◎ FUJI PHOTO FILM CO. (富士フイルム) FUJINON・W 35mm/f3.5《後期型》(M42)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルはフジカ製
準広角レンズFUJINON・W 35mm/f3.5《後期型》(M42)』です。


このモデルの存在は知っていましたが長い間スッカリ忘れていました。FUJINONレンズは毎月必ず市場をチェックしていますが、8年間でこのモデルを目にしたのは数本です (3〜4本)。
そんな本数では光学系の状態が良い個体になかなか巡り逢えず、今までに扱ったことがありませんでした。

そんなワケで今回の扱いが初めてになりますが、光学系の状態が非常に良い個体が手に入りました。忘れていたので調達に際し実写をチェックしたところ、意外にもピント面が鋭く素直な発色性 (とは言ってもFUJINONらしく元気の良い色合い) で誇張感が無く好感が持てると言う印象です。ボケ具合はさすがに開放f値をムリしていない設計なので期待しすぎるとガッカリしますが、そうは言っても滑らかに滲んでいく様はたいしたものです (f3.5とバカにできない)。
ちょっと見直してしまったと言うのが正直な感想でしょうか(笑)

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富士フイルムは「フジカ」ブランドで1970年に念願の一眼レフ (フィルム) カメラ市場に参入します。その際採用したマウント種別が遅ればせながら「M42マウント」でしたが、後に1980年にはバヨネットマウント「AXマウント」に変更しています。この「AXマウント」は現在の「FXマウント」とは互換性がありません。

そこで今回のモデルの発売時期などをネットで調べてみると、そもそも情報がほとんどヒットしません。マウント面に「開放測光用の爪」を備えており、筐体外装の距離環と絞り環がエンジニアリング・プラスティック製であることから、同じような作りの標準レンズ「FUJINON 55mm/f2.2 (M42)」と近い時期に発売されていると考えられます。

しかし「55mm/f2.2」のほうは「前期型/後期型」が存在するのでどちらのタイミングでこのモデルが登場したのかが不明です。バラしてみるとエンジニアリング・プラスティック製の成形面では「後期型」に近い品質レベルですが、然し「金属製鏡筒」を使っているので「前期型」の要素にもなります。

そこで仕方なく当時発売されたフィルムカメラの取扱説明書を調べていくと発売時期が見えてきました。

1970年に登場した一番最初のM42マウントモデル「ST-701」には「開放測光機構」が装備されていなかったのでマウント面に「開放測光用の爪」がある当モデルは装着することができません (スキマが空いてしまい最後までネジ込めない)。

【全モデルに於ける交換レンズ群記載状況チェック】
※M42マウントのSTシリーズからの時系列で調査

① ST-701 (1970年7月発売):当モデル記載無し・55mm/f2.2記載無し
② ST-801 (1972年9月発売):当モデル記載無し・55mm/f2.2記載無し
③ ST-901 (1974年4月発売):当モデル記載無し・55mm/f2.2記載無し
④ ST-605 (1976年7月発売):当モデル発売予定・55mm/f2.2発売予定
⑤ AZ-1 (1977年11月発売):当モデル記載あり・55mm/f2.2記載あり

 

上の一覧はST-605 (左) とAZ-1 (右) の取扱説明書からオプション交換レンズ群の一覧を抜粋しました。当モデル (赤枠) と標準レンズFUJINON 55mm/f2.2 (青枠) の2モデルについて調べています。するとST-605が発売された1976年時点では「※」が附随しており「発売予定モデル」ですが、翌年のAZ-1 (1977年発売) 時点では2モデル共に既に発売されている状態表記に変わっています。

さらに1978年に印刷されたレンズカタログをチェックしても同じように2モデル共に交換レンズ群の中に記載がありました。このことからこのモデルの発売時期は1977年ではないかと推測しています。

また標準レンズFUJINON 55mm/f2.2と同じ扱いで表記が変化していることから「廉価版モデル」の格付だったことも見えてきます。実際バラしてみると距離環/絞り環にエンジニアリング・プラスティック製パーツを使っていることから、影響を受ける部位の設計が総金属製モデルとは違うことが判明するので、その点からもモデル格付は標準レンズFUJINON 55mm/f2.2と同じ「廉価版」だったと考えられます。

   
   

上の写真はFlickriverで、このモデルの特徴的な実写をピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
※各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています。

一段目
そもそも市場での流通数が極端に少ないマイナーモデルであることから実写自体がほとんど見つかりません。本当は円形ボケなどの表出状況をチェックしたかったのですが、そのような写真が無いので仕方ありません。

準広角域として捉えるとピント面が非常に鋭く出てきますが誇張感が無くスッキリした印象さえ感じます。それはおそらく開放f値を「f3.5」と抑えて設計してきたことも影響し、実際に写真を見るとピント面からのアウトフォーカス部は滲み方が大変滑らかで違和感を感じません。この当時のFUJINONシリーズの中にあって、誇張感とは紙一重的な印象のピント面のモデルが多いので、それはそれで魅力的な写り方だと言うのが最初の印象です。

二段目
さらにこれらの写真を見て評価がガラリと変わりました。相当素性の良い光学設計をしているモデルだと考えます。このダイナミックレンジの広さはたいしたものでビミョ〜な陰影とその色彩の変化をシッカリと写し込んでいる様は、これが「廉価版モデルだから」とバカにできないポテンシャルを秘めていると感じ入りました。最後の写真をご覧頂ければ分かりますが、本来のフジノンの発色性はシッカリ受け継いでいますから、この違和感の無い (下手するとナチュラル的な) 世界の中で元気の良い発色性をちゃんと維持しているところがさすがです。特に準広角レンズにしては人物撮影が非常にリアルに出てきますから、ちょっと寄ってポートレート的に使うのも良いかも知れません。

個人的にはこの描写性は非常に好きですし、実際所有者である極一部の方のサイトを見ても評価が高いことが頷けました。

光学系はWikiでは6群7枚と謳っていますが、正しくは4群4枚の (疑似的な) レトロフォーカス型です。実際バラして確認しているから間違いないワケですが、当時の取扱説明書やレンズカタログ一覧でも4群4枚としているので正しい情報だと言えます。右図は今回バラして清掃時にデジタルノギスで計測してほぼ正確にトレースした構成図です (各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測してトレースしました)。

この構成図が判明して全てが納得できましたが、このモデルは焦点距離が35mmの準広角レンズですからレトロフォーカス型と言っても「疑似的」に設計していたことが分かります。

つまり基本成分は第2群〜第4群までの「3群3枚トリプレット型」であり、純粋にバックフォーカスを稼ぐ意味合いだけで第1群の凸メニスカスを1枚前方配置させているだけになります。するとこのモデルの描写性が素直な印象ながらも鋭いピント面を構成している素性の良さが納得でき、その中にちゃんと「フジノンとしての血筋」を残した光学設計だったことが伺えます。特に当方はトリプレット型を基本としている点に惹かれました(笑)

同じ発売予定になっていたモデルの中に4群5枚の「EBC FUJINON 45mm/f2.8」というパンケーキレンズがありましたが、ついに発売されずに終わってしまい今となっては惜しい限りです。最短撮影距離が80cmと寄れないモデルだったことや次のバヨネットマウント「AXマウント」への移行も含め、ついに発売のタイミングを逸してしまったのでしょう。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。内部構造は焦点距離28mmのモデルと近似していますが、距離環/絞り環だけがエンジニアリング・プラスティック製パーツなので「廉価版」の格付だったことが伺えます (一部部位の設計にもエンジニアリング・プラスティック製パーツを組み込む影響から設計変更を余儀なくされている箇所が認められるから)。

同じ廉価版モデルの標準レンズ「FUJINON 55mm/f2.2」のモデルバリエーション「前期型/後期型」で捉えると両方の要素を持っています。

まず鏡筒 (ヘリコイド:オス側) が金属製なので「前期型」の要素なのですが、一方距離環にネジ止めされている「印刷式距離指標値板 (薄いアルミ板)」は「後期型」の要素です。「後期型」の55mm/f2.2モデルで問題となっている、エンジニアリング・プラスティック製パーツが経年劣化の進行に伴い材が収縮してしまいポロポロにヒビ割れ/破断していく現象は「前期型」と同じ成分配合のようで、このモデルではそのような要素は見受けられませんから安心です。外見からだけではなかなかそのような細かい問題点についても把握しきれませんから、完全解体することで構成パーツ一つ一つのチェックができありがたいですね(笑)

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒 (ヘリコイド:オス側) で金属製です。この鏡筒を見て一つ気がついたことがあります。焦点距離28mmの鏡筒は肉厚が薄かったのですがこのモデルは非常に厚い肉厚で設計されています。これは強度の問題などではなく、光学系前群側の格納方法を「ネジによる押さえこみ固定方式」を採用したからで、その分の肉厚が必然的に必要になっただけです (上の写真のとおりネジの下穴が用意されている)。

↑5枚の絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。

↑完成した鏡筒を立てて撮影しました。準広角レンズですから距離環の駆動域がたいして長くないのですが、ご覧のようにヘリコイドのネジ山は急勾配なので繰り出し量が多いことが分かります (つまり最短撮影距離を短縮化していることになる)。

↑距離環やマウント部を組み付ける為の基台です。ヘリコイド (オス側) の急勾配なネジ山に対して、この基台側の厚み (深さ) は薄めですから、少ない距離環の駆動域で鏡筒をググッと繰り出して最短撮影距離を稼ぎたい設計であることが見えます。

↑ヘリコイド (メス側) を無限遠位置のアタリを付けた場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうと無限遠が出ません (合焦しません)。

↑完成している鏡筒 (ヘリコイド:オス側) を、やはり無限遠位置のアタリを付けた正しいポジションでネジ込みます。このモデルは全部で5箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。

↑この状態でひっくり返して裏側を撮影しました。「直進キー」が両サイドに配置されており、そうすることで互いにトルクの集中を相殺させる考え方です。「直進キー」は距離環を回す「回転するチカラ」を鏡筒が前後動する「直進するチカラ」に変換する役目のパーツです。

よくオーバーホール/修理を承っているとヘリコイドに塗布するグリースの粘性だけでトルクが変わると思い込んでいる方が非常に多いですが、実は塗るヘリコイドグリースの粘性だけでは距離環を回した時の「重い/軽い」の違いを調整することはできません。むしろグリース種別「白色系グリース/黄褐色系グリース」の相違を以てしてプラス粘性の相違を考慮するほうが確実性は高くなります。すると近年は「白色系グリース」ばかりが使われることになるのですが、その根本的な理由は「均一で軽いトルクに調整できるから」です。

ところが「白色系グリース」にはアルミ合金材を摩耗させる特徴 (使っていると真っ白なグリースがすぐに濃いグレー状に変質する:アルミ合金材の摩耗粉が混じるから) と、最大の懸念材料は「液化進行が早い (揮発油成分が多い)」点です。

これは例えば旭光学工業製のオールドレンズで一度もメンテナンスされないままだった固体 (つまりワンオーナー品) の場合でも充分なトルクを維持したまま製産後半世紀近くを経ていますが、バラしてみると生産当時に使われていたのは「黄褐色系グリース」だったりします (もちろん相応に経年劣化が進行してはいる)。

ところが「白色系グリース」を塗布したオールドレンズは、下手すれば数時間の使用だけで真っ白だったヘリコイドグリースは薄くグレー色に変色してきます。そのたった数時間使ったオールドレンズを再びバラして薄いグレー状のグリースを洗浄液に垂らすと、底に微細な金属粉がギラギラと銀色に輝いて堆積するのが分かります (実際にそのような実験をしたので明言できる)。この同じ話を以前伺って相談した金属加工会社の社長さんに話しても、それはアルミ合金材の摩耗粉だとお聞きしました (実際に撮影した写真をご覧頂きました)。つまり「白色系グリース」の中にはそのようにアルミ合金材を摩耗させる成分が添加剤として混入されていることもあり、それ故均質なトルク感を維持できるようになっている可能性はあるとのお話でした。

また同じ話を今度はグリース業界の方にお聞きしましたが、全ての「白色系グリース」に当てはまるワケではないが一部の成分配合にはそのような目的で作られているグリースが存在するようです (お約束で具体的にはご案内できません)。しかし「白色系グリース/黄褐色系グリース」共に色の相違は単に着色しているだけなので基本的には成分と種別、そして目的を知って使うのが正しい使い方らしいですね。特にオールドレンズが製産されていた当時の光学メーカーは、必ずモデル別に専用の特殊グリースを調達しており、さらに言えば当時ならば当方が言う処の「黄褐色系グリース」が主体的に使われていたのも事実らしいです (実際はメーカーによって薄い緑色や黄褐色、或いは乳白色系も存在したので一概に色だけでは特定できない話)。

従って金属加工会社の社長さんの話として、生産当時に「黄褐色系グリース」の使用を前提として設計/配合されたアルミ合金材のヘリコイドならば、そこに今になって別の種別たる「白色系グリース」を塗布するのはあまり好ましくないと言うことです。至極納得できるお話であり、当方の「白色系グリース/黄褐色系グリース」と言う色の相違だけによる区分けにも非常にムリがあるとご指摘を頂きましたが、逆に考えれば一般的に成分/配合云々まで掲示しながら解説するとなると、とてもわかりにくい話なので「白色系グリース/黄褐色系グリース」と言う分け方も致し方ないとのお話でした (喜んで良いのか悪いのか)(笑)

要は重要なのは「白色/黄褐色」の相違ではなく、適切な成分と配合の種別グリースを使うことであって、それは僅か数時間の使用だけでアルミ合金材が摩耗してしまう結果には一切一致しないとのご指摘でした (つまりそれはグリースの種別選択を間違っている結果)。またトルクの問題があるとしても、最終的な配慮として経年使用に於ける光学系への影響を極力控える点があるとすれば、それは自ずと経年に伴う液化の進行度合いが重視されるのは理に適っており、光学硝子の知識が無くても容易に推察できるようです (金属加工会社の社長さんのお話)。

いずれも昨年の年明け早々にお邪魔させて頂きお話しを伺った金属加工会社の社長さんとの会話で、当方の考察や主張などが概ね正しいことが判明し安堵した次第です。オーバーホールを始めて6年経過してからグリースや光学系の洗浄液などを再調査して調達しているワケで、全く以て如何に当方の技術スキルが低いのかを知らしめているワケですが(笑)、それは逆に言えば6年間の経験を経て初めて見えてきた細かい点まで含め再調査したかったのがホンネだったりします。いずれにしても技術スキルは低いままなので今後精進するしかありません(笑)

なお、距離環を回した時のトルクに影響を来すのは前述のとおり塗布するヘリコイドグリースだけに限らず、上の写真「直進キー」の調整も必要ですし、もっと言えば鏡筒から飛び出ている「開閉アーム」はマウント部内部の爪でガッチリ掴まれたままに鏡筒が繰り出したり/収納したりしているワケで、それら全ての抵抗/負荷/摩擦が最終的な距離環を回す時のトルクとして指で感じている次第です。この「原理原則」がなかなか皆さんにはご理解頂けず、塗布するヘリコイドグリースの粘性だけで (或いは流行りの白色系グリースだけで) 変えられると思い込んでいらっしゃる方が後を絶ちませんね。

もちろん上の写真を撮影した時点で既にヘリコイドのトルク調整が終わっています (マウント部の組み込み確認も終わっている)。つまりこのブログに掲載しているオーバーホール工程の写真は、解説用の順番で載せているだけで実際の工程では同じ手順を踏んでいては二度手間の確認/調整が増えてしまい非効率的だったりしますから、このブログに掲載の手順を参考にして組み上げようとしても適切な調整ができない場合があります(笑)

実際、そのような内容のお問い合わせを頂くことがありますが、残念ながら解説することはできませんし、今後解説する気持ちもありません (肝心な部分は企業秘密なのでワザと伏せています)(笑) つまりオールドレンズのオーバーホールとは、単にバラして清掃してグリースを塗り直して組み上げれば良いワケではなく、そこには過去の固着剤を一切合切剥がして「再調整する」のが必須である世界であることを是非ともご認識頂ければと思います。逆に言えば「再調整しない (完全解体しない) オーバーホールはオーバーホールとは決して言えない」とも明言できます。その意味でグリースを入れ替えたり光学系を清掃している作業は「整備/メンテナンス」の範疇止まりでありオーバーホールとは言えませんし、整備/メンテナンスに留まるならば、それは処置した以外の部位は経年劣化など含めた問題点は蔑ろにしたままなので、必ずしも製品寿命の延命に貢献しているとは言えません。

つまり何を以てしてバラして作業し処置を施すのか、その根本的な理由/目的が当方とは全く違うので、それら「整備/メンテナンス」を当方が実施している「DOH」と同列に捉えられること自体ナンセンスであり迷惑です。当方の目的は「製品の延命処置」以外ありません (オールドレンズの製品寿命をさらに長くする目的)。

↑マウント部内部の写真ですが、構成パーツを取り外して撮っています。その理由は過去メンテナンス時にこのマウント部内部にまで「白色系グリース」が塗られてしまい既に一部構成パーツに腐食/サビが生じていたからです。当方による「磨き研磨」を終わらせた状態で撮影しています。

↑取り外していた構成パーツの個別に「磨き研磨」して組み込みます。マウント面の「絞り連動ピン」が押し込まれると (ブルーの矢印①)、その押し込まれた量の分だけ「開閉爪」が移動します ()

ここがポイントなのですがなかなか皆さんにご理解頂けません (つまりクレームとして返ってくる)。当時想定していたのはフィルムカメラへの装着です。フィルムカメラ側のマウント部内部には「絞り連動ピンを押し込む押し込み板」が用意されており「適度なクッション性」を有しています。つまり必要以上に「絞り連動ピン」を押し込みすぎないよう配慮されているのですが、ところが最近のマウントアダプタに装着すると「ピン押し底面タイプ」のマウントアダプタの場合は最後まで絞り連動ピンが押し込まれ切ってしまいます

これがなかなか皆さんには分かりにくい話なのですね(笑)

つまりマウントアダプタ (ピン押し底面タイプ) の「ピン押し底面の深さ」が規格で決まっていないが為に、各マウントアダプタでマチマチな深さで作られています。するとマウントアダプタによっては「絞り連動ピンの押し込み量が足りない/逆に押し込みが強すぎる」と言う問題が生じ、それはそのまま「絞り羽根の開閉異常」に繋がりますし、もっと言えば距離環を回す時のトルクの相違にも影響が出てきます。何故なら、マウント部内部にある「開閉爪」は鏡筒から飛び出ている「開閉アーム」をガッチリ掴んだまま距離環を操作することで「鏡筒の繰り出し/収納」動作が行われているからです。

すると絞り連動ピンが必要以上に押し込まれすぎた場合 ()「開閉爪」が必要以上に移動しようとするので ()、そのチカラがそのまま「開閉アーム」に伝わってしまいます。結果、距離環を回した時に「重いトルク」に至るので、マウントアダプタ装着前 (つまりオールドレンズ単体の状態) ならば軽い操作性だったのがマウントアダプタ装着で重く変わったりします。ところがマウントアダプタもオールドレンズも「同じマウント規格」なので、結果当方の整備が悪いのだと言う結論に到達しクレームとして返ってきます(笑) 実際「規格への過信」が日本人は非常に強い民族ですョね?(笑)

オーバーホールを始めて8年が経過しましたが、毎年通年でこのクレームが後を絶ちません。おかげでもう慣れっこになってしまい(笑)、クレームが来たらすぐに謝ってご請求金額を無償扱いにしていますが、逆に言えばこの手を使えばタダでオーバーホールが完了してしまいますね(笑) クレームが来ても都度説明するのが億劫になってしまい、下手すれば「言い訳ばかり言っている」と言われる始末なので (SNSでの悪評流布に繋がっている)(笑)、手立てがありませんから即無償扱いです!(笑)

オーバーホール済でヤフオク! 出品しているオールドレンズは「出品ページに記載が無い」と言えば即キャンセル/全額返金できますし、オーバーホールが完了して戻ってきたオールドレンズは「クレーム付ければ即無償」になります。当方は気が弱いのでなかなか良い手だと思いますね(笑)

↑エンジニアリング・プラスティック製の絞り環をベアリングを組み込んでセットします。

↑完成したマウント部を基台に組み付けます。

↑同じくエンジニアリング・プラスティック製の距離環を仮止めしてから光学系前群を組み付けて無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行い、最後にフィルター枠とレンズ銘板をセットすれば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑死角に入っていてスッカリ忘れていたモデル、フジカ製準広角レンズ『FUJINON・W 35mm
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f3.5 (M42)』です。市場には滅多に出回りませんからFUJINONファンの方には貴重かも知れません。特にファンでなくても、このモデルの実写を知るとフジノンらしい発色性ながらも違和感を感じない素直な表現性にちょっと惹かれてしまいます。

それは何を置いても第2群〜第4群の「3群3枚トリプレット型光学系」の成分がモノを言っているのだと考えます。トリプレット型光学系と言えば、すぐに頭に思い浮かぶのが旧東ドイツのMeyer-Optik Görlitz製オールドレンズ群であり、それはそのまま「繊細で真円でキレイなシャボン玉ボケ」へと繋がります。本当はflickriver.comでこのモデルでそのシャボン玉ボケの表出状況をチェックしたかったのですが、誰も試してくれていません。もしかしたら表出しないのか? 分かりませんが、この素直な表現性を知ってしまうとついつい知りたくなります。

もちろんシャボン玉ボケを含む円形ボケだけがボケ味ではないので (外国人は円形ボケだけをBOKEHと呼んでいますが)、トリプレット型光学系から吐き出される素直な表現性とスッキリと元気な発色性にも関わらずナチュラル的な描写性が相まって、ちょっとこのモデルはFUJINONレンズ群の中でも結構好きな部類にハマッてしまったかも・・です(笑)

それもそのハズで、当時3群4枚のテッサー型光学系が主流になる直前まで標準レンズ域のオールドレンズで多く採用され続けていたのがこの3群3枚トリプレット型光学系ですから、既に歴史の中で (光学系の発展の中で) ピント面の鋭さや収差の改善に関しては折紙付きです。

仕方ないのでミニスタジオで疑似的に円形ボケを撮ってみました。
条件的に厳しい部分があるのでこんな円形ボケしか写りませんでしたが、さすが真円に近いリングボケがちゃんと表出しています。これはまさにトリプレット型光学系の恩恵なのではないでしょうか (当方は光学系はド素人なので分かりませんが)?

手持ち撮影 (SONY α7II) で開放f値「f3.5」のままミニカーの手前側ヘッドライト付近にピントを合わせて撮りました。光源は上方と右側から射し込んでいます。

今度はミニカーをもっと光りモノに近づけて表出するであろう円形ボケのエッジを細くするようトライしました。

どうでしょ? 少しはリングボケのエッジが細くなってきたでしょうか・・相変わらず写真センスが無いのが明白なので何とも恥ずかしい限りですが (しかもちょっとブレてしまってピンボケです)、何と光りモノの手前の背景紙に含まれているラメ (光っている繊維) まで円形ボケになっているではありませんか(驚)

これは実写すれば相応に期待できるかも知れませんね、何方か我こそはと試して頂けるご奇特な方はいらっしゃいませんかね、是非ともflickriver.comにアップして頂きたいものです。

特に焦点距離が準広角域の35mmなのでAPS-Cフォーマットのミラーレス一眼ならば1.75倍の画角で収まりますから、ちょうど61mmくらいになり標準レンズ並の使い方ができます。もちろんフルサイズ機でそのまま準広角域を楽しむのもちょっと広めに写り込んでくれて、それはそれで有難いです (現場の雰囲気を留めさせるにはちょうどいいかも)。

と当方は考えるのですが、実は意外にも準広角レンズの焦点距離35mmのオールドレンズをオーバーホール済でヤフオク! 出品しても人気がありません(笑) 一説には当方の即決価格がバカ高いからだと言う話もありますが(笑)、それはそれキッチリとオーバーホールした作業対価を含んでの話なのですが、誰も認めてくれなければ「ただ高いばかり」ですョね?(笑) まさに如何に技術スキルが低いのかを物語っている証左のようです・・。

↑光学系はコーティング層の経年劣化が進行しているものの「とんでもなく透明度が高い/超クリア」です。新品同様品と言ってもイイくらいでしょうか (いえ、言ってませんから)。当初バラす前のチェック時には全面に渡って極薄いクモリが生じていたので、これはコーティング層経年劣化の影響で清掃で除去できないかも知れないと覚悟したのですが、何のことはなく過去メンテナンス時に塗られてしまった「白色系グリース」の経年揮発油成分によるクモリでした。従ってLED光照射でも極薄いクモリすら皆無です。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

↑光学系後群と言っても3群3枚のうちの後側2枚だけですから簡素です。しかし前群同様「とんでもなく透明度が高い/超クリア」です。LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:10点、目立つ点キズ:6点
後群内:18点、目立つ点キズ:9点
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズなし)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):なし
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
(LED光照射でも極薄いクモリすら皆無です)
・いずれも全て実写確認で写真への影響ありません。

↑絞り羽根が5枚なので絞り羽根を閉じていくと開放時以外は全て正五角形に閉じ、且つご覧のようにキレイな正五角形のカタチを維持しています。とは言っても開放f値「f3.5」なので1段次に絞り環を回せば「f5.6」ですから、ボケ具合の調整範囲はたかが知れています。

ここからは鏡胴の写真になりますが当方による「磨きいれ」を筐体外装に施しました。そうは言っても距離環/絞り環はエンジニアリング・プラスティック製なので変化がありません (業務用中性洗剤でキレイに経年の手垢を落とした程度)。唯一のクロームメッキ銀枠飾り環たるフィルター枠も「光沢研磨」したので当時のような艶めかしい眩い光彩を放っています。すべて「エイジング処理済」なのですぐに酸化したりカビが生じたりしません。

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度」を塗布し距離環や絞り環の操作性はとてもシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「重め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触
が伝わる箇所があります。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作が
できるので操作性は非常に高いです。
・マウントアダプタに装着した場合はマウント面の絞り連動ピンが常時最後まで押し込まれたままになる為、距離環を回していくと時々内部パーツが擦れる金属音が微かに聞こえてくることがありますが内部のパーツが鳴っているだけですので将来的に問題発生原因にはなりません。どこがどのような状況時で鳴るのか内部が見えないので確認のしようがなく改善できません。
また同様に距離環を回すトルクにも影響が出る場合がありますがマウントアダプタのピン押し底面深さとの関係になる為、いずれもクレーム対象としません。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑開放f値が「f3.5」で欲張っていない分そつなくこなしてくれますが、最短撮影距離も40cmでそれほど寄れず性能一辺倒ではないのは間違いありません。確かに「廉価版」格付なのでしょうが、然しその写りには認めてあげるべき要素も少なからずあるのではないかと再認識したモデルです。おそらく当時「AXマウント」への移行期直前であり、さらに期待に反して市場でのフジカ製フィルムカメラのポジショニングはそれほど上がらず、交換レンズ群の売れ行きも目論みどおりには進まなかったのかも知れません。今でこそ富士フイルムの評価は高いですが、当時は二番煎じ的な認識だったのかも知れません。

その中にあって (FUJINONレンズ群の中で) ちょっと光るモノを今回初めて見つけたような気分になってしまいました (嬉しい)(笑)

無限遠位置 (当初バラす前の位置に合致/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

↑マウント面にある「開放測光用の爪」を残してあるので、当時のフジカ製フィルムカメラ「ST801/ST901/ST605系」などに装着して開放測光機能を活かしてご使用頂けます。

デジカメ一眼/ミラーレス一眼にマウントアダプタ経由装着される場合は、この「 (約1mm程の突出)」が当たってしまい途中でネジ込みが止まってしまいますから、必然的に無限遠も出ない (合焦しない) 状態に陥ります。その場合は、カッター (刃が太いほうがお勧め) などでこの爪部分を切削して下さいませ。当方では切削作業は執り行いません。

なお、後玉周囲にガード部分がありますが (グレー色の円形リング/輪っか部分)、プラスティック製でした。当初バラす前に金属製だとばかり思い込んで (他のモデルは全て金属製ばかりなので) 溶剤を付けてしまい少々溶けています。見栄えを良くする為に遮光塗料で着色しています。

↑当レンズによる最短撮影距離40cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

なお、この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります。しかし簡易検査具による光学系の検査を実施しており光軸確認はもちろん偏心まで含め適正/正常です。

↑絞り環を回して設定絞り値「f5.6」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f8」で撮っています。

↑f値は「f11」になりました。

↑最小絞り値「f16」での撮影です。