◎ Heinz Kilfitt München (ハインツ・キルフィット・ミュンヘン) Makro-Kilar E 4cm/f2.8 ・・・ black(exakta)

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今回完璧なオーバーホールが終わって出品するモデルは、旧西ドイツHeinz Kilfitt München製マクロレンズ『Makro-Kilar E 4cm/f2.8 black (exakta)』です。


前回このモデルの同型品で「Dタイプ」を昨年11月にオーバーホール済でヤフオク! に出品し即決価格「99,500円」でご落札頂きました。今回は「タイプE」の出品ですが、マウント種別が「exakta」である点と光学系コーティング層経年劣化が進行していることから当方にしては低い即決価格になります

なお、一部のヤフオク! 出品者による紛らわしい出品が現在も続いているので、当方は直接関係ありませんがマウント種別が同じなので敢えてご案内しておきます (面倒くさいですが)。

「exakta」マウントに「exaktaM42変換リング」をネジ止めすることでM42マウントとしても使えると謳ってヤフオク! 出品していますが、その結果相当なオーバーインフに至ることを一切告知せずに出品し続けています。

● exaktaマウントのフランジバック:44.7mm
● M42マウントのフランジバック:45.46mm

マウント種別が異なれば自ずとフランジバックも違うので「その差0.76mm」分光路長が短くなります (exaktaマウントのほうがフランジバックが短いから)。

フランジバックとは
レンズマウント面から撮像面 (フィルムカメラならフィルム面、デジカメ一眼/ミラーレス一眼ならば撮像素子面) までの距離を指す。

exaktaマウントに変換リングをネジ止めしてM42マウントに (疑似的に) した場合、フランジバック「45.46mm」必要なところに「44.7mm」の位置で既に無限遠合焦しているオールドレンズが装着されますから「その差0.76mm」分より撮像面に近い距離まで「後玉が近づく」ことになります。その結果無限遠位置がより短縮化されるので、僅か0.76mmの差だとしても距離環を回した時の刻印距離指標値で捉えると「〜1 ・2 4  (m)」の刻印ですから、目盛で「2〜3目盛分」無限遠位置が手前方向にズレてきます。

するとおそらく2m辺り、或いは2m到達前に無限遠合焦してきますから「相当なオーバーインフ量」と言えます (撮影現場実距離で2m辺りから遠方に向けてピント合焦してしまう)。それはそれでそのつもりで使えば良いワケですが、知らずに使うと違和感を抱く方もいらっしゃるでしょう。逆に言えば最短撮影距離側も位置がズレますから最短撮影距離は10cm以下まで短縮されますが「接写リング (エクステンション・リング)」或いはマクロヘリコイドなどを介在させて撮影しているのと同じ話になり、それは描写性能の変化に至ります。つまり仮に最短撮影距離が7cmまで短縮されたとすれば「0.1〜2m」までが本来の描写性能であり、それ以外は光学諸元値とは違う写りになっていると考えなければイケマセン (収差なども変化するから)。

エクステンションを介在させて接写し最短撮影距離を縮めるのは一つの撮影手段として認知できますが、それはその製品本来の光学系性能からは逸脱した描写性であることを認識した上で楽しむべき話であり、単純に最短撮影距離が短縮化される、或いはオーバーインフ量が増える話にはなりませんから留意する必要があるハズです。

仮にこの逆をやってしまうと無限遠合焦しない話になります。M42マウントのオールドレンズはフランジバック45.46mmで調整しているので、その個体をexaktaマウントに装着するとフランジバックが長くなってしまい甘い無限遠合焦に至るので、後玉を「その差0.76mm」分今度は近づける必要が生じます (この状態をアンダーインフと呼びます)。従って「∞」位置でもピタリとピント合焦していない甘い写りになってしまうワケですね。

↑上の写真はマウント種別相違に伴うフランジバックの違いを解説したイメージ図です (イメージ図なのでサイズ/距離など正確ではありません)。

M42マウントのオールドレンズをムリヤリexaktaマウントとして装着してしまった時のフランジバックに関わる問題点を解説しています。M42マウントのオールドレンズなので (上写真の上半分:グリーンの矢印) フランジバックは「45.46mm」で調整して無限遠位置を適合させています。

そのオールドレンズをexaktaマウントとして装着してしまうとフランジバック「44.7mm」で無限遠合焦する規格なので (ブルーの矢印) 装着したオールドレンズがM42マウントだと後玉の位置が「その差0.76mm」分遠くなってしまっていることになります (下半分がexakta)

従って距離環を回して「∞」位置にセットしても無限遠は「甘いピント面」のままでピタリとピント合焦していないことがご理解頂けるでしょうか? この状況を指して「アンダーインフ」と呼びます。

※インフは英語の「infinity」を略した和製英語みたいな日本独自の呼称なので英語圏の外国人に「インフ」と言っても意味は伝わりません。

上の写真の逆も同じ概念ですね。exaktaマウントは「44.7mm」ですから変換リングでムリヤリM42マウントとして装着した場合、撮像面に近い位置に後玉が降りてきていることになるので「オーバーインフ量が多い」ことになり、それは「∞」刻印のだいぶ手前位置 (例えば2m辺り) で無限遠合焦してしまい、さらに「∞」刻印位置から再びボケ始める状態を言います (それをオーバーインフと呼びます)。

何で当方が他人のヤフオク! 出品に係る解説までしなければイケナイのか意味が分かりませんが(笑)、だいぶ昔に似たような話で「出品ページに注意書きされていない」とクレームしてきてキャンセル/全額返金したことがあるので、今回は仕方なく解説しました・・(笑)

分かりにくい解説で申し訳御座いません・・。

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今回オーバーホール済でヤフオク! 出品するモデルは、旧西ドイツのHeinz Kilfitt München製マクロレンズですが、1955年に世界初のマクロレンズとして登場しその後1958年に追加された開放f値「f2.8」の「後期型」にあたります。

Kilfitt開発設計者は「Heinz Kilfitt (ハインツ・キルフィット:1898-1973)」で戦前ドイツ、バイエルン州 München (ミュンヘン) の Höntrop (ハントロープ) と言う町で1898年時計店を営む両親の子として生まれます。時計職人の父親に倣い自身も時計の修理や設計などを手掛けていましたが、同時に光学製品への興味と関心からカメラの発案設計も手掛けていました。

Kilfittは27歳の頃想起して5年の歳月を掛けて開発したゼンマイ仕掛けによる自動巻き上げ式カメラ (箱形筐体にCarl Zeiss Jena製Biotar 2.5cm/f1.4レンズを実装したフィルムカメラ) のプロトタイプに関する案件をOtto Berning (オットー・ベルニング) 氏に31歳の時に売却しています。
このカメラは後の1933年にはより小型になりカメラらしい筐体となって世界で初めての自動連続撮影が可能なフィルムカメラ「robot I」型 (ゼンマイ式自動巻き上げ機構を搭載した 24x24mm フォーマット) としてオットー・ベルニング社から発売されています。ネット上の解説では、このフィルムカメラ「robot I型」の設計者がHeinz Kilfittであると解説されていますが、正しくはKilfittの案件を基にオットー・ベルニング社が小型化してカメラらしいフォルムにまとめ上げて自動巻上げ機構を開発設計したので少々異なります。

このパテントを基にOtto Berning氏らと共に設立した会社でKilfittはゼンマイ式巻き上げ機構を装備する前の小型フィルムカメラを幾つか開発した後に退社し、長い間温め続けていた自ら光学製品を開発設計するためにこの案件売却の資金を基にミュンヘン市の町工場を1941年に買い取り試作生産を始めています。

大戦後1947年には隣国リヒテンシュタイン公国首都ファドゥーツ (Vaduz) にて、念願の光学製品メーカー「Kamerabau-Anstalt-Vaduz (KAV:ファドゥーツ写真機研究所)」を創業し様々な光学製品の開発・製造販売を始めました (Kilfitt 49歳)。会社名は「Heinz Kilfitt」「Kilfitt」後に1960年念願の生まれ故郷München (旧西ドイツ) に会社を移し「Heinz Kilfitt München」としたのでレンズ銘板刻印もそれに伴い変わっています。
その後1968年70歳の時にアメリカのニューヨーク州ロングアイランドで会社を営むFrank G. Back博士に会社を売却し引退してしまいます。Kilfitt引退後に社名は「Zoomar」(商品名もMakro-KilarからMACRO-ZOOMATARに変更) に変わり終息しています。つまり会社名はKilfitt在籍中のみ自身の名前が使われていたワケですね。なお「Makro」はドイ語表記なのでラテン語/英語表記では「MACRO」ですね。従って自身が在籍していた時代はドイ語表記で出荷していたことになります。

Münchenに戻ったのが62歳 (1960年) だったワケで、戦後の混乱期を避けて人生の黄昏はやはり生まれ故郷に戻りたかったのでしょう。意に反して写真機のほうではOtto Berning & CO. (オットー・ベルニング商会) の「RoBoTカメラ (フィルム自動巻上げ/連続撮影)」への足掛かりを与え会社が存続しましたが最後まで情熱を注ぎ込んだ光学製品は、残念ながらZOOMAR社のシネマ業界への傾倒から消滅していく運命でした。しかし戦前戦後を生き抜いて念願の光学製品に没頭できた人生はまさに栄光の日々だったのではないでしょうか・・引退してから5年後の1973年に75歳でその生涯を閉じています。

ちなみに会社売却先のFrank G. Back博士は有名な現代物理学の父とも呼ばれるノーベル物理学賞受賞のアインシュタイン博士の友人でもあり、2人はこぞってKilfittが造り出す光学機器に高い関心を抱いていたようです (特に光学顕微鏡など)。

Makro-Kilarが登場した1955年と言う年代を考えると、それ以前までの標準レンズ域の概念が人間の目で捉えた認識できる画角として焦点距離40mm〜45mmだったので、自然に焦点距離40mmとして開発し製品化してきたのだと推測できます。その後ライカ判のフィルムカメラに於ける交換レンズ群で焦点距離50mmが標準レンズとして世界規模でスタンダート化してくると業界の認識は一変します。しかし却ってそれが貴重な存在価値になって少々広角寄りに採ったマクロレンズ (世界初) として現在に残る結果になりました。焦点距離で僅か10mmの話ですが使っていると違和感を感じない (もう少し広く/もう少し隣を出したいなどの) 画角のハマりの良さを強く感じています。これは特に後の時代に登場した標準マクロのオールドレンズなどを使うと、むしろちょっと消化不良的な感覚でシ〜ンに臨むことになるので、その時に初めて気がつくような感じです (焦点距離40mmの画角に慣れきっている)。

後の時代に登場したマクロレンズの如く味付けが一切されていない粗削り的な描写性能なのでボケ味は決して褒められるような印象ではありません。さらにピント面のエッジが意外と太く出てくる特性から必然的にインパクトの強い写真に至り易くなります。発色性は本来ナチュラル派でもコッテリ派でもない中庸的な出方をするのですが、一方「初期型」の開放f値「f3.5」モデルでは意外にも低コントラストなシ〜ンが苦手だったりするので、その辺のバランスの良さも「後期型」の安心感に繋がっています。

なお、当時の製品価格は相応に高級品に入る部類だったのでしょうが、様々なマウント種別が用意されたのでその自信が伺えますし、市場の反応も凄まじかったようです (右は当時のカタログから引用)。


   
   
   

上の写真はFlickriverで、このモデルの実写を検索した中から特徴的なものをピックアップしてみました。
(クリックすると撮影者投稿ページが別ページで表示されます)
(各写真の著作権/肖像権がそれぞれの投稿者に帰属しています)

一段目
シャボン玉ボケから円形ボケに至るまでを集めてみましたがエッジが骨太に出てくる性格から繊細なシャボン玉ボケを表出させるのが苦手です。また二線ボケの傾向がある滲み方なので最後の右端のように背景がワサワサと煩くなってくることがあり、それを逆手に利用するとこのような写真が撮れます。

二段目
まさにその二線ボケを上手く活用した写真が左端1枚目でまるで「油絵」のようなイントネーションです。マクロレンズだけあってピント面を非常に正確に描くので被写体の材質感や素材感まで映し込む質感表現能力は相当なものです。また3枚目の写真のようにドライな感覚を留める写り方が特徴で空間表現も得意です。

三段目
左端の赤色は色飽和せずアポクロマートレンズの特性がそのまま表れています。焦点距離40mmなのでパースペクティブもそれほど歪曲が酷くありません。意外にも人物撮影がナチュラルでクセがなかったりします。

光学系は典型的な3群4枚のエルマー型です。光学系は外径サイズ僅か15mmしかありませんから、よくぞこの小さな硝子にこれだけのポテンシャルを注ぎ込んだと感心してしまいます。今回出品する個体は1/2倍撮影が可能なハーフマクロの「タイプE」ですから、右図はバラして清掃した際にデジタルノギスで計測してほぼ正確にトレースした構成図です (各硝子レンズのサイズ/厚み/凹凸/曲率/間隔など計測してトレースしました)。

なお、一部サイトで掲載されている構成図で第2群と第3群の間に絞りユニットが配置されている一般的なテッサー型構成図がありますが、以下オーバーホール工程をご覧頂ければ歴然のとおりこのモデルの絞りユニットは第1群〜第2群の間です (つまり右図になる)。

モデルバリエーション
※ 製造番号の先頭3桁がモデル系列番号を表す。タイプ別はレンズ銘板に刻印あり。
※ xxxx はシリアル値の製造番号 (終盤期には1桁増え5桁に到達)

1:2 倍撮影が可能なシングルヘリコイド:タイプE
初期型:モデル系列番号「209-xxxx」
開放f値3.5、最短撮影距離10cm、実絞り、フロントベゼル無し
後期型:モデル系列番号「246-xxxx」
開放f値2.8、最短撮影距離10cm、プリセット絞り、フロントベゼル有り

1:1 の等倍撮影が可能なダブルヘリコイド:タイプD
初期型:モデル系列番号「211-xxxx」
開放f値3.5、最短撮影距離5cm、実絞り、フロントベゼル無し
後期型:モデル系列番号「245-xxxx」
開放f値2.8、最短撮影距離5cm、プリセット絞り、フロントベゼル有り

1:2 倍撮影が可能なダブルヘリコイド:タイプA
モデル系列番号「254-xxxx」
開放f値2.8、最短撮影距離10cm、プリセット絞り、フロントベゼル有り
※初期型は存在せず

今回の個体はレンズ銘板に「」ドットが刻印されているので「アポクロマートレンズ」であることが分かり、球面収差/コマ収差/非点収差/像面歪曲/歪曲収差等の諸収差に対して硝材の組み合わせで収差を改善していく際に、屈折率と分散率が異なる2つの硝材 (凸凹) を組み合わせる事で入射光の2波長に対して厳密な色収差を改善させた「アクロマートレンズ」の発展系として、3つの硝材 (凸凹凸) 組み合わせによりアクロマートで補正しきれなかった3つ目の波長 (紫成分) を補正させたレンズを指します。さらに光学硝子の表面反射で片面あたり4%ずつ入射光を失うことを考えると色収差を厳密に補正させようとした時、自ずと入射光に対する3波長分の透過率を向上させる必要が生じるので「」の3色について資料 (基となる材料のこと) を用意してコーティング層を蒸着しています。

光学系を光に翳すと「アンバーパープルブルー」の3色の光彩を放ちます。この光彩の色合いが3色なのを以てマルチコーティングと主張する人も居ますが、モデルの変遷や技術的な時代背景などをもとに考察するとマルチコーティング化が達成されるにはさらに10年の歳月が必要でしたから、あまりにも先取りしすぎです (マルチコーティング技術の目的は色収差改善のみに留まらず解像度の向上やその他の様々な収差の改善を狙った技術だから)。

そもそも当時の自然光の解釈 (つまり色の三原色) が「」であり、現在のデジタルに於ける「RGB ()」とは異なっています (現在の最新技術では「RGBY ()」も採用されている)。「色の三原色」は総天然色を表現する上での考え方なので、必然的に入射光の色ズレ (色収差) を改善させようとすれば (当時は)「」つまり「パープルブルーアンバー」の
3色に対して入射光の表面反射を防ぐ必要があったワケですね。ちなみに当初Makro-Kilarシリーズでは「 (つまり)」でしたが「後期型」では「()」に変更されています (おそらくコーティング層蒸着レベルも変更しています)。

またモデル銘「Makro-Kilar」の「Makro」と赤色刻印にしているのは一部ネット上の解説で案内しているアクセント表示ではなく(笑)「モノコーティング」を表す赤色表示です (初期型モデルに刻印されているモノコーティングを示すCの代用)。従って「C」と「Makro」は同格の位置付けですが「」は当時生産数自体が少なく非常に高額な製品だった「アポクロマートレンズ」を意味するワケです (逆に言うと「初期型」はドットが無い個体も出回っている)。

なお、フィルターはフロントベゼルに装着して使う⌀ 30mm径で厚み:4mm以内に限ります。時々フロントベゼルにフィルターをムリヤリ取り付けている人が居ますが、フィルターによっては光学性能を低下させます (開発設計者のKilfitt自信が前玉直前にしかフィルター装着を認めていない)。今回出品個体には残念ながらフロントベゼルが附属しないので、もしもフィルターを装着される場合は前玉直前に「⌀34mm径」のフィルター外周枠にプチルゴムなど巻いて (収まるよう工夫するなどして) 装着して下さいませ (前玉直前のスペース最大径目安)。

オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。

↑ここからは解体したパーツを使って実際に組み立てていく工程に入ります。

内部構造は非常に簡素ですが、そもそもマクロキラーをここまで完全解体できるスキルを持っている人は世界中探してもそんなに多くは居ません (それほど特異な構造です)。しかし完全解体する必要性がこのモデルにはあることが意外にも世間では注視されていません。

ましてやこのモデルは「無限遠位置調整機能」を装備していませんし、さらに構造上無限遠位置の調整をする「シム環」の類をセットすることが不可能ですから「原理原則」を熟知している人しか無限遠位置を適合させることができません。しかもダブルヘリコイドで、且つ鏡胴が回転式繰り出しともなればヘリコイドのネジ込み位置は当然ながら基準「」マーカーや絞り指標値との合致など全てをピタリと合わせた上で組み上げて最終的に適切なトルク感で仕上がるレベルと言うのは、相当ハードな世界です。

何故なら、このオールドレンズがマクロレンズでありピント合わせ時に重いトルク感では意味を成さないワケで、それでいて回転式繰り出しなのでピント合わせ後にボケ味の調整で絞り環操作するとなれば、距離環と絞り環のトルク調整が必須 (絞り環操作するたびにピント位置がズレて使い辛くなるから) と言う厄介な問題を含んでいるからです。

つまりこのモデルは「絞り環操作のトルク距離環を回すトルクピント合わせ時のトルク」と言う方程式の下で仕上げなければとても使い辛くてしょうがないことになります (絞り環のトルクが距離環よりも重いとピントがズレて仕方ない)。

当方は毎日のようにこのモデルを使っているので (愛用レンズ) 既に当たり前に認識していますが、マクロレンズですから最も最優先されるべき事柄は「ピント合わせ時のトルク」です。
ビミョ〜な質感表現を合わせるために微動させる時のトルクが重くてはピント合わせ自体が困難になります。かと言って距離環のトルクが軽すぎるとボケ味をイジっただけで (絞り環操作した時に) 距離環がすぐに動いてしまいどうにもなりません。

そうやって考えると、このモデルに関しては、よくもまぁ〜6万円以上もお金を払って未整備の個体を手に入れるものだと感心してしまいます(笑) 逆に言えば、完璧な整備で仕上がっていれば (自分が使っている愛用レンズはもちろん完璧だから) これほど使い易いマクロレンズは無いと考えています。とてもこの後の時代に登場してくる1/2倍撮影のハーフマクロにエクステンションを装着したバカデカイ「等倍マクロ」を使う気持ちにはなりませんねぇ〜(笑)

それほどこのモデルはちっちゃくて軽いですから・・。

↑絞りユニットや光学系前後群を格納する鏡筒です。この鏡筒を取り出せたのか否かで全てが決まります (つまり完全解体しない限り取り出せないから)。物理的に鏡筒の直径がマウント部の内径よりもデカイので完全解体以外に取り出す方策がありません(笑)

そして、この鏡筒を清掃して初めて絞り羽根の開閉がスムーズに至るワケですが、それは先見の明があり既にフッ素加工が施された絞り羽根を装備していたとしても、根本的に絞り羽根の「キー」が薄いのでバラして清掃しない限り「絞り環操作を軽く仕上げられない」と言う問題に尽きます。それをごまかして潤滑油を絞りユニットに注入したりして軽くしている個体ばかりが多いので(笑)、必然的に絞り羽根のサビが多くなり製品寿命にどんどん近づいていきます (今までにバラした経験値から言っている話)。

↑10枚のフッ素加工が施された絞り羽根を組み付けて絞りユニットを完成させます。絞り羽根の「キー」のサビが少なければご覧のとおり大変キレイな「円形絞り」になるワケで、それは絞り羽根の「キーの向きが変形していない証」でもあります。だから絞り羽根のサビが問題なのです。

↑このモデルは絞りユニットの固定を光学系前群が肩代わりしているので、一つ前の写真の状態では逆さにすると絞り羽根がバラけてしまいます (従って先に光学系前後群を組み付ける)。

今回の個体は残念ながら第1群 (前玉) 表面のコーティング層経年劣化によりLED光照射で中央に極薄いクモリが視認できます。

↑こちらは後群側を撮影しています。このモデルはコーティング層の蒸着が既に限界に達しているのでキレイな状態を維持したコーティング層の個体が非常に少ないと言わざるを得ませんが、今回の個体も残念ながら後群側内部のコーティング層経年劣化が進行しておりLED光照射すると極薄いクモリが視認できます (順光目視では見えません)。

↑鏡筒/距離環が組み付けられる基台 (ヘリコイド:オス側) です。

↑「絞り環」をネジ込みますが最後までネジ込んでしまうと適正な絞り環操作に至りません。絞り環の表面にポチポチと「」が空いているのは各絞り値に見合う位置で用意されている鋼球ボールがカチカチと填り込む「絞り値キー」です。

先ず、この「絞り環」のトルク調整が一番最初のハードルです。ここを軽く仕上げてしまうと絞り羽根がすぐに動いてしまう原因に至りますし、かと言って重すぎるとピント合わせ後の絞り環操作時に距離環が動いて使い辛くて仕方ありません。ハッキリ言って、過去メンテナンス時にこのことに気づいてちゃんと調整している整備者は居ませんね(笑)

↑ネット上の解説などで鋼球ボールと言われているフロントベゼルをカチャッと固定してくれる「ダボ」です (鋼球ボールではありません)。

↑プリセット絞り環に先にダボをセットしてから「ハガネ」を入れます。このハガネの強さで心地良くフロントベゼルがカチャッと着脱できるワケです。

↑鋼球ボール+スプリングを両サイドに組み付けてからプリセット絞り環を正しい場所までネジ込みます。最後までネジ込んでしまうとプリセット絞り機構が機能しなくなりますし、そもそも無限遠位置の時に絞り環の基準「」マーカーが鏡胴の基準「|」マーカーと一直線上に並んでくれません(笑)

↑完成している鏡筒をセットします。

↑後玉のガードが付きます。ご覧のように絞りユニットは裏側 (後玉側) からネジ止め (4本) ですから完全解体しない限り取り出すことができないワケです。

↑ヘリコイド (オスメス) とマウント部をセットしたところです。大変申し訳御座いませんが企業秘密なのでヘリコイドのネジ込み工程は撮影できません(笑)

全部で26箇所のネジ込み位置があるので、さすがにここをミスると最後に無限遠が出ず (合焦せず) 再びバラしてここまで戻るハメに陥ります。もちろんご覧のとおり「Ι」マーカーとマウント部の「」とがピタリと合致しなければイケマセンし、当然ながらプリセット絞り環や 絞り環のマーカー位置とも合致しているのが正しい組み上げです。

↑いつもなら距離環を仮止めして無限遠位置の調整をしますが、前述のとおりこのモデルには「無限遠位置調整機能」が装備されていないので、単純に確認するだけです。無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅の確認 (解説:無限遠位置確認・光軸確認・絞り羽根開閉幅確認についてで解説しています) をそれぞれ執り行えば完成です。

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ここからはオーバーホールが完了した出品商品の写真になります。

↑今回の個体は当初バラす前の実写チェックで無限遠位置が足りておらずアンダーインフ状態でした (つまり∞位置でもピント合焦しない甘い描写)。それは過去メンテナンス時にムリヤリマウント部を工夫してセットしていた為で適切なネジ込み位置でヘリコイド (オスメス) がネジ込まれていませんでした。逆に言えば、解体方法が判らず仕方なくマウント部で調整したのかも知れません。

今回はもちろん完全解体しているのでピタリと適切な位置でヘリコイド (オスメス) をネジ込んでいます。無限遠位置の確認は当方所有「Rayqual製exakta→SONY Eマウントアダプタ」でチェックしているので、要は「日本製マウントアダプタ」ですから信者の方でも問題無く安心してご使用頂けます(笑) 無限遠位置はほぼピタリと合わせています (極僅か0.5mmほどオーバーインフ状態にセット/∞刻印の左端辺り)。

なお、冒頭でも案内済みの通りこのモデルは「回転式繰り出し方式」の鏡筒なので、距離環を回すとプリセット絞り環/絞り環も一緒にグルグルと回りながら繰り出されます。従って絞り指標値はピント合わせした位置によっては見えにくい場所に回っていたりします (それ故プリセット絞り方式であることが撮影時の使い易さに繋がる/開放でピント合わせ後に設定絞り値まで絞り環を回せば良いから見えなくても安心)。

つまりちゃんと設計段階で撮影使用時の使い易さまで考慮していたからこそ、プリセット絞り機構の操作性を一般的なオールドレンズから変更していることが分かりますョね? 何故なら「回転式繰り出し方式」だからです。

と言うことは、確かに当時世界初のマクロレンズとして先代が登場した (当初は開放f値f3.5のプリセット絞り機構無しのモデルだったから) としても、今でこそ「マクロレンズはジックリピント合わせして撮影する」のが当たり前ですが、既にこの当時から設計思想としてそのような撮影概念 (マクロ撮影はシャッタースピード優先ではなく絞り値のほうが重要なのだと言う考え方) を確立していたことが伺えるワケで、それは当時のシャッター速度に拘った開放f値追求の時代背景から考察すれば画期的な発想だったのではないでしょうか。

オールドレンズはシッカリ「観察と考察」することで、またさらなるロマンが広がり本当に楽しいですね(笑) まさにマクロレンズの始祖と言える由縁の一つではないでしょうか・・?

↑光学系内はLED光照射すると前後群共にコーティング層経年劣化に伴う極薄いクモリが視認できますから、撮影シ〜ンによっては光源や逆光時にハロの出現率が上がる懸念があります (事前告知済なのでクレーム対象としません)。

↑上の写真 (3枚) は、光学系前群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

一応、ポツポツと表面に写っているのはコーティング層の経年劣化なので微細な点キズではないのですが「そう見える」と言ってクレームしてくる人が居るので(笑)、ヤフオク! 出品ページでは点キズが多い状態を謳っています (目立つ点キズ20点以上)。当方が何だかんだ言って売ろうとしていると仰る人が多いですが(笑)、そう思われる方は絶対にご落札頂かぬようお願い申し上げます。当方の技術スキルは大変低いので、むしろプロのカメラ店様や修理専門会社様、或いはヤフオク! で信用/信頼が高い出品様が出品しているオールドレンズを入手されるのが最善だと思います

↑光学系後群側にもLED光照射ではコーティング層経年劣化による極薄いクモリが中心付近に視認できますから、やはり実写では光源や逆光撮影時にはハロの出現率が上がる懸念が高いです。後玉は以下写真ではもの凄い点キズが多いように見えますが、同様コーティング層経年劣化に伴う見え方なので、見る角度によっては見えなくなってしまいます (従って点キズではないと言う当方認識)。しかしクレームする人が多いのでヤフオク! 出品ページでは点キズが多い状態を謳っています (目立つ点キズ20点以上)。

↑上の写真 (3枚) は、光学系後群のキズの状態を拡大撮影しています。すべて極微細な点キズを撮っていますが微細すぎて全部写りませんでした。

【光学系の状態】(順光目視で様々な角度から確認)
・コーティング劣化/カビ除去痕等極微細な点キズ
(経年のCO2溶解に拠るコーティング層点状腐食)
前群内:20点以上、目立つ点キズ:20点以上
後群内:20点以上、目立つ点キズ:20点以上
・コーティング層の経年劣化:前後群あり
・カビ除去痕:あり、カビ:なし
・ヘアラインキズ:あり(前後群内)
・バルサム切れ:無し (貼り合わせレンズあり)
・深く目立つ当てキズ/擦りキズ:なし
・光源透過の汚れ/クモリ (カビ除去痕除く):あり
・その他:光学系内は微細な塵や埃が侵入しているように見えますが清掃しても除去できないCO2の溶解に拠る極微細な点キズやカビ除去痕、或いはコーティング層の経年劣化です。
・光学系内には「極微細な気泡」が数点ありますがこの当時は正常品として出荷されていましたので写真にも影響ありません(一部塵/埃に見えます)。
光学系内の透明度が非常に高い個体です
但し前後玉にはコーティング層経年劣化に伴い極薄いクモリがLED光照射で視認できます。光源を含む撮影や逆光撮影時にはハロの出現率が上がる懸念があります(事前告知しているのでクレーム対象としません)。

↑10枚の絞り羽根もキレイになりプリセット絞り環/絞り環共々確実に駆動しています。

↑このモデルの「プリセット絞り機構」を解説しています。上の位置にある絞り指標値が刻印されているローレット (滑り止め) が「プリセット絞り環」になり、その下に位置しているローレット (滑り止め) が「絞り環」です。

まず絞り環を開放f値「f2.8」にセットし「」と「」を一致させる (以下ブルーの矢印)。
次にプリセット絞り環を回して「f2.8」にカチッとクリックさせてハメ込む。
希望設定絞り値までプリセット絞り環をクリックさせて回す (上の写真ではf5.6にセット)。
すると「f5.6」刻印が「」位置と合致しクリックしてカチッと填ります。
結果、開放f値「f2.8〜f5.6」間で絞り羽根の開閉が実現します (グリーンの矢印)。

なお絞り環操作は手動絞り (実絞り) ですのでクリック感はありません。クリック感を伴うのはプリセット絞り環側の操作時だけですからお間違いなきようお願い申し上げます (それを指摘されてもクレームとして受け付けません)。

年を追う毎にだんだんクレームの内容が重箱の隅を突くような話になってきているので、どんだけ解説すれば良いのか最近悩みますね(笑) まぁ〜確かに、因縁付ければ当方は気が弱いのでまず間違いなくキャンセルを受諾しますから、現物を手に取って気に入らなければクレームするのも一手ですョ(笑) 極めつけは「出品ページに記載が無い」と言えば100%確実にキャンセルできます!(当初の振込手数料込みで損をしないよう完璧にご返金します)(笑)

↑【操作系の状態】(所有マウントアダプタにて確認)
・ヘリコイドグリースは「粘性:中程度」を塗布し距離環や絞り環の操作性はとてもシットリした滑らかな操作感でトルクは「普通」人によって「重め」に感じ「全域に渡って完璧に均一」です。
・距離環を回すとヘリコイドのネジ山が擦れる感触が伝わる箇所があります。
・絞り環操作も確実で軽い操作性で回せます。
・ピント合わせの際は極軽いチカラで微妙な操作ができるので操作性は非常に高いです。

【外観の状態】(整備前後関わらず経年相応の中古)
・距離環や絞り環、鏡胴には経年使用に伴う擦れやキズ、剥がれ、凹みなどありますが、経年のワリにオールドレンズとしては「超美品」の当方判定になっています (一部当方で着色箇所がありますが使用しているうちに剥がれてきます)。

↑前回の「99,500円」即決価格の時同様に素晴らしい操作性に仕上がったので、全く以て光学系の状態が惜しいですが、そうは言っても普段の撮影では特に影響が出る話ではないと思うので狙い目かも知れません。但し神経質な人はスル〜して下さいませ。クレーム付けてキャンセルしてきた人のヤフオク! IDは全てブラックリストに登録しています (もちろんオーバーホール/修理も受付ません)。

無限遠位置 (ほぼピタリの位置でセット/僅かなオーバーインフ状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。

↑「Lens made in Germany」の刻印が旧西ドイツを表しており誇らしげです。「DBP und Ausl. Patente」はドイツ語表記で「国外特許申請中」を意味します。

↑距離環のローレット (滑り止め) は代用のラバーを貼り付けました (1箇所切り込みが入ってます:赤色矢印)。まず言われなければオリジナルのローレット (滑り止め) がそのまま貼り付いていると思い込んでしまうほどピタリと近似した意匠のラバーにしています (もちろんシットリ感あります)。

↑当レンズによる最短撮影距離10cm付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。

なお、この実写はミニスタジオで撮影していますが上方と右側方向からライティングしています。その関係でフードを装着していない為に絞り値の設定によりハレ切りが不完全なまま撮影しています。一応手を翳していますがハレの影響から一部にコントラスト低下が出てしまうことがあります。しかし簡易検査具による光学系の検査を実施しており光軸確認はもちろん偏心まで含め適正/正常です。

↑絞り環を回して設定絞り値「f4」で撮影しています。

↑さらに回してf値「f5.6」で撮りました。

↑f値は「f8」に変わっています。

↑f値「f11」です。

↑f値「f16」になりました。

↑最小絞り値「f22」での撮影です。