史は相当古く、何と明治6年 (1873年) に東京麹町で米穀商「小西屋」を営んでいた6代目杉浦六右衛門が、25歳の時に当時の写真館で撮影した写真に感動し写真材料の扱いを始めたのが原点です。その後東京日本橋に写真材料と薬種を扱う「小西本店」を開業したのが創設になります。
それから30年後の明治36年 (1903年) 国産初のブランド付カメラ『チェリー手提用暗函 (6枚の乾板装填式)』国産初の印画紙「さくら白金タイプ紙」を発売しました (左写真)。
その後大正12年 (1923年) 現在の東京工芸大学の前身「小西写真専門学校」を創設し、昭和11年 (1936年) に株式会社小西六本店と社名変更しています (後のコニカ株式会社)。
今回扱う『Hexanon 50mm/f1.9《後期型》(L39)』には「前期型」が存在します (左写真)。
実装光学系の仕様などは同じですが、フィルター枠径が「⌀39.5mm」と特殊形になっているようなので (未扱い品に付未確認)、レンズ銘板の厚みからもしかしたら光学系第1群 (前玉) の外径サイズ自体が違うのかも知れません。
と言うのも、今回オーバーホールの歳に完全解体してバラした時に光学系の清掃でデジタルノギスを使って逐一計測するとビミョ〜にネット上掲載の構成図とは違っていたからです。
右図はネット上に掲載されている構成図をトレースしたものです。
一方右図は今回のオーバーホールで当方が計測した実測値をもとに トレースした構成図になります。
特に第2群の外径サイズが全く違っており当然ながら曲率も変わっている事になってしまいます。硝子レンズの外径サイズなので計測ミスしようがないことと、凹面の落ち込みも同様デジタルノギスで計測しているので硝子レンズのコバ端からの落ち込み度で適正な曲率に至ります。
上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
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※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています/上記掲載写真はその引用で あり転載ではありません。
◉ 一段目
左端から円形ボケが破綻して滲んでトロトロボケへと変わっていく様をピックアップしています。諸収差の影響から真円でキレイなシャボン玉ボケの表出は難しいようですが、そうは言ってもアウトフォーカス部の滲み方が階調豊かに溶けていくので、却って真円の度合いなどが気にならなくなっています。また開放f値「f1.9」から「f4」まではフード未装着時に相応にフレアの度合いが増すので、確かに上の実写のような印象に至ります。
◉ 二段目
一方f値を上げると (特にf5.6から) 左端のようなパキッパキのコントラストで明確にインパクトが増す写真になるワケで、この違いがまた堪りません(笑) 赤色の発色性も一層惹き立って印象的です。人物写真も1955年に登場したオールでこれだけリアルに残せれば十分なのではないでしょうか。被写界深度も相応に浅く/狭く背景の液体ボケが「背景効果」に仕上がっています。
オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造はこの当時の他社光学メーカー製オールドレンズ同様「真鍮 (黄銅) 製」のズッシリと重みを感じる筐体です。このモデルは鏡胴が「前部/後部」の二分割式なので、ヘリコイド (オスメス) は鏡胴「後部」側に配置されますが、マウント規格がライカ判ネジ込み式「L39」マウントなので、必然的に「距離計連動ヘリコイド」わ持っています。
つまりダブルヘリコイド方式になるワケですが、これだけコンパクトな筐体サイズで仕上げようとすると必然的に「空転ヘリコイド」を含んでくるので「グリースに頼った整備」を続けるとどんどん真鍮 (黄銅) 材の酸化/腐食/錆びを促す結末に至ります。
↑光学系が5群6枚のウルトロン型構成ですが、意外にコンパクト鏡筒です。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある) その「キー」に役目が備わっています (必ず2種類の役目がある)。製産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環 (リング/輪っか)
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
今回の個体は残念ながらこの絞りユニットに問題を抱えています。おそらく過去の一時期に於いて「絞り羽根の油染みが進行して粘性を帯びていた時期がある」ようで、3枚の絞り羽根に過去膨張していた痕跡が残っています。
開放状態も最小絞り値で上の写真のように閉じきっている時も互いに各絞り羽根が重なり合うワケですが、開放時は格納されている状態にしても最小絞り値の時は絞り羽根の両端を支点として「膨れあがる現象」が発生します。これは油染みに粘性を帯びてくると界面原理が働き重なり合う箇所と露出する箇所とで絞り羽根開閉のチカラ伝達時に応力により中心部が上方向に膨れあがります。
従ってその時に絞り羽根の両端にプレッシングされている「キー」が垂直を維持できなくなり「斜めに曲がる/変形」に至ります。結果「開閉環側のスリットに対してキーの傾きが抵抗/負荷/摩擦の増大を促す」因果関係から「絞り羽根が引っかかって瞬間的に浮き上がる」現象に至ります。
この個体では3枚の絞り羽根が浮き上がります。チェックすると確かに両端の「キー」が既に垂直を維持していないワケですが、この当時の絞り羽根のプレッシングは下手にイジると「キー脱落 (つまりキーが穴から抜けてしまう)」に至るので、申し訳御座いませんがこれ以上処置できません。
絞り羽根側の「キーを垂直に戻せない」ので仕方なく該当箇所の「開閉環側スリットを極僅かに磨き研磨」を行い、可能な限り改善させていますが、現状オーバーホール後の状態として「絞り羽根を閉じていくと時々膨れあがる」不具合が発生します。
しかしそのまま絞り環操作で一旦戻して (絞り羽根を広げて) など行うとその状態に至らず「平坦なまま最小絞り値まで閉じる」状況です。
従って絞り環操作で膨れあがる絞り羽根を平坦に戻すしか方法がありません。申し訳御座いません・・。
↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。写真上側が前玉側方向になます。「開閉環」の真鍮 (黄銅) 製なのですが、おそらく絞り羽根の「キー」との材質の相違から抵抗/負荷/摩擦が及ぶのだと推測しています。
↑絞り環用の基準「●」マーカーと刻印されている各絞り値との整合性を執って微調整済です。
↑このモデルも絞り環操作時にカチカチとクリック感を伴いますが、どちらかと言うとカチカチと言うよりも「カツンカツン」みたいなとても小気味良いクリック感の印象です(笑) そしてその感触を生み出しているのは「銅板の板バネ」を使った鋼球ボールの反発力です。
↑鏡胴「前部」は残すところ光学系前後群を組み付けるだけなので、ここからは鏡胴「後部」の工程に移ります。上の写真はマウント部ですが真鍮 (黄銅) 製の削り出しで「直進キーガイド」が用意されています。
↑ライカ判ネジ込み式マウント「L39」なので「距離計連動ヘリコイド」を包括するダブルヘリコイド方式を採っていますね。するとグリーンの矢印で指し示した箇所が互いに「鏡面仕上げ」なのですが、そのような処置を施さないので過去メンテナンス時には「白色系グリース」を塗ってごまかしています(笑)
従ってこのような真鍮 (黄銅) 製パーツは当初バラした直後は経年の酸化/腐食/錆びにより「焦茶色」に変質しており、同時に酸化/腐食/錆びから「平滑性が失せている」状況と言えます。そこにまたグリースを塗ったくると余計に接触面が摩耗していくので、次第に「グリースでは平滑性をキープできなくなる」結果に至り、要は経年による摩耗でトルクムラや重いトルク感に仕上がってしまいます。
↑もちろん当方のオーバーホールではちゃんと「鏡面仕上げ」に戻して、本来あるべき姿として各構成パーツも「限りなく製産時点に近い状態」で組み上げられています(笑)
やはり真鍮 (黄銅) 製の「直進キー」が前述のガイド部分に刺さって、距離環を回す「回転するチカラ (ブルーの矢印①)」がここで「直進動 (ブルーの矢印②)」へと変換されチカラが伝達されていきます。
◉ 直進キー
距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目
◉ 空転ヘリコイド
オスメスのネジ山を有さずグルグルと回転するだけのチカラ伝達を担うヘリコイド方式
↑従って「空転ヘリコイド」が距離環に組み付けられる事で「長い棒状の直進キー」はガイドの切り欠き部分を「上に行ったり下に行ったり」を繰り返すワケです。
↑距離環を本締めで締め付け固定して、この後は完成している鏡胴「前部」に光学系前後群を組み付けてから無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。
ここからはオーバーホールが完了したオールドレンズの写真になります。
↑完璧なオーバーホールが終わりました。今回もやはり光学系の固着が酷く「加熱処置」で完全解体させています。
↑光学系内の透明度が非常に高い状態を維持した個体です。LED光照射でもコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが皆無です。
↑唯一絞り羽根の開閉動作だけが何とも惜しい限りですが(泣)、10枚の絞り羽根のうち「3枚に引っかかりが発生し膨れあがる」現象が再現性が低いですが起きます。特に設定絞り値「f11〜f22」で引っかかりが発生するので、もしもその範囲内の絞り値にセットする場合はご面倒でも覗き込んで確認したほうが良いと思います。
もしも膨れあがっていたら一旦絞り値を開放側に戻してから再び希望するf値に閉じていけば引っかかりが解消して平坦なまま最小絞り値まで閉じていきます。
ここからは鏡胴の写真になりますが、経年の使用感が僅かに感じられるものの当方にて筐体外装の「磨きいれ」を施したので大変落ち着いた美しい仕上がりになっています。「エイジング処理済」なのですぐに酸化/腐食/錆びが生じたりしません。
↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」の中程度+軽めを使い分けでいます。距離環を回すトルクは「重め」人により「普通」程度で全域に渡り完璧に均一なトルク感で操作できます。
なおご指摘のあったツマミ部分はそのご指摘の現象を確認できませんでしたが、一応締め付けしてあります。
↑市場に流通している個体をチェックすると相応に絞り環側の基準「●」マーカーと指標値環側の基準「▲」マーカーの位置が縦方向に一致していない個体が多めですが、今回の個体は上の写真のとおり (グリーンのライン) 同一線上にまとめてあります(笑)
無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
もちろん光学系の光路長調整もキッチリ行ったので (簡易検査具によるチェックなので0.1mm単位や10倍の精度ではありません)、以下実写のとおり大変鋭いピント面を確保できました。電子検査機械を使ったチェックを期待される方は、是非ともプロのカメラ店様や修理専門会社様が手掛けたオールドレンズを手に入れて下さい。当方の技術スキルは低いのでご期待には応えられません。
↑当レンズによる最短撮影距離1m付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありません。またフード未装着なので多少フレア気味だったりします。
手を翳し忘れて撮ってしまったのでフレアの影響を受けています。
↑f値「f16」です。そろそろ「回折現象」の影響が現れ始めています。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られるとその背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。
◉ 被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。
↑最小絞り値「f22」での撮影です。大変長い期間に渡りお待たせし続けてしまい本当に申し訳御座いませんでした。お詫び申し上げます。今回のオーバーホール/修理ご依頼、誠にありがとう御座いました。